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訓主漢字と音主漢字の記憶における分散効果

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(1)

奈良教育大学学術リポジトリNEAR

訓主漢字と音主漢字の記憶における分散効果

著者 藤田 正

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

巻 56

号 1

ページ 47‑53

発行年 2007‑10‑31

その他のタイトル A Study of the Spacing Effect in Memory of Japanese Kanji with Japanese style reading(

kun)and Chinese style reading(on)

URL http://hdl.handle.net/10105/637

(2)

1.問題と目的

学習や記憶の研究において安定した支持を得てきた現 象のひとつが記憶の「分散効果(spacing effect)」であ る。北尾(

2002

)は、分散効果に関するこれまでの研 究を次のように展望している。分散効果は、同一刺激項 目が反復呈示される場合、学習にあてる総学習時間が同 じであっても、他の刺激項目が反復の間に介在する分散 呈示の方が、他の項目が介在しない集中呈示よりも記憶

成績が優れるという現象である。教育的には、学習効果 を導くための時間的条件につながるものとして注目され てきた。しかし、そのメカニズムに関しては、さまざま な説があり、今なお一致した見解に達していない現状に あることを指摘している(北尾、

2002

分散効果の現象に関する有力な説明仮説の一つに「符 号化変動性仮説(encoding variability

hypothesis)」

(Madigan,1969;Melton,1967,1970)がある。この仮説に よれば、記銘語を記憶する際に符号化が行われるが、同

訓主漢字と音主漢字の記憶における分散効果

藤 田  正

奈良教育大学学校教育講座(心理学)

(平成

19

年5月7日受理)

A Study of the Spacing Effect in Memory of Japanese Kanji with Japanese style reading (kun) and Chinese style reading (on)

Tadashi FUJITA

Department of Psychology, Nara University of Education, Nara 630-8528, Japan

(Received May 7, 2007)

Abstract

The purpose of this study was to examine the supriority of spacing effects in the memory of two types of Kanji lists with the difference of relative appearance of Ondoku, having high

(Onshu)

and low

(Kunshu)

Kanji. 51 undergraduates studied list items successively presented as a function of type of presentation

(spaced vs. massed repetition)

. The Kanji lists were composed 24 items, 8 Onshu Kanji, 8 Kunshu Kanji, 4 buffer Kanji, and 4 filler Kanji. Immediately after a study period, they were given free recall test followed by a perceptual figure tests. The spaced presentation led to better recall than the massed presentation on both Onshu Kanji and Kunshu Kanji list. This indicated that spacing effects were observed in both Onshu and Kunshu Kanji lists, but the superiority of spacing effect was greater Kunshu Kanji than Onshu Kanji list.

These results were discussed with related theories, the superiority of semantic coding in Kunshu Kanji and encoding variability and retrieval cues hypothesis on spacing effect in memory.

Key Words: Kanji with Japanese style reading

(kun)

and Chinese style reading

(on)

, Spacing effect,

Encoding variability hypothesis

キ−ワ−ド: 訓主漢字・音主漢字、

記憶の分散効果、

符号化変動性仮説

(3)

じ項目を反復して記憶する際には、1回目の呈示時とそ れ以降の呈示時で符号化が同じ場合や異なる場合があ る。集中呈示では刺激項目が連続して呈示されるため、

同一の符号化が行われやすい。一方、分散呈示では呈示 間隔が開くことにより、2回目以降の項目呈示時に初め の符号化を忘れるために、2回目以降は初めの符号化と は異なる符号化が集中呈示の場合よりも行われやすくな る。そのために分散呈示項目の方で符号化変動が起こり やすく、検索の際にはそれら全てが検索の手がかりとな るために、再生時により多くのそれらの豊富な検索手が かりを利用できるので、より検索しやすくなり優れた記 憶成績を示すと説明されている。

このように、分散効果が生じるのは多様な符号化の変 動が生じるため、検索の際にもそれが利用されやすいと 言う説が「符号化変動性仮説」である。

ところで、このような分散効果は、どのような特徴を もった記銘材料やリスト構成でも必ず生起するものでは ないことも報告されている。例えば、Kahana & Green

1993

)は、記憶する項目がひとつのカテゴリーに含ま れるような、相互に意味的に強い関連性がある項目リス ト条件では分散効果が見られず、項目リストが異なるカ テゴリーの項目から成るリスト条件では、分散効果を見 出している。

関連して藤田(

2005

)は、属性(音韻・形態・意味)

の類似性を持つ漢字リストを記憶する場合にも、カテゴ リー化されたリストのように分散効果が抑制されるかど うかを検討した。形態的類似性により関連性を持つ同一 部首漢字のリストを用いて、分散呈示と集中呈示のもと での記憶成績を比較した。その結果、同一部首リスト条 件と異なる部首の漢字リストである統制条件の両方で分 散効果が生じた。

藤田(2005)で用いられた同一部首漢字は、木偏

(あるいは、さんずい偏)のみの漢字であったが、すべ ての漢字が木(あるいは、水)に関係する意味を持つ漢 字ではなかった。したがって、もしリストを構成する漢 字が、それぞれの部首の規定する意味を喚起する漢字で あったならば、分散効果への影響が異なっている可能性 も考えられた。

そこで藤田(

2006

)は、漢字の記憶で見出された分 散効果についてさらに詳細に検討するために、同一部首 漢字で部首が規定する意味を感じやすい漢字(例:池、

河、汗)リスト(高漢字リスト)と、感じにくい漢字

(例:妙、妨、娯)リスト(低漢字リスト)の分散呈示 と集中呈示での再生成績を比較した。その結果、高漢字 リスト条件では分散効果が見られたが、低漢字リスト条 件では分散効果は見られなかった。

以上の研究は、いずれも漢字の意味特性の機能との関 係で分散効果について検討したものであった。その結果、

漢字リストの記憶においても分散効果が生じるが、リス トを構成する漢字の特性によって一様に分散効果が生じ るものではないことが明らかにされた。漢字の特性の場 合には、カテゴリー化されたリスト項目の条件の場合と は異なる情報処理のメカニズムが働いている可能性もあ り、さらに漢字の特性を考慮した分散効果の実験を行う ことが必要であることが示唆された。

漢字を学習したり、記憶したりする場合に私たちがよ く行う情報処理は、漢字の音読みと訓読みである。表意 文字である漢字は、意味との関係が強い。また、音読み される場合よりも訓読みされることによって意味が付与 される可能性が大きい。そのため、音読みされる確率の 高い音主漢字では音韻的符号化が行われ、訓読みされ意 味とのつながりの強い訓主漢字では意味的符号化が行わ れることが指摘されている(野村、

1978

さらに記憶における意味的符号化が音韻的符号化に比 べて記憶や学習にとって効果的であることもいくつかの 研究で明らかにされている。北尾・馬場園(

1980

)は、

漢字の意味的符号化の効果を調べるため、漢字の属性で ある形態・音韻・意味の符号化の機能について、形態処 理として部首判断を、音韻処理として音読判断を、意味 処理として熟語判断というように処理水準を操作し、被 験者の再認成績を比較した。その結果、再認成績は意 味>形態=音韻の順であり、漢字の意味に基づく意味的 符号化が音韻的符号化よりも再認記憶を促進すること示 し、漢字の記憶における意 味的符号化の優位性につい て実証した。

先行研究で明らかにされてきた漢字の意味を手がかり として再生する場合や意味的に符号化する場合の優位性 と、分散効果における符号化変動性を合わせて考えると、

音主漢字の音韻的符号化よりも訓主漢字の意味的符号化 の方が、意味的要素が強いので記銘語に付加される情報 量が多くなる。したがって、分散呈示された語の符号化 変動も音韻的符号化されたものよりもさらに起こりやす くなり、分散効果が大きくなることが推測される。

意味的符号化と音韻的符号化条件での分散効果を比較 したものではなかったが、Challis(1993)は、偶発記 憶課題において意味的処理と形態的処理を行わせる2つ の方向づけ課題条件のもとで分散効果を比較した。その 結果、分散効果は形態的処理課題では生じなかったが、

意味的処理課題では生じるという結果を見出している。

北尾(

2002

)は、これまでの記憶の分散効果に関する 研究を概括し、分散呈示による多様な符号化は、形態的 処理より意味的処理で生じやすいと結論している。

しかし筆者の知る限りにおいて、漢字の記憶における 分散効果の研究では、意図記憶事態での意味的符号化と 音韻的符号化における分散効果の違いについて検討した ものは見られない。

藤 田  正

48

(4)

そこで本研究では、漢字の記憶における分散効果のメ カニズムを検討するために、訓主漢字と音主漢字を用い て、それぞれの漢字に対応する意味的符号化と音韻的符 号化における符号化変動性の違いに着目して、意図的記 憶における分散効果の違いを自由再生課題で検証するこ とを目的とした。

先行研究から、意味的符号化の行われる訓読み漢字の 方が、音韻的符号化が行われる音読み漢字よりも意味的 要素が強く、また付加される情報量も大きくなると考え られる。したがって、意味的符号化の優位性と情報量の 多さから、訓主漢字が音主漢字に比べて符号化変動も起 こりやすいので、意味的符号化の行われる訓読み漢字の 方が、音韻的符号化が行われる音読み漢字より記憶の分 散効果が大きくなることが予想される。本研究では、こ の予想について検討する。

2.方 法

2.1.実験計画

実験計画は、2×2の2要因計画であった。第1の要 因は漢字条件で、訓主率の高い訓主漢字と音主率の高い 音主漢字であった。第2の要因は呈示条件で、反復項目 を分散的に呈示する分散呈示条件と連続して呈示する集 中呈示条件であった。第1要因、第2要因ともに被験者 内要因であった。

2.2.被験者

大学生

51

名(男子

8

名、女子

43

名)であり、平均年齢

20.95

歳(SD=

1.55

)であった。

2.3.材料

2.3.1.記 銘 リ ス ト― 使用漢字は、海保・野村

1983

)のリストから選んだ。また、野村(

1978

)は、

漢字のもつ音がどの程度使用されているかを音主率とし て算出し、音主率の高い漢字を音主漢字、低いものを訓 主漢字として被験者に読ませたところ、音主漢字は音読 みで、訓主漢字は訓読みで読まれる傾向が高いことを明 らかにしている。これを利用し、音主漢字は音の相対的 出現率(音主率)が.80≦p≦.95である漢字とし、訓主 漢字は訓の相対的出現率(訓主率)が.80≦p≦.95であ る漢字で、熟知度は

3.4

5.2

にそろえた。また、漢字 は、音読みと訓読みで、読み方が

2

音である漢字にし、

画数も7〜12画にそろえた(音主漢字平均9.88、訓主 漢字平均9.75)

音主率(訓主率)は、国立国語研究所(

1962

)の調査 を参考にして野村(

1978

)が、全使用頻度で音(訓)

の使用頻度を割るという計算方法で算出したものを利用 した。

訓主漢字、音主漢字それぞれにつき分散呈示4項目、

集中呈示4項目(訓主漢字8項目:夏・麦・胸・黒・

窓・孫・朝・谷;音主漢字8項目:放・兼・効・推・

設・創・退・連)の計16項目を記銘語とし、各項目は それぞれ2回ずつ反復される。

項目の呈示順は、図1に示すようにリストの前部と後 部に2項目ずつのバッファー項目が加えられ、さらに分 散呈示の際の介在項目数を4項目として操作するために 4項目のフィラー項目が組み込まれた。

また、リストの呈示順序をカウンターバランスするた めに、音主漢字と訓主漢字を入れ替えたり、それぞれの 漢字の呈示順序を組み替えたリストを合計4パターン作 成した。

2.3.2.実験用冊子―実験用冊子として、記銘項目 を1ページにつき1項目ずつ印刷し、さらにその下に

「音読み」「訓読み」というように記銘する時の読み方の 指示を印刷した。そして図1のような配列で各項目を2 回ずつ反復したものに表紙を付けて、合計40ページの 小冊子(B6版)を作成した。

2.3.3.挿入課題用紙―記銘試行と自由再生テスト の間に挿入課題を行うために用意された。課題は、図形 を切り離して置き換えたときに、どのような図形になる かを5つの選択肢から選択させることが求められる図形 問題であり、B5版の用紙4枚であった。

2.3.4.自由再生テスト用紙―挿入課題終了後、各 被験者の自由再生数を求めるために、自由再生した項目 を思い出した順に記入してもらうよう、自由再生テスト 用紙が用意された。テスト用紙はA4版の用紙1枚で、

項目名を再生順に記入するための罫線が引かれていた。

2.3.5.事後アンケート用紙―被験者が教示どおり 音読み、訓読みを行ったかどうか、どのように漢字を記 銘したかの記述を求める内容であった。

質問内容は、①覚えるとき、「音読み」「訓読み」とい う指示に従った漢字の読み方が出きましたか。また、感 じたことを書いてください。指示に従って読みにくかっ た漢字もあれば書いてください。②最初、漢字を覚える 時、あなたはどのような覚え方で漢字を覚えましたか。

③その後、途中から漢字の覚え方は変わりましたか。変 わった場合、どのような覚え方をしましたか。④覚えて いるときや実験を通して感じたこと、気になったことが あれば書いてください。」の4つであった。事後アンケ ート用紙はB6版の用紙

1

枚であった。

このアンケートの内容は、教示を無視した覚え方をし た被験者、教示どおりの読みが行えなかった被験者など を除くための参考にした。

2.4.手続き

実験は意図記憶手続きを用い、小集団で実施した。

2.4.1.記銘試行―被験者に記銘リストの小冊子、

挿入課題用紙、自由再生テスト用紙、事後アンケートが 一緒になったテスト用冊子を配布した。その後、小冊子

(5)

を手前に置き、テスト用紙は端に置くように指示した後、

以下のような教示を与えた。

「それでは、実験を始めます。この小冊子には、

このように

1

ページにつき1つの漢字が書かれてい ます。『はい、次』と合図しますので、合図に従っ て1ページずつめくり、よく見てそれらの漢字を覚 えていって下さい。ただし、覚える漢字の書かれた 紙には、覚える漢字の下に「音読み」「訓読み」と いう指示が書かれています。提示された漢字を覚え る時は、この例では、「音読み」と書かれてあるの で、「記(き)」と読みます。「き」と心の中で読ん で、この漢字を覚えていって下さい。また、この例 では、「訓読み」と書かれてあるので、「鳥(とり) と読みます。心の中で「とり」と読んでこの漢字を 覚えていって下さい。

上記の教示に関して被験者が理解したことを確認した 後、実験者の合図に従って1ページにつき5秒の速さで ページをめくり、各項目を記銘させた。

2.4.2.挿入課題試行―記銘試行終了後、挿入課題 テストのページを開かせ、挿入課題を2分間行った。

2.4.3.自由再生テスト―挿入課題終了後、被験者 には記銘試行で記憶した漢字を思い出した順に漢字で記 述することを求め、5分間の書記自由再生テストを実施 した。

2.4.4.事後アンケート―自由再生テスト終了後、

アンケート用紙の四つの質問に記述してもらった。

3.結 果

分析には、自由再生数が平均値±2SDを超えた被験

1

名と、実験後に行った事後アンケートにより、「読 みの指示を無視して自分で物語を作り、独自の読み方に よって覚えた」「音読み、訓読みの指示には従わず、自 分の覚えやすい読みの方で覚えた」「音読みの漢字でも 訓読みで覚えてしまった」「音読み、訓読みの違いがわ からなかった」というように、音読み、訓読みの教示に

従って記銘できていなかった被験者6名を除いた計44 名のデータを用いた。

3.1.全体の自由再生

図2は、自由再生テストにおける自由再生率の平均を 示している。

個人の自由再生率(4条件それぞれ4項目を分母とし て算出)を角変換し、各条件の平均値を用いて2(漢字 条件:訓主漢字・音主漢字)×2(呈示条件:分散呈 示・集中呈示)の分散分析を行った。その結果、漢字条 件の主効果(F(1,43)=9.43,p<.01)、リスト条件の主 効果(

F

1,43

)=

60.46,p<.001

、及び漢字条件×呈示 条件の交互作用(

F

1,43

)=

5.01,p<.05

)が有意であ った。

交互作用が有意になったので、単純主効果検定を行っ た。最初に、呈示条件ごとに漢字条件の差について検定 した。その結果、分散呈示条件では、訓主漢字が音主漢 字よりも再生成績がよく(F(1,86)=14.10,p<.001)、

集中呈示条件では訓主漢字と音主漢字との間には有意差 が見られなかった。

次に、漢字条件ごとに呈示条件の差について検定した。

その結果、音主漢字(F(1,86)=6.93,p<.05)と訓主漢 藤 田  正

50

    図1 記銘リストの項目配列の例     

場  島  効  胸  胸  連  岩  フィラー項目  バッファー項目 

効  夏  夏  連  …    分 散 呈 示  

分 散 呈 示   集 中  

集 中  

0 20 40 60

︶ 

分散  集中 

音主  訓主 

漢字条件 

図2 平均自由再生率(全体) 

(6)

字(F(1,86)=39.67,p<.001)では、ともに分散呈示の 方が集中呈示よりも再生成績がよく、その差は訓主漢字 の方が大きいという結果になった。

3.2.再生順の系列位置における自由再生率

漢字条件の符号化特性の違いは再生時のアクセスの違 いを生じると考えられるので、再生順の系列位置(前 半・後半)の再生率を分析することにした。

図3(前半)、図4(後半)は、再生順の系列位置に おける自由再生率を示したものである。各被験者の自由 再生項目を再生順に2等分した。それを再生前半・再生 後半として、それぞれにおける自由再生率(個人の再生 数を合計した数を分母として)を算出した。

各条件における個人の再生率を角変換した値の平均値 を用いた2(漢字条件:訓主漢字・音主漢字)×2(呈 示条件:分散呈示・集中呈示)の分散分析を行った。

その結果、再生前半(図3)では、漢字条件の主効果

F

1,43

)=8.25,p<.01)及びリスト条件の主効果(

F

(1,43)= 36.67,p<.001)が有意であった。また、漢字 条件×呈示条件の交互作用(F(1,43)=3.10,p<.10)に は有意傾向が見られた。

交互作用について単純主効果検定を行った。最初に呈 示条件ごとに漢字条件の差について検定したところ、分 散呈示条件では訓主漢字が音主漢字よりも再生成績がよ かった(

F

1,86

=10.17,p<.01

)が、集中呈示条件では訓 主漢字と音主漢字との間には有意差が見られなかった。

次に、漢字条件ごとに呈示条件の差について検定した。

その結果、音主漢字では有意傾向(F(1,86)=3.86,p<.10)

が見られ、分散呈示の方が集中呈示よりも再生成績がよ かったが、訓主漢字(

F

1,86

)=22.51,p<.001)では、

分散呈示の方が集中呈示よりも有意に再生成績がよかっ た。さらに分散呈示の効果は訓主漢字の方が大きいとい う結果であった。

再生後半(図4)では、呈示条件の主効果は有意であ った(F(1,43)=7.35,p<.01)が、漢字条件の主効果、

漢字条件×呈示条件の交互作用においては有意差が見ら れなかった。

4.考 察

本研究は、漢字の記憶における意味的符号化と音韻的 符号化に着目して、音主漢字と訓主漢字の意図記憶にお ける分散効果の違いについて自由再生課題で検討するこ とを目的とした。

分散効果が見出された結果は、同一部首漢字リストの 記憶において分散効果を見出した藤田(

2006

)の結果 と一致した。本研究では、音主漢字、訓主漢字の両方に おいて集中呈示された項目よりも分散呈示された項目の 方で再生成績が優れるという分散効果が認められた。ま た、予想した通り、分散効果は音主漢字よりも訓主漢字 において大きかった。

これらの結果を分散効果の説明仮説の一つである「符 号 化 変 動 性 仮 説 (

encoding variability hypothsis)」

(Madigan,1969; Melton,1967,1970)で説明すると次の ようになる。音主漢字・訓主漢字リストにおいても、分 散呈示では項目の呈示間隔があるために、記銘語が反復 呈示された際に、初めの符号化と異なる符号化が生じ、

記銘語に対する情報が多様に付加される。その結果、検 索する際の手がかりが豊富になり顕著な記憶の促進が見 られた。一方、集中呈示では同じ項目が連続して呈示さ れるため、反復されても同一の符号化が行われやすく、

検索時の手がかり数が分散呈示項目よりも少ないため、

分散呈示条件に比べて記憶成績が劣ったのである。

本研究での関心は、特に訓主漢字と音主漢字における 分散効果の違いに着目し検討することであった。結果で 示したように、訓主漢字で見られた分散効果は、音主漢 字で見られた分散効果よりも著しいものであり、分散効 果の程度が異なることが明らかになった。

このような漢字の特性による分散効果の違いに関して は、漢字の特性と符号化の対応(野村,1978)、意味的符 号化の優位性(北尾・馬場園,1980)、付加される情報量

(豊田,1985)などの違いにより符号化変動の大きさが異 なることで説明が可能である。

野村(1978)は、漢字に対する意味の付与は、音読

0 10 20 30

︶ 

分散  集中 

音主  訓主 

漢字条件 

図3 平均自由再生率(再生前半) 

0 10 20 30

︶ 

分散  集中 

音主  訓主 

漢字条件 

図4 平均自由再生率(再生後半) 

(7)

みよりも訓読みによって成立すること、さらに訓読みは 音読みに比べ意味との関係が強い。そのため音の要素と の関係が強い音読み漢字では音韻的符号化が行われ、訓 読み漢字では意味的符号化が行われることを明らかにし ている。したがって、本研究の訓主漢字の方が音主漢字 よりも分散効果が大きいという結果は、訓主漢字の意味 的符号化の方が音主漢字の音韻的符号化よりも多様な符 号化変動を起こした結果として生じたことを示唆するも のであった。

また、北尾・馬場園(1980)が行った漢字の属性で ある形態・音韻・意味について、それぞれ処理水準を操 作し記憶成績を比較した実験で、漢字の意味に基づく符 号化が再認記憶を促進した結果から、漢字材料の記憶に おける意味的符号化の優位性が実証された。本研究の結 果を意味的符号化の優位性と関連づけて解釈すると、訓 主漢字の記憶における意味的符号化では、意味的要素が 強いことにより記憶する際により深い処理、より豊富な 符号化がなされる。そのため分散呈示された語の符号化 変動も、音韻的符号化されたものよりも、さらに生起し やすくなり、分散効果が大きくなったと考えられる。

さらに従来の精緻化研究では、記銘語に付加される情 報が多い程、精緻化の有効性が増し、記憶成績が優れる ことが明らかにされている(豊田,1985。本研究で訓主 漢字の方が音主漢字に比べ分散効果が大きかったという 結果は、訓主漢字の方が意味とのつながりが強いので音 主漢字よりも記銘語に付加される情報の量が多くなりや すく、このことが符号化変動性を大きくすることにより 生じたとも考えられる。

以上の解釈をまとめると、分散効果の違いは、意味的 符号化の行われる訓主漢字の方が、音韻的符号化が行わ れる音主漢字よりも意味的符号化の優位性と情報量の多 さにより符号化変動も起こりやすいので記憶の分散効果 が大きくなると結論づけられる。

ところで、再生順序の系列位置による分析結果からは、

符号化変動性による分散効果の説明をより発展させる結 果が得られた。再生前半では、分散効果の大きさは全体 再生率の結果と同様、訓主漢字の方が音主漢字よりも大 きかった。しかしながら、後半では漢字の種類の違いに よる分散効果の違いは見られなかった。このような再生 の前半でのみ漢字の種類による分散効果の違いが見られ た結果からは、意味的符号化の優位性や付加される情報 量の違いにより、意味的符号化の行われた訓主漢字の方 が音韻的符号化が行われた音主漢字より多様な符号化変 動を生じ、それが検索手がかりを豊富し、再生時のアク セスをより容易にした結果であることを明らかにした。

つまり、漢字条件による分散効果の違いは、再生時のア クセスの速さの違いに結びついた結果であると結論する ことができる。

本研究を通して、訓主漢字と音主漢字の記憶における 分散効果の大きさの違いから、意味的符号化の行われる 訓主漢字の方が、音韻的符号化が行われる音主漢字より も意味的符号化の優位性と付加される情報量の多さか ら、符号化変動も起こりやすく、さらに符号化変動の起 こりやすさが検索手がかりへのアクセスを容易にし、記 憶の分散効果が大きくなったと結論できる。

本研究は、訓主漢字と音主漢字の記憶に限定されたも のであったが、漢字の記憶や学習における分散呈示の効 果は、語彙の習得や、テキストの理解や記憶などに対し ての効果的な学習条件を計画する場合にも時間的条件を 配慮することの必要性を示唆するものであり、考慮すべ き条件であると言える。

5.要 約

本研究の目的は、漢字の意味的符号化と音韻的符号化 に着目し、訓主漢字と音主漢字の意図記憶における分散 効果の違いを自由再生課題で検討することであった。

実験計画は、2(漢字条件:訓主漢字・音主漢字)×

2(呈示条件:分散呈示・集中呈示)の要因計画で、両 条件ともに被験者内要因であった。被験者は、大学生

51

名であった。

実験は意図記憶手続きによる小集団実験で、被験者は

1項目につき5秒の速さで記銘リストに書かれた項目を

記銘した。記銘リストは、訓主漢字と音主漢字各4項目 ずつの16項目と、リストの前後に2項目ずつバファー 項目を入れ、さらに分散呈示のための介在項目数を

4

目に調整するためのフィラー項目を4項目、合計24項 目であった。記銘試行後、2分間の挿入課題(図形判断 問題)を行い、続いて

5

分間の書記自由再生テスト、事 後アンケートを行った。

主な結果は、以下の通りであった。全体の自由再生率 と再生の系列位置ごとの分析における再生前期におい て、予想通り訓主漢字、音主漢字ともに分散効果が見ら れた。また分散効果は、訓主漢字の方が音主漢字よりも 大きかった。

これら結果は、意味的符号化の行われる訓主漢字の方 が、音韻的符号化が行われる音主漢字よりも意味的要素 が強く、付加される情報量も大きかった。そのため符号 化変動が起こりやすく、さらに検索時には、検索手がか りへのアクセスが容易になったため、再生が早く行われ た。このようなメカニズムにより、分散効果の違いが生 じたと結論した。

引用文献

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野村幸正 1978 漢字の情報処理 −音読・訓読と意味の付与−

心理学研究、49、pp.190−197.

豊田弘司 1985 漢字の偶発記憶に及ぼす符号化された属性の 数および差異性の効果 心理学研究、56、

pp.36−40.

[付記] 本研究を行うにあたり、被験者として実験に協力し て下さいました奈良教育大学の学生の皆さん、実験の実施 とデータの分析に際して多大な協力をして下さいました宮 崎聖子さんに対し、ここに記して厚くお礼申し上げます。

参照

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