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生産物市場の不均衡と不安定性原理に関する一考察-香川大学学術情報リポジトリ

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(1)

生産物市場の不均衡と不安定性原理

に関する一考察

篠 崎 敏 雄

I

序 R.Fハロッドは,彼の不安定性原理を展開する際,第一に投資についての不 均衡を取扱い,第二に貯蓄についての不均衡を取扱っている。しかし,生産物 市場の不均衡の問題は明示的には取扱っていない。筆者は,ハロッドの体系に おいて,投資に関する不均衡すなわち現実資本係数と必要資本係数との不一致, および貯蓄に関する不均衡すなわち現実貯蓄率と望まれる貯蓄率との不一致 は,それぞれ生産物市場の不均衡とは一応別のことであると考えている。 この小論では,投資に関する不均衡と生産物市場の不均衡との関係,および 貯蓄に関する不均衡と生産物市場の不均衡との関係を明らかにすることに重点 をおいて,不安定性原理の問題を考察してみたいと考える。 第II節では,必要な仮定,記号および関連する主要な諸概念について説明す る。第III節では,投資の不均衡と生産物市場の不均衡との関係を考察するため,

S

S

,アレグサンダーのモデ、ルについて検討し問題点を指摘する。第

I

V

節では, 貯蓄に関する不均衡と生産物市場の不均衡との関係を考察するため,置塩信雄 教授の最新のモデルについて検討する。第

V

節では,これらのことに基づいて 自己の見解をまとめたいと思う。 II 仮定,記号および概念 最初に,次のような仮定をする。 (1) 政府セクターと海外セクターはない。

(2)

-2ー 第58巻 第2号 (2) 生産物は一種類である。 (3) 生産要素は資本と労働より成る。

(

4

)

設備と在庫品の区別はしない。

(

5

)

労働の不足はない。 (6) 資本の過不足のない状態から出発して考える。 (7) 諸量は実質額の純額ではかる。 また,記号を以下のように定める。 Y…....(,,,,,,,,,現実の(事後的〕産出高または所得 346 Y*一………期待される産出高または所得(企業者の期待する産出高と消費 者の期待する所得額を同じ記号で表すが,双方の大きさは同じ とは限らない〉

L

1

Y*…“""""・・..企業者の期待する産出高の増加分

K

……・1…。資本

L

1

K..'..,帥,,,....事後的投資

1

.

・"(.,,“0・・・"ぃ事前的投資

I

r

…………正当化された投資〈必要な投資〉 k.・“"""…“"独立投資+所得水準誘発投資

c

…・・・""…現実の資本係数

C

γ

…………必要資本係数(必要資本産出比率〉

S

.

.

.

.

.

川...事後的貯蓄 S*..““"句・・・・一事前的貯蓄

Sd

・ … 望 ま れ る 貯 蓄

s

…………現実の(事後的〉貯蓄率 Sd""""'''..…"望まれる貯蓄率 D.."…・・ω…総需要 続いて,ここで取扱う諸概念のうち,主要なものについて説明しておこう。 説明のつごうで,まずハロッドの「正当化された投資」または「必要な投資」 ( 1) R F..Hanod, Economic Essa邦, 1952, p 278 (2) R F..Harrod, Money, 1969, p..194

(3)

347 生産物市場の不均衡と不安定性原理に関する一考察 -3-について考えてみよう。それは次のようになる。 I吋

=

Cr

L

1

Yt

=

Cr(Yt-

y,

ト 1)

(

1

)

これは期における産出高の事後的な増加によって事後的に正当化された投 資,すなわち,事後的に見て t期に必要であった投資である。そして,これは t期の事後的な産出高の増大分に,必要資本係数を乗じた値となる。 この場合厳密に言えば

t

期の投資は t期の期首に完了していなければなら ない。そうでないと ,

t

期の増大した産出高をまかなう資本は不足することにな る。そのことを考え投資の懐妊期聞を考慮に入れると ,

t

期の正当化された投資 は,

t+1

期の産出高の増加額に必要資本係数を乗じた値となる。すなわち,

I

r

t

=

Cr

L

1Y

t+1 =

Cr(Yt+l-Y

t

)

咽E) F ム ( また,加速度誘発投資以外に,独立投資や所得水準誘発投資を考慮に入れる と,拡張して考えた「正当化された投資」は次のようになる。

I

r

t

+

k

t

=

Cr

L

1Yt+kt

(3) または,投資の懐妊期間を考慮に入れると

I

r

t

+

k

t

=

Cr

L

1Yt

+

l

+kt

(3)' 次に,ハロッドの「正当化された投資」との類推で事前的投資の概念を考え れば次のようになる。

I

t

C

r

L

1

Y

t

(4) これは,企業者が t期より以前において ,t期の産出高の増加の期待額(t

-1

期 から t期にかけての産出高の増加の期待額〉に必要資本係数を乗じただけの投 資を,意図し計画するということで、ぁぎ;この場合札投資の懐妊期間や加速 度誘発投資以外の投資をも考慮に入れると,もっと複雑な形となる。 第

3

番目に

r

望まれる貯ぎ:‘

t

h

ed

e

s

i

r

e

d

s

a

v

i

n

g

'

Sdま た は ね

Y

という概 念について考えてみよう。

ハロッドは,“

AnE

s

s

a

y

i

n

Dynamic Theory" (

1

9

3

9

)

において,この望まれ

(3) 産出高の期待額の決定の仕方については,たとえば,前期の産出高の成長率が今期も維

持されるものとして,期待額を決定する方法が考えられる。

(4)

-4- 第58巻 第 2号 348 る貯蓄に当たる概念乞「事前的貯蓄」‘

mGnus

a

v

i

n

g

'

(

と〉呼んでいる。ハロッ ドは,この論文で「事前的投資」という言葉を特殊な意味(すなわち後の「正 当化された投資」と同じ意味)に使っているが r事前的貯蓄」についても,特 殊な意味で使っていることについて次のように言っている。「事前的‘

e

xa

n

t

e

'

は,ここでは,事前的投資という表現で定義したものと類似の意味で,貯蓄に ついて使用されているということに注目されたし、。それは,もし貯蓄者達があ る期間の諸状況の変化と同時に支出を適合させることが出来たならば,彼らが その期間になすことを選ぶであろう貯蓄である。」ハロッドはまた,この「事前 的貯蓄」から事後的貯蓄が食い違う場合の具体的な例として,次のように言っ ている。「たとえば,物価が上昇している時には,所得が固定している階級は彼 らの生活様式を同時に適合させないだろうし,それゆえ, もし彼らがさし迫る 上昇を明らかに予知したならばしたいと思ったであろうものよりも,少ないも のを貯蓄するかも知れないと言われている。他方,所得が変わりやすい階級は 彼ら自身の所得の上昇を予知することが出来ないであろうし,それゆえ,そう したいと思ったであろうものよりも少ないものを支出する。」このことから考え ると,すぐ前の引用文の「ある期間の諸状況の変イじ」とは,所得の水準の変化 や物価の水準の変化(したがって実質所得水準の変化〉を意味していることが 分かる。さらにハロッドは,事後的貯蓄がこの「事前的貯蓄」よりも大きい場 合について次のように言う。「貯蓄者達は,もし彼らがその所得水準または物価 の水準を正確に予知したならばなしたで、あろうよりも,多くのものを貯蓄した ことを見出すであろう。」 これらのノ、ロッドの言葉から分かることは,“

AnE

s

s

a

y

.

"

(1

9

3

9

)

での「事前 的貯蓄」というのは,貯蓄者達が,その実質所得を事前に正確に予知したなら ば成したであろう貯蓄額である。言いかえれば,ある期間が終わり,所得水準

( 5) R F. Harrod,“An Essay in Dynamic Theory," &onomic ]ournal, March, 1939,

p..20.

( 6 ) Ibid.., p.. 20, n. 1

(7) Ibid,p20 ( 8 ) Ibid.., p..21.

(5)

349 生産物市場の不均衡と不安定性原理に関する一考察 -5ー や物価の変化がはっきり分かった後に,事後的になすべきであったと考える貯 蓄額である。またハロッドは,一つの期間の途中においては,貯蓄者は刻々と 変化する所得や物価の変化に対応して,適切に貯蓄,したがって消費を調節す ることは出来ないと考えていることは明らかである。 ハロッドは“

Mone

'y"

(

1

9

6

9

)

においては I望まれる貯蓄」と表現した概念を, 企業の貯蓄と個人の貯蓄とについて述べている。個人の「望まれる貯蓄」につ いては次のように言う。「個人の場合望まれる貯蓄の現実貯蓄からの離反がさま ざまな理由のために起こりうるであろう。たとえば,物価が騰貴しつつあるの に彼の所得がそれよりも低い割合で増加している時には,彼は年末になって保 険料支払いのために銀行から借りなければならないことを発見することもある だろう。その時には彼はおそらく生活水準を切り下げなければならないと決心 するであろう。あるいは彼の所得が物価騰貴以上に増加することもあるだろう。 その場合には彼は,おそらく時の遅れの後においてであろうが,彼の生活水準 の改善に役立つなんらかの楽しみのために支出してよいと決意するであろう。」 このように,“

Mone

'y"

(

1

9

6

9

)

においてハロッドは,“AnEssay." (1939)の「事

前的貯蓄」に当たる概念を「望まれる貯蓄」‘thedesired saving'と呼んでいる。 そして,所得と物価の変動による予知出来ない実質所得の変化によって,現実 貯蓄が望まれる貯蓄から霜離する可能性について述べているのである。 これらの引用文から,ハロッドの「望まれる貯蓄」の概念は,事後的に見て 現実の所得に対して望まれる貯蓄であることは明らかである。なおハロッドは, 「望まれる貯蓄を所得の割合として表現するのは説明の便宜のためであって, 望まれる貯蓄が所得の一定不変の割合であることを意味しない」とも言ってい る。 (9) 原訳では,‘desiredsaving'を「欲求貯蓄」としていたが,訳語統ーのため r望まれる 貯蓄」とした。 (10) R F..Harrod, Monり, 1969, p.192..(塩野谷九十九訳『貨幣一一ー理論・歴史・政策J, 229ページ〉 (ll) lbid., p..192(邦訳, 229ベージ),原訳の「欲求貯蓄」を訳語統ーのため「望まれる貯 蓄」とした。

(6)

-6- 第58巻 第2号 350 次に,ハロッドの「望まれる貯蓄」の概念からの類推で r事前的貯蓄J

5*

の 概念を考えてみよう。これはもちろん,ハロッドの“

AnEssay"

(1

9

3

9

)

にお ける「事前的貯蓄」と異なり,普通の意味の「事前的貯蓄」である。 前に引用した「望まれる貯蓄」についてのハロッドの説明から分かるように, 彼の考えでは,貯蓄者(消費者)は,次々と変わる所得や物価の変動,従って 実質所得の変動に対して,適確に消費や貯蓄を調節出来ないのである。それゆ え貯蓄者は,基本的には,一つの期間の始めにおいて,その期間の実質所得の 期待に基づいて一回かぎり貯蓄計画(同時に消費計画〉を立て,期間の途中で は計画を変更しないのである。その結果,実質所得の期待が思わぬ所得の変化 や物価の変動によって外れると,期末において事後的に見ると,現実の貯蓄が 望まれる貯蓄から栽離するのである。そこで「事前的貯蓄」は,貯蓄者が期首 において,一回限り行う実質所得の期待に基づいて望ましい貯蓄を意図し計画 した額としよう。すなわち (12) 5i = SdtYi

(

5

)

ただしこの場合のねも一定不変の値と考える必要はなし、。 5iはYiの関数で あり,その関数関係の下での ,

5

i

/

Y

i

の値である。 また,これらの「望まれる貯蓄」や「事前的貯蓄」に対して r望まれる消費」 や「事前的消費」という概念を考えるとすれば,それらはそれぞれ,(l-sd)Y および(l-Sd)Y'となる。 また,総需要は次のとおりである。 Dt = (l-Sdt)Yi+lt または,独立投資や所得水準誘発投資を考慮に入れて, Dt

=

(l-Sdt)Yi+lt+kt

(

6

)

(6)' 次に,ハロッドの短期均衡は,現実成長率 Gが保証成長率G却に一致してい ることである。

G=

S/C,

G

=

Sd/Crであるので,短期の動学的均衡は

C =

(12) この期待される実質所得の決定も,たとえば前期の実質所得に前期の成長率での実質 所得の増加額を加えたものに,よることが出来る。

(7)

351 生産物市場の不均衡と不安定性原理に関する一考察

7-C

1

すなわちL1K

=

11,およびS

=

Sdすなわち 5

=

Sdの時成立する。この ようにノ、ロッドは,短期の均衡は,事後の投資が正当化された(必要な〉投資 に等しく,事後の貯蓄が望まれる貯蓄に等しい時成立すると考えている。言い かえれば,企業の投資についての均衡と個人の貯蓄(したがって消費)につい ての均衡とが同時に成立している時,短期均衡が成立していると考えるのであ る。 しかし,このことは必ずしも生産物市場の均衡と同じことではないと考えら れる。ハロッドは生産物市場の均衡については,少なくとも明示的な形ではと くに述べていなし、。そこで,ハロ y ドの基本的な考え方に沿って考えると,生 産物市場の均衡は次のようなことであると考えられる。 (1 -S dt )

Yt

+

It

=

Y

t すなわち (l-sdt

)Yt+CrYt

=

Y

t (7) (7)' 言いかえれば,

t

期の生産物市場の均衡は,

t

期の事前的な消費の額に事前的な 投資の額を加えた総需要Dtが

t

期の総供給 Ytに等しい時成立するのであ る。なお,

t

期の独立投資や所得水準誘発投資を考慮に入れると,生産物市場の 均衡は次のように表される。 (1 -S dt )

Yt

+

It

+

ι=

Y

t (7)" III アレグサンダーによる生産物市場の不均衡モデルとその問題点

s

.

s

.

.

アレクサンダーは,“Mr..Harrod's Dynamic Model" (1950)という論 文の中で,ハロッドの不安定性原理についてのそテ、ルを生産物市場の不均衡モ デルに変換する試みを行っている。この論文は,ハロッドの“Towards a Dyna-mic EconoDyna-mics" (1948)が出版されて間もない頃に発表されたものであり,こ (13) G

=

Gwでも ,CキCγでSキ Sdとし、う場合もあり得るが,このような場合について, ハロ yドは何も言っていなし、。このような場合は極く稀な場合として,除外して考える。 (14) S. S. Alexander,“Mr.. Harrod's Dynamic Model,"Eιonomic ]oumal, Dec, 1950, pp.724-39

(8)

8- 第58巻 第2号 352 の種の試みの最初の代表的なものと考えることが出来る。以下この試みについ て検討してみよう。 なおアレグサンダーは, 不均衡を投資に関する不均衡にの み限り,

S

=

S dすなわち S Sdを暗黙のうちに仮定している。 まず, アレグサンダーによるハロッド・モデルの定式化から説明しよう。そ のモデルは, 次のような諸仮定に基礎を置いている。 「仮定

1

a

0

t

期における事前的貯蓄 =

S

Y

t

-

l

。 仮定2

a

0

t

期における正当化された投資 =Cr( Yt- Yト 1。) 仮定

3

a

。事後的投資=事前的貯蓄。 仮定

3b

。もし事後の投資がある期間において正当化されれば, 企業家達は (物的な制限によって阻止されないかぎり〉続く期間において, ちょうどそれ が増加したのと同じ比率で生産を増加させるだろう。もしある期聞において事 後の投資が正当化された投資よりも少なければ, 企業家達は次の期間において 生産の成長率を増加させるであろう。そして逆の場合は逆である。」なお, アレ クサンダーは脚注で, 「仮定3

a

j は説明の単純さのために採用されたもので, ハロッドのモデルにとって欠くべからざるものではないとしている。 ところで, 「仮定 1

a

j, 「仮定2

a

jおよび「仮定3

a

jは, それぞれ次のこ とを意味している。

st=SYt-l

(8) I吋

=

Cr( Yt- Y;ト 1)

(

9

)

L

1

Kt

=

st

(10) なお,事後の投資が事後の貯蓄に等しく, また

(

8

)

式と(1

0

)

式とから, 次の関係が 得られる。

L

1

Kt

=

=

S

t

=

st

=

sY

t

-

1 ) -l (

.

"

.

S

t

=

S

Yt

-

1 (12) ( 12)式は,t期の事後の貯蓄は t-1期の事後の所得の一定倍に等しいということ を意味している。 したがってここの Sは, タイム・ラグを伴った貯蓄率で、ある (15) Ibid, p.728

(9)

353 生産物市場の不均衡と不安定性原理に関する一考察 -9-ことに注意すべきである。 次に r仮定3bJの意味することについて考えてみよう。そのために,

t

期 の現実成長率

Gt

=

(Y

t

-

yト,

1

)

/

Y

t

-

1

が保証成長率 G即

=

S

/

C

r

から議離した 値を bとすれば次のようになる。 Gt

=

-

-

-

Y

-

t

:

=

:

-

Yt

-

=

-

=

b

¥Yt

=

(1

+s/

C

r

+b)Y

ト 1 (13) ( 1心 また

t

期の投資不足額(正当化された投資一事後の投資〕を

U

tで表すと,そ れは次のように示すことが出来る。

U

t

=

C

r

(

Yt

-

yト,

1)-SY

t

-1

(15) 他方(13)式の右側のこつの辺にそれぞれ

Y

t-1・

C

r

を掛けることにより次式が得 られる。

Cr(Y

t

-Yt

-

1

)

=

sY

t

-

1

+CrbYt

ー1

(16)式を(15)式に代入することにより,次式を得る。

U

t

=

CrbY

t

-

1

ここで

C

r

>

0

y

ト,

1>0

であることを考えると, sign

U

t

=

sign

b

(17) (18) 以上のことを基礎として r仮定3bJに表されている,企業家による成長率 調節の態度は,一つの式で表せば次のようになる。

Gt

+

1

=

Gt+F(Ut

,) (19)

F(O)=O

F'(Ut)>O

そこで, (18)式から,次のとおりとなる。 b ~き O に応じて Gt+1 きき Gt

すなわち,最初に現実成長率

G

tが,一定の値を持つ保証成長率

G

=s

/

C

r

か ら上方に霜離していれば,

t+1

期の現実成長率は

t

期より上昇する。下方に需 離していれば,現実成長率は下落する。そして,最初に現実成長率が保証成長 率に一致していれば,その成長率が維持される。 さらに,保証成長率の値は一定であると考えているので,現実成長率がそれ

(10)

-10ー 第58巻 第2号 354 から離れて上昇すれば,bは大きくなるし,下落すれば

b

は小さくなる。そして,

G

=

S

/

C

r

の状態が維持されていれば,

b

のイ直は不変である。このようにして次 の関係があることが分かる。 b ~雲 O ー→ Gt+l 護 Gt一→ b~O (ただし

b

三 db/dtである。〉

1)式は,保証成長率均衡が不安定であることを示している。

1) 以上は,アレクサンダーによるハロッドのモデ、ノレを,アレクサンダーの論旨 に従って簡潔に示したものである。 また,F(Ut)を次のように特定化して, 19()式を簡単な差分方程式で表すこと も出来る。 Ut CrbY F(Ut)ニ G

玄 寸

=α一玄寸土

=

abCr (22) ただし ,

a

はプラスの値を持つ調整係数である。そこで,19()式は次のようになる。 Gt+l-Gt

=

α

bCr (23) したがって,公式により解は次のようになる。 Gt二 Go

+

α

bCd (24) それゆえ,a

>

0,

C

r

>

0であるので次のとおりとなる。 b這Oー →

G

t這O

ところで注意すべきことは,アレグサンダーがここで,側式からも分かるよう に,生産物市場の均衡を仮定していることである。それは,次の事柄に関係を 持っている。投資不足 Utの値は,直接には投資の成長率に影響を与え,それが 有効需要の成長率に影響を与えることを通じて間接に産出高の成長率に影響を 与える。したがって,投資不足がはっきりとした形で、産出高の成長率に影響を 与えるとするためには,生産物市場の均衡が維持されていなければならないの である。 次に,アレクサンダーがノ、ロッドのモデルを修正して作った,彼自身のモデ (16) cf, ibid, pp.728-9

(11)

355 生産物市場の不均衡と不安定性原理に関する一考察 -11ー ルについて考察しよう。それをアレクサンダーは r拡張されたハロッド・モデ ノレ」と呼んでいる。その一番大きな特徴は,ハロッド・モデノレの「正当化され た投資」の代わりに r事前的投資」を置き換えたことである。 アレグサンダーは,前記の「仮定2

a

J,

r

仮定3

a

Jおよび「仮定3bJの 代わりに,次に示す「仮定2bJと「仮定3C Jを置き換える。そこで l拡張 されたノ、ロッド・モデノレ」の三つの仮定は次のようになる。 「仮定1

a

0

t

期における事前的貯蓄 SYt-1oJ 「拡張された仮定2b 0

t

期における事前的投資 =Cr( Yt- Yt-doJ 「拡張された仮定3C 。もし t期において事前的投資=事前的貯蓄なら ,

t+1

期における所得の成長率は t期における成長率に等しいであろう。もし t期に おいて事前的投資が事前的貯蓄を超過するならば,

t+1

期における所得の成長 率は t期のそれより大きいであろう。そして逆の場合は逆である。」 ここで,前のモテールとの基本的な違いは r仮定2a Jの代わりに「仮定2bJ を置き換えたことである。前には,Cr(

-y

ト 1)を t期の正当化された投資と していたのに,今度は同じ値を事前的投資としている。これが事前的投資であ るためには,

t

期の期首またはそれ以前において,事後的所得である

Y

tを完全 に正確に予知していなければならない。または,

t

期間中に刻々と変化する実質 所得の変化に対して,適確に投資を調節することが出来なければならない。ア レクサンダーはその点を明らかにしていないが,おそらく前者の考え方に立っ ているのであろう。いずれにしても,これはハロッドの考え方とは異なる。 このような問題点はあるが,アレクサンダーは,このように考えた事前的投 資と事前的貯蓄の差額をとくに問題とする。この差額を

u

;

で表すとすると,そ れは次のようになる。

U

;

=

Cr.(Yt - Yt-l)-S Yt-1 (26) ただし ,Ii

=

Cr(Yt-Yt-l), st

=

sYt-1である。また,Yt

=

Ytという暗黙

(17) lbid, p.730.

(18) アレクサンダー自身は,前と同じ

U

,という記号を使っているが,ここでは区別するた

(12)

-12- 第58巻 第2号 356 の仮定があると考えられる。 ところで,側式に表されている

U

;

という値は,投資不足額でなくて,生産物 市場の需給関係を表している。

UJE

O

は,それぞれ,生産物市場の需要超過, 均衡および供給超過を表している。このようにして,最初のハロッド・モデル が投資についての均衡や不均衡を取扱うモデルであったのに対し r拡張された ハロッド・モデ、ル」では,生産物市場の均衡や不均衡を取扱うモテ*ルと成った のである。 次に r仮定

3

CJに現れている,所得の成長率の調節のメカニズムについて 考えてみよう。これは,生産物市場の需給の均衡や不均衡に対して,企業家が 産出高の成長率をどのように調節するかということである。それは次のように 表すことが出来る。 Gt+1

=

G

t

+

F( U;)

F(O) =

0

F'( U;)

>

0

すなわち ,

t

期に事前的投資が事前的貯蓄を超過している (U;

>

0)時には,そ れは生産物市場の需要超過を意味し,企業家は産出高の成長率を高める。需給 が一致している時(U;=0の時)には,成長率は不変である。そして,供給超過 の場合(U;

<

0)には,成長率は減少するのである。そしてこのことは,保証成 長均衡が不安定であることを示している。 このようにして r拡張されたハロッド・モデル」の帥式は,ハロッド・モデ ルの(悶)式と形は似ているが,その本質は全く異なるのである。すなわち,ハロッ ド・モデルから「拡張されたノ、ロッド・モテやル」への変換は,投資の均衡や不 均衡を取扱うモデルから,生産物市場の均衡や不均衡を取扱うモデルへ,はっ きりと変わったことを意味するのである。 アレクサンダーはさらに,この考え方を一層押し進めた r一般化されたハ ロットモデル」というものを示している。このモデノレの特徴は,不均衡を「支 出と所得の差」で考えようとすることである。 この「一般化されたノ、ロッド・モテボル」では,最初の「ハロッド・モテかル」 の「仮定

3bJ

や「拡張されたハロットモデ、ル」の「仮定

3

C

J

の代わりに,

(13)

357 生産物市場の不均衡と不安定性原理に関する一考察 -13-次のような仮定を用いる。「仮定

3d

。もし現在の期聞において,生み出された 所得を支出が超過するならば,次の期間において生み出される所得の成長率は, 現在の期間のそれを超過するだろう。もし支出が生み出された所得より少なけ れば,次の期間において生み出される所得の成長率は現在の期間のそれより小 さいであろう。」 ここで r支出」を

E

で表し,支出と所得の差を

U

:

'

で表すと,それは次のよ うになる。 U:'

=

E

-

y

(28) ここで,

Uf

O

は,それぞれ生産物市場の需要超過,需給一致および供給超過 を示す。この側式の形になると,アレクサンダーが明示的に生産物市場の均衡 や不均衡を,不安定性原理を取扱うそデ、/レの中心に置いていることが分かる。 アレクサンダーは,また, (19)式や伽)式と同じ型の,次のような所得の成長率 の調節の方程式を示している。 G'+l

=

G

+

F( U;') (29) F(O)

=

0

, F'(U;')

>

0

側式と側式との関係で,この体系は不安定で、あることが分かる。たとえば需要 超過で

U

:

'

>

0

であれば,側式から所得の成長率は上昇する。その結果,事前 的投資が事前的貯蓄をますます上回ることを通じて,需要超過したがって所得 に対する支出の超過は大きくなる。そして,このことは所得の成長率をますま す高めることになるのである。 この「一般化されたハロッド・モデル」は r拡張されたハロッド・モデル」 以上に鮮明に,それが生産物市場の均衡や不均衡を取扱うモデ、ルであることを 示している。しかしやはり r拡張されたハロットモテソレ」の場合と同じ問題 点を持っていると思われる。そして,アレグサンダーは,最初のハロッド自身 のそテツレは, この「一般化されたノ、ロッド・モデ、ル」の特殊な場合であると言っ (19) Ibid, p..731 (20) ア レFサンダー自身は,前と同じ U

という記号を使っているが,区別のため

u

r

とし た。

(14)

-14- 58巻 第2 358 ているが,これは当たっていないと思う。ハロッド・モテ‘ルは投資についての 主体的な均衡や不均衡を扱うそデ、ノレであり r一般化されたノ、ロッド・モデ、ル」 は,生産物市場の均衡や不均衡を取扱うモデルであって,両者は本質的に異な るからである。

I

V

置塩信雄教授による生産物市場の不均衡モデル 生産物市場の需給の不均衡を考厳に入れた不安定性原理の説明としては,そ の他に,鴇田忠彦氏の『マクロ・ダイナミックス一一一現代インフレーションの 基礎理論~ (1976)などがある。しかしここでは,置塩信雄教授の最近の論文r

R

.

Harrodの動学再考J(1984)の中の所説について考察してみたい。 置塩教授は商品市場とし、う表現を使っておられるが,これはここで言う生産 物市場と閉じものを指していると解される。前述のアレクサンダーは,総需要 のうちとくに投資需要に重点を置いて,生産物市場の需給の均衡や不均衡の問 題を考えていた。これに対し置塩教授は消費(その裏は貯蓄〉に重点を置いて 生産物市場の需給の均衡や不均衡の問題を考えておられる。そして,アレクサ ン〆ーは,ハロッドの「正当化された投資」を事前的投資に変換して,総需要 の一部としているのに対し,置塩教授はハロッドの「望まれる貯蓄」を事前的 貯蓄(その裏は消費需要〉に事実上変換しておられると解される。これらの点 は対称的であると考えられる。しかし r正当化された投資」の事前的投資への 変換と r望まれる貯蓄」の事前的貯蓄への変換との聞には"ニュアンスの違い があることは当然である。 ところで置塩教授は,商品市場(生産物市場〉の需給一致の均衡を次のまう に示しておられる。 (23) 1

=

SdY、 (30) (21) Ibid, , p"731 (22) 鴇田氏の不安定性原理およびそれに対する筆者のコメントについては,次のところを 参照されたし。篠崎敏雄 r二種類の不均衡と不安定性原理J,愛媛経済論集,第2巻第2 号,昭和57年11月, 96-108ベージ。 (23) 蜜塩信雄,rR Harrodの動学再考J,国民経済雑誌,第150巻第6号,昭和59年12月, 18ベージ。

(15)

359 生産物市場の不均衡と不安定性原理に関する一考察 -15ー これは新投資需要が望まれる貯蓄に等しいということであり,事実上,望まれ る貯蓄と事前的貯蓄とを同一視しておられると解される。これは単純化のため と思われるが,ハロッドの取扱いとは異なるのである。しかしこの単純化は, ア レ グ サγダーが「正当化された投資」を事前的投資と事実上同一視したのと 比べれば,問題が少ない。それは実質所得の変化に対する消費の調節は,所得 の変化率の変化に対する投資の調節に比べれば,より適確により速かに行うこ とが出来ると考えられるからである。 ところで置塩教授は,商品市場の需給不一致を,超過需要と超過供給の二つ の場合について,考察しておられる。 まず超過需要の場合は次のとおりである。

1>

SdY 。1) このような場合には,新投資需要か消費需要のどちらかが充足されない。もち ろん,双方とも十分には充足されない場合もあるだろう。この場合の帰結につ いて,置塩教授は次のように言っておられる。「われわれは新投資需要は充足さ れ,消費需要が充足されず,貯蓄率SがSdより大となると想定する。

i

f

1

>

Sd

Y

t

h

e

n

1

=

L

1

K

(32) 企業が新投資需要を決定し,そのための資金調達においても,消費者より,よ り強力で、あると考えるからである。」これは,ハロ y ドの学説の中にとくに含ま れてはいない考え方であるが,妥当なものと考えられる。 次に超過供給の場合については次のように言っておられる。「逆に1

<

SdY である場合には,商品市場で超過供給が生じている。このとき,新投資需要も 消費需要も充足されるが,そのあとに意図しない在庫増が生じる。したがって,

i

f

1

<

SdY

t

h

e

n

SdY =

L

1

K ( 3 3 ) となり,資本増加

L

1

K

は企業が意図した新投資Iを上回る。」 (24) この番号は,小論の番号に合わせた。 (25)r向上論文j,18ベージ。 (26) この番号は,小論の番号に合わせた。 (27) r向上論文j,18-19ページ。

(16)

ぷ υ 7A 第58巻 第2号 360 次に,置塩教授は,ハロッドが明確な投資関数を示していないことについて 批判しておられる。

r

H

a

r

r

o

d

は現実成長率

G

の運動を論じる際に,明確に投資 関数を明示せず,既にみたように GがG即から訴離したとき, Gが変化すると 述べ,その理由として企業の註文

(

o

r

d

e

r

)

の変化をいうにとどまっていた。」こ の点は置塩教授の雷われるとおりであると思われる。ハロッドは事実上,

G

が G卸から議離している時にも,商品市場(生産物市場〉の均衡を暗黙のうちに仮 定しており,註文

(

o

r

d

e

r

)

すなわち投資の成長率と所得の成長率が一致してい ると考えているように解される。 ところが,商品市場の需給の不均衡を取扱う時には,もはや投資乗数の理論 はそのままは当てはまらなし、。したがって,投資の成長率と所得の成長率は必 ずしも一致しない。そこで置塩教授は次のように言っておられる。「だが,商品 市場の需給不均衡をも考慮に入れると ,1キ SdYで

L

1

K

=

sY

だけが成立するから,新投資需要

I

の動きを知っても,それから直ちに

Y

の動 きを言うことはできなし、。したがって,商品市場の需給不一致をも考慮に入れ て考える場合には,企業の新投資需要に関する決定態度のみならず,企業の産 出高に関する決定態度をも考えなければならないのである。」このことは,商品 市場の不均衡を取扱うモデ、ルで、は当然のことであるが,実際にこのような試み をした例はなく,新しい試みであると思われる。 このようにして置塩教授は,前に掲げた倒式や側式のほかに,投資関数や産 出高に関する行動方程式を含んだ,新しい不安定性原理のモデノレを示しておら れる。 投資関数としては次のものを示しておられる。

ー 一 ぴ

VM

一 一

ι

+

ρ μ

+

v h

L

L

(28) r向上論文j,19ページ。 (29) r向上論文j,19ベージ。 (30) r向上論文j,20ページ。

(17)

361 生産物市場の不均衡と不安定性原理に関する 考察 -17-この式の右辺第2項の丸括弧の中について考えてみよう。置塩教授は,Ut+(1 -Sd)

Y

t)を,市場での自発的需要と呼んでおられる。新投資需要

L

に対し,(1 Sd) Ytは消費需要である。ここでも ,Sdを事前的貯蓄と同じに扱っておられ ると解される。そして,これと資本Ktとの比率が正常稼働率

l

/

C

キと比較され ている。これは,商品市場に需給の不一致がある時には,蓄積率は現実の稼働 率 Y

t

!

Ktに反応するのでなく,市場での自発的需要

U

t+(1-Sd)れ)と Ktと の比率に反応すると考えた方がよいとされているからである。これも新しい考 え方であると思われる。なお βはプラスの調整係数である。このようにして, 市場での自発的需要と資本との比率が正常稼働率を超えておれば,蓄積率が高 められ,逆の場合には逆となるというメカニズムが示されている。 次に産出高に関する行動方程式が次のように示される。 Yt+1 _ Yt ,

.

.

f

!t-SdYt¥ Kt+l Kt''''¥ Kt )

μ>0

(35) この式の右辺第2項の丸括弧の中は,商品市場の超過需要(負であれば超過供 給〕と資本との比率であり, μは調整係数である。第 t期において商品市場に超 過需要があれば,第

t+l

期において稼働率を,第 t期に比べて高めるというこ とである。逆の場合には逆となる。このようにして,産出高に関する行動方程 式は,稼働率の調整という形のものが示されている。産出高そのままでなく, 資本との比率で扱っているのは,技術上の理由であり,巧妙な工夫であると思 われる。 このようにして,経済の運動を表す方程式体系は倒 倒式から成り,変数は

Y

, !および

K

3

個である。 ここで!/K=g,Y/K=yとすれば, (34)式と制式とは次の2£をなる。 gt+l

=

gt+β(gt+(1

)Yt

一歩)

Yt+l

=

Yt+μ(gt-SdYt)

(37) (31) r向上論文J,20ページ。なお,ここの不等号は逆向きになっていたが,この方がよいと 思われる。 (32) r向上論文J,20ページ。

(18)

-18- 第58巻 第2号 362 このようにして ,g とyについての線型連立定差方程式が得られる。 側, (37)式から,特殊解〔均衡点を示す〉と特性方程式を得るため,それらを 次のように変形する。 gt+l 一(1+β

Yt+l 一μ:gt十(μSd-l)Ytニ

O

(38)

0

l

;

:

1

1

:

:

l

+

[

:

)

:

d

)

][

:

:

]

=

[

l

制) この側式を簡潔に示すと次のようになる。

Iu+ Kv

=

d

(41) ただし ,K,

u

v

およびdは次のように定義される。

[一

(1+β)

β(l-sd)l

r

gt+ll

r

gtl

r 二~l

K三

l

u=l- l

v=I-I

d=1

c

争│

L

- μ ( μSd一1)

J

L

Yt+l

J

L

y

d

L

0

J

閥 次に,gt+l= gt= g, Yt+l Yt Yとして,特殊解を得る。その場合 Uと Uとは等しくなり,次式のようになる。 可 , . E E E E E E E E E J

g

y

rEgal--L 一 一 円 U 一 一

u

3

このようにして, (41)式は次のようになる。 (I

+K)! g

!

=

d

凶 I Y I ここで,

II+KI

=

一μβキOであるので,(I

+K)

には逆行列が存在する。し たがって

(19)

-19-は

生産物市場の不均衡と不安定性原理に関する 考察

│相側

=

(J

+K)

ーld

=

I

L C*J 1 l l ﹄ B B J

g

y

﹁ E E E ' B E E S E E E L 363 すなわち, Y

=

l/C*, g

=

Sd/C* ハロッドの概念では,現実資本係数が必要資本係数(また 現実成長率が保証成長率に一致している状態 ハロッドの成長率は産出高または所得の成長率であったの これらはそれぞれ, は必要資本産出比率〉に一致し, しかし, に当たる。 に対し,置塩教授のgは蓄積率である点は異なる。また,置塩教授のここでの ニ ュ ア 望まれる貯蓄率Sdの概念と,ハロッドのもともとのねの概念とでは, ンスの違いがあることなどに注意すべきである。 上記の連立定差方程式側, (37)式の特性方程式を示してお さらに置塩教授は, 自分なりに簡単に説明してみよう。 その導出について, られるが, gt, Yt, gt+l, Yt+lのそれぞれの試験解を次のように示すことにする。 gt mAt, Yt nAt, gt+l mAt+1, Yt+l nAt+1 次のようになる。 したがって,

~[ ~:]

(l-Sdr'[

l

S4

_

1

I

I+

KI

│μ

T L

I

I+

KI

3

μ

一 一 ﹁ E E E E E E E E E L 一 一 , d k 十 y I ( 一 一 吋E E E E E a a g ' a﹂ g y r ' E E 2 E ' a a -L

Z

l

r

l

l μSd 1

I

I+

KI

l μ

L

I

I+

KI

(33) r n Sd1 回 一 一 . │ 門 戸C' I 目 一 一│ μ β │ I -ps

会│

L ーμβ 」 -ps

一μβSd一μβ(l-sd) 一d

一μβSd一μ

s

(l-Sd)

(20)

-20- 第58巻 第2号 u

=

[

c

2

C

:::1:;1:]l

=

[

:

]

;It+ U

=

[

:

] =

[

:

]

λt 364 位。 似の これらを包1)式の同次形に代入すれば,次のようになる。

1

[

:

]

;It

8

この式に;I-1 (スカラー〉を掛けて因数分解すると,次式を得る。

(

;

¥

/

+

K

)

!

m!

=

0 仰) nl ここで ,

m

およびnについて自明解を避けるためには,次の特性方程式の条件 がみたされなければならない。

I

;I

1

+

K

I

=

0

(50) この式に,次の

2

式を代入する。

λ01

r

~(l+ß) -s(l-sd)1

;

¥

/

=

1

I

K=I

1 0 λ 一μ μsd-1

J

したがって,特性方程式は次のようになる。 1 ;I-(l+s) 一β(l-sd)1 │ λ

1+KI

=

1 _,1 1-μ ;I

+

(μsd-l)

l

=λ2+(μsd-1);I-(1+s)λ一(1+β)(μSd一1)一 μ:s(l-S d) = ;I2+(μsd-2一β);I+ (1一μSd一μs+β) =0 (51) こ の よ う に し て 置 塩 教 授 は , 特 性 方 程 式 を 次 の よ う に 示 し て お ら れ る 。 9J(;I)

=

=

;I2+(μsd-2一β);I+ (1一μSd一μs+s)=O ~ ところが, 9J(1) =一μ3であるが,これは μ >0,β>0であるので負となる。 そこで, 9J(λ)は 2次の凸関数であることを考えると, 1より大きい実根を持つ ことは明らかである。このようにして,

.

y

=

l/C

g

=

Sd/

C

*

で表される均衡

(21)

365 生産物市場の不均衡と不安定性原理に関する一考察 -21ー は不安定となる。 このようにして置塩教授は,商品市場(生産物市場〉の不均 衡に焦点をあてたモデノレにおいて,蓄積率で考えた保証成長率が不安定で、ある ことを論証されたのである。 以上のように置塩教授は, ハロッドが明示的には取扱わなかった商品市場の 不均衡に焦点を合わせたモデルにおいて,新しい形の不安定性原理を示された。 これは大いに評価されるべきことであると思われる。 ところで¥ ハロッドに無 かった新分野を切り開くためには, ハロッドの分析の枠組を一部変更する必要 「望まれる貯蓄率」の概念の若干の変更 があると思われるが, それは一つには, に現れていると思われる。第

1

1

節!で述べたように, ハロッドの「望まれる貯蓄」 は,事後的に望まれた貯蓄であったが,置塩教授の「望まれる貯蓄率」の「望 まれる貯蓄」は, むしろ, いわゆる事前的貯蓄とほぼ等しくなっているように 思われる。 V 結 び 以上のように, 生産物市場の需給の不均衡に基づく, 不安定性原理について 考察した。 まず第

1

1

節においては,仮定と記号の説明の後, 以下の議論で関連する主要 な諸概念について説明した。最初に, 「正当化された投資」または「必要な投資」 と「事前i的投資」との関係について述べた。前者は,事後的に見て正当化され 必要で、あった投資であり,ハロッドの不安定性原理においては中心的な役割を 演じる。 また,後者の事前的投資は,生産物市場の不均衡に基づく不安定性原 理で重要な役割を演じる概念である。つづいて r望まれる貯蓄」といわゆる「事 前的貯蓄」 との関係について述べた。前者は, ハロッドの不安定性原理で重要 な役割を演じ,後者は生産物市場の不均衡に基づく不安定性原理で,大きな役 割を担っている。ハロッドはこれらの諸概念について次のように述べている。 「上司伝おいて私は,必要定資本・産出高比率に対応して,望まぶぎ貯蓄およ び必要な投資とし、う概念を使った。これらはともに,時々,事後的貯蓄および (34)原訳では「要求される」となっていたのを,訳語統ーのため改めた。 (35) 原訳では「欲求される」となっていたのを,訳語統ーのため改めた。

(22)

-22- 第58巻 第2号 366 事後的投資と異なるであろう。私の概念は, ミルダーノレの定義した事前的貯蓄 および事前的投資の概念と同じではなし、。………事前的諸概念はきわめて 貴重な概念であって,私はそれらが完成された動態経済学の理論の中で演じる べき重要な役割をもっていることに疑いをもってはいない。しかし,それらは 私の中心的な命題には関係がないのである。」ハロッドが言っているように,事 前的投資や事前的貯蓄の概念は,彼の体系ではその基本的な命題,たとえば不 安定性原理には関係がなし、。しかし彼も認めているように,完成された動態経 済学の理論の中では重要な役割を演じるのである。そこで,生産物市場の不均 衡に焦点を合わせた不安定性原理というものに,ハロッド自身は第一義的な重 要性を認めてはいなかったとしても,そういうものを展開し,そこで事前的概 念を使ったとしてもとくに反対はしないであろう。 第III節においては, S.S.アレクサンダーのモデルについて検討し,総需要の うちとくに投資に焦点をあてた,生産物市場の均衡や不均衡と不安定性原理と の関係の問題について考察した。アレクサンダーは,まずハロッド・モデルの 定式化をし,それを変形して「拡張されたハロッド・モデル」というものを作 り出している。両者の基本的な違いは,前者が「正当化された投資」の概念を 使って,企業の投資行動についての不均衡を問題としているのに対し,後者は 「事前的投資」の概念を使って,生産物市場の不均衡を問題としていることで ある。二つのモテールは形は似ているが,本質的には全く異なるものである。ア レクサンダーのモデルは r正当化された投資」を事前的投資に等しいとしてい るところなどに大きな問題点があるが,一つの新しい試みとしては評価される。 第

I

V

節においては,置塩信雄教授の商品市場(生産物市場〉の不均衡に関す る,最新のモデ、ルについて検討した。置塩教授は総需要のうち消費(その裏は 貯蓄〉に重点を置いて商品市場の均衡や不均衡と不安定性原理との関係につい て,いろいろと新しい見解を述べておられる。とくに,商品市場の超過需要の 場合と超過供給の場合とを分けて,投資と貯蓄の関係を分析しておられる。ま (36) 原訳では r要求される」となっていたのを,訳語統ーのため改めた。 (37) Harrod, Money, pp引194-5(邦訳, 232-3ベージ〉

(23)

367 生産物市場の不均衡と不安定性原理に関する一考察 -23-た , 商 品 市 場 の 需 給 の 不 均 衡 に 基 づ く 不 安 定 性 原 理 を 取 扱 う モ デ ル に お い て , 投 資 関 数 の ほ か に 産 出 高 に 関 す る 行 動 方 程 式 を 示 し て お ら れ , 両 者 か ら 導 か れ た 連 立 定 差 方 程 式 の 分 析 か ら , 体 系 の 不 安 定 性 を 導 い て お ら れ る 。 な お , こ こ で 用 い ら れ て い る 「 望 ま れ る 貯 蓄 率 」 の 概 念 は , ハ ロ ッ ド が 使 っ た 概 念 と は ニ ュ ア ン ス の 違 い が 生 じ て 来 て い る こ と に は 注 意 す べ き で あ る 。 こ の よ う に , 置 塩 教授の新しいモデ〉レの諸特徴について考察し,若干の数学的解明をも行った。 筆 者 と し て は , 以 上 の 諸 考 察 に 基 づ き , さ ら に 期 待 や 物 価 の 問 題 等 を そ デ 、 ル に組みこんで,不安定性原理のより進んだ研究を目指したし、と考えている。 参 考 文 献

C 1 J Alexander, S. S, ‘'Mr.. Harrod's Dynamic Model," Economic fournal, Dec, 1950 C 2 J Harrod, R. F, ‘'An Essay in Dynamic Theory," Economic fournal, March, 1939 C3J 一一一ー一一一,EconomκEssays, 1952. C 4 J 一一一一一一一,Money, 1969 C 5 J 一一一一一一,Economic Dynamics, 1973 C6J 霞塩信雄, 'R. Harrodの動学再考j,国民経済雑誌,第150巻第 6号,昭和 59年 12月。

C

7J 篠崎敏雄,二種類の不均衡と不安定性原理j,愛媛経済論集,第2巻第 2号,昭和 57年 11月。 C8J 一一一一一一,ハロッドの『望まれる貯蓄率』の概念と生産物市場の均衡j,香川大学経 済論叢,第58巻第 l号, 1985年 6月。 C9J 鴇田忠彦マクロ・ダイナミックス一一現代インフレーションの基礎理論~, 1976年。

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