物理
-
低学年(高専1
年)用-
(2単位)
2020年公開(コロナ禍のため遠隔授業開始)
函館高専
長澤 修一
・目次
1.数学的準備
1-1. 簡単な計算規則
1-2
. べき乗(
累乗)
と指数1-3.
三角比と三角関数1-4. ベクトル
2
.物体の運動2-0. 時間 2-1. 位置 2-2. 速度 2-3
. 加速度3
.落体の運動(等加速度運動の一例)3-0. 重力加速度 3-1
. 自由落下運動3-2
. 鉛直投射運度3-3. 水平投射運動 3-4
. 斜方投射運動4.力
4-1
. 力4-2. 力のつり合い 4-3. 力の種類
① 重力
② 垂直抗力
③ 糸の張力
④ 弾性力(バネの力)
⑤ 摩擦力
5.運動の法則(ニュートンの運動の 3
法則)5-1. 第1法則 (慣性の法則)
5-2
. 第2法則 (運動の法則)5-3. 第3法則 (作用・反作用の法則)
5-4. 運動方程式の応用
* 物理の問題を解くときの注意点
① 問題の内容を理解し,その意味を簡単な図を書いて「何を求めるのか?」を認識する.
(ここで,問題で与えられた条件(条件が隠れている場合もあります)に注意する) ② 用いる物理法則(物理法則を表している基本式)を選ぶ.
③ 計算は丁寧に行う.
④ 「求めた答えの単位は正しいか?求めた答えは答えとしてもっともらしいか?」再検討する.
⑤ 最後にもう一度,問題とその解を概観し(大枠をつかむ),まとめる(結論を出す).
1
.数学的準備物理では数学を用いて,起きている現象を考えことが多い.また,数式を使った計算によって現象を予言しようと試みる場合も ある.そのため,物理学を学習する際には必要な数学を修得しなければならない.場合によっては,新たな数学法則を作り出さな ければならないこともある.道具としての数学は必要になった時点で学習するのがよいが,この章では,物理を学習するために,
最低限度,必要な数学をまとめよう.
1-1.簡単な計算規則
数学などの自然科学では記号(アルファベット,ギリシャ文字)を用いて数を表す.
a はある何らかの数を表す. (例えば,aを小数として a= 1.233 )
1) 足し算
簡単な計算規則として,足し算(加法)があり,下のような記号「 + 」を使う.
a + b (例えば, a= 1.2 , b= 2.3 とすると a+ b = 1.2 + 2.3 = 3.4 と計算する)
2) 引き算
次に,引き算(減法)がある.記号「 – 」を用いる.
a –b (例えば, a= 2.3 , b= 1.2 とすると a–b = 2.3 – 1.2 = 1.1 と計算する)
以上の計算規則は数直線を考えるとイメージしやすい.原点Oをとり,数直線上で,原点Oから右側には正(+)の数,左側には負 (–)の数を順序よく並べる.数直線のある位置(この位置をaとする)をとり,足し算はこの位置から右側に移動する操作,引き算は この位置から左側に移動する操作に対応する.
+ –2 –1 O 1 2 3 4
3) かけ算
かけ算(乗法, または積)は記号「 × 」を用いる.その他の記号として「 ・ 」や「 * 」がある.文字式の場合は空欄を用いてもかけ 算を表す.例えば, a= 2 , b= 1.3 とすると,下の書き方は全て,かけ算(積)を表す.
a × b= a·b = a *b=a b = 2×1.3 = 2·1.3 = 2*1.3 = 2.6 4) 割り算
割り算(除法)は記号「 ÷ 」を用いる.その他の記号として「 / 」(「スラッシュ」と呼ぶ)や横線(「 ― 」で割り算を表す.横線「 ― 」 で割り算を表した数は分数とも呼ばれる.例えば, a= 20 , b= 4 とすると,下の書き方はすべて割り算(除)を表す.
a ÷ b = a/ b = a
b = 20 ÷ 4 = 20/4 = 20 4 = 5
ただし,今後は,理数系の計算では,なるべく 「 ÷ 」 は使わないようにすること. → 単位の計算を明確にするため.
* 複雑な割り算(割り算の割り算)
普通の数の場合はかけ算ではそのまま計算しても計算結果は変わらない.例えば, a= 24 , b= 4 , c = 2 とすると,積の 計算は下の式のようになり,普通の掛け算は,積の順序によらないことが確認できる.
a×b×c =a× (b×c ) = (a × b ) ×c= 192 (1-1-1)
一方,割り算が複数ある計算では,計算の順序によってその結果が大きく変わる
a÷ (b÷c) = 24 ÷ 2 = 12 (1-1-2)
→ 始めに,「かっこ」の割り算を行う → b÷c= 4 ÷ 2 = 2 → a÷ (b÷c) = a÷ 2
(a ÷ b) ÷c= 6 ÷ 2 = 3 (1-1-3)
→ 始めに,「かっこ」の割り算を行う → a÷b= 24 ÷ 4 = 6 → (a÷b) ÷c= 6 ÷c
上に示したように,割り算は計算の順序で異なる計算結果が得られる.計算順序として,最も内側のかっこから計算を始め, 次に,
その外側のかっこの計算を行う.これを「スラッシュ「 / 」記号1」を用いて表現する場合は特にかっこに注意する.
例えば,(0-1-2)式と(0-1-3)式は下のように表すことができる.さらに,分数で表すときは,分数を表す横線(「 ― 」の長さに注 意する. → 一番短い線が最も内側のかっこに相当する.
a÷ (b÷c) =a/ ( b/c ) = a b c
(1-1-4)
(a ÷ b ) ÷c= (a / b ) /c = a b
c (1-1-5)
ここで,最右辺の分数では,分数を表す横線の最短部分を始めに計算し,それより長い横線の分数は後で計算するという規則で ある.分数の分数という形で表された上の式をかけ算を用いて別な表現で表すと,
a b c
= a÷ (b/c ) = a× (c/b) = a c/b = a c
b (1-1-6)
と複数の分数(横線「 ― 」からなる数)が1つの分数を用いて表した.また,(1-1-3)式は下のように表すことができる.
a b
c = (a / b) ÷c = (a /b ) × (1/c) = a/ ( b c ) = a
b c (1-1-7)
例えば, a= 24 , b= 4 , c = 2 とすると,下の式のように計算する.
a b c
= 24 4 2
= 24 * 2
4 = 12 (あるいは, a b c
= 24 4 2
= 24 2 = 12),
1 コンピュータで複雑な分数を表現する場合は小括弧しか使えない.また,割り算は「 / (スラッシュ)」記号のみしか使えない.
この練習問題ではコンピュータで分数を表記する際の練習にもなる.
a b c =
24 4
2 = 24
4 * 2 = 3 (あるいは,
a b c =
24 4
2 = 6
2 = 3).
さらに分数が複雑になっても同様な計算規則に則って計算を行う.
外側 「aとd」の積 a
b c
d
= a b c d
= a
b ÷ c d = a
b * d c = a d
b c = a d
b c (1-1-8)
内側「bとc」の積
例えば, a= 24 , b= 4 , c = 2 , d=3 とすると,下の式のように計算する.
a b c
d
= 24
4 2
3
= 24 * 3
4 * 2 = 3*3= 9
問1-1-1. 下の分数式を「/(スラッシュ)とかっこ(かっこは大括弧[ ] ,中括弧{ },小括弧( )を用いてもよいし,小括弧のみを
用いてもよい)」を用いて表し,次に計算せよ.(下段のアルファベットを用いた式では,簡単化せよ. → 分数を表す横線( ― )を 1つだけ使って表すまで簡単化する).
1) 2 3 4 + 1
. 2) 3 4 + 1
2 . 3) –1
3 4 –3
. 4) 2 3 4 5
. 5)
2 3 3
2 . 6) 2 3 4
5 . 7) 2 3
4 5
8) a2 b a b3
. 9) 1 + a 1–2+a1
. 10) 1 a b+b
a
. 11) a2–1
1 a+ 1
. 12) a b – ba 1 b + 1
a
. 13) 1
1 – 1 1 –1a
. 14) 1
a– 1 a–1a
.
問1-1-2. 次の計算を行え
1) 2
0.2 . 2) 2 1
2–13 . 3) 2 1 2 + 0.2
. 4) 4/(1+(2+1)/4+3/(1+3)). 5) 3 – (2/(–4))/(1/3) .
1-2. べき乗(累乗)と指数
0(ゼロ)でないある数 a を2回かけた数について,「a×a=a*a= a2」 を「aの2乗」と呼ぶ.一般に,n回かけた数を「aのn
乗」と呼ぶ.これらをまとめて,「a のべき乗(累乗)」と呼ぶ。数 n を指数,または,べきと呼ぶ(コンピュータでは「an = a^n 」と表 す)..
a1 =a, a×a= a2 , a×a ×a= a3, a×a × … ×a= an (1-2-1) n個
整数mとnについて,下の等式が成り立つ.
anam =an+m → (aをn回かけたもの)×(aをm回かけたもの) = aを(n+m)回かけたもの
= (aのn乗)×(aのm乗) = aの(n+m)乗 (1-2-2)
(an)m= an m → (aをn回かけたもの)をm乗 = aの(n×m)乗 (1-2-3)
(a b)n=anbn → (a b)のn乗 = (aのn乗)×(bのn乗) (1-2-4)
* 負のべき乗(分数表示)
a×a × … ×a= an → ( 1
a 倍する) → a×a × … ×a= an– 1 → ( 1
a 倍する) → ・・・・
n個 (n– 1)個 → a×a×a= a3 → ( 1
a 倍する) → a×a= a2 → ( 1
a 倍する) → a= a1 → ( 1
a 倍する) → → 1 = a0 → ( 1
a 倍する) → 1
a = a – 1 → ( 1
a 倍する) → 1
a2 = a – 2 → ( 1
a 倍する) → ・・・ → 1
am = a –m ( さらに 1
a–m →(分子・分母にam をかける)→ am
a–m×am = am a0 = am
1 =am )
問1-2-1. 次の計算を行え(簡単化せよ). 「 10) までの問題は,10の何乗か? 」
1) 1000 2) (102)3 3) 0.01 4) 104/105 5) (101)3 6) (10–3)4 7) 10
0.01 8) (104102)/( 1
100) 9) 10–4
(10–3)–2 10) (102)4 × 53× 23 (10–3)2
11) (10–2)3 × 56 × 25 12) 83 (← 2の何乗か?) 13) (2453)/102 14) 1252/55
問1-2-2. 次の計算を行え.ただし,a≠ 0, b≠ 0 とする.
1) (–a2 b)2(a b2)3 2) (–3a b2 )2/ (3 a b2)3 3) (–2 a2b)3
(4 a b3)2 4) a2 b3
a4b3 5) (a2b–1)3 (a–1b2)2
* 分数のべき乗と累乗根
0(ゼロ)でない正の数aを考える.
例えば,「数aを2乗して2になるとする」 → 数式にする → a×a=a2=2 → 数aは2の平方根(2乗根)
→ a= 2 → この数aを,「2の 1
2 乗と仮定する 」→ a= 2
1
2 = 21/2 = 20.5 → (この表現でOKかを確認する)
→ 数aの2乗 = a2 = ( 2
1 2)2= 2
1
2 × 2= 21 = 2 → 「数aは2の 1
2 乗でOK! → 確認した! 」
一般に,数aのn乗根を考える( → n乗するとaになる数 ) (n = 2なら平方根) 数aのn乗根 = a
1
n = n a (1-2-5)
→ a
1
n をn乗する = a
1
n をn回かける = a
1 n×a
1
n×… ×a
1 n = ( a
1 n)n = a
1 n*n
= a1= a n個
問1-2-3. 次の計算を行え(簡単化せよ). ただし,a≠ 0, b≠ 0 とする.
1) 4–
3
2 2) ( 2 ×3 2 ) 12 3) 161.25 4) (8
1 2) –
2
3 5) 1
4 0.5 6) 1 4 –2.5
7) 3 64 8) a3a
6 a
9) 4 a3× 1
a–3/2 10) 4 a×a0.5 11) ( 3 a2 b2 )3/ (a 3 b a2/3)3
1-3
. 三角比と三角関数大きさが違っても,形が同じである2つの三角形について,「2つの三角形は相似2である」と呼ぶ. 相似となる三角形では,
3つの辺の比は一定となり, 三角形の内角の2つの角度が等しい.
三角形のなかで,直角三角形において,(直角でない)ある 1 つの角度が等しい場合,相似になる.したがって,直角三角形で は(直角でない)1つの角度が決まれば,辺の比も決まる.例えば,下の図のようにある角度が共通な直角三角形OABとOCDが あるとしよう.
ここで,∠O =∠AOB =∠COD となる角度を表す記号としてギリシャ文字のθ(「シータ」と呼ぶ)で表す3.角度θが決まれば,直 角三角形の形が決まる.このとき,直角三角形にある3つの辺の比も決まる.直角三角形において,これら3つの辺の比を三角 比4と呼び,それぞれの辺の比を,角度 θに対する余弦(コサイン),正弦(サイン),正接(タンジェント)と呼び,下の式のように定義 する.
cosθ= 底辺の長さ 斜辺の長さ= OB
OA = OD
OC (1-3-1)
sinθ= 高さ
斜辺の長さ = AB OA =
CD
OC (1-3-2)
tanθ= 高さ
底辺の長さ = AB OB =
CD
OD (1-3-3)
ここで「斜辺の長さ」とは角度90 °と反対の辺の長さを指す.角度θは「斜辺と底辺」ではさまれる.また,「高さ」は角度θの対辺と なる.上の3つの式は各々,「コサイン・シータ」,「サイン・シータ」,「タンジェント・シータ」と呼ぶ.
2 三角形の相似の条件は3つあり,その条件は中学校で学んだ.「3つの辺の比が等しい」,「2つの辺の比とその間の角が等し い」,「2つの角が等しい」である.
3 角度を表す記号として,θの他に,アルファベットや他のギリシャ文字を用いて表すこともある.
4 三角比は鋭角の角度θに対する辺の比を表す(直角三角形では角度θは鋭角となる).
O θ B
C
A
D
*注意 cosθ とは 「角度θに対するコサインの値は?」という意味であり,cosとθのかけ算の意味ではない → 「θcos や cos ×θ 」 という書き方はしない.
三角関数を書くときは必ず,角度を表す文字,または,角度の数値をつけること.
→ 「cos = ・・・」という書き方はしない.
→ 「cosθ= ・・・」, または, 「cos 60 ° = ・・・」のように書く.
さらに,tanθは(1-3-1)式から(1-3-2)式を用いて,cos θとsin θを用いて下の式のように表すことができる.以下では,下の式が
「tanθ」の定義式とする.
tanθ= sinθ
cosθ (1-3-4)
問1-3-1. (1-3-1)式と(1-3-2)式を(1-3-4)式に代入することで,(1-3-3)式が成り立つことを確認せよ.
* 三角比の覚え方
三角比を始めて学ぶ場合,どの辺の比が, 「コサイン・シータ」か,あるいは,「サイン・シータ」か,について忘れることが多い.
そこで,始めのうち,下のように三角比を覚えるとよい. 「cosθ」ではコサインの頭文字の「C」の字を「斜辺(90 °となる角の対辺に 相当する辺)」から始めて,角度θをはさむようにして「底辺」に到達する.
「 C 」
を書くcos θ = 「C」の到着の辺
「C」の出発の辺 = OB OA
「sinθ」ではサインの頭文字の筆記体の「S」の字を「斜辺」から始めて,角度θを避けるように「高さの辺」に到達する.
筆記体の
「 S 」
を書く
sin θ = 「S」の到着の辺
「S」の出発の辺 = AB OA
問1-3-2. 次の直角三角形OABを簡単に図示し,その三角形の角度θでの三角比の cosθとsinθの値を求めよ.ただし,∠B
= 90 ° = 直角 とする.
1) ∠O = θ = 30 ° → cos 30 ° = ? sin 30 ° = ? 2) ∠O = θ= 45 ° → cos 45 ° = ? sin 45 ° = ? 3) ∠O = θ = 60 ° → cos 60 ° = ? sin 60 ° = ?
O θ B
A θ
A
O
B
問1-3-3. 次の直角三角形の角度θは各々53 °と64 °である.三角比の cosθとsinθ の値を求めよ.
1) 2) OA = 5 AB = 2
AB = 4 OB = 1
cos 53 ° = ? sin 53 ° = ? cos 64 ° = ? sin 64 ° = ?
* 角度θ= 0 °とθ= 90 ° での三角比
角度θが0 ° または90 °になると直角三角形はつぶれて,もはや作成できない.しかし,つぶれる直前の直角三角形を考える と,三角比を求めることができる.
i) ∠O (=θ) が0 ° 近傍の場合
さらに, 角度θを小さな値にして,0 ° にさらに近づける.その時,点Aは点Bにくっつき(A→B),OA = OB ,AB = 0 (ゼロ) と なる.したがって,角度θ= 0 °では下の式が成り立つ.
cos 0 ° = OB OA =
OA
OA = 1 (1-3-5)
sin 0 ° = AB OA =
0(ゼロ)
OA = 0 (1-3-6)
ii) ∠O ( = θ) が90 °近傍の場合
角度θをさらに90 °に近づけると点Oは点Bにくっつき(O→B),OA = AB,OB = 0 (ゼロ) となる.したがって,角度θ= 90 ° では 下の式が成り立つ.
cos 90 ° = OB OA =
0(ゼロ)
OA = 0 (1-3-7)
sin 90 ° = AB OA =
OA
OA = 1 (1-3-8)
となる.ここまでの結果をまとめると角度θが0 ° ~ 90 °までの三角比cosθとsinθの値は下の表のようになる.
O 64 °
A
B A
O 53 ° B
A O B
B O
A
θ 0 ° 30 ° 45 ° 60 ° 90 °
cosθ 1 3/2 2/2 1/2 0
sinθ 0 1/2 2/2 3/2 1
*注意 三角比の性質
下の図のように直角三角形OABにおいて,中学校で学んだように三平方の定理(ピタゴラスの定理)が 成り立つ.
三平方の定理
(OA)2= (OB)2+ (AB)2
→ 上の式の両辺を(OA)2で割ると,下の式のようになる.
1 =
( )
OB OA 2 +( )
AB OA 2= (cosθ)2+ ( sinθ)2 (1-3-9)5
= cos 2θ+ sin 2θ
→ 三平方の定理について三角関数を用いて表した!
問1-3-4. 問1-3-2と問1-3-3で求めた三角比cosθとsinθを使って,(1-3-9)式がいずれも成立することを確かめよ.
問1-3-5. (1-3-9)式を使って,1/(cosθ)2= 1 + ( tan θ)2 が成立することを確かめよ.
* 三角比の一般化(三角関数)
ここまでは,角度θが 0 °≦θ≦90 ° となる鋭角の場合の三角比を扱ってきた.次に,別な(新たな)三角比の定義を導入し,
角度θが鈍角やマイナスに相当する一般の角度でも適用できるようにする.このとき,角度θに対して,コサインやサインの値が 決まるので,1種の関数となる.この関数は,三角比を拡張した関数なので「三角関数」と呼ぶ.
横軸をx軸,縦軸をy軸として,中心を点Oとして,半径r= 1の円を描く. x軸から反時計周りに,角度θだけ回した点をA とする.点Aからx軸に垂直に下ろした点をBとしよう(半径 r= OA = 1).
点Aの座標(位置)を ( x , y ) とすると,x座標はOBの長さ,y座標はABの長さになる.また,直角三角形OABを考えると,
従来の三角比の考え方より
5 三角比cosθの2乗( cosθ× cosθ)はcos2 θと書く書き方が一般的である.本来の意味から考えて,ここでは,あえて,(cosθ)2
と書いた.
O θ B
A
y
θ B –1
1
O x
A
–1
1
cosθ= OB OA =
OB
1 = OB , sinθ= AB OA =
AB
1 = AB より
点Aの座標 =( x , y ) = ( OB , AB ) =(cosθ ,sinθ) (1-3-10)
が成立する.つまり点Aの,x座標がcos θ ,y座標がsin θとなる6.このように,三角比を三角関数として,新たに定義すること で,一般の角度θに対する三角関数の値を求めることができる.
問1-3-6. 上のような半径が1の円(単位円と呼ぶ)の図を作成し,下の角度θに対応する円周上の点Aを図示し, 点Aの座標
を求めて,三角関数 cosθとsinθの値を求めよ.
θ= 0 °,30 °,45 °,60 °,90 °,120 °,135 °,150 °,180 °,210 °,225 °,240 °,270 °,300 °,315 °,330 °,360 °
θ(°) 0 30 45 60 90 120 135 150 180
cosθ sinθ
θ(°) 180 210 225 240 270 300 315 330 360
cosθ sinθ
問1-3-7. 上の問1-3-6.と同様にして, 角度θ= –30 °,– 45 °,– 60 °と390 °,405 °の三角関数 cosθとsinθの値を求めよ.
問1-3-8. 上の問1-3-6から,全ての角度θに対して,恒に (cosθ)2+ ( sin θ)2= 1 となることを確かめよ.
また,cosθとsin θの値は,–1から +1までの範囲にあること( –1≦cosθ≦1,–1≦sin θ≦1) となることも確か
めよ.
問1-3-9. 横軸に角度θ(0 °≦θ≦360 °),縦軸にcosθとsinθをプロットし, それらの点を滑らかな線で結び,グラフをかけ.
* 1-3. のまとめ
三角関数cosθ ,sin θは半径r= 1の単位円を書いて,角度θだけ反時計回りに回した円周上の
点Aのx座標とy座標からなる.
円周上の点Aの座標 = ( x, y) = ( cosθ ,sinθ) (1-3-11)
三角関数cosθ ,sin θ は任意の角度θに対して下の式が恒に成り立つ(恒等式).
( cosθ)2+ ( sinθ)2 = cos 2θ+ sin 2θ = 1 (1-3-12)
6 角度θは+x軸(横軸)から反時計回りに回る角度をさす.角度θがマイナスの場合は+x軸から時計回りに回る角度をさす.
1-4. ベクトル
物理で扱う量を「物理量」と呼ぶ.物理量とは観測可能な量である.物理量はその性質から大きく分けて,スカラー量とベクト ル量の2種類ある.ここではベクトル量(略して,ベクトル)についてその性質を調べる.
・ スカラー量 → 大きさだけを持つ量 (例; 質量,長さ,体積, 速度の大きさ(速さ), ・・・) ・ ベクトル量 → 大きさと向きを持つ量 (例; 速度,力,電界(電場),磁界(磁場), ・・・・)
* ベクトルの定義とその表し方
ベクトルは大きさと向きを持つ量なので,ベクトルを図示する場合は,矢印で表す7.矢印の始点を点O,終点を点Aとすると,
このベクトルを OA→ とし,始点から終点へ向けての矢印で表す.
終点A
OA→ 始点O
向き = ベクトルの向き
矢印の
大きさ(長さ) = ベクトルの大きさ
始点と終点でベクトルを表す場合と1文字だけで表す場合がある. OA→
を→aと表すこともある
OA→
=→a (1-4-1)
* ベクトルの性質
上のようにベクトルを定義すると,下のようなベクトルの性質がある(ここでは簡単のために2次元のベクトルのみを扱う).
(1) 成分表示
ベクトルの始点を原点Oにとると,ベクトルは終点のx座標とy座標の組で表現できる.例えば,ベクトル→aの終点のx座標(x 成分)がax,y 座標(y 成分)が ayである時,ベクトル→aは下の式のように表される.ベクトルを成分で表す方法を成分表示と呼 ぶ.
→a
= (ax, ay) (1-4-2)
y
ay A ← 終点の座標 = (ax,ay) →a
O a x x
7 矢印が始まる点 = 始点, 矢印が終わる点 = 終点
問1-4-1. 下の左の図に表されたベクトル→a,→b,→c を成分表示で表せ.
→b →a
→c
問1-4-2. ベクトルd→= (0 , 5), →e= (–6 , 3),→f= ( –4 , –5) で表されたベクトルを上の右の図に書き込め.
(2) 大きさ(長さ)
ベクトルの大きさは,矢印の長さである.数学的にはベクトルa→の大きさは |→a| と表す8.また,簡単のため,a とすることもあ る.
y
辺の長さを考える a
→a ay ay
ax x ax
大きさaは三平方の定理より,下の式のように計算できる.
→a
の大きさ = | →a| = a = (ax)2+ (ay)2 = ax2+ ay2 (1-4-3)
問1-4-3. 次のベクトルの大きさを求めよ.→a= ( 1 , 2 ), →b= (–3 , 4 ),→c = (–5 , –12)
(3) 成分表示をベクトルの大きさとなす角θを使っての表示
ベクトルは成分表示で表すことができることを,性質(1)で示した.別な表し方として,成分表示をベクトルの大きさとx軸からの 角度θを用いて表すことができる.
下の図から,三角関数を用いると,a→のx成分axとa→のy成分ayについて,下の式で表すことができる.
ax/a = cosθ ax=a cos θ (1-4-4)
ay/a = sinθ ay= asin θ (1-4-5)
8 |・・| は絶対値記号といい,・・ (ある量)の大きさを指すことを意味する.・・ がベクトルの場合はベクトルの大きさ(ベクトルの 大きさは,すでに向きを持たない)を指す.したがって,ベクトルの大きさはスカラーとなる.
y
→a a
ay ay θ 「辺の長さ」のみ書く θ ax x ax
したがって,ベクトル→aを成分表示を用いて,下の式のように表すことができる.
→a
= (ax,ay) = ( a cosθ, a sinθ) (1-4-6)
ここで,|a→| =a = 1の場合は,→a= ( cosθ, sinθ) となり,単位円の円周上の位置となる.
問1-4-4. |→a| =a= 2で,θ= 0 °,30 °,45 °,60 °,90 °,120 °,135 °,150 °,180 °,210 °,225 °,240 °,270 °,–30 °,–45 °, –60 ° において→a を成分表示せよ.
(4) 平行移動
ベクトルは大きさと向きを持った量である.ベクトルは平行移動させても大きさと向きは等しいので,ベクトルは平行移動して も同じベクトルとなる.
→a →b 平行移動
この時, →a=→b が成立する.
(5) 足し算(ベクトルの合成)
2つのベクトルを足し合わせることをベクトルの合成と呼ぶ.ベクトルの合成は普通の数のように’ +記号 ’を使って表す.
2つのベクトルの合成 = →a+→b (1-4-7) 方法(a)
(i) →a と→b の始点を一致させ,平行四辺形を作る.
(ii) 同じ始点から平行四辺形の対角方向に矢印を引く. → この矢印が合成したベクトル →a+→b に対応する.
→a+→b
→b
→a
方法(b)
(i) →bの始点を→aの終点に一致させるように,→b を平行移動させる.
(ii) →aの始点から,平行移動後の→bの終点に向けて矢印を引く. → この矢印が合成したベクトル「→a+→b」に対応
→b 平行移動 平行移動後の→b →a+→b →b
→a →a
*方法(b)の別な扱い方(注意 ここで書くことは,便宜的に書いてあり,正確ではない) 3つの点A,B,Cを考える.上の右の図と同じになるように配置する.
ここで,→a= AB →
(点Aから点Bに向かうベクトル),→b= BC →
(点Bから点Cに向かうベクトル)となる.
C
→a+→b = AB → + BC →
A B (点Aから点Bを経由して点Cへ到達) →「+」で2つのベクトルをくっつける = ABBC ―→
(重なった点Bは消える)
= AC →
(点Aから直接,点Cへ向かう)
方法(c) ← 成分表示を使う
(i) →aと→bを成分表示して,各々の成分ごとに足し算をする.
→a
+→b = (ax, ay) + (bx,by)
= (ax+bx, ay+ by) (1-4-8)
問1-4-5. ベクトルa→= (4, 1),b→= (1, 3),c →= (–5, 0),d→= (–1, –4) とするとき,a→+→b,c →+d→ について,方法(a)のやり方で
図示し,次に方法(c)のやり方で求めよ.
*合成したベクトルの大きさの表し方の注意
→c
=→a+→bの大きさは下のように絶対値記号を用いて表す.(|c →| =c,|a→| =a,|b→| =b)
|→c | = |→a+→b| (1-4-9)
c = |→a +→b|
≠
|a→| + |b→| = a+ b (1-4-9’)(6) ベクトルのスカラー積(ベクトルとスカラーのかけ算)
ベクトル→aにスカラーmをかけたものがベクトル→bであるとすると下の式が成り立つ.
→b =m a→ (1-4-10)
上の式を成分表示で表すと各々の成分にスカラーmをかけて下の式のようになる.
( bx,by) = m (ax , ay) = (m ax,m ay) (1-4-11)
問1-4-6. →a = (4 , –1),m = 2,n = –2の時,ma→とna→を成分表示で求め,それら2つのベクトルの大きさを求め,図示せよ.
→b
= m a→ において,m > 0 の場合は,→bと→aは同じ向きで,m < 0の場合は2つのベクトルは逆向きになる.また,下の式のように,
→b
の大きさ= |→b|は,mの大きさ=|m|と→aの大きさ= |→a| の積として表すことができる.
→b
の大きさ= |→b| = |m a→| = |m| |→a| =mの大きさ × →aの大きさ (1-4-12)
正 正 上の式を成分で表すと,
b= bx2+ by2= (m ax)2+ (m ay)2 = m2(ax2+ay2) = m2 ax2+ay2= m2 a (1-4-13) となる.また, m = –1の場合は
→b
= (–1) →a = –→a (1-4-14)
となり,→bと→aは互いに逆向きで同じ大きさのベクトルとなる.
* →0について
→0は各成分が0となるベクトルで,この場合は’0’ と書いてもよい.
→0 = ( 0 , 0 ) = 0 (1-4-15)
2点A, Bがある時,AB →とBA →は逆向きのベクトルである.この時,AB → + BA →
= ABBA
―
→ = AA →= 0→= 0 となる.
B
AB →
BA →
= – AB →
(始点と終点を逆にすると –1がかかる)
A
(7) ベクトルの引き算
ベクトルの足し算と同様に引き算もある.
→a
–→b=→a+ (–1)→b (1-4-16)
と表すことができるので,ベクトルの引き算の方法として下のような方法がある.
方法(a)
(i) →bに(–1)をかけて,–b→を作成する.
(ii) →aに–b→ を足し合わせる(a→と–b→を合成する).
方法(b) ← 成分表示を使う
(i) →aと→bを成分表示して,各々の成分に対して引き算をする.
→a
–→b = (ax , ay) – (bx ,by) = (ax–bx, ay–by) (1-4-17)
問1-4-7. 下の図に表されているベクトルを図で書いて表せ.
1) –3a→ →a 2) →a+→b →a →b
3) →a+→b →a 4) →a–→b →a →b →b
5) →a+ 2b→ 6) →a–→b/2
→a →a →b →b
問1-4-8. ベクトル→a= (4 , 1) ,b→= (1 , 3) ,c →= (–5 , 0) ,d→= (–1 , –4)とするとき, →a+ 2b→, →a–→b, →a– 2b→, →c –d→ に
ついて成分表示して,その大きさを計算せよ.
2
.物体の運動「物理学」を学ぶための数学的な準備ができたので,物理学の基礎となる「物体9の運動」について学習する.「物体が動くと いうこと」は,時間が経過するのに伴い,物体の位置が変化する(移動する)ことを意味する.したがって,運動の性質を調べるた めには,時間と物体の位置について知らなければならない.即ち,これらの量について,「測定」しなければならない.なお,物理 量は,一般的には測定した量は,小数とその単位を用いて表す.また,物理量を表す記号としてはアルファベットやギリシャ文字 を用いることが多い.例えば,物理量として,時間は,時間 t= 2.5 s のうように,物理量表す記号,数値,単位を用いて表す.
2-0
. 時間(time) t
時間を測定するために,多くの物理現象の中から規則的な運動を選び,その規則性から一定となる時間間隔を定める.そし て,その一定の時間間隔を基にして「時計(時間を測定する器具)」を作成する.例えば,太陽の周りを地球が 1 回転する時間を (恒に,一定と見なして)「1年」と定める.また,「1日」は地球が1回転の自転をする時間として定める.このようにはじめは,地球,
月,太陽などの惑星の規則的な運動を時間の基準に採用した.時は自然に流れ,逆戻りしないが,時の流れの一瞬の瞬間を時 刻と呼ぶ.
「時間・時刻」を英語ではtime と書くので,その頭文字を取って,時間,時刻を表す記号としてt を用いる.「時間はある時刻 とある時刻の間の差」を指す.例えば,始めの時刻t1と終わりの時刻t2として,そ間の時間をΔtとすると,時間Δtは下の式のよう に表すことができる.
Δt=t2–t1 → 時間(終わりの時刻と始めの時刻の間) = 終わりの時刻 – 始めの時刻 (2-0-1)
(ここで,「Δ (デルタ)」は物理量としての時刻tの変化量(差)を表している.また,「Δt」はひとまとまりで,「時間 = 時刻の差」の意 味であり,掛け算( Δ×t)の意味ではないので注意すること. )
次に,物理で使用される時間の単位を,下の表に示す.
日本語 英語 英語の省略形
世紀 century c
年 year y
日 day d
時 hour h
分 minute min
秒 second s
特に,「秒(second)」は「物理学」において時間の単位として重要10である.また,世界的には単位は上の表に書いたような
「英語の省略形」を用いる11.これらの単位の間には下の表に示すような単位同士の換算関係が成立する.
1 c = 100 y 1 y = 365 d 1 d = 24 h 1 h = 60 min 1 min = 60 s
9 ここでは,「物体とは何か?」とは問わないことにする.
10 物理学では時間の単位は秒[s]を用いるのが国際基準になっている.
11 物理量を表す記号(アルファベット)と単位を表す記号(アルファベット)の使い方の違いに注意すること.物理量を表す記号
は,一般に,斜体文字(Italic)を用いる.また,単位はかっこを用いて表すこともある.