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L竺当m≡メ 歯科保健up to date

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第75巻 第2号,2016(161〜164) 161

第31回小児保健セミナー 最近の話題

歯科保健up to date

一唾液の機能一

渡 部

1.唾液クリアランス

 安静時,口腔内には毎分平均約0.3mlの唾液が分泌 されています。毎分0.lml以下になると口腔乾燥症と 診断されます。子どもの場合(15歳未満)では,唾液 分泌は唾液腺の発育程度に依存するので,若干成人よ り少なく5歳児の報告で,毎分約0.25m1程度と報告さ れています。その唾液は顎下腺,耳下腺,舌下腺唾液 の混合ですが,安静時では顎下腺唾液が多く約70%,

耳下腺唾液が約25%(両側)です1)。

 ヒトの口腔はサイフォンに例えられます。容器の中 に給水した水が一定ラインに達すると自然に排水が起 こり,容器が空になると再び給水が始まる,あのサイ フォンです。しかしヒトが嚥下を行っても多少は口腔 に唾液が残るので,サイフォンの排水口は容器の底で はなく,少し上についています(図1)。すなわち何 か口に入れると,唾液が分泌されてすぐ嚥下(排水)

嚥下直前IA±0.4 ml/mi・

       へ         翻

嚥下直後

   0.8±O.2m1/min

L竺当m≡メ

図1 生理的嚥下を考慮した安静時の口腔内唾液量

が起こり,残った唾液の上にまた唾液が分泌され嚥下 が起こる,というように,嚥下を境にした分泌と希釈 のサイクルが延々と繰り返されて,口腔内は次第に浄 化されていきます。

II.口腔内の唾液量

 このサイクルが口腔環境にどのように影響している のでしょうか? 嚥下直前の口腔に停滞する唾液量

(Vmax),嚥下直後の口腔に残留する唾液量(Resid)

そして1回の嚥下量を求めました。その結果,健康な 成人では平均すると,Residは約0.77ml(5歳児では 約0.38ml), Vmaxは約1D7ml(同約0.50ml), 1回の 嚥下量は約0.3ml(同約02ml)でした。 Vmax, Resid が平均値より多いと,唾液による希釈は遅くなること がコンピューターでシュミレーションされています。

唾液分泌速度が遅くなると,このサイクルの回転が遅 くなり,口腔内はむし歯や口臭の蔓延しやすい環境に 変わっていきます。

 口腔内に分泌された唾液はフィルム状になって口腔 内をゆっくりと移動します。その間に細菌や汚れは唾 液中に拡散して,やがて嚥下されることにより,口腔 外に排出されます。排出された唾液を試験管に取って 遠心すると底1/4ぐらいにヘドロのようなものが残 ることから,口腔環境の維持に唾液が重要な働きをし ていることがわかります。分泌と排出のサイクルは女 性の方が男性より悪いとの報告3)があります。唾液ク

リアランス率に関わると思われる因子は表に示しまし

た。

明海大学歯学部形態機能成育学講座口腔小児科学分野 Tel:049−279−2742 Fax:049−286−1321

〒350−0283埼玉県坂戸市けやき台1−1

Presented by Medical*Online

(2)

162

表唾液クリアランス率に関わると思われる因子

安静時唾液量

・生理的嚥下直前の口腔内唾液量

・生理的嚥下直後の口腔内唾液量

・1回の生理的嚥下で飲み込む唾液量

・摂取する砂糖の量

刺激唾液量

・砂糖に対する味覚閾値

味覚の順応

皿.ロ腔内部位特異性 1.唾液到達量

 口腔に分泌された唾液は口の中全体に等しく行き 渡っているわけではありません。一定濃度の標的物質

(カリウム)を寒天に含ませたホルダーを,口腔内各部 位に一定時間放置後,その寒天中カリウム濃度が1/2 に減少する時間(Half−time)を比較すると,最も濃度 が低くなる部位(唾液の到達量が多い部位)は下顎前 歯部舌側面で,最も濃度が高い部位(唾液の到達量が 少ない部位)は上顎前歯部唇面となります(図2)4}。

哺乳瓶う蝕(図3)がなぜ上顎前歯部に発生するか,

(min)

40

30

20

10

0 下前舌下臼舌上白舌下前唇上臼頬下臼頬上前唇          部位

   図2 安静時におけるHalf−time

ご ∵       1態

ss  繋

  f、、

  ・ぺ鎗

穐癬ぽ

 ・ノ 鴻

 哺乳瓶でジュース,スポー ツドリンクなどを飲む習慣が あると,写真のように上顎前 歯部唇面にのみう蝕が多発す

る。

 哺乳瓶で飲んだ後,多くの 子どもは寝てしまい,寝ると 唾液の分泌が少なくなり,特 に上顎前歯部の唾液による洗 浄作用がほとんど行われなく なるために,このような特徴 的なう蝕が発生する。

図3 哺乳瓶う蝕

小児保健研究

唾液中Caの沈殿によって生じる歯石がなぜ下顎前歯 部に多いのか,これらはこの唾液到達量の違いによっ て説明がつきます。

2.口腔内pH

 唾液量が異なればその部位のpHも異なるはずで す。舌尖刺激によって耳下腺唾液分泌速度を増加させ た時の上顎第一大臼歯頬側面のpH変化をモニターす ると(図4)5)pHは分泌速度にやや遅れて変化してい ることがよくわかります。唾液pHは主に唾液中の重 炭酸塩濃度によって影響を受けます。この重炭酸塩は 分泌量に依存して変化するため,分泌速度が増すと pHも上昇します。

 次に口腔内2ヶ所に設置したアンチモン電極により 各部位のpHの変化を同時測定した結果を図55)に示

しました。唾液クリアランス率の異なる上顎第一大 臼歯頬側面(UPB),上顎中切歯唇側面(UAB)を測 定部位として,15分間の安静状態後,酸性清涼飲料 水(pH3.1)15m1で洗口させた後のpHを同時測定し

pH StimUlate

6.5 6.4 6.3 6.2 6、1 6.0

59 58

5.7 5.6 5.5

 −1    0 1    2    3 Tirne(minutes)

4

 09876543210

 ロ     コ     コ       コ       サ     ロ

      5 1 0 ︵∪ 0 0 0 0 0 0 0 0

図4 舌尖刺激による耳下腺唾液分泌速度と上顎臼歯部   頬側面におけるpHの変化

pH

80 7.0

6.0

5.0

4.0

3.0

2.0

 −10   −5

  UPB

・・v.一・.b.・,・・−L−,ua・一・一

051015202530

  Time(minutes)

図5 糖液洗口による口腔内各部位のpHの変化 Presented by Medical*Online

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第75巻 第2号,2016

ました。その結果,刺激後の変化はそれぞれの部位で 異なる回復を示し,LALiにおいては数秒で安静時の pHに回復しましたが, UABは洗口後30分では元の pHに回復しませんでした。 UPBはpHの回復が良好 でしたが,これは耳下腺からの刺激唾液の影響による もので,一方,UABには唾液が自然には到達しない ことを示しています。本実験は洗口後口唇,舌の動き を禁じたままで(嚥下は可)安静を保ちましたが,実 際の生活上では舌や口唇が動くことによる影響でpH の回復はこれより早まると思われます。

IV.ロ腔内pHの変化

 各被験者に対し,上顎中切歯唇側面(UAL)およ び上顎第一大臼歯頬側面(UPB)に, pHセンサーを 装着し,両部位における長時間モニターを行いました。

 覚醒時のモニタリング(図6,7)では,9:00(朝 食後)〜17:00までの日常生活下の口腔内唾液pHを 1分間隔で自動測定しました(測定中の会話・嚥下 などは禁止せず,水以外の水分摂取を禁止し,昼食 中のデータ(12:00より1時間)は除外)。その結果,

UALのpHはUPBに比べ高い傾向を示しました。ま たUAL, UPBともに午前では時間の経過とともに pHの上昇傾向が認められ,午後は緩やかな下降傾向

pH

       5     07     7 L 一

1/\\、

55

9:00

図6 午前中のpH

12:00

_UAL

UPB

pH 75

65

一一

I    i

i i−  ii  一il

……  ・…{1川 …   i      {  」  |

i

゜   6    °    5    0︶      S       5       〜

  一

13:00

図7 午後のpH

_UAL

UPB

17:00

163

65

6

55

OO窃吟⁚

OO⑪罐⁚

OO回⑰N⁚

OO寸柏⁚

OOい切ψ一

〇〇⁚守寸⁚

OO⁚ひN⁚

OO⁚寸H⁚

OO⁚ぴ頃

OO寸マ⁝

OO切N⁚

OO⁚曽ぱ⁚

OO⁚ぴめ⁝

OO⁚3⁝

OO⁚軌N⁚

OO∵マ回⁝

OO⁚Oψ⁚

OOコ¶マ⁚

OOぴN

OO⁚寸柏

00⁚軌N OO⁚3 OO⁚軌め⁚

OO⁚寸柏

OO⁚ひN OOU守ぐ OO⁚mψ

OO⁚寸叶 ψ

N N

    ⁚H

    ⁚柏

    ⁚柏

    ⁚O

    ⁚O

    ⁚O

    ⁚O畿鍵w樽

5

         一UAL rm UPB         図8 睡眠中のpH

が認められました。この結果は唾液分泌速度の日内変 化1)の影響を受けていることを示唆しています。

 睡眠時のモニタリング(図8)では,0:00に就寝 させ7:00起床までのpHを同様の方法により1分間 隔で自動測定しました。その結果,睡眠前の安静時唾

液pHは全被験者でUPBがUALより高い値を示し

ましたが,睡眠直後よりUPBは徐々に下降しました。

UALは一時pHの低下がみられましたが,その後上 昇する傾向を示し,UALの方がUPBより高い状態と なり起床時まで続きました。この結果は覚醒時の結果 と合わせて考えると,pHセンサーは, UALでは常に 上唇粘膜に触れているために,小唾液腺の影響を受け ていることを示唆しているものと思われます。特に睡 眠中は大唾液腺からの唾液分泌がほとんど期待できな い代わりに,口腔粘膜に広く分布する小唾液腺が活躍

していることが考えられます。

V.脱灰・再石灰化と唾液

 口腔内において白斑がよく形成される部位は上顎前 歯部,小臼歯部の唇頬側面ですが,この部位の特徴と

して唾液の到達度が悪く(図2),したがって唾液の 移動するスピードも遅く,pHも低い環境にあります。

白斑というのは長期にわたってプラークの影響を受 け,表層は唾液などからのミネラルの供給で耐酸性が 良いために脱灰を免れますが,酸が浸透した表層下に おいては,脱灰と再石灰化のせめぎ合いの状態である ことを示しています。ここで有効に働くのは歯質中の 微量元素ですが,エナメル質外から唾液,フッ化物な

どが援護射撃的に供給されること(あるいは更なる酸 の攻撃)で再石灰化は優勢(劣勢)に進行することに なります。このようなう蝕の初期脱灰の診断と治療は 再石灰化療法といい,歯を削らない治療として最近臨

Presented by Medical*Online

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164

床で行われるようになってきました。この療法を成功 させるためには,徹底的な唾液によるpHコントロー ルとフッ素の供給が欠かせません。

VI.酸性飲料飲用後の口腔内

 リン酸カルシウムであるアパタイトは,ほとんどの 清涼飲料によって脱灰します。世界で一番飲用されて いる100%オレンジジュースに浸漬した牛歯エナメル 質をμCTで観察すると,わずか数分でミネラルが減 少しています。しかし口腔内では飲用後多量の唾液が 分泌され(図9),pHは臨界pH(エナメル質が脱灰 し始めるpH5.5付近)より下がっていません(図10)6)。

このようなことから,日常オレンジジュースのような 低pH飲料を飲んでもエナメル質の脱灰が進行するこ

とは少ないですが,睡眠前の飲用,習慣的飲用,ある いは口腔乾燥症などで唾液が不足している場合には注 意が必要です。

 刺激唾液分泌速度は基本4味(塩,甘,苦,酸)中,

酸による刺激がもっとも強力で,おそらく最大刺激 と思われるクエン酸溶液260mmol/1で平均7.07±2.16 1ni/rnilにも達します7)。一方,食物咀階刺激では,7 種の代表的な食物を咀噌して分泌速度を測定した研究 で,平均4.Oml/min。そのうち咀噌運動,粘膜の食圧刺 激はわずかで,味覚刺激による分泌が平均80%を占め ていました8)。1日の総唾液分泌量は教科書など多く の書物に1.5L程度との記載を目にしますが,それを裏

ξ:1:

     ⇔!∵ピ誌ピ〆

図9 100%オレンジジュース嚥下後の全唾液分泌速度   の変化

       180〜   300〜   600〜   1200〜

  O    O〜5   5〜15  15〜30 30〜6060〜180

       300    600    1200  1,800

       (sec)

図to 100%オレンジジュース嚥下後の各区間における   全唾液pHの変化

小児保健研究

付ける論文は存在しません。文献にはいずれも1L未 満(500ml,750ml,5歳児で550m1)9)の報告があります。

Vll.終わりに

 以上,唾液が口腔環境をどのようにregulateして いるか,これまでの研究の一端について解説しました。

複雑な変化をしていると考えられる口腔ですが,個人 の唾液分泌,生理的嚥下などについては精密機械を思 わせるような規則性の下に粛々と営まれており,その 上に立って,口腔環境は維持されていることが次第に 明らかになりつつあります。

         文   献

1)渡部 茂監訳唾液一歯と口腔の健康一.MEdgar,

 CDawes, D OMullane. Saliva and Oral Health.

 第3版.医歯薬出版,2008.

2)Watanabe S, Dawes C. Salivary flow rate and sal−

 ivary fillm thickness in five−year−oldchildren. J.

 dent. Res 1990;69:ll50−ll53.

3)Lagerlof F, Dawes C. The volume of saliva in the  mouth before and after swallowing. Js Dent. Res  1984;63:618−621.

4)Watanabe S. Salivary clearance from different re−

 gions of the rnouth in children. Caries Res l992;

 26:423−427.

5)Suzuki Y, Watanabe S. The in且uence of saliva on  pH changes in the mouth, J, Pedia, Dent 2003;

 13:89−93.

6)Takahashil S, Watanabe S, et al. Suppres−

 sive effects of saliva against enarnel demineraliza−

 tion caused by acid beverages. Health  2011;3:

 742−747,

7)Watanabe S, Dawes C. The effects of different  foods and concentrations of citric acid on the flow  rate of whole saliva in man. Archs. Oral Biol  l988;33:1−5.

8)Watanabe S, Dawes C. A comparison of the ef−

 fects of tasting and chewing foods on the flow rate  of whole b saliva in man. Archs. Oral Biol l988;

 33:761−764.

9)Watanabe S, et al. Estimation of the total saliva  volurne produced per day in five−year−old children.

 Archs oral Biol l995;40:781−782.

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