Ja bane s ePs yc hol o gi c alRe
zJiew1 9 9 9 ,Vol . 4 2 ,No. 1 ,42‑6
2同語反復文 の意味 はどのよ うに解釈 され るか †
佐 山 公 一 ・阿 部 純 一
小樽商科大学 北海道大学
I nt er pr et at i onofnomi nalt aut ol ogy Kohi chiSAYAMA and J un‑ i chiABE Ot ar uUni v e r s i t yo fCo mme r c e Ho kkai doUni v e r s i t y
Al t houg h at aut ol o gi c als e nt e nc e , s uc ha s‑ ‑ Bus i ne s si sbus i ne s s , " " ko do mo( c hi l dr e n) wa( a r e )ko do mo( c hi l dr e n)de a r u: ' doe snotc a r r yl i t e r a li nf or ma t i on, i tnor ma l l yc onve ys s omeme a ni ng.Wepr opos et haりapa ne s et a ut ol ogyi si nt e r pr e t e dbyappl yi ngoneormor e
" pr i nc i pl e s . " Oneo ft hepr i nc i pl e sc aus e st hel i s t e ne rt or e c ogni z et hee xi s t e nc eoft he ( goodorba d)e val ua t i o nf ort her e f e r e ntoft her e pe at e dwor di nas e nt e nc es uc ha s" dai ya ( di a mond)wa( i s )dai y a( di a mond)de a r u.
Compa r i ngJ apane s et a ut ol ogi e swi t hEngl i s ht a ut ol ogi e s ,l e dt ot hec onc l us i ont hat J apa ne s et a ut ol ogi e sa r ei nt e r pr e t e dmor ec ont e xt ‑ de pe nde nt l yt hanEngl i s hone s , a ndt hat t a ut ol ogyha ss omeuni ve r s alme a ni ngsa sf ol l ows:(1)e xi s t e nc eofs a l i e ntf e a t ur e s ( e s pe c i al l yva lue s )o fanounphr a s e" A"i n" Awadde a r u : I(2) t heor i g ina li t yo f" A"Wi t h r e s pe c tt oot he rc a t e gor i e sora not he rnounphr a s e" B"i n" BwaB, AwaAde a r u
,"i . e . , " A i sor i gi na la nddi f f e r e ntf r om ot he rc at e gor i e s( or B) , "(3)s a me ne s sa same mbe rof c a t e gor y " A
,"i . e "" Al l Asa r enotdi f f e r e ntf r om ot he rAs . "
Ke ywor ds:c o gni t i vepr oc e s s e s , ps yc hol i ngui s t i c s , r e a di ngc ompr e he ns i on, s e nt e nc ec om‑
pr e he ns i on, f i gur a t i vel a ngua ge , t a ut ol ogy
キーワー ド:認知過程,言語理解,言語知識,文脈 ・状況知識,修辞,同語反復文
いわゆる同語反復文 ( nomi nalt aut ol ogy) は ほとんどすべての言語 に認め られる言語表現であ
る( Gi bbs & McCar r e
ll ,1 9 9 0; Wi er z bi cka
,1 9 8 7 ) 。 たとえば, 日本語では (1) のような表 現を, また,英語では ( 2 )のような表現を しば
しば聞いたり読んだ りするところであろう。
(1)(しょせん,) 子供 は子供だ。
(2)Bus i nes si sbus i nes s .
同語反復文 は文字通 りの意味 ( l i t er al mean‑
i ng) では新 しい情報を何 も運ばない。 にもかか わ らず, この文が普遍的 と言えるほどに存在する
I本研究 は,平成 5 年度および平成 6 年度の文部省科学研究費 ( 重点領域研究 「 音声対話 」 ( 計画班 B) , 課題番号 0 5 2 4 1 1 0 2 ) の補助を受 けた。
のはなぜであろうか。そ もそ も同語反復文 という 表現形式 はコ ミュニケーションの中で実際にどの ような役割を果た し, どういった種類の情報を伝 えているのであろうか。
本稿では , (3) の文形式をとる日本語の同語 反復文,および (4) の形式をもつ英語の同語反 復文がどのように解釈 されるかを考察する。
(3)A はA である (または ,A はA だ) 0 ( A :名詞)
(4) ( ART)A be ( ART)A.
( A : 名詞 ; ART : 定冠詞,不定冠詞, または無冠詞)
以下では, まず,第 1 節において,同語反復文
の意味解釈 に関わる研究が, いわゆる " 文字通 り
の意疎"を超えた意味を運ぶ表現の産出 ・理解 に
佐山 ・阿部
同語反復文の意味解釈
関す る研究の中に位置づ け られ るものであること を述べ る。続 いて,第 2 節か ら本題 に入 り,同語 反復文の意味解釈 について何が問題 となるのかを,
日本語 と英語の文例を挙 げっっ説明す る。第 3 節 では,同語反復文の意味解釈 に関す る従来の研究 を,英語の場合 と日本語の場合のそれぞれについ て展望す る。第 4 節では , 日本語 と英語 の同語反 復文の比較を行 う。 とくに, 日本語 に関す る我 々 の説明 と英語 に関す る Wi e r z bi c ka ( 1 9 8 7 ) の説 明 について具体的な比較を行 い,同語反復文の意 味解釈の文脈独立性 について考察す る。最後の第 5 節では,結論 として,同語反復文の意味解釈の 有す る個 々の言語 を超えた普遍性 に言及す る。
なお,本稿の以下では,同語反復文中で繰 り返 され る名 詞,す な わ ち ( 3 ) ,(4)で言 う A を
" 反復語" と呼ぶ ことにす る
。1. " 文字通 りの意味"を超えた意味を運ぶ 表現 と しての同語反復文
Gr i c e( 1 9 7 5 , 1 9 7 8 ) が " 会話の公準 ( c onve r s a‑
t i onalmaxi ms ) ' ' 1 )を提案 して以来, それを基本
1) 会話 の公準 とは, コ ミュニケー シ ョンにお いて話 し手 ま たは書 き手 は,聞 き手 または読み手 に対 して協力的であるはず だ とい う暗黙 の前提を明示的に体系化 した ものであ り, その内 容 は, 以下のように, 量, 質, 関連性, 様式の 4 つのカテコ
リーに分 けられている
。量 :
1.会話へのあなたの貢献 を, ( や りとりのその時点 での諸 目的のために)必要 とされているだけの情報量があるよ うにせよ。
2. 会話へのあなたの貢献 を, 必要 とされている以上に情報 量のあるものに してはいけない。
質 :会話へのあなたの貢献 を,真実であるところの ものに し よ うとせよ。
1. あなたが虚偽であると信 じていることを言 ってはいけな
い。2. あなたが適切 な証拠 を もっていないことを言 ってはいけ
ない。関連性 :関連性があるようにせよ。
様式 :はっきりと表現せよ。
1 .表現の不明瞭 さを避 けよ。
2. 多義性 を避 けよ。
3 .簡潔であれ ( 不必要 な冗漫 さを避 けよ) 0 4 .順序正 しくせよ。
的 な理論的枠組 みに据え,文字通 りの意味を超え た意味を運ぶ多様 な表現を,会話の公準の下位原 則に違反する表現 として位置づ けよ うとす る様 々 な試 みが行 われて きて い る ( た とえ ば ,Br own
& Le vi ns on,1 9 7 8;Levi ns on,1 9 8 3;Spe r be r &
Wi l s on,1 9 8 6 ;山梨 ,1 9 8 6 など) 。 そ うした試み は," 修辞的 ( f i gur at i ve) " な表現や " 間接的 ( i n‑
di r e ct ) " な表現 な どを包括 的 に把握 し, それ ら に共通す る意味解釈の過程を探 って行 こうとす る アプローチと言える。 それ らの研究 はいずれ も,
" 同 語 反 復 文' 'の 使 用 を, " 緩 叙 法 ( l i t ot e s ) ' ' ,
" 誇張 ( hype r bol e ) " などとともに,会話 の公準 の下位原則 に違反する代表的な例 として捉えてい る。つまり,そ うした研究では, いずれ も,同語 反復文を,文字通 りの意味では何 ら新 しい情報 を 伝えない発話 とみな しているわけである。 また, こ う した試 み と は別 に, " 隠 幡 ( met aphor ) " ,
"アイロニー ( i r ony) " などと呼ばれ る表現, あ る い は い わ ゆ る " 間 接 的 発 話 行 為 ( i ndi r e ct s pe e c hac
t)'' として機能す る表現, 等 々の理解 過程 をそれぞれ個別的 に扱 う研究 も盛んに行われ るよ うにな って きている。多種多様 に存在す るそ うした研究の中には, たとえば,隠職の理解 に関 す る Gi l de aandGl uc ks be r g( 1 9 8 3 ) ,Gl uc ks be r g andKe ys ar( 1 9 9 0 ) ,Or t ony ( 1 9 7 9 ) ,Or t ony , Schal l e r t ,Re ynol ds ,andAnt os( 1 9 7 8 ) などの 研 究, ア イ ロ ニ ー の 理 解 に 関 す る C1 ar kand Ge r r i g( 1 9 8 4 ) ,J or ge ns e n,Mi l l e r ,andSpe r be r ( 1 9 8 4 ) ,Kr e uzandGl uc ks be r g( 1 9 8 9 ) ,Spe r be r ( 1 9 8 4 ) などの研究, また, 間接的発話行為の理 解 に関す る Gi bbs ( 1 9 8 2 ,1 9 8 3 ,1 9 8 4 ,1 9 8 6 ) の研 究,等 々が含 まれ る。 そのよ うな状況の中で,近 年, " 同語反復文" の理解 に関 して もい くつかの 考察が行われるようにな って きている。本研究で は,同語反復文の理解 に関す るそ うした研究の現 状 を展望 しつつ, そ こでの議論 に考察 を加え るこ
とを本題 とす る。
2. 同語反復文の容認可能性
前述 したよ うに,同語反復文 は,文字通 りの意 味では新 しい情報を何 も伝えない。 しか しなが ら, 同語反復文 は, 日常 の言語活動の中で充分 に意味 のある発話 と して産出された り理解 された りして
1 43 ‑
心理学評論
,v
ol . 4 2
, No.1いる。では, どのような場合に,同語反復文 は意 味 あ る発話 と して容認 ( ac c e p t ) され るのであ
ろうか ?
文脈か ら離 され,同語反復文 1 文のみが与え ら れた場合を想定 してみよう。そ して,そうした場 合,同語反復文のみか らどの程度明確な意味を受
けとることができるのかを考えてみよう。
(5) a. ゴ ミはゴ ミだ。
b. ?空 は空だ。
(6)a .Adi a mondi sadi a mond.
( Gi bbs & Mc Ca r r e l l ,1 9 9 0 より) b. ? Abot t l ei sabot t l e .
( Fr a s e r ,1 9 8 8 より)
一般 に, 日本語 を母語 とす る聴者 な らば ( 5 b)よ りも (5a)の文意 の方 を解釈 しやす い と 感 C,また,英語 を母語 とす る聴者 な らば ( 6 b)よ りも (6a)の方 を解釈 しやす いと思 うで あろう ( なお,本稿では,問題の文例が母語話者 に理解 されに くいと思われる場合, "?" の印喜 その文例の頑に付 けて示す ことにする) 0
(5a)や (5b)の 例,あ る い は (6a)や (6b) の例 は, いずれ も, (7)や ( 8 ) のよう な, 慣習化 ( c onve nt i onal i z e ) された言 いまわ
しとは異なる。
(7)( 腐 って も, ) 鯛 は鯛 ( だ) 。
(8)Boys wi l lbeboys .
また , (5a),(5b) ち ( 6a) ,( 6b) ち, とも に文 としての表現形式 は同 じである。 したが って, (5a) と (5b)の間,および (6a) と (6b) の間の解釈 Lやすさの違いは,反復語の何 らかの 違いか ら生 じると考えるのが妥当であろう。つま り,聴者 は
,「ゴ ミ」
,「 di amond 」 といった名詞 か ら構成 される同語反復文に対 しては,解釈を促 す特定の文脈やその場の状況を与え られな くとも, 比較的明確な意味を引 き出す ことがで きる, とい
うことである。
しか しなが ら, どのような反復語の同語反復文 で も,それが置かれた個々の文脈 ・状況に依存せ
ずに,特定の固定的な意味を受 けとることができ る, というわけではなさそうである。 ( 9 a) ,( 9 b)の例を見ては しい。
(9) a . い くら小 さ くて も, ダイヤは ダイヤ 宣。十分に価値がある.
b . い くら高価 だ とい って も, ダイヤは ダイヤだ。命にはかえ られない。
我 々は,同一 の同語反復文 「ダイヤは ダイヤ だ」を,互 いに異なった意味を もつ ものとして受 けとる。 その解釈の差 は (9a) と (9b) の文 脈の違いか らもた らされると言える。
(5),(6)の例および ( 9 )の例 は,同語反復 文の意味解釈の二つの異なる側面を示 している。
すなわち , (5) ,( 6 )の例か ら分かるように,た とえ文脈 ・状況か ら切 り離 されたとして も,ある 種の同語反復文 は明瞭な意味を もつ ものとして解 釈 され うるということであ り, また , (9) の例 に見 られるように,同一の同語反復文であって も, 文脈 ・状況が変わると異なる意味に受 けとられる 場合 もある ( 佐山 ・阿部 ,1 9 8 8 a ,1 9 8 8b,1 9 9 1 a , 1 9 9 1b,1 9 9 4 ) , ということである。
3. 同語反復文の意味解釈に関する従来の研究 3 .1 英語の同語反復文の意味解釈に関する従
来の研究
これまで, 英語では, (4) の形式をもつ同語 反復文の意味解釈のあり方 について,ある程度の 言語学的考察 や心理学的考察がなされて きてい る ( Fr a s e r ,1 9 8 8; Gi bbs & Mc Ca r r e
ll ,1 9 9 0;
Gl uc ks be r g & Ke ys a r ,1 9 9 0; Le vi ns on ,1 9 8 3;
Wa r d& Hi r s c hbe r g ,1 9 9 1; Wi e r z bi c ka ,1 9 8 7 , 1 9 8 8 ) 。 そ うした考察 は, 前節の終わ りで指摘 し た同語反復文の意味解釈をどのように説明 してい るであろうか ? 以下, その点を中心 に して過去 の主な研究の内容を述べてい くことにする。
3 .1 .1 Le yi m s o m( 1 9 8 3 )
の研究Le vi ns on
( 1 9 8 3 ) は, その著書 『 語用論 ( pr agmat i c s ) 』
において,文字通 りの意味を超えた意味が推論 さ
れる基本的な原理を議論 してお り,その中で同語
反復文の場合 にも触れている。彼 は,聴者が,会
話 の公準 を基 盤 とす る言語普 遍 的 ( l anguage ‑
佐山 ・阿部 rijJ語反複文の意味解釈
uni ve r s a l )な推論 の原理 を数多 く有 してお り, そ うした原理の一部 を,言語表現それ 自体 とは関 係な く文脈 ・状況に依存 して選択 し,個 々の言語 表現 に適用すると主張する
。同語反復文の場合について具体的に言えば,聴 者 は次のように解釈す るという。 まず,同語反復 文を, " ∀Ⅹ( W ( Ⅹ) ‑W ( Ⅹ)) ' ' という論理形式で 表 される恒真命題 を自然言語 によって表現 した も の とみなす。そ して, それが,文字通 りの意味で は,何 も新 しい情報 を伝えてお らず,量の公準 に 違反 していることに気づ く。聴者 は, そ うした違 反が見かけに過 ぎず,実際には会話が協力的に行 われているはずであると考える。 そ して, たとえ ば同語反復文 ( 1 0 ) に対 しては,同語反復文が発 話 され るよ うなすべての文脈 ・状況 に共通 にあて はまる推論 の原理 を使 い
,「ひどい状況 は戦争 で は常 に起 こる。 それは戦争の性質であ り, その特 別な災難 を嘆いて もためにな らない」 とで も表現 で きるような一般的な意味を推論す る。 さらには, 実際に ( 1 0 ) が発せ られる個 々の文脈 ・状況それ ぞれに適合す る推論の原理を用い,文脈 ・状況 ご とに変わる個別的意味を付加的に推論す る。
( 1 0 )Wari swa r .
要 す るに ,Levi ns on の同語反復文 の意味解釈 に関す る主張 は,聴者が同語反復文に対 して適用 す る推論の原理が,お しなべて文脈 ・状況 に依存 して選択 される,つ まり,同語反復文の意味が基 本的に文脈 ・状況依存的に決 まる, とい うことで ある。
3 . 1 .2 Wi e r z bi c ka ( 1 9 8 7 ) の研究 Wi e r z bi cka ( 1 9 8 7 ) は, 同語反復文の意味が文脈 ・状況 に強 く依存 して決 まるとす る Le vi ns on ( 1 9 8 3 ) の考 えに反対する。彼女 は,特定の文脈 ・状況 によ ら ず,一般的な言語知詣は らには同語反復文 に特有 の表層表現 に関す る知識 ( 冠詞の有無 と種類およ び反復語の単数 ・複数 に関す る知識) を参照す る だけではぼ同語反復文 を解釈で きると主張す る
。Wi e r z bi c kaは, 言語知識の範囲内に, あ らゆる 同語反復文 に共通 して適用 され る慣習化 された知 識があると考える。彼女 は,そ うした知識が単語 の意味的知識 とは異なるが,単語の知識 と同様 に
" 意味的不変体 ( s e mant i ci nvar i an t )"であると
‑ 45
見なす。彼女 によれば,同語反復文を解釈す る際, 通常聴者 は [ A] ,[ B]二つの意味的不変体を参照
し,利用するとい う。
[ A]AnA i snotdi f f e r e ntf r om ot he rA' S . ( Al lA' sar et hes ame . )
( あ る
Aは他 の
Aと違 わ な い。 [ す べ て の A は同 じである。])
[ B]Thi sc annotc hange . (これは変わ らない。)
また,彼女 によれば, ( l l ) , ( 1 2 )のよ うに反復語 が " ユニークな対象 ( uni quee nt i t i e s ) " を指示 す る同語反復文の場合 には, 聴者 は知識 [ C] を 援用す るという。
(ll
)Eas ti se as
t.( 1 2 )Samant hai sSamant ha,and you ar e yOu.
[ C]Thi s c annot be de ni e d. ( Nobody c oul ds ayt hatt hi si snott
rue.)(これを否定す る ことはで きない。 [ 誰 も これ が真 実 で な い とはいえ な いで あ ろ う。])
こうした, あ らゆる同語反復文に適用で きる言 語知識 に加え, Wi e r z bi c ka ( 1 9 8 7 ) は, 一部の 同語反復文のみに適用 され る言語知識 もあると指 摘す る。彼女 によれば,英語 の同語反復文 には, 冠詞の有無,反復語の単数 ・複数の違 い,および, 反復語が何 らかの特別な意味的カテゴ リーに属す
るか否かによってマーク ( mar k) され るい くつ かのパ ター ンがあ り,それ らのパ ター ンごとに慣 習化 された一定の言語知識が記憶か ら引 き出され るという。 それゆえ, Wi e r z bi c ka の考えに従え ば,人 はそ うした微妙 な表現形式上の違 いを も手 がか りと しなが ら同語反復文を解釈 していること になる。彼女 はそ うした英語同語反復文のパ ター ンを " 下 位 構 文 ( s ubc ons t r uc t i on) ' 'と呼 ぶ。
そ して,英語 を母語 とす る聴者 は少な くとも3 種
の下位構文 ( の知識)を保持 していると指摘 し,
心理学評論,
γ ol . 4 2 , No.1
それぞれ " 複雑な人間の行為 に対するさめた態度 ( S obe rat t i t udet owar d c ompl e x huma n ac ‑ t i vi t i e s ) "の同語反復文, " 人間の性質 に対す る 寛容 ( t ol e r anc ef orhumanna t ur e ) " の同語反 復文, " 義務 ( Obl i ga t i on) "の同語反復文 と名づ
けている2 ) 。
" 複雑 な人間の行為 に対す るさめた態度"の同 語反復文 :
反復語が,単数形をとり,かっ無冠詞で用 いられ,かつ相互作用を伴 う複雑 な人間の 行為を表わす。
Wi e r z bi c ka ( 1 9 8 7 ) は, この下位構文にあて はまる同語反復文の例 として, ( 1 3 ) 〔 ( 1 0 ) と同 じ〕 ,( 1 4 ) 〔 (2) に同 じ〕 ,( 1 5 )などを挙げてい る。
( 1 3 )Wa ri swar .
( 1 4 )Bus i ne s si sbus i ne s s . ( 1 5 )Pol i t i c si spol i t i c s .
Wi e r z bi c ka によれば, この下位構文 にあてはま る同語反復文が もつ反復語 によって指示 される対 象は,特殊な状況での行為あるいは別の世界で起 こる出来事であり,そうした行為 は大 目に見なけ ればな らず, また避 けることので きない否定的側 面をもつ, という。そ して, この下位構文にあて はまる同語反復文か ら,聴者 は,そのような複雑 な人間の行為に対 し α さめた態度"で接する必要 がある, といったニュアンスを推論するとしてい る。
" 人間の性質に対する寛容"の同語反復文 : 反復語が,複数形をと‑ り,かつ無冠詞で用 いられ,かつ人間を表わす。
2) Wi e r z bi c ka ( 1 9 8 7 ) は,紙面の都合で取 り上げることが できないと断 りなが ら, これ ら三つ以外にも下位構文があると ほのめか している。 ただ , Wi e r z bi c ka ( 1 9 8 7 ) はもちろん, その後の彼女の論文の中にも,それに言及 した記述 はないよう である。
この下位構文にあてはまる同語反復文 としては, ( 1 6 ) , ( 1 7 ) , ( 1 8 )などが挙 げられている。
( 1 6 )Boysa r eboys . ( 1 7 )Ki dsar eki ds . ( 1 8 )Wome na r ewome n.
彼女 によれば, この下位構文に適合する同語反復 文 は,人 はある種の人間の行動 に対 しては寛容で ある必要がある, といったニュア ンスで解釈 され る, という。つまり ,「 boy 」 ,「 ki d 」 ,「 woman」
といった類の人間は他の人々がそうすべ きだと思 うや り方で ものごとを行 うことができないのだ, とで もいうようなニュアンスが導 き出されるとい う。加えて,彼女 によれば, この下位構文には, ( 1 9 ) ((8) と同 じ) のように, 習性を表す助動 詞 「 wi l l 」 をっけて発話 される場合が含まれると
いう。
( 1 9 )Boyswi l lbeboys .
Wi e r z bi c ka は, " 複雑 な人 間 の行為 に対 す る さめた態度"の下位構文にあてはまる同語反復文 か ら引 き出され る意味 と, " 人間の性質 に対す る 寛容"の下位構文にあてはまる同語反復文か ら導
き出される意味 とは,互 いに類似 しているが,以 下の点で異なると説明 している。すなわち,前者 の意味には反復語の " 悪 い ( ba d) " 側面が含意 されるが,後者の意味にはそれがない。たとえば, 同語反復文 ( 1 5 ) か ら聴者 は, 政治が " 汚い仕 辛"であるというニュアンスを推論す るが, ( 1 6 ) ,
( 1 7 ) , ( 1 8 ) をそれ と類似 した意味合いで理解する ことはない, とのことである。
" 義務"の同語反復文 :
反復語が,単数形をとり,かつ定冠詞 また は不定冠詞づさで用 いられ,かつ義務を表 わす。
彼 女 は, " 義 務"の 同語 反 復 文 の例 と して,
( 20 ) ,( 2 1 ),( 22 ) などを挙げている。
佐LLJ・阿部
同
語反子 i i文 の意 味解 釈
( 2 0 )Thel aw i st hel aw.
( 2D Ade ali sade a
l.( 2 2 )Apr omi s ei sapr omi s e.
彼女 によれば, この下位構文 にあて はまる同語反 復文 は, た とえ実行 した くな くとも実行 しなけれ ばな らないとい うニュア ンスで解釈 され るとい う
。た とえば ,( 2 0 ) は
,「た とえそ うした くな くて も 法律 は守 らなければな らない」 とで も表現で きる
よ うな意味で受 けと られ ると している。
さて, こう した " 下位構文" なる知識 を仮定す ることによ って,英語同語反復文の意味解釈 はよ りよ く説明 され るよ うにな るのであろ うか ?
第
2 節で,文脈か ら分離 されて与 え られた場合 であ って も, ある種 の同語反復文 は他 よ りも容認 しやす い 〔 文例 ( 5) と (6)を見ては しい〕 こ との あ る こ とを指 摘 した 。Wi e r z bi c ka( 1 9 87 ) は, この点 に関 し直接的 には何 も触れて いないが, 彼女 の見解 に基づ いて こう した事実 を説明す ると すれば,下位構文 によ くあて はまる同語反復文 ほ ど他 よ りも解釈 しやす い, とい うことになるであ ろ う。 この ことは,間接的なが ら, た とえば,彼 女 の次 のよ うな指摘 に示 されていると言 え るか も
しれない。
( 2 3 )a.Wari swa r . b.Awari sawa r .
( 2 4 )a.Apr omi s ei sapr omi s e . b.Pr omi s e sar epr omi s e s .
Wi e r z bi c ka によれば , ( 2 3a) 〔 ( 1 0 ) , ( 1 3 ) に同 じ〕 は, " 複雑 な人間の 行為 に対 するさめ た態度"
の同語反復文のみに非常 によ くあてはま り, た と えば 「しょせん戦争 は悲惨 な もので, そ うい うも の と して戦争 を受 け入れなければな らない」 とい うよ うな意味 に容易 に解釈 され るとい う。 これ に 対 し , ( 2 3b) は, 何 らかの下位構文 に適合す る とすれば, " 義務" の同語反復文 に該 当す ること にな り, た とえば 「 人 は戦争 に関わ る何 らかの義 務 を果 たさねばな らない」 とい うよ うな解釈 を与 え られ る こ と に な る, と い う。逆 に ,( 2 4 a)
〔 ( 2 2 ) に同 じ〕 は, もっぱ ら " 義務" の同語反復 文 と して きわめて認知 されやす く, た とえば 「 約 束 は守 りた くな くて も守 らなければな らない」 と い うよ うな意 味 に解釈 され るの に対 し ,( 2 4b) は, 結果的 に, (どのよ うな下位構文 にあて はま る こ とに な るのか彼 女 は明言 して い な い 3) が,)
「 約 束 は約束 にす ぎな い。約束 が常 にあて にな る とは限 らない」 とい った解釈が なされ ると してい る。
と ころで,英 語 を母 語 と しな い者 に と って は
" 人間 の性質 に対 す る寛容" の下位構文 の条件 に 適合 しているよ うに思え, それゆえそれ に対応す る意味 を もっ もの と して解釈で きると考 え ざるを えない同語反復文 であ るに もかかわ らず, その下 位構文 にあて はまる意味 を もっ もの と して解釈 で きない同語反復文があ ることを Wi e r z bi c ka 自 ら 認 めて いる 。( 2 5 ) や ( 2 6 ) の文例がそ うであ る。
( 2 5 )?Naz i sar eNaz i s . ( 2 6 )?Rapi s t sar er api s t s .
彼女 によれば ,「 Naz i s 」 や 「 r api s t 」 のよ うな 名詞 によ って指示 され る対象 はあま りに悪 す ぎる ので,人がそれ らに寛容 さを求 め る可能性 が ほと ん どな く, そのために ( 25) ,( 2 6 ) のよ うな同語 反復文 はきわめて解釈 しに くい, とい う。 この こ と は ,「 Naz i s 」 や 「 r api s t 」 と い っ た 名 詞 が,
" 人間 の性 質 に対 す る寛容" にあて はまる反復語 の カテ ゴ リーに属 していない ことを意味 して いる,
と言 え るのか もしれない。 もしそ うだ とす るな ら ば, そ して Wi e r z bi c ka の説 明が よ り詳細 かつ妥 当 な もの とな る ことを望 む な らば, " 人間 の性 質 に対 す る寛容" の反復語 に対す る条件 の中に, た とえば,人間の性質 の 「 悪 さ」 の程度 を条件 の中 に盛 り込 むな ど して ,「 Naz i s 」 ,「 r api s t 」 などが 明確 に除外 され るよ うにす る必要があるであろ う。
また , Wi e r z bi c ka は, あ る種 の同語反復文 は
3) Wl e r Z bi c ka ( 1 9 8 7) は, 論文中の " 下位構文 "の説明以 外の箇所で,多 くの英語同語反復文の例を挙げてお きなが ら, その一部 につ いては解釈のみを与え とのよ うな下位構文 に該 当 するのかにまった く言及 していない。 おそ らく, そ うした同語 反復文 は, 脚注 2 ) で触れたよ うに,論文中に記 されなか った 下位構文 に属す るのではないか と推測 され る。
1
47
心理学評論 , v o14 2 , No.1
複数の下位構文にあてはまる場合があり,その結 莱,多義性が生 じる可能性があるとしている。そ して,そ うした場合,一般 に聴者 は,同語反復文 の置かれた文脈や状況 に関する知識を参照 しなが ら妥当な解釈を下す, としている。 こうした例 と して,彼女 は ,( 2 7 ) を挙げる。
( 2 7 )Amot he ri samot he r .
彼女 によれば, この同語反復文 ( 2 7 ) は,文脈 ・ 状況 によ って 「 母親 には母親 と しての義務 があ
る」 というような意味に解釈 されたり ,「( どんな に他の母親 と違 うように見えて も)母親 は絶えず 母親たる仕方で振舞 う」 とで もいうように解釈 さ れたりするという。
3 .1 .3 Fr a s e r ( 1 9 8 8 )の研究 以上のような Wi e r z bi c ka ( 1 9 87 )の考 え に異論 を唱え る研究 者 もいる 。Fr a s e r ( 1 98 8) は, " 下位構文" なる 言語知識を人が有 しているという仮定が妥当でな いことを,い くつかの反例を挙げて説明 している。
( 28 ) Thel aw i st hel aw.
( 29 ) Ne got i a t i onsa r ene got i a t i ons . ( 3 0 ) Ade a li sade a l .
( 3 1 )Lovei sl ove .
たとえば,文 ( 28 ) 〔 ( 20 )に同 じ〕 ,( 29 ),( 30 )
〔 ( 2 1 )に同 じ〕 は,いずれ も " 複雑な人間の行為 に対す るさめた態度"の下位構文に対する要件の うちの統語的な要件,すなわち反復語が無冠詞で 使われかつ単数形であることを満足 しないにもか かわ らず,その下位構文にあてはまる意味を もつ
ものとして解釈できる4 ) 0
また,逆 に,例文 ( 3 1 ) は, " 複雑な人間の行 為に対するさめた態度"の下位構文の統語的要件 および ( 反復語に対する)意味的要件の両方を充 た していなが ら,その下位構文を適用できずその 下位構文か ら導かれる意味を もつ ものとして解釈
4) 例文 ( 2 8 ) , ( 3 0 )
は,Wi e r z b i c k a ( 1 9 8 7 ) 自身によって は " 義務 ' 'の同語反復文に適合する例 として挙げ られている。
で きない,などである。
Fr a s e r は,同語反復文が適格 ( we l l ‑ f or me d) となるか否かが ,Wi e r z bi c ka の言 うような冠詞 の有無 と種類,反復語の単数 ・複数の違い,およ び反復語の意味的性質によって決定 されるのでは な く,む しろ同語反復文をとりまく文脈 ・状況が 何 らかの解釈にうま く導 きうるかどうかで決まる,
という考えを述べている。 この点では,彼の考え は, 先 に紹介 した Le vi ns on ( 1 983 ) と似ている。
たとえば, 彼 によれば, ( 32 ) のような同語反 復文は,文脈か ら離 されて与え られるときわめて 解釈 しに くいものの
,「 風がた こを飛 ばすのに都 合の悪い方向か ら吹いて きていることに不満を言 う人に向か って発話 された」 とすれば,それを意 味ある同語反復文 として受 けとれるようになる,
という。
( 32 ) Wi ndi swi nd.
ただ し ,Fr a s e r は ,Le vi ns on ( 1 98 3 ) とは異 なり,同語反復文の意味が文脈 ・状況のみによっ て決 まるとは考 えていない。彼 は ,Wi e r z bi c ka ( 1 98 7 ) の主張する " 意味的不変体" よりず っと 一般的で漠然 としてはいるが,すべての同語反復 文に対 し無条件 に適用 される慣習的な言語知識が あると主張す る。彼 によれば,そうした言語知識 は,下記 の [ A] ,[ B] ,[ C]のよ うな もので あ る という。彼 は,そうした知識を会話参加者間で共 有 される一種の信念 と捉えている。
[ A]反復語 によ って指示 され るあ らゆる対象 に対 し,話者 は何 らかの見解を主張 して いる。
[ B] 聴者 が この特定 の ( pa r t i c ul a r ) 見解 に 気づ くことがで きると話者 は信 じている。
[ C] この見解 は会話 に関係 している。
っ ま り ,Fr a s e r は,すべての同語反復文 に共
通する意味が, [ A] ,[ B] ,[ C] のような ものに過
ぎず,実際に聴者が受 けとっている同語反復文の
意味の多 くは,文脈 ・状況に照 らし引 き出された
ものである, と考えている。 この考えを支持する
佐山 ・阿部 同語反
子 宮文の意味解 釈
例 と して,彼 は,同一の同語反復文であ って も文 脈 ・状況が変わると異 な って解釈 され ることがあ る, ことを挙 げる。 たとえば, 文 ( 3 3 ) 〔 (2) , ( 1 4 ) と同 じ〕 は,文脈 ・状況次第で , 「あ らゆる ビジネスは同 じである」 という意味や 「ビジネス は無慈悲である」 とい う意味, さらには 「ビジネ スはお金 になる」 とい うよ うな意味に解釈 され う るというわけである。
( 3 3 )Bus i ne s si sbus i ne s s .
彼 の仮 定 す る同語 反 復 文 に関 す る言 語 知 識 [ A],[ B],[ C ]の うち, [ A ] は,反復語 ばか りで はな く主語一般 に適用 され る言語知識 と見な して も差 し支 えないか もしれない。 また, [ B],[ C]
に して も,同語反復文のみに対す る言語知識 とい うよ りは, あ らゆる種類の発話 ・言語表現 に適用 され る一般的な言語知識 と考える方がよいか もし れない。同語反復文 に適用 され る何 らかの慣習化
された言語知識があるとす るな らば,同語反復文 のみに特定的にあてはまるそれを指摘 して もらい たいところではある。
3 . 1 .4 Gi bbsand Mc Car r e l l ( 1 9 9 0 ) の研究 Gi bbsandMc Car r e l l( 1 9 9 0 ) は, ここまで紹介
して きた諸研究の考え方をいろいろと取 り込みな が ら,多角的に同語反復文の意味解釈 を説明 しよ うと試みている。彼 らは,基本的には,聴者が同 語反復文 を クラス包含関係 を表 わす文 と して受 け と る と考 え る。 ま た,彼 らは,先 に述 べ た Wi e r z bi c ka ( 1 9 8 7 ) の見解の一部 を引用 し, 皮 復語 の単数 ・複数の違 いにより同語反復文の解釈 が異なるとも仮定す る。彼 らによれば,複数形の 同語反復文の場合,主語の指示す る特定の事例群 が述語 の指 示す るカテ ゴ リーの " ステ レオ タイ プ'的事例群である, と解釈 されやすいとい う
。その理 由は,複数形の反復語の方が集合概念 を指 示 していると解釈 されやす く,その分 ステ レオ タ イプが引 き出されやすいため, としている。 ( 3 4 a) 〔 (8) , ( 1 9 ) と同 じ〕 と ( 3 4b) を見てほ し い 。
( 3 4 )a.Boyswi l lbeboys . b.A boyi saboy.
Gi bbs と Mc Car r e l lは, た とえ ば 「 少 年 は手 に
負えないもので,言 う通 りにさせ るのは難 しい」
とい う意味を伝えるためには, 表現 ( S ヰa) が用 い られなければな らず, ( 3 4 b) では, そ もそ も その意味が分か りに くいと している。
彼 らの考えに従えば, ( 3 5 ) 〔 ( 1 6 ) と同 じ〕 の 文が ( 3 4a) のよ うに慣習的ではないのに もかか わ らず,英語を母語 とす る聴者 にとって,解釈 し やすいことを説明で きる。すなわち,複数形 を も つ ( 3 5 ) は, ( 3 4b) よ りも 「 boy 」 のステ レオ タイプを引 き出 しやす く, したが って,文全体の 解釈 もしやすい, ということになるわけである。
( 3 5 )Boysar eboys .
また,彼 らは,単数形の同語反復文 は, その反 復語がステ レオ タイプを想起 させやすい場合 には, 複数形の同語反復文 と同様 に解釈 され, そ うでな い場合 には 「ある概念のどのような事例 も他の事 例 と同等である」 とで もいうような意味を もつ も の と して解釈 され る, と している。
Gi bbs と Mc Car r e l lは,反復 語 が その概 念 の
" ステ レオ タイプ'を想起 させやすいか どうかで, その同語反復文の解釈 の しやす さが変わるという 点 を 強 調 して い る。 た とえ ば,彼 らは ( 36 a)
〔 (8) , ( 1 9 ) ,( 3 4 a) と同 じ〕 が ( 3 6b) に比べ解 釈 しやすいと指摘する。
( 3 6 )a.Boyswi l lbeboys . b.Gi r l swi l lbegi r l s .
その理 由 と して,彼 らは, ア メ リカ社 会 で は
「 boy 」 に対 して一般 的 にあて はまるステ レオ タ イプ的知識を話者 ・聴者が共有 しているのに対 し,
「 gi r l 」 に対 して は この よ うな ステ レオ タイプ的 知識 を共有 していないとい う事実を挙 げている。
以 上 の 意 味 に 加 え,Gi bbsandMc Car r e l l ( 1 9 9 0 ) は, 同語反復文が Fr as e r( 1 9 8 8 )の指摘 す るあ らゆる同語反復文 にあてはまる一般的な話 者 の信念,および文脈 ・状況 に基づいて個別的に 推論 され る具体的な話者の信念 を も聴者 に伝 える,
としている
。3 .1 .5 英語同語反復文の意味解釈の文脈独立性 ここで, これまでに述べて きた英語同語反復文の 意味解釈 に関す る諸研究の議論 を,同語反復文の
4 9
心理学評論 , Vo142 . No.1
意味解釈の文脈独立性,すなわち聴者が同語反復 文をどの程度特定の文脈 ・状況 と関係な く解釈す
るのか という観点か ら整理 してみよう。
すでに述べたように , Le vi ns on ( 1 9 8 3 ) は最 も文脈依存的 な立場 に立つ。彼 の考 えで は,文 脈 ・状況に置かれなければ同語反復文は解釈でき ないことになる。 逆に, Wi e r z bi c ka ( 1 9 8 7 ) は 最 も文脈独立的な見解を採 る。彼女 は,ある種の ( 単語 の意 味 とは異 な る)言語知識 を特定 の文 脈 ・状況 とは関わ りな く同語反復文に適用で きる と主張す る。 したが って,その意味解釈 は基本的 に文 脈 独 立 的 に行 わ れ る こ とに な る 。Fr a s e r ( 1 9 8 8 ) は, 母語話者の間で共有 されている漠然 とした信念を文脈 ・状況 とは無関係に同語反復文 に適用で きるが,その結果得 られる意味は実際の 同語反復文の意味の一部分 にす ぎず,残 りの意味 の大部分を文脈 ・状況に照 らし決定する, とする。
したが って,彼の考えでは,同語反復文の意味解 釈 は,い くらかは文脈独立的に定 まるものの, 揺 とん ど文 脈依 存 的 に決 定 され る ことにな る。
Gi bbsandMc Ca r r e l l( 1 9 9 0 ) は,上の三者の考 えを折衷 した案を主張する。折衷の結果 として, 彼 らの説 明 で は,同語 反 復 文 の意 味解 釈 は, Wi e r z bi c ka ほどには文脈独立的に定 ま らないが, Fr a s e r はど文脈依存的で もな くなっている。
Wi e r z bi c ka ( 1 9 8 7 ) や Gi bbsandMc Car r e l l ( 1 9 9 0 ) のように, 反復語の単数 ・複数の違 いや 冠詞の有無によって意味解釈の仕方が異なるとす る説 明 は,英語 のよ うな,冠詞 を有 し名詞 の単 数 ・複数の区別を表現上で明確 に行 う言語 にはよ くあてはまるか もしれない。 しか し,そうした説 明は, 言語特異的 ( l anguage ‑ s pe c i f i c ) な制約 を前提 とした説明であり,他の言語の同語反復文 の意味解釈 にそのまま適用できるとは限 らない。
そのような言語特異的な制約が英語同語反復文の 意味解釈 に働 くとすれば,冠詞が担 う情報や,名 詞が指示するものごとの数量を明確 に表現 しない 日本語のような言語では, いったいどのような制 約の下で個々の同語反復文の意味解釈が遂行 され ていることになるのであろうか。 またさらに,文 脈独立性 という点で, 日本語同語反復文の意味解 釈 は英語同語反復文の意味解釈 と異なるであろう か。次節では, こうした点を中心に, 日本語の同 語反復文の意味解釈に関する従来の研究を概観す
る。
3 .2 日本語の同語反復文の意味解釈 に関する 従来の研究
日本語の同語反復文がどのように解釈 されるか という議論 は, もっぱ ら言語学 において行われて きた ( たとえば,小泉 ,1 9 9 0; 国広 ,1 9 8 5; Mi ki , 1 9 9 6; 毛利 , 1 9 8 0; Okamot o ,1 9 9 3; 大野, 1 9 7 8 ;安井 ,1 9 7 8 など) 。 ただ し,そこでの議論 は,同語反復文を他の種類の同語反復表現 ( たと えば, 同一の名 詞 5) ,動詞,形容詞, 形容動詞を 繰 り返す表現) と一緒 に扱 っていたり,名詞述語 文一般の議論の中で言及 したりしていることが多 く,同語反復文その ものを詳 しく考察 しているも のは少ない。
そうした状況 にあって ,Oka mot o ( 1 9 9 3 ) は, 同語反復文の意味解釈を比較的詳 しく考察 してい る。彼女 は,名詞を反復する他の同語反復表現の 意味解釈 と比較 しなが ら同語反復文の意味解釈を 論 じている 。 Oka mot o は, 同語反復文 とそれ ら の同語反復表現 とが,名詞を繰 り返す という点で は同 じであるが,基本的に異なる意味を もつ もの として解釈 されると主張する。彼女 によれば,聴 者 は,同語反復文を ," カテゴ リーの不変性 ( c a t ‑ e gor yi mmut a bi l i t y) " を強調す るものとして受
けとるか, " 自主性 ( aut onomy) " または " 不連 続性 ( di s c r e t e ne s s ) " を強調 す る もの と して解 釈す るかのいずれかになる, という。
Okamot o の言 うカテゴ リーの不変性 とは,皮 復語 A の指示す るカテゴ リーの事例 と認 め られ るものが A に属す るとい う事実 はどのよ うな状 況で も変わ らないか ら,受 け入れなければな らな い, というようなことを指す。 カテゴリーの不変 性 を強調す るものとして受 けとられる同語反復文
5) 英語 には妥 当な例が見つか らないが, 日本語 には名詞 を 反復す る以下のよ うな同語反復表現 もある 。 A はいずれ も名詞 である。
(i)
a .A が A だけに,( 文)
b.問題が問題だけに, どう対処 した ら良 いか分か らない。
(i i) a . A は A で,( 文)
b.太郎 は太郎で,別の考え もあろう。
(近) a. A も Aだ.
b. ( そんなひどい言 い方をす るなんて,)太郎 も太郎だ。
佐
山 .阿部同語反複文の意味解釈
の例 と して,彼女 は文例 ( 3 7 ) を挙 げる6 ) 。 ( 3 7 ) 何歳で も, どんな職業で も,恋 は恋。
Oka mot o によれば , ( 3 7 ) の 「 恋 は恋」 は, 悲 の特定の事例がいかに周辺的な ものであ ったにせ よ,恋のカテゴ リーに属す るとい う事実を変える ことはで きないか ら, その事例 を恋の事例 と して 受 け入れなければな らない, とい うよ うな意味を もっ ものと して受 けとられ るという。 また,彼女 の言 う "自主性 ・不連続性" とは, 反復語 A の 指 示 す る項 目が,話 者 の談 話 世 界 ( di s c o ur s e wor l d) 7 ) の 中 で ( 明 示 的 に ま た は暗 示 的 に) マークされているその項 目と対照 をなす別の項 E j と明確 に異な っている, とい うような ことを指す。
彼女 は, 自主性 ・不連続性を強調す る意味 に受 けとられ る場合 には,すでにカテゴ リーの不変性 を強調する意味で も受 けとられていなれ ければな
らない, とす る。
( 3 8 ) 男 は男, 女 は女, 理解 しあえ ることはな い。
たとえば ,Oka mot o によれば, 文例 ( 3 8 ) は,
"自主性 ・不連続性' ' を強調す るもの として, こ の場合 には,女のカテゴ リーが男のそれ とは明確 に異 なるカテゴ リーであることを強調す るものと して解 釈 され るが, そ う した意 味 は, " カ テ ゴ リーの不変性", ここでは, 女 と男それぞれのカ テゴ リーの不変性を強調す る意味で理解 された上 で初 めて受 けとることが可能 になる, とい う。 し か しなが ら, どのよ うな場合 に, カテゴ リーの不 変性だけでな く, 自主性 ・不連続性 を も強調 す る もの と して理解 されるようになるのかにつ いては 彼女 は明確 に説明 していない。
第 2 節 で述べたよ うに, たとえ同一の同語反復 文であって も,特定の文脈 に置かれた場合, ある いは,何 らかの文脈か ら切 り離 されて提示 された
6) Okamot o ( 1 9 9 3 ) の中では, 文例はすべて ローマ字で表 記 されている。
7 ) 一般 に,話者 は,特定の文脈あるいはその場 の状況の下 において自らの心内に談話世界を想定 し. その中の少な くとも
‑つと矛盾 しない発話を行 う ( Abe ,1 9 8 2,Fauc onnl e r ,1 9 8 5;
J ohns on‑ Lai r d,1 9 8 3 )
。場合の違 いによって,異 なる意味を もっ もの と し て解釈 され ることがある。同語反復文の意味解釈 を十全 に説明するためには, なぜ同一 の同語反復 文を異 なる意味を もっ もの と して解釈で きるのか, そ して個 々の場合 によ ってその意味が どのように 変わ るのかを具体的に説明 しなければな らない。
Oka mot o はこう した点 に触 れていない。 さ らに 言えば,やはり第 2 節で触れたことであるが,同 語反復文の意味の受 けとり方 は,反復語の種類 あ るいは意味的性質 によって も変わ る。 この点 につ いて も Oka mot o は言及 していない。
3 .3 佐山 ・阿部の研究
近年, 我 々 ( 阿部 ,1 9 8 9 a ,1 9 8 9b ;佐山 ・阿 那 ,1 9 8 8 a ,1 9 8 8b,1 9 9 1 a ,1 9 9 1b,1 9 9 4 ) は, 同 語反復文の意味解釈の過程を体系的に説明 しよ う と試みている。本稿では, 日本語の同語反復文が 解釈 され る際 に働 いて いるであろ う " ( 処理 の) 原則" について,提案 してみたいと思 う。
ここで言 う原則 とは, 日本語 を母語 とす る聴者 が同語反復文 を解釈す る際に適用す る一種の " 知 識" あるいは " 規則' 'を意味す るものであ り, そ れはまた,聴者が同語反復文を解釈す る際 に適用 す るスキーマの諸性質 と言 いかえて もよいか もし れない。
以下 に, その " 原則" を列挙 してい く。
" 価値評価 の不変"の原則 :
反復語の指示す る概念が強 い ̀ ̀ 価値評価"
を伴 う場合,同語反復文を, その概念 の価 値評価が恒常的で不変であることを強調 ・ 再 認識 す る意 味 に解釈 す る (ことを試 み
る) 。
この原則を適用す ることで解釈 され うる同語反 復文の例 としては ,( 3 9 ) や ( 4 0 ) などが挙 げ ら れ るであろ う。
( 3 9 ) バ カはバカだ。
( 4 0 ) ダイヤはダイヤである。
一般的に言 って
,「バ カ」 や 「ダイヤ」 という概 念 には,肯定的にせよ否定的にせよ,強 い価値評
1 5 7 ‑
心理学評論 ,
vo l . 4 2 , No.1
価が伴 う。そのような,強い価値評価を伴 う概念 を指示する名詞を反復語 とする同語反復文 は,そ の意味す るところを理解 しやす く,また実際よ く 発話 される. 日本語においで慣用句 として定着 し ている ( 4 1 )なども,元来 は, この種の原則の下 で解釈 されたものと考え られる。
( 4 1 )( 腐 って も,) 鯛 は鯛( だ) 0
では,( 42 ) や ( 43 )の場合はどうであろうか ? ( 42 )?空 は空である。
( 43 )?鱒 は鱒だ。
我々の文化においては,一般 に
,「 空」 や 「 鱒」
に
,「ダイヤ」 や 「 バカ」 や 「 鯛」 はどの強い ( 正 あるいは負の)価値評価 を与えてはいない。
したが って,文脈か ら切 り離 された形で ( 42 )や ( 43 )の同語反復文 を与 え られた場合,聴者 は,
" 価値評価 の不変"の原則の下でその意味を解釈 することはできず,また,後述するような他の原 則を適用 して解釈することもできないため,結局
どのように解釈 してよいか迷 うことになる。
同様のことは,同語反復文 ( 4 1 )を他の言語 に 直訳 した場合にも言えるか もしれない。 もしもそ の文化が 日本 とは異な り
,「 鯛」 を高い価値評価 をもっ魚 としていなか った場合,その直訳 された 文の意味はほとんど伝わ らないことになるであろ
う。
" 価値評価の不変" の原則で言 う " 価値評価"
は,その概念か ら標準的にまた恒常的に連想 され るもの ( たとえば, ダイヤであれば金銭的価値) である必要 はない。話者 ・聴者間の特別な談話世 界の中で一時的に付与 されたものであって もよい。
同 じ同語反復文で も,その同語反復文の置かれた 文脈 ・状況次第で話者 ・聴者間で想定 される談話 世界が変わ り,そこで了解 される価値評価 も変化 す ることは十分 にあ りうる。た とえば ,( 4 4 a) と ( 44b) と を 比 べ て み て は しい 〔 ( 44a)は (9a) と ,( 4 4b)は (9b) と同 じ〕 。
( 44 ) a . い くら小 さ くて も, ダイヤは ダイヤ 宣。十分 に価値がある。
b. い くら高価 だ とい って も, ダイヤは ダイヤだ。命にはかえ られない。
聴者 は ,( 4 4 a)の文脈下 で想定 され る談話世界 の中で
,「ダイヤ」 の金銭的価値が話題 とされて いることを了解 し
,「ダイヤはダイヤだ」 を, そ うしたダイヤの高 い価値に言及 したものとして解 釈することであろう。 これに対 し , ( 4 4b) の文 脈下 で想 定 され る談話 世 界 で は
,「ダイヤ」の
"もの"であることが話題 となっていることを了 解 し
,「 命」 との比較 においてダイヤの価値が低 いことが確認 ・強調 されている発話 として解釈す るはずである。
ところで, " 価値評価" を有する概念 は当然無 数 にあ りうる。数あるそ うした概念の中には,た とえば 「 約束」や 「 法律」 といった, " 社会的な"
価値評価 を有す るもの も含 まれ る。以下 の文例 ( 45 ) ,( 46 )を解釈 してみてはしい。
( 45 )法律 は法律だ。
( 46 )約束 は約束だ。
「 法律」 や 「 約束」 のような,社会的な価値評価 を有する反復語 は,単 に価値評価を伴 うだけでな く,そうした価値評価か らさらに進んで正義感や 道徳感,あるいは義務感,などといった観念を生 じさせる。その結果,反復語の指示す る概念内容 を実際に履行 した り遵守 したりする必要がある, とい うようなニュア ンスが, " 価値評価 の不変"
の原則か ら導かれる基本的な意味に加え られるこ
とになる。文例 ( 45 ) ,( 46 ) は,先 に 3 . 1 で引用
した Wi e r z bi c ka ( 1 9 8 7 ) が " 義務" の下位構文
にあてはまる例 として挙げていた英語同語反復文
を日本語 に直訳 したものに相当 している。我 々の
考えに従 うな ら, " 義務" の下位構文の生 じさせ
るニュアンスは, " 価値評価の不変" の原則が適
用 され,その結果 もた らされた価値評価か ら派生
的に生 じたものということになる。つまり ,( 45 ) ,
( 46 ) のような例 は, " 価値評価の不変"の原則の
適用 されるケースの特別な場合 と見なせ るわけで
ある。
佐山 ・阿部
同; l u L 反' 1 短文 の 意味解 釈
" 独 自性の不変"の原則 :
反復語 A が指示す る概念が強 い " 独 自性"
を もっ場 合,あ るいは /か つ,陰 に陽 に
「 B は B ,A は A で あ る。 ( A ,B :名詞)」
とい う対比的な情報呈示を とる場合,同語 反復文 「 A は A である」 を, A の概念の 独 自性の不変を強調 ・再認識す る意味 に解 釈す る (ことを試みる) 。
̀ 巧虫自性 の不変"の原則 の下 で解釈 され うる同 語反復文の例 としては, ( 4 7 ) ,( 48 )などが挙げ ら れると思 う
。( 47) (アメ リカはアメ リカ,) 日本 は日本であ
る。( 48 )( 君 は君,) 太郎 は太郎だ。
" 独 自性" は, その概念が恒常的に有すると認 知 され るものである必要 はない。対比的な表現が とられ ると, 修飾節の同語反復文 「 B は B
,」 が 文脈 とな って主節の同語反復文 と対照 させ られ, 主節 の反復語 A の指示す る概念 の,修飾節 の反 復語 Bの指示す る概念 に対 す る相違点 を話題 と する談話世界が想定 され る。 その結果,聴者 は, その相違点 に基づいた独 自性の不変を認 めること になる。
( 49 ) a. ?心理学 は心理学だ。
b.生理学 は生理学,心理学 は心理学 だ。
たとえば,文 ( 49 a) が文脈か ら切 り離 されて与 え られた場合,一般 には心理学 という反復語 に対 し強い価値評価や独 自性 を感ず ることがで きに く いために, " 価値評価の不変' 'や " 独 自性 の不変"
の原則を適用 しに くく, このままではその発話の 意図が推測 しに くい。 しか し , ( 49b)のよ うに, 対比す るに足 る対象が具体的に示 され ると,その 違 いを話題 とする談話世界を想定す ることがで き, その意味が容易 に解釈で きるようになる。
ただ し, そ うした談話世界 は, ただ単 に二つの 名詞 A, B を並べ ただ けで は想定で きない。 そ う した談話世界 は,聴者が A と Bとの間 に共通 の 意味的基盤を見っけやすいほど容易に想定で きる。
一 刀
す なわ ち,A と B とが同 じカテ ゴ リー ・レベル にあ り,共有する意味的属性が多 ければ多いほど, その対比 は理解 されやす くなる。 例文 ( 50) の a , b, Cを比べてみてほ しい。
( 50) a. ?烏 は烏,心理学 は心理学だ。
b.?認知心理学 は認知心理学, 心理学 は 心理学 だ。
C .生理学 は生理学,心理学 は心理学 だ。
以下 に記す二つの原則 は, 日本語 に特有 な もの と考え られ る。
" 所属性の不変"の原則 :
「 a だ って ( あるいは ,a も, など) , A は A である」 の文形式 をとり, かつ ,a が反 復語 A の下位事例, と くに典型 的 で ない 事例を表わす概念である場合, その同語反 復 文 を " a が実 際 に は A の下 位事 例 で あ る" ことを強調 ・再認識す る発話 と して解 釈す る (ことを試み る)。
" 所属性 の不変"の原則 の下 で解釈 され うる同 語反復文の例 としては, ( 5 1 ) を挙 げることがで
きると思 う。
( 5 1 ) ペ ンギ ンだ って,烏 は烏だ。
一般 に,語の指示す るカテゴ リー概念 の境界 は, その語 の発せ られた文脈や状況次第で変わ りうる ( Bar s al ou,1 9 8 3 ,1 9 8 5;Lako f f ,1 9 7 3 ,1 9 8 7 ,1 9 9 0 ) 。
したが って,たとえば,みかん箱が机 として機能 しうる ことを述 べ た文脈 の下 で は,みかん箱 が ( 一 時的 に)机 の カテ ゴ リーに含 め られ るため, ( 52 )のよ うな同語反復文 もたやす く容認 され る よ うになる。
( 52 ) みかん箱だ って,机 は机だ。
" 所属性 の不変"の原則 によ って言及 され る事 例 a は, カテ ゴ リ ーA の事 例 と して受 け入 れ ら れ るものでなければな らないが, " 典型的 ( t ypi ‑ c al ,pr ot ot ypi c a
l)"(たとえば, Ros c h,1 9 7 3;
Ros ch & Me r vi s ,1 9 7 5 ) な ものであ ってほな ら
心理学評論
,v
ol.
42, No 1ない。次の ( 5 3a) 〔 ( 5 1 ) に同 じ〕 と ( 5 3b)を 比較 して もらいたい。
( 5 3 ) a . ペ ンギ ンだって,鳥 は鳥である。
b. ?すずめだ って,烏 は鳥である。
( 5 3a) は容認 しやすいが, ( 5 3b) は容認 しに く い。 この両者の違いは,ペ ンギ ンの鳥 としての典 型性 とすずめの鳥 としての典型性の差に起因する。
つまり , ( 5 3 a) のように a が A の典型的でない 事例の場合 は受 け入れやすいが,( 5 3b)のよ う に典型的な事例である場合は,それな りの文脈 ・ 状況がない限 り,受 け入れに くい表現 となる。
" 所属性の不変" の原則が同語反復文 「( a だ っ て,)A はAである」 に適用 されると,反復語 A は,文脈 中の語 a の上位 の レベルにあるカテ ゴ リー概念を指示するものとして解釈 される。 これ 杏,荊 述 の " 独 自性 の不 変"の原 則 が 「( B は B , ) A はAである」 に適用 される場合 と比べて みよ う。後者 の場合 には,A は Bと同 じレベル にあるカテゴ リー概念を指示するものとして解釈 される。その結果,同一の同語反復文でありなが ら, どちらの原則が適用 されるかによって反復語 Aが異 なる レベルのカテ ゴ リー概念 を指示 す る 場合が生 じる。 たとえば, ( 5 4 ) の a を bと比較
してみては しい。
( 5 4 ) a. 人だ って, 動物 は動物だ。 [ 人 もやは り動物である。 ]
b.人 は人, 動物 は動物だ。 [ 人 と動物 は 違 う。 ]
( 5 4a) には, " 所属性の不変"の原則が適用 され る。 「 動物」 は人間の上位 レベルのカテゴリーを 指示 してお り,文全体 としては,人間の " 動物"
としての成員性を強調 ・再認識するものとして解 釈 され る, と考 え られ る。一 方,( 5 4b)に は,
" 独 自性 の不変"の原則が適用 され る。その際,
「 動物」は人間 と同 じレベルのカテゴ リーを指示 してお り,人間 と他 の " 動物" との相違点 を強 調 ・再認識するものとして解釈 される, と言える であろう。
" 主観の不変"の原則 :
反復語が,話者の主観的な心的状態を表 し, かつ,形容動詞の語幹 とみな しうる名詞で ある場合,その同語反復文を話者が話者の 主観的な心的状態の不変を確認する発話 と
して解釈する (ことを試みる) 0
" 主観 の不変"の原則の下 で解釈 され うる同語 反復文の例 としては,( 5 5 ) ,( 5 6 )などが挙 げ られ ると思 う。「 安堵」 は
,「 安心」 と似た意味を もっ ているが,形容動詞の語幹 とはなりえないので, それを反復語 とする同語反復文 ( 57 )は,一般的 には,容認できない。
( 5 5 )楽 は楽だ。
( 5 6 )安心 は安心だ。
( 57 )?安堵 は安堵だ。
3 .4 " 原則" と意味解釈
一般 に,聴者 は同語反復文を解釈す る際に様々 な知識を利用する( 阿部 ・桃内 ・金子 ・李 ,1 9 9 4;
佐山 ・阿部 , 1 9 9 0 ) 。 発話状況に関する知識 , 当 該の同語反復文の発せ られた文脈 ・状況に関する 知識,反復語およびその指示す る概念 に関す る知 識,そ して,上記 の原 則 の中で も触 れて い る, 個 々の同語反復文が埋 め込 まれ る慣用的表現パ
ターンに関す る知識,等々であるOそ うした各種 の知識 を利 用す る上 での条件 を述べ た ものが, 我々の言 う " 原則"の条件部分であるといって も
よいであろう。 いずれかの " 原則"の条件 にあて はまれば,同語反復文の意味処理 は進む ことにな る。 もしいずれにもあてはまらなければ,そ して その他の手がか りがなければ,その同語反復文の 意味は結局 は捉え られないことになる。
すでに述べたように,同語反復文の中には,そ
の意疎 ( あるいはその発話の意図)を解釈 Lやす
いもの もあるが,そ うでないものもある。我 々の
考えに従えば, " 原則" を適用できるあるいは適
用 しやすい同語反復文 はど理解 しやすい同語反復
文になる, ということになる。逆 に言えば,ある
種の同語反復文が他より解釈 しやすい理由は,聴
者がそれ らの同語反復文に対 しては (" 原則" と
佐山 ・阿部
同語反復文の意味解釈
呼ばれ る)ある種 の知識を適用す ることがで き, 文字通 りの意味を超えた意味を計算す ることがで
きるか ら, とい うことになるわけである。
基本的に,同語反復文が伝え る意味 は,隠喉文 と同様,主語および述語 (いずれ も名詞)が もっ 何 らか の属 性 情 報 とい う こ とが で き る.隠 峻 文 「 A は Bである」 ( あるいは 「( ART) A be ( ART)B」)を解釈 し受 けとることので きる属性 情事 削
ま, Bの もつ属性の うちのある特定部分 に限 定 され る, つまり
,Bか ら自由に連想 され る属性 よ りも絞 られた もの となる ( Sear l e,1 979 ) 。同様 に,同語反復文を解釈 し受 けとることので きる属 性の種類 は, " 原則" の条件部分 によって限定 さ れ る。同語反復文 と隠喰文の伝える属性情報 は, ともに,述語が本来 もっ属性情報 の うちのある特 定部分 に限定 され ると して も, その両者の限定の 程度 には多少の違 いがあると考え られ る。隠噛文 の場合 には,同 じ述語 Bが使 われ た と して も, 主語
Aが異 な る と
,Bか ら受 け とりうる属性情 報が異 な って くる。他方,同語反復文の場合 には, 上で我 々が指摘 したよ うな, " ( 正 または負の)価 値" , " 独 自性" , " 所属性" といった特定の性質を もつ属性情報 に固定 される。 その意味で,同語反 復文の方が,隠幡文 に比べて,伝え られ る属性情 報の限定の度合 いがよ り大 きくまた固定的である
と考え られる。
さて, ここで もう一度我 々の提案す る " 原則"
の条件部分を見比べてみてほ しい。 それ ら条件の 中には, " 価値評価の不変" の原則 における 「 概 念
Aが価値評価 を伴 うこと」, あるいは " 独 自性 の不変"の原則 にお ける 「 A が独 自性 を もっ こ と」の よ うに,反復語
Aの意味的 な性質 を指定 す る もの と, " 独 自性 の不 変"の原 則 にお け る
「
Bは B, A は A である」 や " 所属性 の不変" の 原 則 にお け る 「 a だ って,A は A で あ る」の よ うに,特定の文形式をとることを要求す るもの と があるのが分か るであろう。 では,反復語 A が, ある原則 に指定 された意味的な要件を備え,同時 に, それ とは別の原則 によって要求 され る表現形 式 を とる場合,問題 の同語反復文 「 A は A であ る」 はどのように解釈 されることになるのであろ うか。 ( 5 8 ) の a と bと C を比較 してみてほ しい。
( 58 ) a. 宝石 は宝石だ。
b.