曲面上のグラフの Krushkal 多項式
山村 瑠納
(奈良女子大学
)∗1村井 紘子
(奈良女子大学
)∗2概 要
2011年,V. Krushkal[3]が向き付け可能な曲面に埋め込まれたグラフの不変
量であるKrushkal多項式を定義し,これは2018年,C. Butler[1]により向き 付け不可能な曲面に対して拡張された(:一般化されたKrushkal多項式と呼 ぶ).(一般化された)Krushkal多項式はTutte多項式[4]と同様の双対性や,
グラフの辺の消去と縮約に関する再帰的な性質をもつこと,またKrushkal多
項式からTutte多項式を復元できることが示されている.さて,2つの抽象グ
ラフのone-point joinで表されるグラフのTutte多項式は元のグラフのTutte多 項式の積で表されることが知られている([2])が,本稿では曲面に埋め込まれ たグラフに対してone-point joinを定義し,Tutte多項式と同様に,2つの曲面 上のグラフのone-point joinで表されるグラフのKrushkal多項式は元のグラ
フのKrushkal多項式の積で表されることを示す.
1.
グラフの基本事項
本研究では
, 2つの頂点を結ぶ辺が
2本以上ある多重辺も許し,同じ頂点同士を結ぶ辺
(ループ
)の存在を許した 一般グラフ を扱う
.正確には次の通りとする.
定義
1.1.一般グラフ
(general graph),又は単に グラフ
(graph)Gとは
,対
(V(G), E(G))の ことをいう
.ここで
,V(G)は頂点
(vertex)と呼ばれる元から成る空でない有限集合であ り
, E(G)は
V(G)の
(必ずしも相異なるとは限らない
)元の非順序対の有限な族である
とする
. E(G)の元は辺
(edge)と呼ばれる
.ただし
,複数個の同じ元が入っていても良い
集まりを「族」と呼んで
,「集合」とは区別することにする
. E(G)は「族」であるか ら
,複数個の同じ辺
(これを多重辺という
)があっても良いことに注意する
. V(G)を
Gの頂点集合といい
, E(G)を
Gの辺族と呼ぶ
. v, w ∈ V(G)に対し
,{v, w} ∈ E(G)であ
るとき
,辺
{v, w}は頂点
vと
wを結ぶ
(join)といい
, vwと略記する
.頂点
v, wのことを
辺
vwの端点と呼ぶ
.定義
1.2.グラフ
Gの辺のうち
,頂点
vとそれ自身を結ぶ辺
vvのことをループ
(loop)と いう
.また
,その辺を消去すると
Gの連結成分が増えるような辺を橋
(bridge)という
.通常
,グラフを図で表すときには
,各頂点
v ∈ V(G)に対して点を
1つ描き
, 2つの頂 点
v, w∈V(G)に対し
,{v, w} ∈E(G)のとき
, vに対応する点と
wに対応する点を線で 結ぶ.
定義
1.3.グラフ
Gに対し
,Gの頂点の個数を
v(G),辺の本数を
e(G),連結成分数を
c(G)で表す
.また
,n(G) = e(G)−v(G) +c(G)とし
,n(G)を
Gの
nullityという
.定義
1.4.グラフ
Gに対し
,V(H)⊆V(G), E(H)⊆E(G)となるようなグラフ
Hを
Gの 部分グラフ
(subgraph)といい
,特に
V(H) =V(G)となるとき
,グラフ
Hを
Gの全域部 分グラフ
(spanning subgraph)という
.∗1〒630-8506奈良市北魚屋西町 奈良女子大学 大学院人間文化研究科
∗2〒630-8506奈良市北魚屋西町 奈良女子大学 研究院自然科学系
e-mail:[email protected]
定義
1.5. 2つのグラフ
G, Hに対して
, V(G)から
V(H)への全単射
fが存在して
xy ∈ E(G)⇔ f(x)f(y)∈ E(H)を満たし,多重辺に関してはその本数まで込めて対応がつ くときに
Gと
Hは 同型である という
.以下では同型なグラフは同じと見なす.定義
1.5からも分かるように
,グラフを図で 表すときに点や線がどのように描かれているかは関係なく
,大切なのはどの頂点の組が 何本の辺で結ばれているかという情報だけである
.定義
1.6. Gをグラフとし
,e∈E(G)とする
. G\e = (V(G), E(G)\ {e})と定め,
G\eを
Gから辺
eを消去して得られるグラフという
.また
, Gから辺
eの端点を同一視して
eを消去して得られるグラフを
G/eで表す
. G/eを
Gから
eを縮約して得られたグラフ という
.定義
1.7.グラフ
G1, G2に対し
,V(G) = V(G1)∪V(G2), E(G) = E(G1)∪E(G2)となる ようなグラフ
G= (V(G), E(G))を
G=G1∪G2と表す
.特に
,V(G) = V(G1)∩V(G2)=
∅
のとき
,G=G1⊔G2と表す
.定義
1.8. G1, G2を互いに
disjointなグラフとする.
v1 ∈ V(G1), v2 ∈ V(G2)に対し,
G1 ∪ G2から
v1, v2を同一視して得られるグラフを
G = G1 ∗v1=v2
G2
で表し
, G1と
G2の
v1, v2における
one-point joinという
.より正確に述べると
, G = G1 ∗v1=v2
G2
はその 頂点集合が
, V(G) = (V(G1)\ {v1})∪ (V(G2) \ {v2})∪ {vo}(ただし
, voはこの操作 で生まれた新しい頂点で
, vo ∈/ V(G1)∪V(G2)である
.),その辺族が
, E(G) = {vw ∈ E(G1)∪E(G2)|{v, w} ∩ {v1, v2} =∅} ∪ {vow|v1w ∈ E(G1)または
v2w∈ E(G2)}であ るようなグラフである
.例
1.1.グラフ
G1, G2とその頂点
v1, v2を図
1の左図の通りとすると,
G1と
G2の
v1, v2における
one-point joinG1 ∗v1=v2
G2
は図
1の右図のようになる.
図
1: one-point joinの構成
2.
曲面上のグラフ
この節では曲面に埋め込まれたグラフを取り扱う
.定義
2.1. Σを曲面とする.
Σ上に, 辺同士はその端点でのみ交わるように埋め込まれ
たグラフのことを曲面上に埋め込まれたグラフ
,または曲面上のグラフといい
, G = (V(G), E(G))⊂Σまたは
Gの
Σへの埋め込み写像
iを明記して
(G,Σ, i)で表す
.曲面上
のグラフと区別するために
, 1節で定義した埋め込む前のグラフを抽象グラフとも呼ぶ
.定義
2.2. (G1,Σ1, i1)と
(G2,Σ2, i2)を曲面に埋め込まれたグラフとする
. Σ1から
Σ2への
(Σ1が向き付け可能な曲面のときは向きを保つ
)同相写像
hが存在して
h(G1) =G2を満
たし
,hの
G1への制限
h|G1 :G1 →G2が抽象グラフとしての同型となるものが存在す
るとき
,(G1,Σ1, i1)と
(G2,Σ2, i2)は同値であるといい
,(G1,Σ, i1) = (G2,Σ, i2)と書く
.定義
2.3.平面
R2に埋め込むことのできるグラフを平面的グラフ
(planar graph)とい い
,埋め込み写像
iによって平面に埋め込まれたグラフ
(G,R2, i)を平面グラフ
(plane graph)という
.定義
2.4.平面グラフ
(G,R2, i)に対し
,Gの辺で囲まれた連結な領域および外側の開い
た領域を
Gの面
(face)という.G の各面に新たな頂点を対応させ
, Gの各辺に対し
,辺
の両側にある新たな頂点同士を
Gの辺を横切るように結んで得られる平面上のグラフ を
(G,R2, i)の
dualといい
,G∗で表す
.定義
2.5.平面的グラフ
Gに対し
,その平面への埋め込み写像
iを
1つ固定することによ り
, i(G)の
duali(G)∗ ⊂R2が定まる
.この
i(G)∗(または
, i(G)∗に対応する抽象グラフ
)を
Gの
dualとも呼び
,同じ記号
G∗で表す
.注意
2.1.グラフの
dualは埋め込み
iのとり方に依存する
.例えば
Gを図
2上図の平面的 グラフとし
,その
2つの埋め込み
i1, i2を図
2下図の黒の実線のように定めると
,それら の
duali1(G)∗, i2(G)∗はそれぞれ赤の点線のグラフとなり,これらは同型ではない
.G
( , , )G R i1
2 とそのduali1( )G1* ( , , )G R2i2とそのduali2( )G2*
図
2: dualが一意的でない例
定義
2.6.コンパクトで境界のある向き付け可能とは限らない曲面
R=
(DV,DE)がリボングラフであるとは
,以下の条件
1∼4を満たす
2種類の円板の集合
DV ={D1, D2, . . . , Dm}, DE ={d1, d2, . . . , dn}が存在して
,R =D1∪ · · · ∪Dm∪d1∪ · · · ∪dnとなるときにいう
.1. DV
の各元
Di,および
DEの各元
djは円板と同相である
.2.
任意の
i∈ {1· · ·m}, j ∈ {1· · ·n}に対し,
Di∩djは互いに交わらないいくつかの 線分から成る
.3. 2
の各線分
rに対し
, r = ∂Di∩∂djを満たす
Di ∈ DVと
dj ∈ DEの組
(Di, dj)が ただ
1つ存在する
.4. DE
の各元
djは
2の線分をちょうど
2つ含む
.注意
2.2.リボングラフ
R = (DV,DE)が与えられると
, Rに対応する抽象グラフ
G = (V(G), E(G))が次のように自然に定まる
. R = (DV,DE)をリボングラフとする
. DVの各元
Diに対し
, 1つの頂点
viを対応させ
,これを
V(G)の元とする
.定義
2.6の条件
4と条件
3により
, DEの各元
djに対し
, ∂D∩∂dj ̸=∅となる
D ∈ DVがちょうど
2つ存 在する
.このような
Dにつけられている添字
(ここでは
,kと
lとする
)を用いて
,{vk, vl}を
Gの辺とすることにより
,抽象グラフ
G = (V(G), E(G))が定まる
.よって
,リボン グラフの
DVを頂点集合
,DEを辺族とよび
,頂点
,辺などの抽象グラフに対する用語や
R = (V(R), E(R))等の記法を流用することにする
.なお
,抽象グラフは
,リボングラフ の頂点円板の境界に現れる辺円板の順などの貼り合わせに関する情報は持たないため
,この対応は単射ではない
.例
2.1.図
3はリボングラフ
(左
)と
,それに対応する抽象グラフ
(右
)の例である
. Diが
viに
,djが
ejにそれぞれ対応している
.D1 D2
d
d
d
1
2
3
v
v v
1 2
e e
e
1 2
3
図
3:リボングラフと抽象グラフ
注意
2.3.曲面上のグラフ
G⊂Σに対し
,Gの
Σにおける正則近傍をとると
,リボングラ フが得られる
.注意
2.2で述べたように
,リボングラフは抽象グラフにはない
,辺円板がどのように頂 点円板につながるか
,という情報を持つ
.この情報を保ったまま簡素化した表現が次に 述べる
arrow presentationである.
定義
2.7.いくつかの円板の境界に
marking arrowと呼ばれるラベル付きの矢印が付けら れたものを
arrow presentationという
.ただし
,各ラベルをもつ
marking arrowはちょう ど
2本ずつあるものとし
, marking arrow同士は互いに交わらないものとする
.リボングラフ
R = (DV,DE)が与えられると,
DEの各元
djに対し, その境界に適当に 向きを入れ
, djが
Rの頂点円板と交わるところに
∂djの向きに合うように向きを付け た矢印をおき
,djとラベルをつけることにより
,対応する
arrow presentationが
1つ決ま
る
.逆に
arrow presentationが与えられると
,次のように対応するリボングラフが
1つ決
まる
.あるラベル
djが付けられた
2つの
marking arrowに対し
, 1枚の円板
djを用意し
,∂dj
に任意に向きを入れる
.次に
∂dj上に互いに交わらない
2つの弧をとり
,それらの弧
と
marking arrowを向きが合うように同一視する
.全ての
marking arrowに対してこの操
作を行うと
,これらの円板
djを辺としてもつリボングラフが得られる
(図
4).R
dj dj dj
arrow presentation
図
4:定義
2.8. Rをリボングラフとし
, A ⊂ E(R)とする
. Rの各辺に任意に向きをつけ る(この向きはリボングラフ全体の向きに拡張しなくて良い
) .全域リボン部分グラフ
(V(R), A)
は自然に
Rに埋め込まれていると考えることができ,その境界成分は
,Rの
辺と互いに交わらない弧で交わる
.この各弧に対し
,それが乗っている辺から決まる向 きを入れ
,その辺のラベルを付ける
.このようにして得られる
arrow presentationに対応 するリボングラフを
Rの
Aに関する
partial dualと呼び
,Rδ(A)で表す
.例
2.2.図
5は
,定義
2.8に沿って
Rの
A⊂ E(R)に関する
partial dualRδ(A)を構成する 方法を示している
.リボングラフ
Rを図
5−aとし
,A={1,3}とする
.図
5−bの青のグ ラフは全域リボン部分グラフ
(V(R), A)を表しており
,その境界成分と
Rの辺と共通部 分
(赤い弧
)に向きとラベルを与えたものである
.図
5−cは得られた
arrow presentation,図
5−dはそれを整えたもの
,図
5−eは対応するリボングラフ
Rδ(A)を表す
.a.
(各辺に向きを⼊れた) A={1,3}のときの
(V( ),A)⊂
R R R
5 5
3 2 1 1 4
3
2 4
d.
A={1,3}のときの を表すarrow presentationδ(A) e.
リボングラフ δ(A) R
R
図
5: partial dualの構成
注意
2.4.リボングラフ
Rのある辺
eに関する
partial dualは局所的には表
1のようにな
る
. eがループでないとき
,向き付け可能なループのとき
,向き付け不可能なループのと
きのそれぞれで取り扱いが異なる
.表
1:リボングラフの
partial dual辺の種類
R Rδ(e)ループではない
e向き付け可能なループ
e
向き付け不可能なループ
曲面上のグラフに対する
2つの操作
(辺の消去と辺の縮約
)を導入する
.まずリボング ラフに対して定義する
.定義
2.9. Rをリボングラフとし
,eを
Rの辺とする
. R\e := (V(R), E(R)\e)と定め,
R\e
を
Rから辺
eを消去することによって得られるグラフという
.また,
R/e:=Rδ(e)\eと定め,
R/eを
Rから辺
eを縮約することによって得られるグラフという
.注
2.4,表
1より
,リボングラフ
Rを
eで縮約することによって得られるグラフは表
2のように表されることがわかる
.表
2:リボングラフの縮約
辺の種類
R R/e=Rδ(e)−eループではない
e向き付け可能なループ
e
向き付け不可能なループ
定義
2.10. Gを曲面
Σ上のグラフとし
, eを
Gの辺とする
. Gの
Σでの正則近傍をとる ことによって得られるリボングラフを
Rとし
,eに対応する
Rの辺も同じ記号
eで表す ことにする
.このとき
eの近傍のみが
Gと異なる
Σ上のグラフで
,その正則近傍が
R\eであるようなものが定まる
.このグラフを
G\e⊂Σとかき
,Gから辺
eを消去すること によって得られるグラフという
.またこのとき,
∂Rと
∂(R/e)との間には自然な対応が 存在するので,
eの近傍のみが
Gと異なる
Σ上のグラフで
,その正則近傍が
R/eである ようなものが定まる
.このグラフを
G/eとかき
,Gから
eを縮約することによって得ら れるグラフという
.定義
2.11. Σを閉曲面とし
,(G,Σ, i)を
Σ上のグラフとする
. Σ\i(G)の各連結成分が円 板と同相であるとき
,iは
Σの
cellulationであるという
.誤解の恐れがないときには
,Gとその像
i(G)と同一視する
.したがって,
Gは
Σの
cellulationであるともいう
.命題
2.1.リボングラフと
cellulationは同値である
.すなわち
,全てのリボングラフの集 合と全ての
cellulationの集合の間には全単射が存在する
.証明
. G⊂Σを
cellulationとすると
,Gの
Σにおける正則近傍をとることによりリボン
グラフが得られる
.逆に
, Gをリボングラフとする
.このとき
, Gは穴あき曲面である
. Gの各境界成分に円板でふたをすることにより閉曲面に埋め込まれたリボングラフが 得られる
.ここから各頂点の円板を点に
,各辺の円板
(帯
)を頂点同士をつなぐ線分にな るまで幅を狭めることにより
,閉曲面上の
cellulationが得られる
.例
2.3.図
6は
cellulationと
,それに対応するリボングラフを表している
.図
6: cellulationとリボングラフ
閉曲面
Σの
cellulationGに対して
,次のように新しい
(Σの
) cellulationG∗を構成するこ
とができる
.定義
2.12. Σを閉曲面とし
,Gを
Σの
cellulationとする
. Σ\Gの各連結成分に1つの頂
点をおき
,これを
G∗の頂点とする
. Gの各辺
eに対して,
eの両側にある
Σ\Gの成分
に対応する
G∗の頂点同士を
eを横断的に交わるように辺
e∗でつなぐ
.このようにして
得られた
Σ上のグラフ
G∗を
Gの
Poincare dualという
.このとき
,G∗は
Σの
cellulationとなる
.3. Tutte
多項式
この節では
Tutte多項式の定義を述べ,辺の消去と縮約に関して成り立つ性質を紹介す る.また,その性質を用いた具体例の計算も紹介する.本論文では
, Butler[1]による定 義を紹介するが
,これは良く知られている
Tutte多項式の定義を変数変換したものになっ ていることを注意しておく.
定義
3.1. ([1])G
をグラフとする
.次の式で定義される
2変数多項式
TG(X, Y)を
Gの
Tutte多項式と いう
.TG(X, Y) = ∑
F⊆G
Xc(F)−c(G)Yn(F) (1)
ここで
,Fは
Gの全ての全域部分グラフを渡るものとする
.Tutte
多項式
TG(X, Y)について,以下の性質が成り立つことが知られている
.定理
3.1. ([2, Definiton 2, Definition 3, Proposition 1]) (1) e(∈E(G))が橋でもループでもない辺のとき
,TG(X, Y) = TG\e(X, Y)
+
TG/e(X, Y).(2) G
が
i個の橋と
j個のループで構成されているとき,
TG(X, Y) = (X+
1)i(Y+
1)j.(3) G
が
G1と
G2の
one-point joinで構成されているとき
, TG1 ∗v1=v2
G2(X, Y) = TG1(X, Y)TG2(X, Y).
任意のグラフ
Gから,橋でもループでもない辺の消去と縮約を繰り返し行うことに より,橋とループのみから成るグラフが得られる.このことから,任意のグラフに対
し,定理
3.1の
(1), (2)を用いて再帰的に
Tutte多項式を計算することができる
.ある
グラフ
Gから辺の消去と縮約により橋とループのみから成るグラフを得る操作は,消 去,縮約に用いる辺の選び方に依存するので一意的ではないが,
Tutte多項式が辺の 選び方に依らず定理
3.1の
(1), (2)で定義できることもわかる
.実際この
(1), (2)を定 義としている文献も多いことを断っておく
.図
7は
,この方法で
Tutte多項式を求め る手順を示す
.ここで
,実線は辺の縮約を表し
,点線は辺の消去を表す
.全ての葉に 対応するグラフに対し定理
3.1の
(2)を適用した結果がグラフの下に書かれた項であ り,これらを全て足し合わせることにより
,図
7中央上のグラフ
Gの
Tutte多項式は
TG(X, Y) =X3+ 5X2+ 2XY + 10X+Y2+ 5Y + 8となることがわかる
.Tutte
多項式は次に述べるような双対性をもつことが知られている.
定理
3.2. ([3, Theorem 3.1])G
を平面的グラフとする.
Gの任意の
dualG∗に対し,次が成り立つ
. TG(X, Y) = TG∗(Y, X).図
7: Tutte多項式の再帰的な計算例
4. Krushkal
多項式
V. Krushkal
は
2011年に向き付け可能な曲面に埋め込まれたグラフの多項式不変量を定
義した
([3]).さらに
2018年,C. Butler [1] により
Krushkal多項式は向き付け不可能な
曲面に対して拡張された.この節では
Butlerの論文の一部を紹介する.
一般に,空間
Xに対し
Xの連結成分の数を
c(X)で表す
.またコンパクトな曲面
Mに 対し,
Mの種数を
g(M)で表す.G をグラフ,
Σをコンパクトな曲面とする.i を
Gの
Σへの埋め込みとし
,Fを
Gの全域部分グラフとする
. Fを全域部分グラフ
Fの像
i(F)の
Σにおける正則近傍とすると,
Fの境界はいくつかの円周の非交和である
. Fの各境界 成分に円板を貼ることによって得られる閉曲面を
S(F),
Σでの
Fの補集合の各境界成 分に円板を貼ることによって得られる閉曲面を
S⊥(F)で表す
. s(F) = 2c(F)−χ(S(F)), s⊥(F) = 2c(Σ\F)−χ(S⊥(F))と定めると
,s(F) =
{2g(S(F)) (S(F)
が向き付け可能なとき
) g(S(F)) (S(F)が向き付け不可能なとき
)s⊥(F) =
{2g(S(F)) (S⊥(F)
が向き付け可能なとき)
g(S(F)) (S⊥(F)
が向き付け不可能なとき
)となることに注意する
.以上の記号のもと,次のように一般化された
Krushkal多項式 を定義する.
定義
4.1. ([1], (2.7)式
)(
向き付け可能とは限らない
)コンパクトな曲面
Σ上のグラフ
(G,Σ, i)の(一般化さ れた)
Krushkal多項式
PG,Σ,i(X, Y, A, B)を以下で定義する
.PG,Σ,i(X, Y, A, B) = ∑
F⊆G
Xc(F)−c(G)Yc(Σ\F)−c(Σ)As(F)/2Bs⊥(F)/2 (2)
ここで
, Fは
Gの全ての全域部分グラフを渡るものとする
.なお
,誤解の恐れがないと きは埋め込み
iを省略し単に
PG,Σ(X, Y, A, B)と表す
.これは
Σが向き付け可能である場合
, Krushkal多項式の定義
[3]と一致する
.曲面
S(F)と
S⊥(F)が向き付け可能のとき,対応する不変量
s(F),s⊥(F)は常に偶数で,P
G,Σは 変数
X, Y, A, Bの多項式であるが,
S(F)が向き付け不可能のとき
, s(F), s⊥は奇数に なるかもしれない
.したがって,
PG,Σは,
X, Y, A1/2, B1/2の多項式である
. Butlerは
[1]で
, Krushkal多項式が満たすいくつかの基本的性質を示している
.これは
Krushkalが向
き付け可能な曲面に埋め込まれたグラフに対して示したもの
([3])を向き付け不可能な 曲面に拡張したものである
.定理
4.1. ([1, Proposition 2.3])G
をグラフ
,Σを
(向き付け可能とは限らない
)コンパクトな曲面
,iを
Gから
Σへの埋 め込みとし
,eを
Gの辺とする
.このとき以下が成り立つ
.(1) e
が橋でもループでもないとき
,PG,Σ(X, Y, A, B) = PG\e,Σ(X, Y, A, B)
+
PG/e,Σ(X, Y, A, B).(2) e
が橋のとき
,PG,Σ(X, Y, A, B) = (1
+
X)PG/e,Σ(X, Y, A, B).(3) c(Σ) = 1
かつ
eがループであり
,c(Σ\e) =2のとき
,PG,Σ(X, Y, A, B) = (1
+
Y)PG\e,Σ(X, Y, A, B).(4) Σ
=
Σ1 ⊔ Σ2, G = G1 ⊔ G2, G1 ⊂ Σ1, G2 ⊂ Σ2のとき,
PG,Σ(X, Y, A, B) =PG1,Σ1(X, Y, A, B)PG2,Σ2(X, Y, A, B).
また
Butlerは
[1]において,次が成り立つことを示している
.定理
4.2. ([1, Thorem 2.4])Σ
をコンパクトな曲面とする
. Σ上のグラフ
(G,Σ, i)に対して次が成り立つ
. TG(X, Y)=
Y2c(Σ)−X(Σ)PG,Σ(X, Y, Y, Y−1).これは,
Gの
Tutte多項式がその
Krushkal多項式
PG,Σから復元できることを示して
いる
.5.
主結果
この節では
,主定理を述べるために必要な用語の定義を与え,主定理とその証明を与 える
.定義
5.1. G1, G2をグラフ
,Σ1,Σ2を
(向きつけ可能とは限らない
)コンパクトな曲面とし
, i1を
G1の
Σ1への埋め込み
,i2を
G2の
Σ2への埋め込みとする
. v1 ∈V(G1), v2 ∈V(G2)に対し
,G1と
G2の
v1,v2における
one-point joinG=G1 ∗v1=v2
G2