博 士 ( 水 産 学 ) サ ラ イ ザ ベ ル ポ ン セ デ レ オ ン ノ ヾ ル デ ィ ビ ア
学位論文題名
Studies for Preservation of Sardine in Brine
(マイワシのブライン保蔵に関する研究)
学位論文内容の要旨
イワ シ 類、 サ バお よ びサ ン マな ど 多獲性赤 身魚類は、 他の魚類よ りも 腐 敗 しや す い性 質 を持 っ てい る 。こ のよう な欠点を克 服すること は、イ ワ シ 類の よ うに 、 極め て 栄養 価 に富 んだ動 物性タンバ ク質の有効 利用と い う 面に 貢 献す る とこ ろ が大 き いと 考えら れる。特に 栄養不足が 大きな 問 題 とな っ てい る 地域 の 国々 で は漁 船に冷 却設備が完 備していな いため 漁 獲 後の 鮮 度低 下 が著 し く、 食 用と して利 用できる状 態で魚体を 陸揚げ す る こと は 重要 な 意味 を 持っ て いる 。これ らの地域で は、特別な 冷却装 置 を 必 要 と し な い 別 の 鮮 度 保 持 法 の 開 発 が 期 待 さ れ て い る 。 そこ で 本研 究 では 、 マイ ワ シ(Sardinops melanostictus)を供 試魚と し、 魚類の保蔵 法として古 くから知ら れている塩蔵法のうちの立塩法(ブ ラ イ ン法 ) を応 用 して 実 験を 進 めた 。第一 章では異な るブライン 濃度で 浸漬 した供試魚 の保蔵限界 および有機 酸との併用効果について検討した。
第 二 章で は ブラ イ ンに 代 わる 海 水利 用の可 能性につい て調ベ、第 三章で は さ らに 保 蔵期 間 を延 長 する た めに 安息香 酸ナトリウ ムの併用に ついて 検 討 した 。 保蔵 期 間中 に おけ る 化学 的鮮度 測定値(K値、VB.N量およ び pH)、 官能評 価およぴ生 菌数に基づ ぃて供試魚 の保蔵効果 を検討し、 同時 に細 菌相の変遷 からも腐敗 抑制の効果 を調ぺた。
まず 第 一章 に おい て は、 本 研究 を 進めるう えで基本的 な事項であ る、
魚 量 とプ ラ イン ( 食塩 水 溶液 ) 量と の比率 を1:1と決め たうえで、 この
プライ ン法 によ るマ イワシ の保 蔵効 果を評 価し た。 保蔵 温度は 前述 のよ うに冷 却が 十分 行わ れない こと を想 定した15℃とし、比較対照として0℃ につい ても 行っ た。 ブライ ン濃 度は4、10お よび15%の3種類と した 。そ の結果 、当 然の 帰結 ではあ るが 保蔵 温度が 高く (15℃) 、プラ イン の食 塩濃度 が低 い供 試魚 ほど、 鮮度 の低 下が大 きか った 。化 学的検 査お よび 官能的 観察 結果 からo℃ 保蔵 の場合 には すぺての供試魚が実験期間を通じ 摂食可 能で あっ たが 、15℃ 保蔵 では15%ブラインに浸漬した供試魚が5日 間の可食期間を保ち最大であった。
次に ブラ イン 中の 細菌の 変動 を検 討した 結果 、生 菌数 につい ては 、15
℃保蔵 の4、10およ び15%の ブライ ンで はそ れぞ れ3、5およ び7日目 で約 106 CFU/mlに 達し た。 一方O℃ 保蔵 では15℃保 蔵の 場合 と比較 して 増殖 速度は遅く、特にi・5%ブライン中ではほとんど発育が認められなかった。
さらに 分離 菌株 を同 定して 保蔵 期間 中にお ける 菌相 の変 動につ いて も観 察を行 った 。全 分離 菌株は669株で 、こ れらは12属に分類され、その大部 分はPseudomonas属 を 始 め と する グ ラム陰 性桿 菌で あっ た。ま た、 グラ ム陽 性 菌 は255株 分 離 さ れ た が、Micrococcus属 は148株 で、陽 性菌 の中 で約60%を 占め たこ とは注 目さ れる 。この 同定 結果 から 菌相変 遷を 検討 し た が 、 す ぺ て の ブ ラ イ ン 中 で 優 勢 菌 属 と し てPseudomonas属 と Moraxella属が 認め られ たが 、低温 (0℃) では 食塩 濃度 が高ま ると とも にPseudomonas属 の 比 率 が 高 まり 、 高 温 (15℃ ) で はMoraxella属 の割 合が高まる傾向がみられた。
15℃ 、15%ブ ライ ン保蔵 の場 合で は摂食可能な最大保蔵期間が5日間で あるこ とを 認め たが 、この よう なブ ライン の高 濃度 条件 下では 、魚 肉中 の食塩 濃度 が約4% にな るの で生食 用あ るいは加工用には、これより低濃 度ブラ イン 中で の摂 食可能 期間 の延 長を検 討す る必 要が ある。 この 点を 改良す るた めに 、ブ ライン 中に 有機 酸(酢酸あるいiまクエン酸)を添加 する方 法を 検討 した 。先ず 前述 した ブライ ン保 蔵で 優勢 と認め られ た菌 属 の 代 表 株 と し てPseudomonassp.とMoraxella sp.の二 株 を 用 い て 、 それら の発 育とVB.Nの 産生 状態か ら効 果的な酸の種類とその有効濃度を
調べた。その結果O. 05%濃度の酢酸が最も効果的であることがわかった。
そ こで4、10お よび15%の 各ブ ライ ンに0. 05%濃度となるように酢酸を 添 加し 、15℃ での マイ ワシの 摂食 可能 な保 蔵期間 を調べたところ、4%で は5日 間 、10およ び15%では7日間で あっ た。 この ように 前述 した 酢酸 無 添 加の 実験結 果(15℃ )と比 較し て、 それ ぞれ3日、4日、および2日以上 保 蔵 期 間 を延 長する こと がで きた。 さら に、 それ らのブ ライ ン中 にお け る 菌相 の変動 を観 察し た結果 、酢 酸添 加4%プ ライン中ではグラム陰性菌 の 占 める 割 合 が ほ ぼ100% と な り 、そ の 中 で もPseudomon口 ざ 属お よ び MoraxピIlロ属が優勢であった。この傾向は、酢酸無添加ブライン中での結 果 と 同 様 であ ったが 、こ のよ うな菌 相を 形成 する までに 要す る日 数は 無 添 加の 場合に 比較 して2日 遅れ た。 ー方、 酢酸 を添加した10および15%プ ラ イン 中では グラ ム陽 性菌が 増加 した 。特 に15% プライン中においては7 日 目 で95% を 占 め るに 至 り 、Micrococcus属 が主 要菌属 であ った 。ま た 酢 酸 添 加 条件 下では 食塩 濃度 が高ま るに っれ て、 グラム 陽性 菌群 より も グ ラム 陰性菌 群の 酢酸に対する感受性が強くなることが明らかとなった。
こ れ が 供 試魚 の保蔵 に対 して 酢酸が 有効 性を 示す 理由の ーつ であ るこ と が推察された。
第二 章では4%ブラ イン とほ ぼ同 程度の 塩分 量を含む海水が、第一章で 得 られ た4%ブ ライン 中と 同程 度あ るいは それ 以上の保蔵効果を示すかど う か に つ いて いろい ろな 条件 下で検 討し た。 酢酸 添加海 水や 活性 炭素 処 理 海 水 に よ るPsビudomonas sp.( 第 一 章 で使用 した 菌株 )に対 するf凡 v itroの実験では発育抑制効果を認めたが、実際に魚を用いた0.05%酢酸 添 加海 水ブラ イン では4% ブラ イン のみの 場合 と同様の結果で、酢酸併用 の 有 効 性 は認 められ なか った 。この よう な結 果が 得られ たの は、 海水 中 に 有 機 物 等 が 含 ま れ て い る こ と に 起 因 し て い る た め と 考 え た 。 第 三 章 では 数種類 の保 存料 につい て、 プラ イン との併 用効 果を 検討 し た 。そ の中で 安息 香酸 ナトリ ウム が最 も良 い効果 を示したので、4%ブラ イ ン に こ の保 存料を 加え た場 合の供 試魚 の保 蔵状 態を詳 しく 調べ た。 安 息 香酸 ナトリ ウム の添 加量がO.3%で 、pHを酢酸 を用いて5に調整した時
(約0. 0015%)が最適条件で、この条件下では摂食可能期間は6日間に 達した。この時のブライン中のVB‑N量は、4%プラインのみを用いた場合 やO. 05%酢酸添加4%プラインを用いた場合よりも少なく、両者に比較し て保蔵期間をそれぞれ4日および1日延長できた。官能検査結果もこれと よく一致した。
安息香酸ナトリウムを添加したブライン中での細菌の発育は、第ー章 で述ぺた4%ブラインおよび0. 05%酢酸添加4%ブライン中での結果と比 べて特に抑制効果はみられなかったが、菌相の変動が小さいとぃう違い が認められた。菌相を見るとグラム陰性菌の中ではPseudomonas属と.
Moraxella属が、またグラム陽性菌中ではMicrococcus属が優勢で、前述 の二種類のブライン中と同様であった。4%プラインの3日目およびO. 05
%酢酸添加4%ブラインの7日目に見られたグラム陽性菌の割合はそれぞ れほぼ3%および5%と低かったのに対して、安息香酸ナトリウムを添加 したプラインの7日目では約30%と高かった。したがって、菌相中に腐敗 活性の弱いグラム陽性菌の占める比率の大きいことが、VB.N量を抑えて Vゝることに寄与してVゝることが分かる。また、Moraxella spp.(1444お よび1445)では安息香酸ナトリウムの存在によって発育は抑制されれな いが、腐敗活性が抑制されることが認められた。これらのことから安息 香酸ナトリウムの併用効果はグラム陽性菌の占める割合の大きい菌相を 形成することおよび細菌の発育に対してよりも、細菌の腐敗活性に顕著 に影響を与えていることにあると推察された。
この安息香酸ナトリウム併用プライン保蔵法は15℃においても低濃度 ブライン中で魚の鮮度低下を抑制しながら一定期間保蔵できる可能性を 示唆するものであり、冷却設備がない漁船においても漁獲後の魚の鮮度 を保った状態で陸揚げできることを意味しており、そのような問題のあ る 地域 で 応用 で き、 食生 活 の改善に 貢献できるも のと考えてい る。
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 信 濃晴 雄 副 査 教 授 絵 面良 男 副 査 教 授 猪 上徳 雄
学位論文題名
Studies for Preservation of Sardine in Brine
(マイワシのブライン保蔵に関する研究)
多 獲 性 赤 身 魚 類 に は 、 脂 肪 成 分 と し て 高 度 不 飽 和 酸 が 多 く 鮮 度の 早 期 劣 化 要 因 の ー っ と な っ て い る 。 ま た 一 方 で は こ れ ら の 脂 肪 の 中 にE PAあ る い は DHAな ど 、 生 体 の 健 康 維 持 に 有 効 な 成 分 も 多 く 、 こ の よ う な 魚 類 の 有 効 利 用 は 食 糧 の 絶 対 的 不 足 に 悩 む 諸 国 に と っ て は重 要 な 課 題で あ る。
申請 者 は上 記 の点 を 考 慮し 、 動物 性 夕ン パ ク質 の 不足 す る, 諸 国では 冷 凍 設 備 の 完 備 し て い な い 漁 船 が 大 部 分 で あ る 現 実 を 踏 ま え て 、比 較 的 高温 (15℃)で経 済的(立塩 法)な鮮度 保持法を駆 使しながら 、種々の 条 件 下 に お け る マ イ ワ シ の 保 蔵 性 を 、 生 菌 数 、 菌 相 、 種 々 の 化 学的 鮮 度 指 標 な ら び に 官 能 検 査 な ど と 関 連 さ せ て 論 じ て い る 。 第一 章において は、魚量と ブライン( 食塩水溶液 )量との比 率を1:1 と し て 、 マ イ ワ シ の 浸 漬 保 蔵 効 果 を 評 価 し て い る 。 保 蔵 温 度 を15℃ 、 O℃ ( 対 照 ) 、 ブ ラ イ ン 濃 度 は4、10お よ ぴ15%と し 、 こ れ ら の 条 件 下 で 保 蔵実 験 を行 っ てい る が温 度 が高 く (15℃ )、 食 塩濃 度 が低 い ほど、
鮮 度 低 下 が 大 き い と し て い る 。 ま た 、O℃ 保 蔵 の 場 合 に は 全 て の 供 試 魚 が 摂 食 可 能 で 、15℃ 保 蔵 で は15% ブ ラ イ ン 浸 漬 し た 供 試 魚 が5日 間 の 可 食期 間 を保 持 する こ とを 示 した 。
ブ ラ イ ン 中 の 菌 相 変 動 で は 、 全 て の ブ ラ イ ン 中 でPsぞudomoぬ ロj属
とMorax ピff ロ属が認められたが、低温では食塩濃度が高妄るとと壱に Pseudomonas 属の比率が、高温ではMorax ピlI ロ属の割合が高まる傾向 を観察している。
次に、低濃度ブラインに浸漬した供試魚の摂食可能期間の延長を計 る た め に 鮮 度 保 持 に 対 す る 有 機 酸 の 影 響 を 検 討 し て い る 。 Ps ピudomonassp. と Mor ロズピZZ ロsp. の二株を用いて、発育と VB ーN を 基に酸の種類とその有効濃度を調ベ、0 .05 %濃度の酢酸が最も効果 的であることを認めている。そこで各塩濃度のブラインに同濃度に酢 酸を添加し、 15 ℃でのマイワシの摂食可能期間を調べたところ、 4%
では 5 日 間であることを示 した。また菌相変動は、酢酸添加 4% ブラ イン 中ではグラ ム陰性菌が 5 日目でほぼ 100% となり、 Pseudomonas 属およぴMor ロx ピZZ ロ属が優位になることを明らかにした。このような 菌相を形成するまでに要する日数は無添加の場合よりも2 日遅れ、酢 酸添加条件下では食塩濃度が高まるにっれて、グラム陽性菌群よりも グラム陰性菌群の酢酸に対する感受性が強くなることを示し、供試魚 の保蔵には酢酸が有効である結果を得ている。
第二章では4% ブラインと同程度の塩分量を含む海水の供試魚に対 する保蔵効果を種々な条件下で検討している。酢酸添加海水および活 性炭素処理海水のP ざeudomonas sp. に対するin vitro の実験では発育 抑制効果を認めたが、O .05% 酢酸添加プラインでは酢酸併用の有効 性はなく、この結果は、海水中の有機物あるいは豊富なミネラルによ
,るものとしている。
第三章では保存料の併用効果を検討しているが、0 .3 %の割に安息香
酸ナ ト リウ ムを 添 加し 、酢 酸 で pH5 に 調製 した4% ブラインの保 蔵
効果が最も実際的で、その場合の摂食期間が6 日間であることを観察
している。プライン中での細菌の発育抑制効果は、認められ顔かった
が、菌相の変動が緩慢なことを認めている。菌相はグラム陰性菌の中
では Pseudomon ロ s 属 と Mor ロ xell ロ 属が −、グラム 陽性菌中では
Micrococcus 属が優勢なことを示した。また、グラム陽性菌は安息香
酸 ナ ト リ ウ ム 添 加 ブライ ンの6日目 でも菌 相中 の約40%を占 め、 菌相 中 に腐 敗活性 の弱 いグラム陽性球菌の占める割合の大きいことが、腐 敗 抑制 に寄与 する ことを 示し ている 。ま た、Moraxピllasp.では発育 は 抑制 されな いが 、腐敗活性が低下することから安息香酸ナトリウム は グラ ム陽性 球繭 の占める割合の大きい菌相の形成およぴ細菌の発育 よ り も 、 腐 敗 活 性 に 影 響 を 与 え る も の と 推 察 し て い る 。 本 論 文 で 得 ら れ た 主 な 成 果 を 記 す と 以 下 の 通 り で あ る 。 1)1:1(W/V)の比率で4%食塩水(4旡ブライン)に供試魚を浸積し15 ℃ で 保 存 し た 場 合 に は 、 魚体 の 生 菌 数 は3日 目 で1 06CFU/gに 達 し、 菌相は グラ ム陰性桿菌の割合が高く、中でも腐敗細菌のーっと して 知られ るMoraxellロ属が優勢となり官能検査およぴ他の鮮度指 標 か ら 導 か れ た 可 食 期 間 (1〜2日 ) を 反 映 し た結 果 と な っ た 。 2)上記の系(4%ブラ′イン、15℃)に、単価iが安く、解離恒数が小さ くて 抗菌性 の強 い酢酸を添加した場合、菌相については代表的腐敗 細菌 として のPsピudomonasおよびMoraxe〃n属が優 勢になるまでの 時間 が延長 され 、保蔵 期間 も5日 問と大 幅に 延長さ れることを認め た。
3)漁場 から 陸揚げ までの期間(約7日閥)を考慮して供試魚肉中に大 量に 含まれ るTMAO (trimethylamine oxide)の還 元阻害剤である 安息香酸ナトリウム(0.3%)を添カ冂し、6〜7日問の保蔵期間を得た。
この 結果は 保蔵 中にお ける 細菌相 で優 勢と認 めた4種の細菌に対す る 腐 敗 活 性 の 抑 制 効 果 か ら も 実 験 的 に 証 明 さ れ た 。 こ れ ら の 結 果 は 安息香 酸併 用ブラ イン 保蔵法 が15℃にお いて も、
低 食 塩 濃 度 で 一 定 期間鮮 度保 持が可 能で あるこ とを 示唆し 、保 蔵学 上、新しい指針を与えるものと審査員一同は評価し、本論文が博士(水 産学)の学位論文に相当するものと判断した。