ビジネスモデルの課題と事業の仕組み
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(2) 20. 産研論集 No.50. が事業方法として重要性を持つことになる。 その態様が事業立ち上げのスピードと事業の 特質にかかわる。そこで業務の内外製と分業 の方法や調整方法にも注目していく。 このためネットビジネスのビジネスモデル では,誰からどのような方法で対価を獲得す るのか,そして内外の業務の分業化,その際 の情報や資金に流れに注目して事業の仕組み をみていく。これらのことがビジネスモデル を,その後も特徴づけることになる。. 2 ビジネスモデルの発展. その後ビジネスモデルはネットビジネスを 離れて,事業一般の仕組みを解明対象にする 傾向を強めるようになる。早くも国領(1999) は,誰にどのような価値を提供するか,その ための経営資源の組み合わせとその資源の調 達,パートナーや顧客とのコミュニケーショ ンをどのように行うか,いかなる流通経路と 価格体系の下で届けるか,というビジネスデ ザインについての設計思想とビジネスモデル を定義した。 ここでは,前述したようなネットビジネス を意識したビジネスモデルよりも,事業一般 に拡張して事業の仕組みをみている。資源の 調達方法や流通経路と価格体系など,事業の 仕組みにかかわる要素が広がっている。ただ どのような価値を提供するのかという顧客価 値を仕組みの出発点にしているものの,その 顧客価値を創造して提供するための仕組み, つまり価値創造の業務プロセスそのものにつ いては所与としている感がある。 成熟した市場環境の下では売上シェアの 拡大ではなく,顧客と利益獲得を中心にし た 事 業 が 必 要 だ と し て, 事 業 デ ザ イ ン や ビジネスモデルを提示したのがSlywotzky (1997;2000) で あ る。 さ ら にSlywotzky (2002)は,利益がどこでどのように発生し ているのかという視点のものとに23の利益モ デルを提示した。こうしてビジネスモデルは その解明対象を事業一般へと拡大するが,金 儲けのための仕組みに重点を置いた研究の色 彩が強い。. このときビジネスモデルは事業のフレーム ワークであるため,そのフレームワークのパ ターン化を志向するようになる。どのように して誰から収益を獲得するのか,業務の内 製・外製,分業化の方法,情報の流れやもの の流れなどは事業の枠組みであるため,それ はモデル化しやすい。そして成功した事業の フレームワークに注目してそれをモデル化 し,仕組みをパターン化する。ただパターン 化の主軸は収益獲得法になってしまう。 事業の構想に際し,事業パターンに当ては めることによって事業をデザインできる。そ れは異なった事業であっても同じ事業モデル として扱うこともできるし,異質な事業モデ ルを採用することによって,事業を新しい視 点でデザインすることもできるという利点を 持つ。 その後Afuah(2004)や安室(2007)のビ ジネスモデル研究は,事業一般へと解明対象 を拡大し,収益獲得の他,顧客価値獲得も重 視するようになる。さらに事業概念を実践 に適用したものがビジネスモデルだとする Hamel(2000)や,技術の可能性を経済的な 価値に変換する活動がビジネスモデルだとし たChesbrough(2003;2006),後述のJohnson (2008),そしてAfuah(2014)などの研究 はビジネスモデルのイノベーションを主眼と するようになる。 近 年 注 目 を 浴 び るJohnsonやOsterwalder などのビジネスモデルは,パターン化を志向 するものではなく,有効な事業の仕組みや 事業デザインのツールであることを重視す る。わかり易く事業のデザインを追求しよ うとする研究の代表的なものがOsterwalder (2010)で,ビジネスモデルとはどのように 価値を創造し,顧客提供するかを論理的に記 述したものであるとして,後述する視覚的な 事業の仕組みモデルを提示した。. 3 ビジネスモデルの課題. このように発展を続けるビジネスモデルで はあるが,そこにはどのような課題があるの だろうか。事業のフレームワークを提示する.
(3) ビジネスモデルの課題と事業の仕組み. ビジネスモデルは事業の概略デザインに活用 できるし,成功した事業と同じフレームワー クが適用しやすくなる。しかし多くのビジネ スモデルには次のような課題がある。 ①顧客価値創造の仕組みよりも,収益獲得に 重点が置かれる これはビジネスモデルの登場以来の特質で あることは前述した。どのような顧客からど のような方法で収益を獲得するかは,財の価 格が高額だが費消に時間がかかる場合や,複 数の関連事業者によって価値が形成されるよ うな複雑な事業の場合,また一つひとつでは 小さな経済的価値しかない情報財などの場合 には,収益獲得は事業デザインの大きな課題 であることは間違いない。 ただその前提として,提供する価値をどの ように創出するかが重要である。創出される 価値が顧客ニーズに合致したものであるだけ でなく,希少で貴重な模倣しにくいほどそれ は収益獲得に結びつく。そうであるとすれ ば,どのように収益を獲得するかという課題 以上に,顧客価値創出の仕組みが重要にな る。またその顧客価値創出に複雑なプロセス が必要なほど,どのような仕組みによって, 顧客価値を形成するかの注目が必要だろう。 ②競争企業との差別化や模倣に対応しない 優れた事業ほど競争者が出現し,製品や サービスが発揮する顧客価値が,またそれを 創出する事業そのものが模倣される。しかし 仕組みがパターン化されれば,それは容易に 模倣できるし,模倣としてのモデルの存在で もある。同じビジネスモデルが採用されて も,競争企業と差別化することが今日の事業 環境では不可欠である。ビジネスモデルはこ の模倣や差別化に対応していない。それは競 争優位の源泉について検討しないことを意味 する。 顧客価値は業務の構造やプロセスによって 創造される。その中に顧客を獲得するための 仕組,競争優位性形成のための仕組が潜んで いる(Porter,1996)。顧客価値は業務プロ セスを中核にして形成されるが,顧客価値創 造のために個々の業務をどのような方法で行. 21. い,関連する業務や活動などとどのように結 びつけて全体最適を図るかについての関心は ビジネスモデルには薄い。 ③事業の概略はデザインできるが,具体的な 事業デザインとしては不十分である ビジネスモデルは新たな事業デザインの ツールである。しかし多くのモデルが単純で あり,事業概念の設定や粗い事業フレーム ワークの設定には活用できるとしても,適用 してみると現実の事業デザインには使用しに くい。それは仕組み要素に概念的な項目が提 示されるだけで,その要素の具体的な内容に なる下位要素が提示されないためである。ど のような側面から新たに事業をデザインして いくのか要素がなく恣意的になってしまう。 このためにビジネスモデルは,新たな事業 の設計やイノベーションよりも,既存の事業 の解明の切り口への適用が中心になってしま う。その事業解明の場合でも恣意的になる。. 4 ビジネスモデルとビジネスシステム. ところで事業の仕組みについては,今まで みてきたビジネスモデルとは異なった視点か らの研究がわが国では行われてきた。さきに インターネットの登場とビジネスモデル特許 の出現が,事業の仕組みとしてのビジネスモ デル注目への直接の契機になったと述べた が,そうした契機とは別に事業の仕組みにつ いてさまざまな考え方が提起されてきたので ある。 事業環境がダイナミックに複雑に変化して いるために,製品やサービスそのものだけで はなく,事業の仕組み全体での顧客価値の提 供が必要だ,という視点からも事業の仕組が 注目されてきたのである。それに競争優位形 成にも製品レベルではなく,事業全体で対応 することか必要で,そのために事業の仕組み が注目された。それらはビジネスシステムや 事業システム,事業の仕組みといった名称で 価値創造の仕組みを解明しようとする。これ らには小川(1996,2015),加護野(1999・ 2006),嶋口(2004),浅羽・新田(2004), 加護野・井上(2004),井上(2006)などの.
(4) 22. 産研論集 No.50. 研究がある。 収益獲得のための事業のフレームワーク提 示を志向する傾向が強いビジネスモデルに対 し,これらの事業の仕組み論では事業の原点 である顧客価値提供を重視し,新たな顧客価 値を創造し提供するための仕組みを解明しよ うとする。ビジネスモデルでは収益獲得を重 視し,そのための多様な仕組みを模索する。 それに対して後者は,顧客価値の提供ができ れば収益は実現できるという考え方である。 企業にとって利益獲得は重要だが,それには 顧客の求める価値創造が前提だという立場で ある。 今日,事業の仕組みはビジネスモデルを大 勢として,その他ビジネスシステム(事業シ ステム)や仕組み論など多様な考え方が様々 な論者によって提起されているのが現状であ る。そのため事業の仕組みをビジネスモデル とビジネスシステムに区別し,前者を収益モ デル,後者を収益あげるための仕組みとし て,両者を区分しながらも関連づける試みも 行われている(井上,2012)。またビジネス モデルは,ビジネスシステムと収益モデルか らなるとする見解もある(西野,2015)。ビ ジネスモデルのモデルというのは本来参照を 含意し,ある事業の仕組みを参照して模倣し ていくことにこそ意義があるとする見解もあ る(井上,2012)。 ところで別々に発展してきた事業の仕組み について,ビジネスモデルやその他の概念と りわけビジネスシステム(事業システム)と の関係や整合性の検討,それらの考え方や違 いの解明も意義深いが,ビジネス・イノベー ションこそが今日の企業経営の課題である (Markides,2000)。事業イノベーションは 事業そのものの変革であり,それは事業の仕 組みの変革と同一の志向といえるだろう。だ から事業デザインに適用できる仕組みの解明 こそが今,重要なのではないか。 ビジネス・イノベーションが今日必要に なっているのは,次のような理由からであ る。顧客価値が多様化する中で,特定の価値 に的を絞ってより細かな対応をすることでし. か顧客満足度を高めることができなくなって いる。また競争が激しくなる中で,安くて良 い製品以上の広範な価値を付加することも必 要である。そして外部の企業も含めた複雑な 企業行動によって斬新な顧客価値を創出する ことも求められている。情報技術を活用する ことで製造や販売活動だけでなく,製品や サービスも変容している。このように事業環 境が変容している。また競争激化のなかで製 品レベルの競争では,すぐに模倣されてしま うという競争環境の変容もある。 このような環境変化の中で事業の仕組みが 注目されているのであり,事業のイノベーショ ンに迫られているのである。だとすれば,仕 組みをめぐる考え方の解明や論者のモデル体 系の整 合化を図ることよりも,仕組みを活用 した事業イノベーションや,新たな事業を創造 することこそ課題ではないか。それに役ただ なければ,いかに崇高な仕組み理論であって も企業経営にとっては有用とはいえない。何よ りも,事業の変革や事業創造に有用な仕組み の解明が待たれるのではないだろうか。. 5 ビジネスモデルの有効性. ビジネスモデルやビジネスシステムなどと 呼ばれてきた事業の仕組みモデルにとって重 要なのは,それが事業デザインに活用できる か否かということである。ビジネスモデルの 一般的な課題については先に触れたが,ここ では事業の仕組みモデルのなかでも注目を浴 びる2つのモデルを取り上げてみていく。 (1)ジョンソン他のビジネスモデル ジョンソン(Johnson et al.,2008)は図-1 のように4つの要素からなるビジネスモデル を提起した。 ターゲットにする顧客が抱えている課題 に対して,何を提供するか,どのように提 供するかが顧客価値の提供(customer value proposition)である。次いで利益公式(profit formula)は,どのように価値を創造するの か,どのようにその価値を提供するのかを数 値的に定義する。そしてターゲット顧客への.
(5) ビジネスモデルの課題と事業の仕組み. 顧客価値提供に必要な人材,技術,製品や設 備機器,流通チャネル,ブランドなどの資産 のなかで,顧客と自社に価値をもたらすキー 資源(key resources)の結びつけ方が重要 になる。顧客価値を提供できる業務プロセ スが,キー・プロセス(key process)であ る。顧客価値提供と利益公式は,顧客と企業 にとっての価値は何かをそれぞれ定義する。 キー資源とプロセスはその価値を顧客と企業 に提供する方法を示す。こうしたフレーム ワークはこれら4要素の複雑な相互依存の上 に成立する。 ビジネスモデルのイノベーションが必要な のは,既存モデルのこれら4つの要素すべて を革新しなければならないときで,漸進的な イノベーションには彼らは注目しない。また 業界や市場のルールを転換させるものでなけ れば,新しいビジネスモデルを構築する意義 は薄いとする。それに新規事業が成功するま でには,通常4回くらいはビジネスモデルが 手直しされ,変更や進化すると捉える。 顧客価値提供がどのようなものかを具体的. 23. に特定できなければ,新しいビジネスモデル の開発や既存モデルの再構築もできないとし て,ビジネスモデルの基本が顧客価値提供に あることを彼らは主張する。バリュー・プロ ポジションが明確化されて初めてビジネスモ デルのフレームワークを検討できるのであ る。そしてプロセスと資源とを重要視する。 ただプロセスでは設計や製品開発,調達, 製造,マーケティング,採用と研修,ITな どに注目するものの,それらの具体的なサブ 要素やパラメータ,それらの組合せには言及 していないために,事業のデザインはやはり 恣意的にならざるを得ない。わかりやすいモ デルである半面,これを活用して事業のデザ インやイノベーションを図ろうとすると,提 示される4つの要素を構成するサブ要素は参 考になるものの適用が難しい。 一方,売上やコスト,利益率,回転率といっ た数値指標から構成される利益公式は事業計 画策定には欠かせないし,利益獲得のための 事業の仕組みの目標としては重要である。4 つの要素から分かりやすくビジネスシステム. 図-1 Johnsonのビジネスモデル. w-1 Johnson'@1;2D7I. ybu'cr ]sVf. 4.68y `S%($1GA. esD7I. cr%+)'. /28mq ]sjD7I U|Qij. -U| N{. - BK32. lp*od. BK32. Wt*[h. II&zb _g. a^ kT5E;I. Xn_g. ?8:06B*cx AHL9 OZ
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(7) .(Rv\ @1;2D7I ,<C0GL'Y ~! " DIAMOND=>9 @1;2 J@F# 2009M4P}). 出所::Johnson,et al., Reinoveting your Business Model. Harvard Business Review,2008 Dec. (関美和訳「ビジネスモデル・イノベーションの原則」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュ ー』2009年4月号。).
(8) 24. 産研論集 No.50. を説明し,それらのサブ要素も提示してい る。このため理解しやすいモデルだが,まだ 恣意性への依存が多い。. る。顧客がどんな価値にお金を払うのか,ど のような方法で支払ってくれるのかが収益の 流れ(R$)である。固定価格と変動価格, 安売り,オークション,市場価格,ボリュウ ムディスカウントなどの方法があり,その収 益の流れを作るものには製品の販売,使用 料,購読料,レンタルやリース,ライセンス, 仲介手数料,広告などの方法がある。 ビジネスモデルの実行に必要なのが資源 (KR)で,それは物理的なもののほかに, 知的財産,人的資源,ファイナンスなどから なる。ビジネスモデルを実行するために必ず 行う活動が主要活動(KA)で,製造,問題 解決,プラットフォームやネットワークなど がある。ビジネスモデルを最適化し,リスク を減らし,資源を生むためのアライアンスが パートナー(KP)である。そしてビジネス モデルを運営するために発生するコストを記 述したものがコスト構造(C$)である。コ ストは固定費,変動費,規模の経済性や範囲 の経済性で分類され,コストの低さがカギに なるコスト主導と,コストよりも価値を重視 する価値主導かのビジネスモデルに大別され る。 彼らのビジネスモデル・キャンバスは,事 業についてのアイデアを引き出し,概略的な. (2)オスターワルダーのビジネスモデル 次に根来(2012)などにもモデルが援用さ れ,注目を浴びるOsterwalder(2010)のビ ジネスモデルは図-2のようになる。 組織構造,プロセス,システムを通じて実 行されるとするこのモデルは顧客,価値提 案,インフラそして資金という事業の主要な 4領域をカバーする9つの要素で構成する。 事業の仕組みの出発は誰のために価値を創造 するのかという顧客セグメント(CS)で, そのニーズを把握する。その顧客層の抱えて いる問題を解決しニーズを満たすのが価値提 案(VP)で,それは製品とサービスによっ て実現される。そこでは新規性やパフォーマ ンス,カスタマイゼーション,顧客の仕事を 行う(getting the job done),デザイン,価 格,コスト削減,リスク低減,アクセスのし 易さ,使いやすさといった方法がある。 それらの価値を顧客に届けるためのコミュ ニケーションや流通,販売経路がチャネル (CH)である。そして顧客層とどのような 関係を構築するのかが顧客関係(CR)であ. 図-2 オスターワルダー他のビジネスモデル・キャンバス. KP. KA. パートナー. 主要活動. VP 価値提案. KR. コスト構造. CS. 顧客関係. 顧客セグメント. CH. 資源. C$. CR. チャネル. R$. 収益の流れ. 出所:Osterwalder,A.,and Y. Pigneur,Business Model Generation,Wiley & Sons,2010,p.44..
(9) ビジネスモデルの課題と事業の仕組み. 事業設計を行うには役立つ。事業対象の顧客 層に,どのような価値を提案していくのかか らはじまって事業の外形的な側面を記述する ことができる。しかしこのビジネスモデルを 運営するための組織構造やプロセス,システ ムについては,このキャンバスには十分に記 載されない。これらビジネスモデルを実行す るための土台となる要素も事業の仕組みその ものであり,それは単に事業を実行するので はなく,それによって事業を特異なものにし ていく事業の要素である。このように事業の 重要な仕組み要素である組織構造やプロセ ス,システムが取り上げられているものの, キャンバス上には具体的にモデル化されてい ない。 このモデルは事業の設計を主眼にしてその 要素を一定程度提示している。事業の仕組み を解明・設計できる基本的な要素が若干提示 されているため使用しやすい。しかし顧客価 値を創造する業務オペレーションをどのよう に設定するかなど,具体的な設計は難しい。 (3)事業の仕組みにおける要素の役割 2つのビジネスモデルをみてきた。今日代 表的なモデルには共通性もあるが,違いも大 きい。共通なのは顧客価値を重視しているこ と,主活動やキー・プロセスという要素で, 業務プロセスを仕組みの要素にしているこ と,資源を重視していること,差異はあるも ののコスト構造を要素にしていること,収益 モデルが取り上げられていることなどであ る。違いは後者のモデルのほうが,顧客を重 視し顧客セグメントや顧客との関係を要素に していること,また後者が収益の流れや事業 のパートナーを取り上げていること,などで ある。ここには従来のビジネスモデルの特質 がある。 後者ではたくさんの既存事業の事例がモデ ル適用の形で取り上げられている。しかし主 活動やリソースなどどのような側面からそれ を事業の仕組みの要素として取り上げるか は,モデル適用者の発想に依存している。具 体的に何を見ていくかのサブ要素やパラメー. 25. タなどが提示されていないからである。事 実,示されている適用事例でも,例えば著 名なジレットのカミソリと替え刃の事業で は,主活動でマーケティングと,R&D,ロ ジスティクスが取り上げられ,同じことがコ スト構造でも上げられている(Osterwalder, 2010,p.105)。 つまりかなり大まかな事項が取り上げられ ているのであり,どのようなマーケティング やR&D,ロジスティクスを行うのか,それ にどのようなコストがかかるのか,かけるの かは把握しない。それはモデル適用のために 注目点だけを説明するためや,簡略化して示 すためかもしれないが,他の適用事例をみて も同様である。やはり大まかな事項を取り上 げている。そうすると既存事業の特徴などを 説明するときはよいとしても,新たに事業を 設計しようとする場合,事業概念的な内容に とどまってしまう。どんな事項を考慮して特 徴的な事業をデザインするのかは,各自の知 見,経験に依存することになる。 われわれは例えば受注生産の製品を見込み 生産で行うと,同様な製品であっても顧客価 値が異なってくることを知見している。その 場合には生産システムをどうするか,作業者 や技術者にどのような業務をさせるかなどを 設定しないと,事業がデザインできないし資 源も調達できない。事業の仕組みは表面的な 事項ではなく,それを実行するための行動や 組織,必要な資源にも及ぶのである。それは 提供する顧客価値をも形成するものであり, 特徴的な事業に,競合他社とは異なった事業 にさせるものである。 このような理解に立つならば,事業の仕組 みをデザインするとき,表面的なフレーム ワークでは不十分で,それは事業の仕組みで はなく,概念程度の設計に終わってしまうと いえるのではないだろうか。 このようにみていくと,事業のデザインを 行うための事業の仕組みでは,要素を構成す るサブ要素やそれに関係するパラメータな ど,仕組みを具体化するために必要なより詳 細な要素が必要だといえる。さらに顧客価値.
(10) 26. 産研論集 No.50. 図-3 ビジネスシステムのモデルと主な構成要素 -3 4&1'%',89-> Zr^[ F_6?(' Xsn $4' #ou 2=:*AMq # 6?(' tU%',8. R. HFw. s n. !34=,(bjQ). $4'. Wj ouxp yIh{ E
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(12) h{. E] TY`DTeF4&1'%',8L}2015Bp.83. 出所:小川正博『中小企業のビジネスシステム』同友館,2015年,p.83。. を創出するための業務プロセス要素が重要で ある。企業は日常的に業務プロセスを繰り返 すことで事業を遂行しているのであり,その 仕組みこそ事業の仕組みの根幹をなすといえ よう。それに業務活動は人間が担うのであ り,業務と一体不可分の組織も主要な要素に なるだろう。. 6 より詳細な事業要素の試み. 小川(2015)が提示したのは製造業一般を 前提にする事業の仕組みモデルである。原材 料・情報・知識・能力などの資源を顧客価値 に変換して,対価を獲得するための構造的な 事業の仕組をビジネスシステムと称してその モデルを提示した。それは事業概念をもとに 業務プロセス,組織,資源,製品・サービス, 顧客との情報作用,そしてこれらの要素を結 びつけるケイパビリティ(組織能力)の7つ の要素からなる図-3のシステムである。製品 や技術だけではなく,サービスや知識,提供 方法などあらゆる手段を組み合わせて顧客価 値を創造するのが事業の仕組である。事業の. 仕組が有効に機能すると,顧客などステーク ホルダーと企業との独自な関係が形成でき る。 なお小稿では提示できないが,このモデル では主要要素の下に下位要素とサブ要素,さ らにサブ要素を多様化するパラメータ例を示 してレイヤ構造で要素をより詳細にしてい る。例えば業務プロセスではその要素に,製 品・業務の範囲,コア技術,バリューチェー ンの定義,コア・プロセス,管理システムを 提示する。そして例えばバリューチェーンの 定義ではサブ要素として,保有業務領域,バ リューチェーン,業務の重点をあげる。さら にサブ要素の保有業務領域では,保有業務領 域の範囲,垂直的な業務機能,水平的な業務 機能をパラメータ例として提示している2)。 この事業の仕組みモデルには次のような特 徴がある。 第1に事業の仕組の構成要素を前述のよう にレイヤ構造で提示した。事業概念を実現す るために,資源をベースにしながら業務の方 法やそれを支える組織などの主要素,その下.
(13) ビジネスモデルの課題と事業の仕組み. 位のサブ要素,さらにそれを多様化させるパ ラメータを階層的に提示する。これら要素の 組合せによって多様な事業の仕組が構築でき ることを示している。このとき業務プロセス をはじめとする要素の細部が,特徴的な仕組 の構築に重要な役割をもつことになる。 第2に,これら要素の相互補完的な関係性 によって仕組ができるという,仕組みのシス テム性を規定した。前述の要素からなるシス テムと仕組をモデル化することによって,た とえ優れた資源が揃わなくとも,劣った資源 や同業者と同じような資源であっても,中小 企業でも要素の相補的関係性によって,大企 業の事業をも凌ぐような仕組を構築できる可 能性を示した。 一般に資源が相対的に劣る中小企業といわ れるが,大企業が困難な事業を構築したり, 中小企業が競争を経て成長していくのは,資 源個々の価値ではなく,限られた資源を基礎 に業務プロセスや組織を組合せて,最も効果 的・効率的に顧客価値を絞り込んで事業を創 造するからである。それを主導する斬新な事 業概念を実現する仕組があるからである。シ ステムは要素の相補的関係性によって,全体 としては個々の要素にはない創発性を発揮す る。 第3に,特定の顧客価値を実現する斬新な 事業の仕組を解明するだけではなく,事業の デザインに活用できる仕組を志向した。エレ クトロニクス産業の凋落に象徴されるよう に,日本企業はグローバル市場で競争力を低 下させている。また中小企業はその企業数を 急速に減らし,地域経済に打撃を与えたり, 産業の活力を低下させたりしている。多様な 製品やサービスを創造する企業が競争し,躍 動することが経済社会を活性化する。そうし た活力ある企業の事業の創造や革新に,事業 の仕組が活用できる可能性を求めた。. 7 まとめにかえて. これまで企業のイノベーションの多くは製 品や技術を対象に行われてきた。中小企業経 営や中小企業政策でも,新規な製品や技術の. 27. 開発が課題になり,その実現のためにさまざ まな支援が行われている。企業単独での開発 のほか,異質な企業との連携や産学連携によ る開発支援まで,中小企業施策が展開されて いる。しかし新たな製品や技術が開発されて も,それが需要を獲得して企業の収益に大き く寄与したり,企業を変革することは稀であ る。これには技術志向で顧客本位の開発では なかったり,マーケティングが不十分であっ たり,などさまざまな理由がある。 加えて製品や技術だけで顧客価値を形成す ることが難しく,サービスや情報,提供方法 などを含めた顧客価値を事業の仕組全体で提 供するという体制ができていないことも大き な理由にあげられる。顧客本位で顧客の求め る価値ある製品や技術を提供するには,同時 にそれを効果的にそして効率的に実行する事 業の仕組が必要である。さらに製品や技術の イノベーションだけではなく,事業自体のイ ノベーションが必要であり,事業の仕組のイ ノベーションが不可欠になっている。 そこで小稿ではビジネスモデルとその課 題,その課題を解決するための試みとして詳 細な要素からなるビジネスシステムのモデル を紹介した。しかし,モデルの構造が複雑に なるとわかりにくくなるという新しい課題が 生じる。主要素の段階はともかくとしてサブ 要素の段階になると多岐にわたる。多岐にな るほど事業デザインは複雑になってしまう。 事業の仕組みモデルには解りやすい要素の 段階にとどめると恣意的にならざるを得ず, より具体的になっていくと複雑になるという パラドックスがある。それを段階的に示すこ とで解決しようとしたものの,それで十分活 用に足るかは課題である。検討したJohnson やOsterwalderと 提 起 し た ビ ジ ネ ス シ ス テ ム・モデルなど複合的に活用して,事業をデ ザインするのが実際的かもしれない。.
(14) 28. 産研論集 No.50. 〈参考文献〉 Afuah,Allan(2004),Business Models, MaGraw-Hill Irwin. Afuah,Allan(2014),Business Model Innovation, Routledge. 浅羽茂・新田都志子(2004) 『ビジネスシステム , ・ レボリューション』NTT出版。 C h e a s b r o u g h ,H e n r y ( 2 0 0 3 ),O p e n Innovation,Harvard Business School Corporation.( 大 前 恵 一 朗 訳『OPEN INNOVATION』 産 業 能 率 大 学出版 部, 2004年) 。 Chesbrough,H(2006),Open Innovation, Harvard Business School Press. Chesbrough, H., W.Vanhaverbeke and J.West (2006) ,Open Innovation : Researching a New Paradigm,Oxford University Press.(長尾高弘訳『オープン・イノベーショ ン』英治出版,2008年)。 Hamel, Gary(2000) ,Leading The Revolution, Harvard Business School Press, (鈴木主 税・福嶋俊造訳『リーディング・ザ・レボリュー ション』日本経済新聞社,2001年) 。 今井浩(2002) 『特許ビジネスはどこへ行く , のか』 岩波書店。 井上達彦編著(2006) , 『収益エンジンの論理』 白桃書房。 井上達彦(2012) , 「ビジネスモデル発想の仕組 み構築」『日本情報経営学会誌』Vol.33, No.2 Johnson,Mark.and Clayton Christensen, Henning Kagerman(2008) ,Reinventing your Business Model. Harvard Business Review,Dec.(関美和訳「ビジネスモデル・ イノベーションの原則」 『DIAMONDハーバー ド・ビジネス・レビュー』2009年4月号) 。 西野和美(2015) , 『自走するビジネスモデル』 日本経済新聞社。 加 護 野 忠 男(1999) , 『 競 争 優 位のシステム』 PHP新書。 加護野忠男・井上達彦(2004) , 『事業システム 戦略』有斐閣。. 加護野忠男(2006) , 「新しい事業システムの設 計思想と情報資源」伊丹敬之他編『戦略 とイノベーション』有斐閣。 国領二郎(1999) 『オープン , アーキテクチャ戦略』 ダイヤモンド社。 Markides,Constantinos C.(2000),All the Right Moves,Harvard Business School Press.(有賀裕子『戦略の原理』ダイヤ モンド社,2000年)。 小川正博(1996) 『創造する , 日本企業』新評論。 小川正博(2015) 『中小企業のビジネスシステム』 , 同友館。 Osterwalder,A. and Y. Pigneur(2010), Business Model Generation,Wiley & Sons. (小山龍介訳『ビジネスモデル・ジェネレーショ ン』翔泳社,2012年) 。 P o r t e r ,M i c h a e l E ( 1 9 9 6 ),W h a t i s Strategy?,Harvard Business Review, Vol.11-12.(中辻 萬 冶 訳「 戦 略の本 質 」 『DIAMONDハ ー バ ード・ビジネス・レ ビュー』1997年,第3巻)。 嶋口充輝編(2004) 『仕組み革新の時代』 , 有斐閣。 Slywotzky,Adrian and David J. Morrison (1997),The Profit Zone,Random House.(恩蔵直人・石塚浩訳『プロフット・ ゾーン経営戦略』ダイヤモンド社, 1999年)。 Slywotzky, Adrian and David J. Morrison (2000) , How Digital is Your Bisiness,Crown Pubishers.(成毛眞監訳『デジタル・ビジネ スデザイン戦略』ダイヤモンド社,2001年) 。 Slywotzky,Adrian(2002),The Art of Profitability,Warner Books.(中川治子 訳『ザ・プロフィット』ダイヤモンド社, 2002年)。 安室憲一・ビジネスモデル研究会編著(2007) , 『ケースブック ビジネスモデル・シンキング』 文眞堂。 1). そ れ は イ ン タ ー ネ ッ ト サ イ ト の 検 索 エ ン ジ ン GoogleやYahooに顕著である。利用者はこれらを 活用することで,必要な情報を世界中のサーバー から取得することができるし,地図やニュースな ど様々なサービスを受けるが利用者は無料で使用 している。 2) 詳しくは小川(2015,p.147)を参照。その他の詳 しい要素やパラメータを主要素ごとに提示した。.
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