街路網形態に基づく中心市街地のまとまりと土地利用の特性に関する研究
猪八重拓郎, 永家忠司, 外尾一則, 李海峰
A study on unities of central area based on configuration of road network and characteristics of land use
Takuro INOHAE, Tadashi NAGAIE, Kazunori HOKAO and Haifeng LI
Abstract: The purpose of this study is to clarify the relationship between unities of road network and land use in central area of Saga City. At first, we analyzed road networks by applying the Space Syntax Theory based on plural system boundaries. Then, urban entropy coefficient was calculated by using the integration values. As a result of urban entropy coefficient analysis, we grasped characteristics of unities of Saga central area. And then, we clarified relationships between the integration values and land use by the correlation analysis.
Finally, we pointed out that distribution of under-used and unused land, especially parking lot, have relationship with the integration values and the unities of road networks.
Keywords: central area
(中心市街地)
, space syntax theory(スペースシンタックス理論)
, unity of road network(街路網構成のまとまり), land use(土地利用)1.はじめに
地方都市の中心市街地において,商業施設の閉鎖 や定住人口の減少,またそれに伴う低未利用地の増 加などを含むその衰退化の現象は非常に深刻な問題 となっている.本研究では,市街地形態を規定する 非常に大きな要素の一つである街路網構成の特徴に ついてスペースシンタックスを応用することにより 捉え,さらにその特性と土地利用の特性との関係性 を明らかにすることを目的とする.
スペースシンタックス理論(以下:SS 理論)は
1980
年代前半にロンドン大学の
Hillerらによって 開発された,空間位相に着目した空間解析手法であ る.本手法は,室内空間から大規模な都市空間まで さまざまなスケールの空間分析に適用されており,
システム(解析範囲)内の空間の接続関係をインテ グレーション値(
Integration Value以下:IV)と いう指標によって表すことにより,インテグレート された空間,セグレゲートされた空間を識別するこ とができ,位相関係から解析空間の持つ意味を読み 解く一助となっている.しかしながら,都市レベル の対象への本手法の適用に当たっての解析範囲の設 定は,行政単位をとしているものや荒屋らの定義に 示される方法など市街地を部分的に抽出する手法が あるが,一意的な手法は見当たらない.多くの既存 猪八重:〒
840-8502佐賀県佐賀市本庄町1
佐賀大学低平地研究センター・GISラボ
Tel: 0952-28-8830E-mail: [email protected]
研究においては,解析範囲の設定は,地形的な条件 による境界設定を基軸としつつも任意に設定されて おり,同一空間においても解析範囲の設定の違いに より,IV に影響を与えかねないことが懸念される.
しかし,逆説的に考えると,複数の解析範囲を考慮 することにより,捉えようとする事象が実態として どのような範囲のシステムにより依拠しているのか を導き出すことができるとも考えられる.
本研究では,佐賀市中心市街地を対象とし,逐次 的に解析範囲を設定し,対象地区における建物集積 や低未利用地の分布が結果としてどのような範囲の システムに依拠しているのかを明らかにする.
2.道路網の解析 2.1 SS理論
SS理論の基本的概念にはコンベックススペース
(
Convex Space以下:
CS)とアクシャルライン(
Axial Line以下:AL)が存在する.CS とはその名のとお り凸状空間であり,すべての内角が
180度未満とな る空間である.この
CSにより対象空間のオープン スペース(以下:OS)が分割され,コンベックスマ ップとして表現される.本研究では道路空間を
OSとし分析を行った.また,
ALとはもっとも多くの
CSを貫くように引いた直線であり,なるべく少ない 本数でコンベックスマップ上のすべての
CSを貫く ように,最も多くの
CSを貫くものから順に引いた 直線であり,その集合体をアクシャルマップと呼ぶ.
本研究では
AL関係する指標のうち
IVを用いて分 析 を 行 う .
IVを 求 め る た め に は
RA(
RelativeAsymmetry)
(式1)を求める必要がある.この値は
対象とするシステムから見た相対的な深さ
(MeanDepth)
を表しており,この値が大きいほど対象とす
る範囲の中でその空間(AL)は深く入り組んだとこ ろにあるとされ,そこに移動するためには多くの空 間(
AL)を経由する必要があるということを意味す る.
2 ) 1 ( 2
−
= − k
RA MD
(式1)
ただし,
MD:全てのALからの深さを平均したもの
k:ALの総数
RA
は対象とする範囲の規模によって影響を受け るため,他の対象エリアとの比較を可能にするため に
Dk(式2)によって算出される補正係数を用い,
式3によって標準化を行う.さらに
RAを標準化し た値
RRAの逆数を取った値が
IV(式4)となる.
) 2 )(
1 (
) 1 ) 1 3 ) ( 2 (log (
2 2
−
−
+ + −
= k k
k k
Dk
(式2)
Dk
RRA= RA
(式3)
nValue RRA Integratio 1
=
(式4)
一般に
IVが高い場合,他の空間からのアクセス が容易で対象エリアの中心的場所である一方,
IVが 低い場合,他の空間からのアクセスが容易ではない 分離された空間であることを示している.また,IV には
Globalと
Localがあり,Global
IV(以下:GIV)は,すべての Radius
を解析した値であり,
Local IV(以下:LIV)は Radius=3の範囲で解
析した値である.GIV は位相的に単峰となり,LIV は多峰になる.つまり,GIV はシステム全体の中心 性,LIV はシステムの部分的な中心性を表す.
2.2 解析範囲の設定 本研究では逐次 的に解析範囲を設 定する手法を下記 のように提案した 上で
SS理論の応 用を試みる.まず,
中心市街地エリア と重なる
ALの範囲を解 析範囲の最小(Step1)と し,次の深さまでの範囲
(Step2)を 次 の 解 析 範 囲 という具合に逐次的に 解析範囲を拡大し,最終 的に解析対象範囲内の 全ての
ALを網羅したも
のを解析範囲の最大と 図-2 システム境界 図-1 解析範囲の設定
中心 市街地
エリア Step1
Step2 Step3 Step4 Step5
した.図-1 は解析範囲の逐次的設定の概略を示し たものである.なお,本研究では,この
Stepによっ て設定される解析範囲をシステム境界と定義し論を 進める.また,図-2は各
Stepによるシステム境界 と中心市街地の範囲を示したものである.なお,本 研究では
DIDの範囲を解析の最大の範囲とした.各 システム境界における
AL本数を図-3に示す.
125 227392638 949
126815021651175418291881191019161917
0 500 1000 1500 2000
アクシャルライン本数
2.3 アクシャルマップの解析結果
図-4は各ステップにおける
GIV及び
LIVの平 均値を,システム全体および中心市街地でそれぞれ 算出したものである.この結果,GIV ではシステム が広域になるほど
GIVが低下する傾向にある.しか しながら,中心市街地の
GIVの平均が常に全体の平 均を上回っており,システムが広域化しても中心市 街地の中心性は相対的に見て高く維持されているこ とが読み取れる.一方,LIV に関しても常に中心市 街地の中心性が高い.また,
LIVに関しては
Radius=3で解析しているため
Step4以上では中心市街地 の
LIVに影響を与えないため一定の値となってい る.以上,
GIV及び
LIVの解析結果から,中心市街 地はシステム全体の中で常に優位な中心性を有して いることが明らかとなった.
0 0.5 1 1.5 2 2.5
step1 step2 step3 step4 step5 step6 step7 step8 step9 step10 step11 step12 step13 step14
IV
GIV平均(中心市街地)
LIV平均(中心市街地)
GIV平均(システム全体)
LIV平均(システム全体)
次に,道路網のまとまりを捉えるために,都市エ ントロピー係数(以下:UEC) (式5)の適用を試み た.
UECは木川らによって提案された指標であり,
GIV
と
LIVの乖離から都市形態の乱雑さ・整然さを 数値化する手法である.この UEC は,値が大きけ れば全体的な編成と部分的な編成の乖離が大きく値
が小さければ乖離が少ないという限定的な意味にお けるシステムの乱雑さ・整然さを示す指標である.
r
UEC =1−
(式5)
ただし,r:Global と
Localの相関係数
UEC
の分析結果を図-5に示す.この結果,
Step1
(中心市街地の範囲)において
UECが最も低
く,整然とした道路網形態であることが読み取れる.
また,広域化するにつれて乱雑さが増す傾向が読み 取れる.したがって,最もまとまりの良い街路網構
成は
Step1(中心市街地の範囲)であることが明らかとなった.
0 0.1 0.2 0.3
UEC
UEC
3.街路網形態にみる中心市街地の土地利用の特性 ここでは,先の分析においてもっともまとまりの
良い
Step1(中心市街地の範囲)のAL沿線の土地
利用について分析を行った.
図-6,7はそれぞれ
Step1のALごとに沿線の 建物建蔽面積を用途別に集計した値と
GIV,LIVと の相関分析を行った結果を示している.なお図には 有意確率
p<=0.01の相関係数のみを表示している.
0 0.2 0.4 0.6
Step1 Step2 Step3 Step4 Step5 Step6 Step7 Step8 Step9 Step10 Step11 Step12 Step13 Step14
相関係数 業務施設
住居系 商業系 公共施設
0 0.2 0.4 0.6
Step1 Step2 Step3 Step4 Step5 Step6 Step7 Step8 Step9 Step10 Step11 Step12 Step13 Step14
相関係数 業務施設
住居系 商業系 公共施設
まず,GIV との関係(図-6)からみると
Step1において相関係数が高い傾向にあり,特に業務施 図-3 アクシャルライン本数
図-4
GIV及び
LIV平均
図-5 各ステップにおける
UEC図-6
GIVと建物集積の相関
図-7
LIVと建物集積の相関
設と商業施設が
GIVとの関係性が大きいことが分 かる.一方,公共施設は
Step3以下のシステムとは相関関係はなく,Step4 以降において弱い相関関係 がみられる.次に,LIV との関係(図-7)からみ ると,こちらも
Step1との関係が強い傾向があり,
特に商業施設,業務施設との関係性が強い.一方で,
公共施設はいずれの
Stepにおいても有意な相関関 係は見られなかった.
次に,駐車場に着目をして分析を行った.近年,
佐賀市中心市街地では駐車場を筆頭とし低未利用地 化が進んでいる.ここでは,駐車場の種類及び
1985年以降に新たに駐車場となった箇所(以下:P1985)
に着目し,GIV 及び
LIVとの関係性を分析した.
図-8は
GIVとの相関分析の結果である.駐車場 の総面積は,一定程度の相関関係がみられるがあま り強い相関関係は見られない.しかし,種類別で比 較すると,月極駐車場及び専用駐車場の相関が非常 に高く,またその関係は
Stepが増えるほど高くな っている.このことはこれらの駐車場がより広域の システムに依拠していることを示唆している.一方 で,コインパーキング(以下:CP)はそれほど高い 相関関係を持っていない.また,P1985 の集積もあ まり相関関係は高くない.しかしながら,P1985 の
集積は
Step1において相関関係が最大となっており,
より狭域のシステムに依拠していることが読み取れ る.また,図-9は,LIV との相関分析の結果であ るがこちらも
GIVと同様に,月極駐車場,専用駐車 場の相関係数が高く,
CPの相関係数は低い.さら に広域になるほど強い相関関係がみられることが読 み取れる.
これらの結果より,駐車場は
IVに見るより広域 のアクセスを考慮した箇所に集積していることが読 み取れる.一方で,P1985 はより狭域のシステムに 依拠していることが読み取れる.言い換えれば,近 年駐車場となった箇所は,中心市街地の範囲におい てよりアクセスの優位な箇所に立地する傾向にあり,
こうした箇所でより低未利用地化が進んでいること は,中心市街地の土地の高度利用という観点から好 ましくない結果になっていることが推察される.ま た,
CPや
P1985の集積は
IVとの相関関係が低く,
他の種類の駐車場と比較すると道路網構成に対して より無秩序に分布していることが推察される.
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
Step1 Step2 Step3 Step4 Step5 Step6 Step7 Step8 Step9 Step10 Step11 Step12 Step13 Step14
相関係数
コインパーキング 月極駐車場 専用駐車場 駐車場総計 P1985
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
Step1 Step2 Step3 Step4 Step5 Step6 Step7 Step8 Step9 Step10 Step11 Step12 Step13 Step14
相関係数
コインパーキング 月極駐車場 専用駐車場 駐車場総計 P1985
4.まとめ
本研究では,
SS理論を用いることにより,佐賀市 中心市街地の道路網形態がより広域のシステムより も高い中心性を有しており,また
UECに見る整然 さという観点からも整然とした形態をしていること が明らかとなった.また,建物集積との関係性も一 定程度みられた.さらに,駐車場の集積と
IVの分 析結果から,本来高度利用されるべきアクセス性の 優位な箇所において,駐車場化が進んでいる可能性 があることが明らかとなり,また,駐車場化した箇 所は道路網形態の特性に対してより無秩序に分布し ている可能性があることが明らかとなった.
参考文献
Hillier, B. and Hanson, J.: The Social Logic of Space, Cambridge University Press