特集論文:ICT とマーケティングイノベーション特集/論文
日本型オムニチャネルの特質と理論的課題
近藤 公彦
小樽商科大学 ICT の発展を背景に,小売業の新たな成長モデルとしてオムニチャネルが大きく注目されている。オムニチャネルは歴史的 に,電子商取引,クリック&モルタル,マルチチャネル,クロスチャネルから発展し,消費者にシームレスな買い物経験を 提供するための統合的なチャネル管理を中心的な課題としてきた。オムニチャネルは米国のそれを標準型として研究されて きたが,その態様は各国の小売環境のもとでの企業の成長プロセスに規定される。米国型オムニチャネルが単一業態オムニ チャネルを基本としているのに対し,日本型オムニチャネルは複数の業態から構成される多業態オムニチャネル,およびロ ジスティクス・ハブとしての店舗ネットワークの 2 つから特徴づけることができる。この日本型オムニチャネルを理論的に 研究する際,多業態オムニチャネル,オムニチャネル・オペレーション,チャネル・コンフリクトとカニバリゼーション, オムニチャネル小売企業の出自,オムニチャネル行動のプロセス,オムニチャネル・ショッパーの特性,定性的・定量的ア プローチ,および国際比較の 8 つの重要な課題が指摘される。 キーワード:オムニチャネル,米国型オムニチャネル,日本型オムニチャネル,多業態オムニチャネル,チャネル統合,オ ムニチャネル・ショッパー1 はじめに
近年の ICT(Information Communication Technology)の 発展を背景に,小売業の新たな成長モデルとしてオムニ チャネル(omnichannel)が大きく注目されている1)。米 国の大手百貨店メーシーズ(Macy’s)が 2010 年,オムニ チャネルの概念を発表して以来,ウォルマート・ストアー ズ(Wal-Mart Stores),ウォルグリーン(Walgreen’s),ス テイプルズ(Staples)など,多くの米国小売企業がオム ニチャネルを推進している。オムニチャネルは瞬く間に 世界的規模で拡大し,期を同じくして日本でもまた,東 急ハンズ,ヨドバシカメラ,良品計画といった専門店が ネットで購入した商品の店頭受け取りや,顧客情報,在 庫情報の一元管理,ネット上で店舗在庫を確認できるサー ビスを開始し,店舗とネットとの融合に着手しはじめた。 2015年 11 月には,日本最大の小売企業グループである セブン&アイ・ホールディングスがグループ企業(約 20 社)が扱う 300 万品目をネットで購入でき,コンビニエ ンス・ストアを中心としたグループ全店舗(約 1 万 8500 店)で受け取り・支払い・返品ができるオムニチャネル, Omni7を始動させた。 一方,アカデミアにおいても Journal of Interactive Marketing 誌 が 2005 年 19 巻 2 号 で Multichannel Marketing の 特 集 , 2010 年 24 巻 2 号 で Emerging Perspectives on Marketing in a Multichannel and Multimedia Retailing Environment の 特 集 を 組 み , ま た Journal of
Retailing誌が 2015 年 91 巻 2 号で Multi-Channel Retailing に焦点を当てるなど,マルチチャネル,オムニチャネル を学術的に解明しようとする研究が蓄積されてきた。 この論文の目的は,オムニチャネルの生成・発展プロ セスを概観するとともに,日本型オムニチャネルの特質 を明らかにし,その理論的課題を提示することにある。 以下ではまず,電子商取引の登場からオムニチャネルに いたる取引様式の変遷を敷衍し,オムニチャネルの本質 と統合的チャネル管理の問題を分析する。次に,オムニ チャネルの標準型として位置づけられる米国型オムニ チャネルと比較することにより,日本型オムニチャネル の特質を考察する。最後に,日本型オムニチャネルを研 究する際に取り組むべき理論的課題を提示する。
2 オムニチャネルへの発展
今日のオムニチャネルにいたる小売業と消費者との取 引様式の歴史的展開は,1990 年代の電子商取引(e-commerce)の出現に始まる(Ngai & Wat, 2002;Webb,2002)。ネット上で電子的に取引が行われる電子商取引の 仕組みのもと,低価格や品揃えの豊富さを武器とする, いわゆるネット小売業(Internet retailing)が発展していっ た(Doherty & Ellis-Chadwick, 2010)。今日,世界最大の ネット小売業に成長したアマゾン(Amazon)は,その代 表例である。 一方,ネットでは実際に商品を見たり,触れたり,販 売員に聞くことができないため,商品の探索や購入には つねに知覚リスク(perceived risk)がともなう。この知 覚リスクを削減するため,消費者は店舗で商品を実際に 確認して知覚リスクを削減したうえで,ネットで安価に 購入するという行動を取りはじめた。いわゆるショールー ミング(showrooming)である(Rapp, Bakera, Bachrach, Ogilviea, & Beitelspacher, 2015)。消費者のショールーミン グは,店舗を取引が発生しないショールーム化してしま う行動であり,店舗小売業にとっては販売機会の大きな 損失となる。 以上のような拡大するネット小売業への競争上の対抗 として,また消費者のショールーミング行動への対策と して,店舗小売業が取り組んだのが店舗とネットを組み 合わせ,相互補完的かつシナジー効果が発揮されるよう にそれぞれのチャネルを活用するクリック&モルタル (click & mortar)である(Bahn & Fischer, 2003;Steinfield,
Bouwman, & Adelaar, 2002)。
店舗とネットという 2 つのチャネルからなるクリック &モルタルはさらに,販売員,電話,携帯電話,カタロ グ,ダイレクトメール,コールセンター,ソーシャル・ メディアなど,チャネルの要素を拡大し,より多様な顧 客接点を有するマルチチャネル(multichannel)へと発展 していく(Neslin & Shankar, 2009;Verhoef, Kannan, & Inman, 2015)。マルチチャネルとは一般に,2 つ以上の チャネルを連動させて商品・サービス,あるいは顧客サ ポ ー ト を 提 供 す る 活 動 を 指 す ( Rangaswamy & van Bruggen, 2005;Stone, Hobbs, & Khaleeli, 2002)。
小売企業がマルチチャネル化,すなわちチャネルを多 様化する動機として,次のような点が指摘されてきた。 第 1 に,チャネルを拡大することで,より多くの顧客セ グメントに接近することができる(Neslin & Shankar, 2009;Rangaswamy & van Bruggen, 2005;Zhang, Farris, Irvin, Kushwaha, Steenburgh, & Weitz, 2010)。第 2 に,こ れに関連して,1 つのチャネル(例えば,店舗)のみを 利用するシングル・チャネル・ショッパー(single channel shopper)に比べて,複数のチャネルを利用し,より多く 支出する傾向があるとされる(Kumar & Venkatesan,
2005) マ ル チ チ ャ ネ ル ・ シ ョ ッ パ ー ( multichannel shopper)に訴求することができる。第 3 に,チャネルご とに異なった価格帯やサービスを用意することによって, 価格水準に基づいた市場細分化や利益最大化を図ること できる(Valos, Polonsky, Geursen, & Zutshi, 2010)2)。
このような利点を有するマルチチャネルは,チャネル 間の連動性をどの程度認めるかについて広がりがあるも のの,基本的にはチャネルの独立性を前提としている (Beck & Rygl, 2015;Cao & Li, 2015)。逆説的ではある が,マルチチャネル研究においてチャネル統合が主要な 課題であることは,チャネル統合がその重要性にもかか わらず,適切に行われておらず,そのために十分な成果 を上げられていないという問題意識に基づいている(近 藤,2015;Payne & Frow, 2004;Yan, Wang, & Zhou, 2010)。
マルチチャネルにおいて統合によるチャネル間の連動 に焦点を当てた考え方が,クロスチャネル(cross-channel)である3)。Cao and Li(2015, p. 200)によれば, クロスチャネル統合は「企業にシナジーを創出し,顧客 に特定のベネフィットを提供するために,企業がチャネ ルの目的,設計,展開を調整する程度」と定義される。 この定義に見られるように,クロスチャネルにおけるチャ ネル統合はチャネル間にシナジーを生み出し,顧客への ベネフィットを提供するための手段として捉えられてい る。 こうした企業の論理に立脚し,手段としてのチャネル 統合の重要性に焦点を当てるクロスチャネルに対して, 消費者視点からチャネル行動を理解することに発想を転 換するのがオムニチャネルである。オムニチャネルにつ いて最初の学術的な定義を示した Rigby(2011, p. 67)に よれば,オムニチャネルとは「実店舗と十分な情報を得 られるオンライン・ショッピング経験の利点とを融合す る統合的な販売経験」を意味する。この定義は,オムニ チャネルにおける顧客の買い物経験が店舗とネットの融 合から生まれることを示唆している。消費者が店舗とネッ トを自由に往来するプロセスにおいて,情報が統合的か つ間断なく提供される状態が「シームレス」(seamless) である(Schramm-Klein, Wagner, Steinmann, & Morschett, 2011)。この「シームレス」に焦点を当てて,Lazaris and Vrechopoulos(2014)はオムニチャネルを「シームレス な買い物経験と組み合わせて,実店舗とオンライン・チャ ネルの両方を利用すること」と定義している。Verhoef et al.(2015, p. 176)は,オムニチャネル管理の観点から 「チャネル間の顧客経験とチャネルにわたる成果が最適化 されるように,多くの利用可能なチャネルと顧客接点を
相乗的に管理すること」と捉えている。この定義は,顧 客にシームレスな買い物経験を提供するためには,チャ ネル間の調整が重要であることを示唆している。また, Levy, Weitz, and Grewal(2013, p. 67)は,オムニチャネル 小売業を「調整されたマルチチャネル・オファリングで あり,(消費者が)小売企業のすべての買い物チャネルを 利用する際,シームレスな経験を提供する」と指摘して いる。 このような先行研究のオムニチャネルの理解を踏まえ て,本論文ではオムニチャネルを「すべて(オムニ)の チャネルを統合し,消費者にシームレスな買い物経験を 提供する顧客戦略」と定義することとする。この定義は 次の視点に基づいている。すなわち,伝統的なマーケティ ング・ミックスの枠組みでは,物流あるいはロジスティ クスは直接的な操作対象ではなく,外生的な与件として 位置づけられ,そのためオムニチャネルで最も重要な課 題の 1 つである消費者への配送問題を扱うことができな い。これに対してオムニチャネルでは,後述するように, どのような方法で消費者へのロジスティクスを完結する かはきわめて重要な問題である(Hübner, Holzapfel, & Kuhn, 2016;Hübner, Wollenburg, & Holzapfel, 2016)。オム ニチャネルを顧客戦略と位置づけることで,こうした配 送問題を戦略的課題として明示的に扱うことができる。 さらに前述のように,オムニチャネルの発展が消費者の ショールーミング行動への対応としてのクリック&モル タルを直接の起点とし,消費者主導によるチャネル拡大 であることもまた,顧客戦略として位置づける論拠とな る4)。 また,店舗,販売員,電話,携帯電話,カタログ,ダ イレクトメール,コールセンター,ネット,ソーシャル・ メディアといったオムニチャネルの要素には,伝統的な マーケティングで中心的に位置づけられてきた所有権移 転経路である取引チャネルだけでなく,売り手と買い手 間でさまざまな情報が交換されるコミュニケーション・ チャネルを含んでいる。Neslin et al.(2006)や Beck and Rygl(2015)がチャネルを「企業と顧客が交流する顧客 接点あるいはメディア」と理解し,また Neslin and Shankar ( 2009 ) が チ ャ ネ ル を コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 手 段 (communication vehicle)と捉えているように,多様な顧 客接点を通じた取引・コミュニケーション・チャネルが オムニチャネルであり,そこでは顧客にシームレスな買 い物経験を提供するためのチャネルの統合的管理が志向 されている5)。
3 オムニチャネルの統合的管理
チャネルの統合的管理の重要性は,オムニチャネルの 前段階であるマルチチャネルにおいても早くから取り上 げられてきた。例えば,Neslin and Shankar(2009)は, マ ル チ チ ャ ネ ル 顧 客 管 理 ( multichannel customer management)という考え方のもと,マネジャーの 5 つの タスクとして顧客分析,マルチチャネル戦略の開発,チャ ネル設計,実行,および評価を指摘し,一連のチャネル 戦略プロセスの管理に焦点を当てている。さらに彼らは, マルチチャネル小売ミックスの意思決定領域について, チャネル間での価格設定の一致,他のチャネルでの値下 げとプロモーション,各チャネルでの品揃えと適切な在 庫,およびチャネル間での商品の返品の可否を取り上げ, チ ャ ネ ル の 均 質 化 ( homogenization ) と 調 和 化 (harmonization)の観点からチャネル全体の最適化の重要 性を指摘している。また,Valos et al.(2010)は,マルチ チャネル・マーケティング(multichannel marketing)の 主題として,マルチチャネル顧客行動の理解,販売・サー ビスおよび事前購入情報の提供,そして新規チャネルが もたらす組織の駆け引きやコンフリクトの処理をあげて いる。 Verhoef et al.(2015)は,表 1 のように,マルチチャネ ルとオムニチャネルにおける管理の相違を整理している。 ここで注目すべきは,マルチチャネルが基本的にチャネ ル単位の管理を志向するのに対して,オムニチャネルは 統合型のクロスチャネル管理を前提としていること,そ して,その成果はマルチチャネルがチャネル単位の売上 げや顧客経験に焦点を当てるのに対し,オムニチャネル のそれは全体的な顧客経験やチャネルをまたぐ総売上高 であることである。このことは,マルチチャネルからオ ムニチャネルにいたるチャネルの発展がチャネルの個別 的管理から統合的管理への進化であることを示してい る。彼らは,そうしたチャネルの統合的管理をオムニチャ ネル管理(omnichannel management)と呼び,「チャネル 間にわたる顧客経験とチャネルをまたぐ成果を最適化す るために,利用可能な膨大な数のチャネルをシナジーが 上がるように管理すること」(p. 175)と捉えている。 3.1 チャネル統合 チャネル統合の目的は,チャネル間のシナジー効果を 生み出し,顧客にシームレスな経験を提供することにあ る(Goersch, 2002;Jin, Park, & Kim, 2010;Payne & Frow, 2004)。Goersch(2002, p. 479)によれば,チャネル統合とは「ウェブや店舗を運営する小売組織が他のチャネル を付加して,それらを同時的かつ整合的に利用すること」 を意味し,これによって顧客は,その購買プロセスでチャ ネルを変更してもシームレスな経験を引き出すことがで きるようになる。ここでチャネル統合は,複数のチャネ ルの同時・整合的な利用という活動レベルで理解されて いる。Stone et al.(2002, p. 40)は,それを「1 つ以上の チャネルを通じて一貫した方法で顧客に商品・サービス を提供し,顧客を管理する方法」と定義し,チャネル統 合による顧客管理に焦点を当てている。また,Coelho and Easingwood(2003, p. 27)は,チャネル統合を「流通諸活 動が単体の管理のもとで行われる程度」と捉え,チャネ ル活動に関わる集権的意思決定に注目している。Yan et al.(2010, p. 434)は,「オンライン・チャネルと伝統的 チャネルが相互作用し,広告やプロモーション等で協調 する程度」と定義し,マーケティング・ミックス次元で の活動の調整度に焦点を当てる。 こうしたチャネル統合の捉え方は,何を統合するのか というチャネル統合の要素と不可分である。Gulati and Garino(2000)は,チャネル統合の要素として,ブラン ド,管理,オペレーション,および資産の 4 つを挙げて いる。チャネル間でブランドを共有することによって顧 客の信頼を獲得し,チャネルの統合的管理により一貫し た戦略が遂行され,シナジー効果が生み出され,知識が 共有しやすくなる。またオペレーションの統合を通じて, コストを削減し,魅力的で便利なサイトを提供し,そし て資産の統合により店舗事業がネット事業の利益を享受 することができる。Goersch(2002)は,ブランド,クロ スプロモーション,マーケティング・ミックス(製品, 価格設定,顧客サービス等),ロジスティクス,チャネル 特有の能力,および情報管理の 6 つを指摘し,これらが チャネル間でシナジーを生み出す前提であると理解する。 Neslin et al.(2006)は,チャネル統合が取り組むべき 課題の観点から,チャネル間のデータ統合,マルチチャ ネル環境での顧客行動,チャネル評価,チャネル間の資 源配分,およびチャネル戦略の調整,を指摘している。 Yan et al.(2010)は,チャネル参加者とチャネル・オプ ションとの最適な組み合わせに関する意思決定,チャネ ル内での顧客経験を活発に相互作用させるための方法, および,顧客が 1 つ以上のチャネルと相互作用する際の 顧客に関する単一かつ統合的な視点を得るための方法, の 3 点を挙げている。Zhang et al.(2010)は,マルチチャ ネル戦略の領域という観点から,組織構造,データ統合, 消費者分析,および評価・成果マトリクスを取り上げ, これにより顧客コミュニケーションとプロモーション, 情報とマーケティング・リサーチ,価格比較,デジタル 化,および物的資産とオペレーションの 5 つの領域にお いて,チャネル間で潜在的シナジーが発揮されると指摘 している。また,Emrich, Paul, and Rudolph(2015)は, チャネル間の品揃えの統合に焦点を当て,完全統合,店 舗の品揃えよりもネットの品揃えを多くする非対称的統 合,非統合という 3 つのレベルの品揃え統合を実証的に 検討している。近藤(2015)は,こうした先行研究のレ ビューから,チャネル統合の要素をチャネル管理の組織, マーケティング・ミックス,それを支えるオペレーショ ンやロジスティクス,および顧客や販売,ロジスティク 表 1 マルチチャネル管理とオムニチャネル管理 マルチチャネル管理 オムニチャネル管理 チャネルの焦点 双方向チャネルのみ 双方向チャネルとマスコミュニケーション・チャネル チャネルの範囲 小売チャネル:店舗,オンライン・ ウェブサイト,ダイレクト・マーケ ティング(カタログ) 小売チャネル:店舗,オンライン・ウェブサイト,ダイレクト・ マーケティング,モバイル・チャネル(スマートフォン,タブレッ ト,アプリ),ソーシャル・メディア),タッチポイント(テレビ, ラジオ,印刷物,C2C などマスコミュニケーション・チャネルを 含む) チャネルの分離 重複のない分離したチャネル シームレスな小売経験を提供する統合チャネル 顧客関係のフォー カス ブランド対チャネル 顧客-小売チャネル・フォーカス 顧客-小売チャネル-ブランド・フォーカス チャネル管理 チャネル単位 クロスチャネル 目的 チャネル目的(チャネル毎の売上高, チャネル毎の経験) クロスチャネル目的(全体的な小売顧客経験,チャネルにわたる総売上高) 出典:Verhoef, P. C., Kannan, P. K., & Inman, J. J. (2015). From multi-channel retailing to omni-channel retailing, Introduction to the special issue on multi-channel retailing, Journal of Retailing, 91(2), 176, Table 1.
スに関わるデータの 4 つの領域に類型化している。 このようにチャネルの統合的管理は,顧客分析,チャ ネル戦略,戦略評価,チャネル組織と多岐にわたってお り,これらの効果的な管理がチャネル成果を規定するこ とになる(Jin et al., 2010)。 3.2 チャネル組織 チャネルの統合的管理には一方で,それを担う組織と その仕組みの構築というチャネル組織に関わる重要な主 題があり(Valos, 2010;Zhang et al., 2010),そこでの論点 の 1 つはチャネルを分権的に管理するか,集権的に管理 するかにある(Neslin & Shankar, 2009)。すなわち,チャ ネルが異なれば,必要とされるスキルや能力も異なるた め,各チャネルは独立の部門で運営されるべきであると いう分権化の視点と,それぞれのチャネルが非効率な部 分最適に向かうのを避けるためには,チャネル間の調整 が行われなければならないとする集権的管理の視点であ る。Gulati and Garino(2000)は,マルチチャネルの観点 から分権型組織の優位性を認め,それによって各チャネ ルが特有の競争状況に対応して焦点を絞り,柔軟に対応 することができること,異なった市場セグメントに商品 を提供するために各チャネルが小売ミックスを調整する ことができること,そして特定のチャネルで経験を有す る経営幹部を誘引し,維持することができること,を挙 げている。 一方,高嶋・金(2017)は,組織アーキテクチャーの 観点からチャネル組織の統合の困難さを指摘している。 すなわち,店舗事業とネット事業では,それを効果的に 管理・運営するために必要な組織アーキテクチャーが異 なる。そのため,店舗事業からネット事業,あるいはネッ ト事業から店舗事業に進出する際,また,オムニチャネ ル・ショッパーの行動に対応するために店舗事業とネッ ト事業間で情報をシームレスに共有・活用しようとする 際,こうした異なった組織アーキテクチャーの存在がそ の制約要因となる。 3.3 チャネル統合のメリットとデメリット チャネル統合はオムニチャネルの最重要課題であり, オムニチャネルをオムニチャネルたらしめている条件で もある。そこで,チャネル統合が小売企業および顧客に どのようなメリットをもたらすのかを整理しておくこと にしよう。 第 1 の利点は,統合的な顧客情報の獲得である(Gulati & Garino, 2000;Marianne, 2013;Neslin et al., 2006;Stone
et al., 2002;Zhang et al., 2010)。小売企業はチャネルを多 様化すればするほど顧客接点が広がり,さまざまな顧客 の属性,購買・利用情報を獲得することができる。この ような顧客情報を個人レベルで統合することができれば, 個々の顧客の多様な生活シーンを捕捉し,多面的な顧客 プロフィールを抽出することができる。 第 2 は,最適な顧客サービスの提供とそれによる顧客 満足の向上である(Jin et al., 2010;Larivière, Aksoy, Cooil, & Keiningham, 2011;Payne & Frow, 2004;Sousa & Voss, 2006;Stone et al., 2002;Wikström, 2005;Zhang et al., 2010)。オムニチャネルにおいては,店舗で販売員を通じ て顧客と双方向的かつ詳細な情報を交換し,ネットで広 範な商品情報を提供することができるなど,それぞれの チャネルには固有の特長がある。こうしたチャネル特性 に基づいてチャネルを連動し,チャネルの特長を活用し つつ,その欠点を相互に補完することにより,シームレ スな買い物環境を創出し,顧客サービスを向上させるこ とができる。 第 3 は,オペレーション・コストの削減である(Neslin, 2009;Payne & Frow, 2004;Neslin & Shankar, 2009;Zhang et al., 2010)。顧客分析,在庫やロジスティクス,施設や 設備,管理等,オムニチャネルに必要な資源や能力を統 合的管理のもとでチャネル間で共用・多重利用すること によって,個々のチャネルで実践にあたるよりも全体と してのオペレーション・コストを引き下げることができる。 そして第 4 に,こうしたチャネルの統合的管理を成功 裏に実践することにより,シームレスな買い物環境を提 供し,顧客満足度を高め,その結果としてオムニチャネ ル小売業は売上げの向上と成長という経営成果を享受す ることができる(Cao & Li, 2015;Payne & Frow, 2004)。 一方,チャネル統合には次のようなデメリットも存在 する。組織アーキテクチャーの議論で示したように,そ れぞれのチャネルには,それを効果的・効率的に管理・ 運営するための特有の資源や能力が構築されている。有 効な資源や能力が個々のチャネルに特定的であればある ほど,チャネル統合はそうした資源や能力を毀損してし まうことになる(Neslin & Shankar, 2009;Sousa & Voss, 2006;高嶋・金,2017;Valos et al., 2010;Zhang et al., 2010)。また,チャネル間で品揃えを統合すると,品揃え の最適規模を上回り,その管理等でコストが増大したり (Emrich, Paul, & Rudolph, 2015),かえって消費者の混乱 を招いてしまう可能性もある(Neslin & Shankar, 2009)。 さらに,チャネルの統合的管理が十分ではない場合,チャ ネルは部分最適に陥り,そのためチャネルの目的や資金,
人員,商品,技術といった資源の配分をめぐってチャネ ル間でコンフリクトが生じたり,ターゲットとする顧客 セグメントをチャネル間で奪い合うというカニバリゼー ションが引き起こされる可能性もある(Falk, Schepers, Hammerschmidt, & Bauer, 2007;Kollmann, Kuckertz, & Kayser, 2012;Webb & Hogan, 2002)。
以上のように,オムニチャネルにおける最も重要な課 題は,顧客にシームレスな買い物経験を提供するための 統合的なチャネル管理である。そしてこのチャネルの統 合的管理は,日本の小売企業,ならびにそれを取り巻く 小売環境を前提とした日本型オムニチャネルにおいて, さらに複雑な課題を提起することになる。
4 日本型オムニチャネルの特質
これまでオムニチャネルにいたる理論的展開,ならび にその中心的課題であるチャネルの統合的管理について 検討してきたが,そうした研究は明示的にも暗黙的にも, オムニチャネルが生成・発展してきた米国小売企業のそ れを前提としている。しかしながら,小売企業の成長プ ロセスの典型が国によって異質であれば,そのもとで遂 行されるオムニチャネルの態様もまた異なるだろう。そ こでここでは,日本の小売業において発展してきたオム ニチャネルを日本型オムニチャネルと呼び,米国型と比 較しつつ,その特質を明らかにしていく。 4.1 多業態オムニチャネル 量販店,食品スーパー,コンビニエンス・ストアなど, 特定の業態を運営する小売業に見られるように,米国の 小売企業は基本的に単一業態の多店舗展開を図り,地理 的に商圏を拡大し,顧客の絶対数を増やすことによって 成長してきた(Miller, 1981;中野,2007)。この成長プロ セスを反映して,米国型オムニチャネルは単一業態の店 舗とネットからなるオムニチャネルとして構築されてい る。食品スーパーとネットスーパーがその例である。オ ムニチャネルの前段階であるクリック&モルタルに象徴 されるように,店舗小売業がネット・チャネルを付加す る際にも,両者は基本的に同じ品揃え,商品カテゴリー を 扱 う 同 一 業 態 の 枠 内 に あ る ( Avery, Steenburgh, Deighton, & Caravella, 2012;Fernández-Sabiote & Román, 2012)。それゆえ,米国のオムニチャネル研究において は,「業態」そのものが議論の俎上に載ることはない6)。 一方,日本の大規模小売企業はその歴史的な成長プロ セスにおいて,多店舗展開に加えて業態を多様化するこ とにより,企業あるいは企業グループ・レベルでの成長 を追求してきた(近藤,1995)。流通コングロマリットと もいうべき多様な業態を有する小売企業グループである セブン&アイやイオンでは,その業態は,百貨店,量販 店,食品スーパー,コンビニエンス・ストア,各種専門 店,ディスカウントストア,ホームセンター,ネット販 売等,さまざまな領域に及んでいる。日本型オムチャネ ルの特質の第 1 は,こうした業態それぞれが販売・コミュ ニケーション・チャネルの起点となる多業態オムニチャ ネルであることである(図 1 参照)。 多業態化による企業成長が可能であるのは,複数の業 態を通じてより多くの顧客ニーズと顧客セグメントを取 り込むことができるからである(近藤,1995)。例えば, マルチチャネル,米国型オムニチャネル,日本型オムニチャネルの比較出典:Kondo, K. (2015). Opportunities and challenges of omnichannel strategy in Japanese retailing. Presented at 2015 international
conference of Asian marketing associations.
百貨店は比較的富裕層に向けて高額な商品・サービスを 提供する業態であるし,ネット販売は豊富な品揃えや時 間の便宜性を求める消費者を対象としている。それゆえ, 小売企業が業態を増やせば増やすほど,訴求しうる顧客 セグメントの数は多くなり,その結果として企業レベル での成長可能性は高くなる(図 2 参照)。 多業態オムニチャネルによる企業成長を消費者のミク ロ次元から検討してみよう。マルチチャネル研究,オム ニチャネル研究では,一定期間において特定の企業の複 数のチャネルを利用する消費者をマルチチャネル・ショッ パー(multichannel shopper:Kumar & Venkatesan, 2005; Konuş, Verhoef, & Neslin, 2008),オムニチャネル・ショッ パー(omnichannel shopper:Parker & Hand, 2009),ある いはオムニショッパー(Lazaris & Vrechopoulos, 2014)と 呼ぶ7)。オムニチャネル・ショッパーは,マルチチャネ ル・ショッパーの発展型であり,複数のチャネルを平行 して利用するのではなく,すべてを同時に利用する消費 者を指す(Lazaris & Vrechopoulos, 2014;Ortis & Casoli, 2009;Parker & Hand, 2009)。
マルチチャネル・ショッパーあるいはオムニチャネル・ ショッパーの行動特性については,これまで比較的多く の実証研究がなされてきており,シングル・チャネル・ ショッパーよりも支出額が多く,小売企業にとってより 高い価値をもたらす顧客セグメントであることが確認さ れている(Kumar & Venkatesan, 2005;Kushwaha & Shankar, 2013;大世良,2013;Venkatesan, Kumar, & Ravishanker, 2007)。こうしたオムニチャネル・ショッパーをターゲッ トとして小売業が多様な業態チャネルを配置すれば,個々 の消費者を企業グループ・レベルで囲い込み,顧客シェ ア(share of customer)を拡大することができるだろう。 4.2 ロジスティクス・ハブとしての店舗ネットワーク 注文された商品をいかに消費者に届けるかは,ラスト・ ワン・マイル(Last mile fulfilment)としてオムニチャネ ルにおいてきわめて重要な問題として取り扱われてきた (Chatterjee, 2010;Hübner, Kuhn, & Wollenberg, 2016)。
この問題に関して,米国型オムニチャネルが物流セン ター(distribution center)から消費者への配送を基本とし ているのに対し,日本型モデルではこれに加えて,グルー プ内の店舗が商品の配送・受け取り拠点である「ハブ」 (Piotrowicz & Cuthbertson, 2014)として機能する。とくに
緻密かつ膨大な数の店舗ネットワークを構成するコンビ ニエンス・ストアのハブ機能は,日本型オムニチャネル を特徴づける重要な要素である。
もちろん,店舗を配送・受け取り拠点として活用する ことは,日本型オムニチャネル特有の方法でない。クリッ ク&コレクト(click and collect)や移動型クリック&コ レクト・ショップ(mobile click and collect shop)では, 消費者はネットで注文した商品を店舗で受け取ったり, 返品や交換を行ったりすることができる(Beck & Rygl, 2015;Piotrowicz & Cuthbertson, 2014)。しかしながら,日 本の大規模小売企業グループの場合,グループのコンビ ニエンス・ストアや他の店舗からなる巨大な店舗ネット ワークを分散型流通センター(decentralized distribution center:Hübner, Holzapfel, & Kuhn, 2016)として機能させ ることができる。このことは,日本型オムニチャネルに 次のようなメリットをもたらす。 第 1 に,企業レベルあるいは企業グループ・レベルで 店舗の商圏を重ねれば,カバーしうる地理的範囲は大き く広がり,受注から配送までのリードタイムを大幅に短 縮することができる。第 2 に,膨大な数の店舗を商品の 図 2 多業態小売企業と顧客セグメント訴求の関連
配送・受け取り拠点することにより,消費者の希望する 時間により柔軟に対応することができる。第 3 に,ネッ トスーパーに典型的に示されるように,ネットでの注文 に店舗の商品在庫から対応することができ,商品・在庫 の回転率が高まる。こうしたメリットの結果として第 4 に,小売企業の配送コストと消費者の買い物コストが削 減される。このように日本型オムニチャネルは,商品の 配送・受け取りに関するラスト・ワン・マイル問題に特 有の解決方法を提供する。 多業態オムニチャネルとロジスティクス・ハブとして の店舗ネットワークから特徴づけられる日本型オムニ チャネルの便益を消費者視点から整理してみよう。多業 態オムニチャネルがネット上のプラットフォームで提供 する品揃えは、百貨店,量販店,各種専門店,ネット販 売等、それぞれの業態が取り扱う商品を総合したもので あり,きわめて広範にわたり,かつ深い。消費者はそう した膨大な品揃えから,自身の求める最適な商品を探索、 選択、注文することができる。そして,注文された商品 は,宅配による自宅受け取りだけでなく,自宅や勤務先 に近い,あるいは通勤や帰宅途上など,グループの膨大 な数の店舗ネットワークから自身に最も都合の良い店舗 で受け取ることができる。こうして日本型オムニチャネ ルは,一連の購買プロセスにおける消費者コストを大幅 に削減し,それによって顧客満足を向上させるのである。 4.3 日本型オムニチャネルの実践的課題 一方で,多業態オムニチャネルならびにロジスティク ス・ハブとしての店舗ネットワークから特徴づけられる 日本型オムニチャネルでは,その特質ゆえにオムニチャ ネル一般の実践的課題がより先鋭的に現れることになる。 ①品揃えの管理 日本型オムニチャネルは,その多業態性から取扱商品 もまた,食品,日用雑貨,家電製品,衣料品を初めとし て数百万品目にも達する。このことは膨大な品揃えを有 する総合的なネット・サイトから購入することを可能と し,消費者に便宜性を提供する一方(Emrich et al., 2015), 業態を超えたオムニチャネルとして膨大な量と多様な種 類の商品・サービスを統合的に管理する必要性を課すこ とになる。 ②情報管理 日本型オムニチャネルにおいては,商品,販売,在庫・ ロジスティクス,そして顧客に関する情報もまた膨大な 量と種類になる。どのような商品が,いつ,どこで,ど のように仕入れられ,販売されたのか。商品在庫はどこ に,どれだけ保管され,どのように配送されるのか。誰 が,いつ,何を,どのように購買・利用したのか。商品・ 在庫・顧客に関するこうした多様な情報は,顧客にシー ムレスな買い物経験を提供するオムニチャネルを遂行す るためには,決定的に重要である。日本型モデルでは, 多業態性に基づく多種多様かつ膨大な情報を統合的に管 理する仕組みが必要となる。 ③組織構造 日本型オムニチャネルを構成する小売企業グループは, 経営・マーケティング活動をそれぞれ個別に遂行する多 くの企業から構成されており,個々の企業の組織構造や 管理様式は,組織単位で部分最適化されている。小売企 業グループが多業態であればあるほど,組織構造や管理 様式の多様性は増すことになり,そうした多様性を統合 的に管理し,日本型オムニチャネルを円滑に遂行するこ とは困難になる(近藤,2015)。 ④組織能力 これに関連して,それぞれの業態には固有のオペレー ションが存在し(Sousa & Voss, 2006),それを効果的・ 効率的に遂行するための組織能力が蓄積されている(近 藤,2010)。例えば,百貨店における部門別管理能力やア パレル・メーカーとの関係構築・管理能力,量販店にお けるチェーン・オペレーション能力や低コスト・オペレー ション能力,またコンビニエンス・ストアでは単品情報 管理能力や多頻度小口物流管理能力が重要な組織能力で あろう。日本型オムニチャネルの実践には,業態特有の 組織能力を企業あるいは企業グループ・レベルで編集す るよりメタレベルの組織能力の構築が必要となる。 ⑤ロジスティクス 日本型オムニチャネルのロジスティクスを考える場合, 垂直的なサプライ・チェーンに関わる問題(Piotrowicz & Cuthbertson, 2014;Tetteh & Xu, 2014)と業態間にわたる 水平的な在庫調整の問題(Gallino & Moreno, 2014; Schneider & Klabjan, 2013)の 2 つが指摘される。前者に おいては,顧客にシームレスな買い物経験を提供するた めには,時間(商品の注文から入手までのリードタイム) と空間(商品の入手場所)の 2 つの視点から課題を克服 しなければならない。後者においては,店舗,業態レベ ルで相互に商品在庫を調整し,ネット・チャネルと連動 させる仕組みが必要である。また,特定の業態が特定の 顧客経験と結びついていることを考慮すると(Berry et al., 2010),商品を受け取る店舗が属する業態は十分に配慮さ れなければならない。例えば,百貨店の取扱商品である 貴金属をコンビニエンス・ストアで受け取ることになれ
ば,その顧客経験は大きく損なわれてしまうだろう。 以上のような,品揃え,情報管理,組織構造,組織能 力,およびロジスティクスに関して,業態間の違いが大 きければ大きいほど,それを統合的に調整・統合するこ とは困難になる。また,そうした業態間で調整・統合さ れたチャネル管理は,チャネルごとの特性や柔軟性を失 わせ,市場への適応力を削ぐことに繋がるかもしれない (Neslin et al., 2006)。
5 日本型オムニチャネル研究の課題
オムニチャネル研究はまだ,その端緒についたばかり であり,研究すべき多くの領域が存在する。Cao and Li (2015)は,これまでのマルチチャネル,オムニチャネル 研究を踏まえて,概念枠組み,分析モデルの構築,定性 的アプローチによる探索的研究,および消費者調査に基 づく経験的証拠の収集,というトピックを指摘している。 また,Verhoef, Kannan, and Inman(2015)は,チャネル に焦点を当て,チャネルが成果に及ぼす影響,チャネル 間のショッパー行動,およびチャネル間の小売ミックス を研究の主題として挙げている。さらに彼らは,分析の 集計水準の観点から,小売企業レベル,小売チャネル・ レベル,および顧客レベルでのオムニチャネル研究を指 摘している。 こうした先行研究が掲げるオムニチャネル研究の課題, および日本型オムニチャネルの特質から,以下の点を日 本型オムニチャネルに関わる研究課題として挙げること ができる。 ①多業態オムニチャネル まず,日本型オムニチャネルの特徴である多業態オム ニチャネルの理論的考察を深めることである。これまで の議論で指摘したように,日本型オムニチャネルは複数 の業態から構成されるチャネルであり,そのために業態 を超えたオムニチャネルの統合的管理はきわめて複雑な ものとなる。単一業態のなかで店舗とネットを連動させ る米国型オムニチャネルに比べて,多業態オムニチャネ ルとしての日本型オムニチャネルがどのような固有の問 題を有するのかについて,本論文ではその一端を示した に過ぎず,より詳細な分析が必要とされる。とくに,業 態を管理する組織を小売企業グループ・レベルで調整し, そこでの多業態オムニチャネルを効果的に遂行する仕組 みが決定的に重要である。多業態オムニチャネルを機能 させ,シームレスな買い物経験を提供するためには,そ うした統合的管理の優れた仕組みの構築が条件となる。 ②オムニチャネル・オペレーション つぎに,顧客にシームレスな買い物体験を提供するオ ムニチャネルをオペレーションの側面から考察すること である。シームレスな買い物経験の提供には,サプライ・ チェーンの起点(生産,仕入れ)から終点(消費者)に 至るまでのロジスティクス,在庫,受発注,マーチャン ダイジング,顧客サービスのオペレーションが円滑に機 能していなければならない。とくに,オムニチャネルの オペレーションを効果的・効率的に遂行するために,ど のような資源・能力がどのように調整・統合されるべき であるのかは重要な問題である。さらに,日本型オムニ チャネルにおいては,多業態組織間での横断的な資源・ 能力の調整と配分というきわめて高度な企業グループ・ レベルでの問題解決をオムニチャネル小売業に課すこと になる。個々の業態において部分最適的に蓄積されてき たオペレーション遂行のための資源・能力をより上位レ ベルで編集することが求められるのである。 ③チャネル・コンフリクトとカニバリゼーション さらに,オムニチャネルにおいて潜在的・顕在的に発 生しうるチャネル間,業態間の水平的コンフリクトとサ プライ・チェーンにおける垂直的コンフリクトの態様, およびその調整メカニズムを分析しなければならない。 水平次元について,異なった業態によって異なった顧客 セグメントをターゲットとしうることはすでに指摘した とおりであるが,個々の業態が訴求する顧客セグメント が重複することは常態であり,この際,業態間で顧客セ グメントをめぐるカニバリゼーションとそれに伴うコン フリクトが生じる。この際,顧客セグメントをめぐる業 態チャネル間のコンフリクトとその対処方法を検討する ことが重要である。また垂直次元においては,商品の配 送に関わるロジスティクスについて,リードタイムや商 品の配送・受け取り拠点をめぐるコンフリクトが焦点と なる。リードタイムの短縮は顧客の待機コストを削減す る一方,垂直的な時間調整のコストを生み,その負担を 巡ってサプライ・チェーン組織間でコンフリクトが発生 することになる。 ④オムニチャネル小売企業の出自 また,企業の出自によって異なったオムニチャネル行 動が生み出されることが考えられる。すなわち,どの業 態に属する小売業か(例えば,百貨店か専門店か),ある いは店舗小売業かネット小売業かといったオムニチャネ ル小売業の出自が保有する資源や能力の違いを規定し, そうした資源・能力の相違が異なったオムニチャネル行 動をもたらすことが想定される。具体的に,それぞれの 業態がどのような固有の資源・能力を有し,それがオムニチャネル行動をどのように規定しているのかを明確に することが必要である。また,店舗小売業がネット小売 業を展開することによってオムニチャネル化する事例が, ネット小売業から店舗小売業に進出する事例に比べて多 いという現実は,オムニチャネル化により適した資源・ 能力の展開方向性の存在を示唆しているのかもしれない。 そうしたオムニチャネル化への資源展開の方向性はどの ような論理によって決定づけられているのかを明らかに することが重要である。 ⑤オムニチャネル化のプロセス これに関連して,小売企業のオムニチャネルに向けた 戦略行動のプロセスを理論的に考察することが必要であ る。ここでは,オムニチャネルを推進あるいは阻害する 要因に注目し,時系列で要因間の因果関係,ならびにそ のダイナミズムを検討することが課題となる。その際, オムニチャネルを成長機会と捉え,先行者優位(first-mover advantage)を求めて能動的に推進してきた小売企 業と,そうしたオムニチャネル小売業の発展を脅威とし て認識し,受動的な競争対応としてオムニチャネルに取 り組む小売企業では,オムニチャネル化のプロセスはど のように異なるのか,あるいは既存の資源・能力に基づ いたオムニチャネル化と他の小売企業を M&A 等により 取り込むことによるオムニチャネル化とでは,結果とし て遂行されるオムニチャネル行動がどのように異なるの かを明らかにすることも重要である。 ⑥日本型オムニチャネル・ショッパー 日本型オムニチャネルが存在するとすれば,それを利 用する特有の性質を持った日本型オムニチャネル・ショッ パーが存在するはずである。日本型オムニチャネル・ ショッパーに関しては,次のような研究課題が設定され る。すなわち,複数の業態チャネルをシームレスに利用 する日本型オムニチャネル・ショッパーは,どのような 買い物行動を取っているのか。彼らは単一業態のオムニ チャネル・ショッパーと比較して,顧客属性,買い物行 動,支出等に関してどのように異なるのか。彼らは自身 のニーズに沿って業態チャネルを使い分けているのか, あるいは業態の相違を意識していないのか。そうした日 本型オムニチャネル・ショッパー行動はどのような要因 によって規定されているのか。このように消費者を取巻 く日本型オムニチャネル環境と彼らのオムニチャネル買 い物行動を関連づけて考察する視点が必要である。 ⑦定性的・定量的アプローチ 上記の理論的研究課題について,事例分析による定性 的研究ならびにアンケート調査による定量的研究を通じ て日本型オムニチャネルの特性を実証的に検討しなけれ ばならない。これまでのオムニチャネルの研究蓄積を踏 まえて,チャネル管理,チャネル組織,オムニチャネル 戦略,そしてその成果を統合的に分析しうる枠組みを設 定する。この枠組みに基づいて,オムニチャネル小売業 を対象として定性的な事例分析を行うことにより,実証 分析のための作業仮説を導出する。そして,オムニチャ ネル小売業へのアンケート調査によりオムニチャネルの 構造を定量的に理解する。こうした一連の定性的・定量 的研究を通じて,より強固なオムニチャネル理論を構築 する。 ⑧国際比較 最後に,国際的な観点からオムニチャネルを比較・検 討することが求められる。本論文では,研究上の標準型 として位置づけられる米国型オムニチャネルに対して, 日本型オムニチャネルの存在に焦点を当てて検討してき た。しかし,小売業の戦略様式は,その歴史的な発展プ ロセスや競争環境によって多様でありうる。そうである とすれば,欧州型オムニチャネル,あるいはより特定的 に英国型,ドイツ型といったさまざまな類型が存在する だろうし,またオムニチャネル・ショッパーの特性も異 なるだろう。こうした問題意識からオムニチャネル研究 を展開することによって,日本型オムニチャネルやオム ニチャネル・ショッパーの特性を国際的に相対化すると ともに,国レベル,あるいは地域レベルでのオムニチャ ネルの構造を鮮明にすることができる。こうした国際比 較を実施する際、オムニチャネル研究者の国際的なネッ トワークづくりが不可欠となるだろう。
謝辞
本論文に対して,『流通研究』編集長,同編集委員,な らびに特集論文ゲストエディターの各先生から貴重なコ メントをいただきました。記して感謝いたします。 本研究は,日本学術振興会科学研究費補助金(研究種 目:基盤研究 C,課題番号:15K03719)の助成を受けた ものです。注
1) Piotrowicz and Cuthbertson(2014)によれば,次のような新 技術の出現がオムニチャネル化に大きな影響を及ぼした。 それらは,スマート・モバイル機器(スマートフォン,タ ブレットなど),関連ソフトウェア(モバイル・アプリ, モバイル決済,e クーポン,デジタルフライヤーなど), ビッグデータやクラウド・コンピューティング技術,新し い店内技術(バーチャル・スクリーン,インテリジェン
ト・セルフサービス・キオスク,デジタル・サイネージ) や QR コード,およびソーシャル・メディアである。 2) 一方,次のようなマルチチャネル化を阻害する要因も存在 する(Zhang et al., 2010)。例えば,高い人的サービスを提 供する店舗小売業は,ブランド・イメージの毀損を恐れ て,ネット・チャネルを付加したり,そのチャネルで高額 商品を販売することに躊躇するかもしれない。また,ネッ ト・チャネルを運用する企業にとっては,商圏を維持する ために全国規模で店舗を展開するコストは禁止的なものと なる。 3) クロスチャネルに関しては,「データ統合のレベルがシー ムレスといえないほど低い場合をクロスチャネルと呼ぶ場 合もある」という理解もある(高嶋・金,2017,p. 2)。 4) 橋爪・成生・柯(2017)は,モデル分析から,店舗業者が ネット・チャネルを併設したとしても,それがマルチチャ ネルに留まる場合には,ショールーミングへの対応策とは ならないが,チャネル間を統合したオムニチャネルでは ショールーミングが解消され,店舗業者の利潤が増えるこ とを明らかにしている。 5) 近年,商品・サービスの知覚から購入にいたる消費者の一 連の購買行動プロセスに焦点を当てたカスタマー・ジャー ニー(customer journey)が注目されているが,こうした消 費者行動の理解はオムニチャネルにおけるそれと親和性が 高い。カスタマー・ジャーニーについては,Lemon and Verhoef(2016)に詳しい。
6) このことは,Verhoef, Kannan, and Inman(2015)の記述に も端的に表れている。彼らは既存研究を踏まえつつ,オム ニチャネル研究のレベルとして,小売企業レベル,小売 チャネル・レベル,そして顧客レベルの 3 つを挙げている が,そこに業態レベルは考慮されていない。
7) ほかには,マルチチャネル・カスタマー(multichannel customer:Kushwaha & Shankar, 2013;Neslin et al., 2006; Neslin & Shankar, 2009;Thomas & Sullivan, 2005),ハイブ リッド・カスタマー(hybrid customer:Wind & Mahajan, 2002)といった呼称がある。
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受稿 2017 年 9 月 6 日,受理 2017 年 12 月 23 日
“Characteristics of Japanese type of omnichannel and its theoretical issues”
Kimihiko Kondo
Otaru University of Commerce 執筆代表者:近藤公彦 E-mail: [email protected]