博 士 ( 工 学 ) 鍛 治 栄 作
学 位 論 文 題 名
マグネタイト薄膜表面の磁気構造に関する研究 学位論文内容の要旨
本論文は,マグ ネタイト薄膜,薄膜作製時に導入される逆位相境界(APB)の構造に注目し,スピン 分解能を有する顕 微鏡技術を用いて明らかに した局所的な結晶構造と磁気結合およぴ巨視的な磁気 構造の関係から. その磁気特性にっいて研究 を行ったものである.
Fe304の組成式 で表されるマグネタイトは逆 スピネル構造をとり,フェ リ磁性を示す,磁鉄鉱と も呼ぱれるこの鉄 酸化物は天然に存在する磁 石として古くから人類の興味の対象であったが,近年 においては,エピ タキシャル成長した薄膜は安定であり,フェルミ準位で高いスピン偏極度が期待さ れるハーフメタ′ レとしての性質を有することから,電子スビン状態を利用するスピンデバイスに応 用できる材料とし て注目されている.しかし ながら薄膜に導入される積層欠陥により薄膜に一様な 磁区 を 導入 する ことが困難であると考えら れている.またバルク結晶 のマグネタイトは120K付近 でVerwey転移する ことが知られているが,薄 膜では異なる転移温度を示し,表面では局所的な構造 に 依 存 し た 転 移 を 示 す こ と が 予 想 さ れ る が , そ の 詳 細 は 明 ら か に な っ て い な い . 本論文では,マ グネタイトのエピタキシヤ ル成長薄膜をMg0(001)基板 上に成膜し,薄膜に導入 され る 積層 欠陥 であ るAPBの 構造 やAPBを 介 した 磁気 結合 、そ れらの 結合の結果発現している磁 区構造について, 各種の磁気顕微鏡測定によ る結果より考察する,
第1章では,近 年,従来の半導体デバイスの 集積化限界を凌駕すること や新機能の発現を期待し て,電子が有する 電荷に加えスピン量子状態 を利用する電子デバイスに関する研究開発が進められ ているが,それら の研究と本研究と対象とするマグネタイト薄膜の関係,最近指摘された電流誘起相 転移現象などマグ ネタイト薄膜に特有なスピ ン依存伝導現象などについてまとめ,本研究が背景と するところについ て総括する,
第2章 では , マグ ネタ イト 薄膜 の 結晶構 造およびAPBの構造にっいて 議論し,APBにおいて予想 される磁気結合に ついて論述した.Mg0(001) 表面上にマグネタイト薄膜を成長すると,結晶対称性 によ る7種類 の 積層欠陥が生じる可能性が あり,これがAPBとなる.そ れぞれの位相境界では異な るドメイン問の磁 気結合が生じることが予想 されており,これらの予想から期待される磁気構造に ついて議論する,
第3章では,マ グネタイト薄膜をMg0(001) 基板上に成膜し,APBを導入 するとともに,その結晶 構造と磁気構造を 調べるための実験系につい て論述する,薄膜のエピタキシヤル成長は超高真空で 行い,反射高速電 子線回折装置を用いて薄膜 成長過程をモニタし、表面結晶構造ならびに組成につ いて は それ ぞれ 走査 型 トン ネル 顕微 鏡(STM),X線光 電子 分光 装置(XPS)を用いてm‑ situで行つ た,また,APBの 構造については透過電子顕微鏡による測定を行っている,さらに巨視的な磁気構造 につ い ては 磁気 カ顕 微 鏡(MFM)な ら びに スピ ン偏 極 走査 電子 顕微鏡(SpinーSEM)を用いた測定を 行った.本章では ,各種測定手法について本実験結果を理解するために必要な解説を行うとともに,
ー904―
これら の実験を行うために必要と なる試料やプローブの作製方法,結晶成長条件の最適化結果など にっい て説明する.
第4章では,STMによる表面結晶構造の観 察結果についてまとめ,成 長条件と表面結晶構造の関 係 およ ぴAPB近 傍 での 結晶 構造にっいて議 論する,成長条件に依存し た組成変化にっいては,XPS 測定の 結果より議論する.また,巨視的な磁気構造測定を行うためには,装置構成の制約から,試料 をー度 大気に曝露するする必要が あり,短時間の大気曝露およぴ再度真空中で脱ガス処理を行った 際の結 晶表面構造への影響については,同様の実験から明らかにし,作製した薄膜は安定であり,脱 ガス処 理のみで表面を再生できる ことを確認した.
第5章で は, 巨 視的 な磁 気構造について ,MFMおよびSpin−SEMを用 いて観察を行い,加熱処理 に 伴う垂直磁 気異方性の発現にっいて論述 する.MFMは大気中測定であ り.強磁性体プ口ーブを用 いるこ とから,最表面の吸着層や プローブからの漏洩磁場による影響を無視することができないた め,観 察される磁気像の詳細につ いて議論することが難しいのに対して,Spin‑SEMは試料に対して 磁場が 印加されることもなく,ま た,観察される磁区における磁化方向およぴ磁化の大きさの定量 測 定が可能で ある.しかしながら,本研究 で用いたSpinーSEMは自作装 置であり,MFMと比較して 分解能 が悪いため,それぞれの測 定結果を相補的に利用することで,磁気構造の詳細にっいて議論 した.
第6章では,本研究で得られた成 果を総括するとともに。マ グネタイ卜薄膜の磁気構造の由来を 明らか にし,この薄膜をスピンデ バイス等に応用するために必要となるアイディアおよび本研究の 成果の 展開にっいて述べる.
―905−
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
マグネタイト薄膜表面の磁気構造に関する研究
本論文は,マ グネタイト薄膜,薄膜作製時に導入される逆位相境界(APB)の構造に注目し,スピン 分解能を有する 顕微鏡技術等を用いて明ら かにした局所的を結晶構造と磁気結合および巨視的改磁 気構造の関係か ら,その磁気特性について 研究を行ったものである.
Fe304の組成 式で表されるマグネタイトは 逆スピネル構造をとり,フ ェリ磁性を示す.磁鉄鉱と も呼ばれるこの 鉄酸化物は天然に存在する 磁石として古くから人類の興味の対象であったが,近年 においては,エピタキシャル成長した薄膜は安定であり,フェルミ準位で高いスピン偏極度が期待さ れるハーフメタ ルとしての性質を有するこ とから,電子スピン状態を利用するスピンデバイスに応 用できる材料と して注目されている,しか し顔がら薄膜に導入される積層欠陥により薄膜に一様教 磁 区を導入することが 困難であると考えられている .またバルク結晶のマグネ タイトは120K付近 でVerwey転移す ることが知られているが, 薄膜では異教る転移温度を示し,表面では局所的款構造 に 依 存 し た 転 移 を 示 す こ と が 予 想 さ れ る 橡 ど , そ の 詳 細 は 明 ら か に を っ て い 毅 い . 本論文では,マグネ タイトのエピタキシャル成長 薄膜をMg0(001)基板上に成 膜し,薄膜に導入 さ れる 積層 欠陥 であ るAPBの 構 造やAPBを介 した 磁気 結合,それらの結合の結 果発現している磁 区 構 造 に つ い て , 各 種 の 磁 気 顕 微 鏡 測 定 に よ る 観 察 結 果 よ り 考 察 さ れ て い る . 第1章では, 従来の半導体デバイスの集積 化限界を凌駕することや新 機能の発現を期待して,電 子が有する電荷 に加えスピン量子状態を利 用する電子デバイスに関する研究開発が進められている が,それらの研究と本研究と対象とするマグネタイト薄膜との関係をどについてまとめ,本研究が背 景とするところ が総括されている.
第2章 で は, マグ ネタ イト 薄膜の結晶構造およびAPBの構造について議論し,APBにおいて予想 される磁気結合 について論述されている.Mg0(001)表面上にマグネタイ ト薄膜を成長すると,結晶 対 称性による7種類の積 層欠陥が生じる可能性があ り,これがAPBと顔る.それ ぞれの位相境界で は異顔るドメイ ン間の磁気結合が生じるこ とが予想されており,これらの予想から期待される磁気 構造についての 議論がをされている,
第3章では,マグネタ イト薄膜をMg0(001)基板上 に成膜し,APBを導入すると ともに,その結晶 構造と磁気構造 を調べるための実験系につ いて論じられている.薄膜のエピタキシャル成長は超高 真空で行い,反射高速電子線回折装置を用いて薄膜成長過程をモニタし,表面結晶構造趣らびに組成 についてはそれ ぞれ走査型トンネル顕微鏡(STM),X線光電子分光装置(XPS)を用いてin−situで行 われている.ま た,APBの構造については透過電子顕微鏡による測定が行われている.さらに巨視的 ー906―
久
史 夫
和
眞 庸
岡 本
橋
末 山
高
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
叔磁気 構造に ついて は磁気カ 顕微鏡(MFM)極ら びにス ピン偏 極走査電 子顕微 鏡(SpinーSEM)を用 いた測定が行われている,これらの実験を行うために必要と誼る試料やプローブの作製方法,結晶成 長条件の最適化結果次どについても解説が放されている.
第4章で は,STMに よる表 面結晶 構造の観察結果についてまとめ,成長条件と表面結晶構造の関 係およ びAPB近傍 での結 晶構造 につい て議論 されてい る,成 長条件に依存した組成変化について は,XPS測定の結果について議論されている.また,短時間の大気曝露および再度真空中で脱ガス処 理を行った際の結晶表面構造への影響については,同様の実験から明らかにし,作製した薄膜は安定 であり,脱ガス処理のみで表面を再生できることが示されている.
第5章で は,巨 視的な 磁気構 造につ いて,MFMおよびSpin‑SEMを用 いて観 察を行い ,加熱処理 に伴う垂直磁気異方性の発現について論じている,
第6章で は,本研究で得られた成果が総括されているとともに,マグネタイト薄膜欠陥が寄与す る磁気構造についての知見がまとめられており,この薄膜をスピンデバイス等に応用するために必 要 と 改 る ア イ デ ィ ア お よ び 本 研 究 の 成 果 の 展 開 に つ い て 述 べ ら れ て い る . これを要するに,本論文は,マグネタイト薄膜に導入される積層欠陥である逆位相境界における原 子配列を実験的に明らかにし,新たを欠陥構造を発見し,これらの欠陥構造が寄与することで形成さ れると予想される大きぬ磁気ドメインの出現についてスピン電子顕微鏡教どを用いて検証するとと もに,欠陥での酸素配位を変えることで欠陥での磁気結合が替わることを実験的に示しており,ここ で 得 ら れ た 基 礎 的 知 見 は 磁 気 薄 膜 デ ′ ヾ イ ス の 研 究 に 貢 献 す る と こ ろ 大 で あ る . よ っ て 著 者 は , 北 海 道 大 学 博 士 ( 工 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る 者 と 認 め る ,
―907―