児童に対する CAI システムの活用
平 田 真 弓
A practical use of CAI system
Mayumi Hirata
文部科学省は平成11年度までに公立小学校に,2人に1台の水準で教育用コンピュータを配置し,
平成13年度までにすべての学校がインターネットに接続できるよう,計画的な整備を進めてきた。従 って,小学校低学年からコンピュータに触れる機会が多くなってきた。コンピュータを使っての「お 絵描き」から始まり,インターネットを使っての授業,ホームページの作成など,多岐に渡る。近い 将来,サイバースクール(未来の学校:ネットワークを介して世界と結ばれていたり,コンピュータ を利用して学習する教室)の出現となるかもしれない。
そこで小学校の教科学習においてCAIが導入される場合,各教科で分析・設定された教育目標と,
教授・学習過程の展開時点における各構成要素に,CAIソフトがどのように適合しているか評価した。
Ⅰ.はじめに
学校教育においてコンピュータが各学校に導入されるようになった。特にCAIは個別学習による 学力の向上を目的として,ソフトの開発がおこなわれてきた。そのCAIに関する問題は,一人ひと りの学習者に適合する最適な学習用ソフトが開発されてるか否かということである。教育現場でのコ ンピュータ利用の日常化を考えると,学習用ソフトの開発は最重要課題である。しかし,教育現場に おいて,最適なソフトを開発するということは,労力と時間と経費がかかる。その上,高度な専門的 知識と経験が要求される。従って教育現場において,教師自身の手作り教材,すなわちCAIソフト の開発は困難なものがある。現在,商品化されているCAIソフトの多くは学習者の思考・操作や,
各教科内容の基礎的・基本的事項などの現状を十分把握することなく,また,各教科における目標と 評価について深く分析・検討する手順を経ることもなくそのソフトが制作されていると考えられる。
そこで本研究では,小学校算数科をモデルに,ブルームの教育目標の分析に基づいて目標分析を行 い,制作されたCAIソフトを評価しようとするものである。
Ⅱ.CAIの学習形態と教科内容
(1)目標分析とCAI
CAIのソフトを制作する上で重要なことは,各単元で何を教えるかを明確にすることである。そ のためには,学習指導要領に従い,各学習内容についての教材目標や診断目標を明確にし,到達度を 定めなければならない。つまり,教育目標を明確化することによって,指導する視点や評価問題の設 定が容易になってくる。さらにCAI学習が教育課程のどの位置において適切であるか検討すること は重要な課題である。
現在,CAIのソフトとして最も多く開発されているのは算数科である。その利用は児童の学習活 動における補充やまとめ,仕上げとしてのドリル学習の活用がほとんどであり,知識習得,技術習熟 をねらいとした個別学習型CAIである。これらドリル型の学習ソフトは児童の技術・技能の定着に 効果を発揮している。このCAIソフトは,フィードバックのくり返しによる学習の強化であり,決 まったコースをコンピュータに指示されながらの学習である。ドリル型学習ソフトによる知識・技能 の定着も一種のCAI学習といえるが算数科本来の授業は,発見的・創造的・問題解決的な学習である。
児童がコンピュータに使われるのではなく,学習の主体者として,既習事項を生かしながら見通しを 持ち,問題解決に立ち向かうための学習ソフトの開発が望まれる。
(2)CAIの学習形態
主な学習形態には,ドリルCAI,教え込み型CAI(個別対応型学習指導体系),シミュレーション 型CAI,ゲームシミュレーション型CAI,情報検索問い合わせ型CAI,実験支援型CAIなどがある。
これまでに開発されたCAIコースウェアの多くは,ドリルCAIがほとんどであり教え込み型も最近 になって制作され始めてきている。算数科におけるCAI学習ではドリルCAIの学習形態のみを使用 するのではなくて,教え込み型によって学習の主流を流し,一定の区切りごとにドリルCAI学習を 付加し,またゲームシミュレーション型CAIを取り入れる,そういった学習形態の方がよいのでは ないだろうか。
①ドリルCAI
初期のCAIや,現在市販されているCAIの中では圧倒的にこのタイプが多い。算数の計算問題など,
ドリルや演習問題のように反復練習させるものとして扱われてきた。ソフト開発の容易さ,及び学習 効果の評価がしやすいことなどがドリルCAIの普及につながったと考えられる。
ドリル型の基本は生徒に問題を提示し,その解答に相応して正誤判定など必要な処理を行うもので
②教え込み型CAI(個別対応型学習体系)
思考過程とは一般的にチュートリアルと呼ばれている部分で,概念の理解,知識の習得など,新し い考え方の導入や学習内容を指導する上でのもとになっている対応型のコンピュータ・システムであ る。学習者は,コンピュータによってコントロールされている感じを受ける可能性がある。しかし,
知識習得のために学習者の学習履歴や,特性・能力に応じた最適な教材を与えて,効率的にしかも高 い学習効果をあげうる学習方法として,高く評価されている。
学校教育のめざす学力としては,思考力,特に創造力が究極のものといわれているが,思考力育成 のためには,知識の習得という基盤が必要である。知識のないところに思考力は育たない。基礎基本 の知識を習得させるために,一人ひとりに対応して,間違いの矯正をすることができるものがCAI である。実行過程では問題の解法(手順)を指導するものである。経験に基づいた誤答例を用意し例 題によって自ら解答したものに対してアドバイスする。トレーニングは,上記内容を理解・定着させ るための問題・ヒント・解説・解答が用意されている。またテストは,理解を判定するにふさわしい 問題群であり,KR情報も併せ持っている。
③ゲームシミュレーション型CAI
ゲーム,ドリル,シミュレーションは互いに独立した方式ではない。
ゲームの基本は競争で,他と競い合う,あるいは時間を競い合うことで興味をそそり楽しむ。この 競争の効果を学習に生かす形をとることがあり,これをゲームシミュレーションと呼ぶ。ゲームとは 本来楽しむことを目的としているため,面白いソフトであればそれでよい。しかしゲームシミュレー ション型CAIは,それぞれに特定の知識を習得するという目的を持っていなければならない。
また,シミュレーションなどの演示は動きを伴うために分かりやすい型で視覚に訴え,時には学習 者自信の手で条件を変えてその結果を調べることができる。また,学習者への一つのアプローチとし てシミュレーションは,概念や法則などの複雑なモデルをコンピュータで実行することによって,基 礎となっている原則に関して理解を深めることができる。
(3)教科内容とCAI
CAIの学習形態には,種々のものがあることは前節で述べたとおりである。そこで教科教育として,
一般的に算数科のソフト教材が多い事から,算数科をモデルとして選んだ。今回は第3学年で学習す る単元「たし算とひき算の筆算」と,第4学年で学習する単元「小数」を選択し,その小単元ごとに 目標分析を実施。その小単元がCAI学習に適合しているか否かを,CAIの学習形態とのマッチング によって判定することにした。そのことによってコンピュータの特性を生かした学習形態の在りよう を追究しコンピュータメディア教育がどのようにかかわればよいかを検討した。
(第目標分析3学年)
単元:たし算とひき算の筆算
単元目標:3位数の加法及び減法の計算が筆算でできるようにする。
達 成 目 標 単 元
(小単元) 到達目標 事 実 知 識
用 語 基 準 方法論
1. 何百のたし算と ひき算
2.たし算の筆算
3.ひき算の筆算
・何百+何百
・何百−何百 の計算ができる
・3位数の加法の計 算が筆算でできる
・3位数の減法の計 算が筆算でできる
・筆算
・一の位
・十の位
・百の位
・お金の百円玉を考えて計 算させる
・3位数の加法及び減法の 計算の仕方を,2位数の場 合の計算の仕方や,整数の 加法や減法に関して成り立 つ性質を基にして考える
・波及的に繰り下がりが起 こる3位数−3位数の筆算 の仕方を,繰り下がりのあ る減法の計算原理を基に考 える
・500+200 先ず5+2で考える
・500−200 先ず5−2で考える
1 154+172 326
5 26̶3
−128 135
29 3̶0̶2
−165 137
39 4̶0̶0̶
−126 274
(第4学年)
単元:小数
単元目標:1.10分の1の位の小数のしくみを知り、小数の概念を養う。
2.小数の加法、減法が暗算や筆算でできるようにする。
達 成 目 標 単 元
(小単元) 到達目標 事 実 知 識
用 語 基 準 方法論
1. はしたの大きさ の表し方
・小数を用いると整数 で表せない端数部分を 表す事ができ,生活に 生かす事ができる
・水の測 定 値を使い 1dlより少ない量を小 数で10分の1の位まで 表す事ができる
・㎜の測定値を小数を 使って㎝単位で表し10 分の1の位までの小数 の概念が分かる
・小数
・0.1dl
(零点一デシ リットル)
・0.1cm
(零点一セン チ)
・整数
・分数
・小数点
・小数第1位
・数直線
・0.1,0.2,0.3……
・1dlの10分の1のかさを 0.1dlという
・1mmは1cm の10分の1 で 0.1cmという
・1,2,3……
1 10,1
2,2 3…
・「.」
・小数点のすぐ右の位
・かさや長さのはしたの部 分を小数を使う事で表す
・相対的な大きさから小数 をとらえる(1は0.1が10 個集まった数)
・小数の仕組みについて数 直線を使って表す 2.小数のたし算
3.小数のひき算
・ 小数の加法の暗算が できる
・ 小数の加法の筆算が できる
・ 小数の減法の暗算が できる
・ 小数の減法の筆算が できる
・整数の十進位取り記数法 の考えを,1より小さい数 にまで拡張して考える
・3.5+2.3 < 2 0.3
1
3. 5
+ 6. 8 1 0. 3
・9.8−7.5 < 7 0.5
9
̶1 0. 3 − 7. 5 2. 8
これによると「たし算とひき算の筆算」と「小数」の中の小単元「小数のたし算・ひき算」といっ た計算問題に関しては,目標分析にみられるように方法論の知識を習得する能力を培い,計算の技術 を定着させることが授業過程での中心課題である。従ってこの場合は,ドリルCAIの学習形態が最 適であると考えられる。ドリルCAIの中でも,問題集型のように誤答判定にもかかわらず,次の問 題に進むのではなく,分岐型のように誤答は勿論正答に対するコメントが挿入され間違えた箇所に応 じて,それぞれサブルーチンヘ進み,さらにフィードバックすることによって訂正の説明や問題が提 示されるようになる。また,誤答の箇所を分類しデータとしてファイルしておき各個人の学習するポ イントを資料として即時フィードバックするようにしておけば,コンピュータとしての特性を十分生 かしたソフトが作成できる。これは一通りその単元を終えた学習者が,個別に,自己の学習に即して 復習できる教材として,そのソフトを採用できる。
(4)CAI学習ソフトの評価結果
実際に市販されている新学習指導要領対応CAIソフト(ケンチャコ大冒険小学3年生・4年生)
を使用し,判定基準に基づいて評価を行い,一人ひとりの学習者に適合する最適なCAIソフトであ るか否かを調査・見当した。なおこのソフトは現役教師120名から構成された「日本基礎学習ゲーム 研究会」によって考案され,主要教科の基礎・基本を身につけるために作成されたソフトである。1 本のソフトの中に,国語,算数,理科,社会,英語の5教科が収められている。
①第3学年 単元「たし算とひき算の筆算」
ここでは3桁のたし算・ひき算の筆算が勉強できるよう「チャカチャカパズルで答えはいくつ?」
というゲームが用意されている。はじめに3桁のたし算・ひき算の仕方などの方法は説明がなく,完 全にドリルCAIのソフトである。難易度に合わせて,問題が用意されており,学習者にあったレベ ルで進めていくことができる。問題に5問正解すると,このコーナーは終了し次の課題に行くことが できる。
7 3 1
+ 8 9 7 1 7 2 9 5 6 8
5 8 6
− 1 2 9 4 6 5 2 7 1 3 9
答えの欄には直接数字を入れるのではなくて,上のように1〜9までのいくつかの数字が用意され ており,それがパズルになっている。計算式の下に答えの数字をパズルをしながら移動させるのであ る。計算方法で分からなければ,途中でヒントを出し,繰り上がり,繰り下がりの説明もしてくれる。
ただし,計算途中で,繰り上がり,繰り下がりを書く場所がないため,学習者は常に頭の中に繰り上
②第4学年 単元「小数」
小数のたし算・ひき算の暗算が勉強できるように「もえろ!暗算レース」というドリルCAIのゲ ームが用意されている。やはり難易度別に問題が用意されており,ゲームに10問正解したら,カード がもらえるようになっている。
8.8+4.4=□ □.□
7 8 9 4 5 6 1 2 3 0 .
画面は上記のようになっていて,□に数字をクリックして答えていく方法である。パズルのような 煩わしさはない。ただし,始めから答えの所に小数点が打ってあり,学習者は数字の所だけを入れれ ばよい。小数の加法・減法では桁を合わせることが最大のポイントであるが,この計算問題の解答で は関係がない。また,解答した後に間違いに気付いても,取り消して再度解答することはできない。
④評価の結果
実際に使用してみると,コンピュータという機械に支配され,学習者が自由にマウスやキーボード を操作して入力する方法は取られていない。また計算の定着を図るには,ドリル形態が最適だが,暗 算ができるようになる前に,正確に計算できることが到達すべき目標である。従って,ノートのよう に自由に繰り上がり,繰り下がりが書け,またどの箇所で間違えているのか,チェックできるように なっていなければならない。
Ⅲ.コンピュータの作業環境
コンピュータを利用していく上で,作業環境及び健康の両方を考えていかなければならない。コン ピュータの作業環境を考えた時,画面を提示する場合には,教授者が板書をするのと同じく,見やす く,理解しやすく,教育目標に応じて工夫されていなければならない。説明や問題提示の形式は,あ る程度統一されてされている方がよい。見やすい色が使われているかどうか工夫されていなければな らない。次に問題や説明などを画面に提示する時間,及び個々の学習者が解答に要する時間である。
今までのCAIソフトの中には,質問に対して,学習者が思考している最中にもかかわらず,時間が くるとヒントを提示したり,次の問題に進むことがあった。また,課題をしている最中に間違いに気 付いた時,訂正ができなかったり,間違えてクリック,あるいはキーボードを押してしまった場合で も,即,ヒントが入ったり,極端な場合には,その問題はそこで終了し,正しい答え,解答法を知ら されることなく次の課題に進むものもあった。そこでCAIソフトを使用した時,課題の内容によっ ては,時間に追われているような学習ソフトではなく,十分に思考のできる学習ソフトが望ましい。
また,マウスやキーボード操作であるが,質問に対して解答する場合,解答ごとに入力方法が異なる ようなCAIソフトが見られる。このような場合は学習内容以外のことに時間が潰されてしまうこと
になる。そのため,CAIソフトの統一的使用手順が規格レベルにおいて確立されることを望みたい。
また,コンピュータの利用を考えていく時,児童の健康面にも,取り組んでいかなければならない。
現在のVDTワークについては,VDT機器が生体機能におよぼすマイナスの影響が問題視されており,
ハードウェアの面でまたユースウェアの面での改善を求める声は高い。
多くの学校では明るい照明の教室に設置していることが多く,VDTからの光と,周囲の照明が重 なり合い,児童は,明るすぎるか,アンバランスな照明の元での作業を強いられることになり,かす み目や眼精疲労の原因となっている。さらにVDTワーク時に,目がつかれる,目がぼんやりする,
目が渇く,かゆみなどの訴えがある。この症状の原因として考えられることに,VDT上の字を読み とる時には,まばたきの回数が減少していたり,印刷物に比べて端末の正面はやや上方に位置してい るため,ユーザーは目を大きく見開いて見なければならず,表面の水分が蒸発しやすくなりこのよう な症状が出ると考えられる。正しい姿勢を保ち休憩を取り,目の体操をし,照明を適度に調整しなけ ればならない。
Ⅳ.おわりに
現在商品化されているCAIソフトの多くは,制作する過程において,学習者の思考・操作や,各 教科内容の基礎的・基本的事項などの現状を十分に把握し,各教科における目標と評価についても深 く分析・検討することなくCAIソフトが制作されているのではないかと危惧される。
CAI学習の設計に当たり,常に到達目標,達成目標が明確化されていなければならない。それら 目標に準拠して何を学習のねらいとしているのか再確認し,教材内容を学習者のコンピタンスおよび 教科目標の設定について検討しなければならない。また,概念形成を図るためには,体に感得するた めの操作活動や作業活動は必ず必要である。従ってシミュレーションやアニメーションなど,映像だ けの学習活動になるのではなく,なるべく直接的な体験に結びついていかなければならない。
本来,教授=学習課程とは,教科内容と教材,それを操作する教授者の教育技術とさらに教授者と 学習者のコミュニケーションにおいて成り立つものである。特に,教授者と学習者のコミュニケーシ ョンにおいて重要な事柄は,教授者の人間性である。つまり教授者のもつ人間性は個々の学習者(児 童)の人間形成に多大の影響力を与えるものである。教育の原点が教授者の人間性にあるならば,コ ンピュータの導入によってこれが失われることがないよう,コンピュータに使われるのではなく,コ ンピュータをどこまでもメディアとして使用し,学習の効率を上げるようにしなければならない。つ まり人は生き物であり,機器(コンピュータ)は物である。これを人間−機械系として,学習者に最 適な学習環境の構築に役立たせるよう心がけねばならない。コンピュータによる学習を展開する時,
教授者はチューターとして常に豊かな人間性によって学習者を支援することが望ましいと考えるので
今後の課題として,各教科におけるCAI学習の適合性とあわせて,コンピュータが児童の身体・
生理・心理的機能に与える影響なども考えていかなければならない。
参考文献
B.S.ブルーム(梶田叡一・渋谷憲一他訳)「教育評価ハンドブック」第一法規 1942 北尾倫彦・青柳偕行編集「新観点別学習状況の評価基準表 小学校算数」図書文化社 2002 教科書「算数3年上」 平成14年度用 啓林館 2002
教科書「算数4年上」 平成14年度用 啓林館 2002
坂本昴・渡辺茂共著「CAIハンドブック」フジ・テクノシステム 1989 文部省「小学校学習指導要領」(平成10年12月) 2001
上月節子他共著「新教育方法論」学術図書出版 1991
〈使用ソフト〉
・「ケンチャコ大冒険小学3年生」NECインターチャンネル株式会社 2002
・「ケンチャコ大冒険小学4年生」 〃 〃