博 士 ( 薬 学 ) 冨 本 浩 嗣
学 位 論 文 題 名
新規コレステロール合成阻害剤の開発と Ras フんルネシルトランスフェラーゼ阻害剤への展開
学位論文内容の要旨
新 規な作 用機作 を有す る血中 コレス テ口ール (Ch) 低下 剤として、Ch 生合成系の必須の酵素 であるスクアレンェポキシダーゼ(SE) とスクアレン合成酵素(SS) の阻害剤を開発した。また、SS 阻害剤の研究の過程で、Ras 蛋白のプレニル化を阻害するファルネシルプロテイントランスフ ェラーゼ(FT) の阻害剤を発見し、同阻害剤が抗癌剤として有効であることを確認した。以下、
これら三つの酵素の阻害剤の開発研究について項目別に概説する。
( ス ク ア レン エ ポ キ シ ダ ー ゼ 阻 害 剤 の 開発 )
SEは ス テ ロ ー ル 合 成 系 の 下 流 に 位 置 し 、 ス ク ア レ ン を 酸 化 し て2,3― オ キ シ ド ス ク ア レ ン を 合 成 す る 酵 素 で あ る 。 哺 乳 動 物 に お い て 同 酵 素 を 阻 害 す れ ば 、Chの 生 合 成 が 阻 害 さ れ 、 そ の 結 果 血 中Chの 低 下 が 起 こ り 、 更 に その 際 に は 、 既 存 のHMGーCoA還 元 酵 素阻 害 剤 の 問 題 点
で あ る イ ソ プ レ ノ イ ド 生 合 成 系 の 他 の 代 謝 産 物 の 生 成 抑 制 は 起 き を い も の と 予 想 さ れ る 。 筆 者 は 、 真 菌SEの 阻 害 剤 と し て 知 ら れ る 抗 真 菌 剤 や 基 質 ス ク ア レ ン の 構 造 を 基 に 多 様 な 化 合 物 を 合 成 し 、 そ の 中 か ら 哺 乳 動 物 の SEの み を 選 択 的 に 阻 害 す る 化 合 物 、(E)―N― メ チ ル −N―
(6,6― ジ メ チ ル ―2− ヘ プ テ ン ー4− イ ニ ル ) ―3― ( フ ェ ニ ル メ ト キ シ )ベ ン ゼ ン メ タ ナ ミ ン を 発 見 した 。 そ の 後 、 こ の 化 合 物 を り ー ド と し て 化 学 修 飾 に よ る 構 造 の 最 適 化 を 行 い 、 開 発 候 補 化 合 物NB― 598、(E)ーN― エチ ル‑N― (6,6− ジ メ チ ル ―2― ヘ プ テン −4− イ ニ ル ) ー3−[(3,3 ― ビチ オ フ ェ ン ―5― イル ) メ ト キ シ ] ベ ン ゼ ン メ タ ナ ミ ン 塩 酸 塩 を 創 製 し た 。NB←598は 、 ヒ ト 肝 癌(Hep G2)細 胞 か ら 単 離 し た 酵 素 及 び 同 細 胞 中 で の Ch合 成 を 、 そ れ ぞ れ 0.74 nM、3.4 nMの 50%阻 害 濃 度(ICa0)で 阻 害 し 、 ま た 、 ラ ッ ト in vivoで の Ch合 成 を 、5.1 mg/kgの50%阻 害 経 口 投 与 量(EDa0)で 阻 害 し た 。 ま た 、 同 化 合 物 10 mg/kg/dayを 、 血 中Ch低 下 剤 評 価 の 為 の 最 も 標 準 的 動 物 モ デ ル で あ る イ ヌ に 対 し て 経 口 で4週 間 投 与 し た と こ ろ 、 血 中 総Ch値 が 約40%低 下 し た 。 こ の 作 用 は 対 照 に 置 い たHMG―CoA還 元 酵 素 阻 害 剤 、 シ ン バ ス タ チ ン の 活 性 と ほ ぼ 同 等 の 強 さ で あ っ た 。 本 化 合 物 を 医 薬 品 と し て 開 発 す る 為 に 大 量 合 成 法 を 検 討 し 、 ノ く ラ ジ ウ ム 触 媒 に よ る ク ロ ス カ ッ プ リ ン グ 反 応 を 利 用 し て 中 間 体 の ビ チ オ フ ェ ン 骨 格 と(E)一6,6− ジ メ チ ル ―2― ヘ プ テ ン ―4― イ ン 骨 格 を 合 成 する 極 め て 工 業 的 な 製 造 法 を 開発 し た 。
NB―598は 公 知 の 全 て の血 中Ch低 下 剤 の 中 で、HMG−CoA還 元 酵 素 阻 害 剤 と 並 ん で最 も 作 用 が 強 カな 化 合 物 で あ り 、 ヒ ト で の 効果 が 期 待 さ れ る 化 合 物 で ある 。
(スク アレン 合成酵 素阻害 剤の開 発)
SS はCh 生 合成系 の中、 SE の一段 階前に 位置する 酵素で あり、 2 モルの ファルネシルピロリ
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ン 酸(FPP)を 縮 合 し て プ レ ス ク ア レ ン ピ ロ リ ン 酸 経 由 ス ク ア レ ン を 合 成 す る 酵 素 で あ る 。 同 酵 素 の 阻 害 剤 と し て6年 前 に 天 然 か ら 発 見 さ れ た ザ ラ ゴ ジ ン 酸 ( 別 名 ス ク ア レ ス タ チ ン ) 誘 導 体 は 、 強 カ な 活 性 を 有 し 、 こ の 分 野 の 薬 剤 と し て は 最 も 有 望 な 化 合 物 で あ る が 、 消 化 管 か ら の 吸 収 性 が 悪 く 、 経 ロ 剤 と し て の 開 発 は 困 難 で あ る 。 そ の 為 、 コ ン ピ ュ ー タ ー を 用 い て ザ ラ ゴ ジ ン 酸 と 類 似 の 三 次 元 構 造 を 有 す る 化 合 物 を 、10万 個 を 越 え る 化 合 物 ラ イ ブ ラ リ ー ( 過 去 の 合 成 品 や 天 然 物 等 を 集 め た も の ) の 中 か ら 探 り 出 し 、 リ ー ド 化 合 物L―592,901、N―[3− (4ー ク ロ 口 フ ェ ニ ル)‑2ー (4― ク ロ ロ フ ェ ニ ル ) −1― メ チ ル プ ロ ピ ル ] カ ル ノ く モ イ ル メ チ ル コ ハ ク 酸 を 発 見 し た 。 次 い で 、 こ の 化 合 物 を り ー ド と し て 化 学 修 飾 に よ る 構 造 の 最 適 化 を 行 い 、Hep G2細 胞 由 来 のSSを そ れ ぞ れ0.72 nM、2.5 nMのICa0で 阻 害 す る 高 活 性 化 合 物J−104,118、(3S,7S,8S)−N− [3ー
(3,4−ジ ク口ロフェニノレ)‑2−(2−フノレオロ―4−ビフェニノレリノレ)―1ーメチノレプロピノレ]カノレノくモイノレメ チ ル コ ハ ク 酸 及 びJ−104,123、N―[(1S,2S,3E)→2― (3,4― ジ ク ロ 口 ベ ン ジ ル)‑1− メ チ ル ―4− ナ フ チ ル −3− ブ テ ニ ル ] カ ル バ モ イ ル ―(3R)−3ー メ チ ル ブ タ ン 酸 を 開 発 し た 。 両 化 合 物 は 、 マ ウ ス 、 ラ ッ ト を用い たin vivoでの経 口投 与実 験で ザラゴ ジン 酸Aを凌 ぐ強 いCh合 成阻害 作用 を示 し、
経口吸 収性 に優 れた 化合物 であ る。 その 為、イ ヌに おい て二週 間の 経口 投与 実験を 行っ た 所、両 者の 中で 特に 経ロ吸 収性 に優 れたJ−104,123が有意 な血 中Ch低 下作 用を 示し た。
両 阻 害 剤 の 大 量 合 成 を 可 能 に す る 為 製 法 の 検 討 を 行 い 、Jー104,118に つ い て はSharplessの 不 斎 ジ ヒ ド ロ キ シ ル 化 を 、 ま たJー104,123. に つ い て は(R)−3− ヒ ド ロ キ シ ブ タ ン 酸 メ チ ル の ジ ア ス テレオ 選択 的ベ ンジ ル化を 鍵反 応と する 極めて 効率 的な 製造法 を開 発し た。
J―104,123は 、 現 在 ま で に 報 告 さ れ て い る 数 多 く のSS阻 害 剤 の 中 で 、 イ ヌ に 対 し て 有 意 な 血 中Ch低 下作 用を示 す唯 一の 化合 物であ り、 今後 の開発 が期 待さ れる 化合物 であ る。
( フ ァ ル ネ シ ル プ ロ テ イ ン ト ラ ン ス フ ェ ラ ー ゼ 阻 害 剤 の 開 発 )
癌 遺 伝 子rasが コ ー ド す るRas蛋 白 は 、 そ の 機 能 発 現 の た め に FTに よ る フ ァ ル ネ シ ル 化 が 必 要 で あ る 。FTは 基 質 と し てSSと 同 じ く FPPを 利 用 す る た め 、 基 質 の 構 造 類 似 体 と し て 酵 素 を 阻 害 す る 上 記 の SS阻 害 剤 の 関 連 化 合 物 が 、 同 様 にFTに 対 し て も 阻 害 活 性 を 有 す る こ と が 期 待 さ れ る 。 そ の 為 、 筆 者 は SS阻 害 剤 の 開 発 の 際 に 合 成 さ れ た 化 合 物 の FT阻 害 活 性 を 調 ベ 、FT阻 害 剤 開 発 の 為 の り ー ド 化 合 物 、N― [3― (4ー ク 口 ロ フ ェ ニ ル ) ―2― (4― ク ロ 口 フ ェ ニ ル ) ―1− メ チ ル プ ロ ピ ル ] ーNー (2ー ナ フ チ ル メ チ ル ) カ ル バ モ イ ル メ チ ル コ ハ ク 酸 を 発 見 し た 。 こ の 化 合 物 を 基 に 構 造 の 最 適 化 を 行 いJ←104,134、(4S,5S)ー5―[N‑{(lR,2R,4E)−5― (2― ベ ン ツ オ キ サ ゾ リ ル ) ー メ チ ル ―2― (3,4― メ チ レ ン ジ オ キ シ フ ェ ニ ル ) ―4― ペ ン テ ニ ル}‑N− (2ー ナ フ チ ル メチ ル ) カ ル バ モ イ ル ] ―1,3― ジ オ キ ソ ラ ン ー2,2,4― 卜 リ カ ル ボ ン 酸 を 創 製 し た 。J一104,134は ラ ッ トFTを5nMの ICa0で 阻 害 し 、 他 の 類 縁 酵 素 で あ るSS及 び グ ラ ニ ル ゲ ラ ニ ル ト ラ ン ス フ ェ ラ ー ゼIは 殆 ど 阻 害 し な か っ た 。 同 化 合 物 はH‑rasNIH3T3細 胞 に お い て 4.3 VMのIC50で Ras蛋 白 の フ ァ ル ネ シ 化 を 阻 害 し 、 ま た 、 ヌ ー ド マ ウ ス のin vivo移 植 癌 モ デ ル に お い て も40、80mg/kgの6日 間 連 続 腹 腔 内 投 与 で 投 与 量 依 存 の 有 意 な 制 癌 効 果 を 示 し た 。 本 化 合 物 の 合 成 は 、SS合 成 阻 害 剤 研 究 の 際 に 開 発 さ れ た 合 成 法 を 基 に 、 リ パ ー ゼ を 用 い る 光 学 分 割 の 利 用 等 の 改 良 を 加 え 達 成 さ れ た 。
J−104,134は 、FPP拮 抗 型FT阻 害 剤 と し て 始 め てin vivoの 効 果 が 確 認 さ れ た 化 合 物 で あ り 、 今 後 の 展 開 が 期 待 さ れ る 化 合 物 で あ る 。 現 在 、 更 な る 高 活 性 化 合 物 を 求 め て 精 力 的 な 検 討 を 行 っ て い る 。
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