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公平性・互恵性における心の理論の役割

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Academic year: 2021

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博 士 ( 文 学 ) 高 岸 治 人

学 位 論 文 題 名

公平性・互恵性における心の理論の役割      発達研究による検討

学位論文内容の要旨

  2000年 代 初 頭 か ら 始 ま っ た 経 済 学 者 、 人 類 学 者 に よ る 人 間 の 利 他 性 に 関 す る 一 連 の 研 究 の結 果 は 、 人カ は 公 正 さ( faimess)に 関す る 選 好を 持ち、 資源の 不公平な 分配な どの 社 会 規範 を 逸 脱 する 行 為 を 行っ た 者 に 対し て 自 ら コス ト を 支 払っ て で も 罰を 与 える傾 向を 持っことを明らかにした(Gintis eta1.,2003;Fehr,&Fischbacher,2003)。そのような罰は、社 会 規 範を 逸 脱 す る行 為 へ の イン セ ン テ ィブ を 減 ら す効 果 を 持 ち、 人 カ が 利他 的 に振舞 いあ う協力的な社会の形成に重要な働きを持っていると考えられている。

  本研 究 で は 、資 源 分 配 状況 にお ける分 配行動 (公平 性)、 そして 、不公 平な分 配に直面 し た際 の行動 (互恵 性)を 支える認知能カに注目し、特に心の理論(theory of mind; Premack,&

Woodruf, 1978)と 呼 ばれ る 他 者 の心 的 状 態 を推 測 す る 認知 能 カ が 公平 性 と 互 恵性に どのよ う な 役割 を 果 た して い る の かに つ い て 検討 し た 。 本研 究 で は 、心 の 理 論 が発 達 してい ない 子 ど もと 心 の 理 論が 発 達 し てい る 子 ど もの 行 動 を 比較 す る と いう 発 達 心 理学 的 なアプ ロー チ を 採用 し 、 公 平性 、 互 恵 性と 心 の 理 論と の 発 達 の関 係 に つ いて 検 討 を 行っ た 。また 、低 年 齢 の子 ど も は 、最 後 通 告 ゲー ム な ど の経 済 ゲ ー ムの ル ー ル につ い て の 理解 が 困難で ある こ と が予 想 で き るた め に 、 本研 究 で は 、最 後 通 告 ゲー ム を 直 観的 に 理 解 でき る ような 装置 を開発し、それを用いて実験を行った。

  研 究1で は 、3歳 か ら6歳 ま での 未 就 学 児を 対 象 に した 最 後 通 告ゲ ー ム(ultimatum game;

Guth etal. ,1982)実 験を実施 し、分 配行動 と不公 平な分 配に直 面した 際の行動反応に対して 心 の 理論 の 発 達 がど の よ う な影 響 を 与 えて い る か を検 討 し た 。心 の 理 論 の発 達 を確認 する 課題 として 研究1で は、誤 信念課 題(false‑belief task; Baron‑Cohen,1995)を実施した。実験 の 結 果、 公 平 性 に関 し て は 、心 の 理 論 が発 達 し て いな い 子 ど もよ り も 心 の理 論 が発達 して い る 子ど も の 方 が相 手 に よ り多 く の 資 源を 分 配 す ると い う パ タン が 見 ら れた が 、互恵 性に 関 し ては | 心 の 理論 の 発 達 に関 係 な く 、高 い 割 合 で不 公 平 な 分配 は 拒 否 され る という パタ ン が 見 ら れ た 。 研 究1の結 果 、 心 の理 論 の 発 達は 公 平 性 を促 進 す る 働き を 示 す こと と 、 心 の 理 論 が 発 達 す る 前段 階 の 子 ども で も 不 公平 な 提 案 に対 し て 嫌 悪を 示 す と いう2点 が 明 ら かになった。

  研 究2で は 、 研 究1で 検 討 し た 公 平 性 と 互 恵 性 に おけ る 心 の 理論 の 役 割 を再 度 検 討 する と と もに 、 分 配 者の 心 理 プ ロ セスに 注目し た実験 を行っ た。具 体的には 、他者 の「信 念」

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を推測する課題である誤 信念課題と、他者の「感情状態」を推測する課題である感情推測 課題(Denham,1986)を実施し、最後通告グームでの行動との関連を検討した。研究2では、

研 究1と同 様に3歳か ら6歳 まで の未 就学児が実験に参加した。実験の結果、公平性に お いては、誤信念課題の成 績はポジティブな効果を示したものの感情推測課題の成績は効果 を持たなかった。この結 果は、受け手の「拒否行動」の予測には、受け手の感情状態では なく、受け手の信念を推 測することが重要であることを示している。また、互恵性におい ては、誤信念課題の成績 はネガティブな効果を示した。この結果は、誤信念課題に正解し た子どもよりも誤信念課 題に正解できなかった子どもの方が、不公平な提案をより拒否す る傾向を持っことを示し ている。一方、感情推測課題の成績と互恵性の間には関係が見ら れなかった。研究2の結果、誤信念課題の成績は分配行動とポジティブな関係にあること、

また誤信念課題に成績で きないような子どもであっても不公平な分配を嫌悪することが追 試 さ れ た 。 ま た 、 公 平 性 、 互 恵 性 と も に 感 情 推 測 課 題 は 効 果 を 持 た な か っ た 。   研究3では、最後通告ゲームの後に、独裁者ゲーム(dictator game; Forsythe etal.,1994) を行うことで、ポジティ ブな互恵性、ネガティブな互恵性における心の理論の役割を検討 した。実験では、まず最 後通告ゲームを行い、その後、同じ子どもを相手に役割を変えて 独裁者ゲームを行った。 このデザインで実験を行うことによって、最後通告ゲームにおい て不公平な分配に直面し た子どもが、その後の独裁者ゲームで不公平な分配を行うのかど うか(ネガティブな互恵性)、また、最後通告ゲームにおいて公平な分配に直面した子ども が、その後の独裁者ゲー ムで公平な分配を行うのかどうか(ポジティブな互恵性)を調べ ることができる。また、 これまでの実験と同様に、誤信念課題を実施することでポジティ ブな互恵性、ネガティブ な互恵性において心の理論の発達がどのような役割を果たしてい る かを 検討した。研究1、研究2と同様に3歳から6歳までの未就学児が実験に参加した 。 実験の結果、最後通告ゲ ームの分配行動においては誤信念課題の成績がポジティブな効果 を持つことが明らかになった。この結果は、これまでの研究と一貫する結果である。また、

最後通告ゲームの互恵性 においては、効果は弱いながらも誤信念課題の成績がネガティブ な効果を持っことが明ら かになった。この結果は、研究2と同様の結果である。また、独 裁者ゲームの結果に関し ては、ネガティブな互恵性においては、心の理論の効果は見られ なかったが、ポジティブ な互恵性においては、心の理論の効果が見られた。この結果は、

不公平な分配に対するネ ガティブな反応は、心の理論が発達する前段階においても見られ るが、公平な分配に対す るポジティブな反応は、心の理論が発達しないと見られないとい うことを示してしヽる。

  3つの研究の結果、まず、心の理論が発達している子どもは他者の心的状態を推測し、他 者の視点に立っことが可 能であるため、他者からのネガティブな反応を引き起こさないよ うに公平な分配を行うよ うになることが明らかになった。次に、受け手の拒否「行動」を 予測するためには、受け 手が不公平な分配に対してどのような感情を経験するかといった 受け手の感情状態の推測 だけでは不十分であり、受け手が不公平な提案に対してどのよう に考えているか、考えるかといった認知的な心の理論(e.g.,他者視点能力)が必要である ことが明らかになった。 また、心の理論が発達していなぃ3歳児においても、不公平な提

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案を高い割合で拒否する傾向を持つことが明らかになった。この結果は、不公平な分配に 対する敏感性が発達の初期段階から人間に組み込まれていることを示唆している。独裁者 ゲームにおける結果から、心の理論はポジティブな互恵性を促進させる働きをするが、ネ ガティブな互恵性に関しては関与しないことが明らかになった。これらの結果は、相互互 恵的な関係を形成する認知的な基盤として心の理論は重要な役割を果たしていることを示 している。

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学位論文審査の要旨 主査    教授    山 岸俊男 副査   准教授   高橋泰城 副査   教授   仲   眞紀子

学 位 論 文 題 名

公平性・互恵性における心の理論の役割      発達研究による検討

    本研究では主として最後通告ゲームが用いられ、補助的に独裁者ゲームが用いられて いる。これらの経済ゲームを用いた実験を実施するに当たり、申請者はまず、言葉による ゲームのルールの説明の理解が困難だと考えられる幼稚園児を対象に最後通告ゲームを幼 稚園児で実施可能とするため、ゲームの直感的理解を促進するための器具を開発した。そ して、この器具を用いた最後通告ゲーム終了後、各参加者は個別にコンピュータ画面上に 表示された誤信念課題(「サリー&アン課題」)に回答した。研究全体では、最後通告ゲー ム と誤信 念課題を組み合わせた実験を、目的と方法に変更を加えつつ3度にわたり実施し ている。

  これら3つの研 究によ り得られ た主要 な成果は 、以下の3点 にまとめられる。まず第1 の成果は、これまで成人を対象として実施されてきた最後通告ゲームを、幼児を対象とし て意味あるかたちで実施するために必要な研究手法を開発した点である。こうした研究手 法は、今後、最後通告ゲームのみではなく、その他の経済ゲーム実験に拡張可能であり、

発達研究と行動経済学研究をっなぐ途を開拓したという点で、重要な意味を持つ成果であ る と考え られる。第2の成果は、最後通告ゲームにおける公正提案の背後に心の理論が大 きな役割を果たしていることを、直接かつ明瞭に指摘した点である。すなわち、幼児が他 の幼児に対して公正な分配行動をとるにあたっては、相手が自分の行動に対してどのよう に反応するかを相手の立場から理解するための能カが必要とされるという点である。具体 的には、年齢と性別をコントロールした上で、誤信念課題達成群の幼稚園児は、誤信念課 題非達成群の園児に比べ、最後通告ゲームでの公正提案の頻度が高いという知見が得られ ている。この知見は、発達心理学者に対してのみではなく、社会心理学者、行動経済学者 など、分配における公平性の背後にある心理メカニズムを明らかにしようとする研究者コ ミ ュニテ ィーに対して大きな意味を持っている。第3の成果は、不公平に扱われることに 対する拒否行動には心の理論が必要とされないことを明らかにした点である。不公正に扱 わ れるこ とを回避しようとする傾向は、心の理論を獲得する以前の3歳児にさえ強くみら     −100―

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れ、し かもこの 傾向は 心の理論の獲得により弱められる傾向にあるという第2実験と第3 実験の結果は、いくっかの種類の霊長類においても同様の不公正回避傾向が見られるとい う霊長類研究の知見とも一貫しており、自ら公正に行動する傾向と不公正回避傾向が同一 の心理メカニズムに由来すると考える現在の行動経済学での理解を修正する必要を強く示 している。この点を明らかにしたことは、本研究の大きな成果である。また第3実験では、

最初の最後通告ゲームで公正な提案を受けた園児が、独裁者ゲームでは公正な分配を最後 通告ゲームでの提案者に対して行うという互恵行動が、また、心の理論獲得以後により一 般的になるという知見が得られている。

  上述の3つの成果は、いずれも公平さを求める行動の背後にある心理メカニズムを明ら かにするための今後の研究の展開に対して大きな意義を持っものである。心の理論に含ま れるいくっかの側面のうち、他者の心の働きだけではなく、そうした他者の心のはたらき を媒介とした自分自身の心のはたらきの予測を可能にするという側面に着目することによ り、結果の解釈に広がりが出た可能性が残されているが、そうした研究の広がりは申請者 の今後の研究の展開に期待される点であり、本論文の価値を損なうものではない。本審査 委員会は、本論文に示された申請者の研究の成果を高く評価し、全員一致で、本論文を博 士 ( 文 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る に ふ さ わ し い も の で あ る と の 結 論 に 達 し た 。

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参照

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