植物防疫 第
72
巻第12
号(2018年)47
生 物 農 薬は じ め に
農薬取締法に基づき農作物の防除に用いられる天敵も 農薬としてみなすことになっており,天敵昆虫,捕食性 ダニ類,微生物を生きた状態で製品化されたものは生物 農薬として取り扱われている。生物農薬に利用される生 物としては,主として害虫防除を目的として捕食寄生性 および捕食性昆虫類,捕食性ダニ類,昆虫病原性線虫,
昆虫病原性微生物があり,病害防除を目的としては拮抗 微生物などがあげられる。本稿では天敵昆虫類・捕食性 カブリダニ類について解説する。
I 天敵昆虫製剤開発の歴史
自然界における食物連鎖は,農業生態系の中でも見ら れるものであり,いわゆる害虫に対して寄生や捕食を行 う性質を利用して作物保護という観点で天敵昆虫類が生 物農薬として使われている。天敵には,捕食性の違いか ら捕食寄生性といわれるものと捕食性のものがある。捕 食寄生は,天敵が相手の体に寄生し,栄養を取って成長 し,寄生が終わると宿主が必ず死んでしまう場合が多く 見られる。つまり,宿主の体を食べ尽くして生活すると いうことから,一般の寄生と区別し,より捕食に近い寄 生という意味で使われている。
この種の天敵では,特に寄生蜂があげられるが,彼ら は寄主特異性が高く,寄主範囲が狭いことが特徴の一つ である。捕食性天敵のほうは,チリカブリダニを除き捕 食範囲がそれほど特異的ではなく,餌の種類や生活ステ ージが特定されない傾向にある。
これらの生物農薬は,古くは昭和
26
年にルビーアカ ヤドリコバチ剤がカンキツなどの果樹害虫であるルビー ロウカイガラムシに対し登録を取得したことから始まる が,既にその農薬登録は失効されており,現在国内で登 録されている天敵製品は表―1
に示したものである。現在使われている生物農薬としての有効成分の中で,
古いのはチリカブリダニとオンシツツヤコバチで,1995 年(平成
7
年)に登録された。それ以降失効した剤もあ るが,2018年10
月1
日現在,有効成分として22
成分,46
製品が登録されている。II 天敵昆虫製剤の種類と概要
1
コウチュウ目(鞘翅目)(コガネムシなどの仲間)テントウムシ類:種類により食性が異なり,肉食性の ものはアブラムシ類,カイガラムシ類,コナジラミ類を 捕食するものがいる。商品化されているものとしては,
ナミテントウ,ヒメカメノコテントウがある。近年登録 されたヒメカメノコテントウ剤はナミテントウに比べて 体長は小さいが捕食量が多く活発に活動することが特長 で,寄生蜂(コレマンアブラバチやギフアブラバチ)と 併用で,アブラムシに対する防除効果が安定できること が報告されている。
2
カメムシ目(半翅目)カメムシ類は,口器が細長い針状で養分を吸汁する摂 食様式を取る。多くのカメムシでは植食性で害虫として 扱われるが,中にはハダニ類,アブラムシ類,カイガラ ムシ類等の体液を吸汁して生活しているものがあり益虫 に分類される。一方,植物からも害虫からも栄養を吸収 するタイプのものもいるので,密度によっては天敵とし て利用しつつ作物に被害が出る場合もある。古くはナミ ヒメハナカメムシ,タイリクヒメハナカメムシが平成
10
〜13
年ころに登録されたが,現在ではタイリクヒメ ハナカメムシが利用されている。上記ヒメハナカメムシ 以外ではクロヒョウタンカスミカメ,コミドリチビトビ カスミカメ,タバコカスミカメ等が天敵として有効であ ると評価されている。土着天敵としてクロヒョウタンカ スミカメ(図―1
),タバコカスミカメ(図― 2 ;中石ら,
2011
)は,生物農薬としての登録はないが,特定農薬と して利用されており,今後の製剤化が期待される。3
ハチ目(膜翅目)(ハチ,アリの仲間)これらの仲間は,基本的に捕食寄生者であるため害虫 の密度抑制効果が得られる。また,寄主の体液を摂取す ることで寄主を傷つけて殺すこと(ホストフィーディン
Natural Enemies and Predatory mites as Commercial Biological
Control Agents.
By Satoshi Y
AMANAKA(キーワード:
IPM ,天敵昆虫,捕食性カブリダニ,寄生蜂)
生 物 農 薬
―天敵昆虫製剤―
山 中 聡
アリスタライフサイエンス(株)
農薬編―