言語知識の獲得過程と発話の発達との関係
著者 伊藤 友彦
雑誌名 静岡大学教育学部研究報告. 人文・社会科学篇
巻 41
ページ 197‑204
発行年 1991‑03‑26
出版者 静岡大学教育学部
URL http://doi.org/10.14945/00008326
言語知識 の獲得過程 と発話の発達 との関係
The Relationship between the Acquisition of Language and the Development of Sentence Production
伊 藤 友 彦
Tomohiko ITO
(平成2年10月11日受理)
1 は じめ に
発話 という言語知識使用の一形態(1)が特定 の段階、即ち、一語発話、二語発話、 多語発話 の段階を経て発達するのはなぜだろうか(2)。 この問題を真剣 に扱おうと した場合、 言語知識 の獲得過程 と発話の発達 との関係をどのように捉えるか という問題が極めて重要な検討課題 と なって くる。なぜな らば言語知識 はあって も記憶容量や構音機能など発話 に関わる処理機能の 制約 によってその知識が発話 に反映されない場合が考え られるか らである。 この点 は初期語連 鎖研究 において もしば しば言及 されてはきたけれども、従来の研究の多 くは言語知識の獲得過 程 と発話の発達過程 との関係について明示的な仮説を提示 していない。その結果、発話の変化 をそのまま言語知識の変化 として捉えている研究や、発話の変化 は言語知識の変化 と関係 しな いとする立場などが存在 している。
本論文ではまず初期語連鎖 に関する従来の研究が言語知識の獲得 と発話の発達 との関係をど う捉えているかを概観 し、従来の初期語連鎖研究の問題点 として言語知識の獲得過程 と発話の 発達 との関係 について明示的な仮説を提示 していないことを指摘する。次 に両者の関係 につい て明示的な仮説 に基づ く研究が必要であることを述べ、その一つ として筆者が提出 した発話に おける文処理機能発達モデル (伊藤1990a)を紹介する。
2 従来 の初 期 語連 鎖研 究 にお ける言 語知識 の獲 得 過 程 と発 話 の 発 達 との 関 係 の捉 え方
201 英 語 を対 象 と した研 究
Braine(1963)の 論文 は語連鎖の初期を扱 った興味深い論文である。Braineは 約18カ月の幼 児3名を対象 とした縦断研究を行 った。 この論文で重要であると思われるのは語連鎖数が急増 す る前の時期 に語連鎖数の増加が緩慢で特徴的な語連鎖 (軸構造)をもつ 4カ 月が存在するこ とを明 らかにした点である。 また、 この時期の語連鎖のほとんどがPlX、 XP2とい う極めて 限 られた結 びつ き方を していることを明 らかに した点で も重要 である。 しか し、Braineは 一 語発話期の次 に二語発話期が くるのはなぜなのかは問題 にしていない。 また、軸構造期の後 に 急速 に語連鎖数が増加する時期が存在す るのはなぜかについて も問題 にしていない。 よって、
198 伊 藤 友 彦
一語発話か ら二語発話への移行を言語知識の変化 とみるのか、記憶など発話 に関わる処理機能 の変化 とみるのかは明 らかでない。 また、軸構造期の後 に急速 に語連鎖数が増加す るのは言語 知識の獲得 によると考えるのか、発話 に関わる処理機能の発達 によるとす るのか も明 らかでは ない。
Lenneberg(1967)は発話構成語数の変化を文法カテゴ リーの分化 の過程 の反映 として捉 え ている。従 って、Lennebergは発話構成語数の変化を発話 に関わる処理機能の変化 としてで は な く、言語知識の変化 として捉えているといえる。 しか し、文法カテゴリーが二語発話期の独 急速 に分化す るのはなぜだろうか。 この点 についての説明はない。
McNeill(1972)は 日本語版への序文で、一語発話期 とそれに続 く連続一語発話期まで は統語 構造が存在 しないという見方 を示 している。二語発話期をどのようにみているかについては明 白な記述 はないが、序文の内容か ら、統語構造 は二語発話期か ら存在す るとMcNeillはみて いるようである。 もしそうであれば、McNeillは一語発話期か ら二語発話期への変化を言語知 識の変化 によると考えていることにな る。 しか し、McNeillは一期発話期の次に二語発話期 が 存在す るのはなぜかについては言及 していない。 また、二語発話期か ら多語発話期への変化 に ついて も問題 としてお らず、 どう考えているのかは不明である。
Bloom(1973)は、子供 は一語発話期 に統語構造 に関す る知識を所有 して い るか ど うか とい う問題に対 して連続一語発話(succesive single word utter贔ces)の 存在 な どを証拠 として、
一語発話期 には二語以上の語連鎖が可能であると述べ、一語発話期の発話構成語数が一である のは統語知識が存在 しないことによると述べている。Bloomの この見解 は一語発話期 におけ る発話構成語数の最大値が一であるのは発話 に関わる処理機能 の制約 によるのではな く、言語 知識 によるものであるする考え方を示 している点で重要である。即 ちBloomは統語構造 は一 語発話期 には存在せず、二語発話期か ら存在す ると考えている。つ ま りBloomは、 一語発話 期 と二語発話期 は、前者には統語構造が存在せず、後者には存在するとい う点 において質的に 異なると捉えている。 よって、Bloomによれば、発話 の発達過程 において一語発話期 と二語 発話期の間 に言語知識 の質的変化が存在す ることになる。 しか し、Bloomは二語発話期の発 話構成語数 に二 という制約があることは問題 にしてお らず、二語発話期 と多語発話期 との関係 も問題 に していない。統語構造が存在す る段階に発話構成語数の最大値 に二 という制約が存在 す ること、そ して次の段階にはそのような制約が取 り除かれることをBloomは どの よ うに説 明す るのであろうか。
Brown(1973)は MLU(Mean Length of Utterances)と いう言語発達段階の一つ の指標 を 考えだ した。 これは言語発達段階を発話構成語数の平均値で産出す るというもので、言語発達 領域 のみな らず、言語障害領域で もしば しば用い られている。 しか し、 このような指標 を考え だ したBrown自身が発話構成語数が増加す るメカニズムに対 して明示的な説明を していない。
発話構成語数を指標 とする言語発達段階を考えたBrOwn自身が発話構成語数 の発達 的変化 に 対 して明白な仮説を提出 していないことは驚 くべ きことであ る。Brownは発話構成語数 の変 化が子供 の言語発達の何を反映 していると考えるのだろうか。
Chomsky(1980)は 電文体発話の段階か らそれに続 く段階への変化を言語知識 の獲得過程 と 発話 に関わ る処理機能 の発達 との関係 で詳 しく検討 して い る。 以 下 で は この点 に関す る Chomskyの考え方を紹介す る。
Chomsky(1980)は ある幼児が電文体発話、すなわち文法的要素を伴わないで内容語 だけの
連鎖 を発話す る段階の後で文法的要素を正 しく使用 し始めた場合、その変化の背後にあるメカ ニズムとして二っの可能性があると述べている。一つは、発話に関わる処理機能 (記憶 な ど)
の変化 と考える立場である。 もう一つは言語知識の変化 と考える立場である。一つ目の立場は、
この幼児 は電文体発話の段階で既 にその文法的要素 に関する知識を持 っていたと考える。そ し て、知識があったにもかかわ らず文法的要素が電文体の段階で出現 しなかったのは、記憶など 発話 に関わる処理機能の制約のためであるとする。彼 は電文体発話の段階の幼児 は記憶の限界 のために内容語 しか通 さないフイルターを通 して話 していたのかもしれないと述べている。二 つ 目は、 この幼児 は電文体発話の段階にあった時、該当する規則の体系全体の知識を持 っては いなか ったとみる立場である。Chomskyは次のような可能性が存在す ると述 べてい る。言語 知識 の構成要素の中には、1)「計算的な」規則 と表示の体系 (言語体系)と、 2)概念構 造の体系 (概念体系)とがある。前者 は、様々な統語構造や、音韻あ るいは意味パ ター ンを 形成 し、人間言語の豊かな表現力の源 となる諸規則を含んでいる。後者 は、対象物指示の体系 や「動作主」「 着点」「手段」およびその他の関係、すなわち「 主題関係」あるいは「 格関係」
と呼ばれることのある関係を含んでいる。電文体の段階は、概念体系 は部分的に成熟 している が、言語体系 は、音や単語を与えるような周辺的な部分 を除 いては成熟 していない段階 として 捉え られるわけである。
最初 の立場 にたつと、電文体の ことばの段階か らそれ以後の段階への移行 は、たとえば記憶 における変化のような周辺的変化 によって、すでに表示 されていた知識の体系を使用する能力 が導 き出されたことになる。 これに対 して第二の場合では、「 知識の体系 が一 つ の状態か ら別 の状態 に変化 した」 ことになる。ChOmsky自身 は前者の立場、即 ち、電文体 の ことばの段階 か らそれ以後の段階への移行 はたとえば記憶 における変化のような周辺的変化 によって、すで に表示 されていた知識 の体系を使用する能力が導 き出されたと考える立場 に近 い。 しか し彼 は 後者の立場 も成 り立 ちうるとし、 どち らが妥当であ るか は経験 的な問題 であ ると している。
Chomskyはこのように電文体か ら次の段階への移行 という発話の発達 の問題 に対 して言語知 識 と発話 に関わる処理機能を踏 まえた明示的な仮説 を提出 している。 しか し、一語発話期か ら 二語発話期、二語発話期か ら多語発話期 という視点での検討 は行 っていない。
Cook(1988)は、子供の発話が一語発話か ら二語発話へ とすすむ ことを認 めた上で、 これ ら の段階 はいずれ も言語獲得 と何の関係 もな く、ただ、子 どもの発話の項 目数を短期記憶が制限
して しまうことの副産物 にす ぎないのか もしれないと述べている。短期記憶の1問題 は発話に関 わる処理機能の制約の一つ として しば しば指摘 される。 しか し、掘 り下 げた検討 はなされてい ない。 もし、発話構成語数の制約が短期記憶 によるのであれば、その制約が二語発話期の後、
多語発話期へと急速 に解除 されるのはなぜだろうか。発話構成語数の変化を発話 に関わる処理 機能の制約 とする立場をとるのであれば、 この点の説明が必要 となろう。
2・ 2 日本 語 を対 象 と した研 究
次 に日本語を対象 とした初期語連鎖研究を概観する。
早川 (1978a)は 一語発話か ら二語発話、二語発話か ら多語発話への移行を表現行動の分節化 の現れとして捉えている。早川によれば表現行動 には 3つ の水準がある。水準(1)では発話が表 現の中心 とはな り得てお らず、行為、発話、情動の3者は分離 しがた く融合 し、未分化なまま
伊 藤 友 彦
である。 これが一語発話の段階に相当す る。水準(効では表現行動の中心が発話 に移行 しはじめ てお り、行為 と発話 との分化・ 分離が進む。 しか し、発話だけではまだ表現を全 うすることが で きない。二語発話期 はこの水準である。水準(0では発話 は行為か ら独立 し、それ自体で表現 が全 うで きるようなる。多語発話段階は水準G)である。 この段階での発話は階層的統合構造を 有す る文 によってなされ る。 このように早川 は一語か ら二語、二語か ら多語 という発話構成語 数の変化 を表現行動 の分節化の現れとして捉 えてお り、構音機能や記憶容量の変化などの発話
に関わる処理機能の発達 は全 く問題 にしていない。
早川 (1978b)は また、二語発話の発生 と二語発話か ら多語発話への移行の問題を特にとりあ げて検討 しているが、発話 に関わる処理機能の要因はやはリー切問題 にしていない。記号体系 としての言語知識が二語発話期 という二極構造か ら多語発話期 とい う階層構造へ移行すると早 川 はこの論文では考えている。つま り、二語発話は二極構造 という言語知識を反映 しているも のであ り、多語発話 は階層構造 という言語知識を反映 していると早川 は捉えている。 このこと か ら、早川 は発話構成語数の発達的変化を言語知識の獲得過程を反映するものとして この論文 で は捉えていることがわかる。
一方、早川 (1982)は 一語発話か ら二語発話への移行 について一語発話 か ら二語発話への移 行 は表象機能の形成 に負 っている可能性を指摘 している。 また、一語発話期 において二語発話 を生成 し得ない理由として、二つの材料 (こ とば)を一つの線上 に順序づける機能の制約によ るのではないか と述べている。 この ことか ら早川 はこの論文 においては一語発話か ら二語発話 への移行 には、(1)表象機能 とい う、言語知識それ自体 とは異 なる知的能力の発達 と、け)二つの 材料 (ことば)を一っの線上 に順序づけるという発話 に関わる処理機能、が関わっていると考 えていることがわかる。
柴 田 (1990)は言語発達 に関す る興味深 い著書の中で発話構成語数の変化 も問題 として と り あげている。彼 は幼児 にとって最 も密着 した ことば (例 :コ コ、 コン)が媒介 とな り、慣例化
した表現 に単語が一つ付加す るというや り方で二語、三語、四語発話がそれぞれ作 られてい く と考えている。柴田は発話が子供の言語知識を直接反映 していると考えているのだろうか。そ れ とも発話構成語数の変化は構音機能や記憶容量の変化など発話 に関わる処理機能 の変化 によ るものと考えているのだろうか。
綿巻 (1979)は二語発話か ら多語発話期 にかけての一幼児の発話を分析 し、 その変化 を記述 しているが、発話 に関わる処理機能の制約 には全 く触れていない。発話の変化 は言語知識の変 化そのものであると考えているのだろうか。大久保(1976)、 吉田(1975)の報告 は日本語 の二 語発話を記述 している。 しか し、二語 とい う発話構成語数の制約がなぜ存在す るのかについて
は全 く触れていない。 また、発話 に関わる処理制約 について も言及 していない。
3 言 語知識 の獲 得 過 程 と発 話 の発 達 との関係 に関 す る仮 説
前節で は、従来の初期語連鎖研究が言語知識 の獲得過程 と発話 の発達 との関係 について明示 的な仮説 な しになされてきた ことを指摘 した。一語、二語、多語 とい う初期語連鎖の変化 は主 として言語知識の獲得 と発話 に関わる処理機能の発達 との関連 によると考え られ る。 よって、
初期語連鎖研究 においては両者 の関係 についての明示的な仮説 に基づ く研究が必要であると思 われ る。 ここではその一つ として筆者の、発話 における文処理機能発達 モデル (伊藤、1990め
を紹介す る(3)。
筆者 は幼児の発話 にみ られる言い直 しや くり返 しなどの、非流暢性 または自己修正 と呼ばれ る現象 に着 目し、 この現象の生起・ 消長過程を言語発達 との関連で検討 した。そ してその結果 を手がか りとして発話 における文処理機能発達 モデルを提出 した。 このモデルは言語知識に関 す る仮説 (Hl)を基盤 とし、 発話 に関わ る処理機能 に関す る以下 の仮説 (H2)からな る(4)。
Hl)日本語の獲得過程 において統語構造 は格助詞使用前 には存在せず、格助詞使用開始期 か ら存在す る。
H2)発話処理機能 の発達過程 において統語構造が存在 しない段階 (処理単位が単語の段陶 か ら統語構造が存在す る段階 (処理単位が句の段階)へと処理機構の変換が行われる。
統語構造が存在 しない段階では一語処理の段階か ら二語処理の段階へ と処理容量が増 加する。統語構造が存在す る段階では単文処理の段階か ら複文処理の段階へ と処理容 量が増加する。
これ らの仮説 は言語知識の獲得過程 に関する以下の仮説 (H)を前提 としている。
H)言語獲得過程 において統語構造が存在 しない語連鎖の段階が存在す る。
図1は筆者が提出 した発話 における文処理機能発達 モデルである。 このモデルによると言語 知識の獲得過程 と発話 に関わる処理機能の発達 は以下のようになる。 まず、前発話期の後 は統 語構造が存在 しない段階 (前統語構造期)である。 この段階は日本語の場合、格助詞が未出現 の時期 に相当 し、言語処理の単位 は単語である。単語処理段階の最初 は一語 しか処理できない 段階であ り、 この段階の後、二語 の処理が可能な段階 となる。二語処理段階の後、統語構造が 出現する。統語構造期 は日本語の場合、格助詞使用期 に相当す る。それに伴 って処理機構の変 換がおこり、処理単位が句 となる。処理単位が句 の段階を文処理段階 と呼ぶ。文処理段階の最 初は単文 しか処理で きない段階であ り、 この段階の後、複文処理が可能な段階 となる。複文処 理が可能 になった後は言語知識及び発話 に関わる処理機能に著 しい変化 はな く、処理をより円 滑にす るための機能が発達す るだけとなる(5)。 円滑な複文処理が可能 な処理機構 は基本的 に 成人 と同 じ処理機構であるといえる。なぜな らば、複文が産出で きるとい うことは、文 と文を 並べ ることがで き、文の中に文を埋め込むことができるということであり、原理的には無限に 長い文を産 出す るメカニズムを獲得 したことになるか らである。そこで この段階を成人型処理 期 と呼ぶ。
統語構造が存在 しない段階の処理 と統語構造が存在す る段階の処理 とは処理単位が異なるこ とか ら質的 に異なったものであると言える。 これに対 して一語処理か ら二語処理への変化 は基 本的に同 じ処理機構 (統語構造 によ らない言語処理)の中における処理容量の増加 とみること がで きる。 また、統語構造が存在する段階には単文処理 しかで きない段階か ら複文の処理 も可 能な段階への変化があると考え られるが、 この変化 も基本的に同 じ処理機構 (統語構造による 言語処理)の中における処理容量の増加 とみることがで きる。
202 伊 藤 友 彦
前統語構造期 (格助詞未使用期)
単語処理段階 (処理単位が単語)
統語構造期 (格助詞使用期)
文処理段階 (処理単位が句)
前発話期 → → 成人型処理期
処理容量の増加 処理円滑化機能の 処理機構の変換 発達
図 1 発話 における文処理機能発達 モデル
2節か ら明 らかなように、従来の初期語連鎖研究では一語か ら二語、二語か ら多語 という発 話構成語数の変化全体 を説明する言語知識及 び発話 に関わる処理機能に関する明確な仮説が提 出されていない。 もし、発話構成語数の増加が言語知識の獲得のみで決定 され るのであれば、
一語発話、二語発話の段階を説明す ることが困難である。なぜな らば、一語、二語など語数 に 規定 され る統語知識の存在 は考えに くいか らである。一方、発話構成語数の増加が言語知識で はな く、発話 に関わる処理機能のみによって決定 されているとす る。 この場合、一語発話期か ら二語発話期への変化は自然のように思われるけれども、二語発話期の後 に多語発話期へと処 理機能が急速 に発達す るの はなぜかを説明することが困難 となる。従 って、発話構成語数の変 化 は言語知識の獲得過程 と発話 に関わる処理機能の発達の両面か ら検討す る必要があると思わ れる。
本論文で提出 したモデルは、一語発話か ら二語発話、二語発話か ら多語発話ヽ という発話構 成語数 の変化を次 のように説明す ることがで きる(6)。 発話の長 さは発話 に関わ る処理容量 に 制約 され、発話 に関わる処理容量 は処理単位 に依存する。発話の発達過程の初期に処理単位が 単語 の時期があ りヽその時期 において処理容量 は一語処理か ら二語処理へ と増加す る。発話の 発達過程 において一語発話期、二語発話期が存在す るのはそのためである。 二語発話期 の後、
統語構造が出現 し、それに伴 って処理単位が単語か ら句へ と変化す る。句 は複数の単語か ら構 成 され うる。二語発話期の後 に多語発話期が存在す るのはそのためである(7)。
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4 お わ りに
本論文では初期語連鎖に1関する従来の研究が言語知識の獲得過程 と発話 の発達 との関係 をど う捉えているかを概観 した。そ して従来の初期語連鎖研究の問題点 として言語知識の獲得過程 と発話の発達 とを区別 してお らず、両者の関係について明示的 な仮説を提示 していないことを 指摘 した。次 に両者の1関係 について明示的な仮説 に基づ く研究が必要であることを述べ、その 一つ として筆者が提出 した発話 における文処理機能発達モデルを紹介 した。
注
1.Chomskyは言語知識 と、 その使用である言語使用 とを区別 し、言語使用 の説明の一要因 として言語知識を用いる。本稿 はこの枠組みが言語研究上有効であることを前提としてい る。言語研究 に対す るChomskyの基本的な考え方についてはChomsky(1975,1980,198の 等を参照 されたい。
2.Felix(1986)は言語獲得研究 の課題を二つに分けている。一つは論理的問題 であり、,人1間 の自然言語獲得を可能 に しているものは何か という問題である。 もう一つ1ま発達的1問1題で あり、人間が言語獲得の過程で特定の段階を経 るのはなぜか という1問題である。本論文 は この枠組みによると発達的問題を検討 したものである。
3。 以下の1内容 は伊藤 (1990a)の第6章1節にも°とづ く。
4.これ らの仮説 と発話 の発達 データとの1関係 について述べた ものとしてIto(1989a,1989b) ,
がある。
5。 処理円滑化機能の詳細については伊藤 (1990a)の第6章1節を参照 されたい。
6。 発話構成語数の変化 については伊藤(1989c)で も述べた│。
7.本論文で提出 したモデルは発話構成語数 の変化以外の発話 の発達に関わる複数の事実を説 明できる。伊藤 (1990a)の第6章1節、及 び伊藤 (1990b)を参照 されたい。
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