Co n t e n t s ◇事例 岩手県教育委員会 ……… 大阪府立天王寺高等学校 ………
わが校の
取り組み・
私の工夫
第
26
回
−学習目標の提示−
このシリーズでは、高等学校の取り組みや、個々の先生方の実 践事例を紹介する。今回のテーマは「学習目標の提示」である。 岩手県教育委員会では、英語科の「聞く・話す・読む・書く」の 4技能について到達目標を定める「CAN-DO リスト」の活用を 手厚く支援している。大阪府立天王寺高等学校では「天高育成プ ログラム」で行事を行う目的を、「天高スタンダード」で教科の 到達目標を定めている。到達目標を可視化することで指導の仕方 がどう変わったか、2つの事例を紹介する。 《 シ リ ー ズ 》P36
P39
岩手県教育委員会
英語科の「CAN-DOリスト」の
作成・運用・評価のすべての段階を支援
事例1
2013年度から施行された新教育課程では、英語科 について「聞く・話す・読む・書く」の4技能を統合 的に活用し、英語を実際に使える生徒の育成を強く 求めている。その具体的な方策として文部科学省が 提示している(注)のが、「CAN-DOリスト」の活用だ。 岩手県教育委員会では文部科学省の施策に先立ち、 2010年度から英語科でCAN-DOリストの活用に取り 組み、生徒の「聞く・話す・読む・書く」の4技能の 育成に取り組んでいる。いち早くCAN-DOリスト作 成に取り組んだ経緯や、作成・運用・評価の各段階 における課題や対策について、岩手県教育委員会学 校教育室主任指導主事の須川和紀先生と寒河江和広 先生に話を伺った。「~ができる」という場面を到達目標としてまとめた
指導・学習目標のリスト
「CAN-DO リスト」とは学習到達目標を定めたリスト のことである。目標を「~ができる」という文言で設定 する。「テストで何点とることができる」といった数値 的な目標ではなく、「5文で日記が書ける」など実際に その技能を使う場面に即した目標でなくてはならない。 学習によって具体的に何ができるようになるかを生徒に 明示することで、 意欲的に学べるよ うにすることが最 大のねらいだ。教 員はこうした目標 が達成できるよう に生徒を指導する。 高校の外国語科 では、2013 年度からすべての学校で、CAN-DOリストで 1学年ごとの到達目標を定めることになった。到達目標 は「聞く・話す・読む・書く」の4技能別に立て、授業 を通して生徒が到達目標を達成できるようにする。例え ば必履修科目の「コミュニケーション英語Ⅰ」について、 「読む」技能中心で他の技能をほとんど使わない形式の 授業を行っている場合は、そのままでは他の技能の到達 目標が達成できないため、授業の形式や内容を工夫しな くてはならない。生徒同士が英語でやりとりをする、あ る程度まとまった分量の英文を書くなど、生徒が英語を 多様な形で使い、4技能すべての力を伸ばせるような要 素を含んだ授業に改善する必要がある。英語科における CAN-DO リスト作成は、生徒の意欲向上だけでなく、 生徒がより実践的に英語が使えるように指導方法を改善 することをめざしたものでもあるのだ。 寒河江和広 先生 須川和紀 先生 (注)文部科学省では 2012 年 8 月から「外国語教育における『CAN-DO リスト』の形での学習到達目標設定に関する検討会議」を設けて CAN-DO リス ト作成の手引きを作成した。2013 年度からすべての高校で CAN-DO リストを作成して、指導に生かすよう求めている。今後の会議では国として 学習到達目標を CAN-DO リストの形で設定することについて議論する予定。わ
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第 26回 ― 学習目標の提示 ―
授業の目標を示さないのが高校の指導の問題点
教育委員会がモデルを作り、各校で CAN-DOリストを作成
では岩手県教育委員会では CAN-DO リスト活用を通 じてどのように指導方法の改善に取り組んでいるのかみ てみよう。岩手県教育委員会が CAN-DO リスト作成に 取り組むことになったきっかけは、2005 年度から同県 で行った中高連携による学力向上の取り組みだった。こ の取り組みでは中学校と高校それぞれの視点から授業改 善のアドバイスをするため、中学校・高校担当の指導主 事がペアを組んで、県内全域の中学校・高校を訪問した。 その訪問から、高校では中学校に比べ、授業の冒頭に その時間に学ぶ目標を提示せずに授業を進めることが多 いという点が明らかになった。須川先生は「高校でも、 中学校と同様に、学習の目標をしっかり提示して生徒の 学習意欲を高めようと考えました。そこで他県の先進校 が作成した CAN-DO リストなどを参考にして、まずシ ラバスに到達目標を入れるようにしました。そして 2010 年度からは順次、すべての県立高校が個別に CAN-DO リストを作成することにしたのです」と経緯を語る。 各高校での CAN-DO リスト作成にあたっては、教育委 員会で、各校のモデルにな るような標準的な CAN-DO リスト作成を行った。県版 の CAN-DO リストは大学進 学をめざす生徒が多い高校 向け<図表>と、専門学校 進学や就職をめざす生徒が 多い高校向けの2種類作成 した。作成に際しては大学 進学者の多い高校と、専門 学校進学者などが多い高校 に勤務する教員を交えた7 名で行い、実際に7名の勤 務校で運用して改善を重ね た。 平行して、各校での CAN-DO リスト作成も進められ、 2012 年度までにすべての高 校で CAN-DO リストの作成 が完了した。全校で毎年改 善を重ねて運用している。 各校での CAN-DO リスト作成にあたっては、さまざ まな課題があった。CAN-DO リストは本来3年間でど んな力を身につけさせたいかをすべての学年の英語科教 員が話し合い、各学年の到達目標を決める。しかし当初 提出された CAN-DO リストはそうなっていないものも あった。「2年生の目標が1年生より低いなど明らかに 話し合っていないケースや、目標を『英語検定何級に合 格』とだけ記入しているケースがあり、CAN-DO リス トのねらいがうまく伝わっていないと感じました」(寒 河江先生) そのため、各校から1名が参加して、実際にそれぞれ の勤務校の CAN-DO リストを作り、グループで批評し あう研修を実施したり、学校訪問時に個別に指導主事が アドバイスをしたりした。このような取り組みの結果、 CAN-DO リストは少しずつ改善されているという。ア ドバイスをするときは、指導主事が授業を参観した上で CAN-DO リストの内容を教員と一緒に見直す。「例えば <育てたい生徒像> 外国語を通じて、言語や文化に対する理解を深め、自ら積極的にコミュニケーションを図ろうと努力する生徒。また、情報や考えなどを的確に理解したり適切に伝えたりするコミュニケーション能力を身につけた生徒。 <具体的到達目標> 2年次までに習得した英語の知識を生かしながら相手の伝えたいことを理解し、適切な表現を使いながら自分の意見を伝えることができる。〈外部試験による到達目標目安:(例)英検2級合格 40%〉 4技 能 Listening 事物に関する紹介や報告、対話や討論などを聞いて、情報や考えなどを適切に理解したり、概要や要点を正確にとらえたり することができる。 講義形式の自然なスピードで話された200語程度の英文を、数回聞けばほぼ正確に理解できる。 ネイティブスピーカーが話す英語の他に、アジア圏の人たちが話すような様々な英語も数回聞けばその内容を理解できる。 Reading 説明、評論、物語、随筆などについて、速読したり精読したりするなど目的に応じた読み方を自ら選択して主体的に行うこと ができる。 パラグラフの内容を限られた時間内で概要把握できる他、パラグラフ相互の関係もふまえた上で全体の流れを適切にとらえる ことができる。 (目安:140Words Per Minute)長めの物語やエッセイを、辞書を引かなくてもある程度推測しながら全体を読み通し、あらすじや要点を理解することができる。 評論などの論理的な英文を読む際には、筆者の考えや主張を理解するとともに、客観的にかつ批判的な読みができる。 Speaking 聞いたり読んだりしたこと、学んだことや経験したことに基づき、情報や考えなどについて、話し合うなどして結論をまとめること ができる。 与えられた条件に合わせて、即興で話す。また、伝えたい内容を整理して論理的に話すことができる。 (目安:120秒スピーチ) 多様な考え方ができる話題について、立場を決めて意見をまとめ、相手を説得するための意見を述べることができる。 Writing 聞いたり読んだりしたこと、学んだことや経験したことに基づき、情報や考えなどについて、読み手や目的に応じてまとまりの ある文章を書くことができる。 社会性のある話題に関して、論理的な文章構成を用いてまとまりのある文章を書くことができる。 (目安:100語程度) 多様な考え方ができる話題について、立場を決めて意見をまとめ、読み手を説得するための文章を書くことができる。 基 礎 技 能 語彙・発音 3000語レベルの単語の意味や発音がわかり、そのうちの50%程度は自由に使いこなすことができる。 音読 り暗唱したりすることができる。内容を理解している英文を、内容が聞き手に十分伝わるように、感情を込めたり効果的な工夫を凝らしたりしながら音読した 文法 既習の英文法や表現を理解し、それらを適切に組み合わせた英語で自己表現することができる。 平成 24 年 3 月 一部改訂 <図表>県版・主に大学進学を希望する生徒用のCAN-DOリスト(3年生)
CAN-DO リスト作成における課題は
概念の共有や、学校内の学力差
『1分間で自分の趣味について話すことができる』とい う項目を設定していても、多くの生徒が初回で簡単にで きた場合、到達目標を高めてはどうか、どれくらいレベ ルを上げるかなどをアドバイスします」(寒河江先生) また普通科の高校では、県版の CAN-DO リストのレ ベルを調整することでほぼ対応できたが、総合学科や専 門学科のある高校の場合、同じ学校でも学科によって英 語の授業時間数や生徒が希望する進路、学力に幅があり、 1つのリストで学校全体の到達目標を定めることが難し かった。そこで、校内でコースによって異なる到達目標 を定めるなど、柔軟な対応をすることにした。
CAN-DOリストを運用した授業を増やすため
モデル授業を教員に見せ、授業での英語使用状況を調査
CAN-DO リストは、作成するだけではなく、CAN-DO リストに基づいた授業をすることが大切だが、教員 自身が文法や英文和訳中心の教育を受けてきたこともあ り、「聞く・話す・読む・書く」の4技能をバランスよ く育成する授業に転換するのは簡単ではない。では、ど のように教員に働きかけているのか。 「授業改善のモチベーションを上げるには良い授業を 見てもらうことが一番です」と須川先生は言う。「本県 は県域が広いため、多くの先生を一箇所に集めた研修を 行うのは難しいという事情があります。そのため 30 代 くらいの授業力のある先生を対象とした中核教員研修を 毎年実施しています。その先生が4技能を育成する授業 の方法を研修し、それぞれの地域に持ち帰り、モデル授 業をします。モデル授業では、生徒が英語で自分の意見 を述べる場面がありますが、その時、生徒はなぜか皆笑 顔になります。そんな生徒の姿を見ると、4技能を育成 する授業への変化に消極的だった先生も協力しはじめま す。また中核教員研修以外にも、指導主事が学校訪問し て授業を参観した上で授業改善のアドバイスをします」 さらに岩手県教育委員会では、こうした取り組みの成 果を確認するため、5月と2月に、生徒を対象に「英語 授業現況調査」を行い、授業での教員・生徒の発話の割 合や、英語使用率を調べている。2013 年2月の結果を みると、「英語 I」「英語 II」では、教員と生徒の発話の 割合は5割ずつで前回の調査よりも生徒の発話割合が増 加していた。授業での発話の英語使用率は教員が7割程 度、生徒が5割程度であり、ともに前回の調査よりも増 加していた。生徒が英語を使う場面を多く設けた、4技 能をバランスよく育成する授業が、実際に多くの学校で 行われていることが読み取れる。教育委員会がテスト問題を確認してアドバイス
90% 以上の高校がリスニングの導入など試験問題を工夫
CAN-DO リスト運用にあたっては、到達目標の達成 状況の評価も重要だ。岩手県教育委員会では、定期考査 のペーパーテストの問題を確認し、CAN-DO リストの 到達目標の達成度を測定できるテストになるようアドバ イスしている。また「聞く・話す」力を測るためペーパ ーテスト以外のテストの導入も推奨している。2012 年 度には、リスニングテストを必ず実施することと、年2 回のスピーキングテストの実施をめざすことを全高校に 依頼した。岩手県教育委員会による高校へのアンケート 調査の結果では、昨年度、英語の定期考査にリスニング テストの導入など、CAN-DO リストを意識した工夫を 加えた高校は 90%以上に上っている。 この点について寒河江先生は「CAN-DO リストを導 入する前は、教科書の文章とその意味を暗記していれば 解けるようなテストも多く、授業で指導した技能を実際 に必要とされる場面で使えるかを測る、という意識が薄 かったと思います。これまでのペーパーテストでは、ラ イティングは和文英訳が中心でしたが、表現の幅の広い 自由英作文を取り入れるケースが増えるなど変化が見ら れます。リーディングは読解能力を正しく測るため、初 見の英文を導入するケースが増えています。ALT(外 国語指導助手)に頼めば生徒が既に学んだ単語や文法を 用いて、教科書で学んだ内容に関する定期考査用の英文 を書いてもらうことができます。リスニングテストは、 ALT が音読した文章を録音して定期考査に使うなど各 校で工夫しています。スピーキングテストは、定期考査 とは別に教員がインタビュー形式で行うなどしていま す」と言う。教育委員会も各校のテストの事例を紹介す るなどして支援している。 須川先生は今後の取り組みについて「CAN-DO リスト は作成するだけでなく、どんな指導をすれば到達目標が 達成できるか話し合ったり、到達目標の内容が適切か常 に見直したりしながら運用することが必要です。今後も 研修などを通じて高校が CAN-DO リストを中心に、よ り充実した指導ができるよう支援を継続する予定です」わ
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第 26回 ― 学習目標の提示 ― しい指導が継承されにくくなっていることです。近年、 教員の異動が頻繁になったことや、団塊の世代の教員の 退職によって新任の教員が多くなっています。そのため、 どの時期にどんな力を身につけさせるように指導するか など、本校でこれまで感覚的に受け継がれてきたノウハ ウを意識的に共有する必要が出てきました」と教頭の山 口先生は話す。 2つの問題の解決のために、すべての教員と生徒が、 行事や授業の目的を理解して指導・学習ができるように しようと考えた。そこで 2010 年度から毎年作られてい るのが「天高育成プログラム」と「天高スタンダード」だ。 作成は教務主任と、すべての学年を指導したことがある 教員を各教科1名ずつ集めて組織した教科運営委員会が 行った。 「天高育成プログラム」は3年間の学びのおおまかな 流れや、各行事を通じて身につけることをまとめたもの で、「高い志の育成」「知性の向上」「天高魂の涵養」の 3つのパートに分かれている。各パートの卒業時までの 目標をみると、「高い志の育成」では進路目標を定める ことをテーマに、1、2年生で大学見学会や社会人講演 会を経験し、3年生の夏までに進路決定をするよう示し ている。「知性の向上」では1年生で学習習慣を身につ け<図表1>、2年生で基礎学力の定着、3年生で国公 立大学2次試験に対応できる学力を身につけることが目 標だ。「天高魂の涵養」では運動会や人権教育、水泳訓
大阪府立天王寺高等学校
「天高育成プログラム」で行事を行う目的をまとめ、
「天高スタンダード」で教科の到達目標を定めて、
教員と生徒が指導・学習目標を共有
事例2
大阪市阿倍野区に立地する大阪府立天王寺高等学校 は、1896(明治 29)年に創立された大阪府第五尋常中 学校を前身とする伝統校であり、京都大学、大阪大学 をはじめとする難関国公立大学に多くの合格者を輩出 してきた。通称「天てん高こう」として、府民に親しまれている。 同校では 2010 年度から、3年間の学びのおおまかな 流れや、各行事を通じて身につけることをまとめた「天 高育成プログラム」と、科目ごとに学力の到達目標を 示した「天高スタンダード」を作成している。教員と 生徒がともに、一つひとつの行事や授業の目的を意識 して取り組むことで効果的な指導・学習をすることをめ ざしている。こうした取り組みについて、校長の中井 孝典先生、教頭の山口智子先生、首席の井上弥先生に 話を伺った。2つの問題の解決のために
3年間の取り組みの流れや、行事の目的を整理した
「天高育成プログラム」を作成
大阪府立天王寺高校は「授業第一主義」のもと、質の 高い授業に集中して取り組むことで希望する進路の実現 をめざすほか、多彩な学校行事を実施している。「天高 アカデメイア」という各界の社会人を招いての講演会や 大学見学会などの進路選択に関わる行事に加え、海で遠 泳を行う「水泳訓練」や、電気、ガス、水道のない山荘 での「野外活動体験学習」、「運動会」や「文展」(文化祭) など、多彩な行事がある。 このように授業と多様な行事に真摯に取り組むことで 知力・体力・精神力をバランスよく身につけるという同 校の伝統は、創立以来、脈々と受け継がれてきたが、近 年改善すべき点も見えてきた。 「1点目は、生徒に、一つひとつの行事や授業の目的・ 意義を十分に伝えられていないケースがあることです。 2点目は教員間で、ハイレベルな内容まで教える本校ら 井上弥 首席 山口智子 教頭 中井孝典 校長練などを通して段階的に心身を鍛え、3年生ではリー ダーシップをとって行事のまとめ役を務めることが目標 となっている。3つのパートとも<図表1>と同様に行 事予定だけでなく、行事の目的が併記されている。