BulletinofFacultyofEducation,NagasakiUniversity:Curriculum andTeachingNo.32(1999)23‑28
印画紙法 による円錐振 り子の円運動の撮影
富 山 智 之 * (平成10年10月30日受理 )
Vi s ual i zat i on oft heCi r c ul arMot i on of Coni c alPe ndul um on a Phot ogr aphi cPape r
Nor l yukiTOMI YAMA *
(ReceivedOct.30,1998)
1. は じめに
力学的な現象 は身辺で頻繁 に 目で見 ることがで きるが、振 り子の運動 の ような速 く動 く 物体 の運動 は、肉眼 による観察だけで現象 についての理解 を深 めることは困難である。
一
般 に、現象の観察、記録 、測定 、解析等 のために可視化 は有効 な方法である。これまでに、
物体 の力学的変化 をセ ンサ によ り電気量 に信号変換す る方法1)、瞬間写真 を撮影す るス ト ロボ写真法2)等が開発 されている。 前者の方法 は、 コ ンピュー タの計測 器 と して果 たす 役割 は、今や非常 に大 きい。後者 は、米国の科学教育 プロジェク ト
・PSSC
物理3)で取 入れち れ広 く普及 した。単振 り子やばね振 り子等の運動 は非減衰の単振動 を例示す る教材 である。 実際、系 の有 す るエ ネルギーの散逸 によって運動が減衰す る。 類但 の現象 は物理学 の広い分野 において 数多 く見出 され る ものであ り、工学上重要 な問題4)として取扱 われ る。振 り子の教材 に関 し、ね じれ振 り子や実体振 り子の振動の減衰 を前述の方法で調べ た報告5・6)例がある。 円 錐振 り子の運動の減衰 についての報告 は筆者の知 る限 り見当 らない ようである。本稿では、
簡単 に しか も効果的 に運動の図形 を描かせ る装置 として、円錐振 り子の円運動 を機械 的に 起動 させ る装置 を製作 し、振 り子の重 りの中に積込んだ光源か らの光線 を引伸用印画紙 に 露光す る方法 を開発 したので報告す る。
2.実験装置
図 1に振 り子の重 りの中に装填 した部品 を示す。振 り子 の重 りは、 スチ ロール製 半球 (直径9.7cm、最大深 さ4.1cm、厚 さ0.43mm)の二つの殻 をビニールテープで張合せ た偏平 な 球 を用いる。 この中にスポ ッ ト球 (2.5V)光源 と乾電池 (単 三1.5VX2)、 ス イ ッチ 、
とつ レンズ、大小70個余 の鉛玉 (直径9mmまたは11mm)を積込み全質量約0.70kgの重 りと した。 重心 の位置がスチ ロール球の球心 に合致す るように鉛玉等 を配置 した。それぞれの 半球の最深部 には、針で直径約0.8mmの ピンホールを開ける。片 方 の半球 に電球 及 び とつ
*長崎大学教育学部理科教室
レンズ を固定す る。 重 りの中に取付 けた光源の光が レンズ と最下部の ピンホールを通 って 印画紙上 に集光 される。 長 さ約1.7m、線径0.35mmのス テ ンレス線 の一端 を球殻上部 の ピ ンホールに通 して固定す る。 図2に起動装置の外観 を示す。振 り子の支点 に偏心運動 させ るために木製円板 を取付 けてある。吊 り線の他端 は木製円板 (直径 8cm、厚 さ3.5cm)の 中心 に付 けた ピンバ イス用チ ャックに固定する。振 り子の支点か ら重 りの中心 までの長 さ は1.50mとした。 この円板 の中心か ら3.5cm離れた縁 に鉛直 に取付 けた シ ャフ トを電気 ド リルのチ ャックに固定 し振 り子の支持具 とす る。 ドリルの回転数は自作のパワーコン トロー ラで調整することがで きる。 振 り子の実験装置の全景 を図3(a)と図3(b)にそれぞれ示す。
鉄製 フアングル (約1.7mX0.60mX0.60m)枠組みに前 出の器具類 を取付 けた。
図 1 振 り子の重 りの内部
スチロール半球 内のスイッチ及び 乾電池 (右側 )、 レンズ、鉛球及び 電球 (左側 )、ステンレス吊 り線
(中央下側 )
図2 電動式起動装置
電気モータ及び木製円板 (右側)、 パ ワーコン トローラ (左側 )
3.実験方法
円錐振 り子の実験装置はセーフライ トを備 えた暗室内に置いて、振 り子の円運動の軌跡 を撮 った。記録紙 として印画紙 はフジプロFM 3(六切 )を用いた。重 りの静止点下方の 水平面上 に印画紙の感光乳剤面 を表 に してその四隅 をセロテープで固定す る。乳剤面 を印 画紙 とほぼ同 じ寸法の遮光紙で覆 う。 重 りの中にある光源の電源 を入れると同時に光線 は ピンホールを通過す る。 印画紙上 に投影 された照射光のスポ ッ ト直径 は約0.8mmであ る。
振 り子の平衡位置では、印画紙 と重 りの最下点 との間隔は約 1cmである。 ドリルのモータ の電源 を入れて振 り子の運動 を励起 させ るために、予め電気 ドリルのモータの回転数 (約 25rpm)は振 り子の回転周期 と一致 させてお く。糸で輪 を作 って重 りにかけ、糸の他端 を 手でつ まみ運動開始の軌道半径 まで重 りを水平 に引いてお き、電源 を入れモータが回転 し 始めた とき糸 を離す。運動開始の軌道半径 はそれぞれ15cm及び12cm、9cm、6cmとした。
振 り子が水平面内で円運動 をす る定常状態 に達 した後、モータの回転 を停止す る。 直 ぐに
富山 :印画紙法による円錐振 り子の円運動の撮影
遮光紙 を取 り除 くと、 ピンホールを 通過 した光線が、 ピンホールの下方 に置かれた印画紙の一部分 を感光 さ せ る。 振 り子が周 回軌道 を5回措 く あいだ印画紙 に露出を与 えた後、5 分間の遮光 を行 う。 この一連の操作 を5回繰返 した後 、遮光 を続 け振 り 子が殆 ど動かな くなった ときに露光
し重 りの静止点の印 しを付 ける。 こ の後、感光 した印画紙 は現像 ・定着 処理 を行った。振 り子の周期はス トッ
プウオッチで測定 した。
4
.実験結果及び考察図4は遮光 を しないで振 り子 の円 運動が収束す るまで露光 を継続 して 撮 った もの を示す。印画紙の乳剤面 の異化濃度か ら、運動開始直後 は円 運動 の軌道半径の減少が大 きく、軌 跡 は螺旋状 であることが分か る。円 運動 の周期 の平均値 は
2. 4 6
Sで あ っ た。振 り子が 円運動 している とき、振 り子 の支点 を頂点 とする円錐形の 半頂角 を Oとすれば、周期Tは
T‑2'r(ecoso/9)1/2 (1) で与 え られる7)。 ここで eは振 り子 の長 さ、gは重力加速度である。 本 実験 はsinβo
≒β
[rad]が成立 つ(b)
図3 円錐振 り子実験装置の概観 (a)振 り子の支点 と起動部 (b)振 り子の重 りと印画紙記録部
25
範囲で行 っているので、単振 り子の振動周期 にほぼ等 しくなる。 実測値 は式(1)で求めた計 算値 とほぼ一致す る。 この測定では振 り子の等時性 の崩れは検 出 されない。
遮光操作 を行 って撮 った もの を、運動開始時の軌道半径がそれぞれ15cm及び12cm、 9cm、 6cmの順 に図 5及び図 6、図 7、図 8に示す。各図は重 りの平衡位置 を示す黒点 とその周 りに同心 円状 に広が る リングを現す。図5では運動 開始初期 か ら楕 円軌道を措いているが、
楕 円の軸 は終始一致 してはいない。図6の ように、運動開始初期 は正円軌道 を措いている が次第 に楕 円軌道 に変化 している。 この ように正 円の形が崩れる原因は、振 り子の重 りの 球心 と重心の不一致 に起 因す る と考 え られる。軌道半径 は、軌道円を30度毎 に分割 して12 箇所の半径 をステ ンレス製直尺 (最小 目盛0.5mm)で測 り平均半径 を求 め た。 円運動 の軌 道半径 の経時変化 を図9に示す。横軸 は運動の継続時間、縦軸 は対数で表示 された軌道半 径 である。円錐振 り子 の円運動が正 円軌道 を描 くときの軌道半径 は重 りの重心 と軌道の中 心 間の距離で表 されるが、実測値 は重 りの中心 よ り5.1cm下方 の 印画紙面 に投 影 され た軌
図4 円錐振 り子の運動の軌跡 運動開始時の軌道半径17cm
図5 運動開始時の軌道半径15cm
庵 図 儀 図8@
軌道半径12cm 軌道半径9cm 軌道半径6cm
道半径 を示す。運動開始時の軌道半径が15cm及び12cm、9cm、6cmの とき、確 か な軌道半 径 に対 してそれぞれ+4.9mm及び+3.9mm、+3.0mm、+2.0mmの誤差が見積 られ る。平均3.4
%の相対誤差 になるが、ほぼ原寸大で円軌道 を印画紙 に撮 ることがで きる。 振 り子の運動 の様子 は、軌道半径が大 きい方が運動開始時に急峻な減少が見 られるが、早い時点で落ち 着いている。 図9のグラフの直線部では、振 り子の軌道半径が時間経過 に対 して指数関数 的に減少す ることが分かる。
円錐振 り子の重 りの運動 は渦巻 き螺旋状 に減衰す る。 渦巻 き螺旋 を措 きなが ら軌道円の 半径が一様 な割合で減少 し平衡位置 に漸近的に近づ く。 この場合、一様 な速 さで円運動す る重 りの重心の位置 を真横か ら見た座標が、振 り子の平衡位置 を中心 に、周期的に変化 し 減少 しなが ら往復運動 をすると見 なす ことがで きる。 この ような、振 り子の支点 を通 る鉛 直面内における円運動の射影の動 きは、正 に単振 り子の重 りの運動 と非常 に良 く類似 して いる。図9は往復運動の振幅の包絡線 を表す もの と見 なす ことがで きる。
よく知 られている振動理論 によれば、質量
T
nの物体 に作 用す る力Fは変位x
の他 に、 時 間t、速度U(‑dx/dt)を含み、F(x,U,i)の形 を持つ。振動体の運動 を妨 げる抗力 は、速 度 に比例す ると考 えるのが普通である。 この ような抵抗力 を考慮 した ときの運動方程式は Tn(d2x/dt2) ニ ーTnw 2x‑2Tnγ(dx/dt) (2)富山 :印画紙法による円錐振 り子の円運動の撮影
開
持 続 時 間 t[xlO3S]
図9 円錐振 り子 の軌道半径 の時間変化
[
q)U]1池井糊壷27
で与 え られ る8)。 ここで γは減衰定数 、cu(‑ 2Tr/T)は角振動数 で あ る。 式(2)の一 般 解 と して、復 原力 の方が抵抗 よ り大 きい ときの振動状態 は
x‑Aoexp(‑γt)cos[(W 2‑γ 2)1′ 2
・ t +
4・] (3) の形 に書 かれ る。 ここでAoは任意定数 、 4,は初 期 位 相 で あ る。 Aoexp(‑γt )
を振 幅 、 (W2‑ γ 2)1′ 2を振動 数 とみ る ことがで きる。 振 動 は±Aoexp(‑γt)の二 本 の包 絡 線 間 に挟 まれた周期 的 な減衰振動 であ る。 図9の グラフの直線部分の勾配か ら減衰定数が求め られ る。 減衰速度 γは平均1.8×103cm/Sとなる。従 って減衰時定数 では平均556Sが 得 ら れた。 これか らγ≪Wが成 り立 ち、角振動数 (W 2‑γ 2)1/ 2≒Wと して近似 され る。 この こ とか らも振 り子 の等時性 が成 り立つ こ とが分 か る。図9において、運動 開始初期 の大 きい減衰が見 られ る部分 は、抵抗力 は速度 に比例す る とい う単純 な もので はない ことを示 している。 この ような非線形 の減衰 の原因 については 明確 で はな く、振 り子全体 に及ぶ空気抵抗 、重 りの慣性 モ ー メ ン ト、支点での摩擦抵抗等 の原 因が挙 げ られ るが 、 これ に関 しては本稿 の範噂 を越 えてい る。
5.おわ りに
円錐振 り子 に よる円運動 を機械 的 に励起 させ る装置の製作法 、及 びその運動 の様子 を印 画紙 に記録す る方法 を紹介 し、円運動 の減衰 について調べ た。 印画紙 を用いた本実験 は次 の ような特徴 を有 してい る。 光源 を運動物体 に搭載す る ことに よ り、速 い速度で動 く質点
の軌跡 を原寸大で フイルムを使 わず に直接 印画紙 に撮 ることがで きる。その場 で露光 した 印画紙の現像 ・定着処理 を短時間で行 える。 運動 の様子 を詳 しく観察で きることや記録 に 残す ことがで きるので非常 に有用である。 本装置 は身近 にある もの を使用 して容易 に自作 す ることがで きる ものである。
謝 辞
写真実験 は、 本学 平成 7年度教 員研 修留 学 生 TongsongANAN氏 (Kingdom of Thailand)に手伝 って頂いた。記 して感謝の意 を表 します。
参考文献
1)例 えば、トランジス タ技術編集部編 :メカ トロ・セ ンサ活用ハ ン ドブ ック(CQ出版社、1995)106.
2)原島 鮮監修 :ス トロボス コープ (物理編 )(講談社、1966)1.
3)Ed.byUriHaber‑Schaim :LaboratoryGuideforPhysics(D.C.Heathand Com‑
pany,1960)52.
4)例 えば、大崎順彦 :建築構造学体系24、振動理論 (彰 国社、1980)19.
5)鎌本喜代美 、佐 々木豊勝 :物理教育Vol.39,No.3 (1991)146.
6)津留俊介 :物理教育Vol.40,No.4 (1992)274.
7)原島 鮮 :力学 (裳華房、1980)117.
8)東京大学応用物理学教室編 :力学 (東京大学 出版会、1964)35.