九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
学校経営過程研究における方法論の考察 : ミドル・
アップダウン・マネジメントを視座としたM-GTAによ る分析
畑中, 大路
https://doi.org/10.15017/1441011
出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(教育学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
(様式3)
氏 名 :畑中 大路
論文題名 :
学校経営過程研究における方法論の考察―ミドル・アップダウン・マネジメントを視座とした M-GTAによる分析―
区 分 : 甲
論 文 内 容 の 要 旨
本研究は、学校経営過程分析の方法論検討を目的とする。断続的に実施された自律的学校経営志 向の制度改革を受け、各学校は自律に至る道筋を模索している。しかしその一方で、学校経営研究、
とりわけ上記領域を射程に入れる学校経営過程研究は、個々の学校がいかに自律しうるかというプ ロセスを示すことはできていない。なぜなら従来の研究は、予め設定した枠組を用いて対象事例を 分析し、当該現象の理解や要因の検討を行うに留まるものであり、様々なアクターの相互作用でな される学校経営過程を把握し、その説明と予測をなす研究知の生成を可能とする方法論を持ちえて いないからである。自律的学校経営の更なる進行が予想される現在、上記検討は学校経営研究にお ける喫緊の課題であり、序章では先行研究の検討を通じこの課題について言及した。
第1章では、本論の分析視座として設定するミドル・アップダウン・マネジメント概念の整理を 行った。近年進行する自律的学校経営志向の学校経営改革や団塊世代の大量退職を背景とし、主任 や「新しい職」、中堅教員といった学校組織におけるミドル教員への期待が高まっている。そしてそ の役割期待として多くの先行研究が挙げるのが、新たなアイディアの創造によって学校組織内外で 生じた課題を解決するという、一般経営学において提唱されたミドル・アップダウン・マネジメン トである。この学校組織におけるミドル・アップダウン・マネジメントは濃密な相互作用がともな うプロセスであり、本論が考察対象とする学校経営過程分析に最適の事例といえる。しかしながら、
ミドル・アップダウン・マネジメントは一般経営学で提唱された理論であるため学校経営への援用 には検討が必要であるが、先行研究ではその点が看過されている。そのため、まずは学校組織にお けるミドル・アップダウン・マネジメントの実際を捉える必要がある。
そこで第2章及び第3章では、学校組織におけるミドル・アップダウン・マネジメントの実際を 捉える作業を行った。対象とした事例は、ある小学校で行われた「運動会の運営」(第 2章)と「校 内授業研究の継続」(第 3 章)である。両事例は、ミドル教員が学校経営上生じた課題の解決を、
新たなアイディアの発案・実現を通じて図るというミドル・アップダウン・マネジメントを示すも のであり、この分析を通じ、ミドル・アップダウン・マネジメント実現要因としての「巻き込み」
が抽出された。
上記結果は、従来ブラックボックスとされてきたミドル・アップダウン・マネジメントの内実を 示すものであるが、依然として対象事例の要因抽出に留まるといわざるを得ず、その「巻き込み」
がいかにしてなされるかというプロセスは明らかになっていない。そこで第4章では、上記プロセ スを把握可能な方法論として修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Modified Grounded Theory Approach、M-GTA)を取り上げ、その特徴を述べた。
そして第5章ではM-GTAを用い、「ミドル・アップダウン・マネジメントにおける「巻き込み」
プロセス」の分析を行った。その結果、ミドル教員は自身の「ミドル」というあいまいな立場に悩 みながらも、その「ミドル」という立場を活用することで周囲を巻き込み、アイディア実現を果た すという積極的・主体的な行動で達成されるプロセスが示された。
以上の検討を通じ明らかとなった本研究の成果は三点ある。一点目は、本研究が目的とした「学 校経営過程研究における方法論」として、M-GTA の可能性を提示した点である。既述のとおり、
従来の学校経営過程研究は様々なアクターの相互作用でなされる学校経営過程を把握する方法論を 持ち得ていなかった。その点本研究で用いた人間の行動や他者との相互作用によってなされる“う ごき(変化・プロセス)”を研究対象とするM-GTAは、学校経営過程研究に新たな研究方法の可能 性を提示するものといえる。
二点目は本研究の分析結果として、学校組織におけるミドル・アップダウン・マネジメントの実 際を提示した点である。近年のミドル・アップダウン・マネジメントに対する期待の高まりに反し、
先行研究は当為論を展開するに留まり、ミドル・アップダウン・マネジメントの実際はブラックボ ックスとされてきた。これに対し本研究は、二つの事例研究を通じてミドル・アップダウン・マネ ジメント実現要因としての「巻き込み」を抽出するとともに、M-GTAを用いた分析により、「成長」
の理念を根底に据えたミドル教員と周囲の相互作用で果たされる、学校組織特有のミドル・アップダ ウン・マネジメントプロセスを提示した。
三点目は分析結果の含意として、学校組織におけるミドル教員の再定義必要性を提示した点であ る。本研究におけるミドル・アップダウン・マネジメントに関する事例研究と M-GTA 分析を通じ たプロセスの把握から、「トップ」「ミドル」「ボトム」の立場は流動的であり、課題に応じて「巻き 込み」の主体である「ミドル」が変化すること、そしてその「ミドル」は周囲からの承認を経て生 み出される存在であることが明らかとなった。従来のミドル研究はその対象を、主任や「新しい職」
といった「職位を担う人物」として捉える傾向にあるが、本分析結果が示す学校組織における「ミ ドル」の流動性と、その規定要因としての組織構成員からの承認の存在を考慮するならば、「ミドル」
を単に職位や年齢に置き換えることは困難である。すなわち、学校組織におけるミドル教員は職位 や年齢に規定されるのではなく、学校組織がおかれる状況、直面する課題に応じて変化する存在で あるといえる。