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ソロモン・ブラザーズ事件と国債市場改革

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ソロモン・ブラザーズ事件と国債市場改革

その他のタイトル The Events Involving Salomon Brothers, Inc.

and Regulatory Reform for Government Securities Market

著者 池島 正興

雑誌名 關西大學商學論集

巻 50

号 3‑4

ページ 99‑112

発行年 2005‑10‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/4616

(2)

関西大学商学論集 50巻第3• 4サ合併サ (200510 99 

ソロモン・ブラザーズ事件と国債市場規制改革

池 島 正 興

はじめに

1991730日に上院は,「1986年国債法 (GovernmentSecurities Act of 1986)」に規定さ れた財務省の規則策定権限の期間を延長し,新たな規制条項をも付け加えたS.1247(1991 改正国偵法 (GovernmentSecurities Act Amendments of 1991)」)を通過させた。しかし.

その法案は下院では通過させられず,成立することはなかった。

そのことは大手プライマリ・デイーラーであるソロモン・プラザーズ社による国債不正入札 や市場操作などの不正・不法行為,いわゆるソロモン・プラザーズ事件の19918月での発覚 に関連していた。その事件は国債市場規制の有効性の欠如を明白とさせ,連邦議会にこうした 事態を踏まえた, S.1247に含まれる規制条項にとどまらない.より包括的な国偵市場規制の構 築=立法化を不可避とさせたのである。そして,そうした立法化への動きは,199312月の「1993 年改正国債法 (GovernmentSecurities Act Amendments of 1993)」の成立に結実した。

こうした経緯から.「1993年改正国債法」の規制条項は「1991年改正国骰法」に既に含まれ ていた規制条項とソロモン・プラザーズ事件を契機に付加された新規規制条項との,相関連す るものの区分可能な2つの部分から構成された。そして筆者は前者の規制条項に考察を限定し た上で「1986年国値法」との対比による「1993年改正国偵法」の規制体系の基本的特徴の析出 の作業を既に行った1)。本稿は,その後者の規制条項を考察の対象に.そもそもソロモン・プ ラザーズ事件がいかなる国債市場規制の必要性を提起し,また,それをめぐり.いかなる論議 が展開されたのかを整理し,かつその議論と関連させつつ「1993年改正国債法」に具現された 国偵市場規制の特徴を析出するのを課題とする。直接的な考察対象は異なるとはいえ,「1993 年改正国偵法」の国伯市場規制の基本的特徴の全体像を析出しようとする点において本稿と前 稿は相互補完的な位置にある。

1)池島正興「90年代アメリカ国債市場規制の新展開」「関西大学商学論集」第49巻第6 20052 17

21ページを参照。

(3)

100  関西大学商学論集 50巻第3・ 4号合併号 (2005年10

I.  ソロモン・プラザーズ事件等の国偵市場規制へのインパクト

議会が新たな国債市場規制条項を審議する契機となったソロモン・プラザーズ事件とは次の ようなものである。

ソロモン・プラザーズ社(以下,ソロモンと記す)は19898月〜915月の9回の国債入 札で10の虚偽の入札漂を提出し,その結果, 35%ルールの上限を95低ドルも超える規模の国債 を獲得した。このうち19915月22日の国偵入札では,その発行国偵の不正な独占的獲得によ りソロモンはショート・スクイーズを引き起こし巨額の利益を得た。また19914月の段階で ソロモンの璽役は国債取引担当役員が虚偽入札を行ってきた事実を把握したものの,政府当局 に報告せず,その役員を現ポジションにとどめるなど,適正な社内措置を取らなかった。そう した役員の行動を7月の証券取引委員会(以下, SECと記す)への提出書類でも, 8月に同社 が自主的に行った国債不正取引の新聞発表でも明らかにしないなど連邦証券法のデイスクロー ジ ャ ー 要 件 に も 違 反 し た 。 さ ら に ソ ロ モ ン は 政 府l関 連 企 業 (Government‑sponsored  enterprise,以下, GSEと記す)にその企業の発行偵券の販売規模を報告する際に,その規模 を日常的に過大に報告した。さらに1986年末にはソロモンは一連の架空取引で1億6,800万ド ルの虚偽の損失を申告し,連邦所得税を過小にしか支払わなかった。虚偽の入札,架空取引や それに関連した虚偽の記帳・記録など数多くの違反をソロモンは行った叫

ソロモンによる, GSE債券の販売規模の虚偽報告という不正・不法行為の発覚は証券業界で のそうした行為の有無についての調査の切っ掛けをSECに与えた。

連 邦 抵 当 金 庫 (FederalNational Mortgage Association)や 連 邦 貸 付 抵 当 公 社 (Federal Home Loan Mortgage Association)などのGSEは発行偵券を販売シンジケートを通して投資 家に販売する。そしてシンジケートのメンバーにはGSE偵券の引受割当率の上限や,自己勘定 で購入するには発行体との事前合意を必要とすること,などの条件が課されていた。しかし,

いくつかの種類のGSE偵券に関して,そのメンバーである98の国偵プローカー・デイーラーが 自己の偵券の引受割当率を維持し,さらに増大させるために自己勘定での買い注文を顧客注文 と偽り,額客の買い注文の規模を水増しして発行企業に報告していた。こうした不正行為は虚 偽の記帳や記録を必然的に伴うものであり,実に多数の国偵プローカー・デイーラーが証券取 引法の記録要件の規則違反を故意に犯していた叫

2)  U. S.  Cong.. Government Securities Reform Act of 1993, Report of Committee on Energy and  Commerce. September 23. 1993. pp.1819を参照。以下. GSRAof 1993 Reportと記す。

3)  GSRA of 1993 Report. pp.1920およびU.S.  Cong., Review of Violations in the Marketing of Govenzment  Securities. Hearing before the Subcommittee on Oversight of the Committee on Ways and Means. House of  Representatives. September 26, 1991. pp.124127: p.243を参照。

(4)

ソロモン・プラザーズ事件と国偵市場規制改革(池島) 101 

国偵市場でのショート・スクイーズの現出やそれに関連する国偵の不正入札を含むソロモン の数々の不法行為.証券業界に広範に存在したGSE債券の販売に関わる不法行為などの発覚は これまでの国偵市場規制の有効性の欠如を如実に示した。

この事態に議会は迅速に対応した。上院では19919月10日にS.1699(1991年国俵オファ リング施行法 (GovernmentSecurities Offering Enforcement Act of 1991)」)が提出された。

その法案はソロモンの国債の虚偽入札に対応するものであり国偵の入札や購入での虚偽の.

あるいは誤解を招くような許面申立てを明白に証券法の違反とする(以下,「虚偽記載」事項 と記す)ものであった。そして9月11H12日にこの法案に関する銀行・住宅・都市問題委員 会証券小委員会の公聴会を開催した上で. 9 月 25 日に上院はそれを全員一致で通過させた~)

他方・下院ではエネルギー・通商委貝会テレコミュニケーション・ファイナンス小委員会が ソロモン事件等に関連して・「1991年 国 偵 改 革 法 (GovernmentSecurities Reform Act of  1991)」のタイトルが付けられた法案H.R. 3927を提案した。

H. R. 3927S.1247の規制条項に加えて.新たに4つの規制条項.すなわち「国債プローカー・

ディーラーによる記録・報告」「国債大規模取引者の報告」「詐欺的・操作的行動や行為の防止」

「プローカー・デイーラーの管理貢任」の条項を含んだ。これらはソロモンによる市場操作に 起因するショート・スクイーズやその社内での自己管理の欠如などに対応するものであった。

「国偵プローカー・デイーラーによる記録・報告」条項(以下,「記録・報告」条項と記す)

は.市場監視や国偵の価格と取引活動のモニターのために国偵プローカー・デイーラーに追加 的な記録や報告を命じる権限をSECに与えることで.株式市場および債券市場に対する現行の SECの権限を国偵市場にまで拡充しようとするものであった。「国値大規模取引者の報告」条 項(以下,「取引者報告」条項と記す)は.市場監視のために国骰の大規模取引顧客を識別し その取引報告を受け取ることをSECに許すことで.株式市場と債券市場に対する現行のSEC 権限を国偵市場にまで拡充しようとするものであった。「詐欺的・操作的行為や行動の防止」

条項(以下.「詐欺・操作防止」条項と記す)は国債市場での詐欺的・作為的・操作的行為 などを防止するための規則を国偵プローカー・デイーラーに対しSECが策定できるようにする ことで,株式市場およぴ偵券市場でのプローカー・デイーラーに対する現行のSECの権限を国 偵市場にまで拡充しようとするものであった。「プローカー・デイーラーの管理責任」条項(以 下,「内部コントロール」条項と記す)はSECに登録の全てのプローカー・デイーラー.自治 ー・アイーフー,』対し,記帳や記録の違反 体の証券のプロ デイ ラ . 国 偵 プ ロ ー カ ―  ..

を含む証券法の違反を防止するための内部政策や手続きを義務的に制定するよう求めるもので あった叫

4) U. S.  Cong.. Govemment Securities  Act  Amendments of 1993,  Report of Committee on Banking.  Housing, and Urban Affairs, U.S. Senate, July 27, 1993, p.6を参照。

5) H. R. 39271t案の内容についてはU.S.  Cong., Government Securities Reform. Hearings before Subcom‑

mittee on Telecommunication and Finance of the Committee on Energy and Commerce. House of /' 

(5)

102  関西大学商学論集 50巻第3・ 4号合併号 (2005年10

II.  H. R. 3927と「合同報告書」の勧告

(1)「国個改革」公聴会での議論

H. R. 3927のこれらの新規規制条項について, 19911025日のテレコミュニケーション・

ファイナンス小委員会の「国債改革」公聴会で関係諸機関はそのコメントを求められた。

SECは,その新規規制条項の全てを概ね支持するコメントを行ったが,そのコメントで特に 注目すべきは次の2点である。第1 SECが「記録・報告」の条項にとりわけ強い支持を表 明したことである。株式市場やオプション市場では市場監視の目的で時間も刻印された個々の 取引の時系列的な報告・記録の規制者への提供,いわゆる監査追跡 (audittrail)が実行され ているが,それは国偵市場でも市場操作,インサイダー取引などの悪徳行為を看破し,それと 戦う上で不可欠であることをSECは強調したのである。第2は,「取引者報告」条項について,

大規模取引の記録や報告(以下,「取引報告」と記す)よりも,そのコスト等を勘案するならば,

同じ目的を達成する手段として,大規模ポジション保有者にそのポジションの記録と報告(以 下,「ポジション報告」と記す)を求める方が望ましい, と主張したことである\

財務省はH.R. 3927へのコメントの基本的姿勢が,「1986年国偵法」(以下, GSAと記す)の 国偵市場規制構造が正しいとの判断にあることをまず強調した。その上で,「記録・報告」条 項および「取引者報告」条項に関して, GSAは国債プローカー・デイーラーに記録や報告を 求める権限を財務省にかなり与えているのでありさらにSECにもその権限を付与することは 権限の複製化となり市場に混乱をもたらすので望ましくない, と主張した。また「記録・報告」

条項に関連しては,株式市場などと異なり国債市場では市場操作が容易に看破されるので監査 追跡を必要としないこと,「取引者報告」条項に関してはSECと同様に,「取引報告」よりも「ポ ジション報告」の方がショート・スクイーズの原因を確定する上でより有用であることを財務 省は主張した。最後に「内部コントロール」条項については,全ての国餌プローカー・デイー ラーに証券取引法等の違反を防止するよう企図された内部コントロールを求めるのは適当であ るが,全米証券デイーラー協会(以下, NASDと記す)やニューヨーク証券取引所は内部コン

トロールに会員が取り組むよう規則を既に制定していることを財務省は指摘した 。

かくして.財務省はSECとは対照的に新規規制条項へ全般的には否定的態度を示した。連邦 準備制度理事会(以下,連邦準備と記す)も「大規模取引者報告.一般的報告要件,内部コン

Representatives.May 9,  1991/0ctober 25. 1991/February 19, 1992, pp.295317を参照。以下. Government Securities Reform, Hearings Iと記す。

6) SECの新規規制条項へのコメントについては. GovernmentSecurities Reform, Hearings I.  pp.163164;  pp.181184を参照。

7)財務省の新規規制条項へのコメントについては. GovernmentSecurities Reform, Hearings I.  p.192:  pp.196198: p.230を参照。

(6)

ソロモン・プラザーズ事件と国債市場規制改革(池島) 103 

トロールに関しては.われわれは今後の研究を待つのがベターであると提起する。これらの提 案が必要なのは明白ではない」8)とそれらへの消極姿勢を示した。

NASDは「記録・報告」条項には支持を表明し, SECと同様に,市場操作を看破する上での 監査追跡の必要性を強調した。しかし「取引者報告」条項については,それがSECSROの現 在の市場監視能力を高めるのかは疑問であると,それへの否定的見解を示した。また「詐欺.

操作防止」条項については, SECの反詐欺権限の国債市場への拡充がSEC規則への国債プロー カー等のコンプライアンスを高める,などの理由で支持し,「内部コントロール」条項につい ては,内部コントロールの既存の規則にさらに法令上の規制を付加する必要性はなく,むしろ その幅広い管理責務は証券取引法の違反がない場合ですら証券会社にその管理の失敗の法的資 任を過度に負わせる,という理由でNASDは反対した叫

(2)「合同報告書」の規制立法勧告

この「国偵改革」公聴会の後. 19921月には財務省. SEC.連邦準備の3機関による「国 偵市場に関する合同報告書」(以下.「合同報告書」と記す)が提出された。「合同報告害」は ソロモン・プラザーズ事件やショート・スクイーズの再発を回避するために国偵市場の制度的 枠組の改革を提起するものであったが,規制に関する立法上の勧告をも含んだ。

「合同報告書」は 3機関の意見の一致を見たものとして 2つの規制項目を勧告した。一つは S.1699と同内容の.「虚偽記載」事項を立法化すべし,という勧告であった。もう一つはGSE 発行証券に関連する。ソロモン事件の調査を通してGSE偵券の分配でのデイーラーなどの不正 行為が明白になることでGSEの証券も注目を集めたが.従来それはSECへの登録を免除される 国債の一種として取り扱われてきた。これに対し3機関は財務省の証券とは異なりGSEの債券 には政府保証がなく,またGSEの発行する株式は民間で保有され.その投資価値は他の株式と 同様に発行体としてのGSEの経営活動等に依存するのであるから. GSEの株式と無担保偵券を 連邦証券法の対象から免除する現行の措置を撤廃するよう勧告した10)

「合同報告書」はH.R. 3927の「取引報告」については.それは株式市場では適当であるが そのコストとベネフィットのバランスは国債市場では非常に異なりもっばらショート・スク イーズ対策としてそれを採用するのであるならば.国偵市場に不当に負担となる,とそれの郡 入に否定的見解を示した。その問題に対処して市場監視を強化するには「取引報告」よりもむ

しろ「ポジション報告」の方がより効率的である.と主張した"位しかし「ポジション報告」

8) Government Securities Reform, Hearings I.  p.239. 

9)以上のNASDのコメントについては. Governme11tSecurities Reform, Hearings I.  pp.243250を参照。

10)  Department of the Treasury, Securities and Exchange Commission. Board of Governors of the Federal  Reserve System, Joint Report on the Government Securities Market. January 1992, pp.xv ‑xvi; pp.3334 参照。

11) Ibid., p.B93. 

(7)

104  関西大学商学論集 50巻第34号合併号 (2005年10

の立法化への諸機関の見解は分かれた。

財務省,ニューヨーク連銀 SECは.「ヘッジファンド」と呼ばれる巨大で未規制の新規市 場参加者の登場などの国偵市場の変化を前提とすれば,財務省の国偵再発行政策などが深刻な ショート・スクイーズを解決できない場合に特定の国債の大規模ポジションの保有者がポジ ションに関する報告を規制機関に行うよう求めるバックアップ権限を財務省に与えるのは適当 でありその立法化がなされるべきと主張した。

これに対し連邦準備は国偵再発行政策の有効性がその権限を不要にするとともにそのバッ クアップ権限がひとたび与えられると予防的にその権限を積極的に活用することにならざるを えない, という理由でその権限付与に反対した。さらに連邦準備は,「ポジション報告」は市 場にコストを課し若干の投資家に自己の投資戦略の秘密性を保持するために,仕事をオフショ アに移す,あるいは.国偵市場への参加を抑制する,ようにさせるが,そのことは国債のファ イナンスコストを増大させることになろう,とも主張してそれに反対した。しかし,かりにそ うした権限の付与が立法化されるならばその権限は財務省に与えられるべき, という点では連 邦準備も他の諸機関の意見と一致していた12)0

監査追跡制度についても諸機関の見解は分かれた。監査追跡制度は株式市場などで利用され ている主要な市場監視手段であるが, GSAは国債市場での類似した監査追跡制度を設定する 権限を認めていない。

財務省と連邦準備は,監査追跡制度の国債市場への荘入を支持する強力な現実的ケースが存 在したことはなく,また,インサイダー取引や他のタイプの悪徳行為に国債市場はそれほど脆 弱ではないので,それに尊入のコストを上回るベネフィットがあるとは信じられないと主張し た。さらに国債市場の透明性の改善など「合同報告書」で論議されている他の手段の有効性 がこの監査追跡制度の必要性を減少させる,という理由も挙げて,その祁入に反対した。

これらに対しSECは監査追跡制度は国債市場の監視の価値ある手段であり,現在では国債取 引に関する包括的な情報を得られないので実際にソロモンの調査は困難を極めた,と主張した。

そして株式市場での完全監査追跡制度と異なる,既存の取引情報システムを活用する部分的監 査追跡制度が国偵市場には適合的でありそれは市場監視の改善にかなりのベネフィットを与 える一方で市場参加者にかなりのコストを課すものでなく,また,たとえ他の手段が導入され て市場の透明性が高められても,その必要性は減少しても消滅することはないのでそうした監 査追跡制度を実施する権限を与えるようSECは主張した13)0

さらに「合同報告書」は「内部コントロール」条項に関しては,「虚偽記載」事項が立法化 されるならば,その条項は無用となるであろう,と主張しその立法化への消極的姿勢を示した14)0

12)大規模ポジション報告に関する諸機関の見解は. Ibid.,pp.2021を参照。

13)監査追跡制度に関する諸機関の見解は. Ibid.,pp.2325を参照。

14)以上については. Ibid.,p.25を参照。

(8)

ソロモン・プラザーズ事件と[:lllf貞市場規制改革(池島) 105 

m .

新規規制立法をめぐる論議

(1)「国恨市場での不適当な活動に関する財務省・連邦準備.SECの報告」公聴会 1992123日に開催された上院銀行・住宅・都市問題委員会証券小委員会の「国債市場で の不適当な活動に関する財務省・連邦準備・SECの報告」公聴会では「合同報告書」で諸機関 の見解が分かれた.監査追跡制度に関連するH.R. 3927の「記録・報告」条項が論議の中心と なったがそこでの諸機関の主張は「合l'i!J報告肖」で示されたものと大差なかった。

連邦準備は幅広い報告要件や監査追跡制度の祁入の差し迫った必要性を示す現実的ケースは 国偵市場には存在してこなかったし.また.それは全ての取引者に追加的記録要件に伴う直接 的コストを課すのみならず.そのファイナンスの源泉や投賓戦略の暴露というリスクを負わせ ることで市場からの撤退を促し.その結果.財務省のファイナンスコストの増大という大きな 間接的コストももたらす. とそれらに強く反対した。報告要件の拡充へのパックアップ権限の 付与は実際には容易にその権限を発動することにつながる懸念があり市場参加者にアメリカ証 券市場への関心をそぐメッセージを送ることになる,と主張し,そのパックアップ権限の付与 にすら連邦準備は反対の意向を示した15)

それに対しSECは監査追跡制度が煎要な市場監視制度であり.その必要性はソロモン事件で 実 際 に 示 さ れ . ま た . 既 存 のGSCC (the Government Securities Clearing Corporation) GOVPX (Government Pricing Information System)などの取引データを利用し統合化するな らば.市場参加者に新たな報告を求める必要性はなくコスト負担も大きくないと反論した16)0

財務省は監査追跡制度が国債市場にかなりの負担を課し.国債取引のやり方に小さくない変 化を与えるであろう. とそれの祁入への消極的姿勢を示した。またニューヨーク述銀も外国中 央銀行を含む外国人投資家は自らの国債取引パターンを公開せざるを得ない監査追跡制度を好 意的には捉えないであろう. とそれへの消極的姿勢を示した"心

他方この「記録・報告」条項の問題とは別に.議員からはGSEの株式や無担保偵券に関する「合 同報告書」の立法化勧告への強い批判がなされた。すなわち議員からは.当事者たるGSEの意 見すら聴取していないこと.またGSEの証券で投賓家が搾取された事実がなく.単にソロモン・

プラザーズ事件に関連してディーラーのGSEの証券の取り扱いが問題とされたに過ぎず.それ とは直接関係のないGSEの証券それ自体を問題にして.それの連邦証券法上の免除措置の撤廃

15)  U. S.  Cong.,The TreasuryFederal ReserveSEC Report on Improper Activities i1l /he  Government  Securities Market, Hearing before Subcommittee on Securities of Committee on Banking, Housing, and  Urban Affairs. U.S. Senate. January 23. 1992, pp.1314を参照。

16) Ibid.. pp.2728を参照。

17) Ibid., pp.2829を参照。

(9)

106  関西大学商学論集 50巻 第3・ 4号合併号 (2005年10

の勧告を行うことはGSEの証券への投資家の懸念を産み出すものである.との批判がなされた18)

(2)「国慨改革」公聴会

19922月19日に開催された下院エネルギー・通商委員会テレコミュニケーション・ファイ ナンス小委員会の「国債改革」公聴会ではH.R. 3927の新規規制条項や「合同報告書」の立法 化勧告への関係民間機関の意見聴取がなされた。ここでの公共証券協会の見解は次のようにま

とめることができる。

「記録・報告」条項に関しては. GSAが記録の権限を財務省に付与しているので, SECにそ の権限を与えるのは懸念があり したがってその条項の必要性には疑問がある。「取引者報告」

条項に関しては.報告要件でのSECへの権限付与に反対する。そしてショート・スクイーズ対 策としては「取引報告」よりも「ポジション報告」の方が国偵市場の需要サイドのより有用な 情報をより安価に獲得できるので望ましい。しかし,そうした報告要件を課す直接的コストや 投資家が取引のデイスクロージャーの懸念から国偵市場への参加を抑制する潜在的コストも注 意深く考察すべきである。「詐欺操作行動の防止」条項に関しては,「虚偽記載」事項の立法化 は支持するが,詐欺行為などを防止する幅広い権限をSECに付与することは不要でありその 条項には反対する。また「内部コントロール」条項についても,その立法化を正当化する事例 は示されず,また文書化された管理政策を確立や実行できないこと自体が証券法違反とされて 国債市場に多大なコストを課すことになるので,その条項にも反対する。そして「合同報告書」

がそうした管理資任に関連する新規立法を提案しなかったことに注目する。

かくして公共証券協会は全体的にH.R. 3927に反対の立場を示し.また「ポジション報告」

の立法化すら支持しなかったのである19)

(3)「国佃法と入札プロセス改革」公聴会

199226日に下院銀行・ファイナンス・都市問題委員会と同国内金融政策小委員会との 合同の「国偵法と入札プロセス改革」公聴会が開催された。ここでは再ぴ. GSEの発行証券に 関する「合同報告書」の立法化勧告が論議の中心となった。

財務省はその勧告の立法化がGSE発行のモーゲージ担保証券には影響を及ぼさず.また全て GSEの証券がレポ取引や国偵プローカー・デイーラーによる取引で現在通りの取扱い資格を 保持できるよう法律上明記するであろう.ことを強調して議会の支持を求めた20)

18)  Ibid.. pp.3335を参照。

19)公共証券協会のH.R. 3927の新規規制条項への見解については. GovenzmentSecurities Reform, Heanngs  I.  pp.347349を参照。

20)  U. S.  Cong.. Government Securities Act and Auction Process Reform. Joint Hearing before the  Subcommittee on Domestic Monetary Policy and the Committee on Banking. Finance and Urban Affairs.  House of Representatives. February 6.  1992. p.6を参照。

(10)

ソロモン・プラザーズ事件と国債市場規制改革(池島) 107 

こうした主張にかかわらず,銀行・ファイナンス・都市問題委員会委員長や国内金融政策小 委員会委員長を先頭に多くの議員からその勧告への批判が続出した。議員からは, 1) GSE 証券の証券取引法からの免除は公共政策の観点からなされており,その免除によるGSEの迅速 かつ弾力的な資金調達は国民へのより安価な住宅賓金の安定的供与という公共的利益に合致す 2)顕在化したGSEの証券の分配での問題はあくまでもデイーラーの行動に関わるもので ありGSEあるいはその証券発行それ自体について問題が生じた記録は存在しない, 3)それに もかかわらず,その免除を勧告するのはGSEに対してSECが規制権限を拡張したいという欲望 に基づくものである, との主張がなされた。他方, SECや財務省は,その免除に公共政策上の 理由は存在しないし他の民間所有企業の証券発行と平等に扱われるべきであり.その免除が 人々にGSEの証券に法律が適用されないかのように行動させるよう促進している.と反論した21)

w .

1993年改正国債法」の成立へ

1992428日と 57日に上記の国内金融政策小委員会の「H.R. 4450一国債入札改革法/

H. R. 3927一国債改革法」公聴会が開催された。ここでの中心課題の一つはH.R. 3927への意見 聴 取 に あ っ た が そ の 対 象 と な るH.R. 3927は.これまでの公聴会での論議や「合同報告書」

を踏まえて.その当初案からは変更されていた。新規規制条項の「取引者報告」条項は削除さ れ.「ポジション報告」を課す条項(以下,「ポジション」条項と記す)に差し替えられていた。

また「合同報告書」のGSEの証券に関する立法上の勧告は受け入れられずH.R. 3927には付加 されなかった。

この公聴会でも.差し替えられた「ポジション」条項を含めてH.R. 3927の新規規制条項に 関して既に表明されてきた関連諸機関の見解やその対立の構図に変化はなかった。

そして.これまでの一連の公聴会を踏まえて下院エネルギー・通商委員会はH.R. 3927(1992 年国債改革法 (GovernmentSecurities Reform Act of 1992)」)を1992812日に採択した。

それはH.R. 3927の新規規制条項に直接関連するものとして1)「記録」. 2)「大規模ポジショ ン報告」. 3)「内部コントロール」. 4)SEC反詐欺・反操作権限」の4つの条項を含んだ。

21) GSEの発行証券に関する以上の論議については. Ibid,pp.1527を参照。またGSEであるFreddieMac SECなどの主張に要旨次のように反論した。 1) 1970年にFreddieMacが議会により設立認可が与えられ た後. SECFreddieMacの全ての発行証券の登録の免除を承認したのであり.議会は登録負担からの免 除がFreddieMacの住宅供給の増大という公共H的の遂行能力を高めることを認識してきたのであり. 2)  またFreddieMacの証券への投資家は他の証券への投賓家に比べてより包括的なデイスクロージャーとよ り十分な投汽家保護を受けており. 3)それにもかかわらず.登録の免除を取り消すことは登録コストの かなりの増大とFreddieMacの侶認の低下による新規発行証券の利回りの上昇と既存の証券の価値の下落 をもたらし.結果としてFreddieMacの公共的使命の遂行にかなりの悪影響を及ぼすであろう (U.S. Cong.,The TreasuryFederal ReserveSEC Report 011 Improper Activities in  the Government Securities  Market, pp.310315を参照)。

参照

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