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岡本 和範 * 大曲農業高等学校

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(1)

数学科における 「 考える」授業の実践 I

岡本 和範 * 大曲農業高等学校

杜 威‥

秋 田大学教育文化学部 高校 の現場で,殆 どの数学教師が捉えている 「 考え る」授業 とは, アル ゴ リズム化 した 解法 の手順がない ( 経験 した ことのない)問題 を与 え,生徒 に熟考 させ る授業 の ことであ る.実際そのよ うな授業で は,難 しい問題 を考 えさせ る必要があるため,教師側が始 めか ら敬遠 した り,生徒が手 をっ けることがで きないか ら,考 え ることす らで きなか った りす ることが殆 どである.

一方,脳科学 の研究で は,人間 は話 しているときに も動 いているときに も考えていると いわれている.脳が活発 に活動 している状態が 「 考 えている」状態 なのである.

本研究で は,脳科学 の知見を参考 に,脳が広 い範囲で活性化す る活動 とよ り高次 の領域 で活性化 させ る活動 を,数学 の学習活動 に結 びつ けて考察す ることによって効果的な学習 指導方法 を整理 した.また

,

「 考 え る」ことによって脳を鍛 え るにはどのよ うな活動が望 ま しいのかを明 らかに した.さ らに

,

「 考え る」授業 の実践 とはどうあ るべ きかを考案 した.

キー ワー ド:考え る,脳細胞 の活性化,概念形成,関連づ け,文脈配置

1.

は じめに

最近,脳活動 の画像診断技術 の急激 な向上 に伴 っ て,「 数学 の難 しい文章題 を解 くよ り も一桁 の足 し 算 の繰 り返 しの方が,脳が活発 に活動 している」 な どは明 らかにされてお り,次の図 1

, 2

,

3

,

4

に まとめ られている( 1 ) .図

1

‑図

4

において, 左 右 が それぞれ左脳 と右脳 を表 しているものであ り,黒 く みえ るところは,活動 している部分である.

川島民 らのチーム

(200

1 ) は,学習 によって脳 の 広 い範囲を活性化 させ ることに注 目 し, 過 5 日間,

20

分程度 の

1

桁 の足 し算や読 み書 きを痴呆患者 に行 わせたところ,症状 に明 らかな改善が認 め られた と

2002

1

22

日受理

ITeachingThinkingSkillsinMathematics Courses

*KazunoriOKAMOT

O

,AkitaPrefectural OomagariagrlCulturalhighschool H DuW EI,FacultyofEducationandHuman

Studies,AkitaUniverslty,Akita

1 桁の足し算をしては 8 棚 舌動

1 桁の引き算をしてい柵 脳活動

1 桁のかけ算をしても 噂時の藤 吉動

図 1 簡単な計算のイメージング

(2)

襟脚 覗妊角 乳町も 喝時の脳活動

文章駄 解 し てL 喝時の脳活動

文章

一計算

図 2 文章題のイメージング い う.

学習療法 と名付 け られた この方法 は,脳の発達障 害なとの治療,記憶力の向上,す ぐにキ レル子供の 情動 の抑制をす る研究などへの応用が進んでいるよ うである.世界的にも注 目されている研究で

,2002

12

月, 日米英仏の脳科学者 らが共同の研究組織 を 旗揚 げ した. また, 教育現場 の声 と して も陰山氏

(2002)

らが,百升計算 は学力向上 に効果 が あ る こ とを経験的なデータか ら提唱 している.

脳科学の研究 は, ここ

20

年間で急激 に進展 した分 野であるが,私たちが調べた限 りでは脳科学 と学習 を結 びつけて扱われている研究 は, まだ少 ないよう である.今後,われわれ教育現場等 に携わる者 とし て,上記 のような脳科学者が生理学 的 に実証 した, またはこれか ら実証す ることを基 に して,経験的な データをより一層理論的に整理 してい くことは盛ん に行 っていかなければな らないと考える.

本研究 は,第‑ に,現在,明 らかにされた脳の発 達や,種々の機能を,数学の学習に結 びつけて考察 す ることにより効果的な学習方法を整理す る.第二 に,高校 における数学の学習活動を概念形成,関連 づけ,文脈配置の

3

つの観点か ら, 「考 え る」 こと によって脳を鍛えるためには, どのような活動が望

32

ま しいのかを考察 し,それを通 して考える授業の実 践 とはどうあるべ きかを考案す る.

2.

「 考える」授業

まず

,

「 考える」すなわち 「 思考」 の規定 で あ る が,論理学では,思考 という働 きは,観察や記憶 に よって頑の中に蓄え られた内容を関連 させ,新 しい 関係を作 り出す働 きとみなされてお り,その基本形 式 として,概念作用,判断作用,推理作用の三つが あげ られている.心理学で も, これを借用 して思考 を説明 しているものが多い. また,以上の

3

つの作 用 に問題解決を加えているものや,問題解決その も のを思考 と考えているもの もある.

高等学校数学科では,今回の学習指導要領で,新 たに 「 数学的活動を通 して創造性の基礎を培 う」 と いう文言が加え られたが, この数学的活動 というの が, それまで,問題解決能力や考える力 と表現 され ていた ものであ り,詳 しく述べ ると, 「身近 な事象 を数学化 し,数学的な課題を設定す る活動」 ,「 数学 的に考察,処理 し,数学的知識 ( 数学の新 しい理論 ・ 定理等)を構成す る活動」 ,「 数学的知識を意味づけ た り,活用 した りす る活動」 などがあげ られる.

本研究では,上記で述べた様々な作用や活動を全 て 「 考える」 と捉えている.ただ し,図

1

,

2

で示 した通 り,脳の活動 には程度の差 が あ るため, 「よ り」脳を活発 に活動 させ るための授業 として 「 考え る」授業 とす る. よって

,

「 考える」 授業 とは, 数 学の教材を媒介 として,脳を活性化 させ,脳の発達 を促す授業を目指 していることになる.

3.

考える活動の促進

A.

概念形成

ここでは,数学の授業 における概念獲得の過程 に ついて 「 考える」活動を述べる.

a.

経境

は じめに,脳の成長は環境か らの刺激の種類によっ て直接影響を受 け,その成長 は

20

歳 になって も終わ

らない. この脳の成長を促す刺激 とは 「 主体的に関 わ った経験」が必要であることを多 くの研究者たち が明 らかに している.

実生活 において, いろいろなことに興味を持 って,

秋 田大学教育文化学部教育実践研究紀要

(3)

主体的に関わるとい うことは,環境か ら解決すべ き 問題を見つけることである.子供の頃は,好奇心を 持 って,見て,聞いて,触 って,臭 いを嘆いで,時 には口の中に入れ るなど,全感覚的情報を統合 して 判断す ることであ り,例えば身体を使 った遊 びがそ れにあたる. そ して,成長す るにつれて,具体的事 象か ら抽象的事象へ と経験への関わ りが広が って く

る.

それでは,高校数学の授業で,主体的に関わると いうことは, どのような場面が想像で きるのであろ うか.解決すべ き問題を見つけるという観点か ら考 えてみ る. まず,数学の問題を解 く場面を想像 して みる.大 まかに分類す ると,

①問題提示 ②問題解 き ③反復練習 となる.多 くの生徒たちは,③の段階で, テス ト対 策や受験対策 といった名 目を掲 げて主体的に取 り組 んでいる.( 丑の段階 は,教師が進度や習熟度 にあわ せて問題を選んでや り,②の段階では,真面 目に板 書 された内容をノー トに写 しているといった状況が, 筆者 の経験 した実際の授業風景である. しか し,本 来であれば,②の段階で, 自ら問題を発見す ること

を しなければな らない.次 に例をあげる.

問題

a‑7

,

b‑8

,

∠C‑1200

であ る三 角形

ABC

について, この三角形の内接円

もし, この間題を解 こうとした生徒が,

S‑昔 (

a+b+C ) という公式を学習 していたな ら, (i )三角形

ABC

の面積

S

(止)Cの長 さ

を求めなければな らないと気付 くであろう.つまり,

(i)

(止) に焦点をあてて考える必要が出て くる.

これは, 自 ら主体的に問題を設定 したと言えるので はなかろうか. これは,③ の反復練習で も繰 り返 さ れることで, そのような意味で数学 は,解決すべ き 問題を見つけ,主体的に関わるための格好の シ ミュ

レーションであると言えるのではなかろうか.

しか し,実際教科書 の問題か らセ ンター試験 の問 題 までを見てみると,上記の解決 すべ き問題群 は, 小間 という形式で出てきており,生徒の発見するチャ

ンスを逸 しているように感 じられる.普段の授業か ら意識 して,生徒 に解決すべ き問題を発見 させ る指

導を心がける必要があるように思われる.いずれに せよ,数学 には,大な り小 な り解決すべ き問題を発 見 させ る材料がた くさん存在 してお り, それ らに生 徒が主体的に取 り組む ことが,数学の概念を獲得す

るための前提条件 となる.

次 に,生徒が主体的に経験 に関わるためにわれわ れ教師がどのように接すればよいのかを考察す る.

まず,世話 をす る人 に強 く管理 された子供 は,物 事を率先 してやる気風や思考の技能 に欠 けていると 考え られる.大人が過度 に活動を統制 した り制限 し た りす ると,子供たちは問題解決能力や精神力が弱

くなる. また,度 の過 ぎたせ っかん, 体罰, 罵倒, あざけりも子供の発達を妨 げる.一方で, いろいろ な学習場面 において,大人の導 きがなければ,子供 は深 く考えた り,対応 した りす ることがで きないこ とも明 らかである.例えば,主体的な経験 によって 記憶 されることも,大人 の適切 な問いかけやア ドバ イスがあれば,子供 はいろいろな角度か らその経験 を捉え直す ことがで きる. また,与え られた時間内 に問題を解決 しようとす るときには,熟練 した大人 のア ドバイスが必要 になる.

以上 より,我 々の目標が,能動的な学習者を育て ることであるな らば, 自分 自身の思考を構築す るた めに素材を選べ るようにす る指導が望 まれているの ではなかろうか.つまり,われわれ教師の課題 とは, 過剰 な支持 と,生徒 自身の問題解決能力を後押 しす

ることとのはっきりとした境界線 を見極めることで あ り,指導の主眼は生徒 に何かを教えるのではなく, 生徒がいかに して自分の経験や考えをまとめ上 げる かを見つける手助 けをす ることであると思われ る.

そ こで,次の

b

では経験をまとめ上 げること,

C

では考えをまとめ上 げることについて考察 してみる.

b. 経験をまとめ上げること

脳科学 の知見か ら

,

経験 された事実 は,一つの記 憶 として, ニューロンIのネ ッ トワー クとな り一時 保存 されているが,およそ 2 年を過 ぎれば,永久保 存のために皮質へ転送 される. また,継続的に使わ

なければ, そのネ ッ トワークは消滅 して しま う.

(2)

とい う.

†もっとも主要なタイプの脳細胞であり,脳の活動の中

心的役割を担っている.ニューロンの役割で大事なのは,

他のニューロンに素早 くメッセージを送ることであL J,

これは電気信号によって伝えられる.

(4)

このことを,数学の言語 ( 数学的用語や記号,数 学特有の言い回 しなど)の獲得 という側面か ら考察 してみる.例えば,高校の数学 Ⅰで,最初 に出て く る用語の 「 頂点」 は, どの教科書 もグラフを書 き, 軸 と放物線の交点 という形で視覚的 ・言語的に説明

している. ここで, もし,生徒が,学習が進んだ後 も 「 頂点」を意識 していれば,平行移動では (グラ フを点の集 まりと見たときに)一番特徴のある点だ ということを確認する. また,頂点 と,

2

次関数の グラフの値域や

2

次方程式の解の公式,判別式 との 関係で, さらには数学 Ⅱの微分法 な どで, 「頂点」

に注意を向けることによって, いろいろな意味を吹 き込んでい く ( 「 頂点」 という箱 に物 を入 れ るよ う に意味を持たせて行 くことであるが,概念を形成 し てい く過程のことである.以下 も同様) .

つまり,数学の言語を継続的に使 うということは, 繰 り返 し意識 していることであ り,その結果,その 言語 に吹 き込 まれる意味が広が り,概念を形成する ことにつながると考え られる.そのため,われわれ 教師は,生徒を問題 に向 き合わせるのと同時に,関 連す る既知の知識に注意を向けさせる手助 けをする 必要があると考え られる.

.

考えをまとめ上げる

「 経験をまとめ上げること」 と 「 考えをまとめ上 げること

には密接な従属関係がある.つまり, ま とめ上げ られた種々の経験を組み立てることによっ て思考が行われるのである. ここで は, 「公式」 を 例 に,数学の学習が,考えをまとめ上げるのに,非 常 に相応 しい科 目であるという立場で考察する.

まず,公式 は 「 公式その ものが解法全体を表 して いなければな らない」のであるように,用いるとき は,概念 も同時に呼び出すよう心掛 けなければいけ ない. ここでいう概念 には,適用条件や公式を導 く 過程, また,他の問題で用いたときの前後のつなが

りなどのことも含む.熟練者 と初心者の違いは, こ の概念を背景 として公式を使えるか,すなわち公式 を 「 考えがまとめ上げ られたもの」 として捉えて活 用 しているかどうかに現れて くる.

公式を,概念を想起 しなが ら使えるようになれば, どのような条件の時に使えるか, ということを意識 しているため,問題文 に隠れた適用条件を見出すよ うになる.その結果,前後のつなが りを捉えたうえ で,何が重要かを見抜 けるようにもなる. また,何

34

と何か ら何が求 まるかという関係が,一見 してわか るようになっているので的確な視点で問題を分析で きるようになり,与え られた数値か ら新たに導 くこ とのできる値 はどことどこなのかということを的確 に判断する. さらに,公式を導 く過程 にヒン トが隠 されている問題 ( 多 く見かけられ る) に対 して は, 公式を分解 した形で使えるようになり,最初か ら公 式を変形 した形で用いることに違和感がないな ど, 数学の概念の形成や定着に良 い効果があると思われ

る. くれ ぐれ も,公式を記号的なものとして扱わな いことや連想的な処理を しないことに注意する必要 がある.

d. 本当に考えているか

2

において,考える行為を脳がより活発に活動 し ている状態 と定義 したが,上記

b,C

で, 生徒 は本 当に考えているのだろうか.

まず,図

3

と図

4

を通 して脳科学の興味深い知見 を見てみよう.

物療表職

見せてその朝痕軌 イ メ ‑ミ ルてt . 棚 舌動

琵 ‑I ‑ IF ‑ : ‑ ‑ ・ j L :?

F 鰯

i三

‑ :‑ I ‑ ‑‑ I i = ' 冒 図

3

空想のイメージング

3

は 「ものを表す単語を見せて空想 していると きよりも, ものを表す単語

2

つか らなる造語を見せ

秋 田大学教育文化学部教育実践研究紀要

(5)

て, その物を空想 している時の方が,脳 は活発 に活 動す る

.

とい うことを示 している. そ して, 図 4

は,数唱のイメージングを示 している.図

4

の上段 が,声 を出さないで

1

か ら

10

までを繰 り返 し数 えて いる時の脳活動 の状態を示 し, 中下段 は,

101

か ら

110

まで と,素数 を小 さい順 に暗唱 して い る時 の脳 活動 の画像診断図である.下 にい くほど活発 に活動

していることが分か る.

1ら10

まで封憤番に噌喝しても 噂時の脳活動

101ら110

まで酬 勇 番に暗唱して

L

喝時の脳活動

素数を小さし1 勝 a暗唱してし 喝時の脳活動

図 4 数唱のイメージング

この図 3と図 4か らは,活動 の内容が同 じであれ ば, よ り複雑 な問題 の方が脳 は活発 に活動す るとい うことが分か る.

しか し, 一 方 で は, 図 1 ,図 3 と図 4 か ら,

① 複雑 な計算問題 を解 いているとき

② 一桁 の足 し算 を しているとき

③ 数唱 しているとき

の順で脳 の活動 は強 くなる, という結果がでている.

私 たちは,以上 の ことを,次 のよ うに考 えた.宿 動 の内容が同 じであれば, よ り 「 複雑」 な問題 の方 が脳 は活発 に活動す るとい うことは脳科学 の知見か らも明 らかな ことである. ただ し, ここでい う 「 複 雑」 とは

,

「よ り概念化が必要」 とい う意 味 で, 難 しくした り手間を増や した りとい う意 味 で はな い.

われわれにとって 「 数」 とは,最 も身近 な ものであ り,「 数」 には, 色 々な意 味 が吹 き込 まれ て い る.

それ ら種 々の意味を数 と同時 に引 き出 しやすい状況 が,③‑②‑① の順番 になるので はないだろ うか と 考え る. そのため, 学 習 にお いて は, 無意識 的 に ( 精神的に負担がかか らな くな る程度 まで習熟 させ ることによって)種 々の概念 を想起 しなが ら,問題 解決 をさせ るよ うにすれば,脳を活発 に活動 させ る

ことにつなが ると考え られ る.

従 って,用語や記号を呼 び出す ときには,概念的 知識 を同時 に呼び出す ことで,脳は活発に活動する.

また,公式 は概念 を想起 して使 え るようにす ること で,脳が活発 に活動 し,考え る授業 につなが るので

はないか と考 え られ る.

次 に, もう一つの問題,「 一桁 の足 し算」 と 「難 しい文章題」 の脳活動 の比較 に対する疑問であるが, この ことには,次 のよ うな ことを考えている.

難 しい文章題 の方でよ り強 い活動を している楕 円 形 の部分 は,前頭前野 とい う領野である. この前頭 前野 とい う領野 は,人間 と他 の動物 との違 いを最 も 特徴的に表す場所であ り,思考す る,行動 を抑制す る, コ ミュニケーシ ョンをす る,情動の抑制をする, 意志決定 をす る等 の働 きを司 る

(3).

また, 脳 は低次

の機能か ら高次の機能へ と次第 にその形態を整えて い くのであるが,前頭前野がその形態を整え るには

20

年以上 の歳月が必要であることも明 らかにされて いる.以上 の ことを考慮す ると,確かに脳 の広 い範 囲を活性化 させ るとい う意味で は,一桁 の計算 の繰 り返 しの方が効果的で はあるが,高次 の機能 を活性 化 させ る目的で は,文章題 の方が効率的であるとい

うことになる.

高等学校で学ぶ数学 に話 を戻す と,

b

,

C

で述べ た ことを しっか りと実践で きれば,一桁 の足 し算 と 文章題 の両方 の効用を享受で きることにな り,数学

は脳 を活性化 させ るために非常 に相応 しい科 目であ るとい うことになる.

B.

関連づけ

ここで は,以上で述べた獲得 された概念 を関連づ け,整理す る過程で 「 考え る」 とい う行為 を考察す る.

まず,脳科学 の知見で,認知物体失認 とい う症例

を もつ複数 の患者 のデータか ら,人間 は物体 をカテ

ゴ リー ごとに分類 していることが明 らか にな ってい

(6)

る. さらに進んだ研究では,例えば,人の名前を扱 うカテゴリーが損傷 した場合,それぞれの人物の名 前 は忘れて しまうが,特徴や,一緒に過 ごした記憶 など,それぞれの人物 に関連 した事象は覚えている.

しか し, スク リーンや記事で目に しただけの有名人 などは,全 く忘れ去 られているという.

このことか ら,私たちは,図 5 のように,概念の 代表的表象を網紐の結節点に喰えて,第一に,一つ の概念に対 して, L結節点を多 くつ くる必要があると 考えた. この結節点 とは,概念を引き出す ときの取 手の役割を担 っているという理由か らである.第二 に, この結節点 は,種々のカテゴリーに分類 されて 整理 されるが,つ くり出 した結節点の中で,最 も重 要な点を認識 し, どの取手か らつまみ上 げて も,そ の重要な結節点が中心 となって引き寄せ られる強固 な紐でつなげていることが大切であると考えた.そ の結果,ある結節点をつまみ上 げると,その結節点 の近 くも影響 されて持ち上がるが,同時に,強い繋 が りで結ばれた重要な結節点の近 くも影響 されて引 き寄せ られるということになる.そ して, この近 く で影響を受 けた結節点を参照す ることが,関連づけ であると考えている.

5

関連づけのイメー ジ

認知心理学の研究では,一つ一つの概念 に関 して いえば,初心者 も専門家 も同 じような概念を持 って いる. しか し両者の違いはその関係づけにある.初 心者 は多分 に連想的でまとまりが感 じられないのに 対 して,専門家 は,概念間の関係づけが明確になっ ている.何が重要であるかという認識 も明快である.

初心者 と専門家の違いは, この関係づけの仕方にあ る.そのため,バ ラバ ラに覚えた知識を専門家のよ うにまとまりの良い知識 に してい くことが,初心者 か ら専門家への変化を記述する重要な概念であると 考えているが, この連想的な関係づけが,重要な結

36

節点を引 き寄せていないために起 こることと考え ら れる.次の例を見てみよう.

A

,

B2

人が相撲の試合をする

.A

が勝つ確率 は与 であるとし, どち らかが

3

勝 した時点 で 試合は終わるものとする. このとき,

A

3

この問題では

,3CIX(

i)2 (

i)

ׇ が正 しい立式 な のだが,次の①②のように立式 して間違 う生徒が多 数見かけられる.

① ( i)3 ( i), ②

4C

l 〔 を ) 3 ( i)

生徒 は,問題を読みとるため, いろいろな確率の 概念的知識を呼び出 して考えるが,①では,同様な 確か らしさの原理 に関する概念的知識を しっか りと 呼び出 していなか ったこと,②では場合の数の概念 につながる場面設定が うまくできなか ったこと, に よって間違 ったものと思われる. ここで,② と比べ て,①で呼び出せなか った概念 は,上述の重要な結 節点 にあたると考え られるため, より問題がある.

それでは,以上のような,概念間の関連づけを行 う過程で,われわれ教師はどのような役割を担 うべ きであろうか.

脳科学の知見で 「 人間は,明 らかに,それぞれの 必要性 に合わせて新 しい結合をつ くる名人である.

信 じられないほどの柔軟 さで, どんな能力で も頻繁 に使 って身につけ,改造 し,向上 させ,磨 きをかけ ることができる.それはひとえに刺激の結果なので ある.

(

4 )ということが述べ られている. 刺激 とは, 注意を向けて意識す ることであり,われわれの脳は, そうすることによって自動的に最適な結合をっ り出

して くれるのである.そのため, ここで も生徒が主 体的に関わるということが大切になる.

しか し,数学 は小中高 と進むにつれて, より抽象 的にな り, 日常 との結びつ きが弱 くなって くる.学 習の積み重ねがあるにせよ,それ らの記憶だけでは 新 しい事象に対応で きないことがある. これ らは実 社会で も同様 にいえることで,新 しい状況に対応す るためには今までに経験 したことのないことを表象 する能力が必要 となる.我々教師の直接的な役割は, 言語や記号を用いて,先人たちの多量の概念や知識

秋 田大学教育文化学部教育実践研究紀要

(7)

を伝えることであるが,上記 のような場面を想定す れば,生徒 に知識を発見 させ,新たな概念を構築す る経験をさせ る必要がある.一方,教師の持っ概念 や知識が全て言葉で教え られた ものであれば,生徒 の概念体系 は,教師 と同 じであ り続 けるか も知れな いが,経験か ら何かを学ぶのであれば,二人が全 く 同 じ経験を して も,両者の概念体系 は異な って くる であろう.

以上 より,われわれ教師は,模範的な概念体系を 正確 に伝えることを目標 としなが らも,生徒の経験 を尊重 し,生徒が自らの経験をまとめ上 げる形で概 念を形成 させ る導 きをす ることが大切 にな って くる

ことがわか る.

C.

文脈配置

ここでは,以上で述べたことを道具 とした問題演 習 に取 り組む場面で,「 考える」 とい う行為 を考察 す る. ただ し,問題を解 く際に,概念を背景 として 解 いているため,「 考えている」 とか, 問題 を解 く ことによって新 たな概念の広が りが得 られ ると考え るが,「 考えている」 ということは, 1 と 2 で述 べ てあるので,以下では,生徒の解答づ くりに焦点を あて,考えや情報を理解 ・統合 し,適切 な言語を見 つけ,それ らを並べ る場面で 「 考える」 とい う行為 を考察す る.書 いて表現す るとい うことは,考えを 他者 に伝えるためだけでな く,課題 の理解を明確 に し, 自分の考えを検討す るために用 い られ る,最良 の手法であ り,思考 と言語の能力を調べ る究極の検 査法であると考えたか らである.

そ こで, まずは熟練者 と初心者 の解答づ くりの違 いを考えてみる.実際の学習場面では,われわれ教 師が生徒 に示す解答 は何 らか ( 思考の流れや操作の 手順を意識 した り,高次の刺激を与 えた り, な ど) のメ ッセージが込 め られている.それに対 して,殆 どの生徒 は,分か る ( 操作で きる) ところか ら,辛 をっけ,再 び全体 の文章 に戻 り,情報を置 き換えた ことによって, さらに分か る箇所 に手をつけ,解答 をつ くるように見え,その記述 は,思いっさであり, 系統的に思考 と言語を組み合わせたようには映 らな い. さらに詳 しく述べ ると,熟練者 は,殆 どの問題 で ワーキ ングメモ リーと呼ばれ る記憶 を使 った作業 を行 い,解答をす る.例えば,

y‑x2‑2x‑3

のグラフが,

x

軸 か ら切 り取 る

という問題では,

2

次関数のグラフと線分の概念 を同時 に心の中で処理 し,解を得 るには 軸 と放物 線の共有点がわかればよい, と見通 しを立て, さら

に問題の本質を捉えた うえで解答 に入 る. この,解 答 に入 るまでが ワーキ ングメモ リーで行われ る作業 である. しか し, この一時的に心 の中に止めてお く 記憶 は,短期記憶 といって,個数で

7±2

個,時間 で,せいぜい

10‑30

秒程度 しか保持で きず,時間 と ともに失われるものである. そのため初心者 は,見 通 しを立てることがで きず,思 いっ さで解答を始 め る. また,問題の本質を意識 した解答をっ くること がで きず,復習で 自分の解答を振 り返 ったときに戸 惑 って しまう. そ こで,私たちは,下書 きを重視 し た学習活動が大切であると考えた. その理由は次の 通 りである.

初心者 は,熟練者が頭の中で行 う作業を下書 きで 代行す ることにより,充分な時間が与え られ, じっ

くりと 「 考える」 ことがで きる. また,その問題の 本質 は何か, 自分 はどこで蹟 いたか,などを確認 し, 後 に振 りかえるであろう自分を意識 した解答をつ く

ることにより,下書 きを媒介 として自分 自身 と対話 し, うま く表現 しようと 「 考える」 ことがで きる.

4 . 最後 に

以上の考察をまとめて,考える活動を促進す るた めには,数学的な言語 は,概念を背景 とした呼び出 しが無意識的に行われるように, また,公式 などは 考えがまとめ られた ものとして活用で きるように成 らなければな らない. さらに,下書 きを大切 にす る ことにより,一つの解答文 に, ひとっの考え全体を 当てはめて表現で きるように,繰 り返 し意識 して取 り組む ことが必要であると考え られ る. その結果, 脳が活発 に活動 し,脳の発達を促す と考え られ る.

本研究を行 う根底 には,今 まで心の中で捉え られ

ていた 「 考える」 という行為を,生理学的な面か ら

捉えることにより,説得力を もって,生徒の活動を

支援で きるのではないか, という思 いがあったのだ

が,今 まで重要 とされて きた種々の学習や指導の方

法が正 しか った ことを確認 しただけに終わ って しま

うのではないか という不安 もある.今後,学習療法

(8)

の進展を参考に し,改善 させてい く必要があるとと もに,高等学校の現場において,共感 して くださる 先生方 とともに,本研究で確認 したことを実施する ことにより評価を与え,改良 していかなければな ら ないと感 じている.

引用文献

( 1 ) 『 高次機能のプレインイメージング』川島隆太 箸 医学書院

2002 pp.131‑163

( 2) 『 脳の探求』 スーザ ン ・グ リー ンフィール ド著 中野恵津子訳 無名舎

2000 p.123

( 3) 『 読み書 き計算が子 どもの脳を育てる』川島隆 太箸 子 どもの未来社

2002 pp.18‑21

( 4 ) 同 ( 2 ) p. 7 7

参考文献

1.

『 知性の進化』 ジョセフ

・C

・ピアス著

西村

弁作他訳 大修館書店

1995

2.

『 認知心理学への招待』御領謙 ・菊池正 ・江草 浩幸共著 サイエンス社

1993

3.

『 記憶 の神経心理学』 山鳥重著 医学書院

2002

4.

『 言語の脳科学』酒井邦嘉著 中公新書

2002 5.

『 認知科学

8

思考

中島秀之 ・高野陽太郎 ・伊

藤正男共著 岩波新書

1994

6.

『日本語 と数理』細井勉著 共立出版株式会社

1985

7. 『 数学的思考の構造』塚原成夫著 現代数学社

2000

8.

『 数学科教育』橋本吉彦 ・町田彰一郎 ・杉山吉 茂 ・津田利夫共著 学文社

1999

9.

『 本当の学力をつける本』陰山英男著 文垂春 秋

2002

38

Summary

Teachingthinkingskillsinmathematicscourses inhighschoolmayusuallyImplicateatypeof lessoninwhichteacherglVeSStudentsaproblem, forwhichthereisnospecificalgorithmicrule leadingup to an automaticsolution.Perhaps becausethistypeoflesson appearsto betoo demandingtoteachersaswellasto students, teachers,understandably,tendtoavoiddealing withitintheclassroom,whilestudentsremain onlyperplexedinfaceofsuchatask.However, asrecentresearchinthefieldofbrainscience suggests

,

thinking skills are not necessarily complex higherorder problem solving skills, butratherinvolved in apparently lowerOrder skills,suchasspeaking.Thepresentpaperputs forwardasyllabusforteachingthinkingskillsin mathematics courses

,

whereby an attempt is madetoillustrateseverallearnlngactivitiesfor enhanclngbrainfunctionlngOnthebasisofrecent findingsinthefield.

KoyWords:Think,FormstheConceptbythe ActivationoftheBrainCe

l l ,

ConceptFormation,Relation, ContextArrangement

(ReceivedJanuary22,2002)

秋 田大学教育文化学部教育実践研究紀要

図 1 簡単な計算のイメージング

参照

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