原 著. 〔東女医大誌 第63巻 第4号頁400∼408平成5年4月〕
同時記録による左右両側および耳下腺一顎下腺の
味覚反射性唾液分泌の電気生理学的研究
東京女子医科大学 歯科口腔外科(主任:扇内秀樹教授) クワ ザワ タカ ホ 桑 沢 隆 補 (受付 平成4年12月17日) Physiological Studies on Human Salivation witll Simultaneous Recordings from Parotid and Submandib111ar.Glands during the Gustatory Stimulation Takaho KUWAZAWA Department of Oral and Maxillofacial Surgery(Director:Prof. Hideki OGIUCHI) Tokyo Women’s Medical College Simultaneous recordings of human salivation in response to gustatory stimulation(5%citric acid) were lnade from the bilateral parotid, bilateral submandibular or unilateral parotid and submandi・ bular glands. Neither volumes nor paゼterns of expulsion from the parotid and submandibular g重ands in response to stimulation showed any differences between the right and left glands..On the expulsion curve, stepwise patterns were observed in the init童al phase following gustatory stimulation. These patterns were formed by a transient expulsion which appeared to be synchronized between the bilateral parotid glands and the bilateral submandibular glands, and also between unilateral parotid and submandi− bular glands. The velocities of transient expulsions were also synchronized in the same as well as in different salivary glands. The maximum velocity and volume of transient expulsion were proportional in these two salivary glands. The expulsion patterns were also identicaL The time course of salivary expulsion after gustatory stimulation showed a rapid increase folloWed by. a gradual decline after the peak. Logarithmic plots of the amplitude of the declining phase of expulsion produced a straight line with time constants of 2.7 sec in the parotid, and 29 sec in the submandibular gland. These results reveal that salivary expulsion, as a gustatory reflex,三s a summation of continuous and transient components synchronized between the same and different salivary glands. These observations suggest that the phenomena of synchronization result in synchronized contraction of salivary glandular myoepithelial cells in response to gustatory stimulation. 緒 言 唾液の分泌異常をきたす疾患には,唾液腺の腫 瘍や炎症,唾石症,Sj6gren症候群,頭頸部癌放射 線治療後の障害な:どがある.唾液分泌機能を調べ るには,唾液分泌量の測定,・物理化学的検:査,唾 液腺シンチグラフィー,唾液腺造影などが行われ ているが,そのなかでも,特に唾液分泌量の測定 は侵襲が少なく,簡便であり,日常臨床に用いら れることの多い検査法である..しかし,従来の測 定機器ではその精度上から,大まかな分泌量の測 定には適しているものの,短かい間隔での計測や, 細かい量の変動の計測は不可能であり,唾液分泌異常の機構の解明や回復の状態を知るには,より 詳しい分析と基礎的な研究が必要である. 唾液分泌については古くから様々な研究がなさ れているが,耳下腺と顎下腺のように異なる唾液 腺や,左右の唾液腺からの分泌を同時に計測した 研究は少なく1)2),測定装置の精度上の問題から計 測間隔は1∼数分と比較的長く,短時間の細かな 変動についての観察は行われていな:い.今回使用 したShimataniらが開発した分泌速度測定装置3) は,現在までに使用されている機器にはない優れ た時間分解能を有しており,最短0.1秒の間隔で 0.01mlの分泌量変化を経時的に計測することが 可能である.Shimataniら3)は本装置を使用しヒ ト耳下腺の味覚反射性唾液分泌を観察している. そして,反射性唾液分泌は少量の持続性分泌と筋 上皮細胞が関与する一過性分泌とからなり,分泌 曲線上では階段状の変化としてみられると述べて いる.今回著者は同装置を用い,左右の耳下腺, 顎下腺,および耳下腺と顎下腺を同時誘導し,従 来不可能であった詳細な味覚刺激による反射性唾 液分泌の検討を行った. 対象および方法 1.対象 20∼34歳の健康な男女13名を承諾を得て被験者 とした. 2.装置 図1に測定装置の概要を示す.唾液腺開口部に 挿入した先端外径0.5mm(内径0.28mm)のカ ニューレの断端をストレインゲージ・トランス デューサー(日本電気三栄451961A)に取り付けた 容積8.Omlのチェンバーに誘導し,容器内に蓄積 した唾液の分泌量を重量に変換,トランスデュー サーアンプ(日本電気三栄1829)で増幅し,デー タ・レコーダー(TEAC MR−10)に記録した.ま た,その出力をペンレコーダー(日本電気三栄8 K20)に並記させた.同時にトランスデューサーア ンプの出力をサンプル&ホールド回路より構成 された分泌速度測定装置3)に誘導し,単位時間量: (分泌速度)として,記録した(図1).分泌量は 0.01ml以下の精度で総量7.Omlまで連続的に測 定することができる.分泌速度は0.1秒から数分の 範囲でパルスジェネレターにより設定した時間幅 で記録することが可能である.同一の装置をもう 1台用意し,別の唾液腺開口部にカニューレを挿 入し,データ・レコーダー一に同時に記録した.デー タ・レコーダーに記録したトランスデューサーの 出力信号(分泌曲線)は,後から分泌速度として 解析が可能である. 3.方法 測定に際しては,被験者を椅子に座らせ,唾液 腺開口部と容器内の液面の高さを同じにし静水圧 Sa髄vary giand I Ca璽mula ↓ Stmin gaロge
Transducer Transd腿cer Amp・
From salivary孚and 11
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P腿置se Gene「a㎞「 Strain gauge Transducer S&H Circu麓 Transducer Amp・ S&H Circuit Ch 1 Ch 3 Data Recorder わl
Ch 2 Ch 2 Ch4 わヨI
Ch4 Heat pen Recorder 図1 測定装置の模式図(詳細は本文参照のこと)が加わらないようにした.目的とする二つの唾液 腺の開口部にカニューレを挿入し,味覚刺激とし て5%クエン酸0.5mlを染み込ませた一辺10mm のガーゼを実験終了まで舌背上の舌咽神経支配領 域に置き,反射性唾液分泌を促した,測定中,被 験者には口腔の動きをなるべく起こさないように 注意したが,嚥下は許可し,その時点を用紙上に 記録した. 結 果 1.両側耳下腺唾液分泌の同時記録 図2は,両側耳下腺の味覚反射性唾液分泌曲線 と変換後の記録を描記させたものである.Aは固 有分泌および反射性唾液分泌の初期であり,矢印 の時点で5%クエン酸による味覚刺激を与えた. Bは反射性唾液分泌が最大になった時期,Cは反 射性唾液分泌の終息時;期である.図中のLは左側 耳下腺を,Rは右側耳下腺を示している. A, B, C三図の上段は唾液分泌曲線で横軸は時間,縦軸 は分泌唾液の累積量であり,図の下段は上段の記 録を電気的に処理し,0.5秒毎の変化量を表したも ので,その時点での唾液分泌(放出)速度に相当 する.図1のペンレコーダー中に模式的にみられ るように,単位時間における矩形波として表現さ A し き ちほロ 靖^ 一ゐ珊調や一一竺筆 B 短.、,.馬ぜ』 妻ここ;r証}〕、 ! ・ ^ .編_1.02m[/sec 図2 両側耳下腺の味覚反射性唾液分泌曲線と分泌速 度の同時記録 左右同期したパターンがみられる. A:刺激開始時,B:最大分泌時, C:終息期,上段: 分泌曲線下段:分泌速度,L:左側, R:右側,↓: 刺激時(以下の図でも同様).AB間で56秒, BC間 では23秒の記録を削除してある. れ,その振幅が速度を表す.なお,ペンレコーダー のダイナミックレンジの都合上,分泌曲線Aと B,BとCでペンの位置を変えているが,実際の曲 線は連続している.ただし,AとB, BとCの間 ではそれぞれ56秒,23秒の記録を削除している. また,紙送り速度が遅いため,矩形波の立上りお よび遮断時の波形は消失している.図上段の唾液 分泌曲線は固有唾液分泌時には僅かの傾斜の直線 となり,味覚刺激後の反射性唾液分泌時には特徴 的な曲線として表れ,反射性唾液分泌の終了した 固有分泌時には再び緩やかな傾斜の直線としてみ られる.図下段の唾液分泌速度は,固有唾液分泌 時には非常に遅く,ほぼ基線附近で微少変動して いるが,味覚刺激後に急激に速くなり,単位時間 あたりの分泌量が増大して極大に到達後,次第に 減少して基線に復帰する.つまり,このときの速 度変化は一見,単相性の波形にみえる.こみ波形 は定形的なもので振幅の大小にかかわらず変らな い.反射性唾液の分泌量が多く(B),分泌曲線が 階段状を示す場合には分泌速度記録における定形 的波形が重畳していることが分かる.このような 単相性波形は唾液の急激な一過性放出によるもの である(Shimataniら3)).味覚反射性唾液の放出 速度に違いはあるが,放出の時期は左右ともほぼ 同時に認められる.また,一過性放出は唾液分泌 曲線では階段状の曲線としてみられ,左右同期し ていることが確認された. Aの矢印左側の無刺激時には固有分泌量は左 右耳下腺とも非常に少なく,図下段の振幅の高さ L 1mi日 R .〆〆ソ翫軸い隔ノ編一&日照轡”協孤∼鰍 霧1.02mレsec 図3 両側顎下腺の味覚反射性唾液分泌曲線と分泌速 度の同時記録
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_,悔_鵡難砿1,。、。11sec P 図4 耳下腺,顎下腺の味覚反射性唾液分泌曲線と分泌速度の同時記録 異なった腺の間でも分泌パターンは同期している.P:耳下腺, S:顎下腺. で表される分泌速度も遅い.これは,被験者,唾 液腺の種類を問わず同様で,すべての場合で分泌 速度は0.1m1/分以下であった.反射性唾液分泌は 図上段の曲線では階段状の部分であり,下段では 振幅の高い部分に相当する.刺激開始から最初の 反射性唾液分泌が始まるまでの潜時は,味覚刺激 (矢印)より約5秒後に左右同時に開始している. この潜時には個人差があり,短い場合は図3のよ うに刺激開始直後より分泌を認めるが,長い場合 は図4のように2分に及ぶこともあった. 反射性唾液分泌は分泌開始直後より急速に増大 し,5分間に左側では3.4ml,右側では3.3ml分泌 している.反射性唾液の分泌曲線の形は,滑らか な曲線を描いて増加するのではなく,階段状の変 動としてみられ,唾液が急激に一過性に放出され ることにより成り立っている.その変動は分泌速 度の速い反応初期に多く,反応が収まるにつれて 頻度は低下し,速度も減少している.分泌速度が 刺激前に戻った固有分泌時には,この変動はみら れなかった.これは,反射性唾液分泌が生じてい る間の腺体外への唾液分泌速度は一定ではなく, 不規則に変化しているためである.この時の下段 の分泌速度は多様であり,B下段に見られるよう に分泌速度の速い時には,唾液は急激に一過性に 放出され,先に述べた分泌曲線上の階段状の変動 として表れ,分泌曲線の傾斜も急になる.反射性 唾液の分泌曲線上の成分は一過性放出と持続性分 泌からなり,持続性唾液の分泌量は反射性唾液に 比べ非常に微量であり,反射性唾液分泌が盛んな ときには識別できない.Bは反射性唾液分泌の盛 んな時期であり,周期的に急速な唾液分泌が生じ ている.この時点での反射性唾液分泌は大体12秒の周期で1分間に5回の急激な一過性放出を生
じ,この間の累積分泌量は1分間に2m1にも達し ている.この一過性放出の過程は,左右でもよく 似ている.つまり,一過性放出は同じ頻度で左右 同時に生じており,分泌速度にわずかな違いはあ るものの,速度の増加,減少は同時に起きている. 図Cは反射性唾液分泌が終息に向かう時期であ るが,一過性放出の頻度,分泌速度はともに低下 し,徐々に固有分泌時の分泌曲線の形,分泌速度 に戻っている.この終息期においても,左右耳下 腺は同期していることが判明した. 2,両側顎下腺唾液分泌の同時誘導 図3は両側顎下線の唾液分泌曲線である.刺激 開始から反射性唾液が始まるまでの潜時は極めて 短く(2秒),刺激開始直後より左右同時に分泌を 認めた. 反射性唾液の分泌量は分泌開始直後より急速に 増大し,最初の5分間に左では約2.8m1,右では約 2.5mlの唾液分泌を生じ,その後減少している.反 射性分泌による唾液の累積量は,両側耳下腺の場 合と同様で階段状に変動する.図3上段の分泌曲 線の形は一見,滑らかであるが,増幅器の拡大率 を上げることにより,不規則であることが分かる. さらに,この不規則な変動は,下段の分泌速度のA
・0,06 冨 ぐ0.05 頑 苛。.04 籍 ごα03 邉。。、 § §α01 Σ 0 ● ● ● ●● ● ● 3 :. ● ●B
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弐α04 旦 器α・3 碁 9α02 b 8α01 § Σ o 0 0,05 0.10 Secreted volume(In1) ● ● 斗● ● ・ ■ ● ● 0.8 器 碁・・ 9 濫位4 Qり ソ2 0 .・ ● ■ 5 10 sec o ● ● ● o o・ ■● 0 0。1 0.2 S㏄reted volume(ml> 15 ●o● ’・’●..●.・ 20 図5 耳下腺,顎下腺の一過性放出時の最大放出速度 (縦軸)と放出唾液量(横軸)の関係 ●はそれぞれの実測値である.分泌速度と放出量は 比例関係にあり,実線は相関を示す.A:耳下腺, B:顎下腺. 記録により明らかになり,反射性分泌が生じてい る間,1分間に約10回の速度変化が生じているこ とが観察された.その変動は分泌速度の速い初期 に多く,反応が収まるにつれて頻度は低下し,速 度も遅くなる.分泌速度が刺激前の固有分泌のレ ベルに戻った時には,この変動は消失した.これ らの分泌のパターンは耳下腺の場合と同様で,顎 下腺においても明らかな違いはなく,分泌曲線, 分泌速度は同期していた. 3.耳下腺一顎下腺唾液分泌の同時記録 図4は耳下腺と顎下腺の反射性唾液分泌と唾液 分泌速度の同時記録である.この例では約2分の 潜時を認めた後に,同時に急激な反射性唾液分泌 が開始している.唾液の総量は顎下腺が耳下腺の 0 5 10 15 20 sec 図6 一過性放出の時間経過 図4のデータをピークをそろえて加算平均したもの. 縦軸は相対的な放出速度を表し,最:大放出速度を1と している.A:耳下腺, B:顎下腺. 2倍で,5分間に顎下腺では約6.Oml,耳下腺では 約3.Om1の分泌を認めた.両唾液腺においては分 泌量に差はあるものの,分泌曲線,分泌速度は同 期した変化を示した. 4.一過性放出の時間特性 図5は図4の一過性放出の速度変化をみるため に,8分間にわたり横軸に1回の一過性放出の唾 液量を,縦軸にそのときの放出速度の極大値をと リプロットしたもので,Aは耳下腺, Bは顎下腺 で各々,26個,15個の定形的な一過性放出を測定 したものである.両唾液腺ともプロットした値は, 直線上に並んでいる.この直線関係は縦軸にピー ク以外の時点での速度をプロットしても常に成り 立つため,各一過性放出の形は同一のものと考え られる,なお,直線が原点を通過しないのは,背 景に少量の持続性分泌成分が存在するためであ る. 図6は一過性放出を具体的にみるために,図5 でプロットした各放出の速度変化をピークをそろ えて加算平均したもので,Aは耳下腺, Bは顎下A
1.0 器α8 き・・ § bα48
02 0 5 sec 10 15 1.0 婁 ぎ 範。.、 諺 冒 0.01 ● τ=2,7sec ● ● ■ ● ● 0 5 sec 10 15B
1.0 0.8 器 弐α6 § §α・ 謝 0.2 0 0 5 sec 図7 10 15 1.0 器 鼠 § 霧α1 騒 ぎ 日 0.01 τ=2.9sec ● ● ● ●● o ・ ● 0 5 sec 10 15 一過性放出の時間特性 図6の時間経過の減少過程(左)と,それを対数プロットしたもの(右)三A:耳下腺, 時定数:τ=2.7sec, B:顎下腺,τ=2.9sec 腺である.一過性放出は両唾液腺とも分泌速度の 急激な上昇で始まり,その上昇は4∼5秒程度で ピークに達する.その後,分泌速度は緩やかな減 少過程が続き,約15秒で元の速度のレベルに戻っ ている.このレベルは固有分泌に相当し,顎下腺 が耳下腺のおよそ2倍に達していることがわか る.この減少過程を図7に示した.Aは耳下腺, Bは顎下腺を示し,左は最大放出量を1としてそ の減少過程をプロットしたもの,右は対数プロッ トしたものである.この過程は一つの直線となり, ただ一つの時定数で表される.耳下腺の時定数は τ=2,7秒,顎下腺の時定数はτ=2.9秒であった. 一過性放出の時間経過は腺種,左右を問わず定 型的である.しかし,分泌量:は一定でなく耳下腺 では0.05∼0.ユOm1,顎下腺では0.07∼0.15m1で あり,最:大放出時の分泌速度は耳下腺で0.05ml/ 秒,顎下腺では0.04m1/秒であった(図5). 考 察 今回,唾液腺に対する味覚刺激による反射性唾 液分泌について耳下腺と顎下腺を選び,同一の唾 液腺では左右の同時測定を,また,耳下腺と顎下 腺からの同時測定を行い,唾液分泌量,分泌曲線 唾液分泌速度について検討した.ラット,イヌな どの実験的唾液分泌については多くの研究がなさ れているが,異なる唾液腺や左右の唾液腺の分泌 量,分泌速度を同時に測定した報告はほとんどな い.また,これまで行われてきた分泌量の測定は 1∼数分と比較的長い間隔で計測され,今回,著者が行った秒単位の細かな変動については
Shimataniら3)の耳下腺についての報告がみられ るのみで,顎下腺や,耳下腺と顎下腺のように異 なる唾液腺や,左右の唾液腺からの分泌を計測した報告はない. 唾液の採取は比較的容易であるが;分泌量:の測 定のみでも採取法により測定値にぼらつきが生じ 易く,目的にあった採唾法の選択が必要である. Wotmanら4)は唾液の1日分泌量は1.0∼1。51 と報告しているが,Jeikins5)は安静時では20ml/時 間とすると15時間で300ml,食事中,睡眠中を各 200ml,20m1とすると1日の総量は620mlと計算 している.また,食道痩の患者では500m1の混合唾 液を分泌したとの報告6)もあり,いずれも,Wot− manらの報告している:量より少ない. 安静時の混合唾液量は単位時間の流量で報告さ れていることが多く,過去の6文献での値は平均 0.32∼0.65m1/分(0∼1.18m1/分)7)と報告者によ り大きな差がある.これらの測定はドレイン法, 吐き出し法,吸引法で行われているが,この唾液 の採取法の違いにより分泌量に差が生じるとさ れ,ドレイン法が最も少なく,次いで吐き出し法, 測定量が最も多いのは吸引法で,吐き出し法の2 倍の分泌量:が報告されている,これは吸引法で使 用される装置の舌,口唇への機械的刺激による分 泌が加算されるためと考えられている7).Bechs8) は40人の安静時混合唾液を1年から2年の間に日 を変えて数回計測した結果,分泌総量に個人差は あるものの,同一被験者の分泌量は一定であると 述べている, Schneyerら1)の古典的研究によると,安静時の 各唾液腺の分泌量の割合は,顎下腺69%,耳下腺 26%,舌下腺5%であり,小唾液腺からの分泌は 無視できるほど微量で,このときの唾液分泌速度 は,それぞれ0.26,0.11,0.012m1/分である.酢 酸による味覚反射性分泌では,顎下腺63%,耳下 腺34%,舌下腺3%と耳下腺における分泌量の割 合は増加している.この時の唾液分泌速度はそれ ぞれ0.48,0.29,0.02ml/分と耳下腺の分泌速度の 増加が著明である.今回の測定では二つの腺から の分泌を別々に収集しているので,両側からの分 泌を合わせて採取しているSchneyerらのデータ とは単純に比較はできないが,安静時の唾液分泌 は顎下腺,耳下腺とも0.1ml/分を超えることはな く,味覚刺激による反射性唾液分泌の速度は,顎 下腺で0.42∼1.20ml/分,耳下腺では0.60∼0.68 ml/分であり,耳下腺の分泌量は顎下腺の2倍と いう結果はSchneyerらの耳下腺と顎下腺の分泌 量の比率と同じ結果であった. 味覚刺激を開始してから反射性唾液分泌の開始 までの時間は短く,刺激開始と同時あるいは,遅 くても数秒後に始まっているが,耳下腺と顎下腺
の同時誘導の1例では2分の潜時を認めた.塩
野9)は種々の味覚物質を用いヒト耳下腺の反射性 唾液分泌を観察している.潜時について457例を検 討し,1∼5秒:165例,6∼10秒:145例で,以 下,順次発生頻度は減少し,30秒以上は3例で, 2∼3秒を最短潜時とし,広範囲に分散している と述べている,また,味質による違いは酸味が最 も短く,クエン酸の潜時は平均3.1±0.3∼4.2± 0.5秒であると報告している.松尾10)はウサギ顎下 腺を対象に,顎下腺支配副交感神経の節前線維の 反射性放電を観察し,口腔領域を電気刺激した際 の応答潜時は6∼16ミリ秒であると述べている. 今回の実験では反射性唾液分泌の始まるまでの潜 時に幅があり,極端に長い場合には2分にも及ぶ 例も観察された(図4).こうした長い潜時は味覚 反射中の神経伝達機構により生ずるとは考えられ ない.クエン酸による舌背刺激部位の味細胞の順 応が主な原因であり,嚥下などによって刺激物質 が反応部位に到達したとき,初めて求心路に神経 放電が発生し分泌反射が起きて,既に回内に蓄積 している唾液も加算されて急激な分泌が開始され るものと考えられる. ヒト耳下腺や顎下腺からの唾液分泌量を左右同 時に測定した報告は少なく1>7),さらに同側の耳下 腺と顎一ド腺を同時に測定した例はない.また,以 前の報告では1分未満の採取時間で計測は行われ ていないので細かい変動についての記載はない. 三輪ら2)は左右耳下腺の固有唾液量と,クエン酸 による反射性唾液分泌の同時誘導の実験を行って いる.固有唾液:量は被験者により差があり,3分 間では左右差を認めるものの,30分の計測では左 右同量:の分泌を示し,反射唾液量においても個人 差はあるが,左右の分泌量に差はないと述べてい る.同様に,Kerr7)は安静時の耳下腺,顎下腺の選右分泌量を計測し,同量であると述べている. 本研究の結果は,左右の耳下腺と顎下腺からの 味覚刺激による反射性唾液分泌を同時に計測し (図2,3),分泌量は被験者により差はあるもの の左右の分泌:量に違いはなく,三輪らおよびKerr らの報告と同様であった.さらに著者は分泌曲線 の変動に着目し,左右耳下腺,左右顎下腺および 耳下腺と顎下腺の同時誘導を時間分解能に優れた 新装置を使用することにより,従来行われていな
かった細かい変動について観察を行った.
Shimataniら3)は,同装置を用いてヒト耳下腺の 味覚反射性唾液分泌を観察し分泌曲線の変動は一 過性唾液分泌により生じ,全て同じ時間経過で起 こっていると述べている.今回の結=果では耳下腺 だけではなく顎下腺でも同様の分泌のパターンを 認めた(図3).また,左右の耳下腺や顎下腺,さ らに同側の耳下腺と顎下腺の同時誘導でも唾液分 泌量だけではなく,同様の分泌のパターンを認め た(図2,3,4).すなわち,味覚反射性唾液分 泌は腺の種類,左右を問わず,一定の割合で増加 するのではなく,一過性の唾液分泌が周期的に放 出されることにより成り立ち,0.5秒毎の計測でも 一過性唾液分泌は全く同期して生じ,分泌速度変 化も同じであった. 分泌曲線の階段状のパターンは,一過性の唾液 分泌が周期的に放出されることにより成り立つ. そして,一過性放出の頻度,大きさが特有の階段 状のパターンを形成し,唾液分泌曲線の形を決定 する.この一過性放出の成因については,僧房細 胞を取り囲んでいる筋上皮細胞の関与が考えられ る.微量の持続的な分泌が生じている時に,腺房 細胞より分泌された唾液は三内に蓄積され,唾液 腺の容積が最大限になった時に,筋上皮細胞の収 縮により一過性に唾液が急激に放出され,分泌曲 線の階段状の変化としてみられるものと考えられ る.筋上皮細胞は唾液腺の終末部と導管の介在部 にあり,交感神経および副交感神経の支配を受けている.筋上皮細胞の収縮機能についてNi−
shiyamaら11)は,摘出した唾液腺で筋上皮細胞の 収縮を直接観察している.Emmelinら12)はα一プ ロッカーでネコ筋上皮細胞の収縮を抑制したり, isoproterenolで分泌量を減少させた際に,著しい 潜時の延長を観察している.ま1た,ヒツジ耳下腺 の分泌曲線は副交感神経の刺激では影響を受けず に,筋上皮細胞の収縮により唾液が分泌されると いう報告もある13).南14)はラット顎下腺の鼓索神 経を電気刺激し筋上皮細胞の収縮を観察してい る.その際,副交感神経の支配をうけている二二 の血管に拡張はみられるが,腺腔内圧の上昇は認 めなかった.そして,筋上皮細胞だけが収縮し腺 房細胞は収縮しないのは,筋上皮細胞の副交感神 経伝達物質による感受性が二二細胞よりはるかに 高いためと述べている. 臨床において唾液分泌量や分泌速度の測定は物 理,化学的検査,唾液腺シンチグラフィーなどと 並んで常用される検査法の一つである.しかし, 従来の方法では数秒から分単位と測定間隔は長 く,細かい変動についての検討はできなかった. 今回用いた装置は精度が高く,1秒以下の単位で の分泌速度,分泌曲線の変動について測定が可能 であり,同装置の簡便性,侵襲の少ないことを加 味すると,診断はもとより,疾患の回復状態,病 態の経時的変化をみる上で非常に有用で,今後, 臨床における唾液腺機能検査への一層の応用が期 待される. 結 論 ヒト耳下腺と顎下腺,両側耳下腺および顎下腺 の味覚刺激(5%クエン酸)による反射性唾液分 泌を同時誘導し,分泌量,分泌様式について検討 した結果,味覚反射性唾液分泌は持続的成分と一 過性放出が加算されたもので,両側あるいは異 なった唾液腺の間でも同期したパターンを示すこ とが判明した. 稿を終えるにあたり,御指導を賜りました扇内秀樹 教授に深謝いたします.また,御校閲,御教示を頂き ました第一生理学教室橋本葉子教授に感謝の意を表 すとともに,直接御指導頂いた片桐康雄助教授に深謝 いたします. この研究の一部は第42回日本口腔科学会総会にて 発表した.文 献 1)Scbneyer I」H, Levin I」K:Rate of secretion by exogenqusly串timulated salivary gland pairs of man, J Appl Physio127:609−613,1955 2)三輪.久夫,田ロ静.雄:人耳下腺唾.液分泌.の左右性 について.東京医大誌 12:11−14,1954 3)Shimatani Y, Abe H, Katagiri Y:Character− istics of the transient components in human parotid salivation. J Nihon Univ Sch Dent 29: 17−26, 1987 4)Wotman S, Mandel ID:Diseases of the Sali− vary Glands(Rancow RM, Polays IM eds), pp32 −53,Sanders, Philadelphia(1976) 5)Jenkins GN.:The Physiology and Biochemis・ try of the Mouth. pp328, Blackwe11,0x葦ord (1964) 6)Mckeown KC:Some observations on sali− vary secretion and且ui.d absorption by mouth. Br Med J:670−672,1959 7)Kerr AC:.The.Physiolog三cal Regulation of Salivary Secretions. in Man. pp24−38, Per− gamon Press, New York(1961) 8)Becks H:Human saliva. VII. A study of the 、 rate of flow of.resting salivζ. J Dent Res 22: 431−440, 1939 9)塩野 博:味覚刺激による唾液分泌の生理学的研 究(第2編)味覚刺激の人耳下腺唾液分泌におよ ぼす影響.歯科月報 35:166−193,1961 10)松尾龍二:反射性唾液分泌の副交感神経性調節機 構に関する研究歯基礎医会誌23:.662−676, 1981 11)Ni曲iyama A, Katoh I(, Saitoh S et al: Effect of neural stimulation on contractile sys− tem(myoepitherial cells)in isolated salivary gland segments of rat. Membr Biochem 3: 317−328, 1980 12)Emmelin N., Garret JR,0』rin P:Neural control of salivary myoepithelial 6eUs. J Physiol 196:381−396, 1968 13)Coats DA, Denton DA, Goding JR et al: Secretion by the parotid gland of the sheep. J Physio1131:13−31, 1956.・ 14)南 次郎:Streptozotocin糖尿病ラットの顎下 腺における筋上皮細胞の機能異常について.歯科 医48:361−374,1985