光検出器
pin-PD
数GHzまでの高速応答する光検出器に
pin-フォトダイオードとアバランシェフォトダ
イオードがある。pin-フォトダイオードは図1に示すように、n
+基板と低ドーピングi層と0.3μm
程度に 薄くしたp
+層からなる。逆バイアスを印加して、空乏層をi
層全体に広げ、接合容量を小さ くしながら光吸収領域を拡大して高感度にする。表面より入射した光は光吸収係数αによって指数関数的に減衰しながら光励起キャリア を生成する。空乏層内で生成した光励起キャリアは、空乏層電界(Ε>103
V/cm)で飽和ドリフ
ト速度(~107cm/s)まで加速され、この速度で走行する。この領域をドリフト領域という。
空乏層以外の
p
+およびn
+層で生成されたキャリア拡散によって移動する為、走行速度は~104
cm/s
と、ドリフト速度と比較して3桁小さい。この拡散電流は応答速度を低下させる 原因となる。パルス光を受光した場合、それは、パルス応答のすそ引きとなって観測され る。また、この光生成キャリアは拡散長ほど移動すると再結合により消滅するため、受光 素子の量子効率が低下する。そこで、応答と量子効率の両方の観点から、光吸収層は空乏層にする必要があり、p+ 層はできる限り薄くして
i
層の厚さは光の侵入長(1/α)程度以上に設計する。光の侵入長 は、Siで0.8 μm
波長帯で10~20μm
程度となる。また動作電圧は、空乏層を広げるための電圧であり、20Vの比較的低い電圧でよい。
図2pinフォトダイオード(PD)
のバンド図と動作 図1 pinフォトダイオード(P
D)の構造
APD
の構造図3にシリコンのアバランシェフォトダイオード(APD)の構造を、図4にAPDの バンド図と動作の概要を示す。APDでは逆バイアスにより光吸収領域を空乏層にする必 要がある。光生成キャリアにより衝突電離をおこさせるために
pn
接合に隣接して10
5V/cm
以上の高電界領域をもうけ、この領域をなだれ領域とする。ドリフト領域で発生した光生 成キャリアがなだれ領域に注入される。そのため、なだれ領域では注入されたキャリアが 衝突電離を繰り返し、なだれ効果により光生成キャリアの増倍が生じる。APDはこの増 倍効果によりPDより高いS/Nでの受光が可能である。増倍率Mはバイアス電圧をV、降伏電圧をVBとすると、近似的にミラーの経験式で与 えられる。
(1)
増倍率Mはバイアス電圧により変えられる。VがVBに近いとき、温度上昇にともない増倍 率は急激に増加し、
M=1000
程度の大きな値が得られる。その反面、電圧や温度の変動にと もない増倍率が大きく変化する欠点がある。降伏電圧の温度係数は~0.2%/℃である。したがって
APD
のバイアス回路にはこれらの影 響を除去する設計が必要である。図4アバランシェフォトダイオード
(APD)のバンド図と動作 図3 アバランシェフォトダイオード(APD)
の構造
APD
やpin-PD
では半導体材料により構造が大きく異なる。全ての受光素子で反射防止膜 をつけている。ガードリングとはpn
接合周辺部を低ドーピングとして降伏電圧を上げたも ので、局部的なだれ降伏(マイクロプラズマ)を防ぎ、一様ななだれ増倍を行わせること が目的である。シリコン
APD
では空乏層を20μm
以上の幅に広げながら動作電圧を下げる為に、空乏層 とする領域は、低濃度なp-(π層)とし、高電界の必要ななだれ領域は高濃度の p
層とする(リーチスルー型)。n+
πpπp
+の
low-high-low
構造やn
+pπp
+のhigh-low
構造が用いられる。low-high-low
構造では、なだれ領域の電界を適度に抑え、低雑音としながら高い量子効率の為 に 広 い 空 乏 層 に で き る 。 前 者 の 方 が 降 伏 電 圧 は 低 く 応 答 速 度 が 速 い 。 ち な み に
V
B=100-150V
応答速度は300ps
程度である。ゲルマニウムでは波長
1.5μm
以下では、光吸収係数が10
4cm
-1と大きく(図7)、光の侵 入長は数μm以下となる。そのため、Ge-APD
ではSi
のように広い空乏層を必要としないの で図5のような簡単な構造で良い。しかし1.55μm
付近では、光吸収係数小さくなるために 空乏層を広げる必要があり、p+pπ n
+構造とする。降伏電圧は30V
程度でよく、応答速度は200~250ps
と高速である。InGaAs-APD
では、InGaAsの光吸収領域とpn
接合(InP)を分離している。InGaAs光吸 収層の光生成キャリアをInP
のpn
接合でなだれ増倍する。この構造をとる理由はInGaAs
では逆バイアス条件でトンネル効果による降伏が起こりやすいことである。受光波長領域 は0.95~1.65μm
で量子効率は約70~80%である。
図5 ゲルマニウムアバランシェフォト ダイオード(APD)の構造
増倍領域
光吸収領域
基板 増倍領域
光吸収領域
基板
図6
InGaAs
アバランシェフォトダイオー ド(APD)の構造分光感度特性
入射した光子数は光電力を
P
0とすればP
0/hνである。この光子により励起された光生成キャ
リア数は、光電流をI
poとすればI
po/e
である。従って量子効率をηとすると、(2)
の関係がある。ここで量子効率ηは簡単に、(3)
で与えられる。
L
aは光吸収領域の幅である。ここで(1-R) は結晶に侵入する入射光の割合を 示し、(1-exp(αLa))
は光の吸収率をあらわしている。結晶表面での反射率Rを小さくして、吸収領域の幅を光の侵入長に比べて大きくするほ ど高い量子効率が得られる。分光感度の例を図8に示す。長波長の感度の限界は、半導体 のバンドギャップできまる。短波長での感度
の低下は光の侵入長が短くなり表面付近で 光生成キャリアが発生するために、キャリア が表面再結合により失われることによる損 失である。
InGaAs-PD
のような表面にバンド ギャップの大きな窓層があるヘテロ接合の 場合は、光吸収層のバンドギャップから窓層 のバンドギャップまでほぼ平坦な感度が得 られる。これを窓効果という。図7 半導体の光吸収係数スペクトル
図8 光検出器の分光感度スペクトル
応答速度
応答速度は、(1)光生成キャリアの走行時間と、(2)CR時定数、によって制限され る。ドリフト領域では飽和ドリフト速度
10
7cm/s
で走行するので、走行時間は空乏層の幅を100 μm
としても1 ns
と小さい。普通では数十μm以下であるので数GHz
の応答周波数で動 作する。静電容量は受光経と空乏層できまる接合容量とパッケージの浮遊容量の和となり、通常
1-2pF
である。したがって、CR時定数は負荷抵抗を50
オームとすれば50-100ps
であ るが、S/N比を高めようとして負荷抵抗を大きくすれば応答速度が低下する。APD
では、なだれ領域走行時間τeffにより応答速度が制限され、増倍率M(f)は
(4)
となる。Moは直流増幅率である。上式より
M
2(f)=M
0/2
になる帯域幅f
cは、(5)
となり、帯域幅は増倍率に反比例して減少する。Si-APD では、M=100 のとき
f
cは1.5GHz
程度になる。また、τeffM
oは、衝突電離を繰り返しながら増倍率Mo
に達する増倍立ち上が り時間と考えられる。暗電流と増倍雑音
光電流によらず光検出器を流れ る電流を暗電流という。暗電流は、
接合を流れる逆方向飽和電流
I
dや表 面漏れ電流I
SLなどの和である。これ らはショット雑音を誘起してS/N
比 の劣化をまねくので、これらは小さ い方が望ましい。図9は光検出器の 暗電流の実測値と光吸収材料のバン ドギャップの関係を示している。バ ンドギャップが広くなるとI
dが減少 するため、暗電流は急速に小さくな ることがわかる。ショット雑音は光子によるキャリアの生成過程、および
APD
の増幅過程で生じる。そこ で、光検出器の全ショット雑音の2乗平均値i
s2は,
(6)
図9 光検出器の暗電流の実測値と光吸収材料の
であり、F(M)は増倍雑音指であり
McIntyre
の式(7)
で与えられる。また、Bfは増幅器の帯域、kは電子と正孔のイオン化率の比である。kでは なだれ領域に注入される方のキャリア
のイオン化率(衝突電離係数)を分母 にとる。通常の
PD (pin)の場合、(7)で M=1
とおく。光キャリアの増倍過程では有限の衝 突回数である増倍率に達するため、衝 突回数の統計的なゆらぎがショット雑 音(増倍雑音)となって現れる。増倍 雑音の大きさは
F(M)で表される。(7)
式から計算したF(M)の特性を図10
に示す。F(M)は増倍率の増加とともに 大きくなる。また、イオン化率比k
の 小さい半導体ではF(M)は小さい。
そこで低雑音にするためには電子のイオン 化率αと正孔のイオン化率βの差がなるべく大 きい方が良く、なだれ領域への注入キャリアは イオン化率が大きい方のキャリアとする必要 がある。
図11に、Si, Ge, および
InP
のイオン化率α, β、およびイオン化率比 k
の電界依存性を示す。
Si
ではα>βでなだれ領域はp
形にして電子 注入とする。さらにイオン化率α, βは電界に強 く依存し、電界が低くなるほどαとβの差が大 きくなる。従って、低雑音のためにはなだれ領 域の電界は適度に低いことが望ましい。Si
は暗電流が10
-12A
と小さく、k
が0.05~0.1
で増倍雑音が小さい。長波長用のGe-APD
では 暗電流が大きく、k
がほぼ1であり増倍雑音が 大きく、低雑音用に向いていない。そのためInGaAs-APD
では増倍部のInP
のkの値が1よ り小さく、低雑音の長波長PDに向いている。図10
F(M)の増倍率M依存性
図11イオン化率とイオン化率比の電 界依存性
S/N
比信号電圧の最大値は(2Ipo
M)
2R
となるため、増幅器の雑音指数をF
tとすれば、S/N比 は、(8)
で与えられる。ここで4kTB
fF
iは熱雑音である。図12は信号電力と雑音電力の増倍率Mによる変化を示す。増倍率が小さい範囲では増 倍ショット雑音が熱雑音より小さいため、増倍率を増加させると信号は増大するが雑音は、
ほとんど増えないため、増倍率の増加により
S/N
比が増加する。増倍率が高くなり、増倍ショット雑音が熱雑音より大きくなれば、信号雑音よりショッ
ト雑音が
F(M)倍大きくなる。ショット雑音は増倍率Mの増加にともない増加するため、像
倍率を増加させると
S/N
比は減少する。ショット雑音と熱雑音がほぼ一致する付近にS/N
比を最大にする最適な増倍率M
optが存在する。APDではM= M
optになるようにバイアス電 圧を調整して用いられる。APD
の最低受信レベルは、S/N比21.59dB(誤り率 10
-9)を得るために必要な平均光電力 として定義する。図13は最低受信レベルを示す。Ge-APD
は雑音レベルが高いために受信 レベルも大きい。またpin-PD
と低雑音のFET
を組み合わせたInGaAs pin-FET
では、数百MHz
の領域でGe-APD
をしのぐ最低受信レベルが得られる。図13光検出器の最低受信レベルの伝送速度 依存性
図12