血栓性微小血管障害を合併したシェーグレン症候群の一例
免疫リウマチ科行 木 紳一郎 川 崎 貴 裕 小 中 八 郎 藤 本 潤
小 林 久美子 藤 原 弘 士
病理科城 戸 完 介 島 津 宏 樹 伏 見 博 彰
Thrombotic microangiopathy in a patient with Sjogren’s syndrome: A case report
Shinichiro Nameki, Takahiro Kawsaki, Hachiro Konaka, Jun Fujimoto,Kumiko Kobayashi, Kansuke Kido, Kohki
Shimazu, Hiroaki Fushimi, , Hiroshi Fujiwara
Abstract
A man in his 60s with Sjogren’s syndrome was admitted to our hospital with pericardial effusion. He developed anemia and renal injury during the course of treatment. He was diagnosed with thrombotic microangiopathy(TMA), and we initiated treatment with plasmapheresis and corticosteroid. At the same time, he was diagnosed with duodenal cancer. Although the duodenal cancer was resected, TMA did not improve, and he developed diffuse alveolar hemorrhage(DAH). Thus, he was administered eculizumab. Unfortunately, he developed recurrent DAH and severe pneumonia resulting in death. The autopsy revealed TMA and pneumonia, but no cancer.
Key words : Sjogren’s syndrome, Thrombotic microangiopathy, Eculizumab, Diffuse alveolar hemorrhage
症
例
要 旨 症例は 60 歳代の男性.半年前に,抗 SS ‐ A 抗体陽性, 口唇腺生検所見よりシェーグレン症候群と診断された.心嚢 液貯留での入院中に,進行する貧血と腎障害を認め,血栓性 微小血管障害と診断された.血漿交換,大量ステロイド,エ クリズマブにて治療された.また,十二指腸癌を認めたため 腫瘍摘出術が行われた.しかしながら TMA は改善せず,肺 胞出血を繰り返し,術後縫合不全や細菌性肺炎を合併し死亡 した. は じ め に 血栓性微小血管障害(TMA:Thrombotic microangiopathy) は微小血栓症性溶血性貧血,消費性血小板減少,微小血管 内血小板血栓による臓器障害の 3 つの特徴からなる病態を 示す病理学的診断名である.TMA はその病因から志賀毒 素関連溶血性尿毒症症候群(STEC-HUS:Shiga-toxin-production E coli hemolytic uremic syndrome),血栓性血 小 板 減 少 性 紫 斑 病(TTP: thrombotic thrombocytopenic purpura),補体関連溶血性尿毒症症候群,二次性 TMA に 分類され,それぞれに応じた治療を必要とする.ここでは, シェーグレン症候群および十二指腸癌を有する患者に TMA が発症,それに伴い繰り返す肺胞出血をきたし,細菌性肺炎 を合併して死に至った一例を経験したので報告する.症 例 60 歳代男性 【主 訴】呼吸困難,全身倦怠感 【現病歴】入院の半年前より全身の関節痛が出現し,膠原病 疑いとして,3 ヶ月前に当科紹介受診となり抗 SS-A 抗体 陽性,口唇生検からシェーグレン症候群と診断された.同 時に,甲状腺機能低下症,心嚢液貯留も認めたため,レボ チロキシン投与が開始となった.以後,徐々に呼吸苦と倦 怠感が増強し,下腿浮腫も認めたため当院心臓内科に緊急 入院となった. 【既往歴】 舌癌(約 7 年前に化学放射線療法を施行),虫垂炎 (幼少期) 【合併症】 間質性肺炎,高血圧症,鉄欠乏性貧血 【入院時身体所見】身長 165cm,体重 59.2kg.意識清明,体 温 36.9℃,血圧 186/126mmHg,脈拍 91/ 分,呼吸数 18/ 分, SpO2 95%(室内気).全身に浮腫を認める以外に特記す べき異常を認めなかった. 【内服薬】レボチロキシンナトリウム水和物 75μg 1.5 錠,ク エン酸第一鉄ナトリウム 200mg,レバミピド 300mg. 【入院時検査所見】白血球 5400/μl,ヘモグロビン 8.2g/dl, 血小板 12.4 万 /μl と貧血,軽度の血小板減少を認めたほ か,Cr1.59mg/dl と腎障害も認めたが,検尿では明らかな 異常は認めなかった.胸部 X 線では著明な心拡大を,心 エコーでは多量の心嚢液貯留を認めた. 【入院後経過】 心嚢液貯留に対して心嚢ドレーンを留置して計 1320ml の心嚢液を回収し,血行動態は安定した.しかしその後も 貧血と腎障害は進行し,塗抹標本での破砕赤血球像やハプ トグロビン低値などの血管内溶血性貧血も認めた(表). 微小血管症性溶血性貧血,消費性血小板減少,微小血管内 血小板血栓の 3 つを認めたため TMA と診断された.ま た,貧血の原因精査目的に施行した上部消化管内視鏡に て早期の十二指腸癌を認めた.TMA の原因として,病歴 や検査所見からは STEC-HUS や TTP は否定的であり, シェーグレン症候群もしくは悪性腫瘍に伴う二次性 TMA と,非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS: atypical HUS) の可能性が考えられた. 第 8 病日より二次性 TMA の原因と考えられるシェーグ レン症候群に対してプレドニゾロン(PSL: prednisolone) 1mg/kg で の 治 療 を 開 始 し, 血 漿 交 換(PE: plasma exchange)も並行して行った.また,十二指腸癌からの出 血が持続したため,第 16 病日に開腹下で腫瘍摘出術も施 行した.大量ステロイド,7 回に及ぶ PE での治療を行う も血小板数の改善は認められず,腎障害も進行した.また, その間に貧血に対しても繰り返しの輸血を要した(図1). 第 21 病日に急激な呼吸状態の悪化を来たし,胸部 CT にて両側肺のびまん性すりガラス影を認めた.気管挿管 の上で,人工呼吸管理を行い,気管支肺胞洗浄を行った. 血性の気管支肺胞洗浄液が回収されたため,びまん性肺 胞出血(DAH: diffuse alveolar damage)と診断された. TMA に伴う DAH と考えられたため,シェーグレン症候 群への治療強化のためステロイドパルスが施行され,補体 関連異常に伴う aHUS の可能性も疑い,抗補体(C5)モ ノクローナル抗体製剤エクリズマブも投与された.また, 表 検査所見(第 6 病日) WBC 6200/μl RBC 218万/μl Hb 7.0g/dl Ht 21.0% MCV 96.1fl 網赤血球 13.5万/μl Plt 12.6万/μl 破砕赤血球 + TP 6.1g/dl T-Bil 0.7mg/dl AST 33IU/l ALT 12IU/l LDH 388IU/l Cr 1.96mg/dl BUN 45mg/dl Na 134mEq/l K 3.9mEq/l CRP 2.33mg/dl eGFR 28 血清鉄 135μg/ml フェリチン 52.2ng/ml トランスフェリン 241mg/dl ハプトグロビン <10mg/dl LDHアイソザイム 1 22.5% LDHアイソザイム 2 30.0% LDHアイソザイム 3 21.3% LDHアイソザイム 4 8.6% LDHアイソザイム 5 17.6% PT-INR 1.1 APTT 32.6sec FIB 356mg/dl FDP 10.1μg/ml D-ダイマー 7.9μg/ml 尿比重 1.013 尿混濁 ー pH 7.0 蛋白半定量 ± 糖半定量 ー 潜血 ー ADAMTS13活性 32.5% ADAMTS13インヒビター <0.5 エリスロポエチン 172mIU/ml 抗核抗体 1280倍(Speckled) 抗SS-A抗体 >1200U/ml 抗SS-B抗体 陰性 抗カルジオリピンIgG抗体 陰性 抗カルジオリピンβ2GP1抗体 陰性 ループスアンチコアグラント 陰性 抗Scl-70抗体 陰性 PR3-ANCA 陰性 MPO-ANCA 陰性 抗ds-DNA抗体 陰性 抗Sm抗体 陰性 C3 82.2mg/dl C4 22.4mg/dl CH50 43.5U/ml 【血算・止血】 【尿検査】 【生化学】
並行して気管支肺胞洗浄液より認められた緑膿菌や,非定 型肺炎の合併への治療として,メロペネムとレボフロキサ シンでの治療も開始となった.しかし,血小板数は低値で 遷延し,エクリズマブは無効であったと考えられた.また, 手術創の術後縫合不全も認め,カンジダによる腹膜炎も合 併した.その後も 3 回の DAH を来し,細菌性肺炎のコン トロールも不良であったため呼吸状態は徐々に悪化してい き,第 46 病日に死亡となった(図2). 主要病理解剖所見 〈肺〉大葉性細菌性肺炎および肺水腫,肺胞内出血,硝子膜 の形成,肺胞内器質化などがみられ,含気はわずかにみら れるのみであった.グラム陰性桿菌を認め,経過中に細菌 培養検査より得られた緑膿菌によるものとして合致する所 見であった.また,右 700ml,左 400ml の胸水も認められ た. 〈腎臓〉中等度の粥状硬化および軽度の硝子様細動脈硬化が 図1 入院後経過 1 -600 -400 -200 0 200 400 600 800 0 5 10 15 20 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21
PE
PSL
55mg
2 2 4 6 6 8 14 6 輸血RCC Hb:g/dl Cr:mg/dl Plt:×103/μl LDH IU/L (単位) 十二指腸部分切除術 Hb Plt Cr LDH 日 図2 入院後経過 2 0 200 400 600 800 0 5 10 15 20 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 PSL 55mg エクリズマブ HD 45mg Hb : g/dl Plt :×103/μl LDH : IU/L P/F比 パルス 40mg パルス PE 輸血RCC Hb Plt P/F LDHDAH DAH DAH DAH 死亡
6 4 6 2 4 2 2 図3 腎臓 PAM 染色(強拡大) 糸球体基底膜は肥厚し, 二重化を示している. みられた.糸球体は膜性増殖性糸球体腎炎様に基底膜の肥 厚,二重化を示しており,血栓性微小血管障害の所見とし て矛盾しなかった(図3).
〈心臓〉左室側壁に微小置換性線維化を認め,TMA による 微小な心筋梗塞の可能性が示唆された.
〈十二指腸〉癌の残存は認められなかった. 考 察
TMA は 微 小 血 管 症 性 溶 血 性 貧 血(MAHA: microangiopathic hemolytic anemia),消費性血小板減少, 微小血管内血小板血栓による臓器障害を 3 主徴とする病理学 的診断名で,臨床的には破砕赤血球,血小板減少,血栓によ る臓器機能障害を特徴とする. TMA に含まれる病態を示す疾患の分類については国際 的に統一されたものはないが,STEC-HUS,TTP,aHUS, 二次性 TMA が含まれる1). STEC-HUS は志賀毒素産生大腸菌(STEC)が産生する 志賀毒素によって,STEC による腹部症状発症後に TMA の 病態を引き起こす.TTP には先天性と後天性のものとがあ るが,いずれも von Willebrand factor(VWF)切断酵素で ある ADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)活性の著明な低下 や ADAMTS13 インヒビターの産生に伴い適切な大きさに 切断されない VWF が細小動脈内で進展,VWF 血小板血栓 が生じることで TMA を発症する2).本症例では STEC 感染 を示唆する腹部症状を認めていなかったこと,ADAMTS13 活性の著明な低下や ADAMTS13 インヒビターを認めてい なかったことから,STEC-HUS や TTP は否定的と考えら れた. aHUS は補体活性経路の一つである第二経路の異常な活性 化により発症する.後天的な抗 H 因子抗体もしくは,遺伝 子変異による補体制御因子の機能喪失変異や補体活性化因子 の機能獲得変異によっておこるため,これまでの TMA や原 因不明の腎不全の家族歴などを有する場合に強く疑われる. 既知の原因遺伝子検査で異常が認められれば確定診断となる が,既知の遺伝子変異が見つからない患者も 4 割程度存在す るため,遺伝子異常がなくても aHUS を否定できないとさ れている.また,診断においては STEC-HUS,TTP,二次 性 TMA の除外を行った患者が臨床的に補体関連 aHUS と 診断されるが,自己免疫疾患や造血幹細胞移植後,腎移植後 などの二次性 TMA でも補体関連遺伝子異常例や抗 H 因子 抗体陽性例の報告もある.治療は,支持治療や PE を行いな がら TTP や二次性 TMA などの鑑別を行いつつ,臨床的に aHUS と診断されたらエクリズマブの投与を検討する.ま た,抗 H 抗体陽性患者ではステロイドや免疫抑制薬での免 疫抑制治療も行う3).aHUS ではエクリズマブの投与開始 1 週間で約半数の症例において血小板数が正常化するとの報告 がされている4).また,急性期の aHUS においてエクリズマ ブを 6~8 週間投与しても溶血性貧血,血小板減少が回復し ない場合は,aHUS の診断が正しいか再確認することが望ま しいとされている5). 本症例においては上記のように,TMA と診断されたが STEC-HUS や TTP は否定的な状態であり,後述のように 二次性 TMA の報告のある悪性腫瘍やシェーグレン症候群 を認めていたため,まずは二次性 TMA としての治療を開始 した.大量ステロイドや腫瘍摘出などの治療に対する反応に 乏しく.DAH も合併し,コントロール不良の TMA であっ たため,遺伝子異常の検査は行っていないものの,aHUS の 可能性も考えられたためエクリズマブが投与された.エクリ ズマブ投与開始後も,3 週間の経過で血小板の回復を認めな かったことから,補体活性経路異常による aHUS であった 可能性は低いと考えられる. STEC-HUS,TTP,aHUS は前述の通り経過や治療反応 性から否定的であり,本症例での TMA は二次性のもので あったと考えられる. 二次性 TMA の原因としては自己免疫疾患,悪性腫瘍,代 謝異常,薬剤性,移植後,薬剤性,妊娠など様々なものが挙 げられる2,6).本症例では自己免疫疾患,悪性腫瘍の合併が 認められているため,これらに伴う二次性 TMA であった可 能性がある. Lechner ら の ま と め た 担 癌 患 者 に 破 砕 赤 血 球 を 伴 う MAHA, 血 小 板 減 少 を 認 め た 168 例 の review で は, MAHA の合併報告は胃癌,乳癌,前立腺癌,肺癌に多く認 められていた.MAHA を伴う固形癌 146 例のうち 91.8% に あたる 134 例は転移を伴う進行性の悪性腫瘍であり,転移を 伴わないものは 12 例であったと報告されている.手術や化 学療法,ホルモン療法など,固形癌に対する治療を行ったも のでは,56 例中 42 例に MAHA の改善が得られたため,悪 性腫瘍に伴う TMA では悪性腫瘍の治療が重要とされてい る7).本症例は舌癌の既往があり,十二指腸癌の合併も認め ていた.舌癌は術後,十二指腸癌も経過中に摘出術を行い, 病理解剖にていずれも腫瘍組織の残存や転移は認められな かったことを考慮すると,悪性腫瘍に伴う二次性 TMA の可 能性は完全には否定しきれないものの,高くはないと考えら れる. 自己免疫疾患に伴う TMA としては,全身性エリテマトー デスや強皮症,皮膚筋炎 / 多発性筋炎,抗リン脂質抗体症 候群,血管炎でみられる.低頻度で後天性 TTP がみられる が,大半は二次性 TMA に分類される8).シェーグレン症 候群を有する患者における TMA の過去の報告は,症例報 告や review を合わせて合計 15 例みられ,そのうち 5 例は 死亡と予後不良な結果となっている.また,これらの報告 のうち,ADAMTS13 活性低下および ADAMTS13 インヒ ビターの存在から,後天性 TTP と考えられるものが 4 例, ADAMTS13 活性が不明なものが 10 例であった.治療に関 しては,PE や新鮮凍結血漿の投与といった血漿治療,ステ ロイド投与での治療がそれぞれ 14 例,9 例と多くの症例で
行われており,PE とステロイド投与を併用した症例では 死亡例はみられていないが,治療反応性が不良でシクロホ スファミドの投与がなされた例も 4 例みられていた.また, ADAMTS13 活性低値,ADAMTS13 インヒビターが認めら れ,PE での治療に抵抗性であった症例に対して,抗 CD20 抗体であるリツキシマブを投与し改善が得られた症例もみら れた9-11).本症例は,PE および大量ステロイド,ステロイ ドパルスに対して治療抵抗性の TMA であった.悪性腫瘍や 肺炎・腹膜炎などの感染症を合併していたため発癌リスクや 感染リスクのあるシクロホスファミドの投与は行われなかっ た.DAH を繰り返し,コントロール不良の感染症を合併し 死に至った.DAH や感染症により全身状態が悪化する前に シクロホスファミドによる免疫抑制治療の強化を行うこと で,実際とは異なる転機を迎えることができた可能性はある と考えられる. 結 語 今回,我々はシェーグレン症候群の経過中に貧血および腎 障害を認め,TMA に伴う DAH を繰り返し死に至った症例 を経験した.TMA をおこす病態は複数あり,それぞれの病 態に応じて治療を検討する必要がある. 本論文の要旨は第 59 回大阪急性期・総合医療センター臨 床病理カンファレンス(平成 30 年 7 月 17 日)にて発表し た. 文 献
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