■ 原著論文
キーワード:研究倫理、看護学生、看護教員、研究対象者の権利
Key words
:research ethics, nursing students, nursing faculty, protection of individual rights
1 大分県立看護科学大学 Oita University of Nursing and Health Sciences
看護学領域では、教員が学生を対象とした研究が多く、インフォームドコンセントのプロセス等に関する 様々な倫理的問題が指摘されている。看護学生に調査研究を行なう際の看護教員の倫理的配慮についての認識 と実践を明らかにする目的で実態調査を実施した。看護系大学に勤務する看護領域を専門とする教員を対象と し、倫理的配慮に関する認識と実践について郵送質問紙調査を実施した(有効回答
324
部、有効回答率35.6
%)。その結果、倫理的配慮への意識は、学生の自由意思の尊重を重視する教員が多かった。しかし、倫 理的配慮の実際では、倫理的配慮が十分に行えていないという結果であった。また、質問紙の回収方法と回収 時 期 に 関 し て は、FD
研 修 を 受 講 し て い る 群 の 方 が、 倫 理 的 配 慮 が 行 え て お り、 有 意 差 が 認 め ら れ た(
p
<0.05
)。FD
研修の受講は、教員の倫理的行動へと影響することが考えられ、効果的なFD
研修の在り方を検討する必要があることが示唆された。
Background: Participants in nursing research studies are often the students of the educators who are conducting the study. Consequently, ethical issues, including the informed consent process, have attracted attention in the nursing educational environment. Purpose: With a focus on identify- ing methods for ensuring the voluntary participation of nursing students and ideal methods for ob- taining informed consent, the present study investigated nurse educators
ʼperceptions and practices regarding ethical considerations when conducting fact-finding surveys on nursing students.
Methods: A questionnaire on perceptions and practices regarding ethical considerations for student research was sent by postal mail to 909 educators specializing in the area of nursing services who were working at nursing universities. Valid responses were received from 324 educators. Results:
Many educators considered that providing an explanation to the students who are potential re- search participants met their ethical obligations. Furthermore, the more faculty development (FD) courses on data collection methods and research questionnaires the educators participated in, the significantly more closely they paid attention to ethical considerations (p<0.05). Conclusions: Edu- cators
ʼparticipation in FD courses is considered to have an impact on their ethical considerations:
therefore, effective FD training methods must be carefully considered.
看護学生を対象にした質問紙調査を行う際の 倫理的配慮に関する実態調査
−看護教員の倫理的配慮に関する認識と実践−
A survey on ethical considerations relating to questionnaires for students:
Perceptions and practices of nurse educators
石岡 洋子
1Yoko ISHIOKA
平野 亙
1Wataru HIRANO
小野 美喜
1Miki ONO
Ϩ .緒言
医学研究では、ニュルンベルク綱領 (1947年) が 指針として示されて以降、倫理原則を遵守すること が求められている。看護の世界でも看護研究を行う 際の、研究対象者の権利の尊重をいかに実践してい くのかということが課題となっている。国内では、
2003年に厚生労働省 1 は、「臨床研究に関する倫理
指針」において、看護学における研究を医学、歯 学、薬学と共に人を対象とする研究とし、臨床研究 に位置付けた。
2007年には日本看護系大学協議会 2から、「看護学
教育における倫理指針」が発表され、看護学教育の 場でも、研究における参加者の権利の保護に対する 意識は高くなっており、看護教員が行う研究は、医 学研究の倫理原則を定めたヘルシンキ宣言(1964 年、改正2008年)を基本原則として、厳しく倫理が 求められている。
看護学教育において実施された研究では、看護教 員が看護学生を対象とした研究が多く3、質問紙調 査および記録内容の分析等が多く行われている。看 護学教育の向上のためには、看護学生を対象とした 研究が不可欠である。その一方で、看護教員が看護 学生を対象として行った研究には、インフォームド コンセント手続きの問題やデータ提供等に関する倫 理的問題、回収率の高さ等が指摘されている4。な かでも質問紙調査は、学生の学習や成績評価には直 接的な関係がないうえに、看護学生の態度・認識・
意見等、学生のプライバシーに踏み込むため、調査 に参加するか否かには、学生の任意性の保障等十分 な倫理的配慮がされなくてはならない。しかしなが ら、看護教員の倫理的行動の実態や認識を明らかに した研究はみられない。
そこで本研究では、看護教員が看護学生を対象と した研究を行なう際の倫理的配慮の実践の態様と必 要な倫理的配慮についての認識を明らかにするとと もに、その際の倫理的配慮のあり方を考えるための 基礎資料を得ることを目的とした。
ϩ .研究方法 1
.調査対象大学が設立されてから教員が実際に学生を対象と した研究を実施する可能性がある期間として、5年 を想定した。それにより、2006年までに開設された 144校の看護系大学から無作為抽出した72校と追加
依頼を行った42校の合計114校を対象大学とした。
その大学に勤務する基礎看護学領域および専門看護 学領域で実習や演習、講義等を担当している教員の うち、臨時職員をのぞいた909名を対象とした。
2
.調査方法各大学の学部長に調査主旨と配布のお願いを記し た依頼書及び教員数問い合わせ文書を送り、調査へ の承諾及び教員数を記入した文書を返信してもらっ た。承諾の得られた大学に、改めて対象者への協力 依頼書、調査票及び返信用封筒を郵送した。郵送直 後に東日本大震災が起こったため、有効回答数の減 少する可能性があることから、無作為抽出に該当し なかった大学のうち、関東・東北地方を除く大学42 校へ追加の依頼書を郵送し、合計114校へ依頼を 行った。学部長宛の依頼書に対象者の条件を明記 し、該当する教員に協力依頼書と調査票及び返信用 封筒を配布してもらった。対象者には協力依頼書で 回答を依頼し、回答後返信用封筒に入れ投函しても らうことで、研究への同意とみなした。
調査は無記名自記式質問紙法とし郵送法により回 収を行った。
調査期間は平成23年3月1日〜7月30日である。
3
.調査内容調査で使用した質問紙の内容は、以下の19項目で ある。
1
)基本属性教員経験年数・職位・大学の形態・FD 研修受講 の有無・看護学生を対象とした研究経験の有無・大 学の倫理規定の有無と規定内容とした。
2
)教員の倫理的配慮への認識教員が学生を対象とした研究を行う際に必要と考 えられる配慮について「学生の心身への負担に配慮 する」、「参加・不参加に関わらず不利益を生じない よう配慮する」、「研究への参加・不参加を十分検討 できる時間を対象に保障する」、「学生との信頼関係 を築く」、「予測される利益・不利益を正しく情報提 供する」、「学生が教員に遠慮することなく自由な意 思に基づいて参加・不参加を決めることができる」
の6項目を設定した。そして、同順位となるものが ないよう優先順位の高いと考える順に1位から6位 までの順位付けをお願いした。6項目については、
ベルモント・レポートのインフォームドコンセント のプロセスにおける、情報・理解・自由意思の原則
信をもって同意とすること、データは研究目的以外 での使用はしないことを明記した。
Ϫ .結果
調査票は909部配布し、回収数は330部(回収率
36.3%)であった。記入不備のある6部を除いた324
部を有効回答(有効回答率35.6%)とし、分析対象 とした。
1
.対象者調査対象者の属性は、表1に示すとおりである。
研究の倫理に関する FD 研修を受講したことがあ る回答者は197名(61%)、受講したことがない回答 者は126名(39%)であった。
大学に学生を対象とする研究に関する倫理規定が ある回答者は99名(30.7%)、倫理規定がない回答 者は149名(46.1%)、規定の有無をしらない回答者 が75名(23.2%)であった。
学生を対象とした研究経験の有無は、研究経験あ り225名(69.4%)、研究経験なし99名(30.6%)で あった。
2
.倫理的配慮への意識教員の倫理的配慮への意識について、重視する事 項の順位付けを行った結果、各項を1位とした回答 者の多い項目は、「学生が教員に遠慮することなく 自由な意思に基づいて参加・不参加を決めることが 出来る」(148名)、「参加不参加に関わらず不利益を 生じないよう配慮する」(64名)、「学生の心身への 負担に配慮する」(50名)の順であった。各項目の 得点は、表2に示すとおりである。
3
.質問紙調査手続きの実際学生へ研究参加を誰が依頼するのかという項目で は、研究者自身が203名(90.2%)、研究者以外の教 員が12名(5.3%)、教員以外の職種が3名(1.3%)、
その他7名(3.1%)であった。研究者自身が学生 へ参加を依頼する理由として、「正確に説明するた め」、「研究者としての責任や義務」等があげられ た。また、研究者以外の教員および教員以外の職種 が参加依頼する理由は、「圧力を感じさせないため」
等の回答であった。
質問紙を回収するまでの期間は、「1日以上間隔を あけ期間を設定して回収する」は92名(43.6%)、
「その場での回収」は64名(30.3%)、「その日のう を参考にして決定した。
なお、学生との信頼関係については、研究倫理の 要件となる項目ではないが、対象者の権利を否定す る際に「信頼関係」という言葉を使用することも多 いため両義的質問項目として設定した。
3
)質問紙調査手続きの実際学生への研究参加依頼を誰が行うのか、質問紙回 収までの期間、質問紙回収の方法は選択肢とし、そ の理由について、自由回答を得た。
4
)ガイドラインの必要性の有無教員が学生を対象とした調査を行う際の手続きに 関するガイドラインの必要性の有無とその理由につ いて、自由回答を得た。
4
.分析方法各質問紙項目に関しては、単純集計と記述統計を 行い、属性によるクロス集計およびχ2検定を行っ た。教員の倫理的配慮への意識については、6項目 について、優先順位の高い順に順位付けを行なっ た。1位〜6位までの順位を1位:6点2位:5点 3位:4点4位:3点5位:2点6位:1点とし、
点数化し、順位付けを行い、得点化し、単純集計を 行った。
また、調査手続きの実際に関する3項目(学生へ の研究参加依頼、質問紙回収までの期間、質問紙回 収の方法)では、選択された回答により、「配慮あ り群」と「配慮なし群」に分けて、属性とのクロス 集計およびχ2検定をおこなった。ただし、被験者 数が5以下のものは、フィッシャーの直接法を用い た。検定に際して、有意水準は5%とした。
学生への研究参加依頼を誰が行うのか、質問紙回 収までの期間、質問紙回収の方法を選択した理由に ついての自由回答は、K J法を参考として分類し、
データの解析は統計ソフト SPSSver18 を用いた。
5
.倫理的配慮本研究は、大分県立看護科学大学の研究倫理安全 委員会の審査、承認を得て実施した。
質問紙は無記名とし、個人や施設が特定されない ようにした。
学部長に対して依頼文書により、対象者に質問紙 を配布する際には任意性の保障に関する配慮をして もらうことを依頼した。対象者には、質問紙と共に 依頼文書を添付し、研究目的及び使途、匿名性の保 障、調査への参加は、自由意思であり、質問紙の返
表
1
対象者の属性属性 カテゴリー n(%)
経験年数
1年未満 31 (9.6)
1〜5年 98(30.2)
6〜10年 79(24.4)
11〜15年 63(19.4)
16〜20年 24 (7.4)
21年以上 29 (9.0)
職位
教授 91(28.1)
准教授 55(17)
講師 54(16.7)
助教 92(28.4)
助手 32 (9.9)
大学の形態
総合大学 168(51.9)
医療系大学 89(27.5)
看護系単科大学 50(15.4)
その他 17 (5.2)
F D研修受講の有無 あり 197(61)
なし 126(39)
大学の倫理規定
あり 99(30.7)
なし 149(46.1)
しらない 75(23.2)
学生を対象とした研究経験 あり 225(69.4)
なし 99(30.6)
表
2
倫理的配慮の順位と得点 n (点)項 目 学生の心身の 負担
参加不参加に よる不利益
十分検討する 時間の確保
学生との信頼 関係
予測される利益不 利益の情報提供
学生の自由意思 の尊重
n 308 309 308 309 309 311
1 50(300) 64(384) 5 (30) 31(186) 13 (78) 148(888)
2 41(205) 113(565) 22(110) 11 (55) 50(250) 74(370)
3 52(208) 65(260) 54(216) 13 (52) 87(348) 38(152)
4 59(177) 42(126) 71(213) 26 (78) 81(243) 31 (93)
5 80(160) 14 (28) 88(176) 56(112) 55(110) 12 (24)
6 26 (26) 11 (11) 68 (68) 172(172) 23 (23) 8 (8)
計 1076 1374 813 555 1052 1535
回収が141名(67.1%)、その場での手渡し回収が46 名(21.9%)、 郵 送 が5名(2.4%)、 そ の 他 が18名
(8.6%)であった。回収箱による留め置き回収を行 う理由は、「匿名性を確保するため」や「自由意思 を尊重するため」というものであった。その場での 手渡し回収は、「確実に回収できる」や「無記名な ら問題がない」などが理由としてあげられていた
(表3,表4,表5)。
ちに回収」は23名(10.9%)、その他32名(15.2%)
であった。その場で回収する理由として、「回収率 の確保」等があげられた。
1日以上間隔をあけての回収、あるいは、その場 でなくその日のうちに回収する理由として、「考え る時間を確保」や「学生の自由意思を尊重するため」
や「プレッシャーを回避したい」等があげられた。
質問紙を回収する方法は、回収箱による留め置き
表
3
参加依頼 n=225項目 n(%) 理由 n
研究者自身 203(90.2)
研究について正確に説明するため 43
研究者としての責任又は義務 24
他に人がいない・単独での研究 7
学生との信頼関係を考えて 5
研究活動の一環 4
その他(規定がない・研究者自身で行なうものと思っていた等) 9
研究者以外の教員 12 (5.3)
圧力を感じさせない 3
責任の所在 2
その他(複数校の学生を対象とした為等) 3
教員以外の職種 3 (1.3) 圧力を感じさせない 1
共同研究であったため 1
その他(院生・学生等) 7 (3.1) 成積評価に関係する印象を与えないため 1
その他(共同研究にも責任がある等) 2
表
4
質問紙の回収時期 n=211項目 n(%) 理由 n
その場回収 64(30.3)
回収率を確保 8
すぐに記入できるため学生の負担を軽減できる 3
紛失防止 3
時間をおく余裕がない 1
その日のうちに回収 23(10.9)
回収率を確保 5
その場だと回答に影響する 3
その他(大学の規定等) 2
1日以上間隔をあけて期限
を設定 92(43.6)
考える時間を確保 21
学生の自由意思を尊重 4
学生へのプレッシャーを回避 4
その他(回収率が下がる等) 3
その他(ネット・研究内容
で異なる等) 32(15.2) 研究目的でかわる 3
自由参加を保障 2
表
5
質問紙の回収方法 n=210項目 n(%) 理由 n
その場で手渡し回収 46(21.9) 確実・紛失予防 3
その他(大学の指示・無記名なので問題ない等) 3
回収箱による留め置き 141(67.1)
匿名性の確保 17
自由意思の尊重 13
強制力の排除 11
その他(費用の問題等) 7
郵送 5 (2.4) プライバシーの確保 2
不参加の学生への配慮 1
その他(オンラインシステ
ム・研究内容で異なる等) 18 (8.6)
匿名性の確保 2
回収率の確保 1
学生への配慮 1
表
6
属性と倫理的配慮の関係参加依頼 回収期間 回収方法
配慮なし 配慮あり χ2検定 配慮なし 配慮あり χ2検定 配慮なし 配慮あり χ2検定
n 225 211 210
経験年数
1年未満 8(88.9) 1(11.1)
n.s
1
(11.1) 8(88.9)
n.s
3
(33.3) 6(66.7)
n.s 1〜5年 43(81.1) 10(18.9) 19(38.8) 30(61.2) 13(27.1) 35(72.9)
6〜10年 59(93.7) 4 (6.3) 22(38.6) 35(61.4) 14(24.6) 43(75.4)
11〜15年 48(94.1) 3 (5.9) 10(20.4) 39(79.6) 7(14.3) 42(85.7)
16〜20年 20(87) 3(13) 6(27.3) 16(72.7) 5(22.7) 17(77.3)
21年以上 25(96.2) 1(11.6) 6(24) 19(76) 4(16) 21(84)
職位
教授 69(94.5) 4 (5.5)
*
21(29.6) 50(70.4)
n.s
14(19.7) 57(80.3)
n.s 准教授 41(87.2) 6(12.8) 10(22.7) 34(77.3) 7(16.3) 36(83.7)
講師 39(97.5) 1 (2.5) 16(42.1) 22(57.9) 9(23.7) 29(76.3)
助教 46(88.5) 6(11.5) 14(31.1) 31(68.9) 13(28.9) 32(71.1)
助手 8(61.5) 5(38.5) 3(23.1) 10(76.9) 3(23.1) 10(76.9)
大学の形態
総合大学 109(95.6) 5 (4.4)
*
32(29.6) 76(70.4)
*
23(21.3) 85(78.7)
医療系大学 64(91.4) 6 (8.6) 28(43.1) 37(56.9) 17(26.2) 48(73.8) n.s 看護系単科大学 22(71) 9(29) 4(13.8) 25(86.2) 5(17.9) 23(82.1)
その他 8(80) 2(20) 0 (0) 9(100) 1(11.1) 8(88.9)
F D研修受講 あり 125(89.3) 15(10.7)
n.s 29(21.8) 104(78.2)
* 22(16.5) 111(83.5)
なし 78(91.8) 7 (8.2) 35(44.9) 43(55.1) 24(31.2) 53(68.8) *
大学の倫理規定
あり 60(85.7) 10(14.3)
n.s
23(33.8) 45(66.2)
n.s
16(23.9) 51(76.1)
n.s なし 106(89.8) 12(10.2) 28(25.5) 82(74.5) 22(20) 88(80)
知らない 37(100) 0 (0) 13(39.4) 20(60.6) 8(24.2) 25(75.8)
被験者が5以下のものはフィッシャーの直接法 n.s:非有意 p<0.05
3
)質問紙の回収方法質問紙の回収方法について、その場での回収を行っ た群を配慮なし群、それ以外を配慮あり群とし関連 を検討したところ、配慮あり群の方が FD 研修を受 講している回答者が多く、質問紙の回収方法の配慮 と FD 研修受講とに関連が認められた (p<0.05)。
5
.ガイドラインの必要性の有無学生を対象としたガイドラインの必要性の有無を 質問したところ、ガイドラインが必要と回答したの は223名 (69.5%) であった。ガイドラインが必要で ある理由として、「学生を対象とした研究の倫理が 明確でないため対応に悩む」、「調査方法に関して戸 惑う」等の意見がみられた。
その一方で、ガイドラインを不要と回答したの は、98名(30.5%)であった。ガイドラインを不要 と考える理由として、「患者も学生も同じであり、
学生を特別視するのはおかしい」、「一般的な倫理規 定やガイドラインで十分」といった学生を特別視す ることへの疑問があげられた。また、「研究内容や 各大学の事情が異なり、統一したガイドラインは難 しいのではないか」という意見もあった。さらに、
4
.属性と倫理的配慮との関連調査手続きの実際(学生への研究参加依頼、質問 紙回収までの期間、質問紙回収の方法)についての 回答を配慮あり群と、配慮なし群に分け、経験年 数、職位、大学の形態、FD 研修受講の有無、大学 の倫理規定の有無との関連を検討した。各項目との 関連を表6に示す。
1
)学生への参加依頼学生への研究参加依頼について、研究者自身が依 頼を行った群を配慮なし群、それ以外を配慮あり群 とし、属性との関連を検討したところ、職位と大学 の形態の2項目で有意差 (p<0.05) が認められた。
2
)質問紙の回収期間質問紙の回収期間について、その場での回収を 行った群を配慮なし群、それ以外を配慮あり群と し、関連を検討したところ、大学の形態とFD研修 受講の2項目で有意差 (p<0.05) が認められた。大 学の形態では、配慮がみられたのは、看護系単科大 学であり、最も配慮がみられなかったのは医療系大 学であった。
FD 研修受講の有無では、配慮あり群の方が FD 研 修を受講している者が多く、関連が認められた。
加への依頼を行う事に重点を置き、研究目的や主旨 を説明することが、研究者として説明責任を果たす ことだと考える教員が多いのではないかと思われ る。なお、大学の形態及び職位による有意差が認め られたが、傾向がみられず、回答分布の特性による 偶然の結果と思われる。
研究におけるインフォームドコンセントは、研究 対象者に提供されるべき情報の種類・同意の前提と して、理解・同意に際しての自由な選択の保障の3 要素からなる (p193)5。日本看護協会 6 の「看護研 究における倫理指針」(2004年)や厚生労働省 1 の
「臨床研究に関する倫理指針」(2003年)でも研究対 象者には、研究目的、内容、手順等をわかりやすく 説明する必要があることや、研究対象者が質問でき る機会を作り、その質問に十分に答えることが明記 されている。
しかし、研究者と研究対象者において、利害関係 や力関係がある場合、研究の依頼や説明を研究者自 身で行うと倫理的問題が生じやすい7。教員と学生 は同等の立場ではなく8、学生は教員から研究への 参加依頼の説明を受けた場合、仮に教員が意図して いなくても、学習への影響を考え、参加を断れない ものと考える。そして、参加を強制されているよう に感じることが考えられる。とりわけ、教員が学生 への授業や実習を担当し、成績を評価する状況にあ る場合は、より学生は自由意思で参加を決定できな いと考えられる9−10。
教員と学生の関係は、自発的に同意する学生の能 力を制限するものと考えられる。教員が学生を対象 とした研究を行う際には、可能な限り情報を対象に 直接伝えるというインフォームドコンセントのプロ セスに参加するべきではない8とされ、十分な配慮 が必要である。教員は、学生は脆弱な立場にあるこ とを認識し、学生の自由意思を尊重するために最善 と考えられる方法で情報提供を行うことが、研究者 としての説明責任を果たすことであると考えられ る。
2
)回収期間回収期間については、1日以上期間をあけるとし た教員が92名(43.6%)と多い。理由として、研究 参加を検討するために十分に考える時間を念頭にお いた学生への配慮が多くあげられた。このように学 生への配慮が見られる一方で、その場での即時回収 も64名(30.3%)が実施しており、その理由とし て、回収率の確保が多くあげられていた。たしかに
「問題が生じていないため作成は不要」、「ガイドラ イン化により研究が行いにくくなる」といった意見 があり、研究への影響を心配する意見も少数みられ た。ガイドラインの必要性については、教員の属性
(経験年数、所属大学の形態、FD 研修受講)による 有意差は認められなかった。
ϫ .考察
1
.倫理的配慮への認識看護倫理に関する教員の認識は、傾向として学生 の自由意思の尊重に重きをおく教員が多いという結 果であった。医学研究は、1947年ニュルンベルク綱 領の「被験者の自発的同意が本質的に必要である」
という研究倫理の指針にはじまり、1964年にはヘル シンキ宣言(改正2008年)によって「被験者の自由 意思の尊重」を原則とするインフォームドコンセン トが規定され、研究の倫理原則に従うことは研究者 の責務とされている。ヘルシンキ宣言を基盤とする 臨床研究を行う看護教員は、インフォームドコンセ ント原則の認識を問う「学生の自由意思の尊重をす る」とした項目を重視していることから、多くの看 護教員が「被験者の権利を擁護する」倫理原則の意 義を理解していると推察できる。
しかし、倫理原則を理解し知識として持ち合わせ ていても、倫理的判断や行動が行えているとはかぎ らないことを勝山ら3は指摘している。本研究でも、
インフォームドコンセントにおける同意のプロセス の3要素の1つである自発性に関わる質問紙の配布 と回収の在り方においては、倫理的な対応が行えて おらず、認識と実際の行動に乖離がみられた。倫理 問題を考える際は、認識だけを問うだけでは十分と いえず3、認識や知識をもとに倫理的判断と倫理的 行動が行えることが重要である。看護教員は研究の 倫理原則を順守し、認識と行動の乖離をうめていく 努力が求められる。
2
.質問紙調査の実際と課題1
)学生への参加依頼学生への参加依頼を誰が行うのかという項目で は、全体の203名 (90.2%) の教員が自身で学生への 研究参加を依頼しており、教員の傾向として、学生 への参加依頼について配慮が行われていないことが 考えられる。研究者自身が学生へ参加依頼を行う理 由として「研究への責任や義務感・正確に説明する ため」という理由が多数を占めており、自ら研究参
意思決定に影響することが考えられる。また、回収 時にデータと個人を照合することも可能となり、
データの匿名性も保護されないという二重の倫理的 問題が生じる可能性がある。無記名であっても質問 紙の回収方法次第では、倫理的問題が生じることを 教員は認識する必要がある。
4
)FD
研修についてFD研修を受講している教員は、質問紙の回収期 間及び回収方法において、より倫理的配慮を行なう 傾向がみられた。
研究を行なう際の倫理観や倫理的配慮へ取り組む 意識には、各自による個人差がある18。倫理上の課 題や問題が生じた場合、自身では気付くことが難し く、個人で取り組むことは独善的となりやすい。倫 理的であるためには、各自の内面への働きかけと、
制度や政策等の外側に向かう働きかけの両方が必要 である19。内面への働きかけのためには、各教員の 意識を刺激し、倫理観を高めることが重要である。
それを効果的に行う手段の一つとして FD 研修が考 えられる。FD研修は各教員の内面やモラルや自覚 に問いかけることでもあり (p16)20、FD 研修の受講 が自己の内面に働きかけ、倫理への意識が刺激さ れ、倫理に対する関心や感受性が高まる契機となる ことが考えられる。また、FD 研修として組織的に 取り組むことで、個人では気付く事が難しい倫理的 課題の考察を行い、必要な知識や能力を獲得する機 会となって、倫理観の形成を促す効果があると考え る。
5
)ガイドラインのありかた本研究では、大学に倫理規定があるか否かを知ら ないと回答した教員が75名(23.2%)もいた。この 結果は、多くの先行研究が倫理的問題を指摘してい るにも関わらず、教員の倫理への関心が乏しく、倫 理に対する正しい知識が教員に十分に浸透していな い事を示すものと考えられる。さらに、倫理規定が ないと回答した教員が149名(46.1%)であったこ とは、所属機関に学生を対象とした指針が示されて いないことを意味し、大学など研究機関ごとの規定 の整備など改善の必要性があると考えられる。刀根 らは「研究における倫理の問題は多岐に渡ってお り、研究の倫理向上のために学会等でガイドライン を示す事や実際的支援の整備と FD 研修の必要性」
を報告しており21、大学独自での取り組みでは十分 といえず、限界があると考えている教員が多いと考 えられ、全国レベルでのガイドラインを作成するこ 質問紙調査において、回収率の向上は研究者にとっ
て大きな課題である11。回収率の低下は、調査結果 の妥当性や信頼性に影響し、また再調査を実施する ことにもなる11。手間やコストを最小限にし、回収 率を確保するためには、学生の提出忘れや紛失等を 防ぐことになる、その場での即時回収が最も効率的 であるといえる。
しかしベルモント・レポート12 は、 対象者に深く 考える時間を与えないことは、被験者が十分な情報 に基づいた選択を行う力に悪い影響を与えると指摘 している。また、塚本らも、その場での即時回収 は、学生が状況を吟味し、学生の自由意思の表出を 保障するためには、不適切であるとしている13。さ らに調査へ参加するか否かを決める権利は、学生に あり、参加への同意は調査に先立って行われ14、考 える時間を最低1日は与えるべきである8とされて いる。このことからも、その場での即時回収は、十 分に検討する時間としては不十分であり、学生の権 利が保障されていないというべきである。また、質 問紙の提出は研究参加への同意とみなされるが、そ の場での即時回収では見えない力がかかる14 ため、
意思に反して、提出を余儀なくされる可能性があ り、データ提出の強制につながりやすい。本調査で は、64名(30.3%)の教員がその場回収を行ってお り、研究の遂行と回収率向上に重点をおいていたこ とは、学生への倫理的配慮を行い研究を遂行するた めの認識が教員間に十分浸透していないことを示唆 するものと考えられる。
3
)回収方法回収方法は留め置き回収が多く、理由として匿名 性の確保を重視する傾向にある。しかし、その一方 で、倫理的な問題を含む可能性のあるその場での手 渡し回収も、46名(21.9%)みられた。手渡し回収 の理由として、確実であることや無記名であるため に問題がないといった意見がみられ、倫理的配慮を 重視した回答はみられなかった。研究者には、研究 参加者の匿名性と秘密を保護することが求められ
る15−16。また、研究者は収集したデータを特定でき
ないようにする必要がある (p12)17。匿名性の保護 は、対象者に参加・不参加に伴う心理的負担や不利 益を受けないようにするために必要であるが、その 場で手渡し、回収を行う場合、質問紙の提出時に参 加者が特定されることから、参加不参加についての 匿名性が保持されない。さらに、参加者が特定され る状況は、学生に心理的負担を与え、自由意思での
作成する意図や誰が作成するのかを含めた検討 が必要である。
謝辞
本研究にご協力いただきました各大学の教員の皆 様、本研究のご指導をいただきました東京医療保健大 学の伴信彦教授に深く感謝申し上げます。
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12 . 生物医学.行動研究における被験者保護のための
とは、これらの問題を解決する有効な解決策の一つ と考えられる。
その一方で、98名(30.5%)の教員がガイドライ ンは不要と考えていた。不要な理由として、患者も 学生も同じであり、学生を特別視することへの疑問 や、各大学の事情が異なる等の理由から、ガイドラ イン化への疑問がある。そして実際には難しいとい う意見があげられており、倫理的に不要ということ ではないが、あえて学生を対象にしたものを作成す ることには疑問を呈している。しかし、学生と教員 の関係は、患者を対象とする以上に直接的な力関係 による利害が生じる可能性が高いために、教員が学 生を対象とする場合には、より高い倫理基準が必要 である14。ガイドラインは、教員が学生を対象とし た研究を行う際の課題への大学組織としての取り組 みや、教員各自の行動規範の拠り所になると考えら れる。
Ϭ .今後の課題
本研究では、FD 研修の具体的な内容について は、調査を行っていない。そのため、どのような FD 研修が倫理的配慮に関係しているかは明らかに なっていない。また、回収率が36.3%であったこと は、研究に関する倫理に関心がある対象者のみの回 答である可能性があり、本研究の限界と考えられ る。
今後、各大学や教員がガイドラインの作成や FD 研修の在り方についての検討など、研究倫理の実践 に向けた幅広い議論と取り組みが必要であろう。
ϭ.結論
1 . 倫理的配慮への認識は、学生の自由意思の尊重
を重視する教員が多い。
2 . 学生への研究参加の説明を研究者自身が行うこ
とが、研究者としての責任をはたすことになる と考えている教員が多く、実践においては倫理 的配慮が十分に行えていない。
3 . FD 研修を受講している教員は、より倫理的配 慮を行なう傾向がある。
4 . FD 研修の受講は教員の倫理的行動へ影響する と考えられ、効果的な FD 研修の在り方を検討 する必要がある。
5 . ガイドライン化への期待がある一方で、学生に
特化したガイドラインを疑問視する意見もあ り、統一したガイドラインの作成については、
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