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学位論文要旨(博士(理学))

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Academic year: 2021

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学位論文要旨(博士(理学))

論文著者名 川村 方希

論文題名:Role of O-glycan in processing of amyloid precursor protein (APP).

(邦題):アミロイド前駆体タンパク質のプロセッシングにおける

O

型糖鎖の役割(英文)

近年の急速な高齢化社会の到来とともに、老人性認知症が医学的、社会的に重大な問題 となっている。老人性認知症は21世紀の人類を脅かすmajor killerとも言われている。先 進各国とアジア諸国では人口の高齢化とともに認知症が爆発的に増加している。世界では 2,430万人、米国では 400万人、日本でも既に 200 万人を超しており、少子超高齢化時代 を迎える 15 年後には 400 万人と推測される。この認知症の半数以上がアルツハイマー病

AD)である。AD とは、神経細胞の減少により脳が次第に委縮していく認知症の一つで ある。病理学的特徴として、AD患者の脳内では線維化したアミロイドβ)が集合して 形成された老人斑と、タウを構成成分とする神経原線維変化が見られる。老人斑は神経細 胞毒性の強いペプチドが神経細胞外に沈着したものであり、神経原線維変化はリン酸化 されたタウタンパク質が神経細胞内に蓄積したものである。アルツハイマー病の病因は依 然として不明であるが、の蓄積を病気の本体とするアミロイド仮説が有力視されている。

はアミロイド前駆体タンパク質(APP)の細胞外ドメインから、β-セクレターゼとγ-セク レターゼの働きにより切り出されるペプチドで、主に40アミノ酸からなる4042アミ ノ酸からなる42がある。細胞外に分泌されたは凝集性が高く、βシート構造に富んだ 不溶性のアミロイド線維を形成して老人斑となる。このΑβの蓄積がΑD の発症要因と考え られることから、AD研究においてAPP代謝の過程が注目されている。

ところで、タンパク質の多くは糖鎖修飾を受ける糖タンパク質であり、その糖鎖はタン パク質の物理的な性質や相互作用に影響することが知られている。糖鎖修飾はタンパク質 の翻訳後修飾の一種であり、遺伝子の直接の産物ではない。糖鎖の生合成は、主に複数の 糖転移酵素により特定の糖を鎖状に結合することで進行するが、糖分解酵素や糖供与体な ど多数の因子との相互作用により成り立っている。そのため糖鎖修飾は加齢や栄養等の環 境的因子の影響を受けて構造などが変化しやすいことが知られる。APPAPPの代謝に関 わる酵素の多くも糖鎖修飾を受ける糖タンパク質である。したがって、加齢などによる糖 鎖修飾の変化がAPPのプロセッシングに影響する可能性が考えられる。

私の所属する東京都健康長寿医療センターには、研究利用を目的とし、ヒトの死後の脳 を生前の臨床所見と共に保管している高齢者ブレインバンクが設置されている。私の研究 室では、この検体を用いて糖鎖遺伝子の発現を網羅的に解析して、ADにおける糖鎖の変化 APP代謝に及ぼす影響を調べている。本研究において、私はO型糖鎖の合成開始酵素で

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ある O-GalNAc 転移酵素(GALNT)ファミリーと APP 代謝との関連について調べた。

O-GalNAc型糖鎖はタンパク質のSerThr残基にN-アセチルガラクトサミン(GalNAc を介して結合する主要なO型糖鎖である。GALNT ファミリーはGalNAcSerThr 基に転移する糖転移酵素のファミリーであり、現在までに約20種のアイソフォームが同定 されている。APPO型糖鎖修飾を受けることは報告されているが、糖鎖修飾の加齢変化 APP代謝およびADとの関連についてはほとんど分かっていない。そこで、まずAD 者脳における GALNT ファミリー遺伝子の発現について調べた。認知症を認めない脳を健 常コントロール群とし、AD患者脳は病理診断により進行度別に早期AD群とAD群に区分 し、各10例、平均85歳の患者脳の検体より RNAを抽出し、定量PCR法によりmRNA の発現量を定量した。その結果、いくつかのアイソフォームにおいて AD の進行に伴った 発現の増加が観察された。現在、これらの GALNT 遺伝子について培養細胞に強制発現さ APP 代謝への影響を検討している。以下本論文では、強制発現細胞株を樹立できた GALNT1、GALNT4、GALNT6APP代謝との関連を検討した結果について述べる。AD 患者脳における各mRNAの発現については、GALNT1ではコントロール、eADAD群の 間に有為な差は認められなかった。一方、GALNT4GALNT6では早期AD群およびAD 群において有為に増加していた。続いて、N末端にHA-tagを融合したAPPおよびC末端 Myc-tag を融合した GALNT cDNA を含む哺乳動物細用発現ベクターを作製し、

HEK293T細胞を用いてAPPGALNTを共発現する二重安定発現株を作製した。

培養上清中に分泌された量をサンドイッチELISA法により調べた結果、GALNT4 は増加し、GALNT6では減少する傾向が観察された。また、αおよびβ-セレクターゼによる APPの切断部位を特異的に認識する抗体を用いたWestern blotにより、APP GALNT の発現を確認した。その結果、GALNT4では分泌型APPβsAPPβ)がやや減少していた。

GALNT6ではsAPPαが顕著に増加し、sAPPβはほぼ消失していた。GALNT1ではおよ sAPPαsAPP βの産生量に有為な変化は認められなかった。この結果から、O型糖鎖修 飾が APP 代謝に関わることが明らかとなった。また、GALNT1、GALNT4 GALNT6 によるおよびsAPPの産生量に対する影響が異なっていたことは、これらのGALNT O-GalNAc 修飾の標的としているアミノ酸配列あるいはタンパク質が異なることを示して いるものと考えられる。

糖鎖変化によるAPP代謝への影響の可能性として、APPそのものの糖鎖変化とAPP 身ではなくセクレターゼなどの代謝に関わる酵素の糖鎖が変化する場合が想定される。そ こで、GALNTの過剰発現によるαおよびβ-セクレターゼへの影響も調べた。TACEBACE の発現をWestern blotによって調べた結果、TACEではGALNT4GALNT6では成熟型 が減少し未成熟型が増加する傾向が観察された。しかし、α-セクレターゼ活性を調べたとこ ろ、活性に有為な差は認められなかった。一方、BACEではGALNT1、GALNT4GALNT6、

全ての場合において発現には変化は認められなかった。β-セクレターゼ活性も同様に有為な 差は認められなかった。細胞内には TACEBACE 以外にもセクレターゼ活性を示す酵素 が複数存在しており、今回測定した各セクレターゼ活性は、こうした酵素群の活性の総和 であることから、今後、各酵素単独の活性や発現に対する影響を詳細に調べる必要がある。

参照

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