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外国語教育における「高大連携」の可能性

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外国語教育における「高大連携」の可能性

|「高校生のためのフランス語サマースクール」

カリキュラム開発と実施 |

大 塚 陽 子 海老根 龍 介 小 川 実 優 中 井 珠 子 善 本   孝

0. はじめに

 1999年の中教審答申において文部科学省は、「高校教育から高等教育へ の円滑な移行」の一環として「専門的な事項について強い意欲や関心を持 つ生徒に多彩かつ多様な教育に触れる機会を広く提供すること」の重要性 を説いている1。これは高等教育機関の担うべき役割の一つとして認知さ れ、約20年が経過する現在、多くの大学が「高大連携」の名を掲げ高校生 を対象とした様々な取り組みを実施している。白百合女子大学でも2017年 度に高大連携プログラム「高校生のためのフランス語サマースクール(以 下「サマースクール」と略記)」を開始、2017年度は 32名、2018年度は34

1  いわゆる「高大連携」の推進についての概要が初めて提示されたのは、中央教育審議 会「初等中等教育と高等教育との接続の改善のための連携の在り方」(答申)1999.  に おいてである。(文部科学省ホームページ最終閲覧2018年9月21日)http://www.mext.

go.jp/b_menu/shingi/old_chukyo/old_chukyo_index/toushin/attach/1309750.htm   また「高大連携」についての基本情報は以下の文献に詳しくまとめられている。根津朋

実「カリキュラム研究からみた「高大接続・連携」の諸課題−「教科課程」、「断絶」、「大 学0年生」−」『教育学研究』第83巻第4号日本教育学会2016.

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名の高校生が2日間のプログラムを「科目等履修生」として履修し、単位 を取得した。多くの高校生にとってフランス語は未知の言語であり、「サ マースクール」が英語以外の初めての外国語学習体験となる。一方で高等 学校における外国語教育の多様化が推進された影響もあってか2、昨今では フランス語を学ぶ高校生も僅かながら確実にいる。一概に高校生といって も外国語学習歴は一律ではない。各々が抱く多様な目的や期待に的確に応 えられるかどうかは、受講生が学びの意義を見出せるのか、外国語学習を 自分の将来にどう位置づけていくのか、という問題に直接関わるので、カ リキュラムの構成からプログラムの運営、授業の実施に至るまで細心の注 意や様々な工夫が必要となる。またこれらの工夫についての検討は、「高 大連携」が高校生にとって意味のある機会として存続するためにも積極的 に行われるべきで、その結果を効果的に活用することが望ましい。

 以上を踏まえ、本稿では「高大連携」の一つの試みである「サマースクー ル」について、プログラムの理念や実施までの経緯、カリキュラムの内容 を示した上で、受講生の満足度に関わる要因についての分析を行い、今後 の在り方についての提案を行う。外国語教育における「高大連携」の可能 性の一端を明らかにすることが主な目的である。     (大塚 陽子)

1. プログラムの理念と実施までの経緯

 日本の外国語教育の現状を考えると、グローバル化の流れと軌を一にし た英語偏重の傾向が強まっているように見受けられる3。英語を「世界共通 言語」と無反省に見なす問題点はさまざまに指摘されているが、現実的な

2  文部科学省(2002)「外国語教育の充実のための施策(文部科学省ホームページ最終閲覧 2018年9月21日)http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/020/sesaku/021101.htm 3  日本の外国語教育における英語偏重の現状とその問題点について、最近の簡潔なサー ヴェイとして、たとえば、鳥飼玖美子、大津由起雄、江利川春雄、斎藤兆史 『英語だけ の外国語教育は失敗する ― 複言語主義のすすめ』 ひつじ書房 2017.などを参照。

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認識として、英語が意思疎通の手段として有用なのは間違いなく、「まず は英語を」という発想が生まれること自体は当然と言える。ただそれが「英 語だけできれば十分」とか、「他の外国語を学ぶ時間と労力があるなら英 語に振り向けるべきだ」とかいう排他的主張に繋がると大きな問題で、近 年の研究では、国際的に仕事をするうえで英語ができることはもちろん歓 迎すべきだが、言葉が少々下手であっても相手ときちんと向き合えばそれ はある程度補えるし、仕事相手が非英語圏出身の場合は、相手の母語や日 本語でのコミュニケーションも重要だと指摘されている。新たな言語に開 かれた態度で積極的に関わり、仮に語学的に不十分であっても対話を成立 させる能力が、英語運用能力とともに求められているようだ4

 現在の日本では、いわゆる第1外国語として英語を学ぶ高校生が圧倒的 に多いが、数は少ないながらフランス語を選択する生徒もいる。このよう な生徒にとっての大きな問題は、普段の授業以外の場でフランス語に触れ る機会がきわめて少ないことだろう。むろんテレビやラジオの「フランス 語講座」などあるにはあるが、基本的には独習向きのツールである。学習 の効果を実感し、モチヴェーションを高めるには、高校での学習以外でフ ランス語を用いる場に身を置いて、自分の世界が広がるのを感じるのが もっとも効果的だが、そのような機会はなかなかない。また高校までに培っ たフランス語の基礎力を生かし、大学で専門的な知見を深めようと考えて も、それがどのようなものか知るとっかかりが少なく、具体的なイメージ を持って進路を選択しづらいのも問題だろう。

 他方、近年は総合高校などを中心に、英語以外に週1回程度の外国語の 授業を選択している生徒もおり、その中にはフランス語選択者も相当程度 含まれている。まったくフランス語を知らないが、勉強してみたいと漠然 4  この点についての紹介として、久保田竜子 『英語教育幻想』 ちくま新書 2018.などを 参照。第6章、第7章で海外で活躍する駐在員や企業の人事担当者へのインタヴューな どを踏まえて、表面的な英語運用能力だけを追求する傾向に疑問が呈されている。

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と考えている高校生ももちろんいるはずだ。そのような生徒が大学で専門 的にフランス語を学んでみたいと思っても、英語以外の外国語を集中的に 学習する体験をしていなければ、選択には大きな不安がともなう。専門的 に学ぶのでなくても、大学で第2外国語を選択するか、選択するとしてそ れがフランス語でいいのかも、大学で実際にフランス語を学んでみれば判 断しやすくなるだろう。先述した通り、対象言語を完璧に操れるようにな らずとも、限定的なコミュニケーションが行えるようになるだけで、外国 語を学ぶ「実用的な」意味があるのだとしたら、学生時代に英語以外の言 語にも触れ、片言であれ実際に意思疎通できるようになる体験を積んでお く価値は大きい。専門領域の学習の傍らで、出来る範囲で第2、第3の外 国語を学習する場を学生に提供することは、大学の重要な役割のひとつと 考えられるのであり、複数の外国語に興味を持つ学生を多く育てるために も、高校生の段階から「新しい外国語」に抵抗なく意欲的に向き合う姿勢 を醸成することは、入学後に第2外国語の履修を必修としない傾向が強 まっている現在、なおさら意味があると考えられる。

 「サマースクール」では、以上のような認識のもと、すでにフランス語 を学んでいる高校生には、「高校の授業とは別の角度からフランス語を学 習すること」を、フランス語に少し触れたことがある、あるいはまったく 未習の高校生には「実際にフランス語で簡単なコミュニケーションを体験 すること」を柱にすえて、カリキュラムを構成した。経験者クラス、初心 者クラスともに、フランス語そのものだけでなく、フランス語を学んで何 ができるようになるか、どんな新たな世界に出会えるかを、体験的に理解 することを目指した。「フランス語で~ができるようになる」という形で 到達目標を設定し、達成度について評価を受けることで、参加者自身が受 講の成果を実感するのが重要と考えたのである。こうした狙いを実現させ るためには、参加者と指導者が到達目標を共有したうえで、公正かつ客観

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的に評価する仕組みを、制度として担保するのが有用である。「サマース クール」を単なる「フランス語教室」ではなく、参加者を「科目等履修生」

として正規に登録させたうえで合格者には大学の単位を授与する、「高大 連携」の形で行ったのには、このような考えが反映されている。

 単位を授与するとなると、それに見合った授業時間が前提となる。集中 講義だと1日3コマ5日間で2単位が一般的だが、夏休み期間中とはいえ、

高校生が1週間朝から夕方まで毎日通学するのは現実的でない。そこで1 日の授業時間は少々長くなるが1日4コマ2日間(計720分)で1単位と いう設定にした。さらにより集中しやすい環境を整えるために、実際には 60分授業を1日6時限分行った。

 大学の単位を授与する以上、学習内容も当然大学同様のレベルが求めら れる。初心者に関しては大学でも初歩から教えるのでこの点での問題はな く、経験者についても「高校で普段学べないこと」を中心にカリキュラム を組んだので、必然的に大学レベルの内容となった。以下で具体的なカリ キュラムの内容とその運営の実態について、分析を含めて報告したい。

(海老根 龍介)

2. カリキュラムの内容

 白百合女子大学フランス語フランス文学科では「個別化フランス語教育 プログラム」を展開している。このプログラムは、近年ますます多様化し ている入学生に対応するために、学生一人ひとりの外国語学習適性と意欲 にあわせたカリキュラムと学習環境を提供するものである。20人前後の少 人数クラスによる授業をコアとして、学生が自由に利用できる学科研究室 には学生と同年代の「ネイティブ・スピーカー・ティーチング・アシスタ ント(以下NSTAと略記)」が常駐し、いつでも自由にフランス語で会話 できる環境を整えている。同時に本学大学院生のティーチング・アシスタ

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ント(以下院生TAと略記)も配置し、授業での疑問点や勉強の仕方など を気楽に相談できるようにしている。教員も授業時間外の質問に積極的に 応じている。こうした学習環境によって高い意欲を持つ学生のフランス語 力を大いに伸ばすとともに、学習に遅れがちな学生を無理なくフォロー アップする「個別化フランス語教育」を過去20年以上に渡って充実発展さ せてきた5

 「サマースクール」の実施にあたっても、教員、NSTA、院生TAの連携 によって高校生を対象とする「個別化カリキュラム」の構築を目指した。

以下その内容についてクラス別に報告した後、カリキュラムを支える特色 でもある科目担当者以外、とくに学生スタッフの関わりについて述べる。

(善本 孝)

2.1. 初心者クラス

 初心者クラスは、NSTAと日本人教員によるチームティーチング形式で 授業を展開した。また、アクティヴィテやタスクを行う際に、受講生が不 安を覚えることのないよう、大学院生や教職課程履修者にも協力を要請し、

サポート体制を整えた。2018年度は、自宅での復習用にインターネット経 由の音声サービスも提供している。使用する教材は全て担当者が作成して おり、初心者クラスではCours d’été de langue française à SHIRAYURI(以 下Coursと略記)を各年度作成し使用している。Coursには、ダイアログ やアクティヴィテ(「歌」や「ロールプレイ」を含む)、タスク(仏作文や 発表を含む)が用意されている。

5  1996年にNSTA制度を導入して以来、院生TA制度、フランス語発表会や発展講座・フォ ローアップ講座の開催など、一人ひとりの学生が意欲や能力に応じて学習できる環境を 整備してきた。2012年度からは、これらを「個別化フランス語教育プログラム」の名の もとに一体的にシステム化し、学科全体の事業として運用・発展させる体制を構築し成 果を挙げている。

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 初心者クラスは文字通りフランス語を初めて学ぶ受講生を対象としてお り、クラスの大半にとっては意図的にフランス語に触れる初めての場とな る。受講生は様々な理由で「フランス語を学んでみよう」と考え、プログ ラムに参加している。その意図は「サマースクール」の受講終了とともに 消失するのではなく、終了後も持続することが望ましい。そのためには初 めての学びを楽しいと感じられる活動や達成感を得られる活動を多く取り 入れた授業を展開する必要がある。こうした授業展開を目指し2つの基本 方針を設定した。

2.1.1. 「話すこと」と「聞くこと」の重視

 1つ目は「話すこと」と「聞くこと」の重視である。特に「やりとり」

を基盤としたアクティヴィテを多く導入することで、フランス語を聞き、

話す機会を多く設けた。さらに初日の到達目標を「やりとり」に、また2 日目を「発表」に結びつけて具体的な授業プランを立てた。2018年度は到 達目標を①「フランス語で挨拶と自己紹介ができる」、②「フランス語で 注文し買い物ができる」(以上初日)、③「フランス語で夏休みの計画を話 すことができる」(2日目)とし、②についてはパン屋での客と店員のロー ルプレイ(やりとり)の披露、③については各自が立てた夏休みの計画に ついての簡単なスピーチ(発表)を学習過程の最終段階に設定し、評価の 対象とした。例として到達目標③への学習展開を紹介する。

 前日から学び始めたフランス語でスピーチを行うのは難度が高いという 懸念もあったが、実際には全員がスピーチ内容を暗記し、ほぼ正確な発音 で発表を行った。2時限目のペアワーク(「やりとり」)を経たこと、さら にスタッフを相手に発音や暗記の練習時間を十分確保できたことが功を奏 したと思われる。発表前は不安を抱いていた受講生もあったが、その分実 現できたことによる達成感は高く、喜びや自信にもつながったようである。

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[表ⅰ]

到達目標: フランス語で夏休みの計画を話

すことができる 所要時限:3時限

単元目標 主な学習表現・事項 アクティヴィテ/タスク 備考

夏休みの計画を 立てる

・ Je vais+不定詞   (近接未来形1人

称単数)

・ 様々な活動の表現   (不定詞+目的語/

補語)

・ リストから活動を選び計 画を立てる。

・ 発音練習を行う(リスト の活動の発音練習は一通 り行うが、選択した表現 の練習は集中して行う)。

活動はできる だけリストか ら選ぶ。

友達に夏休みの 計画をたずねる

・ Qu’est-ce  que  tu  vas faire pendant  les vacances ?

・Et toi ?

・ d’abord,  ensuite,  puis

・ モデル会話理解、発音練 習。

・ ペアワーク(モデル会話 に沿ったやりとり)。

・ 聞き取った友達の計画を 表に日本語で書き込む。

夏休みの計画に ついて発表する

・ スピーチ開始と終 了の表現 Bonjour. 

Merci.

・ スピーチ原稿の準備(書 く)

・発音練習(読む)+暗記

・スピーチ(発表)

友達の発表を 聞き、内容を 理解する。

2.1.2. 主体性の重視

 2つ目の基本方針は主体性を育む授業展開である。そのために、各学習 項目に沿って受講生の「気づき」をうながす設問を多く用意した。例えば、

言語規則に関する学びも、説明を受けて理解するという受動的な体験では なく、設問に沿って自らが考え、気づき、それを理解につなげるという能 動的な体験となるように設定した6。例として数(1~ 20)の学習を紹介し たい。

 数は「気づき」をうながす学習素材になりうる7。設問で誘導すれば、音 の面ではフランス語の特徴でもある鼻母音や母音、さらに初めて聞く音[r]

6  初級者クラスのカリキュラム、授業デザインを設計する上で次の文献を参考にした。

中井珠子、川勝直子、中村公子、横谷祥子『発見!フランス語教室』第三書房1995.

7  数字がフランス語の音の特徴を形成する母音や鼻母音を含む発音学習のための理想的 な素材であることは、菊池歌子『フランス語発音指導法入門』関西大学出版部2014.に 詳しい。

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に気づき、つづりの面では語末の子音字を発音しないことを知り、さらに そこからリエゾンやアンシェヌマンの理解へと発展させられる。また、1

(un, une)は、フランス語の特徴でもある名詞の性の存在に気づかせ8、文 法的側面に意識を向けさせるきっかけともなる。

 初めて触れる言語的特徴を教師が一方的に説明すると、新しい規則が多 いことに対する不安感が先行してしまう恐れがある。しかしゲーム感覚で 設問に答えていくことで受講生は、馴染みのない規則でも抵抗なく受け入 れているようであった。

 以上は学習内容の一端を紹介したに過ぎないが、このように基本方針を 軸として初級クラスは計8時限の授業を展開した。受講生は皆授業に積極 的に参加し、全ての活動に前向きに取り組んだ。     (大塚 陽子)

2.2. 経験者クラス

 経験者クラスでは、高校の授業の延長ではなく、どの受講生にとっても 新しい経験となる内容を提供し、大学での勉強に期待を持たせることを目 指した。複数の教員が各々の専門性を活かした授業を展開する。詩や小説、

戯曲や絵本、歌を教材に「生」のフランス語と向き合う体験を重視し、主 体的に取り組む活動として「聞き手に伝わりやすいように話す」ことを目 標にエクスポゼ (スピーチ)を課題とした。

 経験者クラスには高校などでフランス語を学び始めて間もないCEFR

(ヨーロッパ言語共通参照枠)のA1レベル受講生と、フランス語を第1外 国語として学んでいるA2レベル以上の受講生が登録している。ただ、学 習指導要領で学習内容や進度が詳細に設定されている英語とは異なり、フ

8  実際にはフランス語以外の多くの言語がこの特徴を有しており、他言語を知るための きっかけともなりうる。

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ランス語には基準となる指針がまだないため9、高校によって進度や学習内 容も異なり、受講生間のレベル差による弊害が生じる恐れがあった。個別 対応に備え、担当者以外のスタッフも授業に参加し、スピーチの準備では 可能な限りネイティブ教員の指導を受けられる体制を整えた。学習歴の異 なる高校生がひとつの教室で充実した時間を過ごすためには、受講生が能 動的に関われる授業方式、そして複数のスタッフによる学習補助がきわめ て有効だった。

2.2.1.  戯曲を素材とした学習:「戯曲『カリギュラ』を演じてフランス 語のリズムと発音を体感し、アルベール・カミュの不条理の哲学 に接近しよう」

 大多数の受講生は本格的なフランス文学作品に馴染みがないが、いきな り名作に飛び込ませる授業である。『カリギュラ』(蜷川幸雄演出、小栗旬 主演)の一部をビデオで見てイメージを掴んでから対訳テキストを読み、

ペアで皇帝カリギュラと側近エリコンの対話を練習する。2グループから 各1組を選出して翌日決勝戦を行うことが伝えられた。ごく短い台詞ばか りなので、短時間で発声、リズム、イントネーションを工夫することがで きる。複数のスタッフが指導にあたったため、学習歴の短い受講生も楽し み、自信のある受講生は演技にも挑戦した。

2.2.2. 詩を素材とした学習:「フランスの詩を読んでみよう」

 デボルド=ヴァルモール、ヴェルレーヌ、アポリネールなどの有名な詩 を読み、フランス詩の面白さをさまざまな視点から発見することを目指す。

9  中等教育におけるフランス語教育の基準指針設定に向けての動きはあり、武井由紀、

野澤督、茂木良治、菅沼浩子、中野茂、山田仁、古石篤子 『フランス語の学習指針~日 本の中等教育におけるフランス語教育のために~ ver.0.1』『フランス語の学習指針』策 定研究会2018.が指針の提案を行っている。

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わかりやすい内容で、口ずさむのが心地よい詩ばかりである。音読し、意 味をとるだけでなく、対訳に設けられた空欄部分を翻訳する、韻の効果を 確かめる、音と詩的な表現の関係や意味と視覚的なイメージの呼応に注目 するなどの作業を通して、受講生は詩と能動的に関わることになる。詩に 興味はあってもどう読んでいいかわからないという壁を、この授業はあっ さりと乗り越えさせた。

2.2.3. 絵本を素材とした学習:「フランスの絵本で学ぶ」

 ベルギー人作家による絵本『黒いひよこ』を読む。短時間で一冊を読破 し、達成感を味わうことが第一の目的である。黒いひよこが親を探してさ まざまな動物を訪ね歩く話で、繰り返しが多いため単語表を利用すればど んどん読める。ここでも設問に答える、空欄を埋めるなど能動的な関わり を促す共同作業が用意されている。各グループが担当部分の内容を発表し たあと、全員で最終ページを読む。意外な結末には驚きの声が上がった。

幼い子ども向けの絵本にも独自の文化、気質がはっきり現れることが印象 深かったようだ。

2.2.4. 歌を素材とした学習:「フランス語の歌で学ぶ」

 エディット・ピアフのJe ne veux pas travailler(働きたくない)に挑戦。

繰り返し部分の書き取り、翻訳などの作業を交えて、フランス語で実際に 歌う練習をした。

2.2.5. エクスポゼ (スピーチ)

♢「エクスポゼ(スピーチ)の技法を学ぶ」

 口頭発表に備えて、原稿の作りかた、話すときの心構えなどを説明する。

受講生のフランス語レベルに差があるため、高度な内容のスピーチに挑戦

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するのではなく、聴く人に「伝わる」ことを第一の目標にした。

♢「エクスポゼの準備」

 テーマ、おおまかな内容構成、文例、表現リストをあらかじめ与えて共 通基盤を作り、単純明快な原稿を目指す。フランス人教員を含め複数のス タッフが巡回して質問に答え、話す練習を補助した。

♢「エクスポゼ」 

 発表者は、難しい単語や表現を使う場合は前もって板書し、大きな声で、

ゆっくり、はっきり話すことを心がけ、聴く立場ではしっかりフィードバッ クをしていた。「伝わる口頭発表」の意図や方法をよく理解し、実践した と考えられる。準備段階で「共通基盤」が作れたことは発表者と聴衆の間 にコミュニケーションが成立するためにきわめて有効であった。発表者に はその場で短いコメントが伝えられ、終了後に全スタッフの感想メモが渡 された。

 授業全体を通じて受講生の満足度はレベルを問わず非常に高かった。た だしこれには受講生のモチヴェーションが一様に高く、互いに助け合った こと、そして常時複数のスタッフが補助する例外的な学習環境を確保でき たことが大きく貢献しているだろう。      (中井 珠子)

2.3. 共通クラス他

 2日間のプログラムのなかで、初心者クラスと経験者クラス合同で実施 する時限を3コマ設定した。1日目の6限にフランス語でゲームを楽しむ アクティヴィテを行い、2日目の 5限を「フランスのお菓子で学ぶ」授業、

そして6限を評価と講評に当てた。

 合同授業で既習者と初習者が交流することによって、初習者にとっては フランス語ができる既習者の姿を見てさらに学び続けようとする刺激を受

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ける機会となり、既習者にとっては初習者にモデルを示したり教えたりし て自らのフランス語への理解を深める機会になることが期待される。

2.3.1. フランス語でのアクティヴィテ「スイカ割り」

 1日目は夏の風物詩であるスイカ割りをフランス語で行った。スイカ割 りは誰でも知っている単純なゲームで、指示のフランス語さえ覚えればフ ランス語だけで成立する。教室で実施するためスイカ模様の紙風船を用い、

全受講生を4つのチームに分けて対抗戦の形で行った。

 最初にNSTAと « avancer » (前へ)、« tourner »(回れ)、« à droite »(右 へ)、« à gauche »(左へ)などのフランス語の指示を全員で練習したあと、

各チームから一人ずつ選手が出てスイカを割るまでの時間を競いあった。

どのチームも大きな声で指示を掛け合い大いに盛り上がった。

 このアクティヴィテでは、この日初めてフランス語を習った受講者も自 然に大きな声で発話し、教室内の定型的なやり取りではない本物のフラン ス語のコミュニケーションを体験することができる。外国語を教科書内の 勉強の対象としてではなく生きた言語として学び・体験させるという狙い がここにも反映している。

2.3.2. 「食」(文化)を素材とした学習:「フランスのお菓子で学ぶ」

 カヌレ、マカロン、マドレーヌなど高校生にも馴染みがあるフランス菓 子を題材に、クイズ形式でそれぞれの歴史的背景などを学ぶことにより、

フランス文化の奥深さへの「気づき」が生まれることを狙いとした授業で ある。なかでもマドレーヌについては、貝殻の形から巡礼へ、さらにプルー ストへとテーマを展開し、『失われたときを求めて』の有名なマドレーヌ の逸話をNSTAとともにフランス語で朗読した。

 親しみのあるお菓子を通してフランスの歴史やプルーストの小説に触れ

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たことで、どの受講生も難しいと感じずに楽しそうに授業に参加していた。

フランス文化への興味、関心を喚起することは、フランス語学習をこれか らも続けてゆくモチヴェーションとして重要なのはもちろん、外国語学習 を通じて世界の多様な文化を知り、未知の文化への寛容性を培うことを目 的とする「サマースクール」の趣旨からも欠かせないものである。

2.3.3. 評価と講評

 2日目の最後の時限に受講生と教員・スタッフ全員で「サマースクール」

の振り返りを行った。

 最初に、全員が集まった場をかりて『カリギュラ』(2.2.1.)の決勝戦を行っ た。1日目に経験者クラスで選ばれた2組のペアは休憩時間にも熱心にカ リギュラとエリコンの出会いの場面を練習していた。受講生、教員、スタッ フ全員の前で演技を披露するのはかなりの緊張感があったと想像するが、

どちらのペアもセリフの棒読みではなく独創的な演技をつけて見事にカ ミュの劇的世界を出現させた。本「サマースクール」では様々なレベルの 受講生に対して「個別化フランス語教育」を応用することが課題の一つで あったが、すでに高いフランス語力を持ち授業のレベルにものたりなさを 感じていたかもしれない受講生にとっても、最後に全員の前で『カリギュ ラ』を演じたことは自分の実力を発揮し達成感を得る場となったと言える だろう。一方で、同じ高校生の素晴らしい演技を目の当たりにした初習者 には、自分たちでもあのようにフランス語ができるようになるというモデ ルとしてさらに学習意欲を高める機会になったと考えられる。

 この後、教員・スタッフが講評をし、受講生が一人ずつ感想を述べて2 日間のプログラムを振り返った。最後に全員に修了書が授与されてサマー スクールを終了した10。       (善本 孝)

10  評価・単位認定については、発表の成果、アクティヴィテやタスクへの取り組み、

授業への参加度などを考慮し、各クラス担当者が評価を行った。所定の授業を全て履

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2.4. 運営の特色:NSTA、学生スタッフの関わり

 「サマースクール」における特色の一つは、NSTAと学生スタッフの参 加である。学生スタッフは、授業中はもちろんのこと、授業外でも受講生 が快適に過ごせるよう、また気軽に質問できるよう配慮しながら支援した。

授業内ではNSTAが中心となって受講生と発音練習をし、学生スタッフは 机間巡視でロールプレイ練習やスピーチ練習などの個人指導を行った。教 室を万遍なく見廻り、時には受講生に声掛けをし、特に初心者クラスでは、

初めてのことを楽しんで学習できるように注意を払った。

2.4.1. 学生スタッフによる学習支援

 2018年度はフランス文化への興味を促す目的で大学院生がクイズとパリ についての解説を初心者クラスで行った。クイズは、身近で興味を持ちや すく授業内容とも関連の深い「パン」をテーマに4択問題をパワーポイン トで作成し、両日1問ずつ実施、司会進行も院生スタッフが担当した。1 日目はフランス人が朝食でよく食べる物、2日目はパンの名称の由来を考 えるクイズで、2日間の内容が相互に関連したものとなっている。

 パリについての解説ではテキストに附属した地図を取り上げ、地理、歴 史、文学知識を交えて観光名所を紹介した。受講者はアクティヴィテで   Les Champs-Élysées(オー・シャンゼリゼ)をすでに歌っているので、そ れに関連させ、シャンゼリゼ通り、エトワール凱旋門、コンコルド広場、

またパリの象徴的な建築物であるエッフェル塔といった名所を扱った。説 明を聴くだけにならぬよう受講生に問いかけながら進め、NSTAにはパリ 居住者ならではの話をしてもらい、実際のパリの様子を知る機会を与えた。

受講生は気楽にフランスの歴史文化を知ることができたのではないだろう か。

 学生スタッフの「サマースクール」への関わりは、受講生の学習成果の

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質をさらに高める役割を担っている。受講生は気軽に質問する機会を得て、

きめ細かい指導が受けられた。特に学習に不安を抱えていた場合は、疑問 点をすぐに解決することができ安心した様子だった。

2.4.2. NSTAの影響

 NSTAは受講生にとって年齢が近く、憧れの存在になっていた。日本語 での会話も可能だったため、初心者も気を張らずに接する経験をもてたよ うだ。NSTAの発音を聞くことで、フランス語の音に慣れ、耳で学ぶこと が可能になる。特に初心者クラスでの「話す」「聞く」を重視した学習展 開においては、NSTAの存在が非常に有効だった。

2.4.3. フランス語学習外での作用

 院生スタッフの参加は、オープンキャンパスや大学説明会等では珍しく、

この場は受講生にとって大学院生との貴重な接点になる。大学院生は、受 講生がフランス語の学習を進めていった場合の一つのモデルケースであ る。これをきっかけに、大学入学だけでなく、さらにその先の大学院での 学びに興味を抱く受講生もいるのではないだろうか。授業外では、昼休み を中心に受講生が大学院生に質問できる時空間を作り、幅広い相談に応じ た。実際に、大学生活や講義、ゼミ等に関する質問もあり、受講生にとっ て、学生の視点からの情報は大学を深く知る、あるいは受講生自身の将来 を考えるきっかけにもなっていた。       (小川 実優)

3. アンケート結果・分析

 「サマースクール」では最終時限に受講生を対象とするアンケート調査 を実施している11。以下、2018年度の調査結果(対象者34名内初心者20名、

11  回答方法としては、一部を自由記述形式にし、「サマースクール」を知った方法、受 講時間、受講料、内容、レベル、次年度参加の意図に関する設問の回答は多項目選択

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経験者14名)を一部公開するとともに、結果をもたらした要因を探る。

3.1. 満足度

 アンケートでは、「サマースクール」の内容について以下の設問を通し 確認している。

内容について、どう思いましたか?

① 満足  ② どちらかといえば満足  ③ どちらともいえない

④ どちらかといえば不満  ⑤ 不満

 設問に対し①「満足」と回答した受講生は全体の88%(30名)を占め、

残り12%(4名)が②「どちらかといえば満足」と回答した。この結果か ら「サマースクール」の内容についての満足度は非常に高かったことがわ かる。

3.2. 受講時間数

 2日間のプログラムで満足感を得られるかどうかは、学習内容や教授法 はもちろん、受講時間数が適切であったかどうかということも関係する。

以下は受講時間数についての設問である。

2日間という長さについて、どう思いましたか?

① 長すぎる  ② ちょうどよい  ③ 短すぎる

 ②「ちょうどよい」と回答した受講生は全体の94%(32名)で、6%(2 名)は③「短すぎる」と回答した。「短すぎる」と回答した受講生(経験 者クラス)は、感想(自由記述)を次のように述べている。

・ 本当に本当に楽しい2日間でした。2日間はとってもあっという間に過 ぎてしまったなと感じています。フランス語のすごくできる友達もでき、

とっても充実していました。もっと長い期間このプログラムに参加した いなと心から思いました。

(18)

・ 初めは2日間はとても短いし、その中で何が学べるかな…と思っていた が、フランスの奥深いところまで学べて楽しかったし、学べて嬉しかっ たです。

 回答には否定的な理由は見られず、むしろ充足感が読み取れる。2日間 集中的に学ぶという授業形式は適切で、それが満足度の高さにも通じたと 考えられる。

3.3. レベル

 受講目的も外国語学習歴も多様な受講生が、授業のレベルをどのように 感じたのかを把握するために以下の調査も行った。

レベルについて、どう思いましたか?

① 難しい  ② どちらかといえば難しい  ③ ちょうどよい 

④ どちらかといえば易しい  ⑤ 易しい

 全体としては、③「ちょうどよい」が最も多く73%、②「どちらかとい えば難しい」は15%、④「どちらかといえば易しい」は6%、①「難しい」

と「易しい」はそれぞれ3%であった。クラス別で見ると、表ⅱとなる。 

[表ⅱ]

 初心者クラスの80%、経験者クラスの64%がレベルを適切だと感じてい る。ただ、「ちょうどよい」と回答しなかった受講生も内容については「満 足」また「どちらかといえば満足」と回答していることから、レベルが何

レベル 初心者 経験者

難しい 0 1 1

どちらかといえば難しい 3 2 5

ちょうどよい 16 9 25

どちらかといえば易しい 0 2 2

易しい 1 0 1

20(名) 14(名) 34(名)

(19)

らかの問題を引き起こしたとは考えにくい。

 確認したところ「易しい」と感じた受講者(初心者クラス)は既に高校 で第2外国語としてフランス語を4ヶ月間学んでおり、学習内容がすでに 既習事項であった可能性が高い。「どちらかといえば易しい」と感じた受 講生(経験者クラス)については、1名がフランス語圏留学からの帰国者 であり、もう1名が高校でフランス語を第1外国語として学んでいた。

 興味深いのは、難度が高いと感じた受講生がそれを必ずしもネガティブ な事実と捉えていないことである。以下、自由記述回答を一部紹介する(下 線は筆者による)。

・難しい(経験者、高校1年生、学習歴4ヶ月第2外国語)

授業を受けてみて、思ったより難しいと思うことはあったが、先生方の サポートが手厚かったり、途中でクラスを変更してもよいというシステ ムがあったりで安心したし、なんとか頑張れた。

フランス語の奥深いところまで学べて楽しかったし、学べて嬉しかった です。自分のレベルよりワンランク上のレベルのクラスを受講させて頂 いて、頑張れたのも先生方のお陰だと思っています。もっとフランス語 を学んで使いこなせるようになりたいと心から思いました。

・どちらかといえば難しい(経験者、高校3年生、学習歴1年4ヶ月第2外国語)

Bleuクラス12に選別され、授業内容が少し難しく、ついていけるか不安 でしたが、先生方がとても親切で、わかりやすく教えていただいて2日 間楽しく過ごせました。昨年、今年と参加させていただきありがとうご ざいました。今回、少し難しい内容でしたが授業を受けて、よりフラン ス語への関心が強くなった2日間でした。

12  初心者用にBlanc、経験者用にBleuとRougeの3クラスを設定。実際はBleuとRouge は合同となった。

(20)

・どちらかといえば難しい(初心者、高校3年生)

買い物や数、夏休みの予定を言うのは少し難しかったですが、先生や大 学院生のサポートのおかげで、楽しく学ぶことが出来ました。また、マ リーさんのネイティブな発音を聞くことでより理解を深められました。

フランス語を全く学んだことがなく、心配でしたが、先生や大学院生、

マリーさん、友達のおかげで、不安はなくなり楽しくフランス語を身に つけることが出来ました。この講座に参加して、以前よりフランス語へ の興味が増し、今後も学んでいきたい、と思いました。

 「難しい」と感じたり「不安」を覚えたりしても、徐々に安心感が芽生え、

その安心感はやがて「楽しい」「嬉しい」というポジティブな感情に変化、

さらには「もっと学んでみたい」といったモチヴェーションに進化してい ることがわかる。

 実はこの変化は、レベルを適切と感じていた受講生にも見られる。自由 記述回答において、「不安」や「心配」、「難しい」や「緊張」など、マイ ナス要素と判断できる語彙を記した受講生は19名にも上る13。半数以上は、

開始時、また開始後のある時点までは、不安であったり緊張したりしてい た。しかし回答を読んでみるとこうした感情は結果としてポジティブな感 情14、また「もっと学んでみたい」という意欲15に取って代わられる。さら に詳しく見てみると、こうしたネガティブな感情の解消には、複数のスタッ

13  ネガティブな感情、印象として取り上げた語彙は「不安」、「心配」、「わからない」、「知 らない」、「読めない」、「びっくり」、「難しい」、「緊張」、「残念」、「焦る」である。こ れらの語彙の登場数はのべ24であった。

14  ポジティブな感情、印象として取り上げた語彙は「楽しい/かった」、「嬉しい/かっ た」、「面白い」、「刺激的」、「充実」、「良い/かった」、「素晴らしい」、「素敵」、「無理なく」、

「安心して」、「頑張れた」である。これらの語彙の登場数はのべ52であった。

15  「もっと勉強したい」、「頑張ってみたい」、「さらに/新たに興味を持つ/好きになる」

といった内容を記載した回答数はのべ22であった。

(21)

フがいるという環境が有益に作用したこともわかってくる16。教室内に常 に複数のスタッフがいたこと、担当教員以外にも気軽に質問したり話しか けたりできるNSTAや学生スタッフがいたことを良い面と評価した受講生 の回答には「丁寧」や「わかりやすい」、「質問しやすい」、「細かい指導」

など、教え方や対応のきめ細かさを表す語彙が多く見られた。複数のスタッ フによる個別の発音指導、質問への応答、アドヴァイスといった対応が「丁 寧」「わかりやすい」といった印象に結びついたと言えるだろう。

3.4. 高校とは異なる学び

 フランス語の学習歴がある受講生は、「サマースクール」が高校の学び とは異なったものであることを評価し、「学校では習えないこと」や「大 学らしい内容」を学べたことに対して、「良かった」や「楽しい」、「嬉しい」

という感想を述べている。生の学習素材を通して、フランス語学習の先に ある世界や可能性を知ることができたようで、大学で本格的に取り組んで みたい分野についてのコメントもあった。若者の文学離れや芸術活動への 無関心といった言葉を耳にする昨今だが、興味をもつ機会が高校生の日常 では少ないということも原因の一つになっているのではないだろうか。「高 大連携」はこうした問題の解決に一役買う可能性も含んでいるかもしれな い。

 受講生の多くは、期待とともに不安も抱いて「サマースクール」に参加 する。複数のスタッフが丁寧に関わることできめ細やかな対応が可能にな り受講生は安心して学習に取り組める。同時に授業も多彩なものとなり、

受講生の好奇心を満たす。体験は心に残るものになる。このように満足度 16  19名の受講生が、スタッフが多くいた点を評価するコメントをしている。内12名は「不 安」などのマイナス要素と判断できる語彙を先に用いていた。「不安」は複数スタッフ の存在によって解消されたと見なすことができる。

(22)

の高さは2日間という短期集中型のカリキュラム、また「個別化教育」を 基盤とした人的資源の投入と密接に結びついている。「個別化教育」を実 現できる体制が受講生の学びに良好に作用したと考えられるだろう。

(善本 孝、大塚 陽子)

4. まとめにかえて:課題と可能性

 人的資源が適切に投入されれば、新しい言語を体験する場、高校とは異 なる学びの場として「高大連携」は有効に機能する。2018年度の「サマー スクール」には総勢14名の教員・スタッフが関わった。学習面においても 環境面においても複数のスタッフが関わることによるメリットは大きい。

しかし集中講義とはいえ2つの授業のために10名以上の人材を確保するの は容易ではない。実際多くの教員がボランティアの形で参加しているが、

こうした協力なくしては提示したカリキュラムの実現は困難な状況であ る。今後この問題をどう解消していくかは大きな課題である。

 2018年度は大学院生による授業補佐の試みを実施したが、これは2.4.で も触れたとおり一定の効果を生んだ。大学院生が多く関わればアクティ ヴィテなども活性化するが、効果の対象は受講生だけに限られるわけでは ない。実は大学院生にとっても利点は大きいのである。

 フランス語教員の養成という問題に視点を移してみよう。「教える」と いう立場では、専門的な知識が必須となることは言うまでもないが、その 知識をどのような形でどれだけ提示すれば学習者にとって最適かというこ とを習得する場が実は不足している。その答えは多くの場合いくつかの教 室を経てからでないと得ることができず、実践が重要なのだが、フランス 語の教育実習を行える場はほとんどない。既に述べたようにフランス語を 授業科目とする高校がないわけではないが、通常は第二外国語の扱いで時 間数が少ないことなどから、非常勤講師が授業を担当している。そのため、

(23)

フランス語を開講している高校で、フランス語の教育実習生が受け入れら れることはほぼなく、教職履修者はフランス語の教員免許の取得を目指す にもかかわらず、英語で実習授業を行うことを余儀なくされるのである。

しかしよく考えてみると、「サマースクール」は実はこうした問題の解決 の糸口になる可能性も秘めているのではないだろうか。例えば大学院の授 業と連動させるなどして、「サマースクール」の計画段階から大学院生を 積極的に関わらせれば、後に教職に就く可能性がある彼らにとってそれは 実践的な学びの場となりうる。教員養成という観点からもメリットが大き いのである。新人教員が実践の場で即戦力となるよう経験を積ませること も、高等教育機関が担うべき大切な役割の一つである。このように考える と、「サマースクール」はその主役である高校生にとっても、教職を志願 する学生や彼らを抱える大学にとっても、またこうした学生を将来教員と して雇用するかもしれない高校にとっても、実は非常に有益な取り組みに なる可能性がある。高校生にとって有意義な学びの場を提供する一方で、

大学院生にとってよき実践の場を作る。そのことが結果として「サマース クール」の体制強化にも繋がる。良質で意義ある「高大連携」の在り方を 模索する上で、大きな可能性として意味を持つと考えられるのである。

 本稿では「高大連携」としての「サマースクール」を紹介するとともに、

今後の可能性の一端を明らかにした。アンケートからは他にも興味深い点 が確認されているが、その考察については稿を改めることとする。

(海老根 龍介、大塚 陽子)

謝辞

「サマースクール」に参加してくださった高校生の皆様と実施のために労を惜しま ず協力してくださった全ての皆様にこの場をお借りし心よりお礼を申し上げます。

参照

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