Abstract. 本稿では, 結び目不変量と局所変形を用いることで定義される単体的複体を 導入する. これは, Hirasawa-Uchida によって導入された Gordian 複体の一般化となって いる. 特に, Alexander-Conway 多項式と Delta 変形を用いることで定まる単体的複体に ついて考え, それが Gromov 双曲的であることを示す.
1. 導入
K を 3 次元球面内の結び目全体が成す集合とする. λ を結び目上の局所変形とする. 結 び目 K と K
′の λ-Gordian 距離 d
λ(K, K
′) とは, K を K
′に変形するために必要な局所 変形 λ の最小回数のことである. このような最小値が存在しない場合は, d
λ(K, K
′) = ∞ とおく. 特に交差交換 (x で表す) に対して, d
xは Gordian 距離と呼ばれる. Hirasawa-
Uchida [8] は Gordian 距離を用いて Gordian 複体 G
xを導入した. これの一般化である
λ-Gordian 複体 G
λは次のように定義される (cf. [14, Section 1]);
• G
λの頂点集合 = K ,
• K
0, K
1, . . . , K
n∈ K が n–単体を張る ⇔ d
λ(K
i, K
j) = 1 (i ̸ = j ∈ { 0, 1, . . . , n } ).
ここで, G
λ(resp. G
x) の 1 次元骨格を λ-Gordian グラフ (resp. Gordian グラフ ) と呼
び, G
λ(resp. G
x) で表す. 各辺の長さが 1 であると仮定することで G
λは距離空間となり,
さらに各連結成分は測地空間となる (cf. Section 3). 測地空間の重要な性質の 1 つとして
Gromov 双曲性 [6] (cf. Section 3) が挙げられる. これについて次のことが知られている.
命題 1.1 ([4, Theorem C]). G
xは Gromov 双曲的でない.
本稿では, 結び目不変量と局所変形を用いることで新しい単体的複体の族を導入する.
(大雑把な言い方をすると, λ-Gordian 複体を “結び目不変量で割る” ことで新しい単体的
複体を導入する) . 特に, 不変量として Alexander-Conway 多項式を用いて得られる単体 的複体とその 1 次元骨格グラフの Gromov 双曲性について考える.
2. (ι, λ) -Gordian 複体
ここでは結び目不変量と局所変形を用いることで新しい単体的複体を導入する. ι を結 び目不変量とする. K, K
′∈ K に対して, ι(K) = ι(K
′) が成り立つとき, K ∼
ιK
′と表 す. この二項関係 ∼
ιは K 上の同値関係を定める. K で代表される同値類を [K ]
ιで表し, K
ι= { [K]
ι| K ∈ K } とする.
The first author is partially supported by Grant-in-Aid for Young Scientists (B), No. 20740039, Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology, Japan.
1
Figure 1. Delta-変形.
Figure 2. C
2-変形.
定義 2.1. ι を結び目不変量, λ を結び目上の局所変形とする. (ι, λ)-Gordian 複体 G
ιλは, 次で定義される単体的複体である;
• G
ιλの頂点集合 = K
ι,
• [K
0]
ι, [K
1]
ι, . . . , [K
n]
ιが n–単体を張る ⇔ ∀ i ̸ = j ∈ { 0, 1, . . . , n } について,
∃ K
i,j∈ [K
i]
ι, ∃ K
j,i∈ [K
j]
ιs.t. d
λ(K
i,j, K
j,i) = 1.
G
ιλの 1 次元骨格を (ι, λ)-Gordian グラフといい, G
λιで表す.
∇
Kを結び目 K の Conway 多項式 [3] とする. Delta-変形 [12], [13] とは, 図 1 で表され る局所変形のことで, これを記号 ∆ で表す. この局所変形は, C
2-変形 (図 2) と同値であ ることが知られている. (C
2-変形は, Goussarov [5] と Habiro [7] によって独立に導入され
た C
n-変形と呼ばれる局所変形の特別な場合である. )
Conway 多項式と Delta変形を用いることで, ( ∇ , ∆)-Gordian 複体 G
∇∆と, ( ∇ , ∆)-Gordian グラフ G
∆∇が定義 2.1 で述べた方法で構成される. このとき, 次が成り立つ.
定理 2.2. G
∆∇は Gromov 双曲的である.
注意 2.3. Delta-変形は結び目解消操作である [13] ので, G
∆∇は連結グラフである.
定理 2.2 の証明は Section 5 で与える.
3. Gromov 双曲性
この章では, Gromov 双曲性の定義を紹介する (詳しくは [2] 又は [6] を参照). 距離空間 X 内の任意の 2 点に対して, それらを結ぶ測地線 (i.e. 最短距離の道) が存在するとき, X は測地空間であるという.
例 3.1. Γ を連結グラフとする. Γ の 2 頂点 v, v
′に対して, それらを端点とする辺を vv
′で 表す. Γ の各辺の長さが 1 であると仮定することで, 連結グラフ Γ は測地空間となる.
測地空間内の 2 点 x, y を結ぶ測地線を s(x, y) で表す. 各辺が測地線であるような三角 形を測地三角形という. ある実数 δ ≥ 0 に対して, 各辺が他の 2 辺の δ-近傍に含まれると き, その三角形は δ-slim であるという. X に含まれる全ての測地三角形が δ-slim である とき, 測地空間 X は δ- 双曲的 (又は, Gromov 双曲的 ) であるという.
注意 3.2. 測地空間 X が δ-双曲的のとき, δ
′≥ δ を満たす δ
′に対しても X は δ
′-双曲的.
• H
2は (log 3)/2-双曲的.
• 直径が r(< ∞ ) のグラフは r-双曲的.
4. ( ∇ , ∆) -Gordian 距離
Section 1 で定義した ( ∇ , ∆)-Gordian グラフ G
∆∇は, 各辺の長さが 1 であると仮定する ことで測地空間とみなせる (cf. 例 3.1). 測地空間 G
∆∇上の距離を d
∆∇で表す. 以降では特 に断らない限り, G
∆∇の頂点 [K]
∇を [K] で表すことにする.
以下では G
∆∇上の距離 d
∆∇について考察する. 結び目 K に対して, a
n(K) を K の Conway 多項式の n 次係数とする.
補題 4.1 ([16]). d
∆(K, K
′) = 1 を満たす K, K
′∈ K に対して, a
2(K) − a
2(K
′) = ± 1.
ここで, ∀ K
1, K
2∈ [K] に対して a
2(K
1) = a
2(K
2) が成り立つことより, 頂点 [K] に対 して整数 a
2(K ) が一意的に定まることに注意しておく. このとき, 補題 4.1 よりただちに 次の補題を得る.
補題 4.2. 任意の [K], [K
′] ∈ K
∇に対して, 次の 2 つが成り立つ.
• d
∆∇([K], [K
′]) ≥ | a
2(K) − a
2(K
′) | . • d
∆∇([K], [K
′]) ≡ | a
2(K) − a
2(K
′) | mod 2 . 次の補題は, 特別な場合 ( | a
2(K) − a
2(K
′) | = 1 の場合) を除いて ( ∇ , ∆)-Gordian 距離 を決定するものである.
補題 4.3. 任意の [K] ̸ = [K
′] ∈ K
∇に対して, 次が成り立つ.
(1) a
2(K) = a
2(K
′) のとき, d
∆∇([K ], [K
′]) = 2.
(2) | a
2(K) − a
2(K
′) | ≥ 2 のとき, d
∆∇([K ], [K
′]) = | a
2(K) − a
2(K
′) | . (3) | a
2(K) − a
2(K
′) | = 1 のとき, d
∆∇([K], [K
′]) = 1 又は 3.
証明. K
+(α
1, . . . , α
n) と K
−(α
1, . . . , α
n) を各々Figure 3 の結び目とする. 但し n ≥ 2 と し, α
n̸ = 0 とする. これらの Conway 多項式を計算すると,
∇
K+(α1,...,αn)= ∇
K−(α1,...,αn)= 1 +
∑
ni=1
( − 1)
i−1α
iz
2iとなる (cf. [19, Lemma 3.1], [20, Proposition 1]). 又, ツイスト結び目 K
m(Figure 4) に 対して, ∇
Km= 1 + mz
2が成り立つ. Figure 3 の破線内にて C
2-変形を施すことで,
d
∆(K
+(α
1, . . . , α
n), K
α1+1) = 1, d
∆(K
−(α
1, . . . , α
n), K
α1−1) = 1 となることが分かる. 又, Figure 5 が示すように, d
∆(K
m+1, K
m) = 1 が成り立つ.
[K] ̸ = [K
′] ∈ K
∇に対して, ∇
K= 1 + a
2z
2+ · · · + a
2nz
2n, ∇
K′= 1 + a
′2z
2+ · · · +a
′2mz
2mとする.
J
+= {
K
a2a
4= · · · = a
2n= 0,
K
+(a
2, − a
4, . . . , ( − 1)
n−1a
2n) その他,
Figure 3. 各々, α
i回のフルツイストを表す.
Figure 4. m 回のフルツイスト.
J
±′=
{ K
a′2
a
′4= · · · = a
′2m= 0, K
±(a
′2, − a
′4, . . . , ( − 1)
m−1a
′2m) その他
とおく. ここで, J
+∈ [K] かつ J
±′∈ [K
′] であることに注意しておく. 以下で各場合に分 けて証明を進める.
(1) a
2= a
′2とする. 補題 4.2 より, d
∆∇([K], [K
′]) は正の偶数なので, d
∆∇([K], [K
′]) ≥ 2.
一方で, 結び目の列 J
+, K
a2+1, J
+′を考えることで, d
∆∇([K], [K
′]) ≤ 2 であるこ とがわかる, 即ち, この結び目たちは次の 3 つの条件を満たす: d
∆(J
+, J
+′) ≤ 2,
∇
J+= ∇
K, ∇
J+′= ∇
K′. よって, d
∆∇([K], [K
′]) = 2.
(2) a
′2≥ a
2+ 2 としてよい. 補題 4.2 より, d
∆∇([K], [K
′]) ≥ a
′2− a
2. 一方で, 結び目の 列 J
+, K
a2+1, . . . , K
a′2−1
, J
−′を考えることで, d
∆∇([K], [K
′]) ≤ a
′2− a
2であること がわかり, d
∆∇([K], [K
′]) = a
′2− a
2となる.
(3) a
′2= a
2+ 1 としてよい. 補題 4.2 より, d
∆∇([K ], [K
′]) は正の奇数となる. 一方で, 結び目の列 J
+, K
a2+1, K
a2= K
a′2−1
, J
−′を考えることで, d
∆∇([K ], [K
′]) ≤ 3 であ ることがわかる. よって, d
∆∇([K], [K
′]) = 1, 又は 3 となる.
¤
注意 4.4. | a
2(K ) − a
2(K
′) | = 1, d
∆∇([K], [K
′]) = 3 のような例は見つかっていない.
Figure 5. m = 1 の場合の図. m ̸ = 1 の場合も同様.
5. 定理 2.2 の証明
点 p ∈ G
∆∇の ε-近傍 (ε ≥ 0) を N (p, ε) で表し, 部分集合 P ⊂ G
∆∇の ε-近傍を N (P, ε) で表す; N (p, ε) = { q ∈ G
∆∇| d
∆∇(p, q) ≤ ε } , N (P, ε) = ∪
p∈P