• 検索結果がありません。

TOPICS メッセンジャー RNA 医薬を実現する DDS 開発と疾患治療への応用 * 位髙啓史 第 9 回 日本 DDS 学会水島賞によせて mrna-based therapeutics as a new medical strategy: 9 th Mizushima Award, Japa

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "TOPICS メッセンジャー RNA 医薬を実現する DDS 開発と疾患治療への応用 * 位髙啓史 第 9 回 日本 DDS 学会水島賞によせて mrna-based therapeutics as a new medical strategy: 9 th Mizushima Award, Japa"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1.はじめに  メッセンジャー RNA(mRNA)を直接クスリと して体内に投与するというアイディアは新しいも のではなく、ウィルスベクターを用いずプラス ミド DNA(pDNA)を直接筋注して遺伝子発現さ せた最初の報告例である Wolff の有名な Science の論文1)で、合成された mRNA の投与実験も すでに行われている。ただし、遺伝子発現量は mRNA より pDNA の方がはるかに大きかった。 mRNA が pDNA に劣った理由としては、生体内 での非常に不安定であることが原因の 1 つと考察 されている。ただ、mRNA から抗原提示するこ とによるワクチンへの応用がすでに言及されてい ることは、時代を先取りしたアイディアとして興 味深い。  しかし、その後の遺伝子治療・デリバリーの研 究は pDNA が中心となり、mRNA が医薬品とし て臨床応用された例は、筆者の知る限りまだな い。mRNA からのタンパク質翻訳効率を高める codon optimization など基礎的な研究はあるが、 mRNA の体内投与の試みは、動物実験レベルで もほとんどなく、Wolff 論文の後も久しく顧みら れていなかったというのが実情であろう。想像で あるが、世界中の遺伝子デリバリーをテーマとす る研究室で、密かに mRNA 投与を試してみた話 はおそらく 1 つや 2 つではないと思われる。しか

TOPICS

位髙啓史

メッセンジャー RNA 医薬を実現する

DDS 開発と疾患治療への応用

Laboratory of Clinical Biotechnology,

Center for Disease Biology and Integrative Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo 東京大学 大学院医学系研究科疾患生命工学センター 臨床医工学部門

mRNA-based therapeutics as a new medical strategy: 9th

Mizushima Award, Japan Society of DDS

Keiji Itaka*

第 9 回 日本 DDS 学会水島賞によせて

(2)

常に不安定であること、また自然免疫機序を介 した強い免疫原性を持つことにある。一方、本 来 mRNA は細胞内に普遍的・恒常的に存在する 物質である。生体はどのように自己 mRNA と外 来 mRNA を区別しているのか?実は「そのよう な仕組みはない」が回答である可能性が高い。ま だ完全に解明されているわけではないが、生体 は物質として外来 mRNA を認識するわけではな く、mRNA の細胞内局在がポイントとなるよう である。すなわち、本来存在すべきでないところ に mRNA が存在すると、それが集中的に攻撃さ れるという仕組みだと考えられている。  したがって、mRNA を医薬品として用いるた めには、細胞内の「然るべきところ」に mRNA を 安定な形で送り届ければよく、後は細胞本来の翻 訳メカニズムを通してタンパク質発現することに なる。まさに DDS の出番である。  実のところ、上述のベンチャー企業による治 験は、mRNA 投与法としては、mRNA をそのま ま局所投与(ただし免疫原性を制御された mRNA が用いられている)、または既存の transfection 試薬(脂質系)を応用した投与が行われているが、 現状ではその導入効率は決して高いものではな い。学会などで彼らと情報交換しても、DDS が 最大の課題の 1 つであるとの問題意識は共通して いる。また、導入される遺伝子は分泌型タンパク 質がほとんどである。裏を返せば、ある程度限ら れた割合の細胞からタンパク質が分泌されるだけ で一定の効果が期待できる疾患ターゲットでなけ れば、治療効果を得ることは難しい状況といえる。 3. ナノDDSによる

mRNAの効率よい生体内送達  なぜ mRNA を用いるのがよいのかという議論 は、DDS 学会誌では釈迦に説法とも思われるの で、本稿では詳細を述べないが、「これまでクス リにならなかった物質をクスリにする」という観 点で、mRNA 医薬実現には DDS が重要な役割を 果たす。筆者らは、ポリエチレングリコール(PEG) と生体適合性カチオンポリマーを連結したブロッ ク共重合体をベースとするキャリアの研究開発 し、発現が低い、mRNA 精製コストが(少なくと もラボで用いる程度の量では)pDNA と比べても 非常に高いなどの理由で、本格的な取り組みには いたらなかったのであろう。  mRNA の リ バ イ バ ル の き っ か け と し て は、 5’cap 付加の効率を飛躍的に高めた ARCA 法 (anti-reverse cap analogues)の確立は外せない2)

それ以前は capping の方向を制御できなかったた め、有効に cap 付加された mRNA の収率は 1/2 に止まっていたが、この ARCA 法によりほぼ 100%の効率で cap 付加 mRNA を精製すること が可能となった。現在はキット化もされており、 タンパク質を効率よく発現する mRNA を容易に つくることができる。   ま た mRNA 医 薬 品 実 用 化 の 観 点 か ら は、 mRNA の免疫原性を制御するための核酸修飾法 の進歩が重要である。mRNA は自然免疫メカニ ズムを刺激して、生体内では強い炎症反応を惹起 することが知られる。mRNA の医薬品応用には、 この免疫原性の制御が必須であるが、2000 年代 に入り、pseudouridine、チオール化 uridine、メ チル化 uridine、cytidine などの修飾核酸の基礎 研究を通じて、mRNA を適切に核酸修飾する ことにより、生体内での免疫原性を制御できる ことが明らかになってきた。種々の修飾プロト コールが報告され3,4)、これらの技術をベースと して、いくつものベンチャー企業が米国、ドイツ などを中心に設立されている。現在、これら企業 が mRNA 医薬品実用化の動きを主導しており、 mRNA ワクチンは臨床治験がすでに始まってい る。一方、疾患治療目的(protein replacement therapy)の mRNA 投与は、まだ世界的にも動物 モデルによる基礎研究段階だが、その可能性に急 速に注目が集まり始めている状況といえる。論 文数も増えており、一昨年 Nat Rev Drug Discov 誌にも mRNA―based therapeutics として総説が 掲載された5)

2.DDS による mRNA 医薬実用化

 前述のように、mRNA を医療応用するうえで の課題は、mRNA が生体内、特に細胞外では非

(3)

を行ってきた。mRNA など核酸 分子とブロック共重合体を混合す ると、内部に核酸分子が凝縮され た状態で内包され、周囲を PEG で覆われたナノスケール会合体 (ミセル型キャリア)が形成される (図 1)6,7)。会合体内では、ポリカ チオンと静電相互作用で結合した 核酸分子は、核酸分解酵素に対す る抵抗性を増し、一方、キャリア 表面の PEG によるステルス効果 で、生体内で凝集や周囲のタンパ ク質との非特異的な結合が抑制さ れる。  mRNA キャリアとしての性能を発揮するうえ で、以下の3点が重要なポイントとなる。 3―1. 細胞内環境に対する応答性  DNA や他の核酸医薬と共通する問題であるが、 mRNA がクスリとなるためには、個々の細胞に mRNA が取り込まれ、機能発現する必要がある。 そのために、細胞近傍に mRNA を送達し、細胞 に取り込ませるだけでなく、さらに細胞質内で迅 速に mRNA を放出させ、タンパク質発現につな げる必要があり、細胞内環境への応答性が重要と なる。従来遺伝子導入に応用されたポリマーのな かで、ポリエチレンイミン(PEI)が最も高い効率 を持つポリマーの 1 つであることは衆目の一致 するところと思われ8)、PEI の重要な性質は、分 子内に pKa の異なるアミンが共存することによ る酸性環境下でのバッファー能(プロトンスポン ジ効果)にあることはよく知られる。PEI キャリ アがエンドサイトーシスで細胞に取り込まれたの ち、エンドソームの酸性環境に応答してキャリア の迅速な細胞質内移行が起こる。  しかし、PEI はこれまで臨床応用された事例は ほぼゼロであると思われ、その理由は PEI の高 い毒性にある。そこで筆者らは PEI の構造・機 能に学びつつ、より安全・効率的に核酸分子を細 胞内輸送することができるシステムの開発に取り 組んだ。さまざまなアミノ基連結構造を持つポリ マーを合成し、培養細胞などを用いたスクリー ニングを行った。その結果、ポリアスパラギン酸 を主鎖とし、側鎖として 3 つのアミド基がエチ レン鎖によって連結されたジエチレントリアミ ン(DET)が連結された P[Asp(DET)]が、高い 性能を持つことを見出した(図 2)9)。特徴として、 側鎖アミンのプロトン化状態が pH=7.4 でモノプ ロトン化、pH=5.5 ではダブルプロトン化と明確 に区別され、その結果ポリマーと細胞膜との相互 作用が pH 環境に応答して劇的に変化する。すな わち、細胞外の環境に相当する pH=7.4 では、モ ノプロトンポリマーと細胞膜との相互作用は比較 的弱いため、細胞膜の非特異的な傷害は抑制され る一方、エンドサイトーシスにより細胞内に取り 込まれたのちは、pH=5.5 付近まで低下するエン ドソーム内の酸性環境に応答してダブルプロトン 化したポリマーが、エンドソーム膜と積極的に相 互作用して、キャリアのエンドソームから細胞質 への移行を促進する。 3―2. mRNA 送達後は無毒の低分子まで 迅速に分解する安全性  この P[Asp(DET)]のもう 1 つの重要な性質 は、37℃では急速に自己分解する生分解性であ る。分解は主鎖切断の形で起こり、最終的には 短期間のうちに Asp(DET)モノマーまでいたる。 ポイントは、この分解産物が局所に高濃度で存在 してもほとんど毒性を示さないことである10)。そ 図 1 ミセル型キャリア ミセル型キャリア ポリカチオン 数10nm mRNA 静電相互作用に よる自律的会合 ポリエチレングリコール(PEG)

(4)

の結果、mRNA などを送達した後、ポリマーが 組織内や細胞内に残っても、急速に分解されるこ とによって、その毒性は最小化されることにな る。PEI の場合、生理的環境下でほとんど分解さ れないので、細胞で高い遺伝発現が得られても、 その後数日程度の間に徐々に毒性が顕在化すると いう遅発性の毒性(蓄積毒性)が報告されるが11) P[Asp(DET)]の生分解性はこの蓄積毒性を回避 するための重要な性質となる。  このタイプの毒性は培養細胞での毒性試験と して一般的な MTT アッセイなどでの評価は困難 で、内部の遺伝子発現レベルでの変動を検出する マテリアルゲノミクス的なアプローチが必要と なる。筆者らは、P[Asp(DET)]と非分解性の対 照ポリマー(PEI または自家合成の非分解性ポリ マー)を用いて、MTT アッセイでも明らかな毒 性が検出されない条件(もちろん細胞の見た目に も変化はない)で遺伝子導入したのち、細胞の内 図 2 (上)エチレンジアミン繰り返し構造を持つポリマー(ポリアスパルタミド誘導体)と(下)pH に応答したプロトン化構造の変化と、ス ムーズなエンドソーム脱出のメカニズム ポリアスパルタミド誘導体

EDA

細胞外(pH 7.4) 偶数の場合の側鎖アミン構造 膜融合能:小 m=1 m=2 m=3 m=4

TEP

TET

DET

H N H N H N HN H N H N NH2 NH2 NH2 NH2 N H N H N H NH 膜融合能:大 R H2 + N NH3 + R―N NH H H+ (CH2-CH2-NH)m-H NH2 HN O n N H

エチレンジアミン繰り返し数による膜融合能の変化 細胞膜 エンドソーム(pH 5.5) 細胞質(pH 7.2)

(5)

在性恒常遺伝子の発現プロファイルを評価したと ころ、対照ポリマーでは投与後 1 日以上経過して から内在性遺伝子発現量の大きな変動が観察され た一方、P[Asp(DET)]ではその変化がほとんど ないことを確認した12)。転写因子遺伝子導入によ る細胞分化誘導を試みる実験では、導入した転写 因子自体の発現量はほぼ同等であるにもかかわら ず、P[Asp(DET)]では想定通り細胞分化が誘導 されるのに対し、対照ポリマーでは分化が観察さ れないという結果が得られている。すなわち、正 常細胞の機能活性化、分化誘導を図る目的などで 遺伝子導入を行う場合、単に外来遺伝子を発現さ せるだけでは不十分で、細胞の状態を維持するた めの高い次元での安全性管理が必要となることが わかる。 3―3. mRNA との結合力制御による mRNA 徐放、タンパク質持続発現  3―1 の項と関連して、mRNA キャリアとして の機能性をさらに高める意図で、P[Asp(DET)] の構造をさらに改変したポリマーの評価も進め た。先述のように、P[Asp(DET)]側鎖はエチレ ン鎖を間に挟んでプロトン化可能なアミノ基が 2 つ連結されるが、類縁ポリマーとして、このアミ ノ基繰り返し数を変化させたポリマーを種々合成 して評価した。すると興味深いことに、繰り返し 数が 2(DET)および 4 のものでは、pH に応答し たモノプロトン/ダブルプロトンの構造変化が明 瞭で、効率よいエンドソーム脱出機能が得られた 一方、アミノ基繰り返し数が奇数(1,3)のポリマー では、明確な pH 応答性は得られず、キャリア のエンドソーム脱出の効率は低かった(図 2)13) pDNA を用いた transfection では、この違いが明 瞭に反映され、高いエンドソーム脱出機能を持つ 偶数グループで、有意に高い遺伝子発現が得られ た。  ところが、mRNA transfection では若干様相 が異なった。投与直後(数時間から半日程度)のタ ンパク質発現は pDNA と同様に偶数が奇数を上 回るが、さらに 1 日を超えて培養を続けると、繰 り返し数 3 のポリマーによる発現が持続的に増 加し、偶数群を逆転する14)。理由として、奇数ポ リマーを用いた mRNA 会合体は、血清やヌクレ アーゼに対する耐性が有意に向上しており、特に mRNA の投与の際は、キャリアの安定性がより 重要なファクターとなるためと考えている。この 結果の重要性として、偶数群、奇数群の使い分け によって、早くタンパク質発現が欲しい場合、持 続性な発現が必要となる場合など、必要に応じて 発現パターンを選択・制御可能となることが考え られ、再生医療などへの適応において重要な性質 となることが想定される。 4.mRNA による疾患モデル動物治療  これまで述べたナノ DDS(ミセル型キャリア) を用いて、mRNA 生体内投与およびその治療効 果を、モデル動物を用いて検証した。mRNA の 重要な標的の 1 つである神経系組織では、脊髄 くも膜下腔への mRNA 搭載ミセル型キャリア (PEG―P[Asp(DET)]/mRNA)投与により、髄液 中をキャリアが安定に広がることによって、脳か ら腰髄まで広い範囲でタンパク質発現が得られ た15)。さらに mRNA(wild type mRNA)投与後の 炎症反応を、脳組織における炎症性サイトカイ ン、1 型インターフェロンの産生を指標に調べた ところ、naked mRNA の形で投与すると、当然 タンパク質発現はまったく得られないまま強い炎 症反応が惹起されるのに対し、キャリアを用いた 投与では生食投与コントロールと同程度の炎症惹 起に止まった。すなわち、核酸修飾を行わない WT mRNA であっても、キャリアに内包するこ とによって免疫反応が抑制される可能性が示唆さ れる。  神経系疾患治療の試みとして、薬剤誘導嗅覚障 害マウスに対して、脳由来神経栄養因子(BDNF) を 発 現 す る mRNA の 投 与 実 験 を 行 っ た16) mRNA をキャリアに内包して鼻腔内投与すると、 嗅覚神経終末を含む粘膜固有層に広範なタンパク 質発現が得られ、嗅覚障害からの早期機能回復、 嗅上皮の完全な再生が確認された(図 3)。先行実 験で BDNF 発現 pDNA やタンパク質(BDNF)そ のものの投与を試みているが治療効果は得られて おらず、神経細胞に一定の持続性をもって広範に

(6)

タンパク質発現させることが可能な mRNA の有 用性が示唆される。  さらに神経系の究極のターゲットといえる脳に 対しても試みを始めている。mRNA キャリアを 脳室内投与により、脳室周囲の神経細胞に広範に タンパク質発現させることが可能である。アルツ ハイマー病の原因物質であるアミロイドベータ (Aβ)を分解する働きのあるネプリライシンを用 いて、これを発現する mRNA を投与することに よって、脳内の Aβを減少させる結果を得た17) まだ神経症状を抑える治療効果を得るまでにはい たっていないが、脳疾患に対する mRNA の可能 性は注目されるところである。  mRNA は当然神経系以外にも広範な適応があ り、対象組織・臓器の細胞に広範に導入される 性質は共通している。この性質を肝臓へのハイ ドロダイナミクス法投与で詳細に解析すると、 細胞個々のタンパク質発現量は pDNA の投与 と比べて低い傾向があるものの、標的臓器中の 100%近い細胞で発現が観察される18)(図 4)。興 味深いことに、蛍光標識したサンプルを用いる と、pDNA、mRNA いずれも細胞内へ取り込ま れている量に差はなく、一方、核輸送の制約が、 pDNA では発現細胞数が少ない原因であること がわかった。  治療戦略の観点からは、mRNA は細胞個々に タンパク質発現させることが比較的容易であるこ とから、個々の細胞の機能制御、例えば抗アポ トーシス因子を用いて細胞死抑制を目的とする治 療の発想が生まれる。肝細胞が急速にアポトーシ スに陥る劇症肝炎のモデル動物を用いて、抗アポ トーシス因子(Bcl―2)を肝へ投与すると、mRNA 図 3 mRNA の点鼻投与(文献 16 より改変) (上)GFP発現mRNA 投与による粘膜上皮組織におけるタンパク質発現 (下左)嗅覚障害モデル動物を用いた治療実験(嗅覚障害誘導→ BDNF発現mRNA 投与→行動試験による評価) (下右)嗅上皮の組織学的評価(mRNA 投与後 28 日) mRNAによる 早期機能改善 0 50 100 150 200 250 300 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 床敷きの下に隠したチーズを 見つけるまでの時間(秒) 鼻腔内 粘膜固有層 嗅上皮 バッファー のみ投与 BDNF発現 mRNA投与 * 投与後 日数 コントロール BDNF発現mRNA *

(7)

を用いた場合のみ、有意な細胞死抑制効果が得ら れた18)。Bcl―2 などを治療に用いる場合、導入し た核酸がゲノムに取り込まれないことも絶対の条 件である。したがって、このような治療戦略は mRNA 医薬によって初めて成立するものといえ、 新しい方向性として今後多種多彩なアイディアが 産まれてきそうである。  最後に mRNA 医薬の関節軟骨再生への応用を 紹介する。関節軟骨の加齢や外傷既往による変性 (変形性関節症:OA)は、周知のように、高齢者 の運動機能低下の原因の 1 つとして喫緊の問題で ある。軟骨細胞は成体では軟骨基質内でサイレン トに存在し、血流も通じていないため、軟骨は 外傷や変性を生じても再生能は極めて乏しい。一 方、分子生物学的研究では、軟骨代謝を制御する 種々のシグナル分子が解析されており、これらを 強制発現させることにより、軟骨細胞分化や軟骨 基質産生などの機能を亢進させる可能性がある。 代表的な分子に runt-related transcription factor

(RUNX)1 という転写因子があり、これを関節軟 骨内で「眠っている」軟骨細胞に導入することに よって、軟骨再生させる可能性を考えた。  このような転写因子を細胞内に導入する手段と して、タンパク質のままでの導入は不可能で、遺 伝子導入の形を取る必要がある。もちろんウィル スベクターでも導入は可能だが、関節変性疾患に その都度ウィルスを使うことは、コスト面や安全 面から現実的ではない。一方、mRNA であれば、 軟骨基質内の個々の軟骨細胞に安全かつ効率的に 到達できる可能性がある。  mRNA を関節内投与するために、PEG 鎖長や カチオンの最適化を行い、先述のアミノ基繰り返 し数 3 のタイプ(TET)が優れた導入能を持つこ とを見出した19)。GFP 発現 mRNA の投与により、 基質内の軟骨細胞に広く GFP 発現することが観 察された(図 5)。発現持続は数日程度だったので、 3 日おきに関節内投与するプロトコールを設定し た。靱帯・半月板切除による関節不安定性から 図 4 肝への mRNA 投与(文献 18 より改変) (左)GFP発現mRNA または pDNA 投与後の肝組織蛍光画像(投与後 24 時間)  (右)ヒストグラム mRNA pDNA

(8)

誘導される変形性関節症モデル動物(病態はヒト OA と同じ)に対して、約 1 カ月 RUNX1 mRNA を投与すると、対照群と比べ軟骨変性の進行を有 意に抑制した。mRNA が軟骨細胞に直接働きか ける disease-modifying drug となりうる可能性を 示す重要な成果と考えている。RUNX1 以外の因 子の探索に加え、数日おきの反復投与を必要とす ること、軟骨以外の細胞にも発現するであろうこ とに対する安全性評価、どのような OA 患者さ んを対象にすべきかなど、まだまだ臨床応用に向 けては多くの課題が残るが、細胞移植を必要とし ない軟骨再生治療実現を目指して検討を進める予 定である。 5.おわりに  今回の日本 DDS 学会水島賞受賞は、筆者自身 大変光栄であるとともに、mRNA 医薬の実用化 に向けた使命をいただいたものと考えている。従 来の創薬プロセスは、①誘導したい生物学的作用 を同定し、②その作用を誘導する薬剤(低分子化 合物)をスクリーニングし、③毒性を検証する、 といった多くのステップを要するが、特に候補薬 剤のスクリーニングの歩留まりは非常に低い。一 方 mRNA は、細胞内シグナルなどの分子生物学 的知見を直接 mRNA 投与の形で応用することが 可能で、創薬のパラダイムチェンジにつながる技 術である。まだまったく実績のない新しい医薬品 カテゴリーであり、実用化に向けて紆余曲折は多 いだろうが、力及ぶ限りの努力をしていきたい。 謝辞  この研究は東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学セ ンター臨床医工学部門および工学系研究科マテリアル工学 専攻・片岡研究室を中心に行われたものです。主宰の片岡 一則教授には、日々のご指導およびすばらしい研究環境を つくっていただいたことに、改めて厚く御礼申し上げます。 また、ここに紹介した成果はすべて研究室メンバーの方々 との熱い共同作業の賜です。誌面の関係で一人一人のお名 前をあげることができませんが、皆様にはこの場を借りて 心より御礼申し上げます。 図 5 mRNA の関節内投与(文献 19 より改変)

(上) GFP発現mRNA 投与後の軟骨組織  (下)変形性関節症モデルマウスに対する RUNX1 mRNA の投与

RUNX1 mRNA GFP(免疫染色)

コントロール

(9)

文献

1) Wolff JA, et al. Direct gene transfer into mouse muscle in vivo. Science 247, 1465-1468 (1990) 2) Stepinski J, et al. Synthesis and properties of

mRNAs containing the novel "anti-reverse" cap analogs 7-methyl(3'-O-methyl)GpppG and 7-methyl (3'-deoxy)GpppG. RNA 7, 1486-1495 (2001) 3) Kariko K, et al. Incorporation of pseudouridine into

mRNA yields superior nonimmunogenic vector with increased translational capacity and biological stability. Mol Ther 16, 1833-1840 (2008)

4) Kormann MS, et al. Expression of therapeutic proteins after delivery of chemically modified mRNA in mice. Nat Biotechnol 29, 154-157 (2011)

5) Sahin U, et al. mRNA-based therapeutics - developing a new class of drugs. Nat Rev Drug Discov 13, 759-780 (2014)

6) Itaka K, et al. Recent development of nonviral gene delivery systems with virus-like structures and mechanisms. Eur J Pharm Biopharm 71, 475-483 (2009)

7) Itaka K, et al. Progress and prospects of polyplex nanomicelles for plasmid DNA delivery. Curr Gene Ther 11, 457-465 (2011)

8) Boussif O, et al. J. P. A versatile vector for gene and oligonucleotide transfer into cells in culture and in vivo: polyethylenimine. Proc Natl Acad Sci U S A 92, 7297-7301 (1995)

9) Kanayama N, et al. A PEG-based biocompatible block catiomer with high buffering capacity for the construction of polyplex micelles showing efficient gene transfer toward primary cells. ChemMedChem 1, 439-444 (2006)

10) Itaka K, et al. Biodegradable polyamino acid-based polycations as safe and effective gene carrier minimizing cumulative toxicity. Biomaterials 31, 3707-3714 (2010)

11) Moghimi SM, et al. A two-stage poly(ethylenimine) -mediated cytotoxicity: implications for gene transfer/therapy. Mol Ther 11, 990-995 (2005) 12) Masago K, et al. Gene delivery with biocompatible

cationic polymer: pharmacogenomic analysis on cell bioactivity. Biomaterials 28, 5169-5175 (2007) 13) Uchida H, et al. Odd-even effect of repeating

aminoethylene units in the side chain of N-substituted polyaspartamides on gene transfection profiles. J Am Chem Soc 133, 15524-15532 (2011)

14) Uchida H, et al. Modulated protonation of side chain aminoethylene repeats in N-substituted polyaspartamides promotes mRNA transfection. J Am Chem Soc 136, 12396-12405 (2014)

15) Uchida S, et al. In vivo messenger RNA introduction into the central nervous system using polyplex nanomicelle. PLoS One 8, e56220 (2013)

16) Baba M, et al. Treatment of neurological disorders by introducing mRNA in vivo using polyplex nanomicelles. J Control Release 201, 41-48 (2015) 17) Lin CY, et al. Messenger RNA-based therapeutics

for brain diseases: An animal study for augmenting c l e a r a n c e o f b e t a - a m y l o i d b y i n t r a c e r e b r a l administration of neprilysin mRNA loaded in polyplex nanomicelles. J Control Release 235, 268-275 (2016)

18) Matsui A, et al. Messenger RNA-based therapeutics for the treatment of apoptosis-associated diseases. Scientifi c reports 5, 15810 (2015)

19) Aini H, et al. Messenger RNA delivery of a cartilage-anabolic transcription factor as a disease-modifying strategy for osteoarthritis treatment. Scientific reports 6, 18743 (2016)

参照

関連したドキュメント

次代の社会を担う子どもが健やかに生まれ、育成される環境を整備すると

状態を指しているが、本来の意味を知り、それを重ね合わせる事に依って痛さの質が具体的に実感として理解できるのである。また、他動詞との使い方の区別を一応明確にした上で、その意味「悪事や欠点などを

状態を指しているが、本来の意味を知り、それを重ね合わせる事に依って痛さの質が具体的に実感として理解できるのである。また、他動詞との使い方の区別を一応明確にした上で、その意味「悪事や欠点などを

〜30%,大腸 10%,食道 10%とされ る  1)   .発育進 展様式として壁内発育型,管内発育型,管外発育 型,混合型に分類されるが,小腸の

M407 のグルクロン酸抱合体である M583 は胆汁中に検出されたが、糞中では検出されな かったため、胆汁排泄された M583 が消化管内の

睡眠を十分とらないと身体にこたえる 社会的な人とのつき合いは大切にしている

ゼオライトが充填されている吸着層を通過させることにより、超臨界状態で吸着分離を行うもので ある。

攻撃者は安定して攻撃を成功させるためにメモリ空間 の固定領域に配置された ROPgadget コードを用いようとす る.2.4 節で示した ASLR が機能している場合は困難とな