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医学細菌の分類・命名の情報 4.細菌の分類と命名の相互関係

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Academic year: 2021

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(1)

1.はじめに

多種多様な生物界をどのように分類するのが最 も理にかなっているのか,この問題は生物を扱っ ている研究者なら一度は考える問題であろう.し かし,細菌をどう分類するか,ということになる と,それは専門家の仕事だとして本気で考える方 は少ない.その理由はまず,細菌の「種」の場合 には,「相互に交配しあい,かつ他のそうした集合 体から生殖的に隔離されている自然集団の集合 体」として定義される高等動植物の種の定義が適 用できないこと,細菌が単細胞生物で組織や器官 の分化もなく形態的特徴に乏しく興味がわかない ことが挙げられるであろう.さらに,それ以上の 理由として,分けるということ自体が人為的な作 業であり,しかも生物学者の数ほど分類の考え方 があり客観性を欠くからだ,との印象もあるであ ろう.また,細菌の命名にしてもそれは新菌種の 発見者の仕事であって,それがどのような約束の もとに命名されているかについて関心はない,と いう人がほとんどであろう.とにかく,分類学者 以外の研究者にわかりやすい分類とおぼえやすい 命名を分類学者に期待するばかりである.

確かに分類の仕方は材料と方法によって変遷し てきたのであるが,現在は人為的な分け方ではな く,できるだけ自然史に沿った分け方をしようと いうのが拠り所となっている.一方,命名は「国 際細菌命名規約」が拠り所である.分類と命名の この二つの拠り所について,少しでも読者の理解 が進むことを希望する.

2.分類学における菌株とタクソン

細菌の分類学 Taxonomy of bacteria,System- atic bacteriology,Bacterial systematics は多種多 様な菌株を識別して他の類似のものと区別し,学 名を付けて,多くの人に受け入れられる最も合理 的な整理体系の確立を目指す学問である.

分類の対象となる最小単位は菌株(strain)であ る.菌株は一つの細菌細胞から増殖してくる子孫 の集団であって純培養である.変異や汚染を防い で維持されており,分離歴や保存歴がわかってい るもので,菌株表示(strain designation)をもつ.

菌株表示はその菌株を他の培養物と区別するため に付けるのであって,その菌株が由来した患者名

(例えば稲葉,小川)から各研究室内での番号や記 号,菌株保存施設の受け入れ番号(例えば ATCC

○○○○○)まで種々である.菌株表示があれば 未同定で菌名が付いていなくても菌株である.し かし菌名があるだけで菌株表示のないものは菌株 とは認められない.菌株は性状を調べて既知のど の菌種に一致するか同定される.同定できなかっ た菌株は同定不能株として収集・保存して新しい 分類学研究の出発点となる.

分類群タクソン(taxon,複数は taxa)は,もと もと「束」という意味の語である.分類学 Taxon- omy はタクソンに由来している.タクソンは分類 学の基本的な概念である.タクソンには種や属な どの階級(rank,または分類階級 taxonomic rank)

がある.それぞれの階級のタクソンは学名(scien- tific name)を担う.学名は「国際細菌命名規約」に 連載4

医学細菌の分類・命名の情報 4.細菌の分類と命名の相互関係

九州大学大学院医学研究院細菌学分野

吉 田 真 一

93

平成13年 2 月20日

(2)

系統発生 Phylogeny

(狭義の)分類  Classification

命名 Nomenclature 分類学

Taxonomy 保存

Preservation

同定 Identification

則って命名される.

タクソンは概念であって具体的に存在するもの は菌株である.だから,大腸菌

Escherichia coli

をマ ウスに接種した,というのは正確ではない.Es-

cherichia coli

は種を示す学名であり,実際に接種

するのは菌株であるからである.この場合,菌株 表示を記載しなければならない.また,検体から

Escherichia coli

を分離した,という記載は正確で

はない.検体から菌株を分離したら

Escherichia coli

と同定された,と書くべきである.

3.分類学の 5

つの要素

分類学は次の 5 つの要素から構成される学問体 系である(図 1).この 5 つの要素を,タクソンと 菌株を用いて説明すると次のようになる.

(1)(狭義の)分類 classification とは,タクソン の限界を決め,菌株の類似性と相互関係をもとに 菌株をタクソンとして整理すること,

(2)命名 nomenclature とは,国際細菌命名規 約に則ってタクソンに学名 scientific name を与 えること,

(3)同定 identification とは,分離 さ れ た 菌 株 が,既に正式に命名されたタクソンのどれに一致 するかを決定すること,

(4)保存 preservation とは,タクソンの基準と なる生きた菌株(命名基準株 nomenclatural type strain または基準株 type strain)および種々の研 究や調査で得られた重要な純培養菌株を,変異や 汚染を防いで保存すること,

(5)系統発生 phylogeny とは,タクソンの進化 論的位置づけと相互関係を明らかにし,新しい分 類体系を確立すること,

である.

分類学のこれら 5 つの要素はお互いに相依相成 の関係にあり,いずれの一つが欠けても体系的な 分類学は成立しない(図 1).

4.分類と命名の相互関係

分類と命名も表裏一体である.命名はタクソン に対して行われ,分類されたタクソンは命名され て初めて他のタクソンと明確に区別される.しか し分類と命名は区別されねばならない.

(1)(狭義の)分類

分類 Classification とはタクソンの限界を示す ことであると述べたが,タクソンの限界 circum- scription を決めるためには,他のタクソンと区別 するための,現在可能なあらゆる試験を実施する.

この中には形態(桿菌,球菌,球桿菌,らせん状 菌など),発育環境,菌体の配列(連鎖状,ブドウ の房状など),染色性(グラム染色,抗酸染色など), 芽胞形成,運動性,代謝形式,生化学的性状(基 質分解能および資化性など),キノン型,菌体成分,

染色体 DNA の相同値,rRNA 塩基配列の相似度 などが含まれる.この時どの試験がどの階級に適 用できるかを弁えていなければならない.あらゆ る試験成績を総合して,菌株をタクソンにまとめ,

上位階級の帰属を決める.このように分類した上 で,新菌種の命名・記載に役立つ最少限の性状を 選びこれを最少標準 minimum standards として 公表する.最少標準はそのタクソンの分類を検討 する国際細菌命名小委員会が策定する.

タクソンには分類階級(taxonomic rank)があ る.種(Species)の上には順に属(Genus),科

(Family),目(Order),綱(Class),門(Division)

という上位階級がある.それぞれの階級のタクソ ンが分割される場合は,亜-(Sub-)が接頭辞として 付けられる.

種より下の階級は亜種(Subspecies)である.こ れは,種が複数のタクソンにきちんと分割される ときに設けられるものであり,種の中に一風変 わった菌株が認められただけで設けられるもので 図 1 分類学の 5 つの要素

吉田 真一 94

感染症学雑誌 第75巻 第 2 号

(3)

表 1 レジオネラを例とした細菌の分類階級,学名と基準(1990 年版命名規約に準ず)

タクソンの基準(type)

学名(scientific name)

分類階級(rank)

Division

Proteobacteria Class

Family : Legionallaceae Legionellales

Order

Genus : Legionella Legionellaceae

Family

Species : Legionella pneumophila Legionella

Genus

Legionella pneumophila Philadelphia1 Legionella pneumophila

Species

(ATCC33152)

Philadelphia1 (ATCC33152)

L. pneumophila subsp. pneumophila 亜種 Subspecies

Los Angeles (ATCC33156)

L. pneumophila subsp. fraseri

U8W (ATCC33737)

L. pneumophila subsp. pascullei

註:Legionella の場合 1 科 1 属であり現在 40 種以上が認められている

表2 亜種より下の分類用語 生物型または生理型 Biovar

化学型 Chemovar

形態型 Morphovar

病原型 Pathovar

ファージ型 Phagovar

血清型 Serovar

例:Staphylococcus aureus phagovar 81

はない.種が亜種に分割されたとき,もとの種の 基準株を含む亜種は基準亜種となる.基準亜種の 亜種形容語はもとの種の種形容語と同じにする

(例:Legionella pneumophilasubsp.

pneumophila)

. 表 1 に,種

Legionella pneumophila

を 例 に と っ て,分類階級とそれぞれのタクソンの基準 type を示した.

亜種より下の細分については国際細菌命名規約 に支配されない.一般に,-var をつけることが行 われている(表 2).

(2)命名

命名 nomenclature はタクソンに学名を与える ことである.細菌の学名はラテン語であり,ラテ ン語以外の国語の場合はラテン語化して用いる.

細菌の命名は国際細菌命名規約 International Co- de of Nomenclature of Bacteria(Bacteriological Code,1990 年改訂版)に準拠して行われる.この 規 約 は 国 際 細 菌 分 類 命 名 委 員 会 International Committee on Systematic Bacteriology に よ っ て 定められた公式規約である.1753 年 5 月 1 日以降 の細菌学名のうち,記載が十分で信頼出来る基準

株またはこれに準ずる純培養株の保存が確認され た 菌 種 の み を ま と め て 細 菌 学 名 承 認 リ ス ト Approved Lists of Bacterial Names(1980 年 1 月 1 日発効)とし,この日が名の優先権の新しい出発 日となった.このリストに収載されなかった名は 命名上の地位を失った.1980 年以後は規約に則っ て International Journal of Systematic and Evolu- tionary Microbiology(IJSEM)に発表されるか,

または他の雑誌に発表された場合は IJSEM の正 式発表名リスト Validation Lists に掲載されて初 めて正式発表名となる.

種 名 は 属 名 generic name と 種 形 容 語 specific epithet の 2 語組合せ binary combination である.

新菌種の発表者と命名者は,病気との相関を初 めて証明した人と必ずしも同じではない.R. Koch がコレラの原因菌を Kommabacillus,結核症の病 原菌を Tuberkelbazillus と称したのは学名ではな い.Koch はこれらの細菌と病気との関連性を発 見したが命名者ではない.コレラ菌,結核菌など の和名も通俗名であって,学名ではない.

(3)分類と命名の相互関係

分類と命名は表裏一体であるが区別されねばな らない,と書いたがそれぞれ持ち分があるからで ある.

命名は名の付け方が正しい手続きを経ているか どうかを問題とし,それが分類の中に正しく位置 づけられているかどうかという問題には立ち入ら ない.分類学は試験法の発達により変わるもので ある.従って正式な手続きを踏んで発表された種

医学細菌の分類・命名の情報 95

平成13年 2 月20日

(4)

名であっても属以上の位置が正しいかどうかは,

分類という全体的な視点から見直されることがあ る.例えば,腸炎ビブリオは最初,命名の正しい 手続きを経て,新種

Pasteurella parahaemolytica

と して発表されたが,その後,ビブリオ属に移籍さ れ, 種名も

Vibrio parahaemolyticus

と変更された.

このように,新種名が発表された時,それが正し く分類されたとは限らないのであって,分類学的 に正しい位置づけかどうかは分類学の判断に待た なければならない.

5.分類学の重要性

細菌の分類学は,細菌学が万人に混乱なく行わ れるために拠り所となる学問である.その使命を 果たすには,分類が細菌の自然史を反映するもの であること,国際細菌命名規約に則った学名を用 いること,基準株が恒久的な微生物株保存機関に より保存されていること,それが資格のある研究 者に利用できるようにシステムが整備されている こと,同定作業が正確であること,などが必要条 件になる.これらが達成されて初めて分類学が万 人に受け入れられる学問体系になるのであって,

それらは国民を感染症から護る業務に携わり,細 菌を使って研究し,論文を発表し世間を啓蒙する 研究者の自覚と協力があって初めて達成されるの である.

6.おわりに

細 菌 分 類 学 の 成 果 で あ る Bergey s Manual of Systematic Bacteriology,2nd Edition 全 5 巻が 2001 年 1 月から 4 年をかけて出版される予定で ある.これは細菌分類の一つとして世界の研究者 が使っているので,国際細菌命名規約とともに講 座や研究室に全巻そろえることをお奨めする.

これまでの分類学は純培養された菌株を使って 体系づけられてきた.しかし,培養できないが生 きている細菌の存在が明らかとなってきており,

16S rRNA の増幅が可能となっている.これらの 細菌をどう位置づけるのがいいのか,今後の細菌 分類学の課題である.

参考文献

国際細菌命名規約(1990 年改訂)菜根出版発行,紀伊国屋 書店発売,2000 年 6 月 8 日,国際細菌命名規約 1990 年版翻 訳委員会 訳

Current Topics on Classification and Nomenclature of Bacteria 4.Relations between Classification and Nomenclature of Bacteria

Shin-ichi YOSHIDA

Department of Bacteriology, Faculty of Medical Sciences, Kyushu University

〔J.J.A. Inf. D. 75:93〜96, 2001〕

吉田 真一 96

感染症学雑誌 第75巻 第 2 号

表 1 レジオネラを例とした細菌の分類階級,学名と基準(1990 年版命名規約に準ず) タクソンの基準 (type)学名(scientific name)分類階級(rank) Division門 ProteobacteriaClass網 Family : LegionallaceaeLegionellalesOrder目 Genus : LegionellaLegionellaceaeFamily科

参照

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