九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
二層型有機エレクトロルミネッセンス素子における 動作機構の研究
中, 茂樹
https://doi.org/10.11501/3178974
出版情報:Kyushu University, 2000, 博士(工学), 論文博士 バージョン:
権利関係:
二層型有機エレク卜口ルミネッセンス素子 における動作機構の研究
中 茂樹
1 序論
1.1 本研究の背景
唱i 1ょ っμ 1i 1.2 研究目的と本論文の構成
2 有機EL素子の有機膜/金属界面におけるキャリヤ注入過程 15
2.1 はじめに . • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 15 2.2 実験方法 . • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 17 2.3 陰極としてアルミニウム合金を用いた有機EL素子の特性 . • • • • • • • • • • 22 2.4 有機/金属のキャリヤ注入特性 • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 24 2.4.1 キャリヤ注入モデル • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 24 2.4.2 Alq3/metal界面の電子注入. • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 26 2.5 アルミキノリノール錯体(Alq3)蒸着膜の伝導機構 . • • • • • • • • • • • • • • 37 2.6 まとめ . • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 40
3 有機EL素子の発光機構 41
3.1 はじめに . • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 41 3.2 実験方法 . • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 44 3.3 有機EL素子の発光機構の検討 . • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 46 3.3.1 有機EL素子特性の陰極金属依存性 . • • • • • • • • • • • • • • • • • • 46 3.3.2 有機EL素子における発光層の膜厚依存性 • • • • • • • • • • • • • • • 49 3.3.3 発光モデル • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 54 3.4 まとめ . • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 63
目次 11
4 有機EL材料のキャリヤ移動度
64
4.1 はじめに . • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 64
4.2 実験方法 . • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 65
4.2.1 Time of Flight法によるキャリヤ移動度の測定方法 • • • • • • • . , 65
4.2.2 測定試料の作製 . • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 71
4.3 アルミニウム錯体蒸着膜の移動度 • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 74
4.3.1 アルミキノリノール錯体蒸着膜の移動度 . • • • • • • • • • • • • • • • 74
4.3.2 アルミニウム錯体蒸着膜のホール移動度 • • • • • • • • • • • • • • • 80
4.4 ベンジジン誘導体蒸着膜の移動度 . • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • " 86
4.4.1 TPD蒸着膜の移動度 • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 86
4.4.2 α-NPD蒸着膜の移動度 • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 88
4.4.3 ホール輸送材料の移動度がEL特性に与える影響 . • • • • • • • • • • • 88
4.5 バソフェナントロリン蒸着膜の移動度 • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 93
4.6 まとめ . • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 98
5 総括 99
A物性定数 101
B真性キャリヤ密度 102
C 仕事関数 103
第1章 序論
1.1 本研究の背景
昨今の情報化時代, パーソナルコンビュータからモバイル端末までパーソナルユースの情 報端末が開発され, 数多く用いられるようになってくると, これらの機器と人間との媒介を する情報表示装置の重要性が高まり, 各種の表示デバイスが開発され, 市場に現れてきた.
これまで, 大型機器にはブラウン管(CRT: Cathod時Ray Tube)が使われてきたが, 体積・重 量ともに大きく動作電圧も高いので, 家庭用機器や携帯用小型機器の使用には適していない.
そこで, もっと薄く平板状で軽く, その上動作電圧が低く消費電力の少ない“フラットパネ ルデバイス(FPD)"が必要とされている.
フラットパネルディスフレイとして液品表示素子(LCD: Liquid Crystal Display)が挙げ られるが, これは動作電圧が低く消費電力も少ないという点から, 電卓や腕時計の表示デバ イスとしての利用から始まり, 最近では, ノートパソコンや省スペースデスクトップパソコ ンのモニター, あるいは薄型テレビとして, 表示デバイスとしての地位を固めてきている.
LCDパネルは非発光素子であるため, バックライトなどの光源が必要となる. またパネル に含まれる偏光板やカラーフィルターによる光損失が大きいため, 明るい表示を得るために は高輝度光源が必要であり, 低消費電力の妨げとなっている.
発光型フラットパネルデ、イスプレイとしては, プラズマ表示パネル(PDP: Plasma Display Panel)やエレクトロルミネッセンス (EL: Electroluminescence)パネルなどが挙げられる.
PDPは低圧ガス中の放電に伴って生じる発光を利用するもので, 主に40rv50インチクラス の大画面TV用として研究開発が行われている. ELパネルはその使用材料によって無機EL と有機ELとに大別される. 無機ELは硫化亜鉛(ZnS)などの無機蛍光体に交流高電圧を印
加したときに発光する現象として発見された. 無機EL素子においては, 二重絶縁層構造薄 膜EL素子が高電界励起機構により動作しているため, 本質的にその駆動には高電圧が必要
第1章序論 2
があることから, ディスフレイ実現においては, 高耐圧駆動ICが必要となり, 高コストも 問題となっている1). 有機EL素子は低馬区動電圧, 高輝度, 高効率, 高視野角, 高コントラ ストなどの性能を有する次世代のフラットパネルディスプレイとして期待されている.
有機材料がELを示すことは古くから知られており, 1953年のBernanoseらによる色素分 散高分子薄膜を用いた研究2), あるいは1960年代に行われたアントラセンなどの芳香族化 合物の単結晶を用いたキャリヤ注入型ELの研究などが報告されている3,4). その後, アン トラセンの蒸着膜を用いた素子も作製された結果, 若干の低電圧化は実現できたものの, 結 品化しやすい材料ゆえ薄膜の安定性に劣り, また発光効率も低かった5). ディスプレイ応用 を想定できるような高性能有機EL素子の構造および作製方法が確立されたのは十数年前で ある.
1987年にコダック社のTangらにより10 V以下の低駆動電圧で1000 cd
/
m2を越えるこ層積層型薄膜素子が報告され, それ以降の有機EL研究の基礎を築いた6). ここで高輝度発 光素子実現の鍵となったのは, 電子輸送性を持つ発光層とホール輸送層の機能分離膜を積層 したこと, 全体の有機層厚を約130nmと薄膜化したこと, 陰極に低仕事関数のマグネシウ ム-銀合金を用いたことにより電子注入効率が向上したことなどが挙げられる. ときをほぼ 同じくして九州大学の安達らがホール輸送層, 発光層および電子輸送層からなる機能分離刑 一層積層素子を報告し, 有機EL素子材料の選択肢が広がった7) その後, Tangらのグルー プは素子の発光層内に蛍光量子収率の高い材料を数mol%ドープすることで発光効率が増大 することを示した8) しかし, この時点では素子の信頼性に乏しく, 輝度半減時間は100時 間程度であった.
有機化合物を用いるエレクトロニクス材料の問題点として, 有機化合物であるがゆえの信 頼性の限界が挙げらてきた. しかし, これはエレクトロニクス材料としての液晶材料が今日
このように進歩してきたことにより, 有機EL材料においても材料設計の工夫で十分克服ロJ 能であると考えられる. 一方では有機化合物は, 合成による材料選択の無限の可能性という 無機の材料系にはない優位性を利用できる. この十数年の間に有機EL素子をフラットパネ ルディスプレイとしての応用するために様々な努力が行われれきた結果, 基本性能において 十分な性能を持つことが示されてきた9-11) たとえば, 発光色は青色から緑色, 赤色に至る まで任怠の可視領域波長が高輝度で実現できる12). ディスプレイとしての明るさを得るに必
また外部量子効率が10 %を越え, 視感効率としても38.31m/\九7が報告されている14). こ のような有機EL素子を発光デバイスとして実用化するには, 信頼性の向上が最重要課題で あった. 材料設計15)や封止技術16) などさまざまな努力が続けられた結果, 駆動寿命も
万時間を越え17), 1997年には日本のメーカーから世界に先駆け有機ELディスプレイを搭 載した, カーオーディオが発売されるまでに至った.
以下, 有機EL素子について詳細を述べる.
有機EL素子は, 無機半導体のpn接合発光ダイオード(LED: Light Emitting Diode)と動 作機構としては共通性を持っているため有機発光ダイオード(OLED: Organic Light Emitting Diode)と呼ばれる場合もある. しかし, 有機EL素子と無機半導体LEDとは本質的な違い がある. 有機EL素子に用いる材料は, 3.0 eV前後の広いバンドギャップを持ち, 熱平衡状態 で素子内に存在するキャリヤ密度はきわめて小さいと推測されるため, 発光に寄与するキャ リヤはすべて外部電極から注入されたものであると考えられる. このような電荷注入型有機
EL素子の発光機構として, 次に示す過程からなると考えられている.
1. 陽極からホールが, 陰極から電子が, 印加した電界により有機薄膜中へ注入される
2. 有機薄膜中に注入されたホールと電子が, 印加電界によってそれぞれ対向電極へ向かっ て移動する.
3有機分子中でホールと電子が再結合し, 励起子を生成する.
4. 生成した励起子はその失活寿命までの時間, 薄膜中を移動する.
5励起子は 分子回有の蛍光量子収率で放射失活する. 残りの励起子は熱失活などの種々 の過程を経て無放射失活する.
6. 有機薄膜中で発生した光は透明電極から面状発光として取り出される.
Fig. 1.1に有機EL素子の典型的な素子構造を示す. 積層型素子に用いる材料には, 陽極 から注入されたホールを輸送する役目のホール輸送材料, 陰極から注入された電子を輸送す るための電子輸送材料, ホールと電子を効率よく再結合させ発光する発光材料とに大別でき
第1章序論 4
cathode cathode cathode
ETL ETL
EML EML
HTL HTL
anode anode anode
(σ) single layer (b) double layer
(c)廿iple layerFIG.
1.1.
Three typical device structure.(
α)
Single-layer device.(b)
Dou ble-layer deV悶(b)
Triple-layer device. HTL=hole transport layer, ETL=electron transport layer, and EML=emission layer.ある. また, 素子の特性向上, 安定性向上の目的で陽極とホール輸送層の聞にホール注入層 を, あるいは陰極と電子輸送層の聞に電子注入層を挿入することも有効である. これらの材 料には低分子材料のみならず, π共役高分子材料18), 主鎖や側鎖、に機能基を組み込んだ高分 子材料19)など多様な有機材料が用いられる. 作製方法においても, 真空蒸着法だけでなく,
溶液からのスピンコート法など湿式成膜法も採用されている.
二層積層型素子の基本構成は, 陽極からホールを注入して輸送するホール輸送層と陰極か ら電子を注入して輸送する電子輸送層との積層である. このような二層積層構造では, ホー ル輸送層または電子輸送層が発光機能を担うことになり ホールと電子の再結合が生じるあ るいは励起子が失活する部位が電子輸送層側にある場合とホール輸送層側にある場合とに分 けて考えた方がよい. 発光層をホール輸送層と電子輸送層とから独立させて両層の聞に配置 したのが三層積層構造である. この場合, 発光層はホールと電子の再結合 一重項励起子の 生成と一重項励起子からの発光機能のみを担う. 単層型の素子構造でホール輸送材料, 電子 輸送材料, 発光材料を混合することで発光効率の高い素子は実現できる20-24). しかし, 二 層ないしは三層の積層構造を用いることで電極から注入する電子とホールのバランスを取る ことができ, 発光特性は向上する.
有機EL素子を構成する材料のエネルギー関係を説明するとき, 無機半導体のエネルギー ダイアグラムを参考に図示されることが多い. Fig. 1.2に二層積層型素子のエネルギーダイ アグラムを示す. イオン化ポテンシャル(Ip)は電子を真空に放出させる際に必要なエネル ギーであり, アノードからのホール注入の容易さを示す尺度となる• Ipは一般に光電子分 光法で求められる. また電子親和力(EA)は電子と結合する際に放出するエネルギーであり,
電子の注入の容易さを示す尺度となり, EAが大きな材料ほど電子授与性は大きい• EAは直 接測定することが難しく, 一般には吸収端波長から求めたエネルギーギャップ(Eg)をんか ら差し引いたものを用いる. しかし, このエネルギーダイアグラムは模式的なものであり,
実際の有機EL 素子のエネルギー準位を示すものではない. 実際, 有機材料/金属界面にお いては真空準位は一致せず, 界面で真空準位のシフト(仕事関数変化)が生じることが報告 されている25,26)
Fig. 1.3に有機EL素子に用いられるホール輸送材料の例を示す. ホール輸送材料は, これま
6
Vacuum level (0 e V)
- 肌 沫ーーl a
。C
]P(日TL)
。A
]P(ETL)
Cathode Eg(HTL)
tAI-- Sω)芯〉ω凶h皆ωロ凶 IlllV +
第1章序論
ETL
: Hole transpo口layer : Electron transport layer : Ionization potential : Electron affinity : Energy gap
: Work function of anode : Work function of cathode HTL
HTL ETL ]p E八 Eg
{ÞA {þc
Anode
FIG. l.2. Energy-level diagram for two layered device with hole transport layer and electron transport layer.
α人Uγ α人Uγ Q O
TPD TA PC
α-NPD
cc
d
NC 心
ひ 」 凡W R
MTDATA
TPTE
。 つ「 。
FIG. 1.3. Molecular structures of hole-transport dyes.
第1章序論
8
で電子写真感光体で用いられてきたホール輸送材料を出発点として研究されてきた27). 中で もアミン誘導体は典型的な材料である. Tan gらが用いた1,1-bis((di-4-t ol y1 a mino )pheny1) cy
clohexane (TAPC) 6,8)や安達らによるN, N'- dipheny1-N, N'-(3-me thy1pheny1)-1,l'-bipheny1- 4,4'-diam ineα(TPD) 7) は, 10-3 cm2/Y.s を越える高いホール移動度を有している28,29). し かしTPDはガラス転移温度(九) が630C と低いため, 薄膜安定性の点が劣る. 安定性向上 のため, より九の高いm-MTDA TA 15,30), α-NPD 31), TPTE 32)などが合成されている.
また, トリフェニルアミン骨格を主鎖あるいは側鎖に持つポリマーも, ホール輸送層として 有効であることが報告されている19).
Fig. 1.4に有機EL素子に用いられる電子輸送材料の例を示す. 電子輸送材料としては, 典 型的な材料としてオキサジアゾール誘導体が挙げられる33-35). t B u - PB Dが有用であること は早くから見いだされ広く用いられており33), より 安定なOXD 7も合成されている34) また, トリアゾール誘導体36), シロール誘導体37,38), フェナントロリン誘導体39)や発光 層として用いられるアルミキノリノール錯体( A1q3)などが電子輸送材料として利用されて いる40). ホール輸送材料と比較して電子輸送材料の電子移動度は二~三桁程度低く, オキ サジアゾール誘導体41)やAlq3 42-44) で10-7rv 10-5 cm2/y.sのオーダーである. そのため,
より電子移動度の高い材料開発が求められる.
Fig. 1.5に有機EL素子に用いられる 発光材料の例を示す. Tang らの用いた A1q3 は緑色 の発光を示し, 信頼性に優れた材料である. しかし, 発光効率, 色純度の改善や青, 赤など の異なる発光色を得るために, 発光材料として金属錯体やその他種々の材料が検討されてい る. その中でも浜田らによるベリリウムベンゾキノリノール錯体(Bebq2)45)や細川らによ るジスチリルビフェニル誘導体(DPYBi)46) が高輝度青色発光材料として注目される.
発光層あるいは素子構成層中に蛍光量子効率の高い分子を微量ドープすることで, 発光効 率を向上させることができる. このドーパントとしては, 固体状態では濃度消光が生じるが,
孤立分子としては1 に近い蛍光量子効率を示すクマリン色素8)やジシアノメチレン誘導体8),
キナクリドン色素47,48), ルブレン49)などが有効であることが知られている. 最近では金属 錯体の中でも Ir を中心金属とした t ris(2- phe n)匂y ridene) iridium (Ir(p py)3) 14,50) は燐光を 示し, ドーパントとして利用することで 38.31mハヘfという驚異的な視感効率を示す有機EL
αあるいはN,N'-bis(3-methylphenyl)-N, N'-diphenylbenzidine
〔〉手
Alq3 Beq2
tBuo~ tBu -{ NO�ベ tBu
tBu-PBD
BND
TAZMEPHPH PySPy
FIG. 1.4. Molecular structures of electron-transport dyes.
第1章序論
〔》
Alq3
DPVBi
10
Be
q
2Ir(PPY)3
、i
PPV
N,CH3
1C
q4H CH3
。
。
QA
C H
Coumarin6
DC
MPerylene Rubrene
FIG.
1.5.
Molecular structure of emissive dyes.料が合成により選択の無限の可能性があるという, 無機の材料系にはない優位性により飛躍 的に進歩してきた. しかし, その動作理論は確立していないため, 動作機構を明らかにする
ことはさらなる有機ELの発展に有効であると期待される.
第1章序論 12
1.2 研究目的と本論文の構成
1.1で有機EL素子の研究背景について述べたが 有機EL素子は一部実用化されていると はいえ, 動作機構について不明な点あるいはデバイス作製における問題点も多く, さらなる 発展を遂げるためにはこれらの点を解決しなければならない. Fig. 1.6に二層構造の有機EL 素子の動作機構を決定する要素を示す. ここで電子輸送層は発光層を兼ねるものとした. そ れぞれの要素は互いに独立したものではなに総合的に有機EL素子の動作を決定している.
たとえば駆動電圧を決定しているのは, キャリヤ移動度(μ)および電極界面でのキャリヤ注 入障壁(ぬ)などである. 発光効率を決定づけているのは, 再結合{確率, 材料の蛍光量子効 率, 駆動電圧などであり, バンドギャッフは素子からの発光色を決定する. また, 薄膜のモ フォロジ一変化や電極/有機膜界面, 有機膜/有機膜界面の状態, 電極の酸化などは素子の寿 命に大きく影響を与える. これらの現象をすべて同時に解析することは非常に困難である.
本研究ではこれらの要素を個別に解析することで, 有機EL素子の動作機構を明らかにする ことを目的とした.
有機EL素子において, 電子注入電極はその特性に大きく影響を与える51) 多くの有機 材料は金属や無機半導体に比べて電子親和力が低いため, 電子注入電極としては仕事関数が 低く, 電子を放出しやすい材料が良い. また有機物への電子注入については様々な議論が成 されている52,54,55) 本研究では有機材料へのキャリヤ注入過程, 特に電子の注入過程につ いて明らかにし, 電子注入障壁高さを求めるために, 陰極としてLi, Ca, 1'vIgといった低仕 事関数金属を含むアルミニウム合金を用いた素子を作製した. この点について第2章で検討 する.
有機EL素子の発光機構は1.1の説明で大筋は理解できるが, 有機膜内での発光領域の分 布, または注入電流の発光に対する寄与についての詳細はまだ出解されていない. これまで にも層内に部分ドーフした発光材料のスペクトル変化から発光領域を決定するなどといった 方法で解析が試みられている8) . ここでは発光層の膜厚と陰極材料を変化させ, 発光機構に ついて検討した. この点について第3章で述べる.
上で述べたように有機EL素子の駆動電圧を決定している一つの要因として材料の物性値 としてキャリヤ移動度が挙げられる. そこで有機EL材料のキャリヤ移動度を求める手段と
工 ω 対 句仰向l ll v
T n
G
FIE-/1
HTUETL
、h,/
x e,,,ι
e・ψpu fし 、 ι χ ηJIll v rE Tι げ c
bα n o c
/'zz、
μe (HTL)
EA (llTL) HTL
μe (ETL) EA(ETL) ETL
ETUcathode Interjαce ( contact)
↓
。Be (ETL/叫刷e)
。c-
cathodeoxidation corroSlon morphology
νd C )
ntρ l
v Om 7 判h 川
口n・附.・ n
、ythJhl
e obnc u am
'wu s
MmルM mMα-m p・mmw
bω似m n n
ITO +
-<þA
SU
ゲ
αceEg
Ip (
H
TL)
μh (HTL)
。Bh
(HTL厄TL) Ip (ETL)μh (ETL)
E(町L) E但TL)
HTL : Hole transpo口layer ETL : Elcctron transport layer Ip : Ionization potential EA : Electron affini ty Eg : Energy gap
。A
: Work function of anode<þc
: Work function of cathode<þBh.e
: Barrier heightμh,e
: Carrier mobility E : Electric fieldFIG.
1.6.
Effective factors for organic EL device.第1章序論
1 4
して, Time-of-Flight (TOF)法を用いて測定した. また, そのキャリヤ移動度が積層型有機 EL素子に与える影響を明らかにすることを第3の目的とした. この点について第4章で検 討した.
第5章では総括として, 二層型有機エレクトロルミネッセンス素子における動作機構に関 する本研究の成果についてまとめた.
第2章 有機EL素子の有機膜/金属界面 におけるキャリヤ注入過程
2.1 はじめに
有機EL素子において, 電子注入電極(cathode)はその特性に大きく影響を与える. 多く の有機材料は金属や無機半導体に比べて電子親和力が小さいため, 電子注入 電極としては仕 事関数が小さく, 電子を放出しやすい材料が良いとされるが, 一般にこのような材料は大気 中で酸化されやすく不安定である. 古くはアントラセン単結晶中への電子注入を効率よく行 うためにアントラセン+ナトリウム(Na)金属のニトロメタン溶液を使用した例がある3)が,
これはニトロメタン溶媒がアントラセン単結品を浸食する点, また液体である扱いの難しさ という点から実用的ではない. またVincettらは真空蒸着法を用いてアントラセンを薄膜化 することで駆動電圧を低下させることには成功したが, 陰極材料を最適化するには宅らず,
高効率の素子は作製できなかった5).
Tangらは陰極金属としてマグネシウム-銀(J\1gAg)合
金を共蒸着で作製し, 有機膜への密着性の改善, および安定性の改善を実現した6). 村山ら はアルミニウムリチウム(A1Li)合金を陰極として使用し, 高効率素子を得ている]3) また 高分子系ELの電子注入電極としてはカルシウム(Ca)が最も多く用いられている56). Ca は非常に酸化されやすい金属であるので, Ca J-.にA1 を成!摸するなど何らかの保護同をコー ティングして大気を遮断する必要がある.この他, 特殊な例としてn型シリコンを電子注入電極として用いた素子57)や銅フタロシ アニン(CuPc)/ITO積層電極を陰極とし, 金属電極を用いない透明な有機EL素子の作製 に成功している58) また電極と有機層の界面に薄いバッファ層を帰入して, 電子注入効率 を向上させる試みが成されている. 金井らはホール輸送層材料として用いられている4,グ
biscarbazo1y1(9)-biphenyl (CZ-TPD)を陰極と発光層の聞に15 nm挿入することで, 比較的高
第2章有機EL素子の有機膜/金属界面におけるキャリヤ注入過程 16
い仕事関数を持つAg電極を用いた場合においても高効率素子が実現できることを報告して いる59), Hungらは発光層と陰極界面に10 Å以下の非常に薄い絶縁層(フッ化リチウム:LiF など)を挿入し, 素子の低電圧化を実現している60), また陰極界面の有機層にLi, Sr, Sm,
Csなどの低仕事関数金属を混合する試みも成されている61 63),
ヒ述の通り, 電子注入電極を最適化する, あるいは電子注入効率を向上させるため様々な 試みが成されているが, その電子注入過程については未だ不明な点が多い. 本研究では有機 EL素子の陰極としてLi, Ca, Mgといった低仕事関数金属を含むアルミニウム合金を用い たときの電子注入過程について検討した. ここでは有機EL素子の発光層材料として一般的
であるアルミキノリノール錯体(Alq3)への陰極からの電子注入過程について検討する.
Tangらによって提案されたAlq3を発光局とする二層積脳型素子は, 現庄でも最も標準的 で再現性よく作製できる素子である. 本実験の基本素子構造としてジアミン誘導体とAlq3 を積層した, Tangらの素子構造を使用した.
基板として, あらかじめ25 mmx25 mlnの大きさに切断したインジウム・スズ酸化物(ITO:
Indium Tin Oxidc)透明電極ガラス基板(面抵抗20 0/口, ジオマテック社製
)
を使用し た.発光層材料としてはアルミキノリノール錯体(Alq3: 8-hydroxyquinoline aluminurn, Aldrich 社製[44,456-1]), 正孔輸送層材料としてジアミン誘導体(TPD:N,N'-bis(3-methylphrnyl)
N, N '-diphenylbcnzidine, Aldrich社製[44,326-3])を使用した.
素子作製前にはITOのバターニングおよび基板洗浄が必要である. 以下に成膜前に行っ た基板作製, 洗浄工程を示す.
1. あらかじめ所定の大きさに切断したITO基板を純水, およびセミコクリーン(フルウ チ化学)で洗浄
2. クリーンルームにおいてスピナーを使用し, 前処理剤, フォトレジストを塗布 3. 塗布したフォトレジストを1000Cのホットプレートでプレベーク
4.2 mm幅のストライブを持つフォトマスクを介して紫外線により露光
5. 露光後, 現像液に1分間浸漬して現像6. 450Cの玉水(水2:塩酸2:硝酸1)で約7分間ITOをエッチング 7. q-l性洗剤, 純ノ1<, アセトンで順次超音波洗浄
8. イソプロピルアルコールの煮沸洗浄
9. UVオゾンクリーナー(日本レーザ電子社製NL-UV253)により表面を処理
有機EL素子の作製には真空蒸着装置(ULVAC社製HV-400S)を用いた. この装置におい て補助排気用ポンプとしてドライ式メカニカルブースターポンプ(真空機工社製DMB-0 10,
第2章有機EL素子の有機膜/金属界面におけるキャリヤ注入過程
T ABLE
2.1. Atornic ratio and work function
64)of metal in this study.
met a l work function 64)
AILi AICa AIMg
Mg
Al
Li (2.9 eV)
5
Ca Mg A l
(3.0 eV) (3.6
e\!) (4.3 eV) 95
5
95
5 95
100
100
18
DMB-050) およびダイアフラム式真空ポンプ(真空機工社製DAU-120)を組み合わせ, また 本排気用ポンプとしてターボポンプ(真空機工社製UTM-500)を使用しオイルフリーのク リーンな真空下での 素子作製を心がけた. 有機層の蒸着にはモリブデン製 ボート(フルウチ
化学製BB-1)を , 陰極の蒸着にはタングステン製ボート(フルウチ化学製BY 107)あるい はタングステン製バスケット(フルウチ化学製BR 1)を蒸着源として抵抗加熱法で行った.
有機屑および陰極の蒸着は1度の真空排気で連続して行った. 陰極成膜はITO電極と交差 するように2mm中高の ステンレス製シャドーマスクを介して行った. 蒸着時の真空度は10-6
rv 10-5 Torrのオーダーであった. 蒸着中の膜厚の モニターおよび蒸着レートの制御は, あ らかじめ干渉顕微鏡(口電アネルバ社製Nanoscope)により求めた膜厚を基準にして補正し た水品振動子式膜厚モニター(日本真空技術製CRTM5000)により行った. 蒸清レートは
5 rv 10 A/sである. 作製した素子の有効面積は2 x 2 mm2であり, 一度 の蒸着 で10点の 素 子が得られる.
陰傾として使用したAl合金および金属の仕事関数と合金の構成比をTable
2
.1に示す.Al
合令において低仕事関数金属の含まれる割合はすべて5 mol%である. 作製した素子の構造 は以下の通りである. (Fig. 2.1)(α) ITO/TPD (500 Â)/Alq3 (500 A)/AILi (1000 A)
(b) ITO/TPD (500 A)/Alq3 (500 Â)/AICa (1000 Ã)
Cathode metal
(1000 A)
[AILi, AICa, AIMg, Mg
orAl] Alq3 (500 A)
ITO anode
CP
TPD
(500A)
Glass substrate
FIG. 2.1.
Devicc
structure.第2章有機EL素子の有機膜/金属界面におけるキャリヤ注入過程
(
c) ITO /TPD (500 Â)/Alq3 (500 Â)/AIMg (1000 Ä) (d) ITO/TPD (500 Â)/Alq3 (500 Â)/Mg (1000 Â) (
e) ITO/TPD (500 Â)/Alq3 (500 Â)/Al (1000 Â)
20
1:記素子においてITOを+, 対向電極をーとしたときをJII貢バイアス , ITOを , 対向電 極を+としたときを逆バイアスとした. 本論文においては, 主に JII貢バイアス印加時の特性
について説明する.
測定回路図をFig. 2.2に示す. 作製した素子を大気中あるいは必要に応じてロータリーポ ンプ(日立社製 160VP-D)を用いて10-3 Torrの真空に排気したクライオスタット中にて 測定を行った. 測定には, パーソナルコンビュータ(N EC社製
PC-9801BA)を用い, GP
IBインターフェイスを介して測定機器を制御して行った. 印加電圧の 制御は直流安定化電源 (l\tlETRO NIX社製CMS100-05)をGP-IB PROGRA�L\tlER (METRONIX社製GPIB9122)
を介して行った. 電流の測定には, デジタルマルチメータ(ADVANTEST社製TR6848)を 用いた. 発光輝度の測定には, 輝度計(TOPCON社製BM-5)からのアナ ログ出力をデジ タルマルチメータ(ADVANTEST社製TR6846)に入力 し読みとった. また, 有機/金属の キャリヤ注入特性の測定においてはエレクトロメーター(ADVANTEST社製TR8652)を用 いた.
cryostat
.-ーーー・・・・・・"・
digital
data transfer
FIG.
2.2.
StandardEL
lueasurement apparatus.第2章有機EL素子の有機膜/金属界面におけるキャリヤ注入過程 22
2.3 陰極としてアルミニウム合金を用いた有機EL素子の特性
ここでは陰極としてアルミニウム合金を用いた有機EL素子の基本特性について述べる.
すべての素子からの発光は 515 nmにピークを持ち, 半値幅が約80 nmの Alq3からの黄緑 色であり, TPDからの発光は得られ なかった. Fig. 2.3 (α)に陰極を変化させたときの電流 密度一印加電圧特性を示す. いずれの素子においても10 V以下の電圧で1000ccl /m2を越え る発光が得られた. 陰極の仕事関数が低くなるに従い 電流密度-印加電圧特性は低電圧側 へシフトすることがわかる. これは電流が陰極からの電子注入に大きく依存することを示す.
また , AIMgとMgの特性を比較すると若干J\lg単体を用いた素子が低電圧側へシフトして いるがその差は小さく, Al合金を陰極として用いた素子において合金に含まれる低仕事関数 金属が電子注入を担っていることを示す. AILi, AICa, AINIg, Mg, Alを用いた素子の電圧 には10 InA / cln2の電流密度を得るのにそれぞれ3.6, 4.1, 4.9,
4.6, 6.4Vが必要であった.
Fig. 2.3 (b)に発光輝度-電流密度特性を示す. 発光輝度一電流密度特性において , 陰極の違
いによる差はわずかではあるが 一番仕事関数の高い Alを用いた素子では発光輝度の低下
が見られた. 10 mA /cm2の電流密度での発光輝度は AILi, AICa, AIMg, Mg, Alを陰極と
した場合にそれぞれ200, 200, 170, 170,
96cd /m2であった. この点について第3章で詳
しく検討する.
:A江i
: AICa : AIMg :Mg :A1
ロaA.。
ハUAU -- ハU吋Bai 今、dハU4,BA ハU
ハU
(NEU\〈日)円台ロロω℃冨ω己ロυ ハU吋,ムハU唱EEA
4a'A ハU 15 Applied voltage V
(V)
(σ)
5
A『nu 噌EA
103
で、益百
三102
吋ω 0
� 101
E コ
J 唱EEA ハU nu 噌Ei AU 今、J
100
101102
Current density J
(n1AJcm2) (b)
Characteristics of
ITO /TPD (500 Å) /
Alq3(500 Å) /
cathode(1000 Å)
devicesFIG. 2.3.
(b)
Luminance vs. current density(
α)
Current density vs. applied voltage characteristicscharacteristics. Cathode metals are AILi, AICa, AIMg, Mg and Al.
第2章有機EL素子の有機膜/金属界面におけるキャリヤ注入過程
24
2.4 有機/金属のキャリヤ注入特性
2.4.1 キャリヤ注入モデル
ここではもっとも単純な単層有機薄膜素子を想定し, 有機薄膜中での伝導過程について考 える. キャリヤ椛度の低い有機物などの絶縁物に外部電極からキャリヤを注入すると, 膜内 部に空間電荷が形成され, 電流を決定する場合がある. 従って電流-電圧特性は有機膜中の キャリヤの流れで制限されるバルク律速と有機膜へのキャリヤ注入で決定される注入律速の 二つの閃子に支配されると考えられる. しかし, Fig. 2.3 (b)のように有機EL素子の電流 電圧特性は電極に大きく依存し, 注入律速の支配が大きいと考えられる.
有機物へのキャリヤ注入については様々な議論が成されている52-55) . 松村らはキャリヤ 注入をショットキー放出モデルを用いて, Alq3/rv1gおよびAlq3/Al界面のショットキー障壁 l高さを求めている.52,53) また江草らはトンネルモデルを用いてAlq3/Al界面のエネルギー 障壁について解析している54). 最近ではBarthらによるDisordered Hopping Systemを考 慮した注入機構に興味が持たれる55)
高電界のかかっている金属/絶縁体接合を考えると(Fig.2.4), 電極からのキャリヤ注入過 程には大別して, 熱励起注入過程(Schottky放出過程)とトンネル過程がある. 熱励起注入 過粍(Js)は以下の式で与えられる65)
円 I - q ( ぬ- ,/ qE/ 4 πι ) 1
Js
A*T� exp 1 --- \ v - L I ,
r
I
kT1 7
A *
-41fqrn* k2
h3 '
(2.1)
ここでA*はリチヤードソン定数(= 1.20 X 106
[A/K2.m2]),
Tは温度, qは単杭電術量,ゆB は接合障壁, éiは有機層の誘電率, kはBoltzmann定数(単位:eV),
Eは電界強度, hは Planck定数, m*はキャリヤの有効質量である.トンネル電流(JT)は温度依存性は非常に小さく, 低温の電流密度はFowler-Nordheim式 で記述される66)
一 ( 8介v2ffi*必(2 \
JT -
一一-expJ. - | \ 3qhE J | (2.2)
。
多Schottky emissionG
Fowler-Nordheim tunnel emission。B
Metal Organic layer
FIG.
2.4.
Schottky emission and tunnel emission.第2章有機EL素子の有機膜/金属界面におけるキャリヤ注入過程
26
これらの定式は理想的なバンド状態と接合状態を前提にしたものである.もちろん有機材 料がSiや金属と同様な幅広いバンド電子状態を形成しているとは思われないので,適用に は修正が必要となるかもしれない.しかし,電極からの電流注入である限り基本部分は同じ であると考えられる.
Fig. 2.5にAILi (400
A)
/Alq3 (1500λ) / AILi (400 A)構造における電流密度-印加電圧 特性の温度依存性を示す.電極に比較的,低仕事関数の金属を用いた場合,電極からのホー ル注入は電子注入に比べ小さいために無視できるとした.また特性は電圧極性に対し対称で あった.図より明らかな温度依存性が観測され,松村らと同様に電流はショットキー放出過程によるものと考えて解析した52,53)
ショットキー障壁高さは以下のように求められる.Eq. (2.1)において,E=Oのときの電 流を飽和電流J。とすると,
ゐ=fT2exp(#) となる. Eq. (2.3)より
ln(10/T2)
-qゆB 1 んT'(2.3)
(2.4)
となるから, ln 10/T2 - l/Tプロットの傾きから,ショットキー障壁高さぬが求まる.本研 究において10は電流密度-(印加電圧)1/2特性を直線近似したときの,印加電圧零における電 流値として求めた.
2.4.2 Alq3jmetal界面の電子注入
Fig. 2.6 (α)にAILiを用いたAlq3単層型素子の電流密度-印加屯圧特性を示す. Fig. 2.6
(b)
はFig. 2.6 (α)をEq. (2.1)に従って,電流密度の温度依存性を印加電圧の平方根に対してプロットしたものである.この結果は直線的な関係となることから,電子注入過程がEq. (2.1) により,ショットキー注入であることを裏付-ける.Fig. 2.6 (c)に示すように,各海皮におけ る10/T2の値はl/Tに対して直線的な関係となることから, Eq. (2.4)を満たし,その傾き を-qøB/kとして,その結果としてAlq3/AILi界面のショットキー障壁高さは0.52 eVとの 見積もりが得られた.
。
Electric field E
(MV/cm)
0.5 1
nu 噌,SA
。: 250C
・: OoC ロ:-200C
• :-40oC å :-60oC
・:-80oC
10-7
0 σb 9u e
v
〆,,‘、V
、、,,ノnu hu 1A
A ny nr .
,EA 噌BEA c Au V O 20FIG. 2.5. Temperature depender悶of current density vs. applied voltage for AILi
(400 A)
/
Alq3(1500 A) /
AILi(400 A)
device第2章有機EL素子の有機膜/金属界面におけるキャリヤ注入過程
r 、
4 ミ
E 《g-b
』、
.令E〉,
Zd『3 、
℃ ロω
t
】
民也 L』
=J -3 J 4
やι、る
h万
(α)
6
2
(c)
-20
五 -30
-40L 0.003
Elec仕ic field E (MV /cm)
0.5
Applied voltage
V(V)
1<ÞB=
0.52e V I
0.004 0.005 1fT
(K-1)
i
岡、=- π
H C
〉 同E aA コb 、
u 20
101
10-3
。
V
1/2 (VI/2)
。:250C
・: OoC ロ:-20oC
• :-40oC
â :-60oC
・:-80oC
28
2 3
FIG.
2.6.
Temperaturp depcndence for AILi (400 A) / Alq3 (1500Á)
/ AILi (400A)
dcvice (α) Current dcnsity vs. app1icd vo1tagc,(b)
current density vs. square root of applied voltage,and (c) 1n (ゐ/T2) vs. l/T plots
4 3
V
1/2 (V1/2)
2
れ1510回2 3 ζ
10-斗〉、
5 10・6
"'d ロ(l)
_
�
10-�υ 20
Electric field E
(MV fcrn)
、、.,ノ
V
〆,,‘、、v e ob a
nu hμ
1
〆'E‘、 、、E,〆G A PA PA
AU ρし町V
00.5
。
ハU噌EEA
N 8 0.8
u
ミ
ュミぐ
0.6....
〉、αコ
ロ(l)
"'d z o
』』
U ::l
0.4
0.2
。: 250C
・: OoC ロ:-20oC
• :-40oC
å :-60oC
・:-80oC
|<l>s
= 0仇VI
(c)
-30
也、「 ..9 -40
0.005 0.004
1fT (K-1)
-50 0.003
FIG.
2.7.
Temperature dependence for AICa(400 Á)
/ Alq3(1500 Á)
/ AICa(400 Á)
device(α) Current density vs. applied voltage,
(b)
current density vs. square root of applied voltage,and (c) ln (Jo/T2) vs. l/T plots
第2章有機EL素子の有機膜/金属界面におけるキャリヤ注入過程
30
Electric field E (MV /cm)
nu ハU'ai
司L A『
ιu
oo
ハU ハU ハU ハu t』ム 噌,i 唱ai -Ei
(刊go\〈g)三宮口ωさロ82υ
ζJ AU ハU 0.5
(NEQ\〈ユ)、ヘハ判明∞ロω℃}ロωHHDU
4 3
V
1/2 (VI/2)
。: 250C
・: OoC ロ:-20oC
• :-40oC
ð. :-60oC
・:-80oC 10・1 2
20
Applied voltage
V(V)
|��=
0.72eV I
-30
弘、
、己
..s -40
0.005 0.004
l/T
(K-1)
-50 L 0.003
FIG. 2.8.
Temperature
dependencefo
rAIMg (400 A) / Alq3 (1500 Á) / AIMg (400 Á) device (α) Current density vs. applied voltage, (b)
current densityvs. square root of applied voltage,
a吋(c) ln (Jo/T2) vs. l/T plots
勺ノ』ハU''i
O 之 4 6 AU ハu nv ハリ 噌EEム 噌EEA 咽E'ム 噌EEA
(門戸出υ\〈E)、baロω℃冨ωトロコυ Electric field E(MYfcm)
nu ハU'EEA
(門戸己記〈日)「kczcω℃冨ωヒロυ
10-8
2.5 3.5 4
V
1/2 (y1/2)
20 3 Applied voltage V
(Y)
。: 250C
・: OoC ロ:-20oC aト400C
6 :-60oC
・:-80oC
1<l>B
= 0.68 eVI
(c)
-30
-40
(弘、52
0.005 0.004
1fT (K-1)
-50 0.003
Temperature dependence for Mg (400
A)
/ Alq3 (1500A)
/Mg (400A)
device2.9.
FIG.
(α) Current density vs. applied voltage, (b) current density vs. square root of applied voltage,
ancl
(
c)
ln (Jo/T2) vs. l/T plots.第2章有機EL素子の有機膜/金属界面におけるキャリヤ注入過程
19
ロ
戸町、
ヨg呂
0.8、 0.6
π5〉コ、 0.4
υ t
a Sb
0.2也、‘「
-30
」ヨ ー40
(c)
-50 0.003
Elec仕ic field E (MV /cm)
0.5
Applied voltage
V(V)
l<Ps
= 0.89eV I
。
0.004 0.005 l/T
(K-1)
�
10-2同、
て-
5
也み、〉コ 10-4υ ロ
t ロ
J コ10-8
2.5 3 3.5
V
1/2 (V 1/2)
0: 250C
・: ooC 口:-20oC
• :-40oC
ll. :-60oC
・:-80oC
32
4
FIG.
2.10.
Temperature dependence for Al(400
Á) /Alq3(1500 Á)
/Al(400 Â)
dcvice(α) Current density vs. applied voltage,
(b)
current density vs. square root of applied voltage, and(c)
ln (Jo/T2) vs. l/T plots(α)電流密度-印加電圧特性, (b)電流密度(印加電圧)1/2特性の温度依存性, (c) Jo/T2 -l/T
プロットを示す. いずれの金属を用いた素子においても明確な温度依存性が観測され, ショッ トキー障壁高さを見積もることができた.実験から求めた各金属のAlq3 に対するショットキー障壁両さをTable 2.2に, また各金属 の仕事関数とショットキー障壁高さの関係をFig. 2.12に示す. 図はゆBがゆMe凶lとともに噌 加していることを示している. ショットキー放出過程において, その障壁高さぬは理怨的 には金属の仕事関数ゆMetalと半導体の電子親和力EAとの差になる.
ゆB=ゆMetal - EA.
(2.5)
Alq3/金属界面のショットキー障壁高さは, 理想的にはAlq3の電子親和力(あるいはLUNIO) と金属電極の仕事関数の差となると考えられるが, 単純なAlq3の電子親和力2.9 eV 67)と 仕事関数との差とはならなかった. この結果は松村らの結果と同様であり, その理由として 金属と有機蒸着膜の界面が一様ではなく, 空隙が存在するモデルを考えている52,53) また,
石井らは紫外光電子分光法(UPS)を用いて種々の有機物と金属界面の界面電子構造を調べ,
界面における真空準位の一致の有無について検討している26) その結果, 有機/金属界面で は真空準位のシフトが生じ, 界面での障壁高さは布機材料のイオン化ポテンシャルあるいは 電子親和力と金属の仕事関数の単純な差とならないことを示している. この原因について言 及はしていないが, 界面における化学的相互作用, 界面における電荷移動, 界面準位, 鏡像 力による分極などの影響を挙げている.
そこで石井らが原因のーっとして考えている界面準位の影響について, 実験結果の説明を 試みる. 金属/有機界面をFig. 2.11のように有機膜上の界面準位と極薄い界面層を含んだ法 触と考える. 半導体における実際のショットキーダイオードにおいては, 結晶が不連続になっ ているために, 半導体の表面に多くの界面準位ができ, それがバンドギャップ中に分布して いる. これらの界面準位はドナーあるいはアクセプターとして働き, それが障壁の高さに影 響を与えると考えられている. 有機分子においては未結合枝がないため, 半導体のような未 結合枝による界面準位の形成は起こらないと考えられる. しかし有機材料に含まれる不純物,
金属/有機界面の密着性の問題, 界面への酸素などのガス吸着, 金属蒸着時の輔射熱による 界面付近の分子の変質などにより有機膜表面にエネルギー準位を形成し, 界面準位を持つ可
第2章有機EL素子の有機膜/金属界面におけるキャリヤ注入過程 34
能性がある.
このような界面層を含んだショットキー障壁高さと仕事関数の問には次の関係がある68,69)
ゆB= C1ゆMetal + C2・
(2.6)
斗iac で
C,
-ー __ciム εi+q
ðDs' (2.7)
と表される. ここでC1,C2は定数, ciは界面層の誘電率, ðは界面層の厚さ, Dsは界面準 位密度である. C1の値として,無機半導体のSi, GaAsにおいて, それぞれ0.27, 0.07 が報 告されている.
Fig 2.12におけるAl合金の添加金属の仕事関数とショットキー障壁高さの関係は直線関係 を持ち, Eq. (2.6)とよく一致する. また, その傾きは0.24であった. ここでEq. (2.6)にお いて界面層を真空(ε=ε。)と仮定し, ð を有機分子の大きさのオーダーである5Á程度と考 えるとDs= 4.0 X 1013 (sta tesjcm2 jeV)の界面準位が存在することを示す. また界面層を有 機層と仮定し,ε=3ε。とするとDs= 1.2x 1014 (sta tes/cm2/eV)となる. このようにAlq3/
金属界面に界面準位の存在(界面での有機分子の電子状態, 形状変化, 分子オーダーのラフ ネスに伴う分極の変化, 金属ないしは酸化物等による遷移層の存在,遮蔽効果との重畳現象 およびイオンの存在など)を仮定すると, 金属の仕事関数の変化に対するショットキー障壁 高さの変化が小さくなることを説明でき, これが要因の一つであると考えられる.
次に, 有機材料は固定であるという観点から, 金属表面の変化について検討する. 今回の 実験ではLiやCaといった低仕事関数金属では特にゆB>ゆMetal - EA(Alq3)の関係となるが,
酸化されやすい金属であるため, 酸化による仕事関数の増大によりショットキー障壁が増大 した可能性も考えられる. 稲葉は大気l-t-'光電子分光装置を用いて, 有機層上に蒸着した各種 電極材料の表面と有機層との界面の仕事関数を測定した70). その結果, 表面と界面では明 らかに表面の仕事関数が時間とともに増大する傾向があり, また界面の仕事関数はAILiや 'lgAg といった合金においてはその変化が極めて小さいことを報告している. 本研究におい ては, AILiやAICa といった合金を用いているため, 仕事関数変化は小さいと考えられるが,
酸化による仕事関数の増大がショットキー障壁を増大した可能性も否定できない.
Qss QM
organic layer εi metal
Qss
: surface state charge density on organic layerQM
: surface charge density on metal8
: thickness of interfaciallayerEi : dielectric constant of intelfacial layer
FIG.
2.11.
A model of an organic layer / metal contact with an interfaciallayer of the order of atomic distance第2章有機EL素子の有機膜/金属界面におけるキャリヤ注入過程 36
T ABLE 2.2.
Schottky barrier height at the Alq3 / metal interface
metal AILi Al Ca AIMg Mg
AIbarrier height (ねn) ( e V)
0.52 0.59 0.72 0.68 0.89官0.8
"
〆 〆 タ Al
<1>B
=0.24 <1>Metal -0.18 ノ
〆 〆 〆 〆 〆 タ〆AIMg 〆〆〆・ Mg 〆
J企,,"
AICa 〆 〆
ノ ノノロ AILi
J
国(マ
2 bi) ...c::: aJ
h aJ
,.J::)
記0.6
Q
-4-Jz o αコu
0.4
Li
Ca Mg Al
2
34
Work function
<1>Metal (eV)
5
FIG.
2.12. Schottky barrier height work function relationship.
Fig. 2.6 (b)の低温時の低電圧領域において, Eq. (2. 1)での近似直線からずれが生じてい る. このずれについて検討を行った. Fig. 2. 13 (α)にAILi/Alq3 (350 nm)/ AILi構造素子に おける低電流密度領域での電流惰度印加電圧特性の温度依存性を示す. この電流密度領域 では電流は印加電圧に比例していることを示す.
以下, 粛厳らによる有機電子材料における電子伝導の解説に従い検討を進める7l)•
物質中の電流はキャリヤが電界の作用で移動することに起因している. 電流密度Jが印加 電界Eに比例するとき
J二qnlLE,
(2.8)
で表される. ここでqは電街量, ηはキャリヤ密度, μはキャリヤ移動度である.
電子(あるいはホール)がキャリヤとなる場合には, 半導体と同様にバンド理論を適用で きる. しかし, 結晶半導体とは異なり, 構造が不規則なために種々の局在準位を含んでいる.
したがって, バンド構造はむしろアモルファス半導体に類似しており, 伝導体, 価電子帯は 凹凸が極めて激しい. ただしバンドギャップは一定である. 局在準位には種々の状態密度が 存在するので, 結品半導体のようにはバンド端がシャープではなく, 禁制帯中へも尾を引い ている. 局在準位に入っているキャリヤは移動度が小さいので‘ バンド端は移動度が急l峻に 変わるエネルギーで定められている.
伝導体巾で-卜分高いエネルギーを有する電子は向由電子ガスのように振る舞い
qT q入
μI二一=一一う
打l 庁�V
(2.9)
の移動度を持つ. ただし, rn,は電子の質量, Tは寿命, 入は平均向山行程 υは熱運動速度 である. 伝導体の底付近の電子は入が格子定数(モノマ一間距離)程度となり, ブラウン運 動を行って液体における拡散と同様の移動過程を示す. したがって, その移動度は
qD ανq
μ2 -kT二kT
(2.10)
となる. ただし, Dは拡散定数, αは格子間距離, vは電子のジャンプ頻度である. これら の移動過程はあくまでも伝導帯での電子移動であり, いわゆるバンド伝導となる.