• 検索結果がありません。

介護費用の地域特性 : 近畿地方における介護費用 支出の分析

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "介護費用の地域特性 : 近畿地方における介護費用 支出の分析"

Copied!
15
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

介護費用の地域特性 : 近畿地方における介護費用 支出の分析

著者 船橋 恒裕

雑誌名 經濟學論叢

巻 59

号 4

ページ 439‑452

発行年 2008‑03‑20

権利 同志社大學經濟學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012340

(2)

【論 説】

介護費用の地域特性

―近畿地方における介護費用支出の分析―

船 橋 恒 裕  

1 は じ め に

 高齢化が進み,膨らむ医療費の伸びをどうすれば抑制できるのか.社会的入 院,終末期医療を減らし在宅介護へ,ということで2000年度(平成12年度)に 制度化されたのが公的介護保険であった.介護費用は,2000年度(平成12年度)

では3.6兆円,2005年度(平成17年度)では6.3兆円と増加の一途をたどっている.

65歳以上の高齢者の要支援者および要介護者数1)は急速に増加しており,特に 75歳以上の後期高齢者でその割合が高い.介護保険制度における要介護者また は要支援者と認定された者のうち,65歳以上の者の数についてみると,2005年 度(平成17年度)末で417.5万人となっている.2000年度(平成12年度)末から

170.4万人増加しており,高齢者人口の16.6%を占めている(厚生労働省老健局『介

護保険事業状況報告(平成17年版)』,内閣府『高齢社会白書(平成19年版)』)2).さら

1) 要介護状態とは,身体上または精神上の障害があるために,入浴,排せつ,食事等の日常生 活における基本的な動作の全部または一部について,一定期間にわたり,継続して,常時介護 を要すると見込まれる状態を指す.また,要支援状態は,要介護状態に至らないが,身体上ま たは精神上の障害があるために,一定期間にわたり継続して,日常生活を営むのに支障がある と見込まれる状態を指している.

2) 65歳以上75歳未満の前期高齢者と75歳以上の後期高齢者については,それぞれ2005年度(平

17年度)末で要支援,要介護の認定を受けた者の割合をみると,前期高齢者は要支援の認定 を受けた者が0.9%,要介護の認定を受けた者が3.9%であるのに対して,後期高齢者で要支援 の認定を受けた者は4.9%,要介護の認定を受けた者は24.7%となっており,後期高齢者になる と要介護の認定を受ける者の割合が大きく上昇している(厚生労働省老健局『介護保険事業状 況報告(平成17年版)』,内閣府『高齢社会白書(平成19年版)』).

(3)

に,2007年(平成19年)4月末現在の要介護および要支援認定者数は440.8万 人となっている(厚生労働省老健局『介護保険事業状況報告の概要(平成19年4月 暫定版)』).また,地方に介護事業者およびその事業所数が少ないなど,介護 サービスの地域間格差の問題も大きくなってきた3).そこで,以前に,近畿 地方の医療費支出について分析したことから4),本稿では,近畿地方について,

介護保険についてはどのような結果となるのか,介護費用の増加におよぼす 要因が何であるのか,地域において特徴や大きな違いがあるのかを,医療と の関係を含めて分析を行う.なお,2005年度(平成17年度)の第1号被保険 者の1人当たり介護費は237.0千円.同じく,近畿各府県の第1号被保険者 の1人当たり介護費は,滋賀県231.4千円(全国16位),京都府251.3千円(全 国24位),大阪府243.8千円(全国22位),兵庫県241.6千円(全国21位),奈 良県225.6千円(全国13位),和歌山県268.0千円(全国33位)であった(厚生 労働省老健局『介護保険事業状況報告』(平成17年度)から作成).

 具体的には,介護保険における介護費用が,何を要因として,どのように 変化するのかについて府県ごとに回帰分析を行う.第2章にて,仮説と推定 モデルおよびデータについての説明を行い,第3章において,推定結果を示し,

その分析を行いたい.

2 仮説と推定式およびデータ

2. 1 仮説と推定式

 本稿では介護保険費用について分析を行いたい.家計の介護費用への支出 に影響を与える要因は何であろうか.家計の総消費支出について考える場合 と同様なのだろうか.通常,家計の総消費支出には,所得が大きな影響を与 えていると考えられる.しかし,介護という特殊な財・サービスを考えた場合,

所得や介護サービスの料金や介護用品の使用価格(レンタル価格),購入価格以 上に,その他の要因が介護支出に大きな影響を与えるように思われる.要介

3) 介護費用の地域格差については前田(2002)に詳しい.

4) 船橋(2005)を参照.

(4)

護者の介護サービスを受けなければならないという必要性の大きさやその生 活環境,要介護者と介護事業者や行政との情報の非対称性の存在,介護保険 の自己負担額の割合が1割負担と小さいことなど,介護保険制度が持つ制度 的な性格などを考えると,価格のような消費者の需要に対して,大きな判断 材料となる変数は,あまり影響を与えないと考える方が正しいであろう.

 このような考えから,本稿では,所得の他に,老年人口,高齢者世帯数,

人口密度,老人ホーム数,介護給付件数などの要因が,介護保険の支出に対 して,どのような影響を与えるのかを分析する.

 まず,所得が消費支出に影響を与えるという仮説は,ケインズの消費関数 の理論5),さらに,その他の消費者行動を表す理論においても,すでに当然 のこととなっている.総消費の一部分を占める介護支出も,所得,特に可処 分所得の大きさにより,影響を受けると考えられる.

 次に,人口の高齢化を表している65歳以上の高齢者の人数を示す老年人口 についてである.ライフサイクル仮説,重複世代モデルでは,人々は,若年 期に労働によって所得を得て,一部を定年退職後のために貯蓄し,高齢期に その貯蓄によって生計を立てると考えられている6).すなわち,総人口に占 める高齢者の割合が多くなるほど,人口全体における貯蓄性向が小さくなり,

逆に,消費性向は大きくなると考えられる.介護に対する支出についても,

高齢化によって支出額自体の増加が起こると考えられる.

 高齢者世帯については,高齢者のみの世帯という状況が,三世代同居など の大家族に比べて,介護サービスに与える影響が大きいのかどうかというこ とである.ただし,高齢者世帯が増えるということが,介護サービスの増加 につながるのかは判断しづらい.

 人口密度は,都市部と過疎の地域とで介護保険サービスの利用状況が異な るのか,介護費用が異なるのかを分析する.過疎地の方が,高齢者比率が高 いという影響を受けると思われる.また,介護保険制度は要介護者の要介護

5) Keynes(1936)参照.

6) Samuelson(1958)やDiamond(1965)などを参照.

(5)

7)に応じて利用限度額が決められているが,要介護者にとって,身近な距 離に介護事業者やその事業所,デイサービス(日帰り介護,通所リハビリ)など の施設がある方が,利用頻度が増え費用も高くなるとも考えられる.

 老人ホームについては,施設介護と自宅介護,デイサービスなどにより費 用に違いができるかをみる.介護保険制度設立の際の理由の一つとして,医 療施設への入院や介護施設への入所に対して,自宅介護の方が費用削減にな るといわれたが,実際に,施設介護に比べて,自宅介護やデイサービスなど の費用が低く抑えられているのかをみている.

 介護給付件数は,要支援,要介護度の違いにおいて,件数の変化が費用にど のような影響を与えるのかを見てみたい.ただし,要支援と要介護1から5ま での6つの変数を入れると説明変数が多くなりすぎるために,軽度である要支 援と要介護1の合計,中度に値する要介護2と要介護3の合計,重度に相当す る要介護4と要介護5の合計というように,3つの階級にまとめている8).  これらの仮定をもとに推定式は以下のようになる.

  推定式

    NCij=α0+α1YTij+α2OLDij+α4 AHij+α5 PDij+α5 NHij

      +α6 NCAij+α7 NCBij+α8 NCCij+ εij (1)  

 下付き文字のiは各府県,jは市町村を表している.推定結果は第3章で示 されている.各変数については,次の2. 2データで説明する.

2. 2 デ ー タ

 次に,推定に使用されるデータについて説明する.サンプルは各府県の市

7) 要介護度とは被保険者の介護を必要とする度合いを示している.

8) 2007年度(平成19年度)現在の介護保険制度では,最も軽度の要支援1,要支援2,そして

要介護1,要介護2,要介護3,要介護4,最も介護を必要とされる最重度の要介護57段階

に分けられている.

(6)

町村別のデータである9)

 まず,被説明変数である介護費用(NC)については,厚生労働省老健局『介 護保険事業状況報告』の保険者別保険給付(介護給付・予防給付)の総数(費用額)

である(単位:10万円).

 次に,説明変数であるが,所得に関しては,各市町村の課税対象所得(YT) で,資料源は日本マーケティング教育センター『個人所得指標』である(単位:

1億円).

 高齢者の人数を表す老年人口は,65歳以上の人口(OLD)である.この統 計データの資料源は,総務省統計局『国勢調査報告』である(単位:人).  高齢者世帯(AH)については,総務省統計局『国勢調査報告』の世帯数に 関する調査より,「高齢夫婦世帯」,「高齢単身世帯」について入手,これらを 合計している(単位:1世帯).高齢夫婦世帯とは,「夫65歳以上,妻60歳以 上の夫婦一組の一般世帯(他の世帯員がいないもの)」を意味し,高齢単身世帯 とは「65歳以上の者1人のみの一般世帯」を指している10)

 人口密度(PD)は,総務省統計局『国勢調査報告』の人口総数と,同じく総 務省統計局『国勢調査報告』の可住地面積から算出している(単位:人/㎞11).  老人ホーム(NH)については,資料源は厚生労働省大臣官房統計情報部「社 会福祉施設等調査報告」,および老人ホームのうち「特別養護老人ホーム」は,

厚生労働省大臣官房統計情報部「介護サービス施設・事業所調査報告」であ る(単位:1所).

 介護給付件数を表す(NCA)は,厚生労働省老健局『介護保険事業状況報告』

9) 2005年のデータを使用している.

10) なお,一般世帯とは,(1)住居と生計を共にしている人の集まり,または一戸を構えて住ん でいる単身者(ただし,これらの世帯と住居を共にする単身の住み込みの雇人については,人 数に関係なく雇主の世帯に含める),(2)上記の世帯と住居を共にし,別に生計を維持してい る間借りの単身者,または下宿屋などに下宿している単身者,(3)会社・団体・商店・官公庁 などの寄宿舎,独身寮などに居住している単身者などであり,それぞれが一般世帯になる.他 方,寮などで起居を共にし,通学している学生・生徒の集まり,老人ホームなど社会施設の入 居者の集まりなどは,棟ごと,施設ごとに施設等の世帯となる.

11) 可住地面積は,北方地域および竹島を除いた総面積から林野面積と主要湖沼面積を差し引い て算出したものである.

(7)

の保険者別保険給付(介護給付・予防給付)の総数(件数)の要支援と要介護1 の合計,同じく(NCB)は要介護2と要介護3の合計,(NCC)は要介護4と 要介護5の合計である.

3 推定結果と分析

 クロスセクションによる回帰分析を以上の仮説と推定モデルおよびデータ をもとに行った.推定結果は第 1 表から第 6 表に示されている.

 結果は,自由度修正済み決定係数は,いずれの府県においても大きかった.

また,各府県において有意になる変数,ならなかった変数は,異なる結果となっ た.これは,地域において介護保険費用の与える影響が,必ずしも一致しな いということになる.

 まず,各市町村の課税対象所得(YT)であるが,符号がプラスになるケース,

反対にマイナスになるケース,また,有意になるケース,有意にならないケー スというように結果が分かれた.通常,可処分所得の増加は,財・サービス の支出増をもたらすと考えられるが,介護サービスという主に高齢者が利用 する特殊な財・サービスを考えると,所得の増減以上に個人のサービスへの 必要性が需要(=支出)を大きく左右すると思われる.また,可処分所得を入 手できず変数に課税対象所得を使用しているということから,多くの高齢者 の課税対象所得が少ないという点も,推定結果に影響を与えているであろう.

 高齢者の人数を表す65歳以上の老年人口(OLD)については,近畿地方い ずれの府県の場合も,仮説通り,有意で符号がプラスという結果となった.

制度上,介護保険の利用者が,第1号被保険者に当たる65歳以上の高齢者に 当たるということから,高齢者人口の増減が介護保険の費用に強く影響して いるということになる.

(8)

第 1 表

滋賀 *5%水準で有意 **1%水準で有意

変数 係数 t‐値 変数 係数 t‐値

定数項 -522.0 -0.777 NH -49.2 -0.226

YT -3.24 -1.17 NCA 4.36 5.02**

OLD 1.49 4.86** NCB 2.29 1.33

AH -0.886 -1.39 NCC 3.77 2.01

PD 0.745 0.858 自由度修正済み決定係数=0.9990

第 2 表

京都 *5%水準で有意 **1%水準で有意

変数 係数 t‐値 変数 係数 t‐値

定数項 -241.5 -0.318 NH -649.4 -2.45**

YT -3.92 -1.23 NCA 8.85 4.28**

OLD 1.65 3.56** NCB 11.5 3.30**

AH -4.79 -2.68* NCC -1.42 -0.551

PD 0.429 1.32 自由度修正済み決定係数=0.9998

第 3 表

大阪 *5%水準で有意 **1%水準で有意

変数 係数 t‐値 変数 係数 t‐値

定数項 -400.2 -0.331 NH -151.9 -0.554 YT -2.80 -2.54* NCA 4.95 6.89**

OLD 1.06 2.28* NCB 4.61 2.12*

AH -1.85 -3.87** NCC 8.85 3.86**

PD 0.315 1.10 自由度修正済み決定係数=0.9998

兵庫 *5%水準で有意 **1%水準で有意

変数 係数 t‐値 変数 係数 t‐値

定数項 1112.6 2.31* NH -17.1 -0.117

YT 1.60 2.44* NCA 5.78 12.0**

OLD 0.911 6.98** NCB 7.02 8.73**

AH -1.81 -6.90** NCC 1.84 2.03*

PD -0.431 -2.64* 自由度修正済み決定係数=0.9999 第 4 表

(9)

 次に,高齢者世帯(AH)であるが,推定結果は,京都,大阪,兵庫といっ た 都市部が多くを占める府県では有意となり,しかも符号はマイナスとなっ た.都市部の世帯形態は,三世代同居のような大家族に比べて,核家族が多 くを占めており,高齢者についても高齢者単身の世帯や高齢者夫婦のみの世 帯が多いと思われる.高齢者のみの世帯においては,介護する家族がいない ことにより,遠方にいる子供などの家族によって,在宅介護で十分なような 要介護者であっても入院させられてしまうと予測される.船橋(2005)(2006)

では,都市部が多くを占める府県では,医療費支出に対する高齢者世帯の推 定結果が有意で符号がプラスとなっている.高齢者のみの世帯においては,

介護する家族がいないことにより,通院でいい場合でも入院したり,いった ん入院すると入院期間が長くなったりすると予測される12).また,都市部で は,入院設備の整った医療施設も多数存在し,容易に入院することが可能で

第 5 表

奈良 *5%水準で有意 **1%水準で有意

変数 係数 t‐値 変数 係数 t‐値

定数項 518.7 1.29 NH 137.5 0.907

YT -1.33 -0.762 NCA 3.23 2.56*

OLD 1.41 2.29* NCB 2.19 0.751

AH -0.27 -0.350 NCC 1.64 0.601 PD -0.17 -0.912 自由度修正済み決定係数=0.9977

第 6 表

和歌山 *5%水準で有意 **1%水準で有意

変数 係数 t‐値 変数 係数 t‐値

定数項 -158.2 -0.252 NH 448.0 2.75*

YT 8.29 1.98 NCA -0.834 -0.504

OLD 1.63 4.95** NCB 1.08 0.424

AH -0.721 -0.940 NCC 3.41 1.57 PD -0.834 -0.504 自由度修正済み決定係数=0.9992

12) 都市と地方の入院形態などの特徴については前田(2000)に詳しい.高齢者の医療費と介護 費の関係については,前田(2002)(2006)で分析されている.

(10)

ある13).さらに,常識的に考えると,介護が必要な高齢者は子供などの家族 と同居している,または同居せざるを得ないのかもしれない.推定結果もこ れにある程度合致したものであると思われる.

 人口密度(PD)は,兵庫でのみ有意となり,符号はマイナスとなった.こ れは過疎地の方が費用増になると考えられる.ただし,介護事業者やデイサー ビスなどの事業所数や施設数およびそれらへの移動距離の影響については,

自治体ごとの介護事業者数やその事業所数,施設数などを考慮に入れていな いので明確な判断はできない14)

 老人ホーム(NH)については,京都と和歌山で有意であったが符号は異なっ ていた.2005年度(平成17年度)の第1号被保険者の1人当たり介護費が,

和歌山268.0千円(全国33位)に比べて,京都251.3千円(全国24位)である というように,和歌山が全国的に見て高額であるなど,地域による特性や各 府県の介護行政の影響も考えられるので,ここでは,実際に,介護施設への 入所に対して,自宅介護の方が費用削減になるのかはわからない.また,老 人ホームには介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の他に,養護老人ホーム,

軽費老人ホーム,有料老人ホームも含まれることも,推定結果に影響を与え ているのかもしれない15)

 最後に,介護給付件数を表す(NCA),(NCB),(NCC)の3つの変数につい てである.結果は,和歌山では有意にならなかったが,和歌山を除くすべて の府県では影響を及ぼしているということが示された.また,多くの府県で,

13) 医師や医療施設が患者の需要行動に与える影響については,中西(1995)(2000),漆(1998),

増原他(2002)などを参照.医師数(医療施設数)と医療サービス需要の関係を表す理論とし ては,医師誘発需要の理論(Evans(1974)),時間費用の理論(Phelps and Newhouse(1974),

Cauley(1987),Mueller(1985),小椋(1990)),医療サービスの探索理論(Satterthwaite(1979),

Pauly and Satterthwaite(1981))などがある.

14) 医療分野では,前述したように,医師数(医療施設数)と医療サービス需要の関係を表す理 論として,医師誘発需要の理論,時間費用の理論,医療サービスの探索理論などがあり,その Newhouse(1970)をはじめ,西村(1987),中西(1995),漆(1998),泉田・中西・漆(1998)

などの分析が多数存在するが,介護サービスにおいても,このような介護事業者の介護サービ ス需要への影響があるのかを分析したものとして湯田(2005),佐藤・長山(2005)などがある.

15) 居宅給付と施設給付の決定要因について分析したものとして,田近・菊池(2005)がある.

(11)

要介護度が軽度のケースでの件数の増減の影響が,重度の場合よりも大きい ということが示された.

4 む す び

 本稿では,介護保険の費用について,各府県の市町村別のデータを用いて 回帰分析を行った.

 推定結果から,全ての府県において高齢化を示す変数の老年人口が介護保 険費用の増加に大きくかかわっていること,要介護度が軽度のケースでの件 数の増減の影響が重度の場合よりも大きいということが示された.

 また,高齢者のみの世帯は,三世代世帯などのその他の世帯に比べて介護 費用が少ないという結果となった.このことから,入院設備の整った医療施 設が多数存在し容易に入院することが可能な地域であれば,介護できる家族 がいないことから,遠方にいる子供などの家族により,在宅介護で十分と思 われるような要介護者であっても入院させられてしまうと考えられる.ある いは,介護が必要な高齢者は子供などの家族と同居している,または同居せ ざるを得ないと予測される.今後の高齢化の進行により,高齢者のみの世帯 も激増すると思われる.現行の介護保険制度は,療養病床などの入院施設を 減らし,在宅介護中心へ移行しようとしている.しかしながら,このような 結果は,現行の制度の維持は困難であることを示しているのかもしれない16)

付 記

この研究は,平成18年度私立大学等経常費補助金特別補助高度化推進特別経費大学院

16) 厚生労働省は,長期入院患者のための療養病床を2012年度までに現在の38万床から15

床に減らす予定である.削減する約23万床のうち約15万~17万床は老人保健施設,残りの 6万~8万床は有料老人ホームやケアハウスなどの居住系施設や在宅に転換を促す考えであ る.医療の必要度が低い社会的入院を減らして医療費の伸びを抑制する狙いだが,施設の転換 が円滑に進むのか.患者が必要な医療をきちんと受けられるのか.介護保険費用の利用者負担 を払うことができない場合は,結果的に家庭に帰すことになってしまうのではないのかなどの 批判がでている(200621日『朝日新聞』他).

(12)

重点特別経費(研究科分)の助成を受けて行われた.

【参考文献】

Caul ey, S.D., (1987)“The Time Price of Medical Care,”The Review of Economics and Stastitics, Vol.69, No.1, Feb., pp.59―66.

Diam ond, Peter A., (1965)“National Debt in a Neoclassical Growth Model,”The American Economic Review, Vol.55, No.5, Dec., pp.1126―1150.

Evan s,R.G., (1974) “Supplier-Induced Demand: Some Empilical Evidence and Implications,” M. Perlman, ed., The Economics of Health and Medical Care, John Wiley, pp.162―173.

Keyn es, J.M., (1936) The General Theory of Employment, Interest and Money, Macmillan, London.

New house, J. P., (1970)“A Model of Physician Pricing,”The Southern Economic Journal, Vol.37, No.2, October, pp. 174―183.

Muel ler, C.D., (1985)“Wating for Physicians' Services: Model and Evidence, ”The Journal of Business,Vol.58, No.2, April, pp.173―190.

Pauly , M.V., and M. A. Satterthwaite, (1981)“The Price of Primary Care Physicians' Service:

A Test of the Role of Consumer Information,”The Bell Journal of Economics, Vol.12, No.2, Autumn, pp.488―506.

Phelp s, C.E., and J. P. Newhouse, (1974)“Coinsurance, the Price of Time, and the Demand for Medical Services,”The Review of Economics and Statistics, Vol.56, No.3, August, pp.334

―342.

Samu elson, Paul A., (1958)“An Exact Consumption Loan Model of Interest with or without the Social Contrivance of Money,”The Journal of Political Economy, Vol.66, No.6, Dec., pp.467―482.

Satte rthwaite, M.A., (1979)“Consumer Information, Equilibrium Industry Price, and the Number of Sellers,”The Bell Journal of Economics, Vol.10, No.2, Autumn, pp.483―502.

船橋 恒裕,(2005)「医療費支出の地域的特性の分析 近畿圏における医療費支出の特

(13)

性について 」『經濟學論叢』(同志社大学)第56巻第4号,pp.117―131.

船橋 恒裕,(2006)「医療費の地域格差について 国民健康保険における医療費支出の 分析 」『經濟學論叢』(同志社大学)第58巻第1号,pp.43―60.

泉田 信行・中西悟志・漆博雄,(1998)「医師誘発需要仮説の実証分析支出関数アプロー チによる老人医療費の分析」『季刊社会保障研究』(国立社会保障・人口問題研究所)

第33巻第4号,pp.374―381.

前田 由美子,(2000)「国民健康保険医療費マップの分析 なぜ山口県の医療費は1位 になるのか.なぜ鹿児島県の医療費は高騰しているのか 」日医総研ワーキング ペーパー,日本医師会総合政策研究機構,No.39.

前田 由美子,(2002)「高齢者の医療費と介護費用の分析 地域格差を中心に 」日 医総研ワーキングペーパー,日本医師会総合政策研究機構,No.76.

前田 由美子,(2006)「国民医療費・介護費の現状分析と国民医療費の将来推計(2004 年度版)」日医総研ワーキングペーパー,日本医師会総合政策研究機構,No.135.

増原 宏明・今野広紀・比左章一・鴇田忠彦,(2002)「医療保険と患者の受診行動 国 民健康保険と組合健康保険のレセプトによる分析 」『季刊社会保障研究』(国立 社会保障・人口問題研究所)第38巻第1号,pp.4―13.

中西 悟志,(1995)「健康と医療需要の決定要因」,鴇田忠彦編『日本の医療経済』東洋 経済新報社,所収,pp.25―39.

中西 悟志,(2000)「家計の医療サービス需要行動 動的需要関数の推定 」『医療 経済研究』Vol.7, pp.65―75.

西村周三,(1987)『医療の経済分析』東洋経済新報社.

小椋 正立,(1990)「医療需要の価格弾力性に関する予備的考察」,金森久雄・伊部英男 編『高齢化社会の経済学』東京大学出版会,所収,pp.189―220.

佐藤 忍・長山貴之,(2005)「介護保険サービスの利用状況 香川県木田郡三木町の事 例 」『香川大学經濟論叢』(香川大学)第78巻第2号,pp.95―208.

田近 栄治・菊池潤,(2005)「介護保険財政の展開 居宅給付費増大の要因 」『季 刊社会保障研究』(国立社会保障・人口問題研究所)第39巻第2号,pp.174―188.

漆博雄編,(1998)『医療経済学』東京大学出版会.

湯田 道生,(2005)「介護事業者密度が介護サービス需要に与える影響」『季刊社会保障

(14)

研究』(国立社会保障・人口問題研究所)第40巻第4号,pp.373―386.

(ふなはし つねひろ・同志社大学経済学部)

(15)

The Doshisha University Economic Review Vol.59 No.4 Abstract

Tsunehiro FUNAHASHI, The Regional Characteristic of Nursing Care Expenditure:Analysis of Nursing Cost Expenditure in the Kinki Region

  It is said that there are large regional differences in the nursing service as well as in the medical service. This paper points out the main factor that affects the nursing care expenditure in the Kinki region and indicates whether each district has a feature or difference of its own. In conclusion it is clarified by the regression analysis in nursing care insurance that “Elderly population” is linked closely with an increase in the nursing care expenditure in all the prefectures in the Kinki region.

In addition the fact is shown that “The number of nursing care benefits” and “Aged households” have effects on the nursing care expenditure.

参照

関連したドキュメント

For the assessment of the care burden we used the Japanese Version of the Zarit Caregiver Burden Interview (J- ZBI) and compared it with the caregiver’s age, relationship, care term

居宅介護住宅改修費及び介護予防住宅改修費の支給について 介護保険における居宅介護住宅改修費及び居宅支援住宅改修費の支給に関しては、介護保険法

17 委員 石原 美千代 北区保健所長 18 委員 菊池 誠樹 健康福祉課長 19 委員 飯窪 英一 健康推進課長 20 委員 岩田 直子 高齢福祉課長

一、 利用者の人権、意思の尊重 一、 契約に基づく介護サービス 一、 常に目配り、気配り、心配り 一、 社会への還元、地域への貢献.. 安

Amount of Remuneration, etc. The Company does not pay to Directors who concurrently serve as Executive Officer the remuneration paid to Directors. Therefore, “Number of Persons”

一方、介護保険法においては、各市町村に設置される地域包括支援センターにおけ

 This study was designed to identify concept of “Individualized nursing care” by analyzing literature of Japanese nursing care in accordance with Rodgers’ concept analysis

411 件の回答がありました。内容別に見ると、 「介護保険制度・介護サービス」につい ての意見が 149 件と最も多く、次いで「在宅介護・介護者」が