様式第2号(第5条,第11条関係)
学 位 論 文 の 要 旨
専 攻 機能創成科学 専攻 ふりがな 氏 名
おいかわ ゆり
!
及川 祐梨
! !
学位論文題目
Preparation and Application of Fluoroalkyl End-Capped Vinyltrimethoxysilane Oligomer Composites
(フルオロアルキル基含有ビニルトリメトキシシランオリゴマーコンポジット類 の調製と応用)
[緒言]
高分子有機フッ素化合物は対応するフッ素を含まない高分子化合物に比べ、高い耐熱性や耐薬品性 等のユニークな性質を示すため、種々の分野で注目されている材料である。1) これら高分子有機フッ 素化合物の中で、フルオロアルキル基が高分子主鎖両末端に位置特異的に導入されたフルオロアルキ ル基含有オリゴマー類 [RF
-(M)
n-R
F]
は、高い界面活性な性質さらには種々の溶媒中におけるナノレベ ルに制御された高分子集合体形成など、優れた性質を示すため注目されている。2)R
F-(M)
n-R
F オリゴ マーが形成する高分子集合体は、シリカナノ粒子や酸化チタンなどの無機微粒子をゲスト分子として 分子集合体コア内にカプセル化することができ、新たな有機/
無機ナノコンポジット材料の調製が可能 となる。2) 例えば、R
F-(M)
n-R
Fオリゴマー存在下、シリカナノ粒子とテトラエトキシシラン (TEOS) と のアルカリ性条件下におけるゾル-
ゲル反応により、R
F-(M)
n-R
F/
シリカナノコンポジットが調製でき る。得られたナノコンポジット粒子は汎用の有機ポリマーであるPMMA
の表面改質剤へ応用でき、改質
PMMA
表面に効率よく、含フッ素オリゴマー中のフッ素に起因した高い界面活性な機能以外に、コンポジットコア内にカプセル化されたゲスト分子の性質をも付与させることができる。2) 特に、フ ル オ ロ ア ル キ ル 基 含 有 オ リ ゴ マ ー と し て 含 フ ッ 素 ビ ニ ル ト リ メ ト キ シ シ ラ ン オ リ ゴ マ ー
[R
F-(VM)
n-R
F]を用いて調製されたシリカナノ粒子は極めて高い撥油性、さらには水の接触角が 180 °
となる超撥水性を示すことから、表面改質剤としての応用は興味深い検討項目である。2) そこで本研 究では、フルオロアルキル基含有オリゴマーとして
R
F-(VM)
n-R
Fオリゴマーに注目し、本オリゴマー コンポジット類の調製とその応用について検討を行なった。[実験・結果・考察]
[Ⅰ] フルオロアルキル基含有ビニルトリメトキシシランオリゴマーシリカナノコンポジットコア内 へカプセル化された低分子有機化合物の耐光性3)
Scheme 1
に示す低分子有機化合物[BINOL, HMB]
存在下、フルオロアルキル基含有ビニルトリメトキシシランオリゴマーのアルカリ性条件下におけるゾル−ゲル反応により、対応する低分子有機化合 物がカプセル化された含フッ素ビニルトリメトキシシランオリゴマーナノコンポジット類の調製を 行なった (Scheme 1参照)。得られたコンポジット類の熱安定性について検討を行った結果、
800 °C
焼 成後において、カプセル化された低分子有機化合物に起因した明確な熱重量減少を示さない結果が得 られた。特に本研究では、これら低分子有機化合物がカプセル化されたナノコンポジットに254 nm
の
UV
光照射を行い、そのメタノール分散溶液のUV-vis
スペクトル測定を行った。その結果、興味深 いことにオリジナルな低分子有機化合物に比べ、ナノコンポジット中にカプセル化された低分子有機 化合物は極めて高い耐光性を示すことが明らかとなった。Si(OMe)3
OH
OH HMB: C
O HO
OMe BINOL 28 % aq. NH3 (2.4 ml)
[RF-(VM)n-RF] RF-(CH2-CH)n-RF
RF-(VM-SiO2)n-RF/BINOL Nanocomposites +
Si(OMe)3
28 % aq. NH3 (1.0 ml)
[RF-(VM)n-RF]
RF-(CH2-CH)n-RF RF-(VM-SiO2)n-RF/HMB
Nanocomposites
+ HMB
BINOL:
Scheme 1 (150 mg)
(100 mg)
(60 mg)
(70 mg)
Yield: 40 %a)
Particle size: 73.5 ± 7.5 nmb) (200 ± 27 nm)c)
Yield: 46 %a)
Particle size: 35.2 ± 12.9 nmb) (48.7 ± 10.6 nm)c)
a) Yield based on the used RF-(VM)n-RF oligomer and BINOL (or HMB) b) Determined by DLS (dynamic light scattering) measurements in methanol c) Determined by DLS measurements in methanol after calcination
RF = CF(CF3)OC3F7
RF = CF(CF3)OC3F7
[Ⅱ] 炭酸マグネシウムがカプセル化されたフルオロアルキル基含有ビニルトリメトキシシランオリ ゴマーナノコンポジット類の調製とガラスおよびポリ(メチルメタクリレート)の表面改質への応用4) ゲスト分子として無機化合物である炭酸マグネシウム粒子に注目し、炭酸マグネシウム存在下、含 フッ素ビニルトリメトキシシランオリゴマーのアルカリ性条件下におけるゾル−ゲル反応により、対 応する含フッ素ビニルトリメトキシシランオリゴマー
/
炭酸マグネシウムナノコンポジットの調製を 行った(Scheme 2
参照)
。MgCO3 +
RF-(CH2-CH)n-RF Si(OCH3)3 [RF-(VM)n-RF] RF = CF(CF3)OC3F7
25 % aq. NH3 RF-(VM-SiO2)n-RF/MgCO3 Nanocomposites
Scheme 2 MeOH
得られたコンポジット類によるガラスの表面改質について検討を行った。その結果、改質されたガ ラス表面はフッ素に起因した高い撥油性、さらには水の接触角が
180 °
となる超撥水性を示した。得ら れたコンポジットの結晶構造についてXRD
測定により検討を行った。その結果、興味深いことに、得られたナノコンポジットは
800 °C
焼成後において、炭酸マグネシウムを焼成することにより生成 する酸化マグネシウムではなく、フッ化マグネシウムに起因した明確な回折パターンを示すことがわ かった。この結果は、焼成プロセスによりオリゴマー中のフッ素と炭酸マグネシウムが効率よく相互 作用しフッ化マグネシウムを生成させるためである。[Ⅲ] モルホロジィー制御されたフルオロアルキル基含有ビニルトリメトキシシランオリゴマー/シ リカ/酸化マグネシウムナノコンポジット粒子の調製:耐水性を示す酸化マグネシウムナノコンポジ ット粒子の開発5)
酸化マグネシウム粒子存在下、含フッ素ビニルトリメトキシシランオリゴマーのアルカリ性条件 下、あるいは無触媒条件下における反応により、対応する含フッ素ビニルトリメトキシシランオリゴ マー
/
酸化マグネシウムナノコンポジットの調製を行った(Scheme 3
参照)
。+ MgO RF-(CH2-CH)n-RF
Si(OCH3)3 [RF-(VM)n-RF] RF = CF(CF3)OC3F7
25 %aq. NH3 or
non-catalytic conditions MeOH/r.t/5 h
RF-(VM-SiO2)n-RF/MgO Nanocomposites
Scheme 3
アルカリ性条件下により調製されたコンポジット類によるガラスの表面改質について検討を行っ た。その結果、改質されたガラス表面はフッ素に起因した極めて高い撥油性、さらには水の接触角が
180 °
となる超撥水性を示した。得られたコンポジットを水中に分散させ、コンポジット中の酸化マグネシウムの耐水性について検討を行った。一定時間水中で撹拌させ、遠心分離によりコンポジットを 回収した後、
XRD
によりその結晶構造の測定を行なった。その結果、オリジナルな酸化マグネシウム 粒子は水中に分散させることにより容易に加水分解を受け、水酸化マグネシウムを生成させるのに対 し、アルカリ性条件下により調製されたコンポジットは120
時間の水中分散後も酸化マグネシウムに 起因したXRD
回折パターンを示しており、コンポジットコア内の酸化マグネシウムが高い耐水性を 有することが明らかとなった。得られたコンポジット粉末によるPMMA
の表面改質について検討を 行った。その結果、アルカリ性条件下により調製されたコンポジットにより改質されたPMMA
が表 面にのみフッ素に起因した撥油性を示すのに対し、興味深いことに無触媒条件下において調製された コンポジットにより改質されたPMMA
は、表面だけではなく裏面においても撥油性を示した。この結果は、
Fig. 1
に示すように、アルカリ性条件下において調製されたコンポジットは球状の分散性の高いナノ粒子を形成するのに対し、無触媒条件下において調製されたコンポジットはナノコンポジッ ト粒子が直鎖状に連結した構造を構築することに起因すると考えられる。
100 nm
Fig. 1 FE-SEM (Field Emission Scanning Electron Microscopy) images of the
RF-(VM-SiO2)n-RF/MgOnanocomposites, which werer prepared under alkaline (A) and non-catalytic conditions (B) in methanol solutions
100 nm
(A) (B)
[Ⅳ] 有機化合物をカプセル化させたフルオロアルキル基含有ビニルトリメトキシシランオリゴマー /タルクコンポジットの調製:油/水分離への応用6)
種々の有機化合物(Orgs)およびタルク微粒子存在下、含フッ素ビニルトリメトキシシランオリゴマ ーのアルカリ性条件下におけるゾル−ゲル反応により、対応する有機化合物がカプセル化された含フ ッ素ビニルトリメトキシシランオリゴマー/タルクコンポジットの調製を行なった (Scheme 4参照)。
Mg3Si4O10(OH)2 RF-(CH2-CH)n-RF +
Si(OMe)3
[RF-(VM)n-RF] RF = CF(CF3)OC3F7
25 %aq. NH3 RF-(VM-SiO2)n-RF/Talc/Orgs Nanocomposites
Scheme 4 [Talc] + Orgs MeOH
Orgs:
C OHO
OMe
[2-hydroxy-4-methoxybenzophenone (HMB)]
C CF3
OH
[bisphenol AF (BPAF)]
[bisphenol A (BPA)]
CF3 C HO
CH3
OH CH3
HO
S O O
OH Si
HO OH
OH
[3-(hydroxysilyl)-1-propanesulfonic acid (THSP)]
RF-COOH
RF = CF(CF3)OC3F7
[perfluoro-2-methyl-3-oxahexanoic acid (RF-COOH)]
P
[PSt]
得られたコンポジット類によるガラスの表面改質により改質された表面の水およびドデカンの接 触角測定を行なった。その結果、高い親油性を示す有機化合物である
HMB
、BPA
さらには架橋ポリスチレン
(PSt)
を用いたナノコンポジットにより改質されたガラス表面は、超撥水・超親油性を示すのに対し、親水基を有する
THSP
およびR
F-COOH
を用いたケースにおいてはゲスト分子の仕込み比率 をコントロールさせることにより、超撥水・超撥油性すなわち超両疎媒性もしくは超親水・超撥油性 を示し、改質表面の濡れ性を制御させることができた。これら濡れ性が制御されたナノコンポジット類は、ポリエステル布の表面改質へ応用させることが でき、改質布表面に発現される超撥水・超親油性、あるいは超親水・超撥油性を活かすことにより水
/
油混合液の分離が可能となった。さらに架橋ポリスチレンを用いて調製させたコンポジット粉末はカ ラム充填剤としての応用ができ、水/
油混合液だけではなく、W/O
エマルションをそれぞれ効率良く 分離させることができた(Fig. 2参照)。sea sand RF-(VM-SiO2)n-RF/Talc/PSt
composite particles (200 mg)
absorbent cotton
10 mm
4 mm sea sand
W/O emulsion stabilized by span 80
Wakogel® C-500HG RF-(VM-SiO2)n-RF/Talc/PSt composites 10 µm
10 µm
Photographs of (top, right) the column chromatography with RF-(VM-SiO2)n-RF/Talc/PSt composite particles as a packing material and (left) the W/O emulsion stabilized by span 80 (mixture of 1,2-dichloroethane and water);
(bottom) the W/O emulsion after the treatment by the column chromatography by Using
(left) the Wakogel® C-500HG and (right) the RF-(VM-SiO2)n-RF/Talc/PSt composites as the packing materials, and (bottom, center) the optical microscopy of each eluent
Fig. 2
[参考文献]
1) a) K. Johns and G. Stead, J. Fluorine Chem., 104, 5 - 18 (2000);
b) G. W. Tyndall and P. B. Leezenberg, Tribol. Lett., 4, 103 - 108 (1998).
2) a) H. Sawada, Y. –F. Gong, Y. Minoshima, T. Matsumoto, M. Nakayama, M. Kosugi, and T. Migita, J. Chem.Soc., Chem. Commun., 537 - 538 (1992);
b) H. Sawada, Prog. Poly. Sci., 32, 509 - 533 (2007);
c) H. Sawada, Polym. Chem., 3, 46 - 65 (2012).
3) H. Sawada, Y. Oikawa, Y. Matsuki, and T. Saito, Polym. Adv. Technol., 25, 388 - 395 (2014).
4) Y. Oikawa, T. Saito, S. Idomukai, T. Tanaka, M. Nishida, and H. Sawada, J. Fluorine Chem., 177, 70 - 79 (2015).
5) Y. Oikawa, Y. Goto, M. Nishida, and H. Sawada, J. Sol-Gel Sci. Technol., submitted.
6) Y. Oikawa, T. Saito, S. Yamada, M. Sugiya, and H. Sawada, ACS Appl. Mater. Interfaces, 7, 13782 - 13793 (2015).
注)和文