• 検索結果がありません。

<論説>緊急差止命令と法令遵守─禁止命令の取消事由に関する考察―

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "<論説>緊急差止命令と法令遵守─禁止命令の取消事由に関する考察―"

Copied!
29
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

緊急差止命令と法令遵守. 175. 緊急差止命令と法令遵守 ──禁止命令の取消事由に関する考察──. 芳賀 良. 1.はじめに. 2.禁止命令の取消し・変更に関する法理. 3.分析─自動取引システムによる相場操縦を素材として─. 4.むすび. 1.はじめに. 金融商品取引法(以下、「金商法」とする。)192 条 1 項は、緊急差止命令に. ついて定めている。金商法 192 条 1 項 1 号によれば、裁判所は、緊急の必要が. あり、かつ、公益及び投資者保護のため必要かつ適当であるとき、内閣総理大. 臣又は内閣総理大臣及び財務大臣の申立てにより、この法律又はこの法律に基. づく命令に違反する行為(以下、「法令違反行為」とする。)を行い、又は行お. うとする者に対し、その行為の禁止又は停止を命ずることができる 1)。緊急差. 論 説. . 1) 緊急差止命令の成立要件について、拙稿「金融商品取引法における緊急差止命令─法令 違反行為を予防するための緊急差止命令に関する若干の考察─」横浜法学 24 巻 2・3 号 29 頁以下(2016 年)を参照。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 176. 止命令は、法令違反行為に対する禁止命令及び停止命令の総称である 2)。本稿. においては、本条の文言の違いに着目し、「禁止」と「停止」という文言を「行. 為を行い、又は行おうとする者」という概念に対応して理解することを前提に、. 現在行われている行為をやめさせることが「停止」であり、行為を行おうとす. ること自体を禁ずるのが「禁止」であると解することとする 3)。このように解. した場合、将来の法令違反行為を禁ずる命令は、禁止命令となる。. そもそも、将来の法令違反行為を禁ずる禁止命令の内容は、実質的に、法令. 遵守を命ずるものとなる 4)。ここで、禁止命令を受けた者(以下、「被申立人」. とする。)が法令を遵守している事実が、禁止命令の継続についてどのような. 影響を与えるのか、ということが問題となる。換言すれば、被申立人の法令遵. 守が禁止命令の取消しに与える影響の有無を考察する必要がある。. ところで、既に別稿において明らかにしたように、将来の法令違反行為を禁. 止する緊急差止命令、即ち、将来の法令違反行為に対する禁止命令を発令する. 場合、法令違反行為の再発に係る相当な蓋然性が必要である 5)。また、後に確. 認するように、発令された緊急差止命令の取消しや変更(以下、「取消し・変更」. とする。)を行うためには、「事情の変更」(非訟事件手続法 59 条 2 項但書)が. . 2) 本条における「禁止」と「停止」の解釈には争いがある。詳細については、神田秀樹監修『注 解証券取引法』(有斐閣、平成 9 年)1332 頁を参照。他方、母法との規定振りの違いに着 目して、禁止命令と停止命令とを厳密に区別することの実益は疑わしいとの指摘もある. (神田秀樹=黒沼悦郎=松尾直彦編著『金融商品取引法コンメンタール 4 ─不公正取引規 制・課徴金・罰則』(商事法務,2011 年)477 頁〔藤田友敬〕)。. 3) なお、旧証券取引法 192 条について、田中誠二=堀口亘『再全訂コンメンタール証券取引法』 1118 ~ 1119 頁(勁草書房,1996 年)参照。. 4) 法令遵守を求める差止命令と禁止される行為の明示性との関係について、拙稿「金融商 品取引法における緊急差止命令の取消しと変更」横浜法学 26 巻 3 号 65 頁以下(2018 年) 参照。. 5)拙稿・前掲注(1)60 頁。. 緊急差止命令と法令遵守. 177. 必要となる 6)。つまり、「事情の変更」は、緊急差止命令の取消事由と位置付. けることができる。ある緊急差止命令が不作為を求める類型においては、法令. 違反行為の再発という危険を消失させる被申立人の更生という事実が発生すれ. ば、緊急差止命令の取消しを生じさせる「事情の変更」に該当することも、別. 稿で既に論じたところである 7)。上記の知見から、①禁止命令の発令要件と取. 消事由との関係性や②法令違反行為の再発という危険性の内容も問題となる。. これらの問題を分析する視座となるのが、禁止命令の取消事由に係るメルク. マールと当該メルクマールを基礎付ける事実である。特に、禁止命令の取消事. 由に係るメルクマールを基礎付ける事実を明らかにするためには、禁止命令の. 対象行為を定型的な行為に限定することが有益である。そこで本稿では、定型. 的な特徴を有する自動取引システムによる相場操縦を考察の対象とすることと. する。. そもそも、証券取引においても、取引の判断を自動化する自動取引システム. が利用されている 8)。自動取引システムの場合、一度、条件設定が行われると、. 設定が変更されない限り、条件設定に従って基本的な取引類型は継続する。つ. まり、自動取引システムは、設定された目的を文字通り機械的に実行するもの. である。このような性質に鑑みれば、自動取引システムの設定を変更する又は. 自動取引システムそのものを廃棄することにより、相場操縦の再発を防止する. ことができる。自動取引システムが利用されている場合、法令違反行為の再発. 防止の措置も、自然人のみの行為を前提とする類型とは異なるのである。. 本稿においては、上記のような問題意識から、まず、アメリカにおける差. 止命令(Injunction)に関する判例法理の分析を参考にして、被申立人の法令. . 6) 緊急差止命令の取消しと変更については、既に別稿で論じた。拙稿・前掲注(4)63 頁参照。. 7)同上 92 頁。. 8) 高速取引行為と自動取引システムの関係について、拙稿「HFT と相場操縦規制」金法 2095 号 54 頁(2018 年)以下参照。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 178. 遵守やこれに付随する事情が禁止命令の取消しに与える影響について検討す. る 9)。このような比較法的分析によって、禁止命令の取消事由である「事情の. 変更」の存否に係るメルクマールを明らかにする。また、自動取引システムの. 定型性に着目する観点から、自動取引システムを利用した相場操縦の文脈にお. いて、どのような事実が上記メルクマールを基礎付ける事実に該当するかも明. らかにすることとする。. 2.禁止命令の取消し・変更に関する法理. (1)比較法の必要性―「事情の変更」の意義― 日本の緊急差止命令とアメリカの差止命令の制度上の差異は、次の 3 点に要. 約することができる 10)。. 第 1 に、我が国の金商法は、緊急差止命令に伴う付随的救済に関する規定を. 有していないため、緊急差止命令は、アメリカの差止命令のような過酷な制裁. となる可能性は低い点である 11)。. 第 2 に、日本法において、緊急差止命令の取消し・変更の申立権が、当事者. にない点である 12)。緊急差止命令の取消し・変更に係る裁判(金商法 192 条 2. . 9) アメリカにおける判例法理の分析について、以下の文献に依拠した。Timothy Stoltzfus Jost, From Swift to Stotts and Beyond: Modification of Injunctions in the Federal Courts, 64 Tex. L. Rev. 1101 (1986); Committee on Federal Regulation of Securities, Report of the Task Force on SEC Settlements, 47 Bus. Law. 1083 (1991); James G. Mandilk, The Modification of Decrees in the Original Jurisdiction of the Supreme Court, 125 Yale L. J. 1880 (2016).. 10) 日本の緊急差止命令とアメリカの差止命令の制度上の差異については、既に別稿(拙稿・ 前掲注(4)85 頁以下)で論じているが、比較法の視点を明らかにするために、要点を 再論する。. 11) 拙稿・前掲注(4)85 ~ 86 頁。付随的救済については、拙稿「付随的救済─ AI による 相場操縦の抑止に関する研究」横浜法学 27 巻 3 号 141 頁以下(2019 年)参照。. 12)金子修編著『逐条解説非訟事件手続法』(商事法務、2015 年)227 頁。. 緊急差止命令と法令遵守. 179. 項)については、非訟事件手続法の定めるところによると定められている(金. 商法 192 条 4 項)。非訟事件手続法 59 条 1 項は、「裁判所は、終局決定をした後、. その決定を不当と認めるときは、・・・(中略)・・・職権で、これを取り消し、. 又は変更することができる」と定めている 13)。このように、日本法において. は、緊急差止命令の取消し・変更について当事者の申立権は認められていない. ため、差止命令の取消し・変更を求める者に証明責任を負担させるアメリカ法. とは異なる制度設計がなされているのである。. 第 3 に、非訟事件手続法 59 条 2 項本文によれば、原則として、終局決定が. 確定した日から 5 年を経過したときは、裁判所は、非訟事件手続法 59 条 1 項. による取消し又は変更をすることができないとする点である 14)。このように、. 日本法には、アメリカ法と異なり、時限的制約があるのである。. ただし、上記の時限的制約の例外として、「事情の変更によりその決定を不. 当と認めるに至ったとき」が定められている(非訟事件手続法 59 条 2 項但. 書)。このことから、日本法においても、緊急差止命令が継続していることが. 不当であると認められるほどの「事情の変更」があるときは、上記の時限的制. 約にかかわらず、当該緊急差止命令の取消し・変更が可能となると解されてい. る 15)。. 上記のような制度上の差異があるが、金商法 192 条 2 項が「裁判所は、前項. の規定により発した命令を取り消し、又は変更することができる」と定めてい. ることから、禁止命令の取消し・変更の事由を検討する意義はある。即ち、禁. . 13) 拙稿・前掲注(4)86 ~ 87 頁。非訟事件手続法 59 条 1 項 2 号によれば、「即時抗告をす ることができる決定」は取消し・変更の対象とならない。しかし、金商法 192 条 2 項は、. 「即時抗告が認められながら取消しまたは変更をすることができる例」として位置づけ られている(金子・前掲注(12)228 頁)。. 14)拙稿・前掲注(4)87 頁。. 15)同上。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 180. 止命令の取消し・変更の事由としての「事情の変更」(非訟事件手続法 59 条 2. 項但書)という概念を明らかにする必要性がある 16)。「事情の変更」という概. 念を明らかにする上で、母法であるアメリカ法における差止命令の取消し・変. 更の判例法理を参照することは、有意義である。そこで、上記 3 つの制度上の. 差異に留意した上で、母法であるアメリカ法における差止命令の取消し・変更. の判例法理から、「事情の変更」という概念を明らかにするための示唆を得る. こととする。. (2)アメリカにおける判例法理再論 金商法 192 条が範としたアメリカ法においては、差止命令(injunction)の. 取消し・変更に関する判例の蓄積があり、その判例法理については既に別稿で. 紹介したところである 17)。本稿においては、将来における法令違反行為を禁. ずる禁止命令の取消事由を考察する観点から上記判例法理を再検討し、①差止. 命令の取消しに関する要件と②被申立人の法令遵守やその付随的事情が差止命. 令の取消しに及ぼす影響についての示唆を得ることとする。. ここでは、まず差止命令の取消しに関する一般的な判例法理の沿革を確認す. る(後述ア)。次に、証券取引規制における判例法理を概観する(後述イ)。そ. して、差止命令の取消しに関する要件や法令遵守等が当該要件に及ぼす影響に. ついて、検討することとする(後述ウ)。. . 16) 証券取引法旧 187 条の解釈として、緊急差止命令の取消し・変更の事由として、事情の 変更が考えられていた(証券取引法研究会「第 8 章 雑則〔3〕」インベストメント 21 巻 5 号 29 ~ 30 頁〔早川武夫〕(1968 年))。なお、金商法 192 条について、岸田雅雄監修『注 釈金融商品取引法【第 3 巻】行為規制』(平成 22 年、金融財政事情研究会)477 頁〔松 尾健一〕参照。. 17) 拙稿・前掲注(4)72 頁以下。前稿(拙稿・前掲注(4))の判例法理の分析には、後述 するように補充・再検討すべき点があった。そこで、本稿では判例法理の沿革を再論し、 差止命令の取消しという観点から上記判例法理を再検討するものである。. 緊急差止命令と法令遵守. 181. ア.差止命令一般における取消し. ここでは、証券取引規制に係る差止命令の取消しの要件を明らかにする範囲. で、差止命令一般における取消し・変更の判例法理を概観することとする 18)。. (ア)United States v. Swift & Co. 事件判決. 差止命令の取消しに関する重要な先例は、United States v. Swift & Co. 事件. 判決(以下、「Swift 判決」とする。)である 19)。まず、Swift 判決は「将来に. 生じる事象に向けられた継続的な差止命令は、事象がその必要性を形成しうる. ので、常に変更に服する。・・・(中略)・・・変化に対して実質的な耐性があ. るため、ほぼ恒久的となる事実に基づき発生した完全な権利を保護する抑止と、. 変化する行為や条件の監視を包含し、それ故一時的且つ暫定的な抑止とを区別. するものである 20)」とする。これは、将来の行為を抑制の対象とする差止命. 令とそれ以外の区別するものである 21)。このことから、差止命令に関して厳. 格な基準を採用するとされる Swift 判決についても、その射程を限定して柔軟. な対応が可能となる余地があることになる 22)。次に、「もし、裁判所が発令し. たことが、状況の変化によって害悪をもたらす手段に変質したと認められる場. 合には、裁判所が、いずれにしても、その命令を取り消し又は変更する権限を. 放棄することはない 23)」とする。これは、状況の変化により、差止命令が手. 段として適切でない場合には、差止命令の変更・取消しが可能であることを示. 唆するものである 24)。. . 18) 各判例の位置付けについては、Jost・前掲注(9)1107 頁以下及び Mandilk・前掲注(9) 1912 頁以下を参照。. 19)286 U.S. 106 (1932).なお、本件は、反トラスト法に関する事案である。. 20)同上 114 頁。. 21)Jost・前掲注(9)1113 頁。. 22)同上参照。. 23)286 U.S. at 114─15.. 24)Jost・前掲注(9)1115 ~ 1116 頁。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 182. Swift 判決は、「我々の調査の焦点は、かつて実在していた危険を幻影と言. えるほど脆弱化するような重大な変化があったか否かである。差止命令が緩和. されるのであれば、被告の状態が改善されることに疑いはないが、被告が抑圧. の被害者であると評価することを正当化するほど極端且つ予期せぬ困難を、被. 告が被っているわけではない。新規且つ予測できない状況によって引き起こさ. れた重大な弊害に係る疑う余地のない証明は、我々をして、数年間の訴訟後に. おいて関係者全員の同意により命じられたことを変更へと導くほかないのであ. る 25)」と判示した。換言すれば、Swift 判決は、差止命令を発令した当時に存. 在していなかった新規且つ予測できない状況によって引き起こされた重大な弊. 害について疑う余地のない証明を、差止命令の取消し・変更の要件としたので. ある。. なお、上記の Swift 判決の内容について分析しているのが、Humble Oil &. Refining Co. v. American Oil Co. 事件判決(以下、「Humble Oil 判決」とする。). である 26)。Humble Oil 判決は、Swift 判決を引用した後、「我々は、このこと. から、重要な要因を抽出する。即ち、(1)現存する差止命令の変更や修正が検. 討されている段階において、当該差止命令を発令した裁判所や審査した裁判所. には『調査の制限』があること、(2)上記調査の内容は、『かつて実在してい. た危険を幻影と言えるほどに脆弱化する重大な変化があったか否か』であるこ. と、(3)申立人は、『抑圧の犠牲者』とみなされるほど『極端且つ予期せぬ苦. 難を被っている』必要があること、(4)『新規且つ予測できない状況により引. き起こされた重大な弊害に係る疑う余地のない証明』が必要である 27)」と判. 示している。. . 25)286 U.S. at 119.. 26) 405 F.2d 803 (8th Cir.), cert. denied, 395 U.S. 905 (1969).本件は、名称使用を制限する差 止命令の事案である(同上 806 ~ 807 頁)。. 27)同上 813 頁。. 緊急差止命令と法令遵守. 183. (イ)United States v. United Shoe Machinery Corp. 事件判決. United States v. United Shoe Machinery Corp. 事件判決(以下、「United. Shoe 判決」とする。)は、Swift 判決の基準の柔軟性について検討している 28)。. United Shoe 判決によれば、まず、同意命令を変更するためには「新規且つ予. 測できない状況によって引き起こされた重大な弊害に係る疑う余地のない証. 明」が必要である旨の Swift 判決の文言について、「裁判の文言は、・・・(中. 略)・・・その文脈において解釈しなければならない 29)」と指摘し、解釈の. 指針を示している。このような解釈の指針を前提にすれば、Swift 判決が判示. した基準に関して柔軟な解釈が可能となり、その射程を限定することもでき. る 30)。United Shoe 判決は、上記の解釈の指針を前提に、Swift 判決を次のよ. うに位置付けている。即ち、「Swift 判決は、適切な証明に基づいて命令を変更. できることを教示した。そして、命令(独占と制限的取引慣行の排除)を形成. するための訴訟の目的が十分に達成されていないのであれば、被告の利益のた. めに変更をすべきではないと判示した 31)」と結論付けた。United Shoe 判決を. 前提にすれば、差止命令の目的が適切に達成できているのであれば、当該目的. を維持できる範囲で、当該差止命令を取消し又は変更する余地があることにな. る 32)。. . 28) 391 U.S. 244 (1968). 本件は、反トラスト法に関する事案である。Swift 判決の事案と異 なり、政府が既存の差止命令を変更して追加的な措置を講ずるために、当該差止命令の 変更を申請した点に特徴がある。. 29)同上 248 頁。. 30)Jost・前掲注(9)1119 頁。. 31)391 U. S. at 248.. 32) 以下 を 参照。Marc I. Steinberg & Ralph C. Ferrara, Securities Practice: Federal & State Enforcement (2d ed. 2001 & Ann. Supp.) §5:18.. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 184. (ウ)System Federation v. Wright 事件判決. 法令の変化と差止命令の変更については、System Federation v. Wright 事件. 判決(以下、「System Federation 判決」とする。)が言及している 33)。System. Federation 判決も、Swift 判決の基準に依拠している 34)。その上で、System. Federation 判決は、「法又は事実のいずれであっても、差止命令の発令された. 時点における状況が変化し又はその後に新たなものとなった場合には、正当な. 司法的裁量が、差止命令に係る条件の変更を求めることに異論はない。変更権. 限の源泉は、言うまでもなく、差止命令が、差止命令を発令した裁判所によ. る継続的な監視と、衡平法上の救済を得た当事者のために、裁判所の権限と手. 続を適用する継続的意思を常に必要とする事実に求められる 35)」と判示した。. そして、Swift 判決の文言を引用して、差止命令が「状況の変化によって害悪. をもたらす手段に変質したと認められる」場合には、法律や事実の実質的変更. を無視できない旨を指摘している 36)。このことから、System Federation 判決. は、法律の変更による差止命令の変更権限を肯定するものとして位置付けられ. ている 37)。また、差止命令に対する裁判所による継続的監視も求めているこ. とにも注目すべきであろう。. (エ)King-Seeley Thermos Co. v. Aladdin Industries, Inc. 事件判決. 上記のような判例法理を前提にすると、法令や事実の変化を欠いた場合で. 33) 364 U.S. 642 (1961).本判決は、労働法に関する事案である。本件は、差止命令発令時. に鉄道事業におけるユニオン・ショップ(union shop)を禁止していた法律が改正され、 鉄道事業者と組合間においてユニオン・ショップの合意が許容されることになった(同 上 643 ~ 652 頁)。つまり、本件は、差止命令の発令後に「法令の変化」があった点に特 徴がある。. 34)同上 646 ~ 647 頁。 35)同上 647 頁。 36)同上。 37)Jost・前掲注(9)1116 頁参照。. 緊急差止命令と法令遵守. 185. も、差止命令の取消し・変更が可能なのか、という問題が生じる。この場合に. おいても、差止命令の取消し・変更が可能と解するのが、第 2 巡回区裁判所の. 判決 で あ る King-Seeley Thermos Co. v. Aladdin Industries, Inc. 事件判決(以. 下、「King-Seeley 判決」とする。)である 38)。King-Seeley 判決は、「事実又は. 法の変化が、差止命令の変更に関する最も明確な根拠となるところ、衡平法上. の権限を拡張することは、経験則の見地から諸事実をより正確に認識すること. によって既存の差止命令がその目的達成に適切でないことが明らかになった諸. 事例において、たびたび認められてきた 39)」と判示した。このように、King-. Seeley 判決は、System Federation 判決と異なり、法令や事実の変化がなくと. も、経験則の見地から、裁判時点における事実をより正確に評価することによっ. て、既存の差止命令が目的達成に不適合であることが明らかになれば、当該差. 止命令の取消し・変更が可能である、という見解を採用している 40)。. (オ)Rufo v. Inmates of Suffolk County Jail 事件判決 Swift 判決の基準を前提に、差止命令の取消し・変更の基準を判示したの. が、Rufo v. Inmates of Suffolk County Jail 事件判決(以下、「Rufo 判決」と す. る。)である 41)。Rufo 判決は、まず、Swift 判決が判示した基準の解釈につい. て、「Swift 判決以降の我々の判決は、Swift 判決の『重大な弊害』という文言. が、同意命令の変更に係るあらゆる努力を事実上回避する守護的魔力を持つ. ことを意図したものではない、という結論を補強するものである 42)」として. いる。次に、「本件のような命令は、しばしば長期間にわたって継続するため、. . 38) 418 F.2d 31 (2d Cir. 1969).本件は、商標に関する事案である(同上 32 ~ 33 頁)。. 39)同上 35 頁。. 40)Steinberg & Ferrara・前掲注(32) §5:18 参照。. 41)502 U.S. 367 (1992).本件は、刑務所の建設基準に関する事案である(同上 367 頁)。. 42)同上 380 頁。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 186. 当該命令の継続期間中に重大な変化が生じる蓋然性が増大する 43)」ことも指. 摘している。また、「本件のような命令の執行と変更を担う控訴裁判所(District. Courts of Appeals)の経験は、改革訴訟の諸目標を達成するためには、しばし. ば柔軟な取り組みが必須であることを示している 44)」とする。そして、Rufo. 判決は、「控訴裁判所は、また、公益が、制度改革訴訟における柔軟な変更基. 準を適用する上で、とりわけ重要な理由となることを判示する。なぜなら、こ. のような命令は『訴訟に直接関与している当事者を超えて、その機関の健全且. つ効率的な運営に対する公的権利に影響を与える』ためである 45)」ことも指. 摘している。. これらの検討の後、「同意命令の変更は、実際の状況が変化したことによっ. て、命令の遵守が実質的に更なる重荷となった場合に、正当化されている 46)」. とする。また、「変更は、不測の障害を原因として命令が実行不可能なことを. 証明した場合・・・(引用判例省略)・・・、又は、変更を伴わない命令の執行. が公益を害する場合・・・(引用判例省略)・・・にも適切である 47)」とする。. . 43) 同上 380 頁。この典拠として、被告の支配を超え、且つ、命令が発令された時点で裁 判所も当事者も予期していなかった状況の変化の観点から、同意命令の変更を認めた Philadelphia Welfare Rights Organization v. Shapp 事件判決(602 F.2d 1114, 1119─1121. (CA3 1979), cert. denied, 444 U.S. 1026 (1980).)を引用している(同上 380 ~ 381 頁)。. 44)同上 381 頁。. 45) 同上 381 頁。Heath v. De Courcy 事件判決(888 F.2d 1105, 1109 (CA6 1989))を 引用 し ている。. 46)同上 384 頁。. 47) 同上 384 頁。なお、本文中の前者の要件について、New York State Assn. for Retarded Children, Inc. v. Carey 事件判決(706 F.2d 956, 969 (CA2), cert. denied, 464 U.S. 915 (1983)) と Philadelphia Welfare Rights Organization v. Shapp 事件判決(602 F.2d 1114, 1120─ 1121 (CA3 1979), cert. denied, 444 U.S. 1026 (1980))が、本文中の後者の要件について、 Duran v. Elrod 事件判決(760 F.2d 756, 759─761 (CA7 1985))が引用されている(同上 384 ~ 385 頁)。. 緊急差止命令と法令遵守. 187. このように、Rufo 判決によれば、差止命令の変更を正当化する基準は、①. 実際の状況が変化したことによって、命令の遵守が実質的に更なる重荷となっ. た場合、②不測の障害を原因として命令が実行不可能なことを証明した場合、. ③変更を伴わない命令の執行が公益を害する場合の 3 つが挙げられている 48)。. (カ)まとめ―証券取引規制における差止命令への影響―. 上記において概観した判例法理を分析することとする。そもそも、差止命令. の当事者が当該差止命令の取消し・変更を求める場合には、アメリカの連邦民. 事訴訟規則(Federal Rules of Civil Procedure)60 条(b)項(5)号 の「判決. を今後も妥当させることが衡平を欠く場合」に該当することを証明する必要が. ある 49)。本条は、前述した Swift 判決を法典化したものと理解されている 50)。. 上記で概観したように、Swift 判決から Rufo 判決に至るまでの差止命令の. 取消し・変更の法理は、一貫して Swift 判決の定立した「重大な弊害」という. 基準の射程を明確化させたものと理解できる 51)。Rufo 判決によれば、差止命. 令の変更を正当化する基準は、①実際の状況が変化したことによって、命令の. 遵守が実質的に更なる重荷となった場合、②不測の障害を原因として命令が実. 行不可能なことが証明された場合、③変更を伴わない命令の執行が公益を害す. . 48) なお、Mandilk・前掲注(9)1916 頁も参照。. 49) Fed. R. Civ. P. 65(d)(5). ま た、以下 を 参照。3 Thomas Lee Hazen, Treatise on The Law of Securities Regulation § 16:10 (7th ed., Practitioner’s ed. 2016).. 50)Jost・前掲注(9)1105 頁。. 51) 拙稿・前掲注(4)72 ~ 76 頁 は、参照文献(Marc. I. Steinberg, SEC and Other Permanent Injunctions─Standards for Their Imposition, Modification, and Dissolution, 66 Cornell L. Rev. 27 (1980))の分析に従い、差止命令の取消し・変更について厳格基準と緩和基準という二 項対立の視点から判例法理を分析した。しかし、本文中の Rufo 判決が到達した法理か ら鑑みると、一連の判例は、Swift 判決の「重大な弊害」という基準の射程を明らかに する歴史であったと評価することもできる。このため、本稿では、Swift 判決の定立し た「重大な弊害」という基準の射程という視点から、判例法理を再分析した。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 188. る場合の 3 つである。. ところで、証券取引規制における差止命令の取消しについても、Swift 判決. の「重大な弊害」という基準が妥当すると解されている 52)。また、Rufo 判決. の法理も、証券取引規制における差止命令の取消しにも適用されると解されて. いる 53)。上記の判例法理の視点から、次項で証券取引規制における差止命令. の取消し・変更の判例法理を概観することとする。. イ.証券取引規制における差止命令の取消し・変更. ここでは、差止命令の被申立人による法令遵守が差止命令の取消しに及ぼす. 影響という視点から、証券取引規制に関する判例法理を概観することとする。. (ア)法令遵守が差止命令の取消し・変更に影響を与えなかった類型. 法令遵守が証券取引委員会(Securities and Exchange Commission)の求め. る差止命令の取消し・変更に影響を与えなかった類型の判例として、S.E.C. v.. Jan-Dal Oil & Gas, Inc. 事件判決(以下、「Jan-Dal Oil & Gas, Inc. 判決」とする。). がある 54)。本件の原審は、証券法の登録規定に違反する行為を禁止する終局. 的差止命令の発令から 8 ヶ月後に取り消した 55)。Jan-Dal Oil & Gas, Inc. 判決. は、Ridley v. Phillips Petroleum Co. 事件判決(427 F.2d 19 (10th Cir. 1979)). の判決文を引用している 56)。即ち、「引用したこれら 2 つの判決(筆者注:. . 52) 10 Louis Loss, Joel Seligman & Troy Paredes, Securities Regulation 461─62 (5th ed. 2018).. 53) 以下 を 参照。Marc I. Steinberg, Securities Regulation : Liabilites and Remedies §12:04 (2016).. 54)433 F.2d 304 (10th Cir. 1970).. 55)同上 305 ~ 306 頁。. 56)同上 305 頁。. 緊急差止命令と法令遵守. 189. Swift 判決と Humble Oil 判決)は、ある差止命令の変更が求められる場合には、. 裁判所は、『かつて実在していた危険を幻影と言えるほどに脆弱化する重大な. 変化があったか否か』を決定しなければならない。そして、申立てを行う当事. 者が、極端且つ不測の性質を帯びる過酷な苦難にさらされていることを証明し. なければならない。それ故、要求される変化は慎重に取り扱われなければなら. ないし、原初の差止命令が抑圧的となる新規の条件や状況について強い証明が. 求められる 57)」と判示した。そして、法令遵守や差止命令による取引関係の. 窮迫は、差止命令の取消しの根拠として不十分であるとした 58)。このことは、. 一定期間における差止命令に伴う法令遵守の事実のみでは、差止命令の取消. し・変更を正当化しないと解されている 59)。. ま た、S.E.C. v. Advance Growth Capital Corp. 事件判決(以下、「Advance . Growth Capital Corp. 判決」とする。)も、同じ類型に属する 60)。Advance Growth . Capital Corp. 判決は、「被告が、1973 年 4 月以来、命令を遵守したことは、差. 止命令の取消しを正当化するものではない。『法令遵守は、まさに、法が期待. するものである』61)」と判示した。また、「同様に、被告らの会社の繁栄も救. 済の根拠にならない。また、ビジネス上の困窮が伴う法令遵守も、十分な理. 由とはならない 62)」とした。このことから、不当且つ抑圧的コストを債務者. . 57)同上 305 頁。. 58)同上 305 ~ 306 頁。. 59)Jost・前掲注(9)1151 頁。. 60) 539 F.2d 649 (7th Cir. 1976).本件は、1940 年投資会社法違反に基づく役員就任を禁止す る差止命令に関する事案である(同上 649 頁)。. 61) 同上 652 頁(脚注は省略して引用した)。なお、1973 年 4 月は差止命令の発令時期である(同 上 651 頁)。また、本文中の二重括弧の部分は、Walling v. Harnischfeger Corp. 事件判決. (242 F.2d 712, 713 (7th Cir. 1957))を引用している。. 62) 同上 652 頁。なお、本文の後者について、前述の Jan-Dal Oil & Gas, Inc. 判決を引用して いる。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 190. に課すものでない場合には、差止命令の内容を遵守することが債務者の更生を. 証明したとしても、差止命令の取消しを正当化することはないと解されてい. る 63)。. (イ)法令遵守が差止命令の取消し・変更に影響を与えた類型. 第 1 に、S.E.C. v. Warren 事件判決(以下、「Warren 判決」 と す る。) が. 挙げられる 64)。本件は、証券取引所法 7 条(d)項及びレギュレーション U. (Regulation U)が規定する証拠金規制に違反する行為を禁止する終局的差止. 命令に対して、取消しの申立てがなされた事案である 65)。本件の原審は、事. 実又は法の変化により、目的達成の手段として既存の差止命令を維持すること. が不適切となった場合には、差止命令の変更に関する衡平法上の権限を拡張す. ることを認める King-Seeley 判決を引用している 66)。そして、「裁判所は、本. 件差止命令が排除しようと意図した危険の深刻さと、本件差止命令を継続する. 必要性及び将来にわたって本件差止命令が適用されることによって生じる苦難. とを考量する固有の衡平法上の権限を伴う裁量権を行使し得る 67)」と判示し. た。原審は、証拠から、被告に、レギュレーション U に違反する意図はなかっ. たことや、被告らに融資を担保し、新しい証券を購入するために利用できる十. 分な財産があることを示しているとして、差止命令を取り消した 68)。. 控訴審において、第 3 巡回区裁判所は、㋐原審が、差止命令を継続する必要. . 63) Jost・前掲注(9)1152 頁。. 64)583 F.2d 115 (3d Cir. 1978).. 65) 同上 116 頁。差止命令の対象となる違反行為は、様式 U ─ 1 に融資目的を「事業目的」 と記載したにもかかわらず、貸金を証券購入に流用したことである(同上)。. 66) 76 F.R.D. 405, 408 (W.D. Pa. 1977), aff’d., 583 F.2d 115 (3d Cir. 1978).. 67)同上 408 頁。なお、Steinberg・前掲注(53)§12:04 を参照。. 68)76 F.R.D. at 411─13.. 緊急差止命令と法令遵守. 191. 性を判断する上で、差止命令の対象となる違反行為の性質を評価したこと、㋑. 当該違反行為の後に規制が変更されていること、㋒被告は差止命令により企業. 活動にかかわる役職を辞任したことを指摘している 69)。また、原審が、「(1). すべての状況を鑑みれば、『違反行為は考え抜いた意図よりも不注意から生じ. たもの』であること、(2)違反行為が再発する蓋然性はほとんどないこと、(3). 技術的な違反のみが証明され、当該差止命令を継続する必要性がないこと、(4). 当該差止命令が不当な苦難を引き起こしており、今後も引き起こす可能性があ. ること 70)」を結論付けたことも指摘している 71)。本判決は結論として、原審. 判決を支持している 72)。本判決における取消しの考慮要因として、①違反行. 為の性質、②主観的要素の程度、③差止命令の目的達成状況、④変化の程度、. ⑤被告が被る苦難の程度が挙げられていると解されている 73)。. 本判決の意義は、差止命令の取消し・変更について、差止命令が排除しよう. と意図した危険の深刻さと被申立人が被る苦難などを比較考量する柔軟なア. プローチを採用する点にある 74)。また、本件は、差止命令後の法令の変化や、. 差止命令の付随的効果という「負の側面」も重視している点にも特徴があると. 解される 75)。つまり、法令遵守以外の要因として、継続する差止命令が抑圧. . 69) 583 F.2d at 121 (3d Cir. 1978). なお、被告は、原審において、①融資は約 6 カ月以内 に返済し、追加的な融資は受けていないこと、②被告は、差止命令により、財団の理事 長などを辞任せざるを得なかったこと、③証拠金規制の適用範囲を拡張するレギュレー ション X が差止命令後に制定されたことにより、一般投資家も保護されることになった ことを申立てていた(同上 117 ~ 118 頁)。. 70)同上 121 ~ 122 頁。なお、以下を参照。76 F.R.D. at 411.. 71)583 F.2d at 121─22.. 72)同上 122 頁。. 73)Committee on Federal Regulation of Securities・前掲注(9)1133 頁。. 74) 以下を参照。Daniel J. Morrissey, SEC Injunctions, 68 Tenn. L. Rev. 427,459 (2001).. 75)同上 459 頁~ 460 頁参照。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 192. 的な付随的結果を伴う場合には、差止命令の取消し・変更が認められる余地が. あるのである 76)。. 第 2 に、S.E.C. v. Crofters, Inc. 事件判決(以下、「Crofters 判決」と す る。). がある 77)。本判決は、差止命令の取消しについて、次のように整理する。まず、. 「第一に、差止命令を継続する必要性の程度を判定すべきである。この判定は、. 以下の要因を考慮した後に行われるべきである 78)」とする。即ち、その考慮. 要因とは、①差止命令が抑止しようとした危険性の本質と重大さ、②将来にお. いて違反行為が行われる蓋然性、③将来、違反行為が行われた場合における執. 行の困難性、④差止命令の遵守期間又は不遵守期間である 79)。次に、本判決は、. 「差止命令を継続する必要性の程度は、差止命令により課せられる苦難と比較. 考量されるべきである 80)」ことを指摘している。Crofters 判決の意義は、差止. 命令を継続する必要性の程度を判定する要因を指摘することにより、間接的に、. 差止命令の取消しの要因を提示している点である 81)。換言すれば、将来にお. いて違反行為が行われる蓋然性も、差止命令の取消しを判断する 1 要因となり. 得るのである。. 第 3 に、S.E.C. v. Lewis 事件判決(以下、「Lewis 判決」と す る。)が あ る 82)。本件の特徴は、差止命令の被申立人に対して、大統領による恩赦が行われ. た点である 83)。本判決は、民事訴訟規則 60 条(b)項の解釈について、Rufo. . 76)Jost・前掲注(9)1152 頁。. 77) 1982 WL 1362 (S.D. Ohio 1982).本件は詐欺禁止規定違反に関する差止命令の事案であ る(同上 *1 頁)。. 78)同上 *4 頁。. 79)同上。. 80)同上。. 81)Steinberg & Ferrara・前掲注(32)§5:22 参照。. 82)423 F. Supp. 2d 337 (S.D. N.Y. 2006).. 83)同上 339 頁。. 緊急差止命令と法令遵守. 193. 判決の基準を分析している 84)。即ち、「最高裁は、裁判所が民事訴訟規則 60. 条(b)項の申立てを審査するための基準を確立した。即ち、『実際の状態が. 変化したことによって、命令の遵守が実質的に重荷となった場合』;『予測でき. ない障害を原因として、命令が実行不可能なことが証明された場合』;又は、. 『執行が公益を害する場合』において、変更や無効は『正当化されるであろ. う』85)」とする。換言すれば、①実際の状況が変化したことによって、命令の. 遵守が実質的に更なる重荷となった場合、②不測の障害を原因として、命令が. 実行不可能なことを証明した場合、又は、③執行が公益を害する場合が、差止. 命令の取消し・変更が認められる要因になるとするのである。本件の事案につ. いて、被申立人は違反行為から約 20 年間法令を遵守していること、恩赦は差. 止命令により将来も継続する制裁を排除する趣旨であることから、当該差止命. 令の取消しを認めている 86)。Lewis 判決の意義は、証券取引規制に関する差止. 命令の取消しについても、Rufo 判決の基準が妥当することを明らかにしたこ. とにある。. ウ.検討-法令遵守と差止命令の取消し. 上記において概観した判例法理を検討することとする。上記のように、証券. 取引規制における差止命令の取消し・変更においても、Rufo 判決の基準が有. 用であることが分かる。即ち、①実際の状況が変化したことによって、差止命. 令の遵守が実質的に更なる重荷となった場合、②不測の障害を原因として、命. 令が実行不可能なことを証明した場合、又は、③差止命令の執行が公益を害す. る場合が、差止命令の取消し・変更が認められる要因になる。. . 84)同上 340 頁。. 85)同上。. 86)同上 341 頁。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 194. 上記の諸事例において、法令遵守のみでは、差止命令の取消し・変更の要因. とはならない。即ち、差止命令の内容を遵守したという被申立人の更生が証拠. として示されたことは、差止命令の取消し・変更を正当化しないのである。他. 方、法令遵守と併せて、①差止命令を継続させることが抑圧的な付随的帰結を. 伴うことや②差止命令が目的を達成したことなどの事情があれば、差止命令の. 取消し・変更の要因となる。つまり、法令遵守に加えて、差止命令の継続を不. 要とする法令遵守を越えた事情があれば、差止命令の取消し・変更が認められ. るのである。. また、上記の基準に関連して、将来において違反行為が行われる蓋然性も、. 差止命令を継続すべきか否かの要因となる。換言すれば、将来において違反行. 為が行われる蓋然性がなければ、差止命令の継続が不要になり、当該差止命令. の取消しの要因となり得る。そして、何らかの事情の変更により、将来におい. て違反行為が行われる蓋然性がなくなれば、差止命令の継続も不要になる。な. ぜなら、将来における違反行為の再発を防止する差止命令の目的が達成される. からである。差止命令の目的が達成されているにも関わらず、当該差止命令の. 執行を継続することは、公益にも反することになると思われる。その理由は、. 差止命令という不要な制裁を加えることは、自由な証券取引を阻害することに. なり、証券取引規制における公益を害するからである。. 問題の焦点は、自動取引システムを利用した法令違反行為において、どのよ. うな事情が、差止命令の継続を不要とする法令遵守を越えた事情に該当するの. か、というところである。この点を次節で検討することとする。. 3.分析-自動取引システムによる相場操縦を素材として- ア.禁止命令と法令遵守. (ア)アメリカ法における法令遵守差止命令の意義. 別稿で既に紹介したように、アメリカの判例においては、法令遵守のみを. 内容とした「法令遵守」差止命令(“obey-the-law” injunction)の有効性が争わ. 緊急差止命令と法令遵守. 195. れている 87)。なぜなら、法令遵守は法規範の命ずる内容であるから、法令遵. 守のみを内容とした差止命令は無意味ではないか、という疑問があるからであ. る 88)。. この点について、SEC v. Solow 事件判決によれば、制定法の文言と同一内. 容である差止命令であっても、当該差止命令は、連邦証券諸法の遵守を求める. ことを超えた内容を有しているものとして位置付けられている 89)。即ち、将. 来の違法行為を禁止する差止命令は、法律の規定に基づく単なる禁止を超える. 事情が必要である 90)。当該差止命令の目的が将来における違法行為の再発防. 止であれば、単なる禁止を超える事情とは、違法行為の再発に係る相当な蓋然. 性を基礎付ける事実の存在と解される 91)。換言すれば、法令遵守差止命令は、. 違法行為の再発に係る相当な蓋然性を基礎付ける事実の存在を前提とした違法. 行為を禁ずる命令と解される。. (イ)禁止命令の意義. 将来の法令違反行為を禁ずる禁止命令の内容は、実質的に、被申立人の法令. 遵守を求めることに他ならない。そうすると、アメリカ法と同様に、法令遵守. は法規範の命ずる内容であるから、法令遵守のみを内容とした禁止命令は無意. 味ではないか、という疑問が生じうる。この点についても、アメリカ法の分析. が参考となる。. . 87)拙稿・前掲注(4)68 頁以下。. 88) 拙稿・前掲注(4)69 頁。ま た、以下 の 判例 を 参照。420 F.3d 1225, 1233 n.14 (11th Cir. 2005).. 89) SEC v. Solow, 554 F. Supp. 2d 1356, 1362 (S.D. Fla. 2008).な お、拙稿・前掲注(4)69 ~ 71 頁。. 90) Hazen・前掲注(49)§16:8。なお、拙稿・前掲注(4)71 頁。. 91)拙稿・前掲注(4)71 頁。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 196. そもそも、法令違反行為に対する緊急差止命令の成立要件の 1 つとして、法. 令違反行為を「行い、又は行おうとする」という要件がある(金商法 192 条 1 項)。. 法令違反行為を「行おうとする」という要件を充足するためには、法令違反行. 為が再発する相当な蓋然性が必要となる 92)。そうだとすれば、緊急差止命令. の一類型である禁止命令を発令するためにも、法令違反行為が再発する相当な. 蓋然性が必要となる。このことから、禁止命令は、法令違反行為の再発に係る. 相当な蓋然性を基礎付ける事実の存在を前提要件とする法令違反行為を禁止す. る命令と解される。このように、禁止命令を構成する中核的要素として、法令. 違反行為の再発に係る相当な蓋然性を基礎付ける事実の存在を位置付けること. ができる。. イ.禁止命令の取消事由. (ア)アメリカ法における差止命令の取消しに関する議論状況. 前述のように、証券取引規制における差止命令の取消し・変更においても、. Rufo 判決の基準が適用される。即ち、①実際の状況が変化したことによって、. 差止命令の遵守が実質的に更なる重荷となった場合、②不測の障害を原因とし. て、命令が実行不可能なことを証明した場合、又は、③差止命令の執行が公益. を害する場合が、差止命令の変更や取消しが認められる要因になる。証券取引. 規制における差止命令の取消しについて Rufo 判決の基準を適用した Lewis 判. 決は、被申立人に対して大統領による恩赦が与えられた事案であった。そうす. ると、恩赦という状況の変化により、差止命令の遵守が実質的に更なる重荷と. なった場合と解することができる。恩赦は、差止命令の目的が達成された場合. のみになされるとは限らない。他方、違法行為の再発に係る相当な蓋然性が消. 滅した場合には、差止命令の目的は達成されている。そうすると、違法行為の. . 92)拙稿・前掲注(1)60 頁。. 緊急差止命令と法令遵守. 197. 再発に係る相当な蓋然性が消滅した場合に差止命令を継続することは、恩赦の. 場合よりも、被申立人に不必要な義務を課すことになる。このことから、上記. ①の要因については、法令遵守に加えて、違法行為の再発に係る相当な蓋然性. が消滅した場合に充足されると解される。. 別稿で既に紹介したように、アメリカにおいては、差止命令の取消し・変更. について、判例法理と異なり、対象となる事例の全体状況に応じて、諸要因を. 重み付けして、当該差止命令の取消し・変更の可否を判断するアプローチを採. 用する見解もある 93)。この見解によれば、差止命令の取消し・変更のために、. 裁判所は、①差止命令発令後の事実や法令の変化、②予期せざる付随的な悪影. 響の範囲、③差止命令の目的が充足されたか否か、④個々の違反者に対する差. 止命令の抑止効果の存否、⑤社会一般に対する差止命令の抑止効果の存否、⑥. 訴訟当事者が政府機関か否か、又、差止命令の変更を認めることにより政府機. 関に生じる反作用の有無、⑦公益又はこの公益と対立する利益に係る規模と. 性質、という諸要因を考慮した事案ごとのアプローチを採用すべきこととな. る 94)。この見解を敷衍すれば、上記①、③及び④の要因に鑑みて、差止命令. の取消し・変更という効果が生じるためには、被申立人の法令遵守という事実. と共に、被申立人の更生という法令違反行為の再発に係る危険性を消失させる. 事情が必要とされることになろう 95)。. 将来の違法行為を禁止する差止命令において、当該差止命令を構成する違法. 行為が再発する相当な蓋然性が法令遵守等によって消滅すれば、違法行為の. 再発に係る危険性も消失する。違法行為の再発に係る危険性が消滅した場合、. 当該差止命令の遵守を継続させることは、Rufo 判決の基準が指摘するように、. . 93) 拙稿・前掲注(4)80 頁以下。また、Steinberg 前掲注(51)72 頁以下参照。. 94)Steinberg・前掲注(51)71 頁。. 95)同上 66 頁参照。また、拙稿・前掲注(4)82 頁。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 198. 被申立人にとって実質的な「重荷」となると思われる 96)。. (イ)禁止命令の取消事由としての「事情の変更」. 禁止命令の取消事由としての「事情の変更」(非訟事件手続法 59 条 2 項但書). について、検討することとする。. 既に別稿で論じたように、ある緊急差止命令が不作為を求める類型において. は、法令違反行為の再発という危険を消失させる被申立人の更生という事実が. 発生すれば、緊急差止命令の取消し・変更を生じさせる「事情の変更」に該当. すると解することができる 97)。被申立人の更生の有無は、法令違反行為の再. 発という危険が消失したか否かで判断することになる。法令違反行為の再発と. いう危険の消失は、前述のように、法令違反行為の再発に係る相当な蓋然性を. 基礎付ける事実が消滅した場合に生じる。換言すれば、法令違反行為の再発と. いう危険性とは、法令違反行為の再発に係る相当な蓋然性を意味することにな. る。そのため、法令違反行為の再発という危険性の存否は、法令違反行為の再. 発に係る相当な蓋然性を基礎付ける事実の有無により判断される。ここで、禁. 止命令の構成要素である法令違反行為の再発に係る相当な蓋然性を基礎付ける. 事実とは何か、ということが問題となる。. 法令違反行為の再発に係る相当な蓋然性を基礎付ける具体的な事実は、禁止. 命令の具体的な内容に依存する。議論の焦点を絞るために、検討の対象を、自. 動取引システムを利用した相場操縦を対象とした禁止命令に限定することとす. る。. . 96) アメリカ法の場合、差止命令違反は裁判所侮辱罪を構成することも考慮しなければなら ない。以下を参照。423 F. Supp. 2d 337 (S.D.N.Y. 2006).. 97)拙稿・前掲注(4)92 頁。. 緊急差止命令と法令遵守. 199. (ウ)自動取引システムと相場操縦. 自動取引システムを利用した取引方法が相場操縦の手段に該当するおそれが. ある。典型的な類型として、①仮装取引、②馴合取引、③見せ玉の 3 つが挙げ. られる。仮装取引は、自動取引システムが売り注文と買い注文を同時期に同価. 格で発することによって、実行することができる。また、馴合取引は、複数の. 自動取引システムが同時期に売り注文と買い注文を同時期に同価格で発するこ. とによって、実行することができる 98)。見せ玉は、自動取引システムにより、. 大量の買い注文又は売り注文を発した後、当該注文を取り消すことによって、. 実行することができる 99)。. 自動取引システムを利用した相場操縦の場合、相場操縦の結果を欲する人間. が相場操縦に該当する取引類型を事前に設定すれば、AI でなくとも、自動取. 引システムは良心の呵責等に基づく反対動機の形成を行うことなく、相場操縦. の実現に向けて発注行為を行うこととなる。このように、自動取引システムは、. 目的設定により、取引の結果を逡巡することなく、設定された目的を実現する. ものである。このような性質に鑑みれば、自動取引システムの設定を変更する. 又は自動取引システムそのものを廃棄することにより、相場操縦の再発を防止. することもできる。そうであるならば、自動取引システムの設定変更やそれ自. 体の廃棄は、法令違反行為の再発に係る相当な蓋然性を基礎付ける具体的な事. 実と解される。. ところで、前述のように、日本法の場合には、被申立人が、禁止命令の取消. しに関する申立てをすることはできない。もっとも、事情の変更を最も容易に. 知り得るのは緊急差止命令の申立者や当該命令の被申立人であると思われる。. このため、禁止命令の当事者が「事情変更を理由として終局決定の取消しまた. . 98) 拙稿「AI と金融商品取引法─『機械』による馴合取引の成立要件に関する考察─」ディ スクロージャー & IR 7 巻 75 頁(2018 年)。. 99)拙稿・前掲注(8)54 頁。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 200. は変更を求める場合には、その旨を主張して裁判所の職権発動を促すことにな. る 100)」とされている。このことから、自動取引システムを利用した相場操縦. に関する禁止命令を受けた被申立人は、法令違反行為への物理的不可逆性を示. す自動取引システムの設定変更やそれ自体の廃棄という事実を裁判所に対して. 事実上主張してゆくべきであると思われる 101)。. (エ)まとめ. 禁止命令は、将来における法令違反行為の実行を禁止することにより、法令. 違反行為の再発を抑止することを目的とする。そして、法令内容の遵守は、禁. 止命令により命ぜられるまでもなく、規範の名宛人の義務である。一般的な法. 令遵守義務を超えて、法令違反行為の再発を抑止する観点から禁止命令を発令. するためには、法令違反行為が再発する相当な蓋然性が必要となる。. . 100) 金子・前掲注(12)228 頁。なお、証券取引法旧 187 条の解釈として、アメリカ法の沿 革から、緊急差止命令の申立者や当該命令の被申立人に、当該緊急差止命令の取消し・ 変更に係る申立を認める見解があった(証券取引法研究会・前掲注(16)30 頁〔早川 武夫〕)。また、神田秀樹監修・前掲注(2)1333 頁参照。. 101) 被申立人から禁止命令の取消しに関する法律相談を受けた弁護士は、法令違反行為へ の物理的不可逆性を示すという事実を調査する必要がある。被申立人が法人である 場合には、役員・従業員等に対する当該調査において、当該役員・従業員等が、当 該弁護士は会社のみならず当該役員・従業員等の利益のためにも法的活動してくれる という誤解が生ずるおそれがある。この誤解は、利益相反(弁護士職務基本規程 28 条)という法曹倫理上の問題に発展する可能性もある。そのため、法人の役員・従業 員に対する調査時には、①当該弁護士は会社の代理人であること、②調査時の発言等 は、会社の利益が優先されるため、当該発言等を行った役員・従業員等にとって不利 益な形で利用されることがある等の警告を行う必要があると思われる。この警告につ いては、弁護士・依頼者秘匿特権との関係性におけるいわゆる「アップジョン警告. (Upjohn Warnings)」の議論が参考になる。この論点について、以下を参照。Grace M. Giesel, Upjohn Warnings, the Attorney-Client Privilege, and Principles of Lawyer Ethics: Achieving Harmony, 65 U. Miami L. Rev. 109 (2010).. 緊急差止命令と法令遵守. 201. 発令された禁止命令の取消事由は、法令上、「事情の変更」である。この「事. 情の変更」の構成要素は、禁止命令の発令を正当化した法令違反行為の再発に. 係る相当な蓋然性の消滅である。法令遵守という事情のみでは、法令違反行為. の再発に係る相当な蓋然性が消滅したと評価することはできない。法令遵守と. いう事情は、一般的な法令遵守義務の履行に他ならないからである。法令違反. 行為再発の相当な蓋然性が消滅したと評価するためには、法令遵守を超える事. 情が必要である。自動取引システムを利用した相場操縦の場合、自然人のみの. 行為を前提とするものではないため、法令違反行為の実施が不可能となること. が、法令違反行為再発の相当な蓋然性が消滅したと評価することができる。自. 動取引システムを利用した相場操縦においては、法令違反行為への物理的不可. 逆性が、法令違反行為が再発する相当な蓋然性を消滅させるのである。このこ. とから、被申立人の法令遵守と法令違反行為への物理的不可逆性が相まって、. 禁止命令の取消事由としての「事情の変更」に該当すると解される。そして、. 自動取引システムの設定変更やそれ自体の廃棄は、法令違反行為への物理的不. 可逆性を示す事実であることから、法令違反行為の再発に係る相当な蓋然性を. 基礎付ける具体的な事実となる。また、これらの事実は、法令違反行為の再発. という危険を消失させる事実と解し得る。. このように、法令違反行為が再発する相当な蓋然性の消滅が、禁止命令の取. 消事由である「事情の変更」のメルクマールと解することは、禁止命令の発令. 要件として、法令違反行為が再発する相当な蓋然性を求める解釈とも整合的で. ある。また、法令違反行為が再発する相当な蓋然性の消滅という視点は、「緊. 急の必要があり、かつ、公益及び投資者保護のため必要かつ適当であるとき」(金. 商法 192 条 1 項 1 号)が定める「必要性」の要件についても示唆を与える。即. ち、ある禁止命令に関して、法令違反行為が再発する相当な蓋然性が消滅する. ことは、当該禁止命令が法令違反行為の予防手段としての適切性を欠くことに. なるため、上記の「必要性」も消滅する。上記の「必要性」の要件は、緊急差. 止命令の手段の適切性を考量する要件と位置付けることができるのである。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 202. 4.むすび 禁止命令の取消事由である「事情の変更」(非訟事件手続法 59 条 2 項但書). の存否についても、法令違反行為の再発に係る相当な蓋然性が、その存否のメ. ルクマールとなる。つまり、法令違反行為の再発に係る相当な蓋然性が消滅す. れば、「事情の変更」を充足すると解される。このような解釈は、将来の法令. 違反行為を禁ずる禁止命令の発令要件として、法令違反行為の再発に係る相当. な蓋然性を求めることと整合的である。また、法令違反行為の再発という危険. 性とは、法令違反行為の再発に係る相当な蓋然性を意味することも明らかと. なった。. そして、本稿では、自動取引システムを利用した相場操縦を分析の対象とし. た。自動取引システムを利用した相場操縦の場合、自動取引システムの設定を. 変更する又は自動取引システムそのものを廃棄することにより、相場操縦の再. 発を防止することができる。そのため、自動取引システムの設定変更やそれ自. 体の廃棄は、法令違反行為の再発に係る相当な蓋然性を基礎付ける具体的な事. 実と解される。つまり、自動取引システムの設定変更やそれ自体の廃棄は、法. 令違反行為への物理的不可逆性を基礎付ける事実である。このことから、法令. 違反行為の再発に係る相当な蓋然性の消滅は、法令違反行為への物理的不可逆. 性を基礎付ける事実によって評価することができるのである。. 緊急差止命令が発令された事例の多くは、無登録者による金融商品取引業該. 当行為に対するものである 102)。緊急差止命令の取消事由が上記のように解す. ることができるとすれば、自動取引システムを利用した相場操縦以外の事例に. おいて、法令違反行為への不可逆性を基礎付ける事実を明らかにすることが今. 後の課題であろう。. 【2021 年 1 月 15 日脱稿】. . 102) 緊急差止命令の運用事例の分析について、松尾健一「金融商品取引法 192 条にもとづ く緊急差止命令の運用」同法 71 巻 1 号 545 頁以下(2019 年)参照。. 緊急差止命令と法令遵守. 203. 【付 記】本稿は、JSPS 科研費 JP17K03452 の助成を受けた研究成果の一部であ. る。

参照

関連したドキュメント

  

旧法··· 改正法第3条による改正前の法人税法 旧措法 ··· 改正法第15条による改正前の租税特別措置法 旧措令 ···

12―1 法第 12 条において準用する定率法第 20 条の 3 及び令第 37 条において 準用する定率法施行令第 61 条の 2 の規定の適用については、定率法基本通達 20 の 3―1、20 の 3―2

れをもって関税法第 70 条に規定する他の法令の証明とされたい。. 3

・関  関 関税法以 税法以 税法以 税法以 税法以外の関 外の関 外の関 外の関 外の関係法令 係法令 係法令 係法令 係法令に係る に係る に係る に係る 係る許可 許可・ 許可・

食品 品循 循環 環資 資源 源の の再 再生 生利 利用 用等 等の の促 促進 進に に関 関す する る法 法律 律施 施行 行令 令( (抜 抜す

新設される危険物の規制に関する規則第 39 条の 3 の 2 には「ガソリンを販売するために容器に詰め 替えること」が規定されています。しかし、令和元年

[r]