北 海 道 の 雪 氷
N016(1997)
〜水や氷 を素材 とす る教育実験 〜
北海道教育大学 (釧 路校
)矢作 裕
要
約
雪氷科学は
,水
の凍結現象そのものの機構解明という理学的な性格 と,災
害防止や現象の利用 という工学的な 性格 をもっているまた教育 の面か らは
,水
を素材 とする科学 というきわめて 日常的で,"台
所の科学"と
呼ぶ にふさわ しい側面をもつしか し,これまで個別には物理の教科書にあるような古典的な実験が用意されている ものの
,教
育・ 普及を目的と して組織的に実践的に教育実験の素材 としてまとめられたことはなかったしかし ここ2〜 3年の間に
,雪
や氷 に関する実践的な教育実験が,雪
氷科学の研究者や教育の現場のなかか ら数多 くつ くりだされ,発
表 されるようになってきている凍土に関しては
, 1996年
に室温下でアイスレンズをつ くる 方法を発表 したが,そ
れはこのような教材のひとつであるこの実験方法によって冬の地中を眺めるように
,室
内でアイスレンズの生成され るようす を実験 し観察できるようになったが,「
凍結 が上部に向かって進行する」点が教育実験 としては難点で あった
この論文ではこの点を克服し,自然現象 と同様なアイスレンズが確実に生 成できるようにな り
,実
験の方法も一層簡略化されたは じめ に
上 の凍 結 をあつ か った もの は
, 60年
前 の 自由学 園の 「霜柱 の研 究」 が あるこれ にな らって, 1
995年
にそ の現 代版 とい った もの を用 意 し,さ
らにアイ ス レンズ を ビー カー 内 につ くる実験 を2種
類 紹介 したひ とつ は湿 った 土 の入 った ス トロー を
,冷
却 した不 凍液 に浸 して アイ ス レンズ を成 長 さ せ る もの,他
の ひ とつ は,ス
ライ ドグ ラス を使 って試 料 をフィル ム状 に して,一
層扱 いやす い もの と した凍 上現 象 は冬 の地 中で発 生・ 成長 す るた め に
,冬
期 に広 範 囲 に発生 して いるが,も
とも と目に ふ れ が た い もので あ るこの地 中 の現 象 を観 察 の対 象 と して
,暖
か い室 内 に持 ち込 みた い と考 え,そ
れ が実現 され た
しか し
,
この方 法 の教 材 として の難点 は,ビ
ー カー 内の不凍液 に土 の試料 を浸す 形 で凍結 させ るた め, 自然 に発 生す る もの とは成 長方 向が上下 逆転 して いる ことで あった以下 に紹介 する実験方法によれば
,ス
トロー内で自然 とおな じく凍結が下降しなが ら凍土が生成されるこの方 法によれば
,室
温下でス トロー内で,凍
土 とアイスレンズの発生とその消失までを10分
程度の時間 内に直接観察することができるアイス レンズ をつ くる Ⅱ
‑27‑
北 海道 の雪氷
No.16(1997)
1:凍
上現 象 と凍上の条件(1)土
の凍結の進行図‐
1は ,地
中の凍結 の深 さが どの よう に変化 してい くか を示 した もの である。同図では冬期 間だけ地表か ら 凍結が進行 し,暖気 とともに凍土が消 失す るので ,凍結の深 さは図のように 特徴 あ る曲線 を描 く。図には融解 の深 さの推移 も描かれている.これは気温 の上 昇や太 陽の直 射 を受 けて地 表面 か ら融解が進行す るためである。地 中 か らの熱 によっても,凍土は とけるが,地表か らの融解 に比べばればご く少ない. また ,こ の実験 にもつとも関係 のあ るアイ ス レ ンズ の生 成 に よって引 き起 こされる 凍上現象 もあわせて描かれている。
(2)凍
上 の条件シル トは
,0.02〜
0.074■■の範囲の大 き さをもつ上 の粒子 をいい ,こ れ よ り粗 い土 粒子 を細砂,細
かいのは粘 土である.粘
土 よ り粗 い粒子で,それ に近い風合いの外観 である。グラン ドの赤土には注意 してみる と霜柱 がよ く立つ.その上にはシル トが多 く混 じつてい ることによる。このシル トが ある適 当な速度 で凍結す る ときには,土
粒 子の間に氷が析 出する。地表で空中に氷が 析 出す るもの を霜柱,地
中に発達す るもの をアイス レンズ とよんでい る。凍上現象の 本質は,土
粒 子 に よる氷 の析 出である。自 然の状態では,上
方か ら凍結が進行 し,そ
れよ り下 方の未凍 結部 分の水に よって氷 が析 出され るために,土
全体の膨張は上方 に向か う。実験室な どで下部が膨張 しうる 余地 があ れば 零度 を若 干下 まわ る温 度の 下降に伴 って,アイス レンズは下方に進行して い く.
図‐
1
上の凍結 と凍上現象写 真
1土
に水を加え撹拌 して数時間 放置 し上の表面を使う.写真
2ス
トローに上を入れつぶ して フィルム状にする.‑28‑
夕
膜 1
2:ア
イス レンズをつ くる(1)フ
ィルム状の土試料をつくる(al材 料:①ホッチキスと針
,②
輪ゴム(数本),③ス トロー (透明なまがるス トロー,0.5an, 鶴
m),④ 200cc程
度のステール缶 (ふたは 缶切 りでき りとっておく,直
径5cm,高
さ10.5cln),⑤断熱材 (包装材料につかう柔 らかい もので缶 にまきつける くらいの大 き さの も の),⑥
‑20℃
ぐらいに冷却 した不凍液か,氷 と食塩による寒剤)
(b)土 の試料の準備
アイスレンズを実験的につ くるさいに
,土
の試料の採取 と実験用の試料の調整が重要で ある
.土
の採取は,学
校のグラン ドの赤土が よい。細か くて適当な湿 り気を (保水性)を
保持する土 を敷き詰め
,風
で土埃 りが立たな いような条件は,粘
土質,シ
ル トの土がよい。この条件は霜柱が発生 しやすい条件 と重なる. 霜柱の発生 を確かめるのがよいが
,グ
ラン ド の土を一握 りほど用意する.(C)土 を透明な容器にいれ,十分に水を加えて かきまぜ
,余
分な水が透明になるまで数時間 放置する (写真1).土
は粒の粗いものか ら順 に沈み,上
澄みのす ぐ下 は融けたチ ョコレー ト状の細か い粒子の集まりとなる。 この層を 残 して上澄み液を捨てる。{d)ス トロー(直径0.511■ ,曲がるようになった 透明なもの を用意 して
,長
いほうにチ ョコレ ー ト状の土 をスプー ンなどで,長
さにして2cl■ほどの長さに詰める.
(elス トローの一端を折 り曲げホ ッチキスで 封 じ,長さ約5clllになるようにス トローを切 り お とす.
{f)ス トローをつぶ してフィルム状にする(写 真2).
{g)空
気が入 らな いように端をlmほ
ど折 り北 海道 の雪氷
No.16(1997)
写 真
3土
を入れたス トローをフ ィルム 状 にして缶の底 にとりつ ける.写真 4 断熱 材で覆った缶 に不凍液 を入 れて試料の土 を冷却する.
写 真
5缶
の底のス トロー内に成 長 した アイスレンズ‑29‑
北海道の雪氷
No 16(1997)
曲げて
,他
方と同じようにホッチキスで閉じる(2)ア
イスレンズの成長を見る(al不凍液を 5 0 0ccぐ らいペットボ トルなどに用意 して,原液な ら同量の水を加えて冷凍庫で冷却 し ておく
{b)2 0 0ccぐ
らいのジュースなどのスチール缶を用意 して,ス
トローの土試料を取 り付け,発
砲スチ ロールなどの断熱材の台に載せる (写真 3){C)アイスレンズを観察するのは簡単である
冷えた不凍液を缶に注ぐだけでよい
10分
前後でフイ ルム状の試料にアイスレンズが成長する15分
ほどした ら,不
凍液の温度が上がってくるので,不
凍液を交換 してさらに観察をつづける
この交換によって幾層にもアイス レンズの縞をつくることが できる
成長するアイス レンズは小規模だが
,室
温の温度変化に影響されて,細
かい層が形成され 自 然のアイス レンズとほとんど変わ らない外観のものができるおわ りに
以上の現象は
,自
然には冬期の固い凍上の下部で発生するために,研
究者が実験室で人工的にアイ スレンズの発生装置を使 って行 うほか観察する機会はなかったここに紹介 した方法は単純明快なの で
,教
室や科学館で子 どもたち大勢が一斉に実験するのに向いている学校教育のなかでとりあげら れる自然科学の実験の内容は
,確
立され体系化されたもののなかか ら選別 されるしたがつて
,一
般 に教室などで,い
くつか のグループが机上で同時に小規模の実験 をおこな うことができるのは,そ
の 現象がすくなくとも巨視的レベルで理解が進み,容
易に再現できる安定的な技術が確立され,さ
らに 教育的に一定の意味づけがされているときである教室実験は
,運
動の法則のようなゆるぎない原理 を内容 とするものが中心 となるが,未
知のものを多 く含み,草
花の成長を見るような目で,無
機的な 現象に多彩な自然の仕組 みが見えるような内容も,前
者に劣 らず重要であるそのような例 となるこ とを目指してビデオ作品 も用意されている
また教材 として利用できるよ うに
,土
の凍結現象につい て簡単な解説を付 して,別
途,実
験の方法を詳 しく紹介する予定であるこの研究の費用の一部は北海道大学低温科学研究所の共同利用研究の費用によっている
参考文献
(1)矢作
裕
寒冷地における自然科学教育
寒地技術シンポジウム'88鷹演論文集 5960,1988
(2)矢作
裕
土はどれはど深 く凍っているか 寒地技術シンボジウム.80構演論文集 34431989
(3)矢作
裕
水や氷を素材 とす る教育実験 寒地技術 シンポ ジウム02諄演綸文集 460465,1992
141矢作
裕
滴下法による水の粘性係数の測定寒地技術 シンボ ジウム04論文
報告集 マol 10.483‑488,1994 (D矢 作
裕
コイ ンの電池は使えるか?寒地技術 シンボジウムリ5論 文
報告集vo1 11,1‑6,1995
(61矢作
裕
・アイスリウム・ の利用と微遠度撮影 の効果 寒地技術シンポジウム.95論文
報告集vol ll.714,1995 (7)矢作
裕 r働I路と
"+J釧
路叢書第31巻
(釧路市)222‑226,1995(81矢作
裕,福田正己,平松和彦
「土の凍結融解現象の教材イヒに関する研究J北海道大学 低la科学研究所
共同研究報告書 1‑11,1997
‑30‑
(つ7に24 iceleψ‐)