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保育活動 における親 一保育者 関係づ くりの検討

井 口 均

Ana l ys ュ sO fI nt e r pe r s o na lRe l a t i o ns hi pb e t we e nPa r e nt sa ndTe a c he r i nKi nd e r g a r t e na ndDa yNur s e r y

HitoshiINOKUCHⅠ

1.は じめに

ここ数年,保育で問題 にされ る関係づ くりは,単 に挨拶や世間話 を交わせ る間柄程度の 関係ではない。子 どもたちの成長 ・発達を一緒 に考え,親 として, また保育実践者 と して の成長をお互 いに支え合いなが ら,園 と家庭でそれぞれが協力 ・共同 してい く関係である

当然の ことなが ら,親が園の保育内容 に意見を言え る し,保育活動 に参加す ることもで き なければな らない。保育者 も家庭での親子 の過 ごし方や生活活動の内容 についての要望や 助言を率直に言える関係でなければな らない。 その意味でで,親密 な関係であ りたい。

なぜそ こまで して親 と保育者の関係 を親密 な ものになるように,お互 いの信頼関係 を問 題 に しなければな らないのであろ うか。 この点 に関 しては鈴木が的確な指摘 を している1)0 つ まり,親 と保育者 の関係 は,保育実践 にとって は 「中心的問題」 なのである

「親 との 連携」 とい う言葉 は既 に一般的な ものにな っているが, 日本では 「周辺的問題」 として扱 われることが多い。親か らの苦情 などを事前 に処理 し,園での保育実践や行事活動 をよ り スムーズに進 め るための 「手段 や方法」 と理解 されて いるか らであろ う。本来 な らば,

「親 と保育者 の関係の問題 は,保育 の中心 に位置づ け られ る重要 な課題」 でなければな ら ず,「親 との

いい関係づ くり』 は 『良質 な保育の中心課題』として職員同士や子 どもと の関係 と同列」 に扱われる必要がある なぜな らば,子 どもの保育内容 は園の中だけで構 想す るものではな くて,子 どもの生活全体, とりわ け,「親 の労働や生活 の実態,子育て の実態の うえに構想 されるべ き」 ことだか らである また,子 どもを育てる責任 は親だけ で もない し,保育者だけで もない。「共 に子 どもを育て,保育を作 り出す」関係 にある

そのため,親 と保育者が対等 に関われ る関係づ くりをす ることが重要 なのである0

信頼関係 を論 じることはある意味で難 しい。「それを述べ る人 自身が,多 くの人の信頼 を得 るに足 る人であること」 が求 め られ るか らである2)。実際 は, そ うい う人が稀 なだけ に説得力 に欠 けるものが多い。道徳,規範意識,正義,倫理 などを説 く場合で も同 じこと で,読 み手(又 は聞 き手)はその ことを論 じる当の本人 の人格的傾向 と切 り離 し, その論 の みを読み とることはあ り得ない。筆者 の場合 も,おそ らくそ うした事例の1つに加え られ ることになることを自覚 している。 また, もう1つの問題 は,信頼 とい う言葉の概念が必 ず しも明確ではないことも関係 している 人間の社会生活場面 においては,人 との親密 な

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50 長崎大学教育学部紀要 一 教育科学 一 70

関係 に限 らず,人格発達で も発達課題 の1つ と して信頼が位置づ け られている理論 さえあ る しか しなが ら,研究 レベルでは十分 な解明がなされていないのである。 その原因 とし て,信頼の多義性 を指摘す る研究者 もいる3)。 つ まり, それを個人特性 とみ るか関係特性

とみ るか とい った異 なる立場があるし,用語 として も信念,期待,安心 などとの違 いが明 確ではない。 それに,臨床的経験をふ まえた記述的研究などがまだ多いことが関係 してい ると思われ る そのよう問題があることを承知 の上で,信頼関係を論 じた資料 を もとに, 保育や教育場面で問題 にな っている,親 と保育者 との信頼関係づ くりに若干 の検討 を加え

冒頭でふれた,保育の場 における親 と保育者 との関係づ くりの困難 さに関 して, どのよ うな ことが背景 として挙 げ られているのかをまず検討す る。次 に, い くつかの資料 を もと に,信頼及 び信頼関係 に対す る基本的な枠組みについて検討す る。 その枠組みか ら,今 日 の保育の場 における親 と保育者の関係づ くりに焦点 をあて,信頼形成 に向けた課題設定を 試み る。

2.親 と保育者の関係づ くりの困難 さ

まず保育運動 に関わ って きた研究者 による分析 を検討 してみよ う 親 と保育者の関係づ くりの困難 さは,急 に発生 した事態 とは考えに くい。やはり戦後の社会的変化 の中で今 日 の困難 さが次第 に顕在化 して きた もの と考え る。 その背景 につ いて,鈴木 は3つの ことを 指摘 した4)。第1は,高度経済成長後,親 の生活実態 と意識が変化す る中で,保育や子育 てへの要求の中身が親 と保育者で次第 に違 って きた ことを挙げている 第2に,国の政策 やマスコ ミが親 に対す る批判的な見方 を流布 し,保育者 にマイナスイメー ジを与えている のではないか とい うのである。第3は,「保育者 の子育てに対す る認識の問題」 で,親 と 保育者の関係が協力関係 を前提 に した ものか ら,新 たに関係を模索 しなければな らない状 況 にな って きた ことを指摘 している ここでは親 と保育者 との二者関係を主 として問題 に す るので,第3の問題か らを検討す る

(1)新 たな関係を模索す る時代 に至 るまでの関係変化

親 と保育者の関係がどのよ うに変化 して きたかを,前述 した鈴木の指摘 を もとに主要 な 流れを特徴づ けると以下 のよ うになる。1960年代の 「『親 と保育者 の関係 は』,『共 に保育 をっ くり出す仲間』」であ った。 その当時の厚生省 は,母子関係論 をふ りか ざ して家庭保 育を優先す る政策を とっていたため,母親が安心 して働 くための条件整備 と して必要な保 育所 の設置 に消極的であ った。 そのため親 と保育者が出資 し,「共同 して運営 を行 う共同 保育所」が生 まれたのが この時代である 勿論, それ と並行 して公立保育所づ くりや共同 保育所 を認可 させ る運動 も活発化 した。親 と保育者が共同で支え合わなければ, この時代 の保育運動 は成立 しなか ったのである。 その成果であ り, また高度経済成長 に伴 う女性労 働者確保のための公立保育所の新設や認可促進 によって,親 と保育者の関係がそれまで と は違 った関係変化 しは じめる。 つま り,「預 ける」親 と 「預か る」保育者 とい う関係へ と 次第に変わ ってい くことになる。

1970年代後半 にか けて,「子育ての危機」 と言 われた現象が クローズア ップ して くる

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この時期,親 と保育者 の関係 はさ らに変化 して い く 保育者 にとって,親 は育て る対象 と な り,以前 の対等 な仲間関係か ら指導 ・被指導 の上下関係へ と変わ って い くのであなる 家庭での生活 リズムの崩 れ (睡眠 と目覚 め,食事 の乱れなどによる), あ るい外遊 び ・仲 間遊 びの減少 などによ り,子 ど もの発達面 で 「遅 れ」 や 「歪 み」, さ らに 「意欲の低下」

が問題視 されてい くのであ る その主 たる原因が家庭 にあるとみなされ,保育者 は家庭で の親の間違 った子育てを改善す るために,親 に対す る教育活動 を強めて い くのである そ のため, この時期 の保育者 の視線 は子 どもだけに向 け られ る傾 向があ った。親 の労働実態 や子育て意識 の変化 に対す る保育者 の関心が弱 ま ったと指摘 されている

(2)新 たな関係への模索が意味 しているもの は何か

保育者が親 との関係 に困難 さを感 じは じめ るのは1990年前後頃 と言われている。両者 に とって共通 な関心事 と思われ る育児 ・子育て問題が,皮肉 に も対立関係 を もた らすのであ る。親 に早寝早起 きや朝食の大切 さ,紙 おむっの使 い過 ぎや ビデオ視聴 の 自粛 を呼 びか け て も聞 き流 され,保育者が親 の考 え方 を変えよ うとすればす るほど離 れてい って しま う0

保育者が子育てについて正論 を述べて も,親 と 「簡単 に共同で きない現実」 を突 きつ け ら れたのである 何が起 きたのであろ うか。共同への道 を阻害 したのは, む しろ保育者 の側 であ った との見方があるが5),私 もそ う考 え る

例えば,保育者が関係づ くりで困難 さを感 じる親 の代表格 は,間違 いな く 「育児放棄」

に近 い親 たちである 鈴木 も保育者か らの聞 き取 りを通 してその ことを確認 している。例 えば, 自宅 の 「畳 の上 はゴ ミと汚物 で汚れ たまま」 で放置 してい る親,「夜,母親が親 し い男の人 の所へ泊 ま りにい って しまい,子 どもたちだけで過 ご している」原因をっ くった 親,「布団を敷かず にこたっで寝て いる子」 を放置す る親,「風 呂に入 らず,汚 いまま前 の 日と同 じ服でや って くる子」の親,「親 になる何の準備 もないままに子 どもがで きて しまっ た とい うよ うな若 い母親」 な どであ る。 こうした親 たちの生活背景 には,「経済的 に も精 神的に も困窮 して子育て どころで はない」 とい う低所得層 の問題がつ きまとっていること

は明白である。 困難 さを感 じさせ るその他 の親 につ いて は,「低所得層,貧困層 で はない が,今 の生活 を維持す ることだ けに追 われ, あま りの忙 しさか ら,子育てへの配慮が抜 け 落 ちてい く親であ った り, また 「子育てよ りも自分が楽 しみたい, 自分 の生活で満足で き ることを求 めている親」, あ るいは 「発達検査 に度 々つれて い き,検査結果 に一喜一憂 し ているが, 日々の食事 の大切 さには目がかない」親 なども挙 げ られている

保育者が上記のよ うな親 を前 に した とき,親 の生活 を リアルに捉 えよ うとす るので はな く,何 らかの先入観 も働 き,親 に批判的で冷 たい対応 を とって しま うので はなか ろ うか。

普通の人であればそ うす るはずである テ レビやマスコ ミによって流 された一部のどうしょ うもない親 によ り 「親への不信感」が一般化 されている。 そ うした ことが親 との距離が ま す ます広 げて しま うのであ る 子育てなんかよ り, 自分が楽 しみたいとい う親 に多 くの大 人 は批判的である しか し相木 も指摘 して いるよ うに,彼等 に も様 々な 「葛藤」があるは ずだ し, ライ フサイ クルの大 きな変化 もあ り, 「子 ども ・育児 とは別 な 『自分』 を クロー ズア ップさせ た」姿 は当然 の結果 で もあ る そのよ うな

『自分』 への こだわ りは,単 な るわが ままで も ミーイズムで もない」何が生 きが いになるのか、 どんな ことに満足 を感 じ るのかなど

,

「人間の心 も社会的状況の中で変化す ることの一例」であるとみな している6)。

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52 長崎大学教育学部紀要 一 教育科学 一 70

そ うであ るな らば,園 における親 と保育者 の関係づ くりの困難 さがなぜ生 じてい るのか, 保育者 が 目の前 の親 の生活実態 を どこまで リアルに捉 え きれてい るのか,関係づ くりに困 難 さを見せ る親 は何故 そ うなのかを問 い直す ことか らは じめな ければな らない。 その際 に 大事 な ことは,既 にふれた ことであ るが,階層 間格差 の拡大 とい う視点 を見失 わない こと であろ う 生活面 や親 と しての育 ちに様 々な問題 を抱 え る親 との関係づ くりを考 えた場合, 保育者 に問われて い ることは,親 自身が歩 んで きた人生 の不合理 さを どこまで 「わか る」

かで あ る。 それ は決 して保育者 が親 を指導す ることで もない し,親 の考 え方 を一方 的 に変 えよ うとす る ことで もな

い 。

3.幼稚園教諭 に対す る意識調査か ら

ここに示 す調査 は,2003年 に長 崎市 内 にあ る幼稚 園 に勤務 す る教 員 の職場 環境 を調 査 (未発表) した もので あ る。 その中 に数項 目,親 と教員 の信頼 関係 に関す る質 問項 目が あ り, それ らの デー タのみ抽 出 し,最近 の親 につ いて教員 が どのよ うな印象 を もって いるか を示 した ものであ る。方法及 び主 な結 果 は以下 の通 りで あ る

(1)方法

対 象 :無作為抽 出 した長崎市 内の15の幼稚園 に勤務 す る教員,154名 調査方法 :ア ンケー ト調査

時 期 :2003年6月15‑ 7月 日一調査用紙 を封筒 に詰 めた状態 で各幼稚園 を訪 問 し, 園長 か ら各教員 に配布 を依頼。 回収 は,記入後 に封筒 を投函 し郵送 によ り回 収。

回 収 :回収率68%

(診集計結果及 び傾 向 1)調査対象者 につ いて

ア ンケー ト調査 に回答 して下 さった教員 の年齢分布 は,20歳代前半 が29%と最 も多 く, 次 いで20歳代後半 の24.7%とな って いた。20歳代 を合計 す ると53.7% (50名) とな り半数 以上 を 占めて い る。30歳代 は8.7% (8名) と最 も少 なか った。40歳代 は24.7% (23名), 50歳代 は12,9% (12名) とな って い る また, 園 での担 当で は, 園長 :2名,主任7名, 3歳 クラス担任 :22名, 4歳 クラス担任 :23名, 5歳 ク ラス担任 :20名, フ リー :29名で あ った。

2)親 と保育者 の信頼関係 に関す る質問への回答

図 1は 「親 同士 の信頼関係が形成 されて い る判断基準」 への回答 をみた ものであ る 半 数以上 が子 ど もの ことと園行事 を話題 を選択 して い る。私 的 な話題 までや りとりで きる関 係 は少 ないよ うであ る。

図2は 「担任 との信頼関係っ くろ うと しない親」 の存在 につ いての回答 であ る 約半数 が いて もわずか と考 えて いる 分 か らないを選択 した保育者が20名以上居 る 人数 は少 な いが クラスの半数以下 が10名,半数以上が5名を超 えて い る

図3は 「子 ど もが可愛 く思 えない と感 じる親」 が どの程度 い ると感 じて いるかへの回答 で あ る 全体 と して は 「いて も」 わずか と考 えて い る保育者 が最 も多 く,約80%い る。 し か し人数 は少 ないが,7,8名が半数以上,半数以下 だが居 ると回答 した方 が10名以上 い る

(5)

図4は 「自分 の楽 しみを優先 し過 ぎる親」 の存在である 半数以下 が最 も多 く35名近 く 居 る。半数 はいるが2番 目に多 く,20名を超 えている 殆 どがそ うだ とい う回答 も6,7名 居 ると

以上 の ことか ら、保育者 の評価が厳 しいのは.「自分 の楽 しみを優先 し過 ぎる親」 につ いてである その他 の質問項 目で は全体 として肯定的評価 を行 って いる。 ただ し,人数 は 少 ないが,担任 と信頼関係をっ くろ うと しない親, あるいは子 ど もをかわい く思 えない親 が居 ると認識 しているのではなか ろ うか。 その一方で,保育者 のほとん どが親 との信頼関 係がで きているか否かの判断基準 に私的な情報交流 を用 いて いない とい う傾向をはっきり 示 していると言 え る

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図1 信頼関係形成判定基準

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3 子どものことをどこまで

60 50 40 30 20 10

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図2 担任との信頼関係つくろうとしない

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It:ii‑1< ';::‑i;=@: ,; ;: ':ZI: 4 自分の楽しみを優先し過ぎる

(6)

54 長崎大学教育学部紀要 一 教育科学 一 70

4.信頼関係づ くり模索難 しくするもの

関係づ くりが困難 を親 との関係づ くりをどう模索 してい くのか。 それはこれまでの共同 関係で もない し,指導 ・被指導の上下関係で もない 。 ま してや預か る ・預 けるといった事 務的な関係で もないことは,2章の終わ りに示 した通 りである。 そ うした親を支える関係 づ くりは,信頼関係 とい う枠組みで捉えた場合,保育者 にどのよ うな課題を迫 ることにな

るのかみてお きたい。

(1)信頼関係の成立 をとらえる枠組み

心理学研究 を概観 した,水野が とり出 した重要 な知見の1つ は,「様 々な信頼 に通底す るもの として

(一般的な意味で)安心 して何かを任せ ることがで きるとい う点』」を何人 かの研究者 による指摘 と して とり出 している7)。安心 と信頼 の違 いは,前者が 「関係の性 質 を直接表す言葉ではない可能性」があるのに対 して,後者 は 「関係の性質 を表 しうる言 葉」 と規定 している。 このように,信頼を関係性 を前提 に した概念であ り,関係す る者が 安心感 を感 じるよ うになることが信頼関係の成立 を示す重要 な指標 となる

信頼関係を上記の内容で とらえた上で,教育現場 における子 どもと教師,親 と教師の信 頼関係 について論 じた ものを参考 に しなが ら, より包括的な信頼関係の枠組みをとり出す

ことにす る (丑関係 という側面

教育現場での信頼関係 を包括的な視点か ら整理 した もの と して新堀の考察がある8)。新 堀 は信頼関係の諸相 とその力学 を,信頼 と関係 とい う2っの側面 を別個 に分析す ることに よ り検討 している。 まず関係 についてだが,信頼関係 は関係 の一種であると捉え,関係を 結ぶ単位 の違 いによ り,個人対個人,個人対集団,集団対集団 とい う3つに分類 し,それ らの関連性 について言及 している つまり,特定の個人対個人の関係 はお互 いに相手が所 属す る集団に対 して どのよ うな見方を しているか によ り規定 され るとい うのである。「近 ごろの子 ども」「近 ごろの保育者」「近 ごろの先生」「近 ごろの大人」 といった,事前 に形 成 されているその集団 に対す る見方や評価が, その集団を構成 している個 々人への見方 に 強 く影響す る 例えば,保育者が 「今 どさの親 は子 どもに朝食をまともに作 ることす らし ない」 などといった否定的な見方や不信感を親一般 に対 して抱 いていると,個々の親 に対

して も疑 いの 目で見て しまうことになる。 このような,特定の個人 に対す る見方や評価を 規定す る集団 との関係 は,場合 によってはもっと広が り,「人間一般」 との問で も成立す

ることになる

このよ うに個人対個人の関係がそれぞれの所属す る集団や組織 などに対す る関係抜 きに は考え られないために,一度壊れた個人対個人 の信頼関係 を修復す る場合,対集団及びそ の集団内での信頼関係を修復す ることが必要 になると指摘す る

関係 については, もう1つ,「関係の方向」 とい う問題 について言及 している この中で, 関係 とは,例えばAとBとの問に成立す るもの というだけでな く,Aか らBへ又 はBか ら

Aへ とい う方向を もつ と述べている。 この 「関係の方向」 の違 いか ら,本来の信頼関係 と はどのよ うな方向を もっのかを指摘 している つ まり,「双方的関係」 に支え られた,下 位者か ら上位者 に向けられ る信頼が狭義の信頼であ り,それによ り成立 している関係が本

(7)

乗の信頼関係であるとみなすのである。 その場合,上位者か ら下位者への信頼 は 「信用」

と表現 され, その逆 は 「信服 して依存」 と表現 されている

(塾信頼 とい う側面

もう1つの信頼 についてだが, これは相手 の何を信頼す るかの問題であ り, どのよ うな 内容を信頼す るかによ り相手 との信頼関係 も多様化す ることになる。 その内容 は2つに大 別 され る 1つ は相手 に対す る全面的 (‑ 「道徳的」)な信頼であ り, もう1つ は部分的 (‑現実的)な信頼 である 実際 はその2つの組み合わせであ り, どち らにどの程度 の重 みづけがなされているか, さらに信頼 と対置 される不信が伴 うのかどうかによ り,信頼関 係の在 り様が多様化す ることになる 最 も典型的な関係 としては,相手の 「人物」 (人格, 生 き方 など) を判断基準 に して, それに全幅の信頼 をお き, 自分 の願 い(期待)や要求 を 全て叶えて くれ ると考えるのが全面的信頼である それに対 して,事実 として示 され る相 手の異体的な遂行能力や成果を判断基準 に して, 自分が信頼 をお く能力などに限 り, 自分 の願いや要求 を叶えて くれ ると考え るのが部分的信頼である。前者 においてその願 いや要 求が叶え られなか った場合,相手の 「人物」 その ものに対す る不信感を抱 く結果 となる

しか し,後者の場合 は異体的能力 に対す る願 いや要求が叶え られな くて も,問題 になるの は具体的能力への自分の過信であ り,相手の 「人物」 に対す る不信感 にまでその影響が及 ぶ ことはないとい うのである

(2)関係づ くりが困難 な親 との信頼関係を成立 させ る道

上記 (1)の信頼関係を とらえ る枠組みを もとに,2の (2)で問題 に した保育 の場での 関係づ くりが困難 な親 に している状況を考えた場合, どのよ うな対応が考え られ るのであ ろ うか。考え られ ることとして,2つの枠組みに分 けて以下 に挙 げたい くつかのケースと 考え られる

①関係 の枠組みか ら

個人対個人の関係 は,それぞれ相手が所属す る集団や組織 などに対す る関係 によって大 きな影響 を受 け.るとい うことを身近 な保育の場面で考えた場合,保護者会 と保育所や幼稚 園 との関係が相互 に問われ ることになる 保育者の側か らみた場合,保育者が全体 として 保護者会を厄介者扱 い し,家族 のあ り方や親一般 に対 して子育てがいい加減 とい う見方 を 共有 している状況下で は,卓越 した保育実践力 と人格者 としての魅力がない限 り個 々の保 育者が親 との信頼関係 を築 いていけるとは考えに くい。相互性の観点か らすれば, そのよ うな親 に対す る保育者 の否定的な思 い込みは異体的な場面 における親への対応 に も出て く るであろうし, その ことは親の側か ら信頼関係 をつ くろうとす るときの難 しさにつなが る であろ う

従 って,保育者が子 どもたちの親 との信頼関係を修復 しよ うとす るな らば,1つには, 親一般 に対す る見方 を問い直すだけでな く,保護者会や社会一般か らの各園の保育者集団 や保育者一般 に対す る信頼を回復 させ るための具体的な取 り組みを行 うこと, さらには自 分の職場内で保育者 たちがお互 いに信頼 し合え る関係をっ くることが問われ ることになる のではなかろうか。

保育 の場 における親 と保育者 の上下関係を問題 に したとき,そのどち らが上位者かを‑

(8)

56 長 崎大学教育学部紀要 一 教育科学 一 70

概 に決めることはで きない難 しさがある。保育サー ビス提供者 と利用者の関係でみれば, 親が上位者 とも考え られ る。 しか し,「親 に対す る保育 に関す る指導」 (児童福祉法第18条 4項)を業務内容 として明記 されている保育者 との関係でみれば,逆 に保育者が上位者 と なる さらに,子 どもの保育 ・教育 に一緒 に関わる大人同士 の関係でみれば,具体的な役 割 は違 ったとして も,両者 はむ しろ対等な関係 と言える。 その上下関係 は具体的な場面 に よって変化す るため,1つの方向を もった関係だけで特徴づ けることはで きない。重要 な ことは,個々の具体的場面でお互 いが 「信用」や 「信服 して依存」 しよ うとす る気持 ちを 抱 けるようになる 「双方的関係」 をどのようにつ くってい くかであろう 対同一個人 (親)

との関係の中で も一辺倒で はない 「双方的関係」が保育者 には求 め られ るということにな る。

②信頼の枠組みか ら

個人対個人 における全面的な信頼 と部分的な信頼の組み合わせを保育の場面 に置 き換え た場合,「双方的関係」 も相手 とな る親 の違 いによ り基本的 に保育者 の側が個 々の親 に対 して抱 く見方 は,次の4つのケースが考え られ る 第1は,保育者がその親の 「人物」を 信頼 し,親 としての自覚 と責任感, あるいは自分の子 どもに対す る愛情 の深 さについて基 本的に信頼 し,具体的な育児行為 について も同様 に信頼で きる親 とみている場合がある。

関係がっ くりやすい問題 のない親である。第2は,保育者がその親の 「人物」を信頼 して いるが,具体的な育児行為 については無条件的 に信頼 していない場合である。 これ も第3

は,保育者が親 に対 して基本的 に不信感 を もってお り,具体的な育児行為 について も同様 に信頼で きないとみている場合である 第4に,具体的な育児行為 については完望なまで にこな し信頼で きるが,その行為が子 どもへの愛情 に裏打 ちされた親本来の自覚 と責任感 に基づ くもの とい うよ り,「良 い母親」 への強迫観念か ら生 じている場合 もある。 当然, 保育者 は親 としての在 り様 に不安 を感 じることになる。

現在の保育の場で問題 とな っている親 と保育者の関係の困難 さとい う状況 に当てはめて み ると,第3や第4に挙 げた,親 の 「人物」 に対す る信頼が低 いか喪失 している場合,あ るいはそれに対す る不安定感を感 じさせ られる場合が,最 も当てはなるケースではなかろ うか。 その意識状態のままではいっ まで経 って も信頼関係 は成立 しない。 なぜな ら,その よ うな目で自分たちをみている保育者 に対 して,そ うした親 は育児や生活上 のいろんな悩 みを打 ち明けるようとは しないため,関係を深 めてい く上で不可欠 な相互理解を可能 にす るや りとりを遮断 して しま う可能性が あるか らである 既 に指摘 した ことだが,信頼が

「行動化 された働 きかけや,期待 を掛 け合 うなどの精神的なや りとりが 日常生活 の中で相 互的になされる中で」生 まれ るものであるとした ら,まさに致命的欠陥を もっ関係 と言え る 要 は,それぞれの親が独 自に もっ期待や要求を正確 に読み とり, それにどのような方 法でどこまで対応で きるか,誠実かつ臨機応変 な対応が保育者 に求 め られ ることになる

③個人対個人 とでの信頼関係を考え る

個人 と個人の間で成立す る信頼関係 に限定 した場合,何がよ り重要 な課題 になるのかに ついて さらに信頼関係の枠組みを もとに検討 を加えることにす る 信頼関係成立の基盤 に ついて,鈴木 は 「二者関係」が基本単位であること,お互 いの 「独 自性 を認め合 う」 とい うこと, そ して 「相互性」 の3点 を挙 げている9)0 「二者関係」 については,教師 と児童 ・ 生徒の関係,労使関係,親子関係 といった人 と人 との関係である 勿論,機械 といった人

(9)

間以外 の もの との関係 も有 りうる し,人間が もっ特定 の能力(例えば,記憶力 など)など, 多様で限定 された対象 との関係 も 「二者関係」が基盤 となることを強調す る 人がある集 団 との間で信頼関係 を成 り立 たせ る場合であ って も, その集団を構成 している個 々人 に対 す る信頼 が なければ不可能 であ ると述 べて いる。「独 自性 を認 め合 う」 ことにつ いて は, 相手や対象の行動 や現象を予測 (ある意味で, 自分 との同質性 につなが る)で きることや その内容 が 自分 の期待 に沿 った ものであ ることよ り, その内容が 「自分 の価値基準 に当て はめた ときに積極的 な価値」 を もっ もの と して認 め られ るか否かを重視 して いる。 それゆ え,相手 が 自分の予測や期待 に反す る行動 を とったと して も, その背景 にあ るお互 いの価 値基準 を認 め ることがで き, お互 いの生活 にとって意味が見出せれば信頼関係 は成 り立っ ことになる。「相互性」については,「相手か らのはた らきかけの積み重ねが 自分の側のニー ドや価値基準 に合 ったときに信頼感が生 まれ, こち らか らのはた らきか けを活性化」 させ, 相手 に も同様 の現象が生 じることで信頼関係が成 り立っ とい うのである。

4.おわ りにかえて‑二者関係 における 「双方的関係」の枠組みによる関係 づ くり

まず第 1に,関係づ くりが困難 な親 を対象 に した取 り組みは,相手 に一方 的 に信頼感 を 向けるだ けで は成立 しない。意味のある反応 を相手 か ら引 き出 し,双方的関係へ と移行 さ せなければ何 もしなか った ことと同 じであ る。 と くに,相手が様 々な生活活動上 での問題 や弱 さを引 きず っている場合, その負の状況 を受 け止 め る姿勢が必要 になる

保育の場 での関係づ くりに困難 さを感 じる親 を相手 に した場合,保育者 に求 め られ る姿 勢 は,第1に,先入観 を可能 な限 り排除 し, まず親 の生活実態 を具体的 に把握 し,で きる 限 り共感 的な理解 を深 め る必要があ る 換言すれば,親 自身が体験 した苦労, それか ら生 じた生活面 (子育て含む)での制約 に対す るや るせなさなどについて,本当に 「わか る」

(感情 にまで とど く) まで保育者 は聞 きとってあげねばな らない。

親 としての自覚 に明 らかに欠 けるところがあ った り, どうしよ うもない程だめな親であっ た り, あ るいは親 と しての自分 に自信が もてな くな っている場合 など, なお さ らの ことで ある 親 を しっか り受 け止 める覚悟が保育者 には必要 となる

第2に, あ るが ままを受 け止 め るだ けで はな く,相手 の 「独 自性 を認 め合 う」 ことが必 要 となる そのため,相手 の言動 などが 自分 の期待 に応えた ものか どうかで はな く, その 関わ りの中に自分 にとって積極的 な価値 を もっ ものを兄 いだ し,その ことをお互 いに認 め 合え ることが重要 となる。

保育の場 での関係づ くりに困難 さを感 じさせ る親 の多 くは,無意識的 に も自覚的 に も自 分の欠点や弱点が どの程度 の ものかが分か っている。見 た目や服装 を含 めて,子育 てへの 取 り組 み方全てにおいて問題 の方 が 目に付 くのである。 それ らは他 の人か ら見れば,無意 味 とい うよ り,関わ りた くない もの と して忌避 され ることの方が多 いと言 え る 他者か ら みれば 自分 には大 した価値がない と思 い込 んでいる人 にとって,他者か ら積極的な価値 を 兄 いだ され ることが与 え る影響 は大 きい。保育者 はそれ うした ものを見抜 く目が必要 とな

る。

第3と して,「相互性」であ り、「双方的関係」 である それ は 「はた らきか けの積み重 ね」 と して展開 し,働 きか けが相手 の期待 や要求 と合致 した ものにな ってい くことで, お

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58 長崎大学教育学部紀要 一 教育科学 一 70

互 いの信頼感 が生 まれて い くことにな る そのや りとりは具体 的 な行動 によ る働 きか けで あ った り,励 ま しや期待 を込 めた メ ッセー ジを相互的 にや りとりし合 った りす るのであ る

相 互 のや りと りが可能 にな った と して も,教育 や指導 によ る関わ り方 で はな く,保育者 が知 恵 を借 りるとい う相談 的 や りと りが基 本 にな る そのか た ちで, 関係 づ くりに困難 さ を もっ親 の判 断 を引 き出 し,活動 に生 かす ことで 自分 の判 断 や行動 が相手 の期待 に応 じて い るだ けで な く.周 りに影響 力 を行使 で きる自分 を発見 させ, 自分 が価値 あ る存在 と して 受 け止 め られ る心地 よさを感 じとれ るよ うに して い く必要 が あ る

階層 間 の格差 が拡 大す る中で現象 と して は保育 ニーズの多様化 とい う表現 が用 い られ る が,実 際 は子育 て環境 の破壊 が深刻化 して い る ことの現 れ と捉 え るべ きで あ ろ う

参 考 ・引用文献

1)鈴木佐喜子 『現代 の子育 て ・母 子 関係 と保育』 123‑124 ひ とな る書 房 1999年

2)神保信一 「信頼 の心理学」児童心 理Vol.43.4,1金子書房 1989年

3)水野将樹 「心理学研究 にお ける 『信頼』概念 につ いて の展望」東京大学 大学 院教育学 研究科紀要 第43巻 185 2003年

4)鈴木佐喜子 同上書 125‑138

5)鈴木佐喜子 「今 日の 『子育 て の困難』 と親 ・保育者 の共 同」 現代 と保 育 23号

108‑131 ひ とな る書房 1990年

6)相木恵子 『家族心理学』198‑219 東京大学 出版会 2003年

7)水野将樹 同上書 190‑193

8)新堀通也 「信頼 関係 と教育」 児童 心理Vol.43.4,19‑38金子書房 1989年

9)鈴木葉子 「子 ど もへ の 『信頼』・大人 へ の 『信頼』」児童心理Vol.43.4,48‑53

金子書房 1989年

図 4 は 「自分 の楽 しみを優先 し過 ぎる親」 の存在である 。 半数以下 が最 も多 く 3 5 名近 く 居 る。半数 はいるが 2 番 目に多 く ,2 0 名を超 えている 。 殆 どがそ うだ とい う回答 も 6 , 7 名 居 ると 以上 の ことか ら、保育者 の評価が厳 しいのは.「自分 の楽 しみを優先 し過 ぎる親」 につ いてである 。 その他 の質問項 目で は全体 として肯定的評価 を行 って いる。 ただ し,人数 は 少 ないが,担任 と信頼関係をっ くろ うと しない

参照

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