女性と年金
ーアメリカ合衆国の判例を素材にしてー
法経論集第64号
根本
猛
はじめに
女性と年金 アメリカ合衆国の判例を素材にして
前園のーーらまり一九八五年に成立し︑翌年から実施された公的年金制度改革のポイソトをひとつだけあげる
とすれば︑次の点であろう︒それは︑全年金共通の基礎年金制度を導入し︑女性の年金権を確立したとされる点
である︒ しかし︑この改革の恩恵にあずかった﹁女性﹂は︑一部の女性である︒厚生年金や共済年金などの被用者年金
に加入する者の無業及びパ;トタイマーの妻は︑それまで︑国民年金に任意加入する︵保険料自己負挺︶か︑夫
の老齢年金の加給年金として考慮されるだけだったびそれが︑保険料負担なしで自己名義の基礎年金を支給され
るようになったのだから︑これらの者にとっては︑たしかに画期的といえる改革だったことになる︒
一方︑被用者年金に加入するフルタイマーの女性には︑この改革はなんの利益ももたらさなかったばかりでな
く︑同時に実施された給付水準の大幅引き下げの最大の犠牲者であったことは前稿において指摘したとおりであ
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論
ハユレる︒また自営業者など被用者年金には加入しない者の妻は︑有業か無業かにかかわらず︵妻自身が被用者年金に
加入する場合を除く︶︑従前より︑国民年金に強制加入︵保険料負担あり﹀だったので︑やはり︑給付水準引き
下げの影響だけをうけたことになる︒
結局︑この改革によって︑年金権が確立した﹁女性﹂は︑サラリーマソの無業及びパートタイマーの妻だけで
あって︑その他の女性には︑むしろ︑負担が大きいものだったことがわかる︒
ところで︑現在の年金制度をながめると︑いくつかの男女差別がみつかる︒女性と年金をめぐっては︑なお︑
問題は少なくないと思われるo
第一は︑遺族年金に関する男女差別である︒国民年金法第三七条によると︑遣族基礎年金は︑被保険者死亡の
場合に︑妻または子に支給する︵妻に対する遺族基礎年金の支給は一八歳未満の子がある場合に限られる﹀とし
て︑夫を受給権者から除外している︒子に対する遺族基礎年金も︑生計を同じくする父または母があるときは支
給を停止するとされている︵第四 条第二項︶ので︑実際上︑遺族基礎年金の支給は︑母子が残された場合︵妻
に支給︶と子だけが残された場合︵子に支給︶に限られることになる︒
また︑厚生年金保険法第五九条は︑遺族厚生年金について︑妻は無条件で受給できるが︑夫は妻の死亡時に五
五歳以上の場合に限ると規定している︵第六五条の二によれば夫に対する遺族厚生年金支給は六〇歳からである︒ ハ ただし︑一八歳未満の子があれば子に支給される︶︒さらに︑一八歳未満の子がないので遣族基礎年金を受給で
きない妻のために︑第六二条は一定の要件く夫の死亡時に三五歳以上であるか︑三五歳のとぎに一八歳未満の子
がいた妻が四〇歳以上になる︶を備えた寡婦に遺族基礎年金額の四分の三を加算して支給すると規定しているが︑
夫についてそのような定めがないことはいうまでもない︒
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︵3︶ 第二は︑厚生年金の支給開始年齢及び年金保険料に関する男女差別である︒これらは︑現行法の本則では男女 ︵桑︶同一の取り扱いになっているが︑以前は女子に醐定の優遇措置があり︑現在︑差別解消の途中にある︒支給開始
年齢については︑男女六〇歳︑女子五五歳だったのが︑二〇〇〇年には男女とも六〇歳となる︒現在は︑経過措
置により︑女子の支給開始年齢は五六歳である︒また︑年金保険料に関しても︑ほぼ同様の経過をたどっており︑
一九九〇年一月現在︑保険料率は︑男子が一四・三%であるのに対して︑女子は一三・八%となっている︒なお︑
保険料は労使折半で負担するので︑労働者側の負担でみると︑男子は七・一五%︑女子は六・九%となる︒ ︵5︶ 以上のうち︑第一点については︑一部の専門家を除き︑ほとんど批判の声は聞かれないようである︒第二点に ︵6︶ついては︑女子労働の現状などに鑑み︑むしろ︑差別の解消は軽々にすべきでないという意見もあるようである︒
アメリカ合衆国では︑すでに︑ 九七〇年代に︑こうした男女差別の合憲性が激しく争われ︑連邦最高裁判所
は一定の結論を出している︒本稿では︑その内容を検討し︑わが国の女性と年金をめぐる諸問題を考える際の参
考に供したいと思う︒
ω 根本猛﹁公的年金制度改革及び税制改革における夫婦像﹂法経論集︵静岡大学法経短期大学部︶第六三号
︵一九八九︶︒
② 公務員などが加入する共済年金もほぼ同様の規定になっている︵ただし︑夫の遺族共済年金について︑妻
死亡時の年齢制限はない︶︒
⑧ 共済年金では︑このような男女差別はない︒
㈲ 一九五四年までは男女とも支給開始年齢は五五歳であった︒財政対策から男子については六〇歳に引き上
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げられたが︑通算年金制度創設前の当時においては︑女子の雇用が一般的ではなかったこともあって︑女子
の厚生年金受給は稀であったため女子については見送られたとされる︒すなわち︑保険料率の男女差も含め
て女子に対する優遇措置は︑保験料支払いが年金支給に結びつく可能性が低い︵なお︑年金支給に結びつか
ない支払い保険料については脱退手当金の制度があったので﹁掛け捨て﹂ということにはならない︶ことに
対する一種の﹁代償措置﹂と思われる︒社会保障研究所編﹁年金改革論﹂三六頁︵一九八二︶︑第一〇一回
国会衆議院地方行政委員会議録第一四号=頁︵一九八四年五月八日︶︒
⑤ 金城清子﹁法女性学ーその視覚と課題・一〇﹂法律時報︸九八九年九月号一=一頁︑=六頁︒
公的年金制度改革の国会審議において︑小笠原貞子参議院議員は︑遺族厚生年金について︑﹁男女の家庭で
の役割分担というものも今までと違って︑男は外女は内なんという考え方はこれは間違いだというふうになっ
て︑その役割分担も大きく変わってきて︑現実に妻が家計の主体となっている例は少なくござ︑いません︒⁝
⁝妻がけなげに働いているというのは︑本当にだんな様が弱かったり病身だったりという中で奥さんが主に
なって頑張っている︒その奥さんが病弱な夫のことを考えると︑もし私が死んだ後︑夫は生きていけないの
ではないかというふうに切実に訴えてきておられるわけです︒⁝⁝妻の年金権を︑夫への遣族年金という問
題についてもやっぱり配慮すべきだというのが私の考え方︵です︶﹂と指摘している︒第一〇二回国会参議
院社会労働委員会︒内閣委員会・地方行政委員会・大蔵委員会・文教委員会・農林水産委員会・運輸委員会
連合審査会会議録第一号三〇頁︵一九八五年四月一九日︶︒
⑥ 公的年金制度改革の国会審議においても︑多くの議員がこの論点を提起している︒たとえば︑第一〇二回
国会参議院社会労働委員会会議録第一五号二〇頁︑二八頁︵一九入五年四月一六日︶︒また︑沢村恵三﹁女
η
性と年金問題﹂前衛一九八九年一〇月号一四二頁︑一五三頁︒
遺族年金の男女差別
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遺族年金の男女差別は︑最高裁判所を舞台に︑再三にわたって︑その合憲性が争われた︒ バ 一九七五年のウィルゼソフェルド判決は次のような事案にかかわる︒連邦社会保障法第二〇二条︵合衆国法典 ︵8︶ 第四二編第四〇二条︶は︑年金給付に関する総則的な規定だが︑その但項は被保険者が死亡した場合の未成年子
きノに対する遺族年金について定めている︒このω項には問題はない︒問題は︑舞に対する遺族年金を規定する㎏項
ヘノ ヘノである︒ここでいう母とは被保険者の母ではなく︑未成年子の母である︒㎏項によれば︑ω項による遣族年金受
給資格がある未成年子を保護する母は一定の要件に該当すれば︑母に対する遺族年金を受給できた︒しかし︑こ
れに対応すべき父に対する遺族年金については︑なんら規定がなかった︒︵なお︑給付の財源は︑被保険者の収
入から控除される社会保障税による︒ただし︑過去の納付記録が年金額などにはねかえるので︑実質は︑社会保
険方式をとっているといってよい︶
妻の死亡により未成年子の世話をしなければならなくなった原告︵被上訴人︶ウィゼソフェルドは︑遣族年金
を彼自身とその未成年子に対して支給するよう申請したが︑上詑の規定にもとづき︑彼自身に対する支給は拒否
されたく未成年子の分は支給︶︒そこで︑原告はその給付を求めて提訴した︒地裁がこの主張を容れたので︑政
府側は直接最高裁に上訴した︒
最・高裁は全員一致め判断で︑原判決を支持した︵上訴棄却︶︒法廷意見は︑この男女差別を︑のこされた配偶
四
説
者間での差別ではなく︑死亡した被保険者に対する差別ととらえている︒
﹁⁝⁝︵本件の︶区別の下には︑男性労働者の収入は︑家族の生活維持に不可欠だが︑女性労働者の収入は︑
重要な貢献をしていないという﹃憲法上許容されない﹄⁝⁝﹃古風かつ過度に広汎な﹄一般化が横たわっている﹂
﹁たしかに︑配偶者や子の第︸の扶養者が男性であることが女性であることよりも多いという概念は︑経験的
な支持を全く欠いているわけではない︒しかし︑そうした性にもとつく一般化は︑その収入が家族の生活維持に
重要な貢献をしている女性労働者の努力を汚すことを正当化するには不十分である﹂
政府側は︑これに対して︑問題の男女差別を﹁寡婦に財政的援助を与えることにより︑女性の不利な経済的地
位を埋め合わせよう﹂と意図したものだと反論した︒
﹁しかし︑単に︑善意の補償的目的を唱えることは︑⁝⁝真の霞的についての審査に対して︵制定法を︶保護
する自動的な盾ではない︒本件では︑制定法の構造自体及び立法史から︑連邦議会の目的は︑経済的差別のため
に︑自分自身では収入を得ることができなかった子をもつ若い寡婦に︑給付を与えることではないことが明らか
になる︒むしろ︑︵この区別は︶女性が働くのではなく︑子の世話に専念することを選択させることを意図した
ものである︒この目的は︑女性の特別な不利益を前提としていないので︑働く女性に与えられるべき保護を減少
させる性にもとつく区別を正当化するのに役立たない﹂
まず︑法廷意見は︑立法史に言及して︑この制定法の審議過程で︑しばしばこうした目的が述べられていたこ
とを指摘する︒そして︑制定法の構造については︑子のない寡婦は給付をうけられないこと︑受給者の子が成年
に達したら打ち切られることをあげて︑﹁もし︑連邦議会が経済的差別のゆえに女性に給付を与えようとしてい
るならば︑こうした女性を除外することは全く不合理であろう﹂と断定する︒この女性同士での区別についての
簿
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唯一可能な説明は︑子がのこされた親の注意をうけることができるように意図したということであるが︑そうす
ると︑のこされた親の性によって︑子に対する保護の程度が異なることは︑これまた不合理であるとする︒
ここでの遺族年金の男女差別は︑わが国のそれよりマイルドなものであった︒少なくとも︑未成年子に支給さ
れる遺族年金に関しては差別はないのである︒実は︑アメリカ合衆国でも︑この第二〇二条が制定された当初は︑
母が死亡した場合の遺族年金については︑現在のわが国と同じように︑父と同居していなかったことなどの要件
が課されていたのが︑一九六七年にいたり︑父母同一となったのである︒それにもかかわらず︑最高裁は全員一
致の判断で違憲とした︒こうした結論に達した要因は二つあると思われる︒第一は︑この男女差別が反証を許さ
ない最終的なものだった点である︒第二は︑遺族年金の表面上の受給者は母であるが︑その真の受益者は子であ
ると最高裁はみている点である︒おそらく︑最高裁によれば︑性ステレオタイプ︵男女の役割に関する伝統的な
観念︶の維持が許されるか否か以前の問題として︑子の保護の程度がたまたまのこされた親の性⁝−⁝父親か母親
かによって最終的に決定されるのは到底許されないということであろう︒これらのことが保守派の裁判宮も含め ム ねた全員一致の違憲判決につながったものと思われる︒ ︵10︶ 一九七七年のゴールドファーブ判決は︑やはり︑遺族年金の男女差別に関するものだが︑問題は少し微妙であ
る︒連邦社会保護法第二〇二条︵合衆国法典第四工編第四〇二条︶㈲項は寡婦年金について︑同条GD項は寡夫年
金について︑それぞれ規定している︒支給要件のうち︑再婚していないこと︑六〇歳以上であること︑老齢年金
の受給権がないことなどは︑男女同一であるが︑ひとつだけ違いがあった︒それは︑寡夫の場合︑死亡した妻か
ら少なくとも生活費の半分を出してもらっていたという証明が必要な点である︒寡婦の場合は︑死亡した夫に対
する依存の程度にかかわらず支給されていた︒
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漂告︵被上訴人︶ゴールドファーブは︑遣族年金の支給を︑上記の要件を理由に推否されたので︑この差別は
憲法違反であるとして︑訴訟を提起した︒地裁は︑この差別は女姓労働者に対する違憲な差別であると判断した︒
政府側は︑再び直接最高裁に上訴した︒最高裁は︑結論としては︑五対四で原判淡を支持したが︑多数派内で︑
その理由づけがわかれ︑法廷意見は構成されなかった︒
まず︑四人の裁判官が同意する相対多数意見は︑本件の男女差別は︑ウィゼソフェルド判決のそれと区別でき
ないとして︑先例は原判決維持︵上訴棄却︶を要求すると述べている︒
そのあと︑相対多数意見は︑政府側の主張を逐一しりぞけている︒
﹁上訴人は︑平等保護の分析を︑女性労働者に対する差別ではなく︑⁝⁝寡夫が違憲的に差劉されたか否かに
しぼろうとしている︒⁝⁝
だが︑ウィゼソフェルド判決は︑事実上同一の議論を否定した﹂
次に︑相対多数意見は︑上訴人の﹁連邦議会は︑社会保障プログラムにもとつく非契約的給付を配分する分類
を作り出す広い自由をもっているという提議を確立されたものとして受け入れる﹂︒しかし︑男女差別が問題と
なっている場合︑社会保障であるという理由で︑その審査基準が別なものにはならないとして︑十分な正当化理
由がなければならないとこの項を結んでいる︒
上訴人の第二の主張は︑本件は︑その目的の点で︑ウィゼソフェルド判決などと区別されるというものである︒
これらの先例では︑個別的に扶養の状態を決定することから生ずる経費とトラブルを取り除くことだったが︑本
件では︑寡夫と寡婦の社会保障のニードが異なるので︑異なる支給基準を設けたというのである︒相対多数意見
はこれをしりぞける︒問題の規定と制定法全体の構造において支給基準は︑ニードではなく扶養であるし︑立法
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史にたずねても︑﹁連邦議会が︑男女差別によって引き起こされた不利益を補償するために︑扶養家族でない場
合であっても︑寡婦は給付を必要としていると考えたことを示すものはなにもない﹂
﹁我々は︑それゆえ︑扶養家族ではない寡婦と寡夫の異なる取り扱いが︑寡婦のより大きいであろうニードを
是正しようという連邦議会の慎重な意図から生じたものではなく︑妻は通常扶養家族であるという推定と結び付
いたうえで︑蛍働者の扶養家族である配偶者を援助しようという意図からでたものであると結論する︒⁝⁝制定
法に︑妻が扶養家族であるという推定を書き込む唯一の考えられうる正当化理由は︑⁝⁝﹃古風かつ過度に広汎
な﹄ 般化のみにもとつく前提である︒⁝⁝我々は︑⁝⁝そうした前提は︑雇用に関連する給付の配分における
性にもとつく差別を正当化するには十分でないと判示する﹂
スティーブソズ裁判官が︑原判決維持︵上訴棄却︶に同意した第五の裁判官であるが︑梱対多数意見とは︑異
なる角度から論じている︒
スティーブソズは︑率直に︑この差測は男性に対するものであることを認める︒しかし︑この点での女性の優
遇が寡婦の経済的衝撃の緩和であるがゆえに正当化されるという主張には同意しがたいとする︒
﹁この制定法の歴史は︑連邦議会は︑単に︑すべての寡婦は︑なんらかの一般的意味において﹃扶養家族﹄と
みなされるべきであるという前提をしたという見解と完全に一致する︒⁝⁝分析や現実の熟慮ではなく︑習慣に
よって︑﹃寡婦﹄と﹃扶養家族である生存配偶者﹄を同一視することが受け入れられたと考えるのが公正である︒
そうした自動的な反射は︑過去の不正を補償するために女性を有利に扱うという立法部の決定とも︑行政上の節
約が︑扶養家族ではない寡婦に給付を拡張する費用をしのぐという立法部の決定ともかけはなれたものである︒
それゆえ︑私は︑男性に対するこの差別は︑単に︑女牲についての伝統的思考方法の偶然の翻産物にすぎない
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説
と考えるし
ウィゼソフェルド判決では︑全員一致の違憲判決だったが︑本件では︑最高裁は真っ二つにわれた︒のこされ
た遣族︵特に未成年子︶の保護という側面がなくなり︑社会保障の文脈で性ステレオタイプをどうみるかが︑よ
り本質的な形で問われたからだろう︒
・男性に対する差別ととらえるか女性に対する差別ととらえるかは見解を異にしたが︑相対多数意見とスティー
ブソズ裁判官の理由づけの核心には共通点もみられる︒それは︑かたや﹁古風かつ過度に広汎な︸般化﹂といい︑
もう一方では﹁女性についての伝統的思考方法の偶然の副産物﹂というが︑性別役割分業論にのっかった男女差
別に否定的である点である︒
ゴールドフ・7ーブ判決は︑たしかに︑五対四というぎりぎりの違憲判決だった︒この点で判例の安定性にやや
難があると思われるかもしれない︒しかし︑このタイプの男女差別︑すなわち︑遺族に対する給付において︑女
性の遺族には給付するが男性の遣族には給付しない︑または︑女性の遺族には膚動的に給付するが男性の遺族に ハロ はなんらかの証明を要求するといった差別は︑このあと︑失業に関する公的扶助︵この場合は遺族ではないが︶ ハむ や労災補償の遺族年金に関しても合憲性が争われたが︑結論は変わらなかった︒結局︑最高裁は︑このタイプの
男女差溺について︑文脈のいかんを問わず︑憲法違反と考えているというまとめ方が可能である︒
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GりT暮藷霞く6壽馨馨一9§q︒°︒°①゜︒の︵§⑰γ
㈲ アメリカ合衆国の公的年金制度全般については︑社会保障研究所編﹁アメリカの社会保障﹂七三頁︵一九
八九︶を参照した︒
女性と年金 アメリカ合衆国の判例を素材にして
⑨ この判決の当時︑最高裁は︑男女差別にいかなる違憲審査基準を適用すべきか一致していなかったが︑
﹁この対立は︑事実に関しての強い証明⁝⁝によって消された﹂ 魯げ霧8鋭G︒Φ図U溢⇔識日ぢ曽試◎昌ー1お窃り
器q°O°ピ︾°い゜劉Φくp器鈎鉢o鶉︵お誤γ
働琶雪;︒︒箆彗§¢・︒・・謹︵μ⑩↓︶・
⑳霞ぎく・≦§︒夢濠・・dφ三壽︶・AFDCと呼ばれる子の扶養を晶とする公的扶助にお
いて︑父が失業したときは給付するが母が失業したときは給付を行わないという男女差別が全員一致で違憲
とされた︒
働≦Φ暴;U掃護・・諾窓二琶ぎ書︒①︒︒こ§⇔φ器︵おQ◎O︶・労災補償の遺族年金が寡婦に
は自動的に支給されるが︑寡夫は扶養家族であった︵または障害があり労働不能︶という証明がなければ支
給されないという男女差別が八対一で違憲とされた︒
年金額計算方法の男女差別
わが国の例で紹介したような女性に対する優遇措置は︑現在のアメリカ合衆国の年金制度には存在しない︒し
かし︑一九七二年に改正される前の連邦社会保障法においては︑年金額の計算方法について︑女性に対する優遇
措置︵男性に対する差別︶が規定されていた︒連邦社会保障法第二一五条︵合衆国法典第四二編第四一五条︶に
ょれば︑老齢年金額は平均月収額に応じて算定されるが︑平均月収額はその者の収入︵わが国の場合と同様︑過
去の分は収入水準の上昇に応じて再評価する︶が多かった一定期間の平均によることとなっていた︒問題は︑こ
法経蓬盆集第64号
四
の=定期間﹂の長さが男女で異なっていたのである︒こうした制度では︑﹁一定期間﹂が短いほど平均月収額
が高くなることはいうまでもない︒具体的には︑男性が一九五一年から六五歳になる前の年までの期間からさら
に五年をひいた期間をいうのに対して︑女性は一九五一年から六二歳になる前の年までの期間から五年をひいた
期間を意味することになっていた︒一九〇〇年生まれの男女を想定すると︑男性が収入が多かった九年間の平均
をとるのに対して︑女性は六年聞の平均をとることになる︒要するに︑同一の状況にある男女を比較すると︑女
性は︑収入が低かった三年間をさらに平均月収額の算定期間から除外することができるのである︒ ︵13︶ 一九七七年のウェブスタ!判決︵この判決は︑ゴ!ルドファーブ判決の一九日後に下されたものである︶はこ
の男女差別にかかわる︒原告︵被上訴人︶ウェブスターは︑男性であったので︑一八六ドル弱の老齢年金を支給
されることになったが︑彼がもし女性であったなら︑老齢年金額は一一〇四ドルであったとされる︒提訴をうけた
地裁は︑この差別が違憲であるという判断を示した︒政府側は︑この事件でも︑直接最高裁に上訴した︒最高裁
は︑全員一致の判断で︑上訴を容れ原判決を破棄した︒
このうち五裁判官が同意する無署名法廷意見は︑この差別の屠的とされる﹁女性に対する長い差別の歴史によっ
て引き起こされた男女間の経済的状態の不均衡を軽減すること﹂が︑真の立法鼠的といえるかどうか︵実際は︑
性ステレオタイプにもとつくのではないか︶を審査する︒
﹁本件の制定法の⁝構造は︑ウィゼソフェルド判決及びゴ;ルドファーブ判決で違憲とされたものよりも︑︵女
性差別の補償が争点となった︶カーソ判決及びバラード判決において支持されたものにより似ている︒本件の女
性労働者に対する優遇措置は︑女性についての﹃古風かつ過度に広汎な一般化﹄の結果でもなければ︑﹃社会が
長い間﹄女性に﹃課してきた役割分業論﹄の結果でもない︒むしろ︑﹃第二一五条の優遇措置の唯一の認識され
80
うる目的は︑我々の社会の長い間の女性に対する異なる取り扱いを救済するという許容されるものなのであるヒ
このあと︑労働市場が女性を好意的に受け入れていないことを指摘し︑立法史を検討したうえで︑連邦議会が
意図したのも過去の差別の補償にあると理由づけている︒ °︵14︸ この判決は﹁真の補償的分類には狭い回廊をあけておきつつ︑平等の取り扱いという一般原即を指向している﹂
と評されるが︑役割分業論に加担しないよう︑注意深く論理を展開しているのは評価できよう︒
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(14)(13)
○嚢自臨碑嵩◎<°≦¢訂審さ蒔c︒O⇔°GQ°ωお︵同O謡γ
Q貯゜・ぴ霞σq矯GQ賃図ρ遣巴騨鱗ゆ郎伽夢①Oo霧鉱9誌◎壁
まとめ 認8鉦曹財切Φ︿°㌫ピミH︵猟雪◎︒︶°
﹁女性と年金﹂というテーマを掲げると︑多くの人々は︑基礎年金の給付水準の低さや︑労働市場における女
性の低賃金が年金の支給額にもはねかえる問題などを想起するだろう︒私も︑これらの問題が無視できないもの
であることは承知している︒
しかし︑私は︑法律上の男女差別により大きな関心をもつのである︒というのは︑それが︑政府が女性︵や男
性︶の生き方1ーライフスタイルをどう考えているかを明瞭に示すからである︒この点で︑アメリカ合衆国の議論
は︑大いに参考となるところがあろう︒ ︵矩︶ アメリカ合衆国の最高裁判例を要約すると次の三点になろう︒
8Z
説
第一に︑夫が死亡した場合に妻に年金を支給するが︑妻が死亡した場合には夫に年金を支給しない︑または妻
の扶養家族であったことの証明を要求するというタイプの差別は違憲である︒こうした差別は︑﹁男性労働者の
収入は家族の生活維持に不可欠であるが︑女性労働者の収入は重要な貢献をしていないという﹃憲法上許容され
ない﹄⁝⁝﹃古風かつ過度に広汎な﹄一般化﹂にもとついているからである︒最高裁は︑この差別を放置するな
ら︑﹁パソを稼ぐ男性︵夫︶⁝⁝象庭を守る女性︵妻﹀﹂といった性ステレオタイプを結果として認めることにな
ると考えたのであろう︒
第二に︑死亡した親の性別を区別することによって子の福祉に影響を及ぼすときは︑性ステレオタイプが許さ
れるか否か以前の問題として︑差別は違憲とされるという点である︒保守派のリーダーであるレ!ソクィスト裁
判官く現在︑首席裁判官︶は︑ウィゼソフェルド判決で︑遺族年金の目的は子に親の十分な注意を受ける機会を ︵16︸与えることであるとしてハ﹁給付を母に限定することはいかなる正当な目的につかえるものとも認められない﹂
と述べて︑違憲の結論に同調している︒ ︵17︶ 第三に︑過去の女性差別の補償を翼的とする差別︵優遇措置︶は︑合憲性を支持されやすいという点である︒
この場合︑単に補償目的を唱えるだけでは不十分で︑制定法の構造などからそれが真性のものと認められなけれ
ばならない︒特に︑補償鼠的と称するものが実は性ステレオタイプの維持・助長につながらないかが問われるこ
とになる︒
82
㈹トライブは︑最嚢判決の傾向を次のようにまとめている︒﹁性によって区分された補償的な規定がその
合憲性を支持されるのは︑それが﹃ロマソティックなパターナリズム﹄からではなく︑実際に補償的理由の
ために採用されたものであり︑かつ︑その構造が︑実際に補償的目的に実質的に適合している場合だけであ
る﹂ ピφ日鼠げρ︾白霞ざ毬O◎塁鉱9鉱Oロ9・一ピ碧竈雪︵トニ巳巴お◎◎◎◎γ
① 僻bうOq↑cQ°9◎けの朋勢
㎝最近においてもこの傾向は変わっていない︒女性のためのアファ←ティブ・アクシジ︿積極的羨解 q
消策︶が男女差別を禁止した公民権法第七編に違反しないかが問われたジョソソソ判決において︑最高裁は︑
六対三でその合法性を支持した︒ 魯財霧§く︒日茜霧娼o詳節菖o昌︾ぴq魯oざδ刈こ︒遇O嘗嵐愈︵溢︒︒3°
法経論集第649一
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