ゆらぎの中の
生体ナノ分子機械
http://ishiken.free.fr
石川顕一
物質・生命一般
「シミュレーションで分かる脳と生体」
工学部システム創成学科Bコース
(シミュレーション・数理社会デザインコース)
生体分子や細胞はゆら ぎにさらされている
• 周囲の水分子の衝突(熱ゆらぎ)
• 細胞シグナルのゆらぎ・誤差
• 環境中の雑音(ノイズ)
ナノメートルサイズの生体分子やミクロンサイズ の細胞にとって、これらのゆらぎや誤差(ノイ ズ)はとても大きい。
生体はゆらぎとどう付き 合っているのか?
ゆらぎを克服する。
•
環 状 ア デノ シ ン 1 リ ン 酸
(cAMP)のある方へ向かう細
胞性粘菌の細胞内情報処理
ゆらぎを克服する
細胞性粘菌
環状アデノシン1リン酸(cAMP)
濃度の濃い側
それでも粘菌は迷わない!
生体はゆらぎとどう付き 合っているのか?
ゆらぎ(雑音)を利用する。
• ザリガニ(水の動きから天敵を感知)
• コオロギ(気圧の変化から天敵を感知)
• ヘラチョウザメ(電気信号からプランク トンを感知)
微弱な信号を検知しないといけない…
ゆらぎ(雑音)を利用する。
雑音レベル40 雑音レベル120 雑音レベル400
適度な雑音は生物にとって有利 http://neurodyn.umsl.edu/sr/
ゆらぎを克服する
細胞性粘菌
• キイロタマホコリカビ
Dictyostelium Discoideum
• アメーバ状の生活と、
菌類のような子実体 を、その生活環の中に 持っている微生物
• モデル生物:分子生物
学において、普遍的な 生命現象の研究に用い られる生物
細胞性粘菌の走化性
細胞性粘菌
環状アデノシン1リン酸(cAMP)
走化性
走化性
細胞が誘引物質源のある方向を検出し それに向かって移動する性質
様々な生物過程において重要な役割
• 免疫
• 傷の治癒
• 形態形成(形作り)
集合・形作りの連絡信号
集合期
驚異の高感度
濃度 濃度勾配
ダイナミックレ ンジ
8.0 × 10−10 M
4.0 × 10−12 M/µm
107
0 3 6 9
-5ミクロン 5ミクロン
濃度の濃い側 10μm 80000個の受容体
(細胞のカギ穴)
cAMP分子
80000
個のカギ穴のうちいく つに
cAMPがついてるか
cAMP + R cAMP · R
cAMP 80000個中 40000個中
642.8 321.4
634.9 317.5
627.0 313.5
8.0 × 10−10 M 7.9 × 10−10 M 8.1 × 10−10 M
決定論的な(ゆらぎを考えな い)シミュレーション
0 100 200 300 400
前側 後ろ側
0 3 6 9
-5ミクロン 5ミクロン
cAMP濃度
わずかではあるが、確実に前側 の結合度が高い。
カギ穴の結合度
ゆらぎを考えないシミュレー ションの問題点
• cAMP
が結合しているカギ穴の数(結合 度)が小数になってしまう。
•
結合数がいつも同じになってしまう。
•
サイコロを
12回振って
6の目が出る回
数の平均は
2回だが、いつも
2回なわけ
ではない。
ゆらぎを考慮した シミュレーション
ポイント→確率を考える
cAMP + R ⇒k1 cAMP · R 0.250
0.50 0.75 1.00
∆t 時間 結合確率 p
結合確率 p = 1 − e−k1[cAMP]∆t
ゆらぎを考慮した シミュレーション
時間ステップ ∆t を設定
一様乱数 x ∈ [0, 1] 例 x = 0.13,0.65, 0.54, · · ·
0 0.25 0.50 0.75 1.00
∆t 時間 結合確率 p
x < p なら x > p なら
終状態
始状態
ゆらぎを考慮した シミュレーション
一様乱数 x ∈ [0, 1] をこれらの値と比較
e−k1[cAMP]∆t 1 − e−k1[cAMP]∆t 1 − e−k−1∆t e−k−1∆t
すべてのカギ穴(受容体)についてこの手続きを繰 り返し、
モンテカルロシミュレーション
cAMPの結合・解離をシミュレーションカギ穴の結合度の時間変化
• 高濃度側と低濃
度側で結合度が 逆転
• 一目ではどちら
が高濃度側か判 別不能
それでも粘菌は迷わない!
400 300 200 100 cAMP受容体の結合度 0
60 50
40 30
20 10
0
時間(秒)
高濃度側 低濃度側
細胞内情報伝達
誘引物質cAMP 細胞外
細胞内
受容体
細胞内伝達物質(セカン ドメッセンジャー、PIP3)
Gタンパク質
モンテカルロシミュレーション
ここもシミュレーション
細胞内情報伝達のモデル
セカンドメッセンジャー(PIP3) これをモデルするには…
x
セカンドメッセンジャー濃度 m(x, t)
位置と時間の関数 反応拡散方程式
∂m
∂t = P (x, t) + D ∂2m
∂x2 − kmm
反応拡散方程式
x 駒場生には範囲外だけど…
∂m
∂t = P(x, t)
∂m
∂t = P(x, t) + D ∂2m
∂x2 − kmm
生成
0 0.25 0.50 0.75
1.00 生成
反応拡散方程式
x 駒場生には範囲外だけど…
∂m
∂t = D ∂2m
∂x2
∂m
∂t = P(x, t)
∂m
∂t = P(x, t) + D ∂2m
∂x2 − kmm
生成 拡散
1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0
m(x,t)
-20 -10 0 10 20
x t=0
t=10 t=10
拡散
反応拡散方程式
x 駒場生には範囲外だけど…
∂m
∂t = D ∂2m
∂x2
∂m
∂t = −kmm
∂m
∂t = P(x, t)
∂m
∂t = P(x, t) + D ∂2m
∂x2 − kmm
生成 拡散
消滅 0
0.25 0.50 0.75
1.00 消滅
400 300 200 100 cAMP受容体の結合度 0
60 50 40 30 20 10 0
時間(秒)
高濃度側 低濃度側
PIP3
濃度の時間変化
20 15 10 5 0
PIP3濃度 (μM)
60 50
40 30
20 10
0
時間(秒)
高濃度側 低濃度側
細かいゆらぎが抑制されている。
PIP3
濃度の時間変化
20 15 10 5 0
PIP3濃度 (μM)
60 50
40 30
20 10
0
時間(秒)
高濃度側 低濃度側
前側と後ろ側は差は小さいまま
差を増幅するしくみがあるはず
400 300 200 100 cAMP受容体の結合度 0
60 50 40 30 20 10 0
時間(秒)
高濃度側 低濃度側
細胞内信号増幅
Gタンパク質 受容体
cAMP
PIP3
PIP2 PIP
小Gタンパク質 (Rac, Rho, Arf)
セカンドメッセンジャー
• PIP3が増加
• 小Gタンパク質
が増加
• PIP2が増加
• PIP3が増加
• …
正のフィードバック
PIP3
濃度の時間変化
前側と後ろ側にはっきり差 がついている!
400 300 200 100 cAMP受容体の結合度 0
60 50 40 30 20 10 0
時間(秒)
高濃度側 低濃度側
1200 1000 800 600 400 200 0
PIP3濃度 (μM)
60 50
40 30
20 10
0
時間(秒)
高濃度側 低濃度側
まとめ
細胞内情報処理のシミュレーションには…
• 乱数を用いたモンテカルロシミュレーション
• 偏微分方程式(細胞内反応・拡散)
細胞性粘菌がゆらぎに惑わされないのは…
• PIP3が細かいゆらぎを抑制
• 小Gタンパク質を介した正のフィードバック
ゆらぎを利用する
ヘラチョウザメ
• 電気受容器を使って、餌(動物プランク トン)からの電気信号をキャッチ
• 動物プランクトン(ミジンコなど):泳 ぐときなどに神経興奮→微小な電気信号
実験
電極 電気ノイズ 電極 口
くちばし ミジンコ
• ミジンコを捕らえた位置(x,y)の分布を測定
• 広い分布:遠くのプランクトンを発見
• 狭い分布:近くのプランクトンしか発見できない。
補足位置の分布
ノイズなし 最適ノイズ 高ノイズ
補足位置の広がり
補足位置の広がり ノイズレベル 最適ノイズ
適度なノイズは捕食活動を助ける。
様々な生物が雑音を 利用している。
• ザリガニ(水の動きから天敵を感知)
• コオロギ(気圧の変化から天敵を感知)
• ヘラチョウザメ(電気信号からプランク トンを感知)
• 視覚・聴覚
その奥にひそむ共通のメカニズムとは?
…それは次回。
次回予告
(5/28)• 雑音(ノイズ)を利用する生体の神秘
興味のある人は
…ウェブ http://ishiken.free.fr
石川顕一
工学部システム創成学科Bコース
(シミュレーション・数理社会デザインコース)