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トルコ語の指示詞 ‑ " Su ' ' 系列指示詞の楼能 を中心 に‑

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(1)

刷山大学大学院社 会文化科学研究科だ要郡29;;‑(20103)

トルコ語の指示詞 ‑ " Su ' ' 系列指示詞の楼能 を中心 に‑

Tu r k i s hDe mo n s t r a t i ve s‑ Fo c u s i ngo n" s u "Se r i e s ‑

BALPINAR.Metln 岡山大学社会文化科学研究科

要 旨

現代 トルコ語 には、bu.su、Oに代表 される3つの指示詞がある。近年、 これ らの用法 を 体系的に捉 えつつ.その横能 を明 らかに しようとす る試みが蔑つか見 られる。 しか し、そ の中で提案 されている説では suの用法 をうま く説明で きない ようなデー タが存在す る。

従って、本箱 ではデー タ分析 を従来例外 とされて きた用例の乾田 まで広 げSuの多耗性に 統一的 な説明 を与 えることを試み る。 また.uは時間的のみ ならず心理的に も近称 の指示 詞であると主張す る。

キーワー ド トルコ絹、指示詞、共通の空間.心理的建株、時間

1 は じめに

現代 トル コ語 には、 日本語の コ ・ソ・ア と同様 に、それぞれ近称 ・中称 ・遠称 と呼 ばれ る3系列 の 指示詞があ る(表lを参照)。 これ らの形 は指示詞語幹bu、Su、oか らの派生形 であ ると考 え られてお

り、指示形 容詞 と指示代 名詞 とい う2種類 に分 けて区別 され ている。

表1 トル コ語 の指示詞

bu系列 Su系列 o系列 これ/ それ/ あれ、この/ その/ あの bu Su 0

ここ/ そ こ/ あそ こ bur且/burasl Sura/Surasl ora/orasl こ う/ そ う/ああ bf)yⅠe $6yle 6yJe

(林2008217)

これ らの使 い分 けに関す る研 究 は数少 な く、その中で特 にsuの用 法が未 だ充分解 明 されてい る とは 言 えないl。 従 って、本箱 では suの株能 を明 らかに しつつ、その多様 な用 法 に統 一的 な説 明 を与 える

本名の執筆にあたり.和田道夫先生.宮崎和人先生、栗林裕先生に賞重なコメントをいただきました。また,ト ルコ語の例文に帆しては兄BALPINAR.ZaLer.友人のERALMuratとGUROLAbdurrahmanに判断をもらいま

した。ご協力いただいた方々に感謝の意を表 します。

suのみならずOの用法に関 しても検討する必要があるが、庶箱のページ数に上る制限などの理由で、それを今 後の課護にしたいと思う。

(2)

トルコ語の指示詞 ‑ーsu'系列指示詞の伎能を中心にI BALPrNAR.Metm

こ とを 目指す。 また、本箱 では、林(2008)の 「suは時 間的 に近称 の指 示詞であ る」 とい う意見 を さら に進 めて 「suは心理的 に近称 の指示詞 であ る」 とい うこ とを提 案す る。 なお、本箱 で は suに赦密 な 意味 で文脈指示 の用法 は存在 しない と考 える.何 故 な らば、指示対象 がその場 にない場合Suは言語 的 コ ンテキス トに よって導入 された先行詞 と言語 的関係 を持つ ことがで きないか らであ る2。

論 の進 め方 と しては, まず 第2節 で表 1に示 された トル コ語 の指示詞 が これ まで どの よ うに説 明 さ れて きたか とい うこ とをまとめ る。 第3節 では su に よって指示 され る もの は対話者 たちに特定可能 な ものであ り、かつ共有可能 な ものであ る とい うことを示 し、 第4節で は suの派生 的せ味 に触 れ るO 緩 く第5節 ではsuは心理的 に近称 の指示詞 である とい うことを主張 す るO殻後 に本箱 での議論 をま と め る。

2 トル コ語 の指示詞 における先行研 究

トル コ語 の指示詞の先行研 究 は大別す る と.その使 い分 けに関 してあ ま り詳細 な記述 が な されてい ない文法杏 の研究 と、bu.su.Oの用法 に挿密 な分析 を行 った研 究 に分類 す るこ とが で きる。

21文法書の中で説明 されて きた トル コ語 の指示詞

これ までの解釈 で は、bu,Su.Oの用法 は

(

A)buは話 し手 に近 い もの (近称 )を、Suは話 し手か ら少 し 速 い もの (中称 )を、Oは話 し手か ら速 い もの (通称 )を指示 す るの に用 い る とい う説 明が投 も広 く見 ら れ る(LewIS1967、飯沼 1995、Ergln2002、BanguoBlu2004、Kornfilt1997)O また、(B)話 し手 の近 くにあ る もの をbu、聞 き手の近 くにあ る もの を su、他者 の近 くにあ る もの を Oで指示す る とい う説 もあ る(KISSllng1960)0

さ らに、(A)の説 明 を基準 に している ものの suとOを区別す る上で 「対象 が見 えるか どうか」 とい う基準 を用 い る解釈 も存在す る(Jansky1943、Peters1947)。 その場合、SUは話 し手 か ら見 えるもの、

Oは話 し手 か ら見 えない ものを指示す るの に用 いる とい う。 また、Underh111(1976)はジェスチ ャー と い う規準 に基づ いて、Suで指示 される ものは ジェスチ ャー を伴 う場合 であ り、bu又はOで指示 され る

本積では、Suの横能に関する閉漣を考える時に、 トルコ譜の指示詞体系全体の中にsuをどう位置づけれはいい かという問題も含めて考える必要があると思っている。それは、 トルコ語における指示詞体系はその全体像が未 だ充分明らかにされていないからである。従って.以下の (l)のような場合にsuを用いることができないという ことを報告 しておきたい (このような場合buも任用不可能である)o

(l) Nerede olursem.ben llburaya/'suraya/orayalgomun(Ogut20D4205)(1,内の表示は聾者による) どこで 死ねば 私 そこに 埋めろ (焚方たち)

私がどこかで死んだら、そこに私を埋めてもらいたい どこ(Ⅹ)(Xで死ねば、私をXに埋めろ)

(1)でOによって標示されている対象(x=場所)は特定の対象をあらわしておらず、数多 くの対象の中で特定で きない一つの対象に相当する値をとるoこの言語現象はいわゆる束縛変項と呼ばれるものであり、buとsuには見 られない用法であるOこのbu.su対Oの間に見られるコントラス トは、bu.suには赦密な意味での文脈指示用法 が存在 しないと考えることによって説明できると考えている。

(3)

岡山大学 大学 院社会文 化科学研 究科紀要第29lbi(20103)

ものはジェスチャーを伴わない場合であると述べてお り、かつ buは話 し手に近いもの、Oは話 し手 か ら遠い ものを指示するのに用いるとしている。

しか し,上のいずれの解釈で も説明で きないデー タが存在す る(反論 ・反例に関 しては林1984.1989、 2008を参照のこと)。以下の研究は、その ようなデー タに適切 な説明を与 えようとするものである。

22トル コ語の指示詞 を対象 とした研究

以下では、bu.su,Oの用法を対象 に した研究 (林1984、林1989、Ozyurek1998、KuntayandOzyurek 2006、西岡2006、林2008)をまとめてお く。

2.2.1林 (1984、1989)

林(1984、1989)は,話 し手 に近い(空間的 .時間的 ・心理的)ものをbu、話 し手か ら焦れているもの3

をOで指示す るとい うことでbuとOの区別に関 してあ ま り問題はない と し、一方 suについてはbuと suの両方、あるいは Oとsuの両方 を用いることので きる場面が多いため.問題 も多いとしている。 そ

して、林 (1989)に次の ようなものが挙げ られている。

(1) (A、B2人の会話)

A SLZln Okumak lSted嶋InlZ kltabl getlrdlm

あなたの 読 み たがっていた 本 を 持 って きま した(私は) B Bun‑u/On‑u nezamana kadar oduncalabllJrlrn?

これを′それを いつ まで 借 りられ ますか(私は)(林198998)

(2)a̲(話 し手が聞 き手の後方 を示 しなが ら)

Aa 旦竺‑a bak Hasan gellyOr おや それ を 見ろ. ハサ ンが 来るよ b(話 し手が聞 き手の顔 を示 しなが ら)

塾 suratlnln halLne bak

この お前の顔の 有様 を 見ろ (林198999)

(3)a・Hasan'a 量些 ‑u SOyleyece豆・m, ‑Annenlmeraklandlrma ハサ ンに これを 言 うつ もりです (私は) 「君の母親 を心配 させるな」

3 林(1989)に上るとOで指示されるものは.「聞き手に属するものを含めて話し手から焦れているもの(p98)」で あるO

(4)

トルコ.言語の指示詞‑ 、u一系列指示詞の株価を・lj心に‑ BALPINAR.Metln

b Bugun ders yokmus ama, bun‑u hlC bllmlyOrdum

今 日 授業は ないそ うです が これ を 全 く 知 りませ んで した(私 は) (林1989 100)

(1)(2)のような現象 をもとに林 (1984、1989)はbuで指示 されている対象について聞 き手が既 に気付 いているとし、またsuで指示 されている対象について聞 き手が未だ気付 いていない としている。 さら に、 このことか ら林 (198457)は次の ような一般化 を行 うO

(4)垣 話 し手に近 く(空間的.時間臥 または心理的に).既 にデ ィス コースJに導入 されている.

と話 し手が見倣 している対象 を指示。

9 話 し手か ら粧れてお り.既 にディスコースに導入 されていると話 し手が見倣 している対象 を指示。

塾 未だデ ィス コースに導入 されていないと話 し手が見倣 している対象 を指示。

そ して、上記の ような使用条件に よって(3)の ような用例 もうま く説明で きる というDまた、林 (1989) は以上の一般化 と共にsuの用法に関する もう一つの点 を示唆 している。

suによって指示 される対象 は、聞 き手が容易 に発見で きるように、話 し手や聞 き手の近 くに ある日に見える ものであることが思われ ますosuが多 くの場合対象 を指 し示す身ぶ りを伴 うの も、やは り聞 き手の認識 を助 けるためなので しょう。buやOを含む名詞句に較ベ suを含む名詞 句が修飾語 をよ り自由に取れるの も、聞 き手の認識 を助 けることと無関係ではない と思います。

(林1989 100)

そ して、Suの使用条件 としては(4)の一般化 に次の条件 も付加 されているO

(5)指示対象は,Suを含む発話 と同時に、聞 き手 によって同定5されなければな らないO(林1989100)

2220zyurek(1998)、KuntayandOzyurek(2006)

Ozyurek(1998)は、自然な状態での会話記録 と面接調査 に基づ くデー タの分析 を行い、Suの使用 に 関 しては聞 き手の視覚的注 目(vISua】attentlOn)が対象 にない場合 に用い られ るのに対 し、bu及 び O は聞 き手の視覚的注 目が対象 にある場合 に用い られるとしている。 また、bu(近称)及 びo(速称)は話

ディスコースとは対話者たちがお互いに共有していると思い込んでいる場面及び文脈に関する知識である (林 198457)0

林微先生の個人的な談話によると 「同定」というのは、suを含む発話と同時に、会話に関するそれまでの知言態 とか文脈とかの助けを借りることなく、聞き手は指示対象が何であるかを認知できることである0

(5)

岡山大学大学 院社会文化科苧研究科紀要荊29(20103)

し辛か ら指示対象 までの距掛 こ基づ くものであるものの、Suは指示対象 までの距掛 こ関係 な く用い ら れる(TheTurklshdemonstratlVeSLLdoesnotencodeaspa【JalsemantlCdistlnCtion.p613)と主張 し ている(第5節 を参照)。

KuntayandOzyurek(2006)は、Ozyurek(1998)による結果が トルコ語母語話者の幼児(4‑6歳)と成 人(大学生)との間で どう違 うのか、 とい うことを実証的に考察 している。 レゴの作品の写共 を見本 に、

それを レゴで実際に再現するタスクにおいて、bu及 び Oの使用 は成 人 と幼児の場合話 し手か らの距鮭 に関係 していること、一方 suの使用 は成人の%L合 聞 き手 の視党的注 目の有無 に関係 しているのに対 し、幼児の場合視党的注 目の有無に関係 な くbuと同 じく話 し手 に近 い対象 を指示するのに用いること が示 されている。 また、成 人の場合、Oの使用 も聞 き手の視覚的注 目の有無 に関係 している と指摘 さ れている。Suの使用 に比べ.Oの使用が聞 き手の視覚的注 目が対象 にある場合によ り多 く用い られる とい う。

223西岡(2006)

西岡(2006)は、 ウズベ ク語 ・カザ フ語 ・新 ウイグル語 ・トル コ語 ・アゼルバイジャン語の指示詞の 機能 と体系 を記述することを目標 とする研究である。そこで西 岡(2006)は、指示用法 を 「発話現場 に おいて指示対象が知光可能か否か」 とい う規準で まず現場指示用法及 び非現場指示用法6に二分割す る。 また、「談話内で当該の指示詞 よ り前に,同一の指示対象 を表す言語表現が必要か否か」 とい う規 準 を用い、非現場指示用法をさらに独立指示用法及 び非独立指示用法に分けて、指示詞の機能 を探 るo

トル コ語の指示詞に関 して西岡(2006)は、現場指示用法のbu・Oはそれぞれ近称 ・速称 であ り、か つ導入済み要素の指示であると しsuは要素 を談話‑新規 に導入するために用 い られると している7。 また、非虫立指示用法のbu・Oはそれぞれ 「対話相手の発話全体 を指示

A

r

対話相手の発話内の構成 素 を指示」であ り、かつ導入済み要素の指示であるとされ、Suは現場指示用法のsuと同 じく要素 を談 話‑新規に導入するために用い られるとされている。

224林(2008)

林(2008)は、Suの使用法に関 して、これまで試み られて きた さまざまな説明を統一的に捉 えるため に、a)suによる指示が極めて短期間の うちに達成 されるとい うことと、b)suによって導入 された対 象は再 びsuによって指示 されることがないとい うことに焦点 を当てるOそ して、後者の状況 について

西岡(20056)は.

r

発旨現場において指示対象が見える,聞こえる.触れることができる,など知覚可能な場 合の用法」を現場指示用法とし,「発話現場において指示対象が見えない,即こえない 触れられない.など知覚 不可能な場合の用法」を非現場指示用法としている。

金氷他 (2002:241)はsuの秩能に関して r対象を談話に新規導入する襟経であることは明らかである

J

と述べ ている。

(6)

トルコ語の指示詞‑ 1iu'系列指示詞の横能を【トいニー BALPINAR Me tln

次の例 を挙げている。

(6)su guzeL su da guzel. ama su en guzel これ よい これ も よい しか し これ 虫 も よい

「これはいいね、 これ もいいね、で もこれがいちばんいいね。」 (林2008227)

林によると, この例 は話 し手 と聞 き手が 目の前のテーブルに思 いである10個程のイヤ リングの中か ら3つの異 なるイヤ リングを次々 と指示 しつつ、隣にいる聞 き手 に話 しかけるとい う状況であ るとい う。 このように

「1回の発話に複数のsuが現れる場合,指示対象 は全 て異 なっていなければな らない」

と林(2008 226)は指摘 している。つ ま り、Suが発話 された後は、同 じ指示対象 をsuで指示で きない ということである。

以上の現象 と、Suの指示対象 は発話 される直前 まで聞 き手 によって特定 されていない とい うことか ら、林はsuとその指示対象 との結 びつ きに関 して 「発話時のみ、あるいは発話時を中心 としたご く短 い時間内に しか成立 していない とい うことになる(p2

2 7

)」 としている。

以上のことか ら、林(2008)はsuが時間的近接性 を表す指示詞である とい う結論 を導 き出 し、「buが 空間的に近称の指示詞であるならば、Suは時間的に近称の指示詞 とい うことになる(p2

2

8)」 と指摘 し ている。 また、同 じところで、!uの機能は

r

suによって話 し手は 「今の私 に注 EIして指示対象 を特定 せ よ」 と聞 き手に要求 しているのではないか) と主張 している。

以上、22では トル コ語の指示詞を対象 とした研究 をまとめた。その中で、柿(1984、1989)、Ozyurek (1998)、KuntayandOzyurek(2006).西 岡(2006)、林 (2008)の中心的な問題 としては、本論文第 4 節で指摘する一見例外 の ように見 える用例 をどう説明すればいいか という点が挙げ られるだろう。 ま たSuにおける多様 な用法 をどのような形で統一的に捉 えることがで きるか とい う問題 も残 る。従 っ て、次節 と第4節ではこれ らの問題点に関 して検討す ることにする。

3 sUで指示 されるものの特徴

林(1989 100)は suで指示 される対象 について 「聞 き手が容易 に発見で きるように、話 し手や聞 き 手の近 くにある日に見 える ものであることが多いのだろ うと思 われ ます」 と述べている。 この指摘 は、

以下の(7)(8)においで も容易 に確認で きる。

(7) (話 し手は 自分の鼻 を指 し、聞 き手 に対 して)

Bak‑In l'bu/su/■oL benlm burnu‑m‑da blr 号ey Var ml? 見ろ‑2人称複数 この 私の 鼻 ‑1人称単数 一位格 ‑ もの ある 疑問形 見て、私のこの鼻 に何 か付いてい ますか?(Ogut2004・100)

(7)

附山大学大学一院社 会文化科学研究科紀第291‡(20103)

(8) (診断室で医者は患者のす ぐ院にある診断用のベ ッ ドを指 して)

rbu/su/'oトnun uzer‑L‑ne uZan, hemen ba!la‑ya‑Jlm

それ‑属格 上 ‑3人称単数 一与格 横になる す ぐ 始める一意志形 ‑1人称複数 1Ste‑r‑Se‑∩

望む・アオ リス ト 仮定形 ‑2人称単数

そこのベ ッ ドに横 になって、 もしよかった らす ぐ始め ま しょう。(Eldem 2004379)

(7)では話 し手の鼻、(8)では聞 き手の隣にある診断用のベ ッ ドが suで指示 される。 この場合.指示 対象は聞き手が容易に発見で きるように,話 し手や聞 き手の近 くにある EIに見 えるものである。 また、

(7)(8)の指示対象 は、話 し手の suを含む発箸の瞬間に聞 き手 によって特定 古れる. これ らの現象か ら.

発話現場 において聞 き手 に も特 定可能なものであ ると話 し手が認めた対象 をsuで指示 するとい うこ とが分かる。

では、特定不可能な指示対象が発話現場 に存在 している場合 suが使用で きるのだろうか

。( 9 )

を見 ていただきたい。

(9) (テーブルの上 に,手 を伸 ばせば、手 に持つ ことがで きる距離に箱があるとする。 この場面 にお いて、いきな り箱の中で何かが動 き出 し始める時、その中にある日に見えない ものを指示 して) Aman tannm7 1?bu/'su/oldanel

おお (私の)神 これ って 何 おお神 よl一体 これ って何 なんだI

この例に関 しては、先ずbuも自然であるとす る話者が存在することは報告 してお く必要がある(こ の場合、buは箱その ものを指 しているとする話者 もいる)。 と言 っても、 (9)では Oは間道 な く用い られるのに対 して、Suが用い られないの も事実である。遠称 の Oが選択 されるのは、話 し手が布 き・

恐怖のあまりか.その ものをで きるだけ自分か ら遠 ざけ ようとす る意識が働いているか らであると思 われるB。次に、

( 1 0 )

の場合 を考 えてみ よう。

(10) (部屋の中の人が ノ ックの音に対 して) Klm 1.bu/'su/

o l ?

8 この場合. トルコ給ではOを用い、El本指ではコレを用いる。このことから.指示が トルコほでは心理的な矩 姓に基づいて成立するのに対し,日本語では空間的な距鮭に基づくということが導き出される。

(8)

トル コ.行のn7示茅1一suq系列 指示 詞 の横 能をIL'.い二一 BALPINARMetln

誰 あれ

(直訳)あれは、誰 ? (金水他2002242、fn7)(日内の表示 は筆者 による)

(10)では, ドアが ノ ノクきれたため、向 こうに誰か又 は何 かがいるとい うことを前校 に、話 し手は その対象 をOで指示 している。 しか し、その存在は話 し手 にとって特 定不可能 な ものであるため、Su で指 し示す ことがで きない。従 って、特定不可能な指示対象が発話現場 に存在する場合、Oが用 い ら れるのに対 してbu又はsuが用い られないことが、 (9)及 び(10)における用例か ら容易 に競 われる。

さて、対話者 たちに特定可能な対象が発話現場 に存在 しない場合 を考 えてみ よう。

(l

l

)塾 blZim Ahmet cok callSkan

この 我 らが アフメ ットは 大変 勤勉です (林1989101)

ある社会共同体 ・団体 .集団に屈する ものに関す る共有の知識が指示 を決定付 ける要因 となる場合 がある。例えば、(ll)のAhmetとい う人物 は話 し手Aと話 し手 Bにとって特 定の場所 にいる特定 のAhmetを示す。 よ り具体的に言 えば、話 し手A‑Bが大学院生であ り、同 じ研究科 にAhmetとい う長い付 き合いの友人がいたとする。 もちろん、話 し手A‑Bにそれぞれ別のAhmetとい う友達がい るo Lか し、(ll)の文脈が話 し手 A によって発せ られた時点で、話 し手 B は夜遅 くまで研究 に没頭 している姿 を見せ る(話 し手Aも毎晩 目撃 しているはずの)AhmetLか思い出せ ない.もちろん.Ah‑

metは発話の場面に存在 しないため、話 し手Aは話 し手Bが指示対象 を特定す るのを助 けようとす る.そのために、blZlrrl/cokcallSkanとい う表現 を用 いてさらにAhmetとい う対象 を限定 しようと する。そ うすることによって、話 し手Bは話 し手Aと共 に何 で も分 ち合 って きた、勤勉なAhmetL か思い出せ ないのであろう。 このようなケ‑スにおいては、指示対象 を限定す る表現が用い られない 場合、その対象 はその場面に存在 していないため、話 し手Bが対象 を特定するのに困難が生 じるので あろう。

従 って、発話現場 に存在 しない(観念の場面 に存在 す る)特 定可能 な対象 が指示 の対象 となる場合 (ll)、 トルコ語では限定表現の付加が必要 となる(収集 されたデー タの中で、指示代名詞の suのみで 対象 を指示するケースには見当た らなか った)。一方、発話現場 に存在す る特定可能な対象が指示 され る場合(7‑8)、言語外の状況 (ジェスチ ャー、視線 など)が聞 き手の対象特定の助け となることが多い。

上記の状況か ら分かるように、 (7‑8)及び(ll)の共通点は、指示対象 はsuとい う発話瞬時に聞 き手に よって特定 されるとい うことと、Suを含む文脈が話 し手 によって発せ られる以前か ら発話現場の特走 可能な事物又は観念の場面に存在する特定可能な事物が対話者 たちによって共有 されているとい うこ

(9)

関山大学大学院社会文化科学研究科だ安郡29i,i(20103)

とである9LO。従 ってsuの使用条件 を次の ように一般化 す る こ とがで きる。

伯 その場面 (現 場及 び観念 の場面)において聞 き手 に も特 定可能 であ り、 かつ共 有可能であ ると話 し手が認 めた対象 に末 だ聞 き手が気付 いてい ない と、話 し手 が見放 してい る場合 に suを用 いる ".

4 sUの派生的意 味

前節 では(7‑8)及 び (ll)の ような状 況か ら、Suの用法 に関 して(12)にお ける一般化 を行 ったO本節 では、 これ までの解釈 研 究 の中で見て きた suを(例外 とされ て きた用例 も含め て)

( 1 2 )

の条件 で首 尾 よ く説明で きる とい うこ とを示す。 まず、前節 の(7‑8)の よ うな場 合 を考 えてみ よう。

u3) (話 し手Aは部屋 の中で立 ち話 を している ときに、窓か ら外 にある建築物 を指差 して話 し手Bに) A.G6r‑uyor mu‑sun l'bu/!

u

/●oトnlar‑1?

見 る‑現在形 疑 問 ・2人称単数 あれ ー複数形 一対格 あれが見 えるかい ?

B HepsL‑nL ben yap‑tL‑m I'bu/.su/0,‑nlar‑ln 全 て一対格 僕 作 る一過去形 ‑1人称 単数 あれ ー複 数形 一属格 あれの全 ては僕 が作 ったんだ。(Turkal1200463)

(13)では、指示 した ら聞 き手 に もす ぐ発見で きる と話 し手 が見倣 してい る もの (窓か ら外 にあ る建築 敬)が指示 の対象 となる。つ ま り、指示対象 は聞 き手 に も特 定可能であ り、 かつ共有可 能な ものであ る とい うこ とであ る。 この ような ものに聞 き手Bが まだ気付 いていない と話 し手が判 断 し、それ をsu

で指 し示す。 そ して.指示対象 の談話へ の導入が済んだ ところで,今度 話 し手Bは同一 の対象 をOで

柿 (2008 226)は suが発話される直前までは.聞き手は指示対象に矢づいていないが、Suが発括されると同 時に聞き手によって指示対象は同定され.指示対象に関する知叛が著 し手と朋き手により共有される」 としてい る (同株な獅 削土林 (1984.1989)にも観察される)。怖単に言えば、指示対象は等Uにより指示 された直後、対 話者たちにとって共有のものになるということであるC一方、本稿では、(場所的・心理的な)スペースの中で事 前に存在するものが村落者たちに共有されるものであると考える。要するに、ある場面が設定され,そこに話 し 手と聞き手が居る場合,「指示 したら聞き手にも正 ぐ発見できる」と番 し辛が認めたものが (発酷現坊の耶物か或 いは対話者たちの内面的世界の場面にある事物)対話者たちに共有可能なものである (かつ特定可能なものでも ある)ということであるC発語者はこのような共有可能 ・特定可能なものを材料に.訣告を変化させていくこと ができると考える。

本稿で言う 「特定」は、林 (1984、1989)が首う 「同定」と根本的に追う枚念である 「特定」は場面や文脈に 関する知7&を前捻とするのに対し、「同定」は妨面や文脈に関する知様を前提 としないt.のである (r同定」に関

してはfn (5)を参照のこと)。

附き手が指示対象に気付いている場合でも、聞き手がその対象の存在に実際に気が付いているかどうかという ことを十分に確姐するために.話 し手は!uを用いるということが別の可能性 として考えられる。

(10)

トルコ語の指示御 ‑ ‑su‑系列指示詞の操舵を中心に B斗LPINARMetln

指 している。

一方.指示対象 (首)が話 し手 A及び話 し手 Bの意識にすでに上っているのに対 してsuが用いられ ているとい う点で、次の(14)は(12)の条件 に違反 しているようにみえる。

(14) (話 し手Bは話 し手 A に無理や りマ ッサージをしている場面で) A B汀且k boynum‑u

放せ (私の)首 一対格

俺の首はそのままに してお きなさい。

B TylCe blr yO亘ur‑a‑ylm

よ く 一 枚 む一恵志形‑1人称単数 よく棟 んであげよう。

A Laf anla‑ma‡ m1Sln. blrak rbu/su/●O, boynum‑u 話 分かる‑否定形 疑問形‑2人称単数 放せ その (私の)首一対格 分か らないのか、そこはその ままに してお きな さいO(0豆ut2004.117)

しか し、話 し手Aは自分の首をそのままに しておかない話 し手Bに腹 を立て、命令文を含む発話の 中で強 く発音 しつつ対象 (育)をsuで指示 しているo この ような場合、話 し手Aはまるで聞 き手が指示 対象 に気付いていないかのように捉 えることによって、話 し手Bに対 してその対象 に関する強調 (注 目 を指示対象 に集中せ よ)といった意味的 なニュア ンスを与 えることがで きると考えられる。パ ルプナル (2006)で指摘 しているように、 このようなsuは命令文 .感嘆文の中で現れることが多いoそれは、林 (2008)による以下の例 において も確認で きる。

(15) (話 し手が 自分の肩に虫が逼 っているのに気付 き、聞 き手 にす ぐ払 って くれるよう頼む) at sun‑u(?bun‑u/?on‑u)

すてる これ ‑杏

「と りはらって、 これ 1」 (林2008228)

トルコ語の文脈 には感嘆符が付 いていないが、(15)の 「at(とりは らえ)」 は命令 とい うよ り聞 き手 の感嘆 ・感動 を呼 び起 こす表現 として使用 されていることが窺 われる(和訳 に感嘆符があることに注 意)。 この例 に関 して林(2008)は、指示対象 (良)に関する聞 き手の認識状態 (聞 き手が対象 に気付 いて いるか どうか)には触 れていないが、指示対象 に聞 き手が気付いていない と話 し手が見倣 している場 合、

( 1 2 )

の条件 によ りsuが問題 な く用い られるとい うことが分かる。 また、聞 き手が指示対象 に気付 いていると話 し手が見倣 している場合で も、前例の(14)と同 じく、虫にまるで聞 き手が未だ気付 いて

(11)

阿山大学大学 院社 会文化科学研究科記 要約2g;;・(20103)

いないかの ように捉 えることによって,その対象 に関する強調 といった意味的なニュア ンスを聞 き手 に与えることがで きると考 える 120

以上のことか ら、(14)(15)の ような用例 は、(13)(又は78)の ような使用か ら導 き出された(12)の原 則の拡張であると言 うことがで きる 13

次に.前節の(ll)の場合 を考えることにする。

(16) (話 し手は聞 き手 とヤーク yプとい う男について話 し合 った直後、隣にいる部下に次のように命 令を下す)

Glt rbu/su/'orEfraLmlさ bJr SOruStur bu Yakup denen adam‑

1

行 く あの エ フライムー与格 ‑ たずねる この ヤー タ ップ とい う 男 一対格 あのエ フライムの ところ‑行 って.このヤータ ップとい う男 のことをち ょっと訊いてみろ。

(ELdem200465)

話 し手 もその部下 も、 (16)の場面が設定 された時点 よ り前 に.エ フライムとい う人物 に関する知識 を共有 している。言い換 えれば、第3節 において既述 した発話現場の竣合 と同様 に、内面的世界 の対 象 (ェ フライム)も対話者 たちに共有可能なものであ り、かつ特定可能な ものであるとい うことである。

このような場合、話 し手は部下が未だ気付いていない と見倣 した対象 をsuで示す。

(17) (マ ンションの居住者がマ ンシ ョンの色 々な問題 に関 して相談 している場面である。

話がある種皮 まで進んだ段階で、管理人は)

Demek rbu/su/'ol nokta‑tar uzerLnde anla8‑mlS では 次の 点一複数形 に関 して 同意す る一過去杉 bulun‑uyor‑uz Duvar・lar ve cat1 0nar‑Ll‑acak

補助動詞一現在形 ‑3人称複数 章 一複数形 と 屋根 修理す る一受身形 一未来形 それでは、次のことに関 してはみんな意見が一致 していますね。 と りあえず、壁 と 屋根の修理が必要だということですね。(Turkal1200431)

蘇 (2008)によれば、この例では一応いずれの指示詞も使えるという。詳細な検討が行われていないが.Oを用 いると、例 (9)の妨合と同じく、あまりの驚き・恐怖に話し手がおぴえてしまい,そのものをできるだけ早く自 分から遠ざけようとする気持ちが拘くのではないかと思われる。また、buを使うと、話し手は自分に近い虫の排 除を冷静な感じで聞き手に伝えることになるだろう。

パルプナル(2CO6 33135)で筆者自身が、(14)のような用ml土(13)のような用例からの派生として説明でき るということに触れている。本箱もパルプナlレと同じ立坊である。 しかし,本箱で使用されているsuの使用条件 (12)はパルプナル(2006)で設定されたものと異なるo

(12)

トルコ言行の指示iiJ‑ 、u‑系列指示詞の性能を中心に‑ BILPINIR.Metln

(17)では コロ ンの直後 に続 く文脈 その ものが suの指示対象 とな る。 この場合、マ ンシ ョンが抱 えて いる幾つかの間接が話 し合 われ るが、それ らは特 に特 定 され るこ とな く、漠然 と した知粗の対象 と し て対話者たちの記憶 に残 る。 とす る と

、( 1 7 )

において もsuとい う発話 の前 に、指示対象 に関す る情報 が前例 の(16)と同 じく対話者 たちに共 有可 能 な ものであ り、かつ特 定可能 な ものである と考 え得 るOこ の よ うな場合 において も、聞 き手 は指示対象 の存在 に まだ気 が付 いてい ない と話 し手が判 断 しSuで 指示 す るのであ る。

以下 の

( 1 8 )

は.(17)と同 じく、コロ ンの後 に来 る文脈 が suで指示 され る。 しか し

、( 1 8 )

は、指示対 象 に関す る情報 が suとい う発話 の直後始めて聞 き手 に提供 され る とい う点で (17)の状況 とは異 なる 14。

つ ま り、Suの直後に現 れ る文脈 が聞 き手 に とって特 定不可能 ・共有不可 能 な対象 とい うことであ るO

(18) (Aさんの父親 の住所 に他人か らAさん宛 て に不 審 な小包 が届 くが、その任所 は Aさんが勤 め ている会社 にあ る個 人 フ ァイルに しか記録 されてい ない。 さ らに、Aさんはその住所 には もう 住 んでいない。 この話 を友人 のBさんに した後、Aさんは 自分の個人情報が外部 に もれてい る か も しれない と不審 に思 いは じめ、聞 き手 に)

Bura・da rahatsIZed‑1Cl nOkta l●bu/su/̀oi: 0 kayLt‑Jar g】zll‑dlr. ここ・位格 気 に掛 か る・連体形 点 これ その 記録 一複 数形 秘密 一確 定 dlSarトdan klmSe bak・a‑maz

外部 ‑奪格 誰 も 見 る一意志形 ‑アオ リス ト(否定形)

そ こで気 に掛 か る ところは これだ その記録 は秘密扱 い されている。外 部か ら誰 も見 るこ と がで きない。 (Eldem 2004210)

しか し、(18)の ような場合 .話 し手 は suを用い るこ とに よって指示対象 をまるで聞 き手 に特 定可舵 な ものであ り、 かつ共有可能 な ものであ るか の ように捉 える ことがで きる'So そ うす るこ とに よって、

話 し手 は聞 き手 との間で指示対 象 に対 す る心理 的 な一体感Ⅰ6を作 り出す こ とがで き、聞 き手 を談話 に 引 き込 むことがで きるのである。

以上、(

1 3

)

( 1 6 )

の ような状 況 と(17)(18)を比較 すれば容易 に分か るよ うに、前者 の場合、指示対象 は suとい う発話 と同時 に聞 き手 に よ り特 定で きなけれ ば、対話者 たちの コ ミュニケー シ ョンに困杜が 生 じる可能性 があるのに対 し、後者 の場合 、指示対象 はsuの直後 に聞 き手 に よ り直 ぐ特 定で きるため

J4 (18)では;Uで指示 される対象が聞き手によって事前に推測できないわけではないo Lか し、本稿ではELdem (2004)に著述されている文脈に関する情報をもとに議論を進めていくことにする。

‑5 この場合、!uを用いることによって話 し手は、それが意味 している言削 り行為i・引き起こすことができると考 える。

16 話 し手 聞き手 指示対象の 「心理的な一体感」という概念については第5節を参照にしていただきたい0

(13)

岡山大学 大学院社会文化科学研究科紀

2

9号 (20103)

そのような問題はない。(17)(18)と同 じようなことが次の(19)についても考えられる。

09) (聞き手に履歴啓の沓 き方 を教える場面で)

MeseJa. sutarLhte 塾! Sehlrde do豆dum. 堅 tarlhte 姓 IlkokuLa 例えば いついつに 何 々 市で 生まれた(私) いついつに 何 々 小学校 に glrlp, 辿 tarJhte bitlrdlm, gibl yaZILJr

入学 し. いついつに 卒業 した. のように 番かれ ます(tarih 日付)(林 1989・101)

(19)では指示は行われているものの、指示 される対象は一見存在 していないかのように見える。 し か し、このような場合において も、話 し手(又は聞き手)は記憶の特定可能な対象の中から特定の一つ を選び出 し、それを suで指 し示す。要するに、指示の対象 となっているものは.話 し手 自身の生年 月EI・出身地 ・/ト学校入学 日などの情報、知人又は友達の個人情報、或いは共有可能であると対話者 たちがお互いに思い込んでいるいかなる情報 (生年月日 ・出身地 ./ト学校入学 Elなど)ということであ る。話 し手はこのような対象 を suで指示することによって、前例(18)と同様に、聞き手 との間で指 示対象に対する心理的な一体感を作 り出すことができると考える。

以上のことから、(17)(18)(19)に関 しては(16)のような用法か らの拡張であ り、従ってこれ らの場 合で も(12)の原則の拡張であるということが導 きLtIされるo

S 共通の空間 ・心理的な近接性 と sUの用法

前節では

、( 1 2 )

の条件 を用いることによって、SUにおける多様 な用法に耗‑的な説明を与えること が可能であるということを観察 してきた。そこでは、Suで指示 されるものは、話 し手にも聞 き手にも 特定可能なものであ り、かつ共有可能なものであると述べた。本節では.前例(18‑19)の解説に用いた

「心理的な一体感」とはどうい うことを表 しているか、「共通の空間」という概念 との関連で具体的に 見てみることにする。 またSuは時間的に近称の指示詞であるという林(2008)の提案を一歩前進 させ、

suは心理的にも近称の指示詞であるということを主張する。

これまでの研究では、同一の話者は suで指示 した自分に近い同一の対象をbuとも指示で きるとい い(20)、また suで指 し示 した自分か ら遠い同一の対象を Oとも指示で きる(21)という主張が見 られ る(Ozyurek1998.Kuntayandbzyurek2(X旭)0

約 10 Studentl HanglS120puan dahafazlaaldl? WhlCh 20polntSmore took?

WhlChonetook20morepolntS?

(どちらの方が20ポイント以上を取 りましたか)

(14)

トルコ語の指示詞I I!u"系列指示詞の横他を中心に‑ BALPZNARMetm

ll Teacher su17

thlS/that (これ/それ)

12 Stud2 polntJngatanotherobjectLnSilence (黙 って別の ものを示 して)

13(Teacher) o mualdl? thatQ got? Thatonegotlt?

(あれが取 りましたか) lA (Teacher) ha ben bu dedlm ama

ohhIthlS Sald but ohhlbutIBaldtblSOne

(私 はこれだ と言いましたけど)(Ozyurek1998610・611)(括弧内は筆者 による)

(20)では学生は先生 に どち らの絵画が20ポイ ン ト以上 を取 ったかを訊 く(10)。そ して.先生は回 り にある二つの絵画 (一つ は先生か ら近 く、 もう一つは先生 か ら速い)の うち近いの を選び、suで指す (ll)。一方、他の学生が黙 って遠 くにある別の絵画 を指 し示す

( 1 2 )

際 に、先生は 自分か ら遠いその絵 画 をOで指 し示す (13)O次に、先生 は点初 に示 した絵画 に戻 るが、今度 は同 じ事物 をsuで な くbuで あ らわす というo この現象 か ら、Ozyurekは相対的距鞍が変わ らないのに対 して、同 じ人物が同 じ事 物 をsuともbuとも指示で きる としているO

糾 2l Student mesela hocam su oval mesela

forexample slr tわts/thatovalforexample s】rforexample.thlS/thatovalforexample

(例 えば先生、あの楕 円形の ものですが)

22]S sunun dlS yuZeylne koyup ta thlS/that・GENout surface‑POSS‑DAT put lfyouputonthlS/that■soutsldesurface (あれの表面 に置いておけば)

17ozyurek(1998)は「iu」を「su」であらわしているO本箱では、この二つの形式に関する混乱を避けるために (20)(21)の用剛 こ限って「su」を「su」としてあらわすことにするO

" 22のsuに関してOzyurek(1998)は、何を指しているか又は誰 (話 し手 聞き手 第三者)によって発されて いるかということに触れていないC

(15)

1机 ll大学大学に社 会文化科学研 究科kl変節29(20103)

23(Student)ondan da o】abilir that‑ABL also be Jtmigh tbefrom thattoo

(あんなもの もよさそ うです)(Ozyurek1998611‑612)(括弧内は雑音による)

(21)では、先生は陶器が退いてある同 じテープJレに学生達 と一緒 に座 り、その陶器 について話 し合 っ ている場面である。 しか しなが ら、テーブルか ら離れている、部屋の中にある他の陶器が時 々話題 に なることもある。その時.一人の学生がテーブルか ら一番速い ところにある陶器 をsuで指 し(21)、23 においてそれをOで指 し示す とい う。そ して、 この例か らOzyurekが導 き出 したのは、suがOの代 わ

りに用い られるということである。

以上の言語現象 をもとに、Ozyurek(1998)はbu及びOと、SUとの間の相違が聞 き手の視覚的注 目 (vlsualattentlOn)の有無 に関係 していると し,話 し手か ら指示対象 までの(具体的な)距鮭に関係 な く suが用い られると主張する(2̲22節を参照)。

上記の主張が正 しい とすれば、下の(22b)19において suを使 って もいい とい うことになるが、 この 例ではoLか用いることがで きないD この場合. どうして同‑の対象を suで指示することがで きな いなのだろうか。

銅 a̲(聞 き手が話 し手のす ぐ隣にいる場面で、話 し手が聞 き手の腰 にあるバ ッグに触 って) Hasan. 1bu/su/̀o暮 Canta‑da ne var?

ハサ ン、 この バ ッグ・位格 何 ある ハサ ン、 (あなたの)このバ ッグの中に何があるの ?

b(話 し手が大声 を出 さない限 り聞 き手が聞 こえない程両者が鮭れている場面で.話 し手 は聞 き手の厚 に しているバ ッグを指 しなが ら、大 きい声で)

liasan, rbu/'su/ol canta‑da ne ∨arl ハサ ン、 その バ ッグ一位格 何 ある ハサ ン、 (あなたの)そのバ ッグの中に何があ るの1

(22a)では、隣にいる聞 き手が腰に しているバ ッグをbuとも suとも指示で きる却。一方、(22b)で は同 じバ ッグで も両者が離れている場合、oLか用いることがで きない。 このことか ら、対話者たち が コミュニケーシ ョンに無理が生 じる程操れているような場合、!Uは使用で きないとい うことが窺わ

■9 (22b)はやや特殊な状況でもあるがSuを用いることができないと蓄し手が推測するに充分な状況である。

ZD この場合,buは r宙し手がバ ッグに触った」と聞き手が気付いた直後に用いるのに対してSuは芳し手がバッ グに触ると同時に用いるという二ュ7ンスがある。

(16)

トルコ,T行の指'JT51‑su'系列指示Plの叛徒を‡し・に‑ BALPJNへR MetLn

れる。 しか し、両者が焦れている場合で もSuが使用可能な場合 もある。(23a)をご覧いただきたい。

t

的 a (両者が速 く難れている場面の中で、話 し手 は遠 くにある山を指 して聞 き手<Ahmet>に) Ahrnet. 1.bu/su/?ordaかa bakl

アフメ ット あの 山一与格 見ろ 77メ ッ ト、あの山を見ろI

b̲ (テーブルに並んで聞 き手 と話 し合 っている場面で、話 し手はそのテーブルの上 にある 一枚の写真 を聞 き手<Ahmet>に示 して)

AhmeL t●bu/su/lol foto豆raL‑a bakr 77メ ット この 写英 一与格 見ろ 77メ ッ ト、この写真 を見ろl

この場合 suが使用で きるのは.「指示対象が同 じ条件で聞 き手 と共有で きるものである」 と話 し手 が判断 しているか らである。要するに、(23a)では指示対象 (山)が話 し手か らも聞 き手か らも遠 く離れ てお り、話 し手 に も聞 き手に もす ぐに発見で きるような ところにある。 また、(23b)では、話 し手 は Ii"き手 と同 じテーブルに並んでお り.かつ指示対象 (写fE‑)が両者のす ぐEIの前 の ところにある(このよ うに、同様な条件で聞 き手 と共有で きる空間のことを 「共油の空間」 と呼ぶ ことにす る2))。従って、指 示対象 をFitJき手 とまるで共有 しているかのような心理的な一体感を話 し手 は心 中で作 り出す ことがで きると考 える。 この ような場合,聞 き手が まだ気付 いていない と話 し手が判断 したその ような対象 を suで示す ことは、その対象がす ぐ眼前 に現 れるかの ような印象 を聞 き手に与 えることにな り,それ も

また才旨示対象に対する近接感 を聞 き手に与 えることになる.

一方で.(22b)ではその近接感 を聞 き手に与 えることはで きないのは、指示対象が共通の空間内に 存在 しないか らである。つ まり,バ yグは話 し手か ら遠 く牡れてお り、かつ聞 き手に近いため、その 対象を聞 き手 とまるで共有 しているかの ような空 間を作 り出すことがで きない。 この ことは、話 し手 と聞き手 とが同‑の空間に共存 しない、電話の場面 においで も確認で きる。電話の場合、発給現場の 対象は聞 き手に特定不可能 ・共有不可能な ものになるため、共通の空間を作 り出す ことには困牡が生 じる22。そのため、屯舌の場面においては話 し手の発話現場の ものを suで指すことはで きないのであ る。 また、独 り言の場合Suがなかなか出てこないの も2'、「共通の空間」の設定に必要 な相手 (聞 き

このご意見を下さった和田道夫先生に感謝申し上げます。

相手の周陶の事物を確認することができるようなデバイス(3G横能が付いている携帯電臥 ネットミーティン グシステムなど)がある場合suが使用可能である。

今回のデータでは聞き手がいない場合に用いられるsuの用法は見当たらなかった。このような中称のsuと同様 に、堀口(1978)も日本語の中称のソについて 「我々の内音 ・独白などにおける知覚対象指示の用法を内省する と.コ ・アを圧倒的に用いて ソを用いることはきわめて稀だ.という事が思われてくる(pl

1

2)

J

と述べている.

(17)

F恥11大学大学院社会文化科学研究科紀要第29号(20103)

辛)が存在 しないか らであろう21。

共通の空間は回想 された場面 と結 び付け られた もの を指示 の対象 とする場合 に も見 られる(用例 (11、 16)を参照のこと)。次の用例 を見ていただきたい。

糾 (話 し手A <女性 >は話 し手 B<男性 >の ことが好 きであるが、そのこ とを話 し手 Bには言え ない。 この ような状況で、話 し手A は以前一緒にいた女の子について話 し手 Bに開 く) A:Haydl.hem yuru‑ye‑Llm hem anJaL

さあ、 副詞 歩 く‑意志形 ‑1人称複数 副詞 話せ l●bu/●su/ol gor‑dug・um klZ ml?

あの 見 る‑過去杉‑1人称単数 女の子 疑問形 ?

さあ,歩 きなが ら話 して。 (この前 に私が)見たあの女の子ですか7 BEveL

はい。(Ogut200471)

以前鮪 し辛 A が話 し手 Bの降にいる女 の子 を見た ことがあるとする(24)においでは、指示が対話 者たちの過去の共通の経験 に基づいて行われているため、同様 な条件の もとで聞 き手 と共有で きる散 倉上の空間設定が可能 となる。 この ような状況で、聞 き手が まだ気付いていない、 と話 し手が見倣 し ている観念上の対象 (話 し手 ・聞 き手 に共有可能な 「その女 の子」)をsuで示す ことによって、 まるで 指示対象が限了削 こ現れるかの ような近接感 を聞 き手に与 えることがで きる。 もし、 この考え方が正 し い とすれば、前例(23)の場合 と同 じく、Suが選択 されるはずである。 しか し、(24)の場合使用 されて いるのは Oである。 なぜ なのか。

それは、落 し手A には(話 し手Bが好 きであるため)指示対象 「その女の子」 に対するライバル意紙 が働いていて、その対象 をで きるだけ自分か ら(時間的 ・心理的に)遠 ざけ ようとするため suではな く O を用いるのである と思われる。 そ うす ることによって、話 し手 はまるで聞 き手 と共有 していないか のように指示対象 を扱 うことがで き、発話時か ら見て時間的にかつ心理的に遠い (過去の)存在である とい う意味的 なニュア ンスを聞き手 に与 えることがで きる。そのような場合、Suを使 うと、指示対象 を時間的 ・心理的に自分に近づけようとすることになるため、反 って不適切 になる。

以上のように考 えると、(24)の場合、Suを使用で きるか否か とい うことは話 し手Aの心理的状況 によるものであると見 ることがで きる.実際、場面設定が(24)とやや異 なって、話 し手Aが話 し手B に対する感情 を抑 えるか.話 し手Bに気がないか、又は 「その女の子」のことを好 ま しい相手 と認め

21ozyurek(1998)は辞軌 二ついて述べていないがsuは社会的.相互作用的意味(S∝JaJarLdlnteraCtlVemeanlng) をエンコー ドするとしている。この主張は、本箱で蒔き出された 「共通の空間」に関する意見と一致するもので あると思われる。

(18)

トルコ語の指示詞‑ 'su‑系列指示詞の株能を中心に一 BALP【NARMetm

る場合 には、与uが使用可能 となるのであるo

以上の(22‑24)における言語現象 をもとに、Suは時間的のみな らず心理的に も近称の指示詞である と考 えることがで きる。林(2008)は,Su による指示が短時 間の うちに達成 されることか ら、SU は時 間的に近称の指示詞であるとい う結論 に辿 りついている。

suは時間的に近称の指示詞であるとい う林(2008)の主張 を姦付 けるもの として、Suan(只今、たっ た今)とい う時間的表現が挙 げ られる250 これは、通称の O と時間的に対立 してお り、「sulClndebul .undu貞umuzan(たった今我 々が存在 している醗間

)

」の ように他要素 の介入 も可能であるため、 イ デ ィオムである可能性 はない と思われ る。 また,「buan」 とも言えないことか らも、Suは時間的に近 称 の指示詞であるとい うことが窺われる。

従 って、Suによ り指示 されるべ き対象 は時間的 ・心理的に Oが指示する対象 の範囲 とは相補分布 の 関係 にあるとい うことが導 き出される26。つ ま り、Suは時間的 ・心理的 に近称の指示詞 とい うことに なる。

6 あわりに

本稿では,「共通の場所的 IIL、理的スペースにおいて聞 き手 にも特定可能であ り、かつ共有可能であ ると話 し手が認めた対象が、未だ聞 き手 によって特定 されていない、 と話 し手が見倣 している」場合 に、SUが用い られ ると述べたO また,Suによ り指示 される対象 は時間的 ・心理的に話 し手及 び聞 き手 に近い ものである とい うことを示 した。 この ように考 えることによって、従来説明で きなかったsuの 使用 に統一的な説明を与 えることがで きた と思われる。

しか し、本編ではbu及び Oの用法にはほんの少 ししか触れることがで きなかった。 トルコ語の指 示詞 を 「bu.su対o」 とい う対立関係で捉 えるのが可能であれば、bu及 びOの特徴 を詳 しく見 る必要 があるもの と思 われるO また、英語の定冠詞(the)とiuとの類似性 ・相違性 を検討 してみ る価値 があ る。対話者 たちに特定可能であ り、かつ共有可能である と話 し手が認 めた ものは、英語では定冠詞 (the)によって示 されるか らである。

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r

シリ‑ズ言

25 林 (2008228)はこのことに触れているものの、検討を行っていない0

26 このような指摘から、Suがbuよりやや遠くoよりは近い対象を指示するという説明が生れたと考えられる。

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用例 出典

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(20)

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Turkish Demonstratives - Focusing on "~u"Series -

BALPIN AR. Melin Okayama University

Abstract

Modern Turkish has three demonstratives: ~bu~, "~u~ and ~o~. In recent years several studies have been conducted. aiming at making clear the semantic functions of these pronouns (or adjectives) by systematically dealing with their usage. However. it doesn't seem precisely possible that we can explain the variety of use regarding~~u~in terms of the ideas in those studies. In this paper. by extending our data analysis of"~u~ toward its exceptional usage. we aim at giving a more comprehensive explanation to multi-mea- ning of"~u~. And it will also be claimed that"~u~is not only a time-related proximal de- mostrative but also it is a demostrative that encodes psychological proximity.

Keywords: Turkish. demostratives. common space. psychological distance. time

参照

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