観光客統計におけるFECTO モデルの紹介と適用の検 討 ―アーバンツーリズム研究の方法論的確立への 試論―
著者 淡野 明彦
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 51
号 1
ページ 19‑28
発行年 2002‑10
その他のタイトル The Introduction of the FECTO‑Model in
Statistics on Sightseeing and the Examination of Application of This Model
URL http://hdl.handle.net/10105/376
1.研究テーマの設定
地理学における研究法の第一は,地表に発生する自然 的あるいは人文的(社会的)事象の正確な位置データ
(量や質をも含む)の把握にある.このために,発生し
ている場所での計測,観察や聞き取りといった直接的手 法や,画像,音声情報,統計などの間接的手法が用いら れている.近年の電子技術を中心としたテクノロジーの めざましい発展は,リモートセンシングやインターネッ トによる正確で迅速なデータの入手を容易にし,刻々と
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観光客統計における FECTO モデルの紹介と適用の検討
−アーバンツーリズム研究の方法論的確立への試論−
淡 野 明 彦
奈良教育大学社会科教育講座(地理学)
(平成14年4月30日受理)
The Introduction of the FECTO-Model in Statistics on Sightseeing and the Examination of Application of This Model
Akihiko TAN'NO
(Department of Geography, Nara University of Education, Nara 630-8528, Japan)
(Received April 30, 2002)
Abstract
The purpose of this study is to introduce the FECTO-model that it is devised with the aim of statistical standardization on sightseeing of the city in Europe and examined application to the country of this model to do statistical standardization on sightseeing in Japan. As for the characteristics of the FECTO-model, it is the point that it can get over statistics-like management in the existent data by estimating when it is short of a part of the time series data and mutual comparison between the data can't be done. The fundamental technique of the model is estimated from the data which relate when all the data of it don't depend on actual measurement but data are missing. In Japan statistical supplement on sightseeing is entrusted to each prefecture and the result isn't made public. The number being observed in each prefectures is simply totaled by each city. Still how to investigate each city isn't unified. Because it spreads the statistical standardization on sightseeing, Japan Tourist Association shows how to complement it by it's own model. Because actual measurement data are finally being looked for, diffusion doesn't proceed easily in the time and cost side through this FECTO-model. The effective standardization of the statistics on sightseeing is being asked while the expectation of the sightseeing as a key industry of the city increase. It is pressed for development of estimating model which an existent data according to the model and statistics like technique with was combined for this as well.
奈良教育大学紀要 第51巻 第1号(人文・社会)平成14年 Bull. Nara Univ. Educ., Vol. 51, No.1(Cult. & Soc.),2002
Key Words: statistics on sightseeing urban tourism
キーワード: 観光統計
アーバンツーリズム
変化する事象に即応した精緻な研究を可能にしている.
統計データについてみれば,日本では法律(統計法)
で規定された指定統計として「国勢調査」,「事業所・企 業統計」,「農林業センサス」,「工業統計調査」などがあ り(1),定まった手法で一定の年間隔で全国一律に実施さ れ,その結果は行政実務だけではなく,マーケティング など各分野の研究にも広く利用されている.また,この 結果の公表や閲覧方法として,単なるドキュメント形式 のみならず,電算テープやCD,FDといった各種の電 子媒体も採用されている.しかし,観光に関するデータ は,国内に関しては指定統計として集計されるものはな く,全国的な観光客の入込み状況の把握は各都道府県に 委ねられている.
観光に関する統計の作成にはいくつかの目的がある.
その一つには,到着地における観光のインパクトを評価 する必要のためであり,観光客の数および観光消費額に 関する情報は到着地の経済状況への観光の貢献を決定す るために必要である.第二には,観光統計は観光客向け 施設の整備のための計画の立案に必要である.三番目に は,観光統計は国際的および国内的な観光動向の把握と 市場調査に関わる担当者に必須のものである.
観光が果たす経済的役割は時代とともに重要なものと なり,今日では,先進経済地域でアーバンツーリズム urban tourism の導入が積極的に意図されている.欧米 では歴史の古い大都市の都心部において,1970年代初期 から80年代にかけて,人口減少,高齢化,施設・設備の 老朽化による居住環境の悪化と,産業の空洞化とよばれ る製造業を主とした産業の衰退が起こり,インナーシ ティ問題として主要な都市問題のテーマとなった.同様 な現象は,日本でも東京都区部や大阪市などの大都市中 心部で1980年代に入って明確に認識されるようになっ た.こうした状況に対して,都市の再生や都市の活性化 といったフレーズが声高なものとなり,新規の産業の立 地,人口の還流,居住環境の新たな整備等が試みられて いる.その重要な施策の一つとして,人々の観光対象と して都市の魅力を改めて評価し,観光業を都市の基幹産 業として位置づけようとする動きが活発化している(2). 都市にはこれまでも観光客の来訪を誘発する美術館,
博物館,動物園,遊園地などの施設があり,また純粋に 観光を目的としない業務客もついでに観光施設を訪れる こともあり,観光にとっての大きな集客源であった.今 日のアーバンツーリズムという言葉で表現されている都 市における観光活動への注目は,都市に観光客を集める といった単純な図式ではなく,都市経営そのものにどの ように観光的要素を組み込み,他の都市の活動と連動さ せるのかといった構造化を意味している(Page 1995). 観光をめぐる以上のような動向の中で,政策やマーケ ティングに有効に活用できる正確な基本的データの整備
が急務となっている.本稿はヨーロッパにおける都市の 観光統計の標準化をめざして考案された FECTO モデル について紹介し,つぎに日本での観光統計の整備状況に 対応した FECTO モデルの国内への適用の検討をおこな うことを目的とする.本研究は筆者がアーバンツーリズ ムの研究を進めていく上において,さしあたっての基礎 的な課題である,事象の正確な位置データ(量や質をも 含む)をどのように把握するかということへの試論であ る.
2.FECTO モデルの紹介
2.1.モデルの必要性
FECTO モデルはヨーロッパの諸都市の観光統計の捕 捉を組織化し,現行のデータでは都市間の比較ができな いという問題を速やかに解決することを目的として,
ヨ ー ロ ッ パ 都 市 観 光 オ フ ィ ス 連 盟(Federation of European Cities'Tourist Offices,略称 FECTO)の委託 により開発された推計モデルである.このモデルによる 標準化の特色は,都市レベルでの観光統計において,時 系列データの一部を欠いていたり,データ間の相互比較 ができない場合にも,それらの問題を既存のデータに統 計学的な処理を加えることにより克服することができる 点である.
観光行動に関する統計的な計測は,欧米を中心に1930 年代に開始され,特に国家レベルでの統計の発達と標準 化が進んだ.この結果,出入国者数など観光行動に関す る多くの重要なデータは,既に国家レベルで利用されて いる.Lickorish(1997)はさらに,観光活動の活発化に つれて国家レベルよりスケールの狭い,地方あるいは地 域レベルでの統計と,アーバンツーリズムやルーラル ツーリズム(rural tourism)といった,観光活動の種類 に対応した統計の捕捉が必要なことを指摘している.と ころが,都市レベルについてみると,多くの統計担当部 門は観光客を数えるのに国境点での到着数を利用してい るが,都市そのものへの観光客をモニターするには十分 ではなく,また,都市レベルに視点をおいた統計の必要 性についても議論されていない状況である(Law1993;
Page1995).ヨーロッパにおけるそれまでの観光統計 は,その完成度や有用性を高めるというよりも,かなり 権威主義的なものとして扱われてきた.このため,観光 統計を行政やビジネスといった実務面で活用するには,
かなり不正確なものであった.こうした背景により,都 市レベルでの観光客の計測が必要とされるようになっ た.
2.2.標準化への基本的枠組み
1995年に作業グループが創設され,標準化の基本的な 点についての枠組みに関する議論が開始された.できる
だけ多くの都市に考案された標準化モデルの採用を促す には,用語の定義と計測方法の統一が必要であり,さら には WTO や Eurosat の国際的なガイドラインにも適合 するものでなければならなかった.用語では「宿泊」に ついては,友達や親類での宿泊を除いて,ホテル以外に ペンション,自炊のコンドミニアムなど宿泊施設の計測 は,宿泊施設数とベッド数を一年間の平均的な数字で表 し,捕捉する範囲は都市の境界部分までとし,周辺地域 は除外された.「到着」については,日帰り旅行を含める べきかどうかの議論により,合衆国の例にならって,一 泊以上滞在した者について対象とすることにした.
まず,宿泊と到着について,FECTO の示した枠組み と各都市の現行の計測との相違を捉えるために,ヨー ロッパ内の77の主要観光都市を対象として調査が実施さ れた.その結果,61の都市から正式な回答があった.大 きな相違は,全体の約21%の都市で「宿泊」において全 ての商業的な施設が計測の対象になっておらず,B&B のような個人経営規模の宿泊施設が除外されていたり,
逆に親類や友人への宿泊までもが含まれていた.このこ とによって,宿泊件数,滞在期間,宿泊施設の数および ベッド数において,過少の計測がされていた.また,宿 泊を伴う国内観光客についても,約23%の都市で全く計 測されていないことがわかった.この他にも,日帰り客 を含んでいたことや,都市の境界を曖昧にしていたこと などがあった.
調査対象となった都市のほとんどは(72.8%),宿泊施 設に関するデータを公的な登録から得ており,また,一 部の都市では宿泊業者によるサンプル調査もデータとし て利用していた.時系列的なデータという点では,宿泊 に関しては93.5% の都市で,同様に到着では83.9% で計 測されていた.訪問者の国籍については,ほぼ2/3の都 市でフランス,ドイツ,イタリア,イギリス,合衆国な ど大量の観光客が発生する市場からの宿泊についてその 国別の数まで捕捉されていた.ただ,ハンガリー,ポー ランドのような東ヨーロッパの都市では不十分であっ た.
2.3.標準化モデルの作成
FECTO モデルに合致させるために,「宿泊」と「統計」
についての既存の統計が修正され,ロンドンを例にとれ ば宿泊と到着の両方の数において約31%の減数がなされ た(Seaton1997).標準化における大きな問題は,そも そもデータが欠損している場合であり,その一つは項目 的に欠けている場合と,時系列的な場合とである.項目 的なデータの不足の例としては,コペンハーゲンの宿泊 に関する統計では「到着」に関するデータがない.この ためには,宿泊施設から報告される宿泊客数とアンケー ト調査によって得られる平均滞在期間のデータを利用し てつぎの関係式から推計する.
L=N/A
(L=平均滞在期間,N=延べ宿泊客数,A=到着数)
また,宿泊客数そのものが欠けている場合には,サンプ ル調査によって得られる年間客室稼働率より,つぎの関 係式により推定する.
O=C/N
(O=年間客室稼働率,C=年間ベッド容量,N=延べ 宿泊客数)
こうした関係式の組み合わせで,データを推定する方法 として, if-then-else-rules によるプログラミングが考 案された(図1).この方法により,欠けた項目のデータ を自動的に計算して,推定する.
しかし,数多くの項目的なデータが不足している場合 には,その都市から得られる部分的なデータを利用した 推計だけでは不可能である.例えば,ある都市を訪れる 観光客の発生国別の数を捕捉する場合に,その計測段階 において国別の分別が不完全であったり,全くなされて いない場合である.これに対しては,隣接する都市の データや,同じ国の中でデータのそろった都市のデー タ,また国全体のデータを参考に推計する方法である.
例えば,イギリス北部の有数の観光都市であるエジンバ ラにおいては,発生国別のデータはフランス,ドイツ,
イタリア,カナダ,合衆国など主要国に限られており,
他の国は一括されている.このため,イギリス国内にお けるデータのそろった都市の平均的なパターンを応用し て推計し,さらにハンガリーやポーランドからの客の数 については,イギリスの都市の統計では扱かわれていな いので,ヨーロッパにおいてデータの得られる都市の平 均的なパターン(3)により修正することにより推計する
(表1).
つぎに時系列的なデータが欠けている場合について は,同様な性格を持つ国内の都市のデータから平均的な 値を求め,それにより推計する.国内で比較できる都市 が得られない場合には,観光統計が整備されたイギリス などの他国のデータをベースとして得たパラメーターを 求め,それによる回帰分析的な方法による推計をするこ とになる.図2は FECTO モデルの標準化の全体のプロ セスを示している.Mazanec や Limburg などによって 考案された観光統計のモデル化は,手法の難解さ,実際 に計測されたデータに固執したことによる限界や,都市 間の比較性という点で難があった(WOber1997).これ らの点では FECTO モデルは項目面および時系列面での データの欠損という問題を克服するために,既存のデー タベースと統計学的な技術を簡易な手法で合体させる新 しい発想に基づくものである.
FECTO モデルの正確さを評価するために,実測デー タとモデルにより推計されたデータとの比較がなされた が,絶対的誤差は有意な程度にものにとどまり,イン
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図1 欠損したデータの算出のためのプロセス
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表1 エジンバラを例としたデータの推計
ターネットでのデータの直接の入力を可能にした.た だ,現段階での FECTO モデルから生じる問題は,項目 での推計における地域や国の個別のトレンドの考慮で,
ことに他の都市に比較して大きく異なる政治的・社会 的・経済的事情を有する都市(例えばプタペストなど)
では,高いエラーの発生率を見せており,都市の平均的 なデータをどの範囲にまで適用するかについての議論が ある.また,時系列的なデータの推定において,比較的 短い期間での時系列ではそれほど意識することはない が,長期間にわたる場合には単なる幾何級数的なスムー ジングで妥当なのかついての吟味が必要となってくる.
さらに,そもそもアーバンツーリズムとは具体的には何 なのか(例えば,対象となる施設の種類,捕捉されるべ き観光客の行動の種類など)という共通の定義がまだ確 立されていない問題がある.しかしながら,アーバン ツーリズムの経済的重要性の認知が低いレベルにある一 つの理由は,他の産業のようにその現象が正確に計測さ れ分析されてこなかったからであり,FECTO モデルの ような観光統計の標準化の試みは,アーバンツーリズム への関心を引きつけるという逆説的な効果が期待され る.
3.国内における観光統計の現況
3.1.「全国観光動向」による観光統計の捕捉とその 問題点
先述したように国内における観光に関する指定統計と して集計されるデータはなく,全国的な観光客の入り込 み状況の把握は各都道府県に委ねられ(4),その結果も公 的に統一した発表はされていない.民間研究団体である
「社団法人日本観光協会」が,各都道府県から任意に提 出されたデータを「全国観光動向」として,年次的に発 表しているという状況である.さらに,各都道府県でま とめられている数字は,各市町村によって集計されたも のの単純な合計であり,各市町村の調査方法はいまだに 統一されていないという問題を抱えている.運輸省(現.
国土交通省)観光部,各都道府県や日本観光協会では,
これまで統一的な調査方法の指導や普及に努めている が,調査そのものの必要性に対する認識の低さや,調査 技術や費用面等での問題もあり,改善は遅々として進ん でいない.
「全国観光動向」の内容は,全国の概況と,都道府県 別の年間(歴年または年度)の県内・県外別の日帰り客 数と宿泊客数と観光消費額のデータなどで構成されてい るが,必ずしも項目的に統一されたものではない.調査 は各市町村が取りまとめた数字を各都道府県が合計し,
各都道府県の調査報告書に記載された数字を日本観光協 会が単純に一覧としてまとめ,修正は加えていない.具 図2 標準化のシステムの枠組み
体的な調査は原則的に各市町村が実施しており,その調 査方法は一律に定まったものではない(5).基本的には,
観光入込客数は観光対象として一般的に認識されている 城郭,社寺,庭園,博物館・美術館などの文化施設,遊 園地・スキー場,海水浴場などの遊戯・スポーツ施設を
「観光地点」として設定し,そこを訪れる客数を計測し ている.宿泊客数はホテル,旅館,国民宿舎などの公的 宿泊施設,民宿,ペンション,キャンプ場の利用者を計 測している.
3.2.「全国観光動向」の問題点
「全国観光動向」で発表される数字には数多くの問題 点がある.全国的なデータベースとして致命的な点は,
同書の冒頭にも述べられているように,統計の基となる 手法が統一されておらず,従って都道府県の統計データ の相互比較が不可能で,全国の合計数が無意味なものと なっている点である.しかし,致命的な欠陥は全国レベ ルにとどまらず,都道府県内のデータベースにも及んで いる.すなわち,各市町村が任意の計測手法で数えた数 字を,都道府県がほとんど無作為に合計している点であ る.ただ,この点に関しては日本観光協会などによる後 述する全国的な統一的手法の推奨により,1999(平成11)
年(度)までに14都道府県が何らかの改善を行ってい る(6).
都道府県別にいくつかの例をあげて問題点の詳細につ いてみていこう.東京都は「東京都の観光客及び観光行 動等に関する調査報告書」を毎年作成しているが, 都下 全域に及ぶ市町村別データはなく, 大島, 三宅島, 八丈 島などの島嶼部についての入込客数の実数のみであり,
各都道府県の中では異例である.ただ,観光地点として 美術館(東京都美術館など50館),博物館・資料館(国立 科学博物館など151館),名所・旧跡(新宿御苑など8カ 所),ホール・イベント会場(東京ビックサイトなど7カ 所)など15のカテゴリーでの年間入場者数の把握は行っ ている.なお,東京都では1999(平成11)年にこれまで の延べ数から実数に推計方法を変更したために,1999年 以前のデータとの単純な時系列比較はできない.隣接す る千葉県はすべて延べ人数による集計で,千葉,東葛 飾,安房といった県内を10地区に区分して,それぞれに ついて日帰り客と宿泊客の年間の数字を出しており,延 べ数と実数という点で東京都と異なっている.また,客 種別入込数として社寺参詣客・文化財等見学客を「文化 観光」とし,同様に潮干狩り客・海つり客・果物狩等客 などを「産業観光」として,海水浴客・サーフィン客,
ゴルフ客などを「スポーツ観光」として,遊園地客・花 見客・各種催物客などを「一般観光」として四区分して,
10地区別にまとめている.観光地点のデータとしては東 京都と同様に観光目的に対応した計測をしているが,そ のまとめ方の種別が異なっている.
データの豊富さという点では北海道が卓越しており,
道外客,道内客,日帰り客,宿泊客の北海道計,道南圏 域,オホーツク圏域など5圏域計,支庁別および市町村 別計を延べ数としてまとめている他に,中国,韓国,ロ シア,アメリカなど主要国別の訪日外国人宿泊客数(延 べ数)を月別にまとめ,さらにその宿泊種別にまでまと めている.道単位での観光動態を分析するには十分な データベースであるといえるが,末端での調査手法がど の程度妥当なものであるかにより分析の精度は異なって くる.一方,北海道と比肩する観光県である静岡県は延 べ数や実数という数字での把握ではなく,各市町村別の サンプル調査に基づくデータで,例えば浜松市では春,
夏,秋,冬それぞれについて200のサンプルを対象とし て旅行目的,旅行者の形態,旅先での楽しみ方について の回答の集計となっている.観光客の質の特性を詳細に とらえ,またその経年変化を知るうえでは優れた調査方 法であるが,全国的な比較という点ではかえって独特す ぎている.
観光統計で把握すべき項目については,各都道府県が それぞれの観光資源の特性や観光施策に基づき設定され るべき面はあるものの,各都道府県の観光状況の全国的 な位置を知るうえでの最低限の必須な項目と,その把握 のための統一した調査方法の確立は不可欠である.さら には,中国,韓国,タイなどアジアの近隣諸国間での観 光客の獲得が今後ますます激しくなるなかで,国際的に 標準化された観光に関するデータ整備も必要なものと なっている.
4.国内の観光統計の改善と FECTO モデルの 適用の検討
4.1.日本観光協会による
「全国観光客数統計」の推奨
政府の観光政策審議会は「今後の観光政策の基本的な 方向について」(平成7年6月2日)の答申において,
「国,地方公共団体の政策遂行や観光産業のマーケティ ングに役立つ,地域間の比較や旅行需要の動向が把握で きる有用性の高い観光統計の整備及び分析手法の開発」
を目的に,わが国の観光統計の現状を分析,把握し,全 国統一の統計基準の整備,および観光政策振興に有用な 統計資料の作成を図ることを述べている.先述したよう に,各都道府県の観光入込客数の算出手順は各都道府県 によって様々であり,また捕捉される項目も統一性を欠 いている.日本観光協会ではこのような状況に対して,
観光統計の統一的手法として,1996(平成8)年に「全 国観光客数統計」を策定し,各都道府県にその採用を推 奨している.
まず,観光統計として整備すべき項目(統計値)とし
観光客統計における FECTO モデルの紹介と適用の検討 25
て,都道府県別の観光入込客数をあげ,その内訳として
「県外・県内別 」 と「日帰り・宿泊別」を求めている.
それらを計測する調査方法として,都道府県内の観光 地,施設への入込客数調査,入込客の居住地調査,宿泊 施設調査,交通拠点での調査の組み合わせを提示してい る.
観光地,施設への入込客数調査では,言葉の定義とし て「観光入込客」を,「観光の諸活動目的で観光地点を 訪れたもの,および兼観光目的の者」とし,「観光地点」
を「観光・遊覧施設,海水浴場,観光レクリエーション 施設を有する場所・施設」としている.調査に当たって は,共通の観光地点を設定するために,観光行動を「学 び」,「遊び」,「触れ合い」,の3つの活動パターン別に分 類し,つぎに中分類および小分類を設定し,48の行動を 対象としているている(7).
宿泊施設調査では,言葉の定義として「宿泊客」は
「宿泊施設に少なくとも一泊以上宿泊した入込客」とし,
「宿泊施設」は「一定以上の客室を有する,管理者が明 確,管理者が常駐,毎月の利用客数が確実に把握でき る,毎日のベッドメーキングや室内・衛生施設の清掃等 宿泊に必要なサービスを営利目的で提供し,一室もしく は他の何らかの形態で観光客(兼観光)を宿泊させるた めの施設」としている.共通の宿泊地点として,観光地 点の場合と同様に,大分類,中分類,小分類を設定し て,15の施設を対象としている(8).いずれの調査におい ても,まず延べ人数(人地点),延べ人泊数(泊数)を 計測し,つぎに実人数(人回),実宿泊数への換算を求め ている.換算に当たっては,延べ数から実数への換算の ためのパラメータを求め,このためのパラメータ設定用 アンケート調査を示している.観光入込客数では県内・
県外別入込客率と入込客平均訪問観光地点数を推計する ためのもので,宿泊数では県内・県外別宿泊客率と平均 宿泊数を推計するためのものである(9).調査は入込客 数,宿泊数ともに中分類毎に過去の実績で入込客の多い 観光地点もしくは宿泊施設から1地点ずつ(観光地点で は,自 然,文 化・歴 史,産 業 観 光,ス ポ ー ツ・レ ク リェーション,温泉,買い物,行祭事,イベントに対応 して各1地点で都道府県全体で8地点.宿泊施設につい ては,ホテル・旅館,民宿・ペンション等の民営宿泊施 設,ユースホステル,社会教育施設,公共の宿泊施設,
キャンプ場に対応して各1地点で都道府県全体で6地 点.)アンケート調査は四季の入込動向を把握できるよ う,冬季(2月),春季(5月),夏季(8月),秋季(11 月)の任意の週の平日と休日(1回2日間を4回,計8 日間)に実施し,実施間隔は毎年実施することが好まし いが,1年おき,2年おきなど各都道府県の現状に合わ せて任意とするが,最低5年に一回は実施するとしてい る.
4.2 FECTO モデルの適用の検討
両者のモデルについての比較をすると,まず,モデル の考え方の基本として,「全国観光客数統計」が過去はと もかくとして,最終的に実測データを求めているのに対 して,FECTO モデルは欠損した過去のデータの推計や,
将来のデータに対しても必ずしも均一な実測データに依 存せずに,統計学的手法による推定で可能としている点 である.この違いは,FECTO モデルがヨーロッパ全体 を対象としているために,統計データの捕捉には国ごと の社会的・経済的な事情があり,なかなか一致をみるこ とができないという理由によるものであろうと推測でき る.このことは,「全国観光客数統計」が観光地点での入 込観光客数と,宿泊施設での宿泊客数調査をおこなって いるのに対して,FECTO モデルでは宿泊客数調査のみ になっていることにも関連しているように考えられ る(10).FECTO モデルはできるだけ調査項目を増やした り,新規の調査を求めることはせずに,統計学的に有意 な範囲で推定データを用いることにより,過去のデータ や将来におよぶ時系列データについても操作的に可能と している.実測によるデータの広範囲で大量の収集が望 ましいものの,実際に遅々として改善が進まない日本の 状況を考えるならば,FECTO モデルの推計手法を採用 することを考えるべきであろう.この判断にあたって は,どの精度の統計が観光施策や観光ビジネスに必要な のかという議論が伴ってくる.
推計の例として,東京都では島嶼部を除く市区町村別 のデータが欠けているが,美術館,動物園,遊園地など の都内主要施設についての年間入場者数のデータは捕捉 されている.規模の差はあるが,観光面では類似した性 格をもつ大阪府では,市町村毎の日帰り客数と宿泊客数 の年度別のデータがあることから,東京都の入場者数の データと大阪府の客数データにより,東京都の市区町村 別入込観光客数を補えることが可能となってくる.ま た,いずれのデータも時系列的な捕捉がされていること から,過去および近い将来についての推計もできる.
もう一つの例としては,各都道府県では訪日外国人に ついてのデータは乏しいが,先述のように北海道では月 別・宿泊施設別・主要国別のデータがあり,滋賀県では 観光目的別・市町村別について,訪日外国人観光客数の データが捕捉されている.日本全国では外国人の入国の 際に ED(出入国記録)カードの記入・提出が要求され ており,このデータは空港や港湾別にまとめられてい る.これらのデータを利用した推計の手法の標準化が進 めば,各都道府県で統計項目の統一が不揃いな状態で あっても,ある程度の推計は可能となってくる.これら の手法については,稿を改めて述べることにする.
両方のモデルにおいて,標準化への基本的枠組みのた めに用語の定義と計測方法の統一がおこなわれている
が,「宿泊」についてみると,ともに友達や親類での宿泊 を除いて,微妙な違いはあるもののすべての商業的な施 設を計測の対象としているが,「到着」では FECTO モ デルは日帰り客を計測していないという違いがある.
「全国観光客数統計」は過去および近い将来に対する 時系列データの整備については,ほとんど言及していな いが,観光施策や観光ビジネスにおいて,単年度の結果 だけでは十分なデータとはいえない.人口予測や需要動 向調査にみられる時系列的な分析は,観光統計にとって も 不 可 欠 の も の で あ り,そ の た め に は 表 2 に 示 し た FECTO モデルによる標準化のプロセスが規範となるだ ろう.
5.まとめ
FECTO モデルはヨーロッパにおける都市レベルでの 観光客の計測が必要とされるなかで提示されたものであ る.しかし,各国の既存の観光統計のデータの不足や,
データの捕捉での社会的・経済的制約という事情を考慮 し,かつ国際的にも通用するモデルとして,できるだけ 新規の負担を軽減し,取り扱いやすさを容易にするため に,実測のデータだけに依存せず,統計学的な手法を利 用した簡易なデータの推計を採用し,一連のプロセスを チャート化している.
「全国観光客数統計」の各都道府県の採用の動きは緩 慢で,この背景には観光に対する認識の低さとともに,
必要な大量のデータの収集にはかなりの時間と費用が要 することも障害となっている.しかしながら,都市の基 幹産業としての観光への期待が増大するなかで,迅速で 有 効 な 統 計 の 整 備 が 求 め ら れ て お り,こ の た め に も FECTO モデルに準じた既存のデータと統計学的な手法 とを組み合わせた推計モデルの開発が迫られている.
〔注〕
(1)総務省統計局により実施される調査で,2002年4月時点で 58種類がある.
(2)自治体におけるアーバンツーリズムの政策化への動きとし ては,東京都,大阪市などで顕著である.東京都では「東 京2000−千客万来の世界都市をめざして−」(2000)の構想 を発表し,その重要な施策の一つとして,「東京の魅力を 活かし,観光の振興を図る」,「東京の魅力を発信し,世界 の人びとが交流する都市にする」をうたっている.
この構想に至る経過として,第13次東京都観光事業審議 会が「今後の東京都の観光政策のあり方」に対する知事の 諮問に対する1997年の答申で,重要な都市政策の一つとし て 都市観光振興に取りくむべきことを強調している.そ の基本認識として「都市観光は都市の様々な魅力を対象と するものであり,都市観光の振興は都市の発展に不可欠で ある」と述べている.この構想を具体化するために,東京 都知事から第13次東京都観光事業審議会に対して具体策の 諮問がなされ,同審議会は2000年11月に知事に対して,東 京の観光振興の意義とその現状,めざすべき方向と基本方
針および4項目からなる施策の提言をおこなった.東京都 では都市観光の振興に取り組む体制を整備し,東京の観光 資源の発掘・開発と観光産業の振興を図っていくこととし た.
大阪市はこれまでの製造業(工業)依存だけで現代の大 都市を反映に導くことは困難であるとの認識から,観光を 核とした国際集客都市づくりを推進することを目指して,
1996年に「ウェルカム大阪フォーラム」を設立している.こ の組織はJRなどの鉄道,ホテル,飲食業,百貨店などが 参加し,これまで観光ホームページの開設,グルメイベン トなど各種の官民の連携事業を推進している.また,この フォーラムを行政的に支援するために,大阪市では全庁的 な横断組織として市長をトップとする「集客都市大阪推進 本部」を設置している.具体的な取り組みとしては,これ までに海遊館,フェスティバルゲート,OCAT,キッズ プラザ,USJなどの都市型集客施設を整備を図ってき た.
(3)ヨーロッパ61の都市の平均的なパターンである.
(4)観光に関する定期的な統計としては,総理府(現.総務省)
による「全国旅行動態調査」(1960年よりほぼ5年ごとに実 施),日本観光協会による「国民の観光に関する動向調査」
(1964年から隔年で実施),同じく「大都市住民の観光レク リエーション調査」(1970年よりほぼ隔年で実施)などがあ り,主に観光客の量的および質的な需要を把握することを 目的としているが,場所(都道府県,市町村,観光地点)
についてのデータは少ない.
(5)いずれの調査も全数調査ではなく,任意の数日に実施さ れ,その結果を年間分として換算している.観光地点での 計測方法は,入場料等の料金を必要とする施設の場合に は,入場券の発券枚数が入込客数としてみなされるが,自 由に入場(利用)できる施設では一定の方法はない.宿泊 客数はホテル・旅館等の宿泊客をそのまま宿泊客数として 計測している.日帰り客と宿泊客の区別は,該当日の全体 の入込客数から宿泊客数を引いたものが日帰り客としてみ なされている.県内客と県外客の区分は,部分的な聞き取 り調査によって一定の比率を設定している場合もあるが,
単に「カン」に頼っている場合もある.
(6)延べ数から実数への把握の変更程度にとどまっている.
(7)調査は,入込客数調査では,a. 調査員による面接調査,b.
調査員が観光地点内でアンケート票を配付しその場で回 収,c. 調査員が観光地点内でアンケート票を配付し,郵送 で送ってもらう,d. 入場チケットに添えて配付し,退出時 に回収のいずれかの方法でおこなう.サンプル調査の回収 目標数は,アンケート調査1回の実施につき,1地点少な くとも100サンプル以上の回収を原則とし,少なくとも都 道府県全体で3000サンプル回収する(1回1地点100サンプ ル×8地点(中分類)×計4回=3200(約3000)).
(8)宿泊施設内アンケートはチエックイン時に用紙を配付し,
チェックアウト時に回収し,回収目標数は1回につき,1 施設少なくとも150サンプル以上の回収を原則とし,県全 体で少なくとも3000サンプル回収を回収する(1回1地点 150サンプル×6地点(中分類)×計4回=3600(約3000)).
(9)つぎの式により各種のパラメーターを求め,各々の実数を 推計する.
・県内・県外別入込客率のパラメータ
県内入込客率=観光地点内県内客数/観光地点サンプル数 県外入込客率=観光地点内県外客数/観光地点サンプル数 ※パラメータは少数点第三位まで.また,県内客と県外
客の比率は以下の関係が成り立つにようにする.
県内入込客率=(1−県外入込客率)
観光客統計における FECTO モデルの紹介と適用の検討 27
・県内・県外別宿泊客率のパラメータ
県内宿泊客率=宿泊施設内県内客数/宿泊施設サンプル数 県外宿泊客率=宿泊施設内県外客数/宿泊施設サンプル数 ※パラメータは少数点第三位まで.また,県内客と県外
客の比率は以下の関係が成り立つにようにする.
県内宿泊客率=(1−県外宿泊客率)
・県内・県外別入込客平均訪問地点数のパラメータ 県内から来訪したサンプルの訪問地点数の平均値,および
県外から来訪したサンプルの訪問地点数の平均値を求め る.
(10)観光客が入出国する場合には,一般的には国境地点(航空 機や船舶の場合には入出港地点)で審査されるが,西ヨー ロッパにおいては鉄道や自動車の利用の場合にはほとんど おこなわれず,EU の発足後は EU 内は一国とみなされ,
航空機や船舶による入出国の場合にも審査はなくなった.
このため,宿泊施設での外国人観光客の捕捉が一層重要な ものとなっている.
〔参考文献〕
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