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生 産 と 技 術 第59巻 第1号(2007)

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がP h y s i c a l R e v i e w誌に掲載されたのは1 9 9 5年であ ったが,その直前,この分野に劇的発展があった.

1 9 9 3年,英国のBritish Telecom が光ファイバーを 使ったB 9 2のプロトタイプ実験を発表,1 9 9 4年には ベル研究所のピーター・ショア(Peter Shor)が 素因数分解と離散対数の量子アルゴリズムを示し た.ショアのアルゴリズムが物理的に実現されると 公開鍵暗号が破られることになるため,物理系のみ ならず情報理論研究家から欧米の政府まで含めた大 センセーションを巻き起こした.

公開鍵暗号が量子コンピューターで破られるとし ても,量子暗号はどうか?この問には1 9 9 7年,メ イヤーズ(Dominic Mayers)が「量子暗号は安 全である」ことを証明することで応えた.その理論 は難解でかつ現実性の仮定が限定的なものであった が,現実の装置を用いる量子暗号の安全の保証に確 信をもたらし,研究の方向付けに影響を与えた.

こうして欧米では,この分野が一過性のものでな く発展して行く研究であるという認識が根をおろ し,日本でも着目されることになった.現代用語の 百科事典である i m i d a sでここ数年筆者が担当して いる特集も2 0 0 7年版からようやく「量子情報処理」

の名が付けられた[1].

量子暗号は通信であるから光を使うのが最終形態 であることは確実である.しかし量子コンピューテ ィングは,イオン,有機溶媒核スピン(N M R ),光 子,超伝導素子,固体の電子又は核スピン,半導体 量子ドット,原子,分子,固体など,種々の提案が ある.どれが本命かを語るのは早い.どれとも異な るものが本命となる可能性もある.

量子情報処理において本質的ものとして「エンタ ングルメント」(量子もつれとも呼ばれる)と呼ば れる概念がある.これは,空間的に離れた複数の系 全体を一つの系と見なしたとき,その可能な状態の 1 はじめに

量子暗号,量子コンピューティング,量子テレポ ーテーションをキーワードとするいわゆる量子情報 処理の研究は1 9 8 4年に産声を上げ,前世紀までの 揺籃期を過ぎて,いま成長期にある.筆者の研究室 では大阪大学に移籍する前の1 9 9 0年代初めからこ の分野の研究を始めているが,当初の予想より進ん だ課題もあればブレイクスルーが待たれる課題も明 確になって来た.現在大阪大学においても量子情報 の研究をメインあるいは部分的に,研究室をあげて 手がける研究室は,少なくとも基礎工学研究科に3 つ,工学系研究科に1つ,理学系研究科に1つある.

このうち筆者の研究室では対象となるハードを限定 しない理論研究と,実証と課題発見のために行う実 験研究を光を用いて行っている.

2 量子情報処理とは

この分野はI B Mのベネット( B e n n e t t)とモン トリオール大学のブラサール(B r a s s a r d)による 量子暗号の提案( 1 9 8 4)と,オクスフォード大学 のドイチュ( D e u t s c h)による量子チューリング マシンの能力についての考察( 1 9 8 5)により実質 的に開始された.量子暗号分野で筆者の最初の成果

Nobuyuki IMOTO 1 9 5 2年1 0月生

1 9 7 7年東京大学大学院工学系研究科物理 工学専門課程修了

現在,大阪大学大学院基礎工学研究科,

教授,工学博士,量子情報処理・量子光学 T E L 0 6-6 8 5 0-6 4 4 5

F A X 0 6-6 8 5 0-6 4 4 5

E-mail:i m o t o @ m p . e s . o s a k a - u . a c . j p U R L:http://www.qi.mp.es.osaka-u . a c . j p /

i n d e x - j . h t m l

量子物理が突破する情報処理の地平線

Quantum physics opens up the horizon of information processing

Key Words:Quantum Information Processing, Quantum Cryptography,

Quantum Computing,, Photonics, Light-matter Interactions

井 元 信 之 研究ノート

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生 産 と 技 術 第59巻 第1号(2007)

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具体的には雑音を受けてエンタングルメントが弱ま った2ペアからエンタングルメントが回復した1ペ アを抽出したものである.

4 雑音を受けた量子状態の回復

前節の「エンタングルメントの純化」は概念とし ては重要であるが,実用上重要なのはエンタングル メントのみならずもっと一般に「任意の量子状態を,

雑音を受けた状況から回復する」ことである.これ はエンタングルメントの純化と似た方法で次のよう に行われる.

前節の「弱くエンタングルした2ペアから完全に エンタングルした1ペアを抽出する」方法は,見方 を変えれば「1対のエンタングルペアを送るにあた り,もう一つエンタングルした補助ペアを添え,同 じ雑音を受けている補助ペアを差っ引いて雑音を消 させる」とも言える.これをペアでなく「任意状態 の光子1個を送るにあたり,決まった状態にある補 助光子を添え,同じ雑音を受けている補助光子を差 っ引いて雑音を消させる」というバージョンにする ことができる.これも概念を言うは易くであるが,

我々はそれを行う方法を提案し[4]初めて実証実 験を行った[5].

5 量子暗号の安全性研究の進展

量子暗号はさまざまな方式で実験が行われてお り,最近では簡単な製品まで欧米のヴェンチャー企 業から出されている.実験研究の重要性はわかりや すいが,量子暗号においては,以下に述べるように,

理論の進展がいまなお極めて重要である.

1 9 8 4年の最初の提案から筆者の研究室を含めた いろいろな研究グループにより,さまざまな量子暗 号のアイデアが提案されて来た.ところがそれらの 方式が本当に安全であることの理論的証明は,後か ら追いかける形でなされて来たのである.たとえば 最初の提案であるB B 8 4の安全性証明は1 9 9 7年に初 めてなされたが,それは理想的単一光子発生器を仮 定するなど,前提条件にまだ非現実性があった.こ の非現実性を一つずつ取り払って現実条件に近づけ ることや,B B 8 4以外のさまざまな量子暗号を対象 として行くことで,「量子暗号の安全性証明」とい う理論分野はいま持続的に発展している.

同じ方式の同じ現実条件下の話であっても,安全 重ね合わせのことである.これは古典物理での対応

物がなく,ベル不等式の破れなど日常生活の常識か らは理解できない現象を引き起こす.この「エンタ ングルメント」は量子情報処理の途中に必然的に現 れるだけでなく,多くの場合リソースとして準備し なければならない,根源的なものである.

3 エンタングルメントの純化

エンタングルした複数の物理系は,回りの環境系 との相互作用を完全に絶つことができないため,遠 1方に運んだりメモリーに蓄積している間に状態が 汚れ,その結果エンタングルメントは弱くなって来 る.しかしこれでは量子情報処理に供せないため,

エンタングルメントの純化(あるいは蒸留,濃縮,

抽出などと呼ばれる)という概念が考案された.こ れを双子の光子を用いた具体例で説明する.

エンタングルメントは光では制御性良く発生する ことができる.振動数ω,波数kの光子一つをある 種の非線形光学結晶に入れると,ω=ωs+ωi,k = ks+kiを満たす振動数と波数を持つ光子 s と i に分 かれる「パラメトリック下方変換」という現象を用 いる.これは飛んでいる岩(光子)が何らかの刺激

(非線形光学)によって二つに割れたとき,エネル ギーと運動量を保存する速さと方向に分かれるのと 同じ現象である.実際にはこの現象の生起確率が小 さいため,光子一つを入力するのでなくレーザー光 を入射するが,その結果エンタングルした双子の光 子を(現在の技術では)1秒間に数百〜数千ペア生 ずることができる.

このようにして発生した双子の光子を大気中や光 ファイバーを介して遠方に引き離すと,大気やファ イバーの屈折率の時間的ゆらぎによりエンタングル メントが破壊される.それを回復するのに「エンタ ングルメントの純化」を使うことができる.エンタ ングルメントの純化とは,エンタングルメントが弱 まった多数のペアを引き離したまま,エンタングル メントが完全に回復した少数のペアを煮詰める作業 である.蒸留,濃縮,抽出と呼ばれることがあるこ とも理解しやすいであろう.

しかし理論的には可能なはずの概念も「現在のテ クノロジーでできるか?できるとしたらどうやる か?」はわからないことが多い.我々はそれを行う 方法を提案し[2]初めて実証実験を行った[3].

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生 産 と 技 術 第59巻 第1号(2007)

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はデバイスだけ考え,情報処理屋がどう使うかまで 考える必要はなかった.いわゆる分業が成り立って いた.しかし量子情報処理はそれでは済まない.最 終的実用化段階では方式屋がシステム的発想で全体 設計する必要があるが,現在は物性物理からの貢献 がメインといえるフェーズにある.従来は物性物理 の研究者や学生はシステム的発想がないと言われて いた.今後はそうではないであろう.むしろ基礎が しっかりしているだけに,物性物理を修めた学生は 非常に適応力があるように思える.私も3 0年前は 物性物理の学生であったが,大学で物性物理分野の 教育研究に携わるようになって,その辺が昔と大き く違う点であると感ずる.

本文では筆者の研究室で行っている研究の一端を 紹介した.他の研究テーマについて興味を持たれる ならばホームページ h t t p : / / w w w . q i . m p . e s . o s a k a - u . a c . j p / i n d e x - j . h t m l を参照されたい.そして当研 究室で行っていることも量子情報処理研究の一端に すぎないので,さらにリンクをたぐって日本および 世界の状況を見ていただければと思う.

最後に,筆者の研究室の同僚・スタッフ・学生,

ならびに領域・専攻・研究科の同僚,そして研究を 支えてくださる大阪大学 2 1世紀 C O E プロジェク ト,科学技術振興機構,日本学術振興会に感謝の念 を表したい.

R e f e r e n c e s

[1]集英社「imidas 2007」p . 7 8 7 - 7 9 1 ,

「量子情報処理」

[2]T. Yamamoto et.a l. :Phys. Rev. A64, 0 1 2 3 04(2 0 0 1).

[3]T. Yamamoto et.al.:Nature 421(2 0 0 3)

3 4 3/山本俊 他:応用物理 第7 5巻, 第 1 1 号, 1 3 5 9 - 1 3 63(2 0 0 6).

[4]T. Yamamoto et.al.:Phys. Rev. Lett.

9 5 , 0 4 0 5 03(22 July 2005).

[5]T. Yamamoto et.al.:q u a n t - p h / 0 6 0 7 1 5 9

(2 0 0 6).

[6]M. Koashi:Phys. Rev. Lett. 93, 120501

(1 5 September 2004)/小芦雅斗: 数理科学 第4 2巻1 0号, pp.50-55(2 0 0 4).

[7]M. Koashi:q u a n t - p h / 0 6 0 9 1 8 0(2 0 0 6).

性を見積もる理論が拙い場合,本来よりケタ違いに 小さな安全度をはじき出すことがあるばかりか,本 来安全な量子暗号システムを「不合格」としてしま うことさえある.したがって,より真の安全度に近 い見積もりを与える理論を開発することにより,安 全な量子暗号システムを不合格とせず,能力いっぱ いの処理速度で安心して使えるようになる.このよ うに,既に存在している装置の性能が理論の進展だ けで上がるという現象が起こるのは「盗聴者による あらゆる攻撃を実験してみることが出来ないため,

あらゆる攻撃を仮定した理論で安全度を見積もる」

というセキュリティ証明理論の特徴である.

1 9 9 8年から最近まで主流であった量子暗号の安 全性証明理論の手法は,エンタングルメント純化の 理論を使うものであった.これはまず,検討の対象 となっている量子暗号方式をその中に包含するよな エンタングルメント純化プロトコルを見いすことに 始まる.そのようなプロトコルが見つかったならば,

その純化プロトコルの成立条件を求めてやればよい のである.なぜならば,ひとたびエンタングルメン ト純化ができてしまえば,送信者と受信者が手にし た粒子は他のどんな系ともエンタングルしていない のみならず古典相関もないという定理(エンタング ルメントの一夫一婦制と呼ばれる)があるからであ る.かくして,仮想したエンタングルメント純化ロ トコルの成立条件は,元の子暗号成立の十分条件と なる[6].

最近,エンタングルメント純化を用いる上記の方 法とは別に,不確定性原理を直接用いる安全性証明 の手法も開発され,これにより量子暗号の安全性の 理論の適用範囲が拡大した.この辺の事情について は文献[7]を参照されたい.基本的に単一光子発 生器を必要とするB B 8 4以外に通常のレーザー光を 用いる方法が数多く発案されてきたが,それらの安 全性が従来考えられてきたよりずっと良く,単一光 子を必要とする量子暗号に肉薄することもわかって 来た[7].しかしまだ未解決の課題も多いので,量 子暗号の安全性証明の理論研究はまだしばらく続く 研究分野である.

6 おわりに

従来は物性物理屋はモノのことだけ,デバイス屋

参照

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