銀行顧客関係 :展望
令 宣 曲
ロ / ヽ
は じめに
わが国金融構造の特徴 と して,「間接金融の優位」 があることはよく知 られ ている。また木村 ・鳩山 [15]の研究のように,む しろ 「貸出」 を中心 とする
"相対型"の取引 ウエ イ トの高いことこそ,適切 な認識であるという指摘 もあ る。いずれも,銀行部門の比重が大 きく, しかもそれが貸出の形態で資金 を運 用 していることの反映 といえよう。わが国の金融 システムの成果 を理解する上 で, この特徴 の重要性が再 び見なおされつつある。1)
たとえばZysman[32]は,わが国について,「信用 に基礎 をお く(crediトbased )」金融 システムと政府 による金利規制が特徴 であ り, この組合せが政府 によ る産業への介入 を可能 に し,かつ促す ことになったと述べている。2)また鈴木
[28]は,間接金融のもとでは 「長期顧客関係」 にもとづ き,成長可能性 を秘 めた中小企業 を積極的に支援することが銀行の行動原理であり, このため高度 成長 は促進 されたと考えている。3)
ところで,銀行貸出において特徴的な事実 は,銀行 と顧客 との間で継続的な 取引がなされるという 「銀行顧客関係」 の存在である。 これは,わが国のみに 見 られ るので はな く,かな り普遍的な現象であることも知 られている。4)組織
1)伝統的分析 では 「企業集軌 と してこの関係 に注 目 していたo これ らの文献 につ い ては,小林 [17]を参照 されたいo最近 の注 目すべ き,否定的見解 として三輪 [20] が ある。
2)Zysman[32], p.180
3)鈴木 [28], p.1900
4) W。。d [31]は, ク リー ブラン ド連銀 による1956年 の調査 を紹 介 しているが, そ れによれば米国で もかな り普遍的な現象である。
〔99〕
100 商 学 討 究 第 37巻 第1 ・2 ・3号
された資本市場 とは異 なって,相対で取引のなされる貸出市場の1つの固有の 特性 といえるであろう。
この現象 については,すでにいくつかの分析が存在 している。本論の目的は, この現象 を貸出市場 における情報の不完全性への自然な対応 と見る立場 にたっ て, これまでの諸研究 を整理することにある。「情報の不完全性」 は,最近 の 貸出市場分析 において最 も活発 に論議 されている トピックスの1つであ り,特 に信用割当の解明に有効 と考え られてきた。信用割当についての一連の研究の 中で,池尾 [11]やDevinney [5]も顧客関係の役割 についてはかな りの検 討 を行 なっている。 よって, ここでは彼 らをも含 めてより広 い範囲の諸研究 を 視野 に入れてサーベ イすることとしたい。
1 初期の研究 1‑ 1 預金関係
情報の不完全性 を明示的 に考慮 していない初期 の研究 の出発点 は,Devin‑
neyも指摘す るように,Hodgman [10]の預金顧客関係 に注 目した分析であ る。Hodgmanは,銀行行動の分析 にとって単 に収益や リスクという一般的な 次元 にのみ注 目するのでは不十分であるとして,主要な資金源である預金の重 要性 を主張 した。特 に,長期安定的な預金者が借入 を希望 した場合 をとりあげ る。この ような顧客 との預金関係 は,結局 は一種 の "資産"とみなされるか ら, もし自由に預金金利が付 されるのな らば明示的に高い預金金利支払 をもたらす であろう。 しか し預金金利 に規制が存在すると (当時の米国では要求払預金へ の付利 そのものが禁止 されていた), この関係 は貸出面での優遇的取扱 いに変 換 されると述べている。
Kane‑Malkiel [13]は, この安定 した預金関係 を持つ顧客への貸出決定問 題 を, よりフォーマルに平均 ・分散 アプローチで分析 した。預金変動 リスクを 考慮すれ亙 このような顧客の存在 は銀行利潤の リスク低下 につながるとする。
すなわち,借入申込者群 の中で,顧客関係 を維持 しているL*借手 を区別 し てお く。L*借手 は,「その過去の行動か ら,安定的あるいは良好 な関係 を維
銀行顧客関係 :展望 101
持 しようとする傾向があると性格づ けられ,‑この顧客か らの借入 を拒否する と預金関係 が危機 にさ らされる。5)」 第j顧客 に対 しての顧客関係 の程度 を指 標 Rjで表現できると‑して,彼 らはこの顧客か らの不確実な預金の期待値 Ej, 分散6,日こ
∂E,・/∂Rj>0,∂U,2・/∂Rj<
0
という性質 を仮定 した。 これか ら明 らかなように,顧客関係 の低下 は銀行利潤 か らの期待効用 を低下 させるので,銀行 は貸出決定 において, この顧客 を優先 的に考慮せ ざるを得ないことになる。
Kane‑Malkielは直接 にはこの顧客関係成立の理 由にはふれていない。 しか し,なぜ このL*借手が金利の次元ではな く,融資順位の次元で優先 されるか の説明の中に,彼 らの暗黙の前提 をうかがうことができる。彼 らは貸出市場で の情報の不完全性 に言及 し,ある銀行 にとっての し*借手 は他の銀行 にただち
れて判明するものであり,また安定性 自体 も当該銀行の過去の融資態度 という 即座 には知 られない要因に依存 している。 このような事情 は,他銀行か らの金 利面での競争 をはばんでいるだろうと説明する。
さらに注 目すべ きことに,L*借手 の預金 を持つ銀行が彼か らの融資 申込み を拒絶することによる損失 は,他の銀行がこの顧各 を奪えば得 られるであろう 潜在的な利益 よ りも大 きいと述べている。 この ことは,L*借手 と銀行 との間 の関係が一種の "資産''を生みだ していることを意味 してお り,IIodgmanと ともに第 3節でと りあげる最近の顧客関係分析の先駆 ともいえる考 えである。
しか しKane‑Malkielは,なぜ この ような預金顧客関係が成立するのか とい う原 因につ いて ミクロ的説明を しているわけではない。また,Hodgmanも, 預金金利規制の重要性 を指摘 し,もし預金金利が自由化 されれば顧客関係の効 果 は消滅するとしている。 しか し預金の金利 自由化が顧客関係 それ 自体 にどの
ような効東 を与えるか (消滅 させるか ?)にはふれていない。
5・)Kane‑Malkiel[13],p.1200
102 商 学 討 究 第 37巻 第ユ・2 ・3号
1‑2 貸出実績 と将来借入需要
顧客関係のため,現在の貸出実績が将来の銀行利益 に影響 を与えるという考 え 方 はWood [31]にも見 られる。 ただ しこれは預金 を通 じるもので はな く, 借入需要のシフ トを通 じる。
Woodはまず,継続的な貸出の更新 という事実 は古 くか ら観察 されてお り, 貸手 と借手の両者 はこの関係の保持 に十分考慮 を払 っていることを注意する。
この顧客関係の興味深 いインプリケーションの1つは 「見込みあぁる借手への 今期の信用供与が,将来のこの銀行への借入需要 に影響することである。この 効果 は,借手が取引銀行 を変更することに伴な うサーチコス トやその他のコス トのために生 じる」 と述べている。6)このスウィッチ ングコス トのため,一旦
他銀行へ資金調達先 を移すと, もはや次期 にはこの銀行へ もどらないというの である。
この≠き銀行の直面する借入需要関数 は
・・・Lt̲n)
Lc‑L(rl,Lc‑I,lL「
と書 くことができる。rtは貸出利子率,Lt̲iはt‑i期の貸出実績であ り, ここ ではn期 まで さかのぼって効果 を発揮 す ると想定 している。 この効果 の方向 は,「も し銀行が市場規模 に対 して相対的 に大 きすぎれば,寛大な貸出政策 は 資金需要 を満 た しすぎ,かえって将来の借入需要 を減少 させるかもしれない」7)
とい う可能性 は留意 しなが らも,「過去の貸出実績 の一部 はこの期 にも反映 さ れるだろう」8)という時間的な慣性 (iTtertemPOralinertia)の想定 を しているo つま り∂Lt/ ∂LJト iは正 となる。
この効果は多様 な ミクロ的基礎か ら生 じうるものであ り (たとえば第 4節の Flanneryの項 を参照 ),Woodの述べ たス ウィッチ ングコス トもその うちの 1つ と解釈 できよう。また, この定式化では今期貸出の限界的収益 は通常の短
6)Wood[311,p・11 0 7)Wood[31],p.120
8)Woodt311,p・12。
銀行顧客関係 :展望 103
期的な限界収入 に将来需要喚起 による収益 を加えたものになる。後者 は顧客関 係 の資産価値 を示 していると解釈 で きるが,Woodはこれ をPhelps‑Winter
l23]i)imputedvalueof"patronage"と同 じであると述べている。
Phelps‑Winterの研究 は,各企業 ごとの価格がバ ラバ ラな財市場 における消 費者の価格サーチ活動 を考慮 した,企業の価格設定モデルである。 このモデル では,今期の設定価格が,今期の需要のみな らず将来需要 にも影響 を与 えるこ とを導いている。 しか しここでのサーチ対象 は各企業の価格であ り,顧客 は同 質の財の より低 い価格 を求めて移動する。 この設定 は貸出市場での主 たる情報 不完全性 が "品質''に関するものであったことを考えれば,銀行貸出需要の ミ
クロ的基礎 としてただちに採用できるか疑問が残 る。
Woodの需要関数の定式化 は,その後,信用割当の際の信用配分パ ターンの 分析用具 と してBlackwel1‑Santomero [4]に利用 され た。 これは, も し信 用割当があるとすれば,それは最 も需要の利子弾力性が高 い借手か ら割当 され
ることを述べている。たとえば代替的資金調達源の見つけやすい借手 (大企業 など).は高い利子弾力性 をもつので,たとえ今期 に低利で寛大に貸出供与 して も来期 に見返 りで得 られる限界的収益 はさして大 きくないのである。彼 ら自身 はこのタイプの需要関数の正当化 として 「銀行 との連関を変更することの固定 費用」 をあげる.にとどまっている。
2 情報の獲得
これまでの研究では,なぜ顧客関係が成立するかについての論議 よりも,そ れをいかに定式化するかが主要 な関心事であった。顧客関係の存在 は,貸出市 場 における情報の不完全性 や非対称性 に基礎 を兄 いだせるというのが近年の研 究の方向である。そこで準備 と して,貸出市場 における情報獲得 に注意 をむけ た分析 をとりあげてみよう。
銀行 は個々の貸出案件 について審査 を行ない,その結果 にもとづ き信用供与 の決定 を下す。 この審査活動 を明示的にくみ こんで貸出決定行動 を定式化 した
ものにAigner‑Sprenkle [1]がある。
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Aigner‑Sprenkleは借入応募者 につ いての情報 を可変投入要素 とし,その借 手 についての債務不履行確率 を "産 出物" (被説明変数 )とする変換関係 を想 定 し,それを 「情報関数」 と名づけた。情報関数の性質は銀行の保守的性格 を 前提 として導 いている。つま り,情報量が不足する程,銀行 はその借手 の債務 不履行の確率 を過大推定するであろう。よって情報量が増大するにつれ,銀行 の想定する債務不履行確率 は低下すると仮定 している。 この主観的確率の変化 は,
p‑I(q言L),fq<0
という関数形で表現 される. ここで pは個別借手 についての債務不履行確率の 推定値であ り,qは情報量iLは貸出額である。
さらに情報量 qは,既 に獲得 してある部分 aと今期 に追加的に得 る部分 Zか らなると考えている。銀行 は情報の追加的獲得 に費用 をかけなが ら適切 な Zの 水準 を定 めると同時に,獲得情報 にもとづいて適切 な貸出額の決定 も行 なうの である。
Aigner‑Sprenk‑leの アプローチは,「情報」 をあたか も通常の生産要素 と同 じようにtangibleで しか も可分 であ り,情報投入 と産出 との生産 プロセスを (通常の生産技術 と類似 な形で)明確 に叙述できると考えている点 は,彼 ら自 身 も認 めているように大 きな問題 で ある。 また, よ り直接的な疑問 と して, Devinneyも指摘するように,銀行の情報収集活動の "収益"の問題が ある。
つま り,アプリオ リに情報活動の確実な収益が前提 されて しま̲つている点であ る。つねに当初 はデフォル ト・リスクを過大推計 していて,情報活動 は必ずこ の リスクを低減すると仮定 している。 しか し,情報収集活動 は,本質的 にその 成果が不確実なところに特徴があり, この仮定 はバ イアスをもっている。
Aigner‑Sprenkleでは 「過去の取引経験」 を初期保有情報 aと してパ ラメー ター化 している。 この αは追加的情報 と完全代替的であると定式化 されている
/
ことか らもわかるように, もしαが増加すれば正確 にその分 だけ追加的情報量 の投入 を減少すべ きことが比較静学か ら示 されている。ただ し, これは追加的
銀行顧客関係 :展望 105
情報量 の限界費用 が一定 の場合 に成立する。 Miller [19]は限界費用が変化 する場合 についても検討 している。
情報活動の収益 につ いてAigner‑Sprenkleの ようにデフォル ト・リス クの当 初過大推定 というア ドホ ックな前提 をとらず,ペ イジアン的アプローチ を採用
したのがStanhouse‑Sherman [25]の試みである。
彼 らは財市場 での情報需要モデルをつ くったKihlstrom [14]にな らって, 銀行 の情報収集モデルを考 えた。銀行 が個別借手 についてサ ンプ リング調査 を 行 ない,そのたびごとに借手の収益分布の平均 と分散パ ラメーターが改訂 され
ると考える。
銀行 は借手 の収益 xにつ いての事前情報 をf(IIFLo,1/≠)というアプ リオ リな確率密度 関数 (正規分布 と仮定 )で表現す る。̀〃0,1/卓はそれぞ れ事前の平均お よび分散である。銀行 は当該借手 との経験 を積 んだ り,あるい は借手 の他行 との取引 を観察 して, eコの xのサ ンプル 2:iを得 られる。 この ときその算術平均∬ βは,
xe‑訴zl
で あ り十 分統計量 とな る。 云の分布 は次の平均 と分散 のパ ラメー ター に示 さ れるように改訂 される。
px,0‑‑両 すXe・寺宝 po,
β
α
8
2‑1 ¢ 十 β ・
Stanhouse‑Shermanは情報 (サ ンプ リング)の単位 コス トは一定, さ らに 借手 は右下 りの借入需要関数 を持つ と仮定 して,最適 な情報量♂*ぉよび貸出 量 を決定 している。 この結果, もし事前情報量 卓が大 きければ新規情報需要 は 小 さい こと,事前収益率平均 FL。が高 けれぼ情報需要が大 きい ことを導 いてい る。ただ しこの情報需要 の変化 に対応する貸出額 の反応 は一義的でない ことも 示 している。情報 の増加 は分散 を減 らし貸出 を魅力的 にす るが,同時に平均 も 変化 し, しか もその方向は個 々のサ ンプルの選 ばれ方 に依存するため (この点
106 商 学 討 究 第 37巻 第1 ・2 ・3号
がAigner‑Sprenkleとのちがいである),貸出額への効果 は不明なのである。
彼 らの分析 は,情報収集活動分析 に広 く応用可能なペ イジアン ・アプローチ を初めて銀行貸出の分野 に適用 したものと して評価できよう。さらに彼 らはこ の分析結果が信用割当論争 に与える意味についても検討 している。銀行顧客関 係 は銀行 の事前情報 に影響 を与えるはずであり,旧来の顧客 はより大 きい 声で 特徴づ けられるか ら,新規顧客 に比較 して情報 コス トを節約でき, このため信 用割当は新規顧客 により発生 しやすいであろうと述べている。
旧来か らの顧客 と新規申込者 とは明確 に区別 されて取扱 われているという事 実 の定式化 と しては,Koskela [18]による貸出費用関数 の形状の ちがいと い う理解 もある。彼 は借手 を選別 (screen)するための情報 コス トの性質 を 考 えると,銀行 は新規 の顧客層 については‑様 な情報 しか持 っていないので借 手の区別 は困難であるとした。その結果, このグループについての貸出費用関 数 は分離不可能 な形で
C(L4,‑,LqL)‑C。(I.+‑+Ln),
となる. ただL nは顧客数でL,iは第 i借手への貸出額 である。 これに対 し旧 来か らの顧客 には既 に情報投資がなされているので費用関数 は分離でき,
C(L4,‑,Lql)‑ Cl(L4)+‑+cn(Lql) となる。
Koskelaはこの費用関数の差異それ自体の含意 をこれ以上追求せず, この定 式化 と貸出利子率上限規制 を組みあわせて信用割当の性質 を論 じている。
以上 と少 し異 なったタイプの研究であるが,情報収集の経済的定式化 として は古典的なサーチモデルを,品質サーチの形で審査活動 に応用 したのが シェー ンホルツ ・武田 [24]である。
プロジェク トの質によって優良かあるいは不良である2種の借手が無数 に存 在 している中か ら,優良借手 を探 しだす最適 なサ‑チ戦略 を考え,その性質を 検討 している。サーチ活動 には1回について固定費用が必要で,貸手 は一定の
銀行顧客関係 :展望 107
初期資金 を保有 してお り, これをサーチ費用 と貸出資金 に充当する。もし審査 の結果,とりあげた借手が不良 プロジェク トをもっていることが判明すれば再 びサーチを行 ない, もし優良借手な らばサーチを停止 し残余の資金 をすべて貸 出すのである。
この分析 の結果,貸手の初期保有資金が増加するにつれて審査効率 も一定限 度まで向上することを見出 している。彼 らの意図は,専門的な審査機関として の銀行の存在意義 を説明する点 にあるため,銀行の存在 を前提 と した貸出市場 での より実際的な問題 (たとえばこれまでの研究で注 目されてきた審査経験の 蓄積 などの意味)は考慮 されていない。 しか し品質についてのサーチ活動 と し て貸出審査 を理解するアプローチは将来の一つの有望 な方向である。
3 情報投資 と顧客関係
銀行 と借手 との間の継続的取引関係が,単 なる情報 ス トックの増大 という以 上 に,「取引に固有 (transactionspecific)の資産」 としての性格 を持つ とい
う点 を強調 する一群 の研究 がある。 この視点の発端 はKlein‑Crawford‑AIchi‑
\
an [16]に見 ることができる。
彼 らが取引に固有の資産 という概念 を導入 し,その資産が 「専有可能な準 レ ン ト (appropriablequasirent)」を生 みだす という論 を主張するのは,垂 直 的統合 という市場 にとってかわる組織形態の出現 を説明するためである。たと えば,ある出版業者の利用 を見込んで据えつ けられた印刷機の所有者 と,その 利用者 との取引の例 を挙 げている。一旦,機械 が設置 されて しまうと印刷機の 利用者 はその機械 の使用料 を引下げ ようとする誘因を持つであろう。一方,逆 に印刷機の所有者 も他の印刷業者のサービス供給が即座 には不可能 なのを見 こ
して,使用料 を引 き上 げる誘因を持つであろう。 この2つの限界値の可能な最 一大の幅が専有可能 な準 レン トと呼ばれるのである。
彼 らは資産の特化度 が大 きいときには,事後的 に上述の ような機会主義的 (opportunistic)な行動 の誘因が強 くなるため,事前の契約 によってあ らか じめそれ を防止す ることは困難 にな り,む しろ両者 が一体 となる垂 直統合 に
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よって この問題 は解決 されると主張 している。
この ような専有可能 な準 レン トを生む特化 した資産声 よびその存在の もとで の機会主義的行動 の可能性 というアイデ ィアはWilliamson [30]に見 られる
\
ものである。9)ただ, この考 えが銀行貸出市場 にも適用 できると具体的 な言及 を しているのはKlein等が初 めてと思われ る。彼 らは,貸出市場 におけるプラ イム ・レー ト制度 も,部分的 には機会主義的行動 の防止の仕組 みとして生まれ たのではないか と推論 している。それによれば,「顧客企業 はみずか らの信用 度 につ いての情報 (銀行 との取引に関する財務上 の記録 も含 めて)を銀行 に提 供するという形 で,既 に固有の投資 を しているのであ り, これは専有可能 な準 レン トを生 み だ して いる。」10)この状況 を考 えるとプライム ・レー トの慣行 は
「銀行が特定 の顧客 に対 してのみ機会主義的 に金利 を上昇 させたのではないと いう情報 を借手 に伝達する安価 な手段 と して正当化できるか も しれない。」11)
Klein等 は,上 では借手 たる企業 の側 が固有の投資 を していると述べている が,前節のモデルではむ しろ貸手の銀行の側が情報投資 をすると考 えていた。
この銀行 の活動が,彼 らの想定するような性格 を持つ と見 ることは勿論可能で ある。すなわち,銀行 は個別借手 についての信用度 を審査 して貸出を決定す る が,その際に情報 ス トックが特化 した資産 と して作用すると考 えるのである。
この視点が強調 されているのは,米 国においてよ りもむ しろ最近のわが国にお けるい くつかの研究 においてである。
たとえば脇 田 [29]は,借手企業 に対 して銀行 の側 は融資 プロジェク トにつ いての情報が少 いとい う情報格差が存在するとして,情報 を識別するためのコ ス トが必要であること,極端 な場合 には金融取引が消滅することに注意 してい る。 このような困難 を緩和 するために担保制度 などが発生 し,.さらに顧客関係 という慣行 も定着 したとする。つま り 「長期的な取引 を通 じて顧客企業 に関す る情報 ・知識が蓄積 され,‑情報 コス トは著 しく節減できる。‑・審査 コス トは
9)この概念 につ いては,浅沼 [2] が参考 になる。
10)Kleinet,al[16】,p.3170
ll)Kleinet.al[16],p.3170
銀行顧客関係 :展望 109
初回 は開設費用 (setupcost)という性格 を持つ反面,次回以降,その企業 固有 の事 情等 にか んす る情 報 が銀行 に蓄積 され るにつ れ て次第 に低 下 す る。」12)
同様の指摘 は,日向野 [9]の提唱する審査能力概念 にも見 ることができる。
/
日向野 は情報 その もの よりも,「情報 を生産す る能力全体」 としての審査能力 の蓄積 を強調 しているが,銀行 と顧客企業 との間の反復取引が個別的審査能力 の原料 となるという主張 は実質的に同 じものと見れる。
このような顧客関係の もた らす経済効果について,脇田はWilliamsonの 「情 報の偏在 と機会主義」 の概念 にふれなが ら,「品質 に見合 った価格 が自律的 に 形成 される・・・という積極的な側面」13)を評価 している。さらにこの顧客関係が 資金配分 に与える効果 と して,1)企業成長の可能性 を織 り込んだ融資するよ
うになるため成長促進的に作用すること,2)景気の循環過程での金利の上下 の波動 を平準化するように貸出金利の安定的設定 という保険のかけ合いによる
「一種の運命共同体的関係」の成立 を示唆 している。 これ らの主張 は脇田 自身 も述べているようにtentativeなものであるが検討 に値するconjectureであろ
う。
さて,もう一人の論者である池尾 [11]は,以上の主張 と重 な り合いなが ら, より包括的な検討 を行 なっている。特 に,顧客関係分析のアプローチとして協 調ゲームの応用 を提案 しているのが注 目されるo
彼 は,まず銀行の情報活動が不可逆投資の性質 を持 っていることに注意 して いる。「貸 出審査 の場合 も,金融機関が当該借手 につ いて過去 に審査の経験 を 持 ち,一定の知識 ・情報 を蓄積 しているならば,それが初 めての審査である場 合 に比べて より僅少の費用 で審査が可能である。」14)よって 「審査費用の支出 は,将来の審査費用 を低減 させるという意味で,一般の情報費用 と同様 に投資 と しての性格 をもつ。」15)ただ し 「この ような過去の実績 が資本 と しての価値
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田田尾尾脇脇池池))ヽノ)23451111
110 商 学 討 究 第 37巻 第1 ・2 ・3号
を持つのは,当該の取引当事者 にとってのみであ り,‑こうした費用の支出は 従来 の相手 との取引関係 を維持す る限 り,節約 される。」16)こうして 「顧客関 係 の維持 は,金融機 関 と企業 の両者 の利益 にかな う.」17)また池尾 は,顧客関 係の形成 において企業の側 も預金の積増 しなど一定の取引実績 を上 げる必要が
あ り, これは顧客関係開設費用の一部負担 を示す ことを述べている。
顧客関係分析 のための具体的アプローチを以上の成立理由か ら引出 している のが池尾の特徴である。つま り顧客関係の利益 は 「金融機関と企業の双方 に, 交渉 (bargaining)の当事者 としての資格 と力を与えていることになる」18)と して,「貸出市場 にお ける相対交渉 のメカニズムは協力2人ゲーム論の概念 を もちいて解明できる」19)とする。というのは顧客関係下では協力ゲームの前提 条件である協定の拘束性が確保 されると考えているか らである。ただ しゲーム 論 による具体的な分析 はなされていない。
4 協調モデル 4‑1 暗黙の契約理論
顧客関係下の協調的行動 を定式化 した初 めての試みとして評価 されるのは,
「暗黙 の契約 モデル」 の応用 をおこなったFried‑Howitt [8]と池尾 [11] の研究である。 これ らはいずれも,銀行の資金調達 コス トである市場金利が変 動 し,そのため顧客関係 にある銀行 と企業が金利変動 リスクを被 り,それを双 方で分担するという考え方 にたっている。両者のモデルで仮定 されているよう
に危険中立的銀行 を前提 とすれば,銀行が危険回避的な借手企業 に保険サービ スをもあわせて販売 していることになる。
池尾 は次の ような貸 出契約 を考 えている。将来 の市場金利の水準 qiに対応 して (i‑ 1,2であ り,状態 1はたとえば低金利,状態 2は高金利である), それにcontingentな契約 (rl, Ll;rZ,L2) をあ らか じめ設定すると しよ
oO00111122221111
ppppナナ''l■l■llEH日日r:E:HUr:日日臼[「L[ーL
尾尾尾尾池池池池ーーー\‑I67891111
銀行顧客関係 :展望 FffJ
う。(ri,Li) はそれぞれ状態 iでの貸出金利 および貸出額 である。 この契 約 による銀行 の期待利潤 は∑pi7ri (ただ し7ri‑(ri‑ ql)Li‑ A(LJi)でh
は貸 出費用 をあらわす)であ り,一方借手企業の利潤 は yi‑R(LJi) ̲‑ (1 + ri)Li(Rは利払前収益 をあ らわす)とな り,企業 を危険回避的 とすればそ の期待効用 は∑piu (yi)となる。
企業 は顧客関係 に入 らず代替的な手段 に頼 った場合の最大期待効用水準 us
を下 まわ らなければこの契約 に参加するので,銀行 は
max∑pt7Ti,S‑i∑plu(yt)≧ us
という問題 を解 いて最適契約 を設定することになる。
Fried‑Howittは,オリジナルのAzariadis [3] の暗黙の契約モデルにより 即 した1: ス (一定の借入需要 を持つ多数の同質な借手のプ‑)t'が存荏する場 合 )を疲討 しているが,得 られた結論 は池尾 と大 きく変わ らない。特 に,貸出 金利が市場金利 より安定的 となる(この危険中立的な場合 は各状態 とも等 しい)
ことが示 されている。20)
暗黙の契約モデルの焦点の1つは,信用割当が出現するかという点 にあった。
池尾 はこれについて労働市場 とまったくパ ラレルに, もし銀行 と借手企業の間 に情報の非対称性が存在 しなければ,たとえ数量的割当が発生 して もそれば ̀非 自発的" (可能な取引の利益が残 る)性格 の ものでなければな らないことを示 している。 もし情報の非対称性 が存在 し,たとえば銀行がみずか らの資金調達 の実効 コス トを借手企業 に正確 に伝えないことが可能 な らば,信用割当は存在
しうることも,労働市場 での分析 で知 られていることと同一である。
この後者の可能性 につ いては,「銀行 との間に確固 とした顧客関係 を形成 し てお り,そうした関係 を通 じて不断に情報格差の縮減 をはかっているタイプの 借手 にとっては,厳密 な意味での信用割当 を受 けることはほとんどあ り得 な い。」21)と推論 している。 この考 えはわが国での銀行 と大企業 との関係 を念頭 20)暗黙の契約理論 を銀行貸出市場 で実証的 に検討 したものにOsano‑Tsutsui [22]
がある。彼 らは肯定的結果 を得 ている。
21)池尾 [11], p.145。
H2 商 学 討 究 第 37巻 第1・2・3号
にお くと理解 しやすいように見 える。
ところで この考 え と,第 1節 でふれたBlackwelLSantomeroの大企業 がむ しろ信用割当 を受 ける, とい う主張 と比較 してみると興味深 い。Blackwell‑ Santomeroの考 え は,代替 的資金調達源 を見つ けやす い大企業 は需要 の利子 弾力性 が高 いので,銀行 にとってはむ しろ利益の低 い借手 であるという洞察 を 示 している。 この主張 は言いかえると,大企業 にとっての "固有の資産''と し ての銀行顧客関係 の価値 は小 さいことを内容 としている。 この ときは協調的 ア プローチの妥当性 は低 いものになろう。
この推論 を発展 させているのが池尾 の最近の説明 [12十 である。そ こでは借 手が信用度の公開性 という基準で3つのクラスに区分 され,価格 メカニズムの 適用が可能な政府 や大企業 に対 して,第3クラスの中堅企業 ・中小企業 ・個人 などが継続取引 を選好 する主体 とされている。信用度の決定 に情報活動が必要 であ り, しか もその活動の結果 を第 3者 に完全 に伝達することに困難 をともな
う借手 のグループである。 この ように したうえで,池尾 は,高度成長期 にはこ の グループが支配的で あったため,信用 に基礎 をお く当時の金融 システムが形 成 されたろうと主張 している。
4‑2 分担投資モデル
顧客関係が もた らす情報費用の低下 という直接的利益 を背景 に,危険分担 と いう間接的利益 をも実現できるという主張 が前項 の分析 であった。それではこ の費用低下 という直接的利益 そのものは, どの ように定式化 し分析 で きるであ ろうか。 この問題 を,非対称的情報 という現実的状況 を念頭 において考 えたの がFlannery [7]である。
彼 は,前項 のモデルの ように長期的に金利 などの貸出条件 をあらか じめ契約 す ることは,取引 コス トの存在 のために不可能で あるというKlein‑Crawford‑
AIchianの長期契約一般 につ いての批判 を受 け入 れ,顧客関係下の取引 を相互 の了解 の下での短期取引の更新 という状況 を考えている。
銀行 と借手企業の双方 は, あ らか じめ平均的な貸出金利 につ いては同意 して
銀行顧客関係 :展望 113
いるが,実際に支払 う事後的金利 は,いまだ知 られてはいない資金調達 コス ト の事後的変化 をみなが ら銀行が設定する。継続取引がなされるので,情報投資 にともなう準 レン トが発生するが, これは事後的貸出金利 によって分配が定 ま る。双方が資金調達 コス ト水準の事後的変化 に共通の情報 をもてば,グループ にとっての準 レン トの水準 も共通 に知 られるのでその分割 に大 きな問題 は生 じ ない。双方独 占的状況であ り,両者の交渉力に応 じて シェアが定 まるであろう。
しか し,もし借手企業がそれを正確 に知 りえないときには,銀行の側が実際 よ りも高 く報告 して生 じた準 レン トを専有するおそれが残 る。
この機会主義的行動のおそれに対 してFlanneryは,借手企業が実現 した貸 出金利の時系列 を監視 して,それがあらか じめ約束 していた金利水準 を著 しく 上 まわる傾向が見 えると,借手企業が顧各関係 を中断 して他 に取引銀行 を探す という対抗的な行動のルールを定式化 している。もしこのルー)I,が確立 してい れば,銀行 は当然 この借手の反応 を考慮 して事後的貸出金利 を決定する。各期 の レン トの シェアを大 きくしようとすることと関係中断による レン トの継続的 獲得失敗の可能性 の トレー ド・オフが生 じる。結局,「銀行 は今期 の貸出市場 を均衡 させ ることだけを考 えるのではな く,specificcapitalinvestmentか ら の将来収益 をも考慮 して貸出利子率 を設定することになる。」22)
Flanneryは個別借手 との利子率設定 を分析 した多期間モデルの他 に,顧客 をグループとして考えた場合の2期間モデルをも提示 している。 この後者のモ デルは,分担投資モデルの現実的含意 を明確 に していて興味深い。
顧客 をグループとしてとらえた際,顧客関係 は需要関数 を次のように変える /
と主張する。
Li‑L(rt,rt‑1)
つ まり,借入需要が今期の金利のみならず,前期の金利 にも依存する。 これ は前期金利の高水準が,顧客 に対 して銀行 による準 レン トの専有への疑念 を高 め,顧客関係 を解消 させる要因となることを反映 している。
22)Flannery [7],p.70
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2期 モデル に お い て は, 第 1期 の利 子率 決定に この要因 が考 慮 され る。 よ っ て第 1期の金 利 水 準 は,通 常 の独 占的銀行 の場合 のように短 期 の 限界 費 用 と限 界 費 用 の均 等 で定 ま る の で は な く,それよ りも低 い水 準にお ちつ く。 この低 下 分 は,将 来の顧 客 増 加 をね らっ た投資 支出 な ので ある。以 上 の結 果 は ,短 期 的 に は貸 出金 利 が 銀 行 の 資 金 調 達 金 利と必ず しも連動 しない こと を も説 明 す るで あ ろ う。
上 の定 式化 は第 1節 で の W oodの需 要関 数 Li‑ L (rtニ1, Lt̲1) と形 式
上は同一になって しまう (信用割当 を考えないとき)ことは明 らかであろう。
しかしWoodでは単 に取引銀行 を変更す ることの コス トが理由 とされ るか, あるいは利子率サーチという貸出市場では妥当と思われない ミクロ的基礎が述 べられていたのに対 し, ここでは分担投資下の機会主義的行動の抑制 というよ
り適切な基礎 を得 たのである。また, この基礎か ら,銀行の独 占的な行動 も取 引に固有の投資の シェアリングとして自然 に出現することも理解できよう。
4‑3 顧客関係の中断
銀行 と顧客の協調的関係 も,上で見たように双方の間に情報の非対称性があ れば,必 ず しも永続 的 なもので はな く途 中で中断す る可能性 が残 る。Flan‑
neryの前項 での主張 は,準 レン ト分配での銀行独 占力‑の借手企業の対抗力 として 「中断」 が機能することに注意 したものであった。彼 はもう1つの (一 時的)中断の可能性,つま り銀行 による非価格的数量割当の可能性 にも注意 し ている。
つま り2期 日の顧客 を確保するため第 1期の金利 を低 くすると,第 1期 には 短期的 に損失が生 じうる。 この損失 を減 らすため貸出額 を削減 (信用割当)す ることが妥当ではないかと考 える。彼 は信用割当 された顧客が次期 にはこの銀 行へ借入 を申 し込 まないかもしれない可能性 を考 え,次のように前述の需要関 数 を修正する。
Lc‑L(rt,rt̲1,kt‑.)
銀行顧客関係 :展望 115
ここでXE‑1はf‑ 1期 に信用割当 された顧客 を示 し,∂LJ/∂X t‑1≦0であ る。 このように考 えると結局,将来需要 に与 える悪影響 は高金利 と数量割当の どち らの方が より大 きいか という相対的な比較の問題 になる。Flanneryは信 用割当が生 じるのは,それが将来需要 に与えるダメージが高金利の効果 よりも 小 さい場合であることを示 している。
顧客関係の中断がもた らしうる1つの効果 を,エ イジェンシイ理論の考えを 適用 して検討 しているのがStiglitz‑Weiss [27]である。彼 らは中断が,借手 の債務不履行へのペナルテ ィと して作用することに注意 している。
Stiglitz‑Weissは, よく知 られた彼 らの前論文 [26]で,情報の非対称性下 での逆選択やモ ラルハザー ドが信用割当の原因となることを示 した。たとえ超 過需要があっても,貸出金利の上昇 は,有限責任制 (債務不履行時 に元利合計 以下 しか返済 されない可能性 をもつ)の下では,かえって借手 に危険度の高い プロジェク トを選択 させた り (モ ラルハザー ド),あるいは危険度の高 い借手 のみの応募 を引きおこした り (逆選択 )するのである。 ごのため貸出金利 の上 昇 は,銀行 にとって望 ま しくない場合があらわれる。
彼 らは, この可能性があるときでも,借手 に来期 も資金需要があ り顧客関係 が前提 されるな らば,債務不履行のときは後半期 に罰則的に高い貸出金利 とな るか,あるいはまったく貸出を供与せず取引 を中断するというタイプの契約が 成立 しうることを示 した。顧客関係が前提 とされているため,情報の非対称性 下で発生 しうるnegativeな誘因をコン トロールする新 たな手段 と して,取引 の中断が機能するのである。
5 獲得情報の公開性
顧客関係の下では, くり返 される取引のため貸手 ・借手の双方の特性 につい ての情報 ・知識が蓄積 され取引 コス トを低減できるというのが, これまでの検 討で明 らかになった主要な研究方向であった。ただ し,情報の蓄積 が協調的行 動 をもた らすかについては,'多 くの論者 も注意 しているように,取引当事者 に とってのこの情報のもつ価値が,彼 ら以外の潜在的貸手や借手 にとってより大
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きくなければな らない。 この専有可能 な準 レン トが発生するの は,情報 の内部 性 であると考え られていた。審査や経験 で得 られた知識 や情報 は内部的であ り
「他 に転売することが不可能である」23)と想定 されていたのである。
顧客の信用度 についての情報がどの程度 まで私的であるかにつ いては,異 な る考え方 もある。元来,情報の もつ 「財」 と しての特性 で強調 された 1つの点 は,その機密保持 の困難性 が もつ 「排除不可能性」 であった。24)この点 につ い て,第 2節 でふれたKoskelaが,銀行 の もつ企業情報 の扱 いにつ いて興味深 いコメン トを述べている。
「銀行 は特定の顧客 につ いての情報 を秘密 に保持 できれば, この情報か ら 平均利益 と限界利益の差額分 だけの収益 を得 ることができよう。 しか し, も しこの情報が周知の ものになって しまえば顧客 の方が利益 を得 る。 というの は,他銀行がそれによって低水準 と判明 した低 い限界費用 まで貸出金利 を引 下 げて融資 しようとするか らである。 ここに利害の対立が発生 して,顧客 は 情報 を公表 しようと し,銀行 は私的 に保 とうとする。過去 に緊密な貸手 ・借 手関係 があったと しても,それは借手への低利 という便益 にもな り,逆 に銀 行側 に有利 な高金利 にもな りうる。 これ は,多 くの貸手 が損失 な しに低利融 資 できる用意 はあるものの,借手 が これ らの代替的調達方法 に気づ いていな
い場合 におこ りうる。」25)
ここには,ノ情報 の機密性,双方の利害対立の可能性, また競争的貸手 の存在
んどあ らわれている。
Koskela自身 は上述 の ように, これ ら要 因のもた らす不確定的側面 を強調す るにとどま り, これ以上の判断 は下 していない。いずれにせ よ,取引に固有 な
23)Flannery [7], p・40
24)この点については,たとえば野口 [21]を参照されたい0 25)Koskela [18], p.1140