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マルコフ切り換え自己回帰モデル

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統計数理(1994)

第42巻第1号75−82

マルコフ切り換え自己回帰モデル

    統計数理研究所北 川 源四郎

(1994年2月 受付)

 1.まえがき

 脳波にはα波,β波などと呼ばれるいくつかの特徴的な波形があり,それらが睡眠の状態や 環境の変化などに依存して交互に現れることはよく知られている.また,マクロ経済学におい

ては経済変動の結果,発展期と後退期が交互に現れたり,動物の個体数や黒点数のデータでは 上昇期と下降期が見られるように,いくつかの異なった変動パターンからなる時系列は数多く

見られる.

 このような,何種類かの特徴的なパターンからなるデータの解析のために,確率構造が切り 換わるモデルが考えられており,非線形時系列(Tong(1990)),生物(Churchi11(1989),Katzo任 andShumway(1993)),医学(GordenandSmith(1988))などで応用されている.とくに,マ クロ経済学への応用(Go1dfe1d and Quandt(1973),McCu11och and Tsay(1993))では,経済 が発展期か収縮期かの判定が興味ある問題とされている。また最近,工学の分野では音声認識 などへの応用から隠れマルコフモデル(hiddenMarkovmode1)と呼ばれ,注目をあびている.

 本稿では,状態に応じて切り換わる自己回帰モディレを考え,その簡単な性質と状態空間モデ ルを用いて状態の推定やパラメータの推定を行う方法を示す.4章の一部はKitagawa(1988)

において口頭発表したものである.マルコフ切り換えモデルヘの状態空間モデルの利用は Shumway and Stoffer(1991)やKomaki(1993)でも行われている.本稿のモデルの場合に

は,自己回帰モデルを用いているので,非ガウス型フィルタおよび平滑化がギブスサンプラー や数値積分を用いるまでもなく簡単に実現できることが特長である.

2.マルコフ切り換え自己回帰モデル  2.1 モデル

 時系列ルは未知の 状態 ∫、に依存してモデルを切り換えるものとする.すなわち, 状態

∫、がとり得る値の集合を∫={1,...,々}とし,∫、=ノのとき時系列ツ、は自己回帰モデル       mj

 (2.1)         y、=Σα〃、一{十ろjε、,  ε、〜M(O,σ2)

      {=1

に従うものとする.ただし,ε、はy、一5,ノ>Oとは独立な白色雑音とする.本稿ではKomaki

(1993)にしたがい 状態 ∫ をモードと呼ぶことにするが,英語の文献ではregimeと呼ぶこ とが多いようである.モードの切り換えについては以下のような簡単なマルコフチェインモデ

 (2.2)       Pr(∫、=ゴ1∫、_1=ノ)=力む

を仮定する.当然力1片…十和:1がなりたつ.このとき(2.1),(2.2)に従うモデルをマルコフ

(2)

切り換え自己回帰モデル(MarkovSwitchingAutoRegressivemode1,MSARモデル)と呼ぶ ことにする.MSARモデルは,切り換えが観測する対象自体の内生的なメカニズムではなく,他 の要因によって生じる場合を考えその切り換えをマルコフ推移確率でモデル化している.

 通常のマルコフ切り換えモデルは時系列y、の値に依存して切り換えが生じる構造のものが 多いかMSARモデルでは,時系列の値とは独立に切り換えが生じるという単純な構造になっ ており,ルだけに注目すればむしろランダム切り換えというべきかもしれない.

2.2 MSARモデルの性質

MSARモデルは切り換えが時系列の値と独立に生じるために各モードの確率は簡単に求め ることができる.まず,モードが∫・=6となる確率を伽と表すことにすると

(2.3)

1廿11ill「llll」

がなりたつ.ただし,伽十…十伽=1.したがって,モードの定常確率Pr(∫、=ダ)=のを求める ためにはの=伽=の,。一1とおいて上式を解けばよい.

 また,多重推移確率Pr(∫、=小、一Fノ)=洲についても       力9)=加

 (2.4)      1

      挑〕一Σか、幽■1),  7=2,3,...

      8=1

により簡単に求めることができる.さらに,逆の推移確率β9〕=Pr(∫、一Fゴ1∫、=ノ)も

(2.5)

・・(旧1㌦一/)一P「(旧 ネ景芳「(紅〔)一千

により求めることができる.

 次に時系列ルの性質について考えてみる.以下の議論は一般の場合についても同様にできる が,式がかなり複雑になるので,AR次数がすべて1(m5=1)の場合の結果だけを示しておく.ま ず明らかに平均値はOとなる.次に条件つきの自己共分散関数を

(2.6)     C15)=五レ、ツ、一一∫、=ノ1, ノ=1,...,々;7=0,1,...

と定義する.すなわち,C15)は∫、=ノという条件の下でのラグ7の自己共分散である.C15〕につ いては次の式が成り立つ.

 (2.7)     C65)=珂ツ引∫、=ノ]=亙[(α1〃、一。十ろゴε、)y,1∫ =ノ]

       =α15αゴ)十砺σ2

(2.8)    C13〕=亙[y、ツ、一 1∫、=ノ1二五[(α1〃 一。十ろ。ε )ツ、一 1∫、=ノ1

      =α1ゴ五[y、一1ツ、一〜1∫、=ノ]

      =、、、童切・亙[ツ、.1ツ、.五1、 .、=、1        仁1 の

      一、1、圭鮎ぴ、

       {=1 の

これをMSARモデルのYule−Wa1ker方程式と呼ぶことにする.αIゴ,加,あ(ゴ,ノ=ユ,、..,々),σ2 が与えられると,この方程式を解くことにより,C15)を求めることができる.

 実際の時系列ツ、の自己共分散関数C は状態ノの定常確率のを用いて

(3)

マルコフ切り換え自己回帰モデル 77

       ゐ

 (2,9)      CFΣのα5〕

       5=1 によって求めることができる.

 図1に尾=2,

 (2.10)         ツ、= 0.8ツ、_1+ε、,  ∫、=1のとき  (2.11)         ツ、=一0.8ツ、一1+ε、,  ∫、=2のとき

ε 〜M(0,1)の場合の実現値の例と自己相関関数見=α/C。を示す.(a)と(b)はそれぞれ 力、。=1.0,力。。=0.0および力u=0.O,力。。=1.0の場合を示す.すなわち,(a)は(2.10),(b)は

(2.11)に従う通常のARモデルの場合である.

 一方,(c)は力、、=0.5,力。。=O.5の場合,(d)は力11=0.95,力。。=O.95の場合である.いずれの

(a)

(b)

一0 5

−1

一0 5

O       10      2

(C)

一0 5

100 200 ヨ00 4D0 500 600 70D 800 900−0 0 −10 10      2

(d)

100 200 ヨ00 400 500 600 700 800 900! 00

(e)

      0       10      2

図1.MSARモデルのシミュレーションによる実現値と自己相関関数.

(4)

場合も各モードの定常確率はσ、=σ。=O.5であるが,自己相関関数は全く異なっている.(c)の ときにはMSARモデルによって生成される時系列は無相関となる.これは,複数の自己回帰過 程のマルコフ切り換えにより白色雑音が生成できるというおもしろい結果を意味している.一 方,(d)から推察されるようにA、=力。。→1の場合には自己相関関数は(2.10)と(2.11)の二 つのモデルの自己相関関数の平均となる.(e)は力、、=0.95,力。。=0.80の場合である.このとき,

g、=0.8,σ。=0.2となり,自己相関関数も(a)と(b)のσ、とσ。による加重平均に近い.

3.状態推定とパラメータ推定

 ここで,∫、を状態と考えると(2.2)をシステムモデル,(2.1)を観測モデルとみなすことに より離散状態一状態空間モデルが得られる.

 時刻mまでの観測値をK={ツ1,...,y、}と表すことにする.このとき,状態∫、の予測分布およ びフィルタは非ガウス型フィルタ(Kitagawa(1987))と同様に以下の式により求めることが

できる.

 [予測]

       尾

 (3.1)      Pr(∫。=クl K−1)=ΣPr(∫、=ゴ,∫、一。=パK一。)

       ゴ=1        ゐ

      =ΣPr(∫、=ゴ1∫、一Fノ)Pr(∫、一、=ノlK−1)

       5=1        尾

      =Σ力むPr(∫、_1=ノ1γ;_1)

       ゴ=1  [フィルタ]

 (3.2)      Pr(∫、=引K)=Pr(∫、=ゴ1K_1,ツ、)

       _力(ツ、 ∫、=グ,K_1)Pr(∫、=ゴ K_1)

       一     力(ツ  ム_1)

ここで力(y,1∫、=グ,K−1)と力(ツ lK−1)はそれぞれ

        力({一・山)一点…/一。如(ルー茗舳ア1,

 (3.3)

      尾

        力(ツ l K_1)=Σ力(ツ、1∫、=ノ,K_1)Pr(∫、=ノl K_1)

      j二1 で与えられる.

 同様に平滑化の公式も

 (3.4)         Pr(∫、=ゴ,∫、_1=ノ1h)

一・・(・工1月旦 がなりたつので

 (3.5)

Pr(∫、=グ1η)

一・・(山一用食旦雫

により簡単に与えられる.

一般の連続状態一状態空間モデルに非ガウス型フィルタおよび平滑化の公式を適用するため

(5)

マルコフ切り換え自己回帰モデル 79

には,状態空間を多数の点で表現し,積分を和で近似する必要がある.しかし,離散状態一状態 空間モデルの場合には状態空間は尾個の状態{1,...,々}だけで完全に表現でき,フィルタおよび 平滑化後の確率も(3.1),(3.2),(3.5)のように簡単に計算できる.

 尾状態MSARモデルにはパラメータθ={σ2,加,吻,グ,ノ=1,...,々;7=1,...,mゴ}が含まれて いる.ただし,Σ紅エ加=ユがなりたつ.これまでは,これらは与えられたものとしていたが,実 際にはこれらは未知である.Kが与えられたときθの対数尤度は

      M

 (3.6)       /(θ1ツ)=Σ1o9力(ツ、lK−1)

      n=1

で求められる.ここで,力(y,lK−1)は(3.3)式で与えられ,また簡単のためにy。,...,

ルm、。(m、,...,。占)は与えられているものとする.パラメータθの最尤推定値はこの対数尤度を最大 化することによって求めることができる.

4.例

本章では例として4状態のマルコフ切り換えARモデルのパラメータ推定と状態推定を考

える.

P:(σ勿)が次のように与えられているものとする.

(4−1) ∴∵÷∴

このとき,各モードの定常確率はσ1=β/(β十3α),σ。=σ。=σ。=α/(β十3α)である.

 また,各時点mでは時系列ツ、はモード∫、に依存して以下のように2次のARモデルにした がって生成されるものとする.

一 一燃111燃11111∴lll

ただし,ε、は平均0,分散1の正規白色雑音とする.これらのARモデルの固有根はそれぞれ 以下のようになっている.

       プ=0.95,  φ=20。,  ∫。=1のとき        プ=0.95,  φ=45。,  ∫。=2のとき

 (4.3)

       プ=O.80,  φ=30。,  ∫η=3のとき        プ=0.80,  φ=60。,  ∫。=4のとき

 図2にα=0.0033,β=0,016,γ=0,002の場合の4状態MSARモデルの実現値(M=1000)を 示す.(a)はモード∫ ,(b)は時系列ツ、である.

 パラメータの最尤推定値は62=O.9888,∂=0.0056ユ4,β=0.02267,タ=0.ユ32×ユ0■5,また各 モードのARモデルの係数は表1のようであった.

 図3にこれらのパラメータを用いてフィルタおよび平滑化により求めた各モードの事後確率

を示す.図2(a)に示された各モードをかなりよく推定していることがわかる.

(6)

表1.

ARl     AR2     AR3     AR4

α{1        1.8095 0権     一〇.9272

1.2848        1.2848

−0.8866      −0.5970

0.8219

−0.6387

0     I00    200    300    400    500    600    700    800    900    1000

         (a)

  100    200    300    400    500    600    ?00    800    900    10 0

         (b)

図2.4状態MSARモデルの実現値.(a)モード,(b)時系列.

一」.一... ...L一 1∴...、.仏1一 〔」1...

..1..、.

Pヂ..1.一.〕一一..1

..1

.蜆.^.

{1... ..し

D一1...

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1孔 川1

...一

、1 1一.

n

1nn つ∩n 『∩n ∩n

目nn on[

「n[ o∩∩

on〔

1〔一

口     100    200    ヨ00    400    5口0    600    700    800    900    1000

         (a)

一一P一 @一一一一一.1一一 ヨ   1 一   一I−i一一一I ∫...

….一一

謌鼈鼈黶f 一.1一一11一一.1

一〔1プ..∵一....

./

鼈黶I,.

け一一 1一一.一.一三1..一..

、1i一一1 C.1 D1

D..!..

nln∩r∩〔on∩ [∩=[〔目n[『n〔o〔〔o∩〔1n一

 O     lO0    200    300    400    5口0    6口0    700    B00    900    100D

       (b)

図3.MSARモデルの各モードの事後確率.(a)フィルタ,(b)平滑化.

(7)

マルコフ切り換え自己回帰モデル 81

 5.あとがき

 マルコフチェインに従ってモードが切り換わる自己回帰モデル(MSARモデル)を考え,そ の簡単な性質と非ガウス型フィルタにもとづくパラメータおよびモードの推定法を示した.

 前章では最尤法により極めてよい再現性が得られることを示したが,モード2,3,4に関して は交換可能であることを考えるとむしろ意外な結果ともいえる.上記の推定結果はAR係数に 関しては真の値を初期値として非線形最適化を行った場合であるが,それが良い結果を得られ た原因ではない.乱数を用いて初期値を変動させてもモードの順番が換わることはあってもほ ぼ同様の推定値が得られた.

 4つのARモデルの固有根が前章の場合より接近している場合には,事後確率は図3のよう に常に0または1に近いとは限らず中間的な値が得られることもある.しかし,むしろこれは 当然の結果と考えられる.

 本稿ではAR次数は既知としたが実際にはデータにもとづいて決定すべきものである.AIC を用いて決定した場合,どの程度よいモデルが得られるかは慎重に検討してみる必要がある.よ り本質的な問題としてはモードの数の決定がある.モードの数々に関しても原理的にはAIC による推定が可能であるが,かなり困難な問題であることが予想される.

       参考文献

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Gorden,K.and Smith,A.F.M.(1988).Modeling and monitoring discontinuous changes in time series,

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Katzoff,M.J.and Shumway,R.H.(1993).NonIinear structural mode1s for morta1ity series,〃。cee4    伽gsげ肋e2maひ∫一力ヵmカクmC∫em初。γom∫去α眺加αZηme∫eれe∫λnα伽ゐ,January25−29.

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Kitagawa,G.(1987).Non−Gaussian state−space modeIing of nonstationary time series,∫Ameκ

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Shumway,R.H.and Sto丘er,D.S.(1991).Dynamic1inear models with switching,∫λmeκ∫倣赦    ノ1∫80c.,86,763−769.

Tonξ,H.(ユ990).Nm〃me〃ηme∫e7必λmo伽ゴ∫:λ助mm肋Z砂sfemλ力卯。αc〃,Oxford University

   Press,London.

(8)

Markov Switching Autoregressive Mode1

      Genshiro Kitagawa

     (The Institute of Statistical Mathematics)

    For the ana1ysis of time series that consists of severa1different pattems,we consider a Markov switching autoregressive(MSAR)mode1.In this mode1ing an autoregressive mode1is se1ected depending on the state of the hidden Markov chain.Some properties of

theMSARmode1areshownandnon−Gaussiani1teringandsmoothingformu1aeareshown.

These formu1ae canbe app1iedto the estimation of the parameters of the MSARmode1and to the computation of the posterior probabi1ity of each state.Some numerica1resu1ts are shown to i11ustrate the characteristics of the MSAR process and the estimation of the Posterior probabi1ity.

Key words:State space mode1,non−Gaussian filter,non1inear model.

参照

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