反トラスト法における市場力の研究(二)
著者 宮井 雅明
雑誌名 静岡大学法政研究
巻 1
号 2‑4
ページ 489‑546
発行年 1997‑02‑20
出版者 静岡大学人文学部
URL http://doi.org/10.14945/00008789
塾調
反 説
ト ラ スト 法 に おけ る市 場 力 の研
究
︵二︶
宮 井 雅 明
一 課題 の設 定 一一
問題 の所 在
︵1
︶ 反 ト ラ スト 法 に おけ る 力﹁
﹂ への 関 心 と市 場 力 理論 の課 題
︵2
︶ 判 例 法 に み る 力﹁
﹂ の意 義 と位 置付 け
︵以 上
︑ 第 一巻 一号
︶ 一
市 場 力 理 論 の確 立
︵1
︶ 反ト ラ スト 政 策 論 の変 遷 と実 務 おに け る 反ト ラ スト 法 の経 済 政策 化
① ハー バ ー 学ド 派 の反 ト ラ スト 政 策 論 と実 務 にお け る経 済 分 析 の試 み
② カシ ゴ 学 派 の反 ト ラ スト 政 策 論 実と 務 おに け る経 済分 析 の定 着 反ト ラス ト法 おに ける 市場 力の 研究
︵二
︶ 四 八九
一
法政 研究 一巻 二芸
∵四 号
︵一 九九 七年
︶
③ 反 ト ラ スト 政 策 にお け る
﹁レ ーガ 革ン 命
﹂ 意の 義
④ 括小
︵2
︶市 場 力 理論 の分 析
︒① ハー バ ー 学ド 派 の立 場
② カシ ゴ 学派 の立 場
③ カシ ゴ 学 派 の市 場 力 理 論 の特 徴 と関 連市 場 画の 定 問題
︵3︶ 市 場 力 理論 の実 務 のへ 浸 透
︵以 上 本︑ 号
︶ 四 市 場 力 理 論 の発 展 五 結 語 一
市 場 力 理論 の確 立 周知 のよ う に
︑ 反ト ラ スト 政策 論 主の 流 は ハー ーバ ド 学派 の立 場 か ら カシ ゴ 学 派 の立 場 へと 変 遷 し てき た
︒ 今 日 で は︑ 新 産 業 組織 論 の研 究 成 果が
︑ カシ ゴ 学 派 への 批 判 を 通じ て徐 々に 判 例法 と 反ト ラ スト 当 局 の方 針 に 影響 を 及ぼ し つ つあ る と 言 わ れ る︒ 市 場 力 理論 に お い ても
︑ カシ ゴ 学 派が 確立 たし 理論 の基 本的 枠 組 みは 踏 襲 さ れ て いる が
︑ 各 論
四 九
〇
に お い ては
︑ カシ ゴ 学派 の非 現実 的 で静 態 的 な行 動 仮 説 への 批 判 を 通 じ て理 論 の修 正が 試 みら れ てい る のが 現 状 であ る 本︒ 章 では
︑ まず
︑
﹁レ ーガ ン革 命
﹂に 至 るま で の反 ト ラ スト 政 策 論 の全 体的 潮 流 を概 観 し
︑ 次 に︑ カシ ゴ 学 派 の市 場 力 理 論 の構 造 と特 徴 を ハー バ ード 学 派 の立 場 と の比 較 を 通 じ て分 析 した いと 思 う
︒ 本章 で の分 析 を 踏 ま え て︑ 次章 では
︑ カシ ゴ 学 派 の市 場 力 理 論 への 判批 を 検 討 たし いと 思 う
︒
︵1
︶ 反ト ラ スト 政 策 論 変の 遷 実と 務 おに け る 反ト ラ スト 法 の経 済政 策 化 こ の間 の反 ト ラ スト 政 策 論 変の 遷
︑ す な わ ち 有︑ 効 競 争 論
■︵ oHざ σげ 8 づ日 Φ澤 oい P Qぉ o詈
①8 づ日
①澤 oいじ
の出 現 と︑ 市 場 構 造
︱ 市 場 行 動
︱ 市 場 成 果 の因 果 関係 を 実 証 研究 の分 析 枠 組 とみ す る ハー バ ー ド 学 派 の産 業 組 織 論 の展 開
︑ ハー バ ー ド 学 派 対に す る カシ ゴ 学 派 か ら の批 判 に つい ては 既 多に く の紹 介 が あ る嗜 そ︶ れ ゆ え
︑ こ こで は
︑ 反 ト ラ スト 政 策 論 の変 遷 に つい ては
︑ 次 節 以下 の議 論 に必 要 な 限度 で跡 付 け るに 止 め た い︒ 本 節 では む し ろ︑ 反ト ラ スト 当 局 に よ る反 ト ラ スト 政 策 の立 案 と執 行 の過 程 に おけ る経 済 分析 の定 着 の過 程 に着 目 し た い嗜 一︶ 般的 な 調査 研 究 に止 ま らな い︑ 反 ト ラ スト 法 の解 釈
・運 用 にお け る経 済 学 の体 系 的 利 用は
︑ アメ カリ に お い ては 単 学に 界 レ ベ ル で の現 象 止に ま らず
︑ いわ ば 制 度 的 な裏 付 け 伴を てっ い る︒ 市 場 力 論理 の提 唱 と そ の変 遷 は︑ 実 務 にお い 経て 済 学 の体 系的 利 用を 促 し た のと 同 問じ 題 意識 に根 差 し てい ると 思わ れ る︒ 本 節 は 実︑ 務 に おけ る反 ト ラ スト 法 の経 済 政 策 化 と でも 言 う べき 過 程 を跡 付 け
︑ そ 意の 義 問と 題点 を探 る こと に よ り︑ 市 場力 理 論分 析 のた め の視 点 を提 示 す る こと を も 時同 狙に てっ いる
︒ 反トラスト法における市場力の研究︵二︶
四 九 一
法政 研究 一巻 豊二 T四 号
︵一 九九 七年
︶ 四九 二
① ハー バー ド 学 派 の反 ト ラ スト 政 策 論 実と 務 に おけ る経 済 分 析 の試 み 一九 二
〇年 代 後 半 か ら 七〇 年代 前 半 に 至 るま で の時 期 は︑ 反ト ラ スト 政 策 論 にお い て︑ 有 効 競 争 論 や︑ そ こか ら発 展 し た ハー バー ド 学 派 産の 業 組織 論 の立 場が 主 流 を め占 て たい 有︒ 効 競争 論 は 完︑ 全 競 争 論 が そ の非 現 実性 と静 態 的 性 格 のゆ え に 反 ト ラ スト 政 策 の基 準 と し て適 切 でな いと の認 識 か ら 出発 し た と言 わ れ る 完︒ 全 競争 が成 り立 つた め の 前 提 条 件 す︑ な わ ち︑ 市 場参 加 者 が 価 格受 容 者 であ る こと
︑ 完 全 知識
︑ 完 全流 動 性 参︑ 入退 出 の自 由 は︑ 現 実 に 満は た さ れ てお ずら
︑ これ と 矛 盾 す る諸 現 象
︑ す な わ ち
︑ 市 場 の寡 占 化
︑ 製 品差 別 化
︑ 参 入障 壁 の存 在 が 一般 化 す る に 至 てっ いる
︒ 有 効競 争 論 や ハー バ ード 学 派 の産 業組 織 論 では
︑ 完 全競 争 モデ ルか ら のか よう な 逸脱 が 市 場構 造 の変 質 と 捉 え ら れE 市 場 構 造 の変 質 が 完 全競 争 モデ ル の経 済 厚 生 上 の帰 結 を ど の程 度 歪 め るか が 問 題 と さ れ た
︒ も ち ろん
︑ こ の立 場 に お い ても 大︑ 規模 生 産 や大 規模 流 通 が も た すら 規 模 の経 済 性 や︑ 資 本 集 中 が 可能 すと る技 術 革 新 が 社 会 に も た すら 便 益 は 理論 上無 視 し 得 な いも の であ たっ し︒ か し︑ 少 な く と も 七
〇年 代 前 半 ま では
︑ ア メリ カ の大 企 業 は
︑ 規 模 の経 済 性 を達 成 す るに 必 要な 規模 を は るか に超 え て肥 大 化 し てお り︑ 却 てっ 生産 上
︑ 経 営上 の非 効率 を 生 み出 し て るい と うい 実 態 認 識 が 一般 的 であ たっ 思と わ れ る輸 か︶ よう な実 態 認識 に基 づ い て︑ 市 場構 造 の改 善 を 通 じ た競 争プ ロセ ス の回 復 が 反 ト ラ スト 政 策 の中 心的 課題 と され た
︒ 具体 的 に は︑ 長期 間 にわ た てっ 持 続 す る市 場 力 を 有 す る企 業 の分 割 措 置 の提 案
︑ 意識 的 並 行 行為 の予 防 のた め の合 併 規制 の強 化︑ 寡 占的 相 互依 存 係関 を 維持
・強 化す る効 果 を も つ垂 直的 制 限 や 特許 イラ セ ン ス上 の制 限 に 対す る規 制 強 化
︵当 然 違 法原 則 の適 用範 囲 の拡 大
︶ 等 が 提 案 さ れ た電 ハー バ ー 学ド 派 の反 ト ラ スト 政 策論 は
︑ 判 例法 にお い ても
︑ 当 然 違法 原 則 の適 用範 囲 拡の 大 と集 中 率重 視 の姿 勢 に 反映 さ れ た 言と われ る︒ 注 目 され る のは
︑ こ の時 期 の反 ト ラ スト 政 策論 が
︑ 判 例 法 にお い て根 強 く 受 け 継 が れ て来 た ポ ピ リュ スト 的 価 値観 と 概 ね整 合 的 であ たっ こと であ る︒ ハー バ ー 学ド 派 も たま
︑ カシ ゴ 学 派 と 同様 に︑ 新古 典 派経
済 学 の価 格 理 論 を分 析 の出 発 点 と し てい る︒ し かし
︑ ハー バー 学ド 派 の反 ト ラ スト 政 策論 では
︑ 市 場構 造 と市 場 成 果 と の因 果 関 係 が前 提 とさ れ て るい た め︑ 市 場 構造 の改 善
︑ す な わ ち︑ 中 小企 業 に成 長 機の 会 を与 え る多 元的 秩 序 の回 復 は︑ 一般 的 に は 資︑ 源 配 分 上 お よび 生産
・流 通上 効の 率 性 の達 成 と い たっ 経 済政 策 上 の目 標 と矛 盾 し な い ので あ る︒ 市 場 構 造 と市 場 成 果 と の因 果 関係 に疑 間が 投げ かけ ら れ る とき
︑ 反 ト ラ スト 法 の立 法 過 程 おに てい 実 現 が期 待 さ れ て
︵ 2
︶
いた 諸 価 値 の間 の矛 盾 抵・ 触 が 鋭 く意 識 さ れ る こと に な る︒ 反 ト ラ スト 法 の運 用 経に 済 学 体を 系 的 に利 用 す る最 初 の試 みは 一︑ 九 二八 年 の ニ ーュ
・デ ーィ ル政 策 の転 換 を契 機 と す る︒ こ の年 産︑ 業 集中 の進 展 に伴 う競 争 抑 圧的 な企 業 行 動が 不 況 深刻 化 の元 凶 であ る と の認 識 に基 づ き
︑ F
・ル ー ズ ベ ルト 大 統 領 は 反ト ラ スト 法 の運 用強 化 の方 針 を打 ち出 し た︒ これ を 受け て︑ 連 邦 司法 省 反ト ラ スト 局 長 就に 任 し た ロデ
・ア ー ノ ルド は
︑ 反ト ラ スト 法 を実 効 的 な 経済 政 策 とし て運 用す る必 要 性 を 唱 え哺
ぞ のた め の反 ト ラ スト 局 の組 織 革改 に乗 り出 し た
︒ 具体 的 に は︑ 反 ト ラ スト 局 の予 算 と スタ フッ の増 加︑ 経 済 学 的
・統 計 的 調査 よに てっ 法 律家 ス タ フツ を助 け る 六人 の経 済 スタ フッ か ら な る 課 の設 置 が実 現 し た︒ さ ら に︑ 臨 時 全 国 経済 委 員会
︵T N E C︶ の調 査 結 果 含を 経む 済 デ ー タ に基 づ く 訴追 対 象 の選 択
︑ 反 ト ラ スト 局 活の 動 の標 準 化 と合 理 化 のた め の上 級 スタ フッ に よ る 新 人研 修 や 訴追 理由 の公 表
︑ 意同 判 決 利を 用 し た行 政 的手 法 に よ る 事案 解 決 が試 み れら た 本︒ 来 司 法省 訴は 追 機 関 に 過ぎ ず
︑ 反 ト ラ スト 法 の分 野 に限 らず
︑ 要件 事実 の立 証可 能性 が 事案 の選 択 と 評価 の基 準 とな る傾 向 が 強 か たっ と 言 わ れ る
︒ わい ば 法律 家 的 発 想が 司 法省 の行 動 を特 徴づ け て たい ので あ る︒ こ のこ と に照 ら し て みれ ば
︑ アー ノル ド の 試 みは 画期 的 な も の であ たっ
︒ し か し︑ アー ノル ド 以降
︑ 反ト ラ スト 局 に おけ る反 ト ラ スト 法 運の 用は 再び 法 曹 主 導 型 と な
.り 経 済 学 の体 系 的 利 用 の試 み は 一九 六 五 年 のD
・F
・タ ー ナ ー の反 ト ラ スト 局 長 就 任 ま で待 た ね ば な ら な か たっ
︒ 反ト ラス 法ト にお るけ 市場 力の 研究
︵二
︶ 四九 二
法政 研究 一巻 二豊 下四 号
︵一 九九 七年
︶ 四九 四 タ ー ナ ーは
︑ 反 ト ラ スト 法 運 用 の目 標 確の 立 と 訴訟 負 担 の管 理 のた め に経 済 分析 に依 拠す べき こと を 主張 し た︒ 法 律家 的 発想 の下 では 訴 訟 に勝 て る 83 g言
︶か ど う かが 事案 選 択 の基 準 と な りが ち であ るが
︑ 重 要 な のは 経︑ 済 分 析 に照 ら し て勝 つ べき
♂す o 巨 g言
︶か ど う か であ ると され た︒ 体具 的 に は︑ 任前 者 W oオ リ クッ 時 代 の政 策立 案 グ ルー プ を 引 き 継ぐ 形 で設 置 さ れ た政 策立 案 o評 価 セ ク シ ンョ によ る訴 状 や準 備 書面 の経 済 学的 評 価 の試 み︑ 経済 ア シ スタ ント
・グ ル ープ や ター ナ ー自 身 に よ る事 案 選択 の試 み︑ 当 時 の産 業 組織 論 研究 の成 果 を 最大 限 に利 用し た 一九 六 八年 合 併 ガ イ ド イラ ン の発 表 等が 行 わ れ た し︒ かし
︑ 経済 スタ フッ の質 が 必ず しも 高 く なく
︑ し か も︑ 事 案 の選 択
・評 価 に おけ る経 済 スタ フッ の影 響 力 は 限 られ て いた ので
︑ タ ーナ ー の意 図 は必 ず し も十 分 に は達 成 さ れ な か たっ と 言 わ れ
︲ ︵ 8
︶
る
︒
︲ ︵ 9
︶
他 方
︑ 連 邦 取 引委 員 会
︵以 下 では F T Cと 略 称す る︶ は 商︑ 務 労 働 省企 業 去局
E 8 cR oo む﹁o
︐o一いじ
を 前 身 と す る た め︑ 経 済 調 査 専を 門 と す る スタ フッ を初 め か ら抱 え て いた し︒ か し︑ 経済 スタ フッ と法 律家 スタ フッ と の内 部 調 整 の仕 組 みが 欠 如 し てい た た め︑ 反 ト ラ スト 法 の運 用 にお け る経 済 学 の体 系的 利 用は
︑ 合 併規 制 の分 野 を除 い て七
〇 年 代 に至 るま で進 ま なか たっ と言 わ れ る電 以上 概観 し た よ う に︑ 七
〇年 代 前 半ま では
︑ 反 ト ラ スト 当 局に おけ る経 済 学 の体 系 的利 用 必は ず し も十 分 では な か っ た
︒ そ の最 大 原の 因 は︑ 反 ト ラ スト 法 運の 用に お い て法 律 家 スタ フッ 発の 言 力 依が 然 と し て大 き く︑ し か も︑ 法 律 家 スタ フッ 自 身
︑ 詳 細 な経 済 分 析 の必 要性 を さほ 感ど じ て いな か たっ こと にあ ると 言 わ れ る 当︒ 時 の判 例法 にお け る当 然違 法 原 則 の適 用範 囲 の拡 大 集︑ 中 率 を重 視 す る構 造 主義 的態 度 が そ の背 景 に あ たっ
︒
② カシ ゴ 学 派 の反 ト ラ スト 政策 論 と 実務 にお け る経 済 分析 の定 着