我国貿易の発展と自由化の進展および新外為法の下における 有事規制に関する一考察
我国貿易の発展と自由化の進展 および新外為法の下における有 事規制に関する一考察
福島昌則
日次 1.はじめに
2.治外法権の撤廃,関税自主権の確立 3.戦後我国貿易の発展と自由化の進展 4外為法改正の主要点
5.外為法改正と貿易実務 6.有事規制について 7.おわりに
1.はじめに
30年ぶりに大改正が行なわれた「外国為替及び外国貿易管理法」〔新外為 法〕が制定施行されてより漸く2年の歳月が流れた。
明治以降の我国貿易発展の経過を辿りつつ原則禁止・例外自由の基本精神 をもって構成されていた旧外為法からの大転換を目指し,原則自由・最少限 規制・有事規制を基本理念とする新外為法について,その基本精神と,貿易 実務面の改正事項およびいわゆる有事規制条項に重点をしぼり考察を加え,
将来の展望を試みることとしたい。
2.治外法権の撤廃,関税自主権の確立
明治初期における我国の貿易は,いわゆる商館貿易,あるいは居留地貿易
と称せられ,居留地における外国商館および外国銀行の意のままに行なわれ
1 4 経 営 と 経 済
ていたといっても過言でなはい。即ち,外国商館は貿易の 95% を扱い,外国 銀行に至つては,外国為替の100% を文字どおり独占していた。(明治1 0 年の 例 〉
乙のため,日本側にとって極めて不利な取引形態を余儀なくされていた が,乙れらは徳川幕府時代の安政の通商条約が引継がれ,治外法権が認めら れたまま関税自主権はなく,外国商館,外国銀行を抑えることも出来ず,関 税政策をもって保護貿易政策を採ることもままならぬという巌しい状況にお かれていた。
長年の努力により治外法権が撤廃されたのは明治中期の明治 32 年に至って からであり,関税自主権の確立は明治後期の明治 4 2 年 l こようやく実現を見て いる
o明治初期において,外国商館,外国銀行にほぼ独占されていた貿易・為替 取引に対し,明治政府はその改善に積極的姿勢を示した。その最大のもの は,明治 1 3 年に横浜正金銀行を設立した乙とおよび其後徹底した同行の育成 策をとったことである
D横浜正金銀行の設立は,貿易取引および貿易外取引と密接不可分の関係に ある外国為替取引面における我国自主体制の確立を目的としたものである が,長年月にわたる政府の育成策と同行の努力により,第一次大戦後は,世 界屈指の為替銀行としての国際的信用力を得るに至り,貿易商社の発展と共
に我国貿易・外国為替の自主性を確立するに至つため
O横浜正金銀行は,第二次大戦前世界の三大為替銀行としての世界的ネット ワーク,信用力,資金力を誇り,我国の発展と共に隆盛を極めたが,敗戦後 連合軍総司令部 (SCAP) の指令により,閉鎖機関に指定され其歴史を閉 じた。(同行の国内資産,行員を継承した東京銀行は,昭和2 1 年1 2 月1 7 日普 通銀行として設立され,昭和2 2 年 l 月 4日から営業を開始した。)
戦いに敗れ,産業が破壊され,焦土と化した我国において,国民経済再建
の為に国家はすべての経済活動に制限を加え,監督を行なうという方策を採
っT
こ口我国貿易の発展と自由化の進展および新外為法の下における 有事規制に関する一考察
1 5
貿易面に於ては,昭和 24 年 1 2 月 1 日,法律第 228 号として公布された「外 国為替および外国貿易管理法」をもって,民間貿易再開に漕付けたが,物の 面と決済の面から厳重な統制が加えられていた。
この法律(以下,旧外為法という
o)の特徴を一言にして云えば r 原則 禁止・例外自由」ということである。
昭和 2 5 年の朝鮮戦争を契機として,我国の産業は徐々に復興の兆しを見せ はじめ,戦前に於て,世界の三大為替銀行のーとして雄名を馳せた横浜正金 銀行の後身である東京銀行は,昭和 2 7 年にロンドン支庖,ニューヨーク支居 を開設し,昭和 29 年に外国為替銀行法に基づく外国為替専門銀行として新発 足し,雨来我国経済の発展に歩調を合せて海外拠点の拡充に努め,戦後 3 8 年 の今日,かつての横浜正金銀行に凶│放する海外拠点網を形成するに至ってい
る
O3 . 戦後我国貿易の発展と自由化の進展
しばらく,我国貿易の発展と自由化の進展の推移を,外貨準備高を中心 に,その足跡を辿ってみる。
昭和 21 年 ~24年
此期間は,占傾軍による軍政時代であり,全面的にアメリカの援助資金に 依存していた。此期間の援助資金 16 億ドノレをもって,約 1 4 億ドノレの経常収支 赤字を補択し,約 3 億ドノレの外貨準備を得るに至った
2)昭和 2 5 年 ‑ ‑ ‑ 3 0 年
戦後民間貿易が再開されたのが昭和 2 5 年であり,此年の 6 月朝鮮劫乱の勃 発により,特前景気に沸くこととなった。結局比期間において大巾な以字を 計上し,昭和 3 0 年末の外貨準備高は 1 , 4 4 7 百万ドノレに達した
3)。
とは云え,昭和 3 0 年における年間輸出額は 1 9 億ドノレ,同輸入額は 1 8 億ドル の規肢に過ぎず!),
l,字巾も日'ii J ) , に l億ドノレであった
4)なお此時 W J の昭和 2 7 年 8 月 13 日に我国の IMF への加盟が承認されてい
る
O1 6
経 営 と 経 済昭和3 1 年 , . . . . . ,3 5 年
昭和3 0 年 8 月1 1 日,我国は"ガット"に加盟し, 3 3 年 5月1 5 日政府は,外 為相場の大巾自由化措置を採り, 3 4 年 9 月1 2 日,米ドノレの先物相場を自由 化,昭和 3 5 年 7 月 1日に円為替を採用,同年 9 月 1日に大蔵省は,外国為替 銀行に対する為替持高規制を緩和するに至った。(直物については廃止)
此問,外貨準備高は漸増し, 3 5 年末に於て, 1 8 億ドノレに達している
5〉D昭和3 6 年 , . . . . . ,4 0 年
此期間は,輸入の自由化品目の拡大が,急ピッチで行なわれ,又為替金 融面の諸規制が相次いで緩和され,国際化時代の幕あけと呼ぶ l 乙相応わし
し" ' 0
乙れよりさき,昭和3 5 年 3 月 8日に通産省は,貿易と為替自由化の基本方 針を決定しており, 3 5 年中に一部実施されたが, 3 6 年以降,矢つぎばゃに実 施に踏切っている。即ち,昭和3 6 年 4月 l日,原綿,原毛などの輸入自由化 品目を拡大 5 月 1 日,非居住者預金勘定に対する振替性の付与,証券投資 に対する規制の緩和を実施 6 月 9日,輸出ユーザンス期間の 2 カ月延長を 実施 9 月 1B ,外国為替資金貸付制度実施(これに伴い従来の外国為替引 当貸付制度廃止), 9 月26 日 , 国際収支改善策および貿易自由化促進計四を 決定, 1 2 月2 1 日,輸入自由化品目を拡大している
O昭和36 年は,甲程外国為替公認銀行である都市銀行が,円融資を武器とし て,輸出入為替の獲得に熱意を持ちはじめた時期として注目される。
昭和3 7 年 1 月16 日,対外支払通貨の制限を撤廃 1 月1 9 日,国際通貨基金 (1 M F) 理事会は我国の借入申詰3 0 5 百万ドノレを承認, c 前年収支は大巾赤
字であった。) 6 月1 1 日,外貨準備金制度実施, 1 0 月 l日,輸入自由化品目 追加(原油等230 品目), 1 0 月 8 日,輸出用原材料の輸入担保率引下げ, 1 2 月 13 日,輸入担保率のほぼ全面的な引下げ実施,
昭和3 8 年 1 月1 1 日,外貨準備率引上実施 4 月 1日,輸入および貿易外取
引の一部(株式元本送金等)自由化 4 月1 0 日,外国為替相場の売買巾を拡
大,同時に対顧客直物相場に関する法的規制撤廃,乙れに伴ない為替平衡採
我閏貿易の発展と自由化の進展および新外為法の下における
有事規制に関する一考察17
作を行なう
o8 月3 1 日,輸入粗糖など 3 5 品目を自由化, 1 1 月 20 日,貿易外取 引の一部,即ち期間 1年以上の傭船契約の自由化,雑送金等の認可事務の簡 素化等実施。
昭和 3 9 年 2 月 29 日 , 輸 入 の 一 部 自 由 化 ( 錫 , 亜 鉛 地 金 , そ の 製 品 等 7 品 目 ) 0 3 月18 日,輸入担保率の引上げ,輸入保証金の再預託実施 4 月 1 日 , IMF8 条国へ移行。外国為替および外国貿易管理法,外資に関する法律の 一部改正,即ち外貨予算制度の廃止等。輸入の一部,カラーテレビ,石油製 品等 8 品目を自由化。 1 0 月 1 日,輸入の一部,尿素等 1 2 品 目 を 自 由 化 し た が,これにより,自由化率は 93% に達した。
活設な自由化措置により,貿易規模は拡大したが,昭和 36 年 " ‑ ' 4 0 年の問,
外貨準備高はさほどの増大を見せず, 4 0 年末の準備高は, 2 1 億ドルと 5 年 前 に 比 し 僅 か に 3 億 ド ル の 微 増 に と ど ま っ た 。 過 去 1 0 年 来 の 外 貨 準 備 高 目標 3 0 億ドノレの達成には,なお前途多難というのが,昭和 4 0 年の状況であ る
O因みに昭和 4 0 年の国際収支を概観するに,輸出 8 , 3 3 2 百万ドノレ,輸入 6 , 4 3 1 百万ドノレで 2 0 億ドル近い以字を計上しているが,貿易外収支において 884 百 万ドル,移転収支においてお百万ドノレの赤字を記録した為,経常収支の以字 は 932 百万ドルに減少,さらに長短期資本収支の赤字 476 百万ドル共他によ り,輸出入合計 148 億ドルの規模に達したにも拘らず, 1 1 七年の外貨準備高は 向かに 108 百万ドノレの明加にとどまっている
6)。
昭和 4 1 年 " " ' 4 5 年
昭和 4 0 年までで,輸入自由化措置は一段落し,此期間は,目立つた到きは ない。此期間の特徴的なことは,輸出入取引面の急激な拡大と外貨準備日の 順調な増加である。
輸出に例をとれば,昭和 4 0 年 83 億ドノレ, 4 1 年 96 億ドノレ, 4 2 年 102 佑ドノレ,
4 3 年 1 2 7 { 立ドル, 44 年 156 億ドノレ, 4 5 年 1 9 0 億ド
Jレと 5 年間で倍増というや 1 I 長ぶりを示している
o輸入も, 4 1 年の 73 億ドノレが, 4 5 年の 150 億ドルと概ね 2 倍となり,此 i 自の
1 8
経 営 と 経 済外貨準備高も逐次増加し,長年の目標であった 3 0 億ドノレを突破したのが 44 年 の 3 4 億ドルであり, 4 5 年には 4 3 億ドルを記録するに至ったの
o貿易量の増大に伴なって,新たな問題が発生し,その対応に追われること となる
O即 ち 昭 和 4 5 年 7 月2 0 日 対 米 輸 出 テ レ ビ の ダ ン ピ ン グ 問 題 が 表 面 化 し,また年末には,日米繊維交渉が中断のまま年を越す事態となった。
昭和 4 6 年 ' " ' ‑ ' 5 0 年
昭和 4 6 年 " ' " ' 4 8 年は,激動の時期であった。即ち昭和 46 年 8 月1 5 日ドノレ防衛 のためのニクソン声明発表,周年 1 2 月 1 9 日円切上げ決定 1 ドル =308 円と なる
o4 7 年 3 月1 5 日外貨準備高を 1 1 0 億ドノレとする目標を設定,昭和 4 8 年 2 月1 4 日変動相場制へ移行 1 ド
jレ =270 円前後となった。
此期間に我国の輸出は激増し, 46 年 2 3 5 億ドノレ, 4 7 年 2 8 0 億ドノレ, 4 8 年 3 6 2 億ド
jレ , 4 9 年 544 億ドノレ, 50 年 547 億ドノレと 5 年間に 2.5 倍と増伸し,輸入に 至つては, 46 年の 1 5 7 億ドノレが 50 年には 4 9 7 億ドノレと実に 3 倍強の水準に達 し,外貨準備高も 4 6 年末に 1 5 2 億ド
jレと前年末比一挙に 2 . 5 倍を記録, I 児述の とおり外貨減らしの目標として 1 1 0 億ドノレを設定する騒ぎとなったが, 4 7 年 末には 3 1 億ドノレの増加となり,翌 4 8 午末 l 乙至ってようやく 6 1 億ドノレの減少を 見ている
O以 後 4 9 年末 1 2 億ドノレの増, 5 0 年末 7 億ド
lレの減という経緯で, 5 0 年末の外貨準備高は 128 億ドノレと目標高に近似の数値となっている
8)昭和 5 1 年 5 2 年の輸出の前年比伸び率は,夫々 2 0 労と伸長し,輸入の伸び率 夫々 1 2 . 9 9 6 , 1 0 . 5 9 6 を 大 巾 に 上 廻 以 外 貨 準 備 高 は +37 億ドノレ, +62 億ドル と著増し, 52 年末の外貨準備高は 2 2 7 億ドノレを示すに至った。
既述の推移に見られるとおり,旧外為法の下に於て,我国の貿易は目覚ま しい発展をとげてきたが,此間,旧外為法の基本精神であるところの「原則 禁止・例外自由」は貫かれてきたとは云うものの,当然のことながら,例外 自由項目は拡大に拡大を重ね,実態に対応せざるを得ず,法体系は組めて複 雑となってきていた口
一方世界の GNP の 10% を占めるに至った我国としては,開放経済体制を
目指すという基本姿勢を採ったものの,原則禁止の法体系が存続していると
我国貿易の発展と自由化の進展および新外為法の下における
有事規制!C:関する一考察1 9
いうこと自体が不適切という問題意識が徐々に現われ,同時に貿易面の摩擦 という問題が生ずるに至り,昭和53 年初頭の対米,対欧経済交渉の
j坊に於て,
外国為替管理制度を根本的に見直しの上,対外取引の原則自由方針に基いた 新しい制度を検討することを約束するという事態も生じ,本格的な改正作業 が進められることとなった。
この結果,昭和54 年1 2 月1 8 日,法律第6 5 号をもって公布,昭和5 5 年1 2 月 1 日に施行されたのが, r 外国為替及び外国貿易管理法の一部を改正する法律」
(以下,新外為法という。)である
O4 . 外為法改正の主要点
( 1 ) 原則自由・有事規制の基本方針
まず理解を便ならしめるために旧外為法の目頭部分を紹介する
D旧外為法
〈 目 的 )
第 l 条 この法律は外国貿易の正常な発展を図り,国際収支の均街,通貨 の安定及び外貨資金の最も有効な利用を確保するために必要な外国九 替,外国貿易及びその他の対外取引の管理を行い, もって国民経済の復 別と発展とに寄与することを目的とする。
( 再 検 討 )
第 2 条 この法律及びこの法作に基く命令の規定は,これらの規定による
制限を,その必要の減少に伴い~次緩和又は廃止する目的をもって再検
討するものとする。
改正された新外為法第 l 条の文言は次のとおりである。
( 目 的 )
第 l 条 この法律は,外国為替,外国貿易その他の対外取引が自由に行わ
れる乙とを基本とし,対外取引に対し必要最少限の符理又は調整を行う
ことにより,対外取引の正常な発展を期し,もって国際収支の均衡及び
通貨の安定を図るとともに我が国経済の健全な発展に寄与することを目
20
経 日 ' と 経 済的とする
oこの第 l条において,此法律の制定趣旨,目的を明示している。旧外為法 の「原則禁止・例外自由」からの大転換である
o次に参考までに,西ドイツの対外経済法を掲げる。
西ドイツ対外経済法 第 l条 原 則
外国経済地域との商品・役務・資本・支払その仙の経済取引並びに居 住者間の外国有価物及び金(きん)に関する取引く対外経済取引〉は原 則として自由である
oただし,この法律に含まれる制限あるいはこの法 律に基づく政令によって規定される制限に従う
9〉D( 2 ) 資本取引の原則自由化
第20 条乃至第24 条において,資本取引について規定している口
資本取引という概念は,今回の改正により新しく導入された。今後の取 引規制という観点からすれば,投機的資金の移動を中心として資本取引に 関する規制が中心となるものと予怨され,今回の改正をもって資本取引と いう概念とその具体的な内容を特定したことは重要な意味を持つと云い得 る 。
資本取引については,次の 3 種類の規制が盛込まれている
O① 為替管理の実効性の確保等の観点から,今回の大巾な改正後もなお自 由化し難い分野を,法律上許可を要することとしている
Dしかしこの場 合に於ても,その対象はできる限り限定することとしているほか,外国 為替銀行,外国為替公認銀行を一方の当事者とするものは自由とする乙 とによって,一般的乃至通常に行われる取引又は行為が規制の対象とな ることのないよう配慮されている
O② 国際収支の均衡を維持するため等の必要があるときに限って資本取引 の規制を図ろうとするものである
O① 特定の資本取引については,個々の取引について事前の届出を求め,
必要な場合は取引の内容の変更又は中止について,所要の勧告又は命令
我困貿易の発展と自由化の進展および新外為法の下における
有事規制に関する一考案を出すことができる
10)次に新らしく設けられた資本取引の定義についての条文を掲げる。
(資本取引〉
2 1
第20 条 資本取引とは,次に掲げる取引又は行為(第26 条第 l 項各号に掲 げるものが行う同条第 2 項に規定する対内直接投資等に該当する行為を 除く。)をいう
o一,居住者と非居住者との聞の預金契約(定期積金契約,掛金契約,預 け金契約その他乙れらに類するものとして政令で定めるものを合む。
第 4 号において同じ。)又は信託契約に基づく債権の発生,変更又は 消滅に係る取引(以下この条,第2 2 条及び第2 3 条において「債権の発 生等に係る取引」という。)
二,居住者と非居住者との閣の金銭の貸借契約又は債務の保証契約に基 づく債権の発生等に係る取引
三,居住者と非居住者との間の対外支払手段又は債権の売買契約に基づ く債権の発生等に係る取引
四,居住者と他の居住者との問の預金契約,信託契約,金銭の貸借契 約,債務の保証契約又は対外支払手段若しくは債権その他の売買契約 に基づく外国通貨をもって支払を受けるととができる債権の発生等に 係る取引
五,居住者による非居住者からの外貨証券の取得又は非居住者による居 住者からの証券の取得
六,居住者による外国における証券の発行若しくは募集若しくは本邦に おける外貨証券の発行若しくは募集又は非居住者による本邦における 証券の発行若しくは募集
七,非居住者による木邦通貨をもって表示され又は支払われる証券の外 閏における発行又は募集
八,居住者による外国にある不劫産若しくはこれに関する権利の取得又
は非居住者による本邦にある不動産若しくはこれに関する権利の取
2 2
経 営 と 経 済得
九,第一号及び第二号に掲げるもののほか,法人の本邦にある事務所と 当該法人の外国にある事務所との間の資金の授受(当該事務所の運営 に必要な経常的経費及び経常的な取引に係る資金の授受として政令で 定めるものを除く)
十,前各号のいずれかに準ずる取引又は行為として政令で定めるもの このように,新外為法は第2 0 条において資本取引の定義を規定し,次の 第2 1 条においてこれらの資本取引について常時許可を要する場合およびい わゆる有事規制が発動される場合を定めている。乙の第2 1 条は,資本取引 の規制の中心規定であることから全文を掲げておく
o〈大蔵大臣の許可を要する資本取引〉
第2 1 条 居住者又は非居住者が次の各号に掲げる資本取引の当事者になろ うとするときは,政令で定める場合を除き,当該各号に定める区分に応 じ,当該居住者又は非居住者は,政令で定めるところにより,当該資本 取引について,大蔵大臣の許可を受けなければならない。
一,前条第一号,第三号又は第四号 l と掲げる資本取引であって,本邦に ある外国為替公認銀行が業として行う資本取引(同条第三号及び第四 号に掲げる資本取引のうち対外支払手段又は債権の売買契約に係る資 本取引にあっては,大蔵大臣の定める要件を満たしているものに限
る。)以外のもの 居住者
二,前条第七号に掲げる資本取引 非居住者
2 . 大蔵大臣は,前項の許可を受けなければならない資本取引以外の資本 取引(第24 条第 1 項 l こ規定する資本取引に該当するものを除く。〉が何 らの制限なしに行われた場合には,次に掲げるいずれかの事態を生じ,
この法律の目的を達成することが困難になると認められるときに限り,
当該資本取引を行う居住者又は非居住者に対し,政令で定めるところに
より,当該資本取引を行う乙とについて,許可を受ける義務を認するこ
とができる
o我国貿易の発展と戸由化の進展および新外為法の下における 有事規制に関する一考察
我が国の国際収支の均衡を維持する乙とが困難になること
2 3
一 本邦通貨の外国為替相場に急激な変動をもたらすことになること
‑,本邦と外国との問の大量の資金の移動により我が国の金融市場又は 資本市場 l こ忠影響を及ぼすことになること
3 . 前項の規定により大蔵大臣が第23 条第 l 項に規定する資本取引(次条 第 l項の規定による届出が既にされたものを除く。)について許可を受 ける義務を課する場合においては,当該資本取引が行われたならば,前 項各号 l 乙掲け。る事態のほか,第23 条第 2 項各号に掲げる事態のいずれか の事態を生じ,この法律の目的を達成することが困難になると認められ ないかについても併せ考慮してするものとする
O資本取引に関する条文は,次の第22 条に於て「資本取引の届出等」につ いて規定し,次いで第23 条に於て「資本取引に係る内容の審査及び変更勧 告等」を定め,さらに第24 条に於て「通商産業大臣の許可を要する資本取 引等」を置いている
D( 第22 条乃至第24 条の条文は省略する
o )これを要するに,第20 条で定義づけられた資本取引は,第2 1 条の有事規 制の対象になり得る取引もしくは行為であるという乙とであるが,第20 条 乃至第24 条の条文の規定を平常時に当眠めた
j君合は,次のように分類され
る 口
① 白山に取引出来る分野の例。
外国為替公認銀行を当事者とする対外支拡手段の売買。
指定証券会社を通ずる証券の売買。
② 届出のみを必要とする分野の例。
日住者による非居住者からの外貨証券の取得。
③ 審査を要する分野の例。
証券の発行・募集。
対外直技投資。
非居住者による本邦にある不動産の取得。
24 経 営 と 経 済
④ 許可を必要とする分野の例。
居住者の海外における預金。
ユーロ円債の発行。
( 3 ) 自由化進展の主要事項 イ,外貨預金の完全自由化
旧外為法の下に於ては,居住者は海外から得た外貨,例えば輸出代金 として得た米ドルをそのまま預金することは自由であったが,円資金を 外貨に換えて預金をするということについては, 300 万円相当までとい
う制限があった。
新外為法の下 l 乙於ては,制限が撤廃され,居住者は国内の外国為替銀 行の全居舗及び外国為替公認銀行の外国為替取扱居舗で,自由に外貨預 金が出来る乙ととなっている。(新外為法第 2 1 条 l 項)また,外貨預金 については,臨時金利調整法による金利の規制外とされていることか ら,事業会社にとっては,新たな余資迩用手段の出現となり,其利用度 が次第に高くなりつつあると云われている。
ロ,対外借入れの自由化
対外借入れとは,居住者が非居住者から借入れること,即ち, 日本の 企業が,外国為替銀行や外国為替公認銀行の仲介により外国の金融機関 から外貨を借入れる行為,言葉を代えればインパクトローン(狭義〉の
ことである
O今回の改正で,このインパクトローンが完全に自由化され,本邦企業 は資金調進の場として,国内,海外両市場を総合的に検討し,金利等諸 条件を自由に比較衡量の上,海外からの借入れを自由に行い得ることと
なった口
此程取引も徐々に増加して行くものと思われる。
因みに,従来,一件平均 1 0 0 万ド
jレと云われていたインパクトローンの
借入金額が,昭和 56 年秋から 5 7 年にかけて 5 万ドノレ乃至 1 0 万ドノレのも
のが続出し,借入者も製造業部門の中小企業のほか,理髪庖,すし屈な
我国貿易の発展と自由化の進展および新外為法の下における
有事規制に関する一考察2 5
ど小売業者にまで拡大されている。例外的には,サラリーマンが住宅ロ ーンを借りるまでのつなぎ資金に利用する例も出ているということで,
小口の外貨借入れは,更に増えるという見通しの由である。
日本銀行の調査による借入企業の業種別実績によると,昭和 56 年末時 点では,卸売・小売業の導入額が最も多く,こうした傾向は昭和57 年に 入り一段と強まっているとのことである
D卸売・小売業の構成比率は,
22.3% (うち商社が6.1%) にのぼっている
11)。 ハ,外国投資家に対する制限緩和
我国企業の株式を取得する外国投資家に対し, I 日外資法の下では,
般企業の場合は,持株比率が 2 5 9 6 に達した時,公共性が強い企業の場合 は , 15% に達した時,夫々の比率を超える外国投資家の株式取得は,当 該会社の同;立を要するという起用方式であったが,今回の改正によっ て,外国投資家の累積的な持株比率を見るという考え方は局限された形 となり,対象会社も極めて限定された数となっている
Dこれにより外国 投資家の株式取得は容易になったと云い得る
o5 . 外為法改正と貿易実務 ( 1 ) 輸出貿易管理令
イ,輸出認証制度の廃止,輸出報告書の新設
旧外為法の下 l こ於ては,輸出代金の回収の確保と輸出取引の適法性を 確認する目的のため,輸出業者は, 1 0 0 万円以下の輸出の場合を除き,
すべて船積の前 l 乙,外国為替銀行,外国為詳公認銀行に輸出申告苫を提 出し,輸出代金の回収方法について証明を受けなければならないとされ ていたが,此制度が廃止され,外国為替銀行,外国為持公認銀行の行政 事務が大巾に簡素化された。
但し,特殊な決済方法の場合は,特別な手続が必要である
o輸出認証制度の廃止の代りに,輸出取引の実態把握を目的として,輸
出報告書制度が新設され,輸出業者は,輸出報告書を作成して,外国為
26
経 日 と 経 済替銀行,外国為替公認銀行へ提出する義務を負うこととなった。
ロ,無為替輸出については,通商産業大臣の承認を必要としないことと なった。
ハ,代金回収の義務が緩和された。
ニ,委託加工貿易の自由化
旧外為法の下に於ては,委託加工貿易の関係貨物の輸出については,
すべて通商産業大臣の承認を必要としたが,今回の改正で,委託加工貿 易は原則自由となり,いわゆる逆委託加工貿易に於て,通商産業大臣が 指定する外国での加工のために,通商産業大臣が指定する加工原材料を 輸出する場合に限り,その承認を必要とすると改められた。
( 2 ) 輸入貿易管理令
( イ ) 従来,通商産業大臣の事前許可と,外国為替銀行の輸入承認が二重 に要求されていた取引について,通商産業大臣の輸入承認手続一本で良 いとの手続面の簡素化が図られた。
此種取引としては,輸入割当を受けるべき品目の輸入,輸入承認を 受けるべき貨物の原産地や船積地域が公表されている貨物の輸入があ
る 。
ロ,無為替輸入の輸入承認制度廃止。
ハ,逆委託加工貿易で,加工原材料の輸出について承認取得済の場合 は,当該製品の輸入に際しては,輸入承認不要とされた。
ー,債権回収義務が廃止された。
6 . 有事規制について
既述のとおり,新外為法の基本精神は,対外取引を極力自由化し,必要や むを得ない場合にのみ,最少限の管理,調整を行うというものである。
しかしながら,複雑多岐に亘る現在の国際経済社会に於て,不測の事態が
生ずるおそれは多分にあり,其時 l 乙備え,規制する方策を定める必要があ
り,いわゆる「有:事」に備えて定められた条項が有事規制条項と云われるも
我閏貿易の発展と自由化の進展および新外為法の下における
有事規制に関する一考案 27
ので,支払条項,債権回収条項にも設けられているが, もっとも重要なの は,資本取引に関する条項である
D案ずるに資本取引は,経常取引と異なり,急激かつ大量に資金移動を惹起 する取引であることから,管理の最重点項目として位置ずけられる性格を有
し,乙のことは, 1 M F協定に於ても認められている
O資本取引についての規制条文は既述のとおりであるが,念のため当該条項 を再録する。
第2 1 条第 2 項
大蔵大臣は,前項の許可を受けなければならない資本取引以外の資本取 引(第24 条第 l 項に規定する資本取引に該当するものを除く)が何らの制 限なしに行われた場合には,次に掲げるいずれかの事態を生じ,この法律 の目的を達成することが困難になると認められるときに限り,当該資本取 引を行う
j舌住者又は非居住者に対し,政令で定めると乙ろにより,当該資 本取引を行うことについて,許可を受ける義務を認することができる
O1 . 我が国の国際収支の均衡を維持することが困難になる乙と
O2 . 本邦通貨の外国為替相場 H 乙急激な変動をもたらすことになること
D3 . 本邦と外国との聞の大量の資金の移動により我が凶の金融 H iJ易又は資 本市場に J 思影特を及ぼすことになること。
規 j l i l J の発動は,大蔵大臣の判断による。が政令の定めに従う
O外為令第 1 1 条によれば,大蔵大臣は,あらかじめ原則として告示(官報に よる)により許可を受けなければならない資本取引を指定する
Oこの指定に より,大蔵大目 ω 許可を受けなければならないこととなる
12)次に通商産業大じ l の所行にかかる有事規制の条文を紹介する
O第24 条第 1 項
通商
j主業大臣は,第2 0 条第 2 号に掲げる資本取引(同条第1 0 号の規定に
より同条第 2 号に準ずる取引として政令で定めるものを合む〉のうち,貨
物を輸出し又は輸入する者が貨物の輸出又は輸入 l こ直接伴ってする取引又
は行為として政令で定めるもの及び鉱業権,工業所有権その他これらに類
2 8
経 営 と 経 済する権利の移転又はこれらの権利の使用権の設定に係る取引又は行為とし て政令で定めるもの(短期の国際商業取引の決済のための資本取引として 政令で定めるものを除く。〉が何らの制限なしに行われた場合には,第2 1 条第 2 項各号に掲げるいずれかの事態を生じ,この法律の目的を達成する
乙とが困難になると認められるときに限り,当該資本取引を行う居住者に 対し,政令で定めるところにより,当該資本取引を行うことについて,許 可を受ける義務を課することができる
o本項は,通商産業大臣が所管する資本取引について,有事規制の対象範囲 を定め,その事由として,前述した第2 1 条第 2 項の大蔵大臣の所管にかかる 資本取引の有事規制の発動の場合と同じであるとしている
13〉Oでは,有事規制の発動の事態として,前述した第2 1 条第 2 項に 3 つの項目 が掲げられているが,国際収支の均衡維持の困難とか,外国為替相場の急激 な変動とか,大量の資金移動による金融資本市場への悪影響といった事態 を,具体的に表す尺度というものは,実際問題として具体的に算定すること は困難であり,そのために法文上も明定されていない。
如何なる場合に発動されるのかという一般的な疑問に対する手がかりとし て,外国為替等審議会の考え方なる一文を次に紹介する
O〔 参 考 〕
有事規制に関する基本的な考え方
5 5 . 1 2 . 16 外国為替等審議会
「外国為替及び外国貿易管理法(以下「法」という
o)第2 1 条第 2 項及 び第24 条第 l 項に基づく資本取引に対する有事規制の運用にあたっては,
下記の諸点に十分留意する乙とが適当である
o記
1 . 有事規制は,①我が国経済の基礎的な諸条件を調整するための各般の
経済政策,②為替相場の安定のための為替政策及び③非居住者円勘定
に対する付利禁止その他の間接的な規制との適切な調和と組合せの下に
我国貿易の発展と自由化の進展および新外為法の下における 有事規制に関する一考察
運用されるべきである。
2 9
2 . 有事規制は,法第2 1 条第 2 項に規定されている要件に合致する場合で あって,その発動が必要やむを得ないと認められるときに限り,具体的 な取引の状況に応じ,必要最少限の範囲に対象を限定して運用されるべ きである
o3 . 有事規制の運用にあたっては,事柄の性質上機動性を確保することが 重要であるが,他方,既契約の履行の確保等対外取引の安定性を阻害し ないように十分配慮することが必要である
o4 . 有事規制を発動しうる場合であっても,その他の間接的な規制手段た とえば預金準備率の操作,付利禁止の措置等の可能性にも十分配慮する ことが必要である
D5 . 有事規制の運用にあたっては,国際的調和にも十分配慮することが肝 要である
14)。
7 . お わ り に
30 年ぶりの大改正による新外為法の誕生により,我が国の開放経済体制に 相応した法体系の整備がなされ,自由化度において,先進諸国に匹敵するレ ベノレに到達したと云われている
O新外為法施行後,漸く 2 年を経過し,順調なすべり出しを見せているが,
貿易実務面に於ては,煩雑な許可,承認事項が旧外為法下 l こ於ても数次に亘 る自由化措置により大巾に縮少されていたところ,今回の改正では,輸出認 証制度の廃止という画期的な事務の簡素化が実現され,貿易業者,外国為替 銀行の事務負担の軽減に貢献している。
資本取引の自由化の面に於ては,昭和 56 年末頃からいわゆる「ゼロ・クー ポ ン 偵
j問題が発生した。欧米一流企業発行のこの債券は,高利回りと税負 担なしという特性から,爆発的人気を呼び,資本の大量流出を招き円安を加 速させたと云われる。このため政府は託券会社に対し販売を一時中断させた
と云われている
15)口30
経 営 と 経 済違法商品ではないので,大蔵省は販売を認めるであろうと取沙汰されてい るが,新外為法下の一つの事例として,注目すべき事象と思われる
Oゼロ・クーポン債に関する続報として,昭和
57年
7月
25日付の日本経済新 聞は, I 販売禁止から五カ月,ゼロ・クーポン債浮上せず,円安怖い大蔵省,
解禁メドたたず」との見出しを掲げ,主税局,証券局,国際金融局の夫々の 考え方なるものを紹介し,その中で「大蔵省の中で円相場の動向に神経をと がらせている国際金融局は,ゼロ・クーポン債再開について時機尚早論の立 場を変えていない。外為市場の円安はやっと底を脱しつつあるが,ここでゼ ロ・クーポン債を解禁して資本流出が強まれば再び円安の泥沼に陥りかねな いという懸念が強いためだ。国際金融局は公式的には「ゼロ・クーポン債の 再開問題は証券局の決める乙と」と云いながらも販売禁止の手綱を放そうと しない。このため有事規制を発動しなければ規制できない筈の資本取引の流 出入が,ゼロ・クーポン債に限っては行政指導により五か月近くも全面停止 の状態が続いているわけで,証券界や企業などの聞には「新外為法の粕ネ ! { l に 反する」という不満が根強い。なかには「ゼロ・クーポン債の再開でさえこ れ程及び腰なのだから,有事規制を発動したら永久に解消できない」と皮肉
っぽく云う向きもある
oJ と報じている
D(註)アンダーライン筆者
いわゆる「有事規則」をギリギリ土端場まで我慢した揚句の果の伝家の宝 万と見るか,或は,長期的な基本方針をパックにした状勢即応型の柔軟な発 動・停止を繰返すという小太万的な運用方式と見るかによって,政策は異な
ってくるものと思われる
O次に,円安問題,新外為法関連の海外の批判をみることとする口
昭和
57年
4月
27日に開かれた米下院外交委アジア・太平洋問題小委員会 (ソラーズ委員長=民主〉の 6 回目の日本公聴会に於て,サクソンハウス・
ミシガン大学教授は,円安問題について「日本政府が直接,円相場を下落さ せる介入をしているとは思えないが,国内の金融・資本市場が完全に自由化
していない乙と,さらに円が国際通貨になかなかならないことが円の下落を
我国貿易の発展と自由化の進展および新外為法の下における 有事規制に閲する一考察
3 1
もたらしている」と証言し, 1 9 8 0 年1 2 月の外国為替管理法の改 E についても
「貿易会社では書類手続きが増えて,新らしく事務員を雇わなければならな いほどだと不平を鳴らしている」と証言している由である 16)
このことは,日本に対する批判が,商品から金融・その他という広い分野 に及んできたということであろうが,新外為法に対しても,こういう表現で 追求されるという現実があるということは,注目に値いしよう。
また,円相場は昭和5 7 年初頭の大方の予忽 ( 2 1 0 円乃至2 2 0 円程度)を哀切 って下落を続け,昭和 5 7 年 1 1 月はじめには, 277 円という 5 年余ぷりの安値 をつけている口昭和56 年は 1 9 8 円から 247 円まで下落したのち 213 円へ反騰し たが,乙れに比しても昭和 5 7 年の円安ぷりは自に余ると報じられている
o外貨準備高についてみると,大蔵省の発表によれば,昭和5 7 年1 0 月末のそ れは 228 億 4 千万ドノレであり, 9 月末に比し 11 、 倍 6 千 9 百万ドノレの減少とな り,昭和田年 7 月以来 2 年 3 か月ぷりの低水準となっている
D外貨準備高 は,昭和 56 年 1 1 月に 287 億ド
jレを記録したあと減少傾向をたどり,昭和 5 7 年 7 月に前月比で若干増加したものの,以後一貫して減少しており,前述した 昭和5 7 年1 0 月末の 228 億ドノレは,前年同月比で56 億ドノレの減少である。 日銀 介入が外貨準備高減少の主因である
17)日本銀行の円安歯止めの努力が推察される数字であるが,予想外の円安の 長期化の原因は何かとなると,諸説紛々としてにわかには断定し難い。
昭和57 年 1 1 月時点での観測によれば,年初来毎月 15 億ドノレ乃至25 億ドルの 大巾赤字を記録している長期資本収支の勤きが円安の原因とされている
O乙 の長期資本収支の大巾赤字傾向も 9月には赤字巾 4億ドノレと大巾に減少し,
1 0 月も 1 0 億ドノレ足らずの赤字と予怨され,このためか円安の流れに歯止めが 期待されると報じられている
O因みに 1 1 月1 0 日の終り値は 3 週間ぶりに 269 円台に戻っている
18)o昭和5 7 年初頭以降の長期かっ急激な円安傾向は,石油業界をはじめとして
企業経営面に問題を投げかけているが, i 政府や日銀はいったい何をしてい
るのか。もっと毅然たる姿勢をとらなし
1からこうなる。」との京石油会社社
32
経 営 と 経 済長の発言が紹介され,これは,最近の円安は,政府が海外に対し弱腰なう えに日銀介入も及び腰だからと憤満をぶちまけての乙とであると述べてい る
19〉oかかる円安情勢に対応してか通商産業省は,昭和5 7 年1 1 月 l自に「貿易金 融為替問題研究会 J (貿易局長の私的諮問根関)を設置することを決め, 1 0
日に第 l 回会合を聞いている
o本委員会を設置したのは,通産省が最近の円 相場の急激な変動で企業経営が打撃を受けかねないと懸念しているためであ り,同時に通商政策や産業政策も為替問題を抜きにしては運営できなくなり つつあると判断しているからである
o今後月一回のペースで会合を聞き,①逆石油ショック下の為替相場の変動 要因とメカニズム,②為替相場の安定策のあり方,③相場変動の影響を最少 限にするための為替リスクヘツジ対策,④円の国際化と貿易金融のあり方,
について順次審議して行き,昭和田年 4月を目途に意見書をまとめる予定の 由である
20〉o昭和 5 7 年 1 1 月 1 4 日付日本経済新聞によれば, 450 社の 9 月中間決算・ 5 年 ぶり減収減益・経常益15.1% 減るとの見出しのもとに 19 月中間決算では為 替相場の円安進行が企業業績に大きな影響を及ぼしたロ 5 7 年度上期 (4‑ 9 月)の為替レートは期中平均 1ドリ= 252 円前後となり, 56 年度下期 ( 5 6 年 1 0 月一5 7 年 3 月〉に比べ 2 0 円強の円安となった。円安による打撃が最も深 刻だったのが石油業界で,これまでに発表した石油精製販売 6 社(大協石油 を除く〉の経常欠損額は 279 億円に達し,前期比5 0 0 億円の減益となった。石 油業界では備蓄量の圧縮による金利負担の軽減や,為替予約率の向上による 差損回避などの対策を講じて減益巾の縮少に努めたが,需要不振による値上 げ浸透の遅れもあり,円安の打撃を克服できなかった。」と報じている。
此影響を受けて,家庭用灯油・ガソリン等が値上りし,家計負担の増大を 招いている
D特に,灯油を長期間,大量に必要とする北海道の一般家庭に与 える影響は大きい。
昭和5 7 年1 0 月1 2 日,日本銀行総裁は,同行創立百周年記念式典での挨拶の
我国貿易の発展と自由化の進展および新外為法の下における 有事規制に関する一考察
中で次のように述べている
O3 3
" l t goes w i t h o u t s a y i n g t h a t t h e t a s k o f t h e Bank o f ]apan i s t o s t a b i 1 i z e t h e v a l u e o f t h e y e n . "
" a t t h e s t a r t o f t h e Bank o f ] a p a n ' s s e c o n d c e n t u r y , 1 s h o u l d l i k e t o r e i t e r a t e our d e t e r m i n a t i o n t o do o u r utmost t o c a r r y o u . t t h e t a s k c o n f e r r e d o n us by t h e n a t i o n . "
21)政府,日本銀行ともに,昭和 5 7 年初頭以降の円安事態の重要性を認識し,
本格的な打開策の検討に腐心しつつあるが,新外為法施行後の長期資本収 支の動向が重大な影響を与えていることは,まず間違いないものと忠われ
る
o新外為法施行後の長期資本収支尻を四半期毎に見ると,昭和 5 6 年 0981 年) 4‑6 月ム 2 , 3 9 6 (百万ドノレ,以下同じ) 7 ‑ 9 月ム 3 , 6 7 0 10‑12 月ム 3 , 0 6 3 昭和 5 7 年(1 9 8 2 年) 1‑3 月ム 5 , 8 0 5 4 ‑ 6 月ム 4 , 5 6 1 7 ‑ 9 月 ム 6 , 3 6 8 であり,四半期毎に赤字が増大している
22)この原因が,米国の長期金利高によるものかと、うか,にわかには結論づけ られないが,長期円安傾向の背景としての長期資本収支赤字という実忠良値に は注目する価値があろう
O円相場は,昭和 5 7 年 1 1 月初句,一時は 2 8 0 円台突入かと思われたが, 1 1 月
19 日の米国公定歩合引下げを転機に反 ß.u~ に転じ, 11 月 29 日には半年ぷりに2 4 9 円 551 長という終 M I で、あった。 1 か月足らずの聞に 2 8 円高という急騰ぷり である。一応円安修正局面を迎えたわけであるが当分の聞は 2 3 0 ' " " 2 4 0 円台で 推移するであろうと云われている
oさて,変動相場制度の下での為脅迫用は, r 海図なき航海」と云われてい る
O完全な海図があれば,船舶の航海はプリッジに船長もしくは一等航海士 と操舵手 l 名が配置についているだけで,安全に船を運航するととができ る
oもしその海図が不完全な場合ば,万ーに備え,レーダー係,ソナー係各 1
34 経 営 と 経 済
名を加えて不完全な場所のみをチェックしておれば事故を防ぐ乙とができる であろう
O海図がないとなると,事は甚だ面倒になる。プリツジには,船長,一等航 海士,操舵手のほかに左右側面に見張りを配置し,また船首部分l こも張出し を設けて水深を測る測鉛員を配置する必要があろう
D最新技術によるレーダ ーやソナーを設けていても,近距離・小型の岩礁は反応しないおそれもあ り,来組員の目視に頼らざるを得ず,多数の見張員を訓練して要所々々に配 置する必要も出てこよう。度重なる針路変更,速力の調節,あるいは突然の 機関停止等の必要も生ずるであろう。
船長以下乗組員全員が,常時「左警戒・右見張り」の態勢で船を進めると いう状況が,変動相場制の下での運航と考えられる。
現在,各主要国の協調体制のもとに,海図の作成に努力がなされているが (たとえば, EMS 体制,スワップ協定, IMF 資金の拡充, SDR 制度の 改善,代替勘定構想、等),有用な海図の出現には相当の年月を要するものと 思われる
Qところで,より完全な海図の作成は望み得ないのであろうか。東京大学教 授・村上泰亮氏は,最近の論文の中で今後の日本の選択として二つのシナリ オを用意され,そのうち積極的あるいは「楽観的」なシナリオ(但し同教授 は,現在の状況の下ではこのシナリオが採用される可能性は低いように思わ れると述べておられるが)三項目のうち第二項目として次のように述べてお
られる
D「変動為替レート制度に代わる国際通貨制度の創出に向って,他の先進 国,とくにアメリカを説得しつつ,積極的な役割を果す。その内容は,たと えば,主要先進国聞の固定為替レートの設定,資本移動を制御するための手 段(弱い形としては利子平衡税)の公認を含み,同時に保護主議の廃止につ いての合意を含む。日本としては,たとえば 1
ドル2 0 0 円以下の円高レート の設定を提案する
23)o J
傾聴に値いする提言と思われる。
我国貿易の発展と自由化の進展および新外為法の下における
有事規制に関する一考察 3 5
本提言に関連すると思われる最近の新聞報導として,昭和5 7 年 1 2 月1 0 日付 日本経済新聞の第一面に次の記事が掲載されている
o「リーガン米財務長官が 9 日に西独・フランクフルトで聞いた先進五か国 蔵相会議で,国際金融不安と世界同時不況への対応策として,いまの国際通 貨制度の改草を含めた抜本的な提案をしたことが明らかになった。その骨子 は①民間借り入れを主体にした緊急融資システムを創設, 1 M F (国際通 貨基金)の債務保証で外貨繰りが極端に悪化している発展途上国に資金を貸 し付ける
D②世界同時不況の元凶のーっとなっている不安定な為替相場を安 定させるため,公定歩合の協調引下げなど主要先進国間での政策協調を促進 するーなど。乙れらの当面の措置のほか,中・長期的な課題として金本位 : t i J ! や同定相場制への復帰なども含めて国際通貨制度の大幅改革について検討を 始めるよう提案したとみられ,国際的に大きな波紋を広げそうだ。」
リーガン米財務長官のこの提案は,当面の措置はそれなりの必要性を認め るとしたうえで,今後当面の措置の繰返しを続けるのみでは,問題の解決に は程遠く,中長期的展望に立った上で国際通貨制度の大幅改草が必要であ り,具体策の事例として金本位制や同定相場制が考えられるという米政府の 見解を示したものであろう
o最後に村上教授の提言およびリーガン米財務長官の提案に関連しかっ本杭 の締めくくりとして,新外為法の目的に関する条文と,有事規制関述条文;を 再録する。(アンダーライン筆者)
新外為法 ( 目 的 )
第 1 条 この法手 t I は,外国為幹,外国貿易その他の対外取引が自由 l と行わ れることを基本とし,対外取引に対し必要最少限の管理又は調整を行う ことにより,対外取引の正常な発展を期し,もって国際収支の均衡及び 通貨の安定を図るとともに我が国経済の健全な発展に寄与することを目 的とする
D(大蔵大臣の許可を要する資本取引)
3 6
経 営 と 経 済第 21 条 ( 1 項 略 )
2 . 大蔵大臣は,前項の許可を受けなければならない資本取引以外の資本 取引(第2 4 条第 1 項に規定する資本取引に該当するものを除く。)が何 らの制限なしに行・われた場合には,次に掲げるいずかの事態を生じ,こ の法律の目的を達成することが困難になると認められるときに限り,当 該資本取引を行う居住者又は非居住者に対し,政令で定めるところによ り,当該資本取引を行う乙とについて,許可を受ける義務を課すること ができる
o一,我が国の国際収支の均衡を維持することが困難になること 二,本邦通貨の外国為替相場に急激な変動をもたらすことになる乙と 三,本邦と外国との聞の大量の資金の移動により我が国の金融市場又は
資本市場 l 乙思影響を及ぼすことになること (3 項 略 〉
何は兎もあれ,戦後 38 年の現在,世界経済の大転換期にさしかかりつつあ る状況に於て,他国から浴びせられる批判は批判として参考にしながらも,
制定施行後 2 年を経過した新外為法の適正かっ適切な解釈と運用こそが切に 望 ま れ る 。 ( 終 )
( 註
)(1)安東盛人「外閏為替概論」
( 2 ) I b i d ( 3 ) I b i d ( 4 ) I b i d
参 考 資 料
(5)
安東盛人・土屋六郎 国際金融教室
(6)土屋六郎 国際収支と変動相場制 ( 7 ) I b i d
( 8 ) I b i d
(9) 福井博夫編者:
外国為替管理法
U
OlI b i d
627
頁p . 685
p . 688
a . s . 1 5
3 2
頁 44'""'45頁p.p. 4
4'""'45p . p .
44'""'453 7 頁
p.p. 2 1 5 ' " " ' 2 1 6
傍線筆者我国貿易の発展と自由化の進展および新外為法の下における 有事規制に関する一考察
37
(11) 日本経済新聞 昭和
5 7
年7 月5
日付記事「小口インパクトローン急増・規模は5‑10
万ドル・理髪居,すし屋さんも利用」( 1 2 )
福井博夫編著外国為替管理法2 4 7 " ‑ " 2 6 2 頁 ( 1 3 ) I b i d p . p . 312
.‑‑...,316 ( 1 4 )
関 要・渡蓬敬之共著析しい外国為替管理法1 0 9 頁
(1
5 )
日本経済新聞 昭和5 7
年4
月2 7
日付記事「ゼロ・クーポン債,魅力は抜群の高 利率」(
1日 朝 日 新 聞 昭 和
57
年 4月2 9
日付 9頁
(1
百 日本経済新聞 昭和
5 7
年1 1 月2
日付記事「外貨準備高2 2 8
倍、ドノレ・1 0 月末 J
, 同7日付記事「大機小機・なぜ仏フラン並みか」
(
1 回
日本経済新聞 昭和5 7 年1 1
月1 1
日記事「円安の流れに歯止め期待,政府日銀,3 週間ぷり 2 6 9
円台」(
1
9 )
日本経済新聞 昭和5 7
年1 0 月3 1
日付語録欄間 日本経済新聞 昭和
5 7
年1 0
月1 1
日付記事「外為研究会も設置,沼産省,円変動 要因など分析」同1 1
月2
日付記事「通産省の貿易為替研究会,十日に初会合開く」同
1 1 月1 1
日付記事「為替問題研が初会合」制 "LookJapan" november 1 0 . 1 9 8 2 P P . 1 0
.‑‑...,1 2
"The Bank o f Japan C e l e b r a t e s
]ts C e n t e n n i a l "
伺
日 本 経 済 新 聞 昭 和5 7 年1 0 月 2 6
日付経済教室,大海 宏準「当分続く円安相場 J
表1
本邦国際収支帥村上泰売「新自由主義経済政策批判」中央公論昭和