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マネジメント・アプローチの適用がもたらすセグメント情報の変化

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Academic year: 2021

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マネジメント・アプローチの適用がもたらす セグメント情報の変化

張   櫻 馨    

Ⅰ はじめに

 1976 年代後半から証券アナリストを始めとする実務界を巻き込んで、大い に話題と議論を呼んだマネジメント・アプローチは、2011 年 3 月期より日本 でも適用されるようになった。この約 35 年の間、国内外では多くの研究がマ ネジメント・アプローチのメリットとデメリットなどについて様々な角度から 検証を行ってきた。

 日本では、2001 年に財務会計基準機構のテーマ協議会 ( 現、基準諮問会議 ) が「第 1 回テーマ協議会提言書」において企業会計基準委員会に今後検討す べき課題の一つとして、マネジメント・アプローチの導入を提言した。これを 皮切りに、マネジメント・アプローチをめぐる議論が活発に行われるように なった。また、東京合意に基づく、日本基準と国際財務報告基準 (International  Financial Reporting Standards;IFRS) とのコンバージェンスの取り組みの中で、

セグメント情報は中期に解消すべき差異の一つとしても位置づけられていた。

 このような背景も手伝って、マネジメント・アプローチは導入されるまで多 くの注目を集めた。しかし、マネジメント・アプローチを取り上げた日本の研 究は、アメリカにおける先行研究の結果を踏まえた議論や、アメリカ会計基準 を採用している日本企業のケーススターディが中心であった。実際にマネジメ ント・アプローチに基づくセグメント情報を用いた研究は、マネジメント・ア プローチが導入されて間もないこともあり、まだ数えるほどしかない。

 マネジメント・アプローチは、従来の基準の欠点として指摘されている事業

区分の決定方法が十分に機能していないなどといった問題点を改善するために

導入された。しかし、その目的が日本で達成されているかどうかは、これまで

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必ずしも明らかにされてはいない。そこで、本稿では、東京証券取引所 ( 以下、

東証と略す ) の一部上場企業を対象に、マネジメント・アプローチの導入前後 における報告セグメント数とセグメンテーションの方法の変化の分析を通じ て、日本におけるマネジメント・アプローチの導入がセグメント情報の開示に 与える影響を明らかにする。

Ⅱ マネジメント・アプローチの導入とそれに関する先行研究の展開

 アメリカにおいて、セグメント情報をめぐる議論が高まったのは、合併・買 収ブームの真只中である 1960 年代である。企業が合併・買収を繰り返した結 果、複数の国と業種に跨って活動をする企業が増えた。これによって、企業の 活動を構成する各事業の業績をそれぞれ把握するためにセグメント情報の開示 を求める声が多くなった(Baldwin,1984)。

 これらのことが背景となり、財務会計基準委員会 (Financial Accounting  Standards Board;FASB) は、1976 年 12 月 に 財 務 会 計 基 準 書 (Statement of  Financial Accounting Standards ; SFAS) 第 14 号「営利企業のセグメント報告」

(Financial Reporting for Segments of a Business Enterprise) を公表し、製品や サービス (line-of-business) に基づく事業別セグメント (industry segment) 情報 が開示されるようになった。しかし、証券アナリストを始めとする財務諸表の 利用者からの第 14 号に対する批判は絶えることがなかった(FASB,1997)。

その原因として頻繁に取り上げられているのは、第 14 号における事業の定義 の曖昧さである。当時、大規模な多角化経営を行っているにもかかわらず、単 一セグメントしか開示していない企業を具体的に指摘する研究や調査が多く存 在していた(Ettredge et al., 2000)。このようなセグメント情報をめぐる議論 は約 20 年間繰り返された。そして、ようやく 1997 年に FASB は、第 14 号 に取って代わる第 131 号「企業のセグメント及び関連情報に関する開示」

(Disclosure about Segments of an Enterprise and Related Information) を 公 表 し、セグメントを区分する方法をマネジメント・アプローチに変更した

1

1  SFAS 第 131 号が導入されるまでの経緯と基準の概要は、山地 (1999) を参照されたい。

(3)

 このようにアメリカでは、長期にわたる議論の結果を踏まえて、セグメント 情報の開示を制度化してきた。そのため、セグメント情報に関する研究も多数 蓄積されている。これらの研究は、大きくセグメント情報の量を検証するもの と、セグメント情報の質を検証するものの二つに大別することができる。前者 の研究は、SFAS 第 131 号の導入前後におけるセグメント数の変化を特定する ことを通じて、マネジメント・アプローチの適用がセグメント情報の量に影響 を与えているかどうかを分析するものである。

 それに対して、後者の研究は、マネジメント・アプローチに基づくセグメン ト情報の信頼性

2

と、それが利益予想

3

や株価

4

などに与える影響の検証を通じ て、SFAS 第 131 号の導入がセグメント情報の有用性の向上をもたらしている かどうかを検証するものである。これらの研究の多くは、まず SFAS 第 131 号 の導入によってセグメント数が増加した企業と、セグメント数に変化がない企 業を特定することから始まる。それから、それぞれのセグメント情報の有用性 を検証する。そのほとんどは、マネジメント・アプローチが財務諸表の利用者 に有用な情報を提供していると結論付けている。

 以上から明らかなとおり、セグメント数の変化を分析する前者の研究ではも ちろんのこと、セグメント情報の質を検証する後者の研究でも、まず新基準の 導入がセグメント数に与える変化を把握することが必要となる。そこで、本稿 では前者の研究手法に焦点を当てて分析を進める。次のⅢでは、マネジメント・

アプローチの適用がもたらす影響をセグメント数とセグメントの区分方法の変 更を分析した先行研究を取り上げることにする。

2

Maines et al.(1997) は、事業の種類別アプローチとマネジメント・アプローチのそれぞれが証券ア ナリストの判断と意思決定に与える影響について実験を行った。その結果によると、証券アナリス トは、内部向けに用いられた情報をそのままセグメント情報として開示するマネジメント・アプ ローチの方の信頼性が高いと信じているということを明らかにしている。

3

Berger and Hann(2003) では、SFAS 第 131 号の導入によって、証券アナリスト予想の精度が有意 に向上したという結果を得ている。また、Botosan and Stanford(2005) は、単一セグメントから 複数セグメントを開示するようになった企業を対象に検証を行った結果、SFAS 第 131 号の導入に よって、セグメント情報の信頼性とアナリスト予想のコンセンサスが向上したと結論付けている。

4

Ettredge et al.(2005) では、将来利益反応係数 (forward earnings response coeffi   cient;FERC) を用

いて、SFAS 第 131 号が市場の将来利益を予想する能力にもたらす影響について検証を行った。そ

の結果は、SFAS 第 131 号の導入によって、複数セグメントを開示する企業の FERC が有意に増加

していることを示している。 

       

(4)

Ⅲ 報告セグメント数の増減に着目して新たなアプローチの導入による影響を 分析した先行研究

 Herrmann and Thomas(2000) では、 Fortune  500 が 1998 年に発表した規 模が上位 250 社のアメリカ企業のうち、SFAS 第 131 号に基づく初年度のセ グメント情報と、SFAS 第 14 号に基づく最終年度のセグメント情報の両方を 入手できるなどの基準を満たす上位 100 社を対象に、セグメントの区分方法、

報告セグメント数、セグメントの内訳と地域別関連情報について調査を行っ ている。まずセグメントの区分方法に関する調査から、SFAS 第 14 号の下で は、事業別セグメント情報を開示した企業が 13 社、地域別セグメント情報を 開示した企業が 20 社、その両方を開示した企業が 57 社であり、残りの 10 社はセグメント情報を開示していなかったという結果を得ている。これに対 し、SFAS 第 131 号の下では、製品またはサービスでセグメントを区別した企 業 (71 社 ) が最も多いこと、100 社のうちの 68 社はセグメントを再区分した ことと、SFAS 第 131 号の適用によって単一セグメントしか開示していなかっ た 10 社が複数セグメントを開示するようになったことが明らかとなった。ま た、セグメントの区分方法について、上記の製品やサービスと地域のほか、法 的実体 (legal entity) や顧客のタイプ (customer type) もセグメントを区分する 方法として用いられているのではないかと予測していたが、上述の通り、法的 実体と顧客のタイプでセグメントを区分する企業は、存在していないことが報 告されている。

 Herrmann and Thomas(2000) はセグメント数の変化も調査している。その

結果、新基準の適用によって、100 社のうちセグメント数が増加した企業は

50 社、減少した企業は 8 社で、セグメント数が変わらなかった企業は 42 社

であることを特定している。さらに、製品またはサービスでセグメント情報

を開示した企業を対象に、セグメント情報の内訳を調べた結果、平均で 5.5 項

目から 6.3 項目に増えたことを明らかにしている。しかし、地域別セグメン

ト情報を対象として調査した結果、SFAS 第 131 号の導入によって地域別セグ

メント情報は広範になったが、地域別セグメント情報の内訳が平均で 3.3 か

ら 2.2 項目に減少したことを示している。これらの結果から、Herrmann and 

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Thomas(2000) は、SFAS 第 131 号の導入は全体的にセグメント情報の量の増 加をもたらしていると考えられるが、地域別セグメント情報に関しては、以前 より乏しくなった可能性があると結論付けている。

 Berger and Hann(2003) も Herrmann and Thomas(2000) と 同 様 に SFAS 第 131 号の導入が報告セグメント数に与える影響について調査を行っているが、

セグメント情報を収集する方法に特徴がある。従来の先行研究では、SFAS 第 131 号に基づく初年度のセグメント情報と、SFAS 第 14 号に基づく最終年度 のセグメント情報を比較することによって、セグメント数の変化を把握してい るが、Berger and Hann(2003) は異なる方法を採用している。SFAS 第 131 号 では、セグメント情報の比較可能性を確保するため、SFAS 第 131 号を導入す る初年度に、SFAS 第 14 号に基づく前年度のセグメント情報をマネジメント・

アプローチで作成し直すことを求めている。すなわち、SFAS 第 14 号を適用 した最終年度のセグメント情報は、事業の種類別アプローチに基づいて作成さ れたものだけでなく、マネジメント・アプローチに基づいて作成されたものも 開示されたことになる。よって、この両方のセグメント情報を収集すれば、同 じ企業かつ同じ年度で、マネジメント・アプローチと事業の種類別アプローチ のそれぞれに基づく報告セグメント数を特定することができるのである。そこ で、Berger and Hann(2003) は、フォーム 10-K からマネジメント・アプロー チに基づいて作成し直したセグメント情報を手作業で収集した上で、同年度に おける事業の種類別アプローチに基づくセグメント情報とを比較することにし た。

 Berger and Hann(2003) では、サンプル企業の 75%に相当する 2,264 社が

SFAS 第 131 号導入前後におけるセグメント数が同じであることを明らかにし

た。その一方、新しいアプローチの導入によってセグメント数に変化が生じた

企業の存在も確認している。具体的には、サンプル企業のうち、セグメント数

が増加した企業は 691 社で、逆にセグメント数が減少した企業は 44 社である

という結果を得ている。さらに、セグメント数が増加した企業のうち、セグメ

ント数が 1 つ増えた企業 (357 社、49% ) が最も多く、その次がセグメント数

が 2 つ増えた企業 (207 社、28% ) であることも報告されている。

(6)

 このほかにも、Street et al.(2000)、Ettredge et al.(2005)、Botosan and  Stanford(2005) といった多くの先行研究は、マネジメント・アプローチの導 入がセグメント情報の質と量の両方を向上させていると結論付けている。これ らの検証結果の存在も手伝って、セグメント情報の開示にマネジメント・アプ ローチを適用する動きが国際的に広まった。国際会計基準審議会 (International  Accounting Standards Board;IASB) は、SFAS 第 131 号 と ほ ぼ 同 じ 内 容 で、

2009 年 1 月 1 日から開始する年度より適用する IFRS 第 8 号「事業別セグメ ント」(Operating Segments) を公表した。日本では、IFRS との差異を解消する 狙いもあり、2008 年 3 月にマネジメント・アプローチを採用する企業会計基 準第 17 号「セグメント情報等の開示に関する基準」を公表した ( 以下、新基 準と略す )。その適用は、2010 年 4 月 1 日からとなっている。

   マネジメント・アプローチが適用されて間もないこともあり、日本における セグメント情報に関する研究は、事業別セグメントに基づくセグメント情報の 有用性

5

、アメリカにおけるマネジメント・アプローチの導入経緯の検討やそ の長・短所の分析

6

に集中している。実際にマネジメント・アプローチに基づ くセグメント情報の影響を検証した論文は、筆者が検索した限り、円谷 (2011) のみである。円谷 (2011) では、Herrmann and Thomas(2000) と同様に、事業 の種類別アプローチを適用する最終年度のセグメント情報 (2010 年 3 月期 ) と、

マネジメント・アプローチを適用する初年度 (2011 年 3 月期 ) のセグメント 情報を用いて、新基準の導入が報告セグメント数に与える影響を検証している。

その結果は、マネジメント・アプローチに基づく 2011 年 3 月期のセグメント 情報において、事業別でセグメントを区分する企業が最も多く、7 割を超えて おり、その次が所在地別と、事業別と所在地別をバイブリッドさせた複合型で あると示している。また、新基準導入前に単一セグメントしか開示していなかっ た企業 285 社を対象とする検証から、その 47%にあたる 134 社が複数セグメ ントを開示するようになったことも報告されている。

 円谷 (2011) や Herrmann and Thomas(2000) が採用している検証方法は、

5   

例えば、大倉 (2002)、山地 (2005)、大日方 (2005) などがある。

6   

例えば、山地 (1999)、嶺 (2002)、石川 (2008)、平岡 (2009)、中野 (2010) などがある。

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異なる期間のセグメント情報を比較するものであり、マネジメント・アプロー チの導入による変化を特定することが困難であると Berger and Hann(2003) が 指摘している。そこで、本稿では、Berger and Hann(2003) と同じ方法を採用し、

同じ会計年度における同じサンプル企業のセグメント情報を比較することを通 じて、日本における両アプローチに基づくセグメント情報のそれぞれの特徴を 特定した上で、マネジメント・アプローチの導入がセグメント情報の開示に与 える影響を明らかにする。

Ⅳ サンプルの選択

 2010 年 3 月に公表された新基準の第 36 項では、マネジメント・アプロー チを適用する初年度において、当該年度のセグメント情報とともに報告される 前年度のセグメント情報については、実務上困難な場合を除いて、前年度にお ける従来までの取り扱いにより開示したセグメント情報と合わせて、マネジメ ント・アプローチに基づいて作り直した前年度のセグメント情報の開示を求め ている。すなわち、図表Ⅳ ‐ 1に示されているように、企業はマネジメント・

アプローチを適用する初年度の 2011 年 3 月期の有価証券報告書では、2011 年 3 月期のマネジメント・アプローチに基づくセグメント情報の開示と同時に、

事業の種類別アプローチに基づく前年度 (2010 年 3 月期 ) のセグメント情報 とマネジメント・アプローチに基づく前年度 (2010 年 3 月期 ) のセグメント 情報の両方を開示する必要がある。そこで、本稿では、EDINET、eol と各社の ホームページに開示されている 2011 年 3 月期の有価証券報告書から 2010 年 3 月期における事業の種類別アプローチとマネジメント・アプローチの両方の セグメント情報を手作業で収集することにする。

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 本稿では、2011 年 3 月末現在東証一部に上場している企業から以下の条件 に合致する企業を取り除き、サンプル企業を抽出する。サンプルの選択プロセ スは、図表Ⅳ ‐ 2のとおりである。

 (1) 個別財務諸表しか開示していない企業  (2) 3 月期決算ではない企業

 (3) 2010 年 3 月期から 2011 年 3 月期にかけて新規に上場した企業  (4) 2010 年 3 月期に会計年度を変更した企業 ( 変則決算企業 )  (5) 金融系企業

 (6) 日本基準を採用していない企業

 (7) 上場廃止などでデータを入手できない企業

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 2011 年 3 月末に東証一部に上場している企業は 1,676 社である。その中か ら、上記 (1) 個別財務諸表しか開示していない企業 76 社、(2)3 月期決算では ない企業 304 社、(3)2010 年 3 月期から 2011 年 3 月期にかけて新規に上場 した企業 23 社、(4)2010 年 3 月期に会計年度を変更した企業 8 社、(5) 銀行業、

証券・商品先物取引業、保険業とその他金融業を合わせた金融系企業 133 社、

(6) 日本基準を採用していない企業 31 社と (7) 上場廃止などでデータを入手で きない企業 22 社、合計 597 社が除外された。その結果、本稿のサンプルとなっ たのは 29 業種にわたる 1,079 社である。

Ⅴ マネジメント・アプローチの導入前後における報告セグメント数の変化  図表Ⅴ ‐ 1は、2010 年 3 月期における事業の種類別アプローチとマネジ メント・アプローチのそれぞれのセグメント数

7

の分布を示している。まず、

単一セグメントしか開示していない企業 (294 社 ) が最も多く、その次が 3 セ グメント (262 社 ) と 2 セグメント (212 社 ) を開示する企業となっている。し かし、同じ会計年度でマネジメント・アプローチを適用した場合、セグメント 数が 3 セグメント (271 社 ) と 4 セグメント(262 社)に集中するように変化 している。その次が 2 セグメントを開示する企業 (166 社 ) となっている。

7   

セグメント数を計算する際に、その他を報告セグメントに含める企業とそうでない企業の両方が存 在していることから、本稿では、その他を報告セグメントに含め、カウントすることにする。

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(10)

 図表Ⅴ ‐ 2は、セグメント数別にサンプル企業を集計し、それぞれが全サ ンプルに占める割合を示している。ここからも、新基準の導入によって、多く の企業が新基準導入前よりも多くのセグメントを開示し、セグメント数が全体 的に増加傾向にあることを再確認することができる。さらに、図表Ⅴ ‐ 1と

Ⅴ ‐ 2の両方から、新基準の導入によって、新基準導入前において単一セグ メントしか開示していなかったサンプル企業数が大きく減少したことが読み取 れる。図表Ⅴ ‐ 3は、新基準導入前におけるセグメント数が単一セグメント か複数セグメントかに基づいてサンプル企業をグループ分けした上で、新基準 導入後にそれぞれのグループに属するサンプル企業のセグメント数がどのよう に変化したのかを集計したものである。

 図表Ⅴ ‐ 3に示されているとおり、新基準導入前に単一セグメントしか開 示していなかった 294 社のうち、109 社は新基準導入後も単一セグメントの ままであるが、約 6 割に相当する 176 社は、複数セグメントを開示するよう

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4 13.72 24.69

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6 3.99 6.60

7 1.58 1.70

8 0.37 1.13

9 0.09 0.28

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(11)

になった。また、新基準導入前に複数セグメントを開示していた 785 社のうち、

2010 年 3 月期のセグメント情報をマネジメント・アプローチに作り直してい ない 9 社を除き、新基準導入後も複数セグメントを開示していることが明ら かとなった。これらの結果から、新基準の導入によって、単一セグメントしか 開示していなかった企業の一部が複数セグメントを開示するようになり、複数 セグメントを開示する企業はそのまま複数セグメントを開示していることが読 み取れる。それでは、実際に単一セグメントから複数セグメントに移行した企 業のセグメント数は、どのように変化したのか。それを調べた結果が、図表Ⅴ

‐ 4にまとめられている。

 図表Ⅴ ‐ 4は、新基準導入前と導入後におけるセグメント数に基づいてサ ンプル企業を分類したものである。塗りつぶされている箇所は、新基準導入前 後におけるセグメント数が同じであるサンプル企業数 (579 社、54% ) を示し ている。太線で囲まれている部分は、新基準導入後にセグメント数が新基準導 入前よりも減少したサンプル企業数 (61 社、6% ) が報告されている。図表Ⅴ

‐ 4から明らかなとおり、サンプル企業の多く (421 社、40% ) は新基準の導 入によってセグメント数を増加させている。最も増加させた企業は 8 セグメ ント (2 セグメントから 10 セグメントに ) を増やしており、その次が 7 セグ メント (3 セグメントから 10 セグメントに ) で、それぞれ 1 社である。

 本稿では、さらに新基準の導入前後でセグメント数が変化した企業に焦点を あて、セグメント数の増減数に基づいてサンプル企業数を集計した。その結果

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 ว⸘

1 109 39 51 51 23 9 1 2 0 0 285

2 0 115 47 31 9 6 0 1 0 1 210

3 0 10 154 59 28 7 1 0 0 1 260

4 0 1 15 101 20 7 3 1 0 0 148

5 0 1 3 17 60 11 1 2 0 0 95

6 0 0 0 3 6 28 4 0 0 0 41

7 0 0 1 0 1 2 8 3 2 0 17

8 0 0 0 0 1 0 0 3 0 0 4

9 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 1

10 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

ว⸘ 109 166 271 262 148 70 18 12 3 2 1,061

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(12)

が図表Ⅴ ‐ 5である。これをみると、セグメント数の増加数も減少数も、1 セグメントに集中しているが、増加の方の分布はプラス 8 セグメントまであ るのに対し、減少数の分布はマイナス 4 セグメントに止まっている。

 以上の分析から、新基準の導入によって報告セグメント数が減少した企業は 存在しているものの、大多数の企業は報告セグメント数をそのまま維持するか、

もしくは増加させてセグメント情報を開示するようになった。これは先行研究 の結果と一致している。報告セグメント数の増加がセグメント情報の質の向上 につながるかどうかについては、今後の検証課題になるが、報告セグメント数 の増加は、従来開示されていなかった報告セグメントが開示されるようになっ たことを意味する。このことから、新基準の導入によってセグメント情報の量 が以前より充実されていると考えられる。

Ⅵ マネジメント・アプローチの導入がセグメントの区分方法と連結損益計算 書との利益調整項目に与える影響

 従来の基準では、セグメント情報を事業別セグメント情報、所在地別セグメ ント情報と海外売上高 ( 以下、所在地別セグメント情報と海外売上高を合わせ て、地域別セグメント情報と記す ) に分けて、開示することを要求していたが、

新基準では、経営者が実際に意思決定や業績評価に使用している情報をそのま ま開示することを求め、セグメントの区分方法を特定の方法に限定していない。

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(13)

そこで、以下では新基準の導入によってセグメントの区分方法がどのように変 化したのかを調査する。

 本稿では、Ⅲで触れた Herrmann and Thomas(2000) と円谷 (2011) の調査 結果を参考にして、サンプル企業のセグメントの区分方法を事業別型 ( 製品や サービス別を含む )、地域別型、複合型と企業グループ別型の4つのタイプに 分類することにする。具体的な分類方法としては、まず従来の基準において、

事業別セグメント数が複数以上あった企業は、事業別型に分類する。一方、事 業別セグメント数は1つだけであったが、地域別セグメント数が複数以上あっ た企業は、地域別型に分類する。図表Ⅵ ‐ 1は、日本におけるマネジメント・

アプローチ導入前後でセグメントを区分する方法ごとにサンプル企業を集計し た結果である。

 図表Ⅵ ‐ 1では、新基準導入前におけるサンプル企業 1,079 社のうち、事 業別型に分類されているのが 936 社 (85% ) で、残りの 143 社 (13% ) は地域 別型に分類されていることが示されている。事業別型に分類されている 936 社のうち、事業別と地域別の両方とも単一セグメントしか開示していなかった 企業 130 社 (12% ) が含まれている。すなわち、新基準導入前において、この 130 社以外の企業は事業別と地域別のいずれかが複数セグメントで開示され ていたことを意味する。一方、新基準導入後では、事業の種類別でセグメント を区分する企業は若干減少したが、それでも大半の企業 (887 社 ) は事業の種 類別でセグメントを区分していることが明らかとなった。また、新基準導入前 と最も顕著な違いは、新基準導入前にはなかった複合型 (42 社 ) と企業グルー

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(14)

プ別型 (4 社 ) の企業の出現である。

 複合型に分類された企業は、大林組、カゴメ、三井倉庫など 17 業種にわたっ ており、食料品 (7 社、17% ) と建設業 (5 社、12% ) に集中している傾向がある。

例えば、カゴメの場合、新基準導入前における事業別セグメントでは食品とそ の他、所在地別セグメントでは日本とその他の地域しか開示していなかったが、

新基準導入後では、まずセグメントを国内事業と海外事業に分けた上で、国内 事業をコンシューマー事業、業務用事業とその他の3つに、海外事業は米国、

欧州とアジアに分類する。さらに、国内コンシューマー事業を飲料、食品、ギ フト、生鮮野菜とメディア通販に区分する。このように新基準の導入によって、

カゴメはセグメントを再区分しただけでなく、セグメント数も新基準導入前の 2 セグメントから 10 セグメントに増加させた。

 企業グループ別型に分類されたのは、第一三共、燦ホールディングス、オー トバックスセブンと SPK の 4 社である。この 4 社は、グループ内で子会社が 担う役割に基づいて子会社をグルーピングし、そのグループをセグメントにす るという方法を採用している。例えば、オートバックスセブンの場合、新基準 を導入する以前は、事業別も地域別も単一セグメントしか開示していなかった が、新基準の下では、事業の展開が卸売部門と小売部門を基礎とした企業群の セグメントから構成されていると説明した上で、セグメントを本社、国内店舗 子会社、海外子会社、事業子会社と機能子会社の5つに分けて開示している。

 Herrmann and Thomas(2000) と円谷 (2011) では確認できなかった上記の企 業グループに基づいてセグメンテーションを行う企業の出現は、検証対象とな るサンプル企業の範囲や、検証対象年度の違いによる影響の結果である可能性 もあるが、新基準の導入によって従来開示されていなかったセグメント情報が 開示されるようになったことを示している。

 図表Ⅵ ‐ 2は、新基準導入前後におけるセグメントの区分方法がどのよう

に変わったのかを示している。この図表から、新基準導入後も導入前と同じ区

分方法を使用している企業 ( 塗りつぶされた部分 ) が大多数で、939 社にも達

していることが明らかとなった。各セグメントに含まれている事業やサービス

の内訳を詳細に調べる必要はあるが、以上の集計結果を通して、少数の企業を

(15)

除いて、日本企業の内部では新基準導入前から事業の種類別アプローチあるい はそれに類似する方法でセグメンテーションを行っていると考えられる。

 新基準の第 26 項では、損益計算書における営業損益、経常損益、税金等調 整前当期純損益または当期純損益のいずれに基づいてセグメント利益を管理し ているかの開示も要求している。本稿では、これについても調査を行った。サ ンプル企業 1,061 社のうち、営業利益をベースにセグメント利益を管理して いる企業が最も多く、979 社にも達しており、その次が経常利益の 58 社、当 期純利益の 9 社と売上総利益の 6 社である。開示していない企業は 9 社ある。

従来の基準では、営業利益をベースにセグメント利益の開示を要求していた が、以上の結果から、一部の企業を除いて、ほとんどの企業の内部では、新基 準が導入される以前から営業利益ベースでセグメントを管理していると考えら れる。しかし、先行研究で指摘されているような競合ライバル社に情報を漏ら さないように、もしくは赤字セグメントを隠すために、セグメントを自らの都 合に合わせて区分しているかどうかについては、残念ながら、本稿では検証す ることができなかった。これを解明するには、今後、さらにセグメント情報の 内容を精査する必要がある。

Ⅶ 新基準の導入が単一セグメントしか開示しなかった企業に与える影響  新基準導入の目的の一つとして掲げられているのは、セグメント情報の開示 の不十分さの解消である。新基準導入前においてセグメント情報の開示が不十 分と考えられていた企業は、図表Ⅵ ‐ 1に示されている事業別も地域別も単 一セグメントしか開示していなかった 130 社 ( 以下、単一セグメント・サン プルと記す ) である。そこで、この 130 社を対象に新基準の導入がもたらす 影響を検証することにする。

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(16)

 まず、図表Ⅶ ‐ 1は、新基準導入後における単一セグメント・サンプルの セグメント数の分布を示している。130 社のうちの 67 社は、新基準導入後も 単一セグメントしか開示していないが、残りの 63 社のうち、2010 年 3 月期 のセグメント情報を作り直していない企業 3 社を除いた 60 社 (46% ) が複数 セグメントを開示するようになったという結果となっている。

 例えば、日本ユニシスにおける新基準導入前の事業別セグメントでは、コン ピュータやソフトウェア等とこれらに関する各種サービスを提供する単一事業 区分の業務を営んでいると有価証券報告書で開示していたが、新基準導入後で は、システムサービス、サポートサービス、アウトソーシング、ネットマーク スサービス、ソフトウェアとハードウェアとその他 ( 印刷業等 ) の7つの報告 セグメントを開示している。

 また、単一セグメント・サンプルのセグメントの区分方法についても集計を 行った。その結果から、130 社のうち事業別でセグメントを区分する企業が 最も多く、120 社 ( 導入後も単一セグメントのままである 67 社を含む ) にも 達している。その他は地域別型が 2 社、複合型が 3 社と企業グループ別型が 2 社であることを確認している。

 テーマ協議会は、「第 1 回テーマ協議会提言書」おいて、我が国を代表する 大企業の 2 割近くが単一セグメント、もしくは重要性が低いという理由で事

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(17)

業別セグメントを作成しておらず、事業の種類別アプローチが十分に機能して いないと、企業会計基準委員会に実効性のある事業区分の決定方法を検討する よう提言した。本稿の分析から、新基準の導入によって従来単一セグメントし か開示していなかった企業は大幅に減少し、詳細なセグメント情報を開示する ようになったことを確認することができた。よって、従来のセグメント情報に おいて課題として取り上げられたセグメント区分の不十分さはある程度緩和さ れていると考えられる。

Ⅷ おわりに

 セグメント情報の先駆けであるアメリカにおいて、マネジメント・アプロー チを導入するか否かについては、SFAS 第 131 号が導入される 1997 年まで、

約 20 年間も議論が続いた。経営者の視点によるセグメント情報の開示は、ラ イバル社に内部情報を提供することになり、事業活動の障害となると経営者は 主張していた。それに対し、証券アナリストを始めとする財務諸表の利用者は、

企業の将来業績を予測するのに企業内部で使用されているセグメント情報が有 用であると、マネジメント・アプローチの必要性を訴えていた。その結果、財 務諸表の利用者のニーズに応える形で、マネジメント・アプローチが導入され た。

 これを契機に国際的な会計基準にもマネジメント・アプローチが導入された。

日本もその例外ではなかった。日本では 2011 年 3 月期からマネジメント・ア プローチによるセグメント情報が開示され始めた。そこで、本稿では、新基準 の適用による影響を特定するため、マネジメント・アプローチで改めて作成さ れた 2010 年 3 月期のセグメント情報を有価証券報告書などから手作業で収集 することにした。これによって、同年度かつ同一企業におけるマネジメント・

アプローチの導入がもたらす影響の検証を可能にし、新基準導入前後における

セグメント数、セグメントの区分方法とセグメント利益管理区分の変化につい

て分析を行ってきた。まず、新基準導入前後におけるセグメント数を比較した

結果、セグメント数が減少した企業はあるものの、新基準導入後も導入前と同

じセグメント数を開示している企業が最も多いことが明らかとなった。新基準

(18)

の導入によってセグメント数が増加した企業は、全サンプルの 4 割であるこ とも確認している。

 また、従来の基準で問題視されていた、経営活動が多岐にわたっているにも かかわらず、事業別も地域別も単一セグメントしか開示していなかった企業は、

新基準の導入によって、その約半数が複数セグメントを開示するようになった という結果も得ている。さらに、セグメントの区分方法の調査を通じて、新基 準導入後も従来と同様に事業別もしくは地域別でセグメンテーションを行って いる企業が大多数を占めているということも明らかにして来たが、新基準導入 前にない事業別と地域別を組み合わせた方法でセグメンテーションを行う企業 や、先行研究では確認できなかった企業グループでセグメントを区分する企業 の出現も確認している。加えて、営業利益以外の利益項目でセグメントを管理 している企業の存在も特定している。

 本稿によって明らかとなった報告セグメント数の増加や、新たなセグメント の区分方法の出現などは、従来開示されていなかった報告セグメントや、企業 内部で用いられているセグメントの区分方法が開示されるようになったことを 意味する。情報量の面から考えれば、新基準導入の目的は果たされているとい える。しかし、これらの情報がセグメント情報の質の向上に繋がるかどうかに ついては、さらなる検証が必要である。

 その一方、マネジメント・アプローチ導入後でも、大半の企業は導入前と同 じセグメント区分方法を用いていることと、同じセグメント数とセグメント利 益を開示しているという結果も得ている。ただし、たとえセグメント数とセグ メント利益が同じであっても、その内容は変わっている可能性がある。これに ついては、今後精査する必要がある。しかし、このことは、多くの企業におい て従来からマネジメント・アプローチに基づいてセグメント情報を作成してい た可能性があることも示唆している。この背景の一つには日本に特有の業績予 想の開示の存在が考えられる。というのも、定期的に業績予想を開示している 日本企業は、利益予想値とセグメント情報との整合性を考える必要があるから である。このような業績予想の開示とセグメント情報との相互作用については、

これからの検証課題になる。

(19)

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参照

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