論文審査及び最終試験結果報告書
論 文 博 士 地域社会研究科 地域社会専攻 地域政策研究講座 学 籍 番 号 08GR103 氏 名 西 敏 郎
審 査 委 員
主 査 大 坪 正 一 副 査 藤 田 昇 治
副 査 佐 藤 三 三
(論文題目)
明治前期における学制改革の要因研究
(論文審査の要旨)
本論文は、明治前期の学制改革の要因に関する研究であるが、先行研究の多くが支配層から人民へ の方向での探求が主であるのに対して、教育の受け手である人民の側から改革の要因を探ろうとした ことが特徴である。人民の影響力を明らかにすることが学制改革の要因研究であるという筆者の視点 には、大いに独自性が認められるものである。また、単なる制度そのものや制度史の研究ではなく、
寺子屋の流れをくむ教師と生徒の関係の歴史などの社会学的な分析を取り入れることによって、学制 改革の実態を正確に理解するための視点をも提供している。これは、明治期だけでなくて、現在の教 育制度のあり方を研究する上においても、新しい切り口を提示する可能性を含んでいると判断される。
論文内容では、学制制定前の社会的背景と当時の政治指導層の思想によって、「ナショナリズムの要 因」と「時間的制約の要因」を導き出し、その要因が制度的不備・財政的不備や人民の経済・生活状況等 の問題を潜めさせてしまったことを明らかにしている。さらに、就学率の推移や人民の学制に対する 反応から、「人民の学校教育に対する不理解の要因」や「人民と教師の人間関係の要因」を導きだし、こ れらの要因が政府にどのような影響を及ぼしたのかを「教育令」の制定過程を整理して明らかにしてい る。こうした4 つの要因を提示することによって、国が求める人間像と人民が生活の中で求めている ものとの関連で生み出されてくる教育のあり方を示すと同時に、改革という事象を通じて、その社会 に潜在している諸問題を析出できる研究となっている。
審査の議論の中では、4つの要因の関連が正確ではないという指摘や、学制制定の要因と改革の要因 の違いについての問題、下からの教育改革という点では人民の成長に関する視角や位置づけが見えな いなどの問題が出された。さらには、社会学的視点を入れるだけではなくて、この時期の改革をめぐ る教育史研究や経済学研究等の成果の整理が不十分ではないかという指摘もあった。
(最終試験結果の要旨)
学制改革の要因に人民の影響力を取り入れるという視点での研究は独自性が見られ、学制改革の実 態を正確に捉えようとする研究として評価できる。また、歴史研究としてだけではなく、教育制度改 革をめぐっての実践的な内容に寄与する可能性を持っている研究であるとして、今後の教育改革の実 践的課題にも対応できる研究を切り開く可能性を持っていると評価できる。以上のことから、審査委 員全員一致で博士論文にふさわしいものであると判断した。