欧州の民間公益事業について : フランスのヴェオ リア エンバイアメント グループ (その2)
著者 青木 真美
雑誌名 同志社商学
巻 58
号 1‑2‑3
ページ 76‑82
発行年 2006‑11‑30
権利 同志社大学商学会
ドウシシャ ダイガク ショウガッカイ
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000007353
《研究ノート》
欧州の民間公益事業について
フランスのヴェオリア エンバイアメント グループ その 2
青 木 真 美
蠢 ヴェオリア エンバイアメントの概要 蠡 水道事業会社CGEの発展
蠱 ヴィヴァンディグループの成立と分化 蠶 交通部門(コネックス)の展開
1)コネックスの概要 2)フランスの鉄道部門 3)ドイツの公共交通部門
(以上 同志社商学2003年第1〜3号掲載)
4)その他の国での活動 5)国際貨物部門の拡大
6)フランスの鉄道部門についての補足 7)今後の課題
蠹 フランスのその他の公益事業会社
Ⅳ 交通部門(コネックス)の展開
4)その他の国での活動
フランス,ドイツ以外の国でも,世界
24
カ国でバス運行を主に活動している。ヨー ロッパでは,ベルギー,チェコ,デンマーク,エストニア,フィンランド,アイルラン ド,オランダ,ノルウェー,ポーランド,ポルトガル,スロヴェニア,スペイン,スウ ェーデン,イギリス,北アメリカではカナダ,アメリカ合衆国,南アメリカでは,コロ ンビア,中東ではイスラエル,レバノン,アフリカではコモロ,オセアニアではオース トラリア,ニュージーランド,ニューカレドニア,である。2004
年には,ヨーロッパでベルギーのアントワープでのバス運行契約の獲得,チェ コのプラハの大手バス企業CSAD
プリブラム(CSAD Pribram)社の買収,デンマーク のコペンハーゲンでのバス運行契約(6年)の獲得,フィンランドのヘルシンキ近郊で の12
路線のバス運行契約の獲得,アイルランドのダブリンでの路面電車2
路線の開 業,オランダのフェルベ地域でのバス運行契約(6年)の獲得,ノルウェーのフィンマ ルク地域でのバス運行契約(5年)の獲得,ポーランドの5
つの地域でのバス運行契約 の獲得ならびにポーランド最大の公共交通企業PKS
トールン(PKS Torun)を含む7
76(76)
社の買収,スロヴァニアの首都リュブリャナを含む
2
つの地域でバス運行契約の獲得,スペインのバルセロナでの
LRT
の開業(30年契約),スウェーデンのエーテボリのフ ェリー会社の買収,を行った。アメリカ,オセアニアでは,カナダのモントリオール郊外地域のバス運行契約の獲
第1表 コネックス社の収益など(2004年)
2003 2004 2005
売上(前年比) 36.78億ユーロ(+7.4%) 36.18億ユーロ(−1.6%)43.50億ユーロ(+21.2%)
従業員数(年末現在) 56,168人 61,288人 72,302人
旅客輸送人員数 15億人 21億人 25億人
フランスの売上割合 37.4% 40.5% 40.4%
出典:Connex 2004 Annual Report 表紙2, 2006年3月16日ヒアリング資料
第2表 コネックス社の各国での状況(2004年)注1)
売上
(百万ユーロ)
従業 員数
保有
車両数 運行都市・地域など注2)
ベ ル ギ ー 68 956 612 アントワープ
チ ェ コ 61 2,220 1,332 プラハ(15路線,117台)
デ ン マ ー ク 128 2,371 875 コペンハーゲン,コルディング エ ス ト ニ ア 3 171 65
フ ィ ン ラ ン ド 39 736 390 ヘルシンキ
フ ラ ン ス 1,464 25,837 13,051 ニース,ツーロン,サンエチエンヌ,ダンケルク,ボ
ルドー,ツールーズ 他20都市
ド イ ツ 366 3,578 1,466 (鉄道が主)ベルリン,ライプチッヒ,シュレスビッ
ヒ−ホルシュタイン州,貨物鉄道 ア イ ル ラ ン ド 18 175 40 ダブリン(路面電車)
オ ラ ン ダ 201 3,253 1,199 アペルドールン
ノ ル ウ ェ ー 80 1,248 408 フィンマーク
ポ ー ラ ン ド 26 1,438 756 ボロゾゾフ,ミーレック,トールン,プルドニック,
コロブレツク他2都市
ス ロ ヴ ェ ニ ア 23 761 376 リュブリャナ,コベール,マリボール(市場の28.5%
を占める)
ス ペ イ ン 39 1,620 487 バルセロナ,パンプローナ
ス ウ ェ ー デ ン 498 7,797 2,323 エーテボリ カ ナ ダ 7 507 300 モントリオール
アメリカ合衆国 264 4,157 2,690 ボストン,ロサンゼルス,デンバー コ ロ ン ビ ア 6 384 130
イ ス ラ エ ル 7 150 101 レ バ ノ ン 1 62 30
オーストラリア 264 3,550 1,664 ヴィクトリア州,シドニー,ブリスベーン,パース ニュージーランド 3.8 145 23 オークランド
注1)特に記さない場合はバス運行
注2)主要都市のみ
出典:Connex 2004 Annual Report p 32−36
欧州の民間公益事業について(青木) (77)77
ヴェオリア環境グループ
コネックス Connex
フランス CFTA
C F T A 旅 客
C F T A 貨 物
ヴ ェ オ リ ア 貨 物 フ ラ ン ス
ドイツ Connex Deutschland
コ ネ ッ ク ス 貨 物 ロ ジ ス テ ィ ッ ク ス ド イ ツ
オランダ BBA
コ ネ ッ ク ス 貨 物 オ ラ ン ダ
得,アメリカ合衆国の南カリフォルニア通勤鉄道局(SCCRA)との鉄道運行契約(ロ サンゼルスの近郊鉄道の運行,5年間)デンバー地域でのバス運行契約の拡大,デマン ドバスの運行拡大,オーストラリアのヴィクトリア州とのバス運行契約の拡大,ブリス ベーンとパースで伸ばす運行契約の獲得,ニュージーランドのオークランド郊外鉄道の 運行開始などを行った。
5)国際貨物部門の拡大
コネックスのフランスの子会社である
CFTA
は,旅客輸送部門を行うCFTA
旅客会 社(CFTA Voyageurs)とフランス国内の11
路線で貨物輸送を行っているCFTA
貨物会 社(CFTA1
Cargo)
,物流関係のソコライユ社(Socorail)を持っていて,そのほかに,ヴェオリア貨物(Veolia Cargo France)という会社がある。
ドイツにも,コネックス貨物ロジスティックス(Connex Cargo Logistics),オランダ にもコネックス貨物(Connex Cargo)があり,これらの貨物会社は,2007年
1
月から のヨーロッパ連合内における長距離貨物への競争導入に向けて体制作りを図っている。ドイツのコネックス貨物ロジスティックスは,すでに
1994
年からドイツ国内での鉄 道貨物輸送がドイツ鉄道以外の会社にも認可されていたため,ドイツ国内の民間鉄道貨 物輸送事業者としての経験を積んできており,オランダ−ドイツ間の路線,スイス,ポ ーランド方面の路線,工場敷地内や港湾での貨物輸送などを行っている。また,2004年には貨物鉄道・通運会社のドルトムント鉄道(Dortmunder Eisenbahn)
を買収している。
────────────
1 CFTA貨物は,フランス国鉄の下請けとして,フランスの中部,東部地域の11路線で,バラスト,木 材,穀物などの貨物を年間200万トン運んでいる。ディーゼル機関車を45両保有している。
第1図 ヴィオリアトランスポートの組織と貨物鉄道会社 同志社商学 第58巻 第1・2・3号(2006年11月)
78(78)
2003
年3
月15
日に国際鉄道貨物輸送の一部自由化(民間企業の参入の容認)が実施 され,ヴェオリア貨物は,ドイツのコネックス貨物ロジスティックスと共同でフランス−ドイツ間の二つの路線について運行に向けて準備を開始し,2005年
6
月に民間企業 で初めてフランス国鉄の施設を使用して国際貨物輸送を行った。2006年3
月からは国 際鉄道貨物輸送への参入自由化が実現している。2006年5
月より,フランス国内の2
地点間の貨物輸送への参入も認められている。鉄道ネットワークに参入するには,フランス運輸省が交付する安全証明書(certificat
de sécurité)と鉄道事業免許書(licence d’entreprise
2
ferroviaire)が必要であるほか,イン
フラを管理するフランス鉄道線路公社(RFF)によるインフラに余裕があること(イン フラ能力,capacities d’infrastructure)の認証の3
つの条件が必要である。安全証明
3
書の内容については,運輸省ではなく
RFF
とフランス国鉄が決めているた めに,手続きが煩雑で取得が難しくなっている。すでに鉄道輸送で長年の経験があるヴ ェオリア社にとってはそれほどでもないが,新規参入の会社にはかなり困難が伴うと同 社ではみている。鉄道貨物輸送は,EUが奨励政策をとっているのにもかかわらず,機関分担率は
1985
年の
20% から 2005
年の10% へと後退している。鉄道貨物の顧客は,フランス国鉄の
サービス水準や信頼性の低さ,高コストに対して不満を抱いており,民間企業の参入に 大いに期待しているが,ヴェオリア側は鉄道網全体を管理している
RFF
との関係もあ4
り,顧客が期待しているような柔軟な対応はかなり難しいと考えている。
コネックス全体では貨物輸送の売上げは全売上げの
5% を占めるにすぎない。水道,
エネルギー,ゴミ処理などのヴェオリア環境グループのその他の部門では,一般消費者 でない企業関連の業務は
3
割以上を占めており,その意味では,産業との連携である貨 物輸送は大いに可能性があり,今後力を入れていく予定であ5
る。
6)フランスの鉄道部門についての補足
この項では,前回の研究ノートで触れなかったいくつかの点について言及する。
現在,CFTA旅客は,ブルターニュ地方における旅客輸送
90 km
を行っているが,フ ランス国鉄からの委託という方式をとっている。フランスでは都市交通部門について は,各地域圏(州)がフランス国鉄と契約を交わしてサービスが提供され,運賃でまか なえない部分については地域圏が助成している。CFTA は,孫請けの形となっている。────────────
2 資本金,納税状況,社会保険費の納入状況などの財政面に対するもの 3 職員の技能,知識,身体条件などについてのものである
4 RFFから電気を購入したり,操車場を借りたりしなくてはならない。また旅客輸送の場合にはフラン ス国鉄に委託していた保守や給油についても,貨物ではCFTA独自のシステムを構築しなくてはなら ない。
5 Connex 2004 Annual Report P 22
欧州の民間公益事業について(青木) (79)79
ブレスト
シャトーラン
カンペール ロスポルド
ブルターニュ地方
カレー パンぺル ランディピソー
ルーデア
レンヌ パリ方面
CFTA運営路線 CFTA貨物の拠点 フランス国鉄路線
また,この路線の線路の保守についても,RFFとフランス国鉄が保守契約を結び,そ れをさらに
CFTA
に委託している。地域圏との契約方式は
2002
年に導入されたばかりで,フランス国鉄が独占的な事業 者となっているが,今後は他の企業の参入が認められる予定である。CFTAは,ブルタ ーニュ地方ばかりでなくほかの地域でも,地域圏やRFF
との直接契約の形をとるよう 努力している。なお,CFTAは通常の旅客輸送・貨物輸送のほかに,蒸気機関車を使った観光鉄道も 運営している。その部門はコネックス トラディション(Connex Tradition)という名 称で,バスク地方,アルプス,プロバンスの
3
路線の山岳鉄道とブルターニュ地方での1
路線を運行し,年間70
万人の観光客が利用している。7)今後の課題
2005
年12
月のEU
運輸閣僚理事会において,国際貨物輸送に引き続き国際旅客輸送 の自由化も2010
年を目標に開始されることで合意がなされた。ドイツでの長距離旅客 輸送の運営などの経験があるコネックス社にとっては,ビジネスチャンスが拡大するこ とになり,非常に好調な都市交通の委託運営と並んで同社の業務の大きな柱となろう。その一方で,お膝元のフランスでは
RFF
やフランス国鉄が大きな障害となってい る。前記の安全証明書の件や,地域圏との直接契約についても,RFFやフランス国鉄 が自らの独占的立場を最大限に利用して市場参入をさまざまな手段で阻止しようとして第2図 CFTA旅客・貨物
同志社商学 第58巻 第1・2・3号(2006年11月)
80(80)
いるために,CFTAは苦しい立場にある。
フランス政府自体も完全な参入自由化には否定的で,基本的には
RFF
やフランス国 鉄が以前と同様の独占的地位を占め,一部の地域の都市交通や長距離輸送に参入を認め るという姿勢であるために,フランスでの鉄道輸送についての飛躍はむずかしい。フランス国鉄が関与しない都市交通部門(バス,路面電車,地下鉄)やフランス以外 の国での運行契約の獲得が当面は同社の大きな市場となろう。
また,わが国の第三セクター鉄道も同様の問題を抱えているが,特に鉄道部門につい ては人材の確保が難しく,自社で養成機関を立ち上げようとしている。専門教育につい ては,フランス国鉄の養成コースを受けていたが,1回
12
名と人数も少なくコストも 高いため,自前で持つことにしたのである。2005年のように年間20% 以上も売上げが
増大し,1万人以上も従業員が増加している状況では,こうした措置も十分合理的なも のであるといえ6
る。
Ⅴ フランスのその他の公共交通委託会社
CFTA
以外にも,バスや路面電車の運行委託を行っている主な会社は2
社あり,ケオ リ社(Keolis)とトランスデヴ社(Transdev)である。ケオリ社はリヨンやリールの自────────────
6 交通部門ばかりでなく,他の3部門(水道,エネルギー,ゴミ処理)もあわせた養成機関になる予定で ある。
第3表 フランスの民間公共交通会社 2005年
CFTA ケオリ注1) トランスデヴ
従 業 員 数 72,300人 30,800人 25,975人 資 本 関 係 − 3 i社(投資会社)52.5%
フランス国鉄 44.5%
出資会社 50%注2)
開発基金 42%
売 上 43.5億ユーロ
(海外比率60%)
22億ユーロ
(海外比率40%)
15億ユーロ
(海外比率56%)
運行都市・
地 域 数
26カ国 5000都市・地域
8カ国
200都市・地域 84都市・地域
路 線 長 鉄軌道 7,000 km
VAL 66 km
地下鉄 15 km
路面電車 57 km
鉄道 2,400 km
地下鉄路面電車392 km
(バス1億6900万km)
(鉄道 130万km)注3)
車 両 鉄軌道車両 3,700両
バス 25,500台
バス 12,000台
トロリーバス 100台
地下鉄 58編成 路面電車 710両
バス 8,000台
輸 送 量 旅客 25億人 旅客 15億人 鉄軌道のみ 3.2億人
注1)2006年9月で3 i社は出資を引き上げ,実質フランス国鉄の子会社となった。
注2)開発基金(CDD : Caisse de Depot)とRATP(パリ運輸公社)が共同出資した会社
注3)バスと鉄道は,年間延運行距離
出典:CFTA 2006年3月16日ヒアリング資料,ケオリ社,トランスデヴ社 各社HP
欧州の民間公益事業について(青木) (81)81
動運転地下鉄(無人地下鉄)VALを運行しており,トランズデヴ社は路面電車の運行 が主である。
第
3
表からも明らかなように,ケオリ社はフランス国鉄,トランスデヴ社はパリ運輸 公社(国営,パリ都市圏の都市交通事業者)の子会社であり,実質的には公営交通事業 である。つまり,純粋な民間ベースの会社はCFTA
だけである。また,この3
社で運 行委託の8
割を請け負っており,寡占的な状態にあるといえる。CFTA
社の今後の課題の項でも述べたように,この3
社は主に都市交通の分野で各市 町村からの委託を受けて行うバスやLRT
のサービスを中心に活動している。CFTA社 の戦略として,貨物輸送の分野への進出を打ち出したのは,これらの同業他社の国営事 業の子会社という立場に対抗するものとしても意味があると考えられよう。(以上)
参考文献
CFTA Bretagne:ヒアリング資料 1998.11
Connex : Connex International(Network South-East)England 1997 Connex Regiobahn:ヒアリング資料 2003. 4
Connex Verkehr : Coming Trains,Deutschland 2003. 4 Connex Verkehr : Veolia EnvironnementDeutschland 2003
Veolia Environnement : World Leader in environmental solutionsFrance 2006. 3 Veolia Environnement : Connex 2004 Annual ReportFrance 2005
Veolia Environnement : Planete OVEFrance 2006. 2 Veolia Environnement:ヒアリング資料 2006. 3
同志社商学 第58巻 第1・2・3号(2006年11月)
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