平成 30 年度 卒業論文
偏光の測定の強さ可変測定の実験的研究
広島大学理学部物理科学科 高エネルギー物理学研究室
B151314
戸津井亜生
指導教員 高橋徹 主査 飯沼昌隆
副査 杉立徹
目次
1.序 論 ... 3
1-1
研究背景 ... 3
1-2
研究目的 ... 3
2.偏 光 の 量 子 測 定 ... 5
2-1
量子測定 ... 5
2-2
偏光物理量 ... 6
2-3
偏光物理量の測定 ... 8
2-4
偏光のユニタリー変換 ... 9
3.測 定 の 強 さ 可 変 測 定 ... 11
3-1
概要とセットアップ ... 11
3-2
消光比 ... 13
3-3
光学素子 ... 14
3-4
主要光学系の調整 ... 16
4.実 験 ... 19
4-1
ビーム伝播と初期偏光状態の準備 ... 19
4-2
方解石の消光比 ... 21
4-3 Cal1、Cal2
の軸調整 ... 25
4-4HWP4
の調整 ... 26
4-5HWP1、HWP2、HWP4
の性能 ... 26
4-6
考察 ... 29
5. ま と め と 今 後 の 展 望 ... 31
謝 辞 ... 32
参 考 文 献 ... 33
1.序論
1-1 研究背景
量子力学では、同時に正確な値を得ることができない物理量のペアが存在する。物理 的には、一方の物理量を正確に測定すると初期量子状態が完全に壊れるため、もう一方 の物理量の情報が得られなくなるためとされている。このことを量子力学では、演算子 で記述した物理量の非可換性で表現する。しかし量子状態を完全には壊さない測定を行 うと、非可換な二つの物理量のそれぞれの測定を正確ではないが、連続して行うことが できる。すなわち初期状態を完全に壊さずに一方の物理量を測定し、その後続けてもう 一方の物理量を射影測定すれば良い。非可換な物理量の連続測定により、それぞれの物 理量の情報だけでなく、それらの統計的な相関の情報も得ることができる。将来的には、
相関の測定を用いた二準位系における交換関係の実証実験や、偏光状態を特長付ける3 つのパラメータを一度に測定できるような測定技術の確立を目指している。
現在当研究室では、非可換な物理量として光子の偏光を測定対象とし、実用に耐えう る測定の強さ制御可能な測定の装置開発に取り組んでいる状況にある。
1-2 研究目的
これまで偏光を対象とした測定の強さ制御可能な測定は、世界中のさまざまなグルー プで実現されているが、各光学素子の系統誤差が大きく、任意の偏光状態の測定や相関 の測定に対応できていない。我々の研究室でも過去に実現した測定があるが、やはり同 様の問題を抱えていた[1]。そこで過去の経験を踏まえて、インコヒーレントな入射光 も含めて実用に耐えうる測定を考案し、これまで開発に向けた基礎研究を行ってきた。
今回の測定セットアップの特徴を述べると下記のようになる。
1)光学素子の偏光に関する系統誤差の主な原因は、素子に使われる人工薄膜にあるこ とがこれまでの研究から明らかになっている。そこで人工薄膜を利用した光学素子(例 えば、偏光ビームスプリッターやビームスプリッター等)を一切使用していないセット アップになっている。
2)偏光を精度良く分離するために、偏光の消光比の高い方解石結晶を用いている。典 型的な偏光ビームスプリッターよりも三桁程度、分離性能が向上する。
3)干渉計を用いているが、二つの光路長は方解石結晶の縦方向の長さで一義的に決ま
るため、両者はかなり正確に同じ長さに調整することができる。したがって入射光がイ ンコヒーレント光であっても動作が期待できる。
以上の特長から、高精度かつ系統誤差に強いセットアップになっている。そのため、そ れぞれの光学素子の調整を高精度で行う必要がある。今回は消光比の測定方法の確立と、
セットアップの主要部分を高精度に調整するための方法の確立を目的とした。
2.偏光の量子測定
2-1 量子測定
量子力学では物理量はエルミート演算子
Aˆで表され、下記のように固有値と固有ベ クトルを掛けたものの和で書ける。
Aˆ= Aa a
a
∑
a (1)固有状態
aへの射影を すると、固有値
Aaが得られる。この固有状態への射影のこと をここでは狭義の射影測定と呼ぶことにする。射影測定は射影演算子
Pˆa= a aで表す。
このとき、ある状態
ψのもとで物理量
Aˆの狭義の射影測定を行って、固有値
Aaを得
る確率は
aψ 2であり、測定後の状態は
aになる。ここではこれを拡張して一般化し、
固有状態以外への射影や、完全には射影しない測定も含んだ一般的な測定を考える。
まずは測定される被測定系と測定系の二つの量子系を用意する。なお二つの量子系は、
同一の物理的対象でもかまわない。測定系が測定結果を区別する指数をインディックス
mで表し、そのときの被測定系の測定確率を考える。このとき
mは一般には被測定系 の固有状態と一致しない。しかも完全に射影しているとも限らないため、
mは固有値 とも対応しない。したがってこの測定は物理量の値を得る立場を捨てて、インディック ス
mの測定確率を得ることだけを問題にしていると考えることができる。この測定系 が指し示した
mの測定確率を与える測定を正値オペレータ測定(positive operator
valued measure, POVM)という。射影測定が射影演算子で表現することにならい、POVM
も
mに対する演算子
Eˆmで表現する。このとき固有状態 への射影演算子によ
る測定確率は
p(a)= ψ Pˆa ψのように書けるから、POVM も
(2)
のように表現する。ただし確率は正であり、かつ和は1でなくてはならないから、
を満たし、任意の状態 において が非負の実数でなくてはならな
ap(m)= ψ Eˆm ψ
Eˆm=I
m
∑
ψ ψ Eˆm ψい。この
Eˆmを
POVM要素といい、POVM 要素の集合 を
POVMという。
ところで
POVMは測定確率しか与えないため、測定系が測定結果
mを指し示した時 の量子状態を問題にしたい場合には使えない。測定結果
mを得たときの量子状態の変 化を表す演算子は測定演算子と呼ばれ、被測定系の状態に作用する演算子の集まり
Mˆm
{ } で表される。測定結果
mによって状態が
ψʹ =Mˆm ψに変わったとする。射影測
定の場合を考えれば、
Pˆa†Pˆa=Pˆaであるから、
p(a)= ψ Pˆa ψ = ψ Pˆa†Pˆa ψ
ʹ
ψ =Pˆa ψ
となる。この表記に従えば、
(3) ʹ
ψ =Mˆm ψ
と書けることが分かる。
Mˆm
がエルミートであり
MˆmMˆn=δmnMˆmを満たすとき、これは射影測定を表し、
mは 完全に射影する基底を表すことになる。
ただし測定後の状態
ψʹは規格化されていないため、規格化された測定後の状態は
Mˆm ψ ψ Mˆ†mMˆm ψ
(4)
と表されることになる。
2-2 偏光物理量
光子はボゾンでスピン1であるが、自由空間の伝播であれば偏光は進行方向に対して 二つの自由度しか持たないため二準位系で書ける。互いに直交する直線偏光をそれぞれ
Eˆm
{ }
Eˆm=Mˆ†mMˆm
H
偏光、V 偏光とし、それぞれの光子の偏光状態を
H、
Vで表現すると、純粋状態 の光子の偏光状態は
ψ =cosθ H +eiϕsinθ V (5)
と書ける。ここで古典光に対応させると、θは楕円偏光の長軸の水平方向からの角度、
φは振動の水平方向の成分と垂直方向の成分の位相差となる。よって、
H方向から
45°回転した方向を向く直線偏光である
P、135°方向の直線偏光である
Mはそれぞれ
P = 12
(
H +V)
(6) M = 12
(
H − V)
(7)と書ける。また、右回り円偏光
R、左回り円偏光
Lは
R = 1
2
(
H +i V)
(8) L = 12
(
H −i V)
(9)と書ける。
図
1そ れ ぞ れ の 偏 光 状 態
(光 子 の 進 行 方 向 は 紙 面 奥 か ら 手 前
)H
と
V、
Pと
M、
Rと
Lをそれぞれ固有状態とする偏光の物理量を定義する。
H
の固有値を+1、
Vの固有値を-1、
Pの固有値を+1、
Mの固有値を-1、
Rの固 有値を+1、
Lの固有値を-1 とすれば、偏光の物理量は式(1)から、
SˆHV ≡ H H −V V (10)
V
H P M
L R
45°
135°
SˆPM ≡ P P − M M = H V +V H (11) SˆPM ≡ R R − L L =−i H V +i V H (12)
と定義できる。
H = 10
⎛
⎝⎜ ⎞
⎠⎟
、
V = 0 1⎛
⎝⎜ ⎞
⎠⎟
を基底の表現としてこれらを記述すると
SˆHV = 1 00 −1
⎛
⎝⎜ ⎞
⎠⎟=σˆZ (13) SˆPM = 0 1
1 0
⎛
⎝⎜ ⎞
⎠⎟=σˆx (14)
SˆRL = 0 −i
i 0
⎛
⎝⎜ ⎞
⎠⎟=σˆy (15)
となり、パウリ行列に対応する。これらは非可換であるため、偏光物理量は互いに非可 換な物理量であるとわかる。
2-3 偏光物理量の測定
SˆHV
の期待値
𝑆!"は各値での確率を用いて、
SHV =p(H)−p(V) (16)
である。同様に、
SPM =p(P)−p(M) (17) SRL =p(R)−p(L) (18)
である。実験から偏光物理量の期待値を求めるには、それぞれの固有状態を表す基底で の確率が測定できれば良い。それぞれの確率を測定する方法であるが、今回は
POVM測定で説明する。
図
2 POVMの 一 例
=+1
=-1
測定は、測定系と被測定系が相互作用することによって行われる。図2に示した偏光の 測定では被測定系は偏光、測定系はPBS後に分かれる二本の光路、
mはそれぞれの光 路につけたラベルである。すなわち、それぞれの光路での確率を測定すれば、偏光物理 量の期待値を求めることができる。このときPBSは偏光を二本の光路に分ける、つまり 被測定系と測定系を結びつける役割をしている。
PBSはH偏光とV偏光に分離するため、PBSのみではHV基底の光路にしか結びつけることができないが、QWPやHWPを入れ
適当な角度に合わせることでPBS後の光路を固有状態も含めた任意の基底に合わせる ことができる。QWP、HWPによる変換については2-4で述べる。特に、HV基底、PM 基底、RL基底に基底を合わせたときが狭義の射影測定である。
2-4 偏光のユニタリー変換
偏光の回転は数学的にはユニタリー変換で表され、2-3 節で示したように
QWPと
HWPのような波長板を用いて実現することができる。波長板には互いに直交な
fast軸と
slow軸があり、
slow軸方向の成分の位相をε遅らせることでユニタリー変換を実 現する。図
4のように、slow 軸が
H方向からθ傾いているときの具体的なユニタリー 変換の形を求めてみる。まず、HV 基底で表された状態ベクトルを波長板の軸方向を基 底にとったベクトルに変換するため、HV 座標系をθ(ベクトルを-θ)回転する。次 に、slow 軸方向の位相をε遅らせる。最後に、座標系を-θ(ベクトルをθ)回転して 元の
HV基底に戻す。よって、HV 基底で表された状態ベクトルの波長板による回転は
Uˆθ,ε= cosθ −sinθ sinθ cosθ
⎛
⎝⎜ ⎞
⎠⎟ e−iε/2 0 0 eiε/2
⎛
⎝
⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟ cosθ sinθ
−sinθ cosθ
⎛
⎝⎜ ⎞
⎠⎟
=
e−iε/2cos2θ+eiε/2sin2θ −isin 2θsinε 2
−isin 2θsinε
2 e−iε/2sin2θ+eiε/2cos2θ
⎛
⎝
⎜⎜
⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟
⎟⎟
(19)
となる。HWP は
slow軸方向の位相をπ遅らせるため、εにπを代入し、
UˆHWP = cos2θ sin 2θ sin 2θ −cos2θ
⎛
⎝
⎜ ⎞
⎠
⎟ (20)
と書ける。これによって、任意の直線偏光の角度を変えることが出来る。例えば
slow軸を
H方向からθ=π/4 傾けた時、HWP による偏光の回転を表す行列は
UˆHWP = 0 1 1 0
⎛
⎝⎜ ⎞
⎠⎟ (21)
であり、HWP により
H偏光は
UˆHWP H = 0 1 1 0
⎛
⎝⎜ ⎞
⎠⎟ 1 0
⎛
⎝⎜ ⎞
⎠⎟= 0 1
⎛
⎝⎜ ⎞
⎠⎟= V (22)
と、V 偏光に変換される。
図
3波 長 板 の 軸 方 向
また
2-3節で述べた
QWPは、slow 軸方向の位相をπ/2 遅らせるため、式(19)のεに π/2 を代入し、
UˆQWP= 1 2
1−icos2θ −isin 2θ
−isin 2θ 1+icos2θ
⎛
⎝
⎜ ⎞
⎠
⎟ (23)
と書ける。これによって直線偏光を円偏光に変換することができる。例えば
slow軸を
H方向からθ=π/4 傾けた時、QWP による偏光の変換を表す行列は
UˆQWP = 1 2
1 −i
−i 1
⎛
⎝⎜ ⎞
⎠⎟ (24)
であり、QWP により
H偏光は
UˆQWP H = 1 2
1 −i
−i 1
⎛
⎝⎜ ⎞
⎠⎟ 1 0
⎛
⎝⎜ ⎞
⎠⎟= 1 2
1
−i
⎛
⎝⎜ ⎞
⎠⎟
= 1
2(H −i V )= L (25)
と、左回り円偏光に変換される。
H slow V
fast
θ
3.測定の強さ可変測定
3-1 概要とセットアップ
偏光物理量
SˆHVを測定物理量とした測定の強さ可変測定のセットアップについて述 べる。このセットアップでは、2-1 で述べた被測定系は偏光に、測定系は二本の光路に 対応し、インディックス
mはそれぞれの光路につけたラベルを表す。また、測定の強 さとは、被測定系と測定系の相互作用の強さのことである。すなわち、測定の強さがゼ ロの時、相互作用がゼロであり被測定系は状態を変えずにそのまま検出され、測定の強 さが最大の時、相互作用が最大であり固有状態への射影測定となる。
図
4 SˆHVに 関 す る 測 定 の 強 さ 可 変 測 定 の セ ッ ト ア ッ プ
セットアップを図
4に示す。方解石(Cal)は複屈折結晶であり、結晶軸を上手く合わ せると
Cal中では
V偏光は直進し
H偏光は結晶の長さに応じて分離させることができ る。このセットアップでは、この方解石を
HV基底に関する偏光の分離と混合に用いて いる。方解石の性質とは反対に
H偏光を直進させ
V偏光を分離させたいときは、方解 石の手前で
HWPによって
H偏光と
V偏光を入れ替えている。こうすることで方解石 中では元の
H偏光は
V偏光になり、V 偏光は
H偏光になる。その後方解石のあとに
HWPを設置し再び偏光を入れ替えることで元に戻す。この目的のため、
Cal2は
HWP4と
HWP5で、Cal3 は
HWP6と
HWP7で挟まれている。図
4内の( )内の数字は
HWPの軸方向の角度であり、図
3のθに対応している。位相板は
2-4節で示した波長板と同 じ構造を持ち、互いに直交する軸方向の位相差を
2φ与えるもので、上記のセットアッ光路1
光路2
プでは
fast軸が
P方向に向けられている。この位相板は、
SˆHVと
SˆPMの相関の測定を 行うときに必要となる。
セットアップの説明としては、下記のようになる。まず位相板を入れない場合を考え る。はじめに、HWP1 と
HWP2で
Cal1後のそれぞれの偏光が
P方向に向けられる。
これらの波長板は半円であり、図
5のように、互いの光路に当たらないような構造にな っている。
図
5半 円 の
HWP1、
HWP2(入 射 側 か ら 見 た 図
)HWP3
の軸方向が
0°の時はP偏光が
M偏光に変換されるが、Cal2 後の光路
1で の偏光状態、または
Cal3後の光路
2での偏光状態は元の状態に戻るため、
Det1と
Det2で同数の光子が検出される。これは何も測定していない、すなわち測定の強さゼロのと きに対応する。HWP3 の軸方向が
22.5°のときは P偏光が
H偏光に変換され、Det1 で
H偏光の光子が、Det2 で
V偏光の光子が検出される。これは
SˆHVの射影測定、すな わち測定の強さが最大の時に対応する。このように、HWP3 の軸方向を
0°~22.5°に向けることで測定の強さを変えることができる。
数学的には、HWP は式(20)で表される。また位相板は式(19)のθにπ/4 を、εに
2φを代入して
Uˆ2φ = cosφ −isinφ
−isinφ cosφ
⎛
⎝
⎜⎜
⎞
⎠
⎟⎟ (26)
と表現できる。これらを用いると、
Det1直前の状態
ψ1、Det2 直前の状態
ψ2は、始 状態
ψを用いて、
ψ1 = 1
2eiφ
(
cos2θIˆ+e−2iφsin 2θSˆHV)
ψ (27) ψ2 =− 12eiφ
(
cos2θIˆ−e−2iφsin 2θSˆHV)
ψ (28)となる。よってそれぞれの測定演算子は、共通の位相部分を除けば、
Mˆ1= 1
2
(
cos2θIˆ+e−2iφsin 2θSˆHV)
Mˆ2 = 1
2
(
cos2θIˆ−e−2iφsin 2θSˆHV)
(29)
となる。測定後の状態は
2-1より
ψʹ =Mˆm ψである。これによりこのセットアップに よる測定後の状態は、θが
0°の時、ψ1 = 1 2
Iˆψ ψ2 = 1
2 Iˆψ
(
30)
となり元の状態を変えていないことが示せる。また、θが
22.5°の時、ψ1 =1 2
Iˆ+e−2iϕSˆHV
( )
ψψ2 =1 2
Iˆ−e−2iϕSˆHV
( )
ψ(31)
となる。これは位相板を入れないとき、すなわちφ=0°の時は
ψ1 =1
2 H H ψ ψ2 =1
2 V V ψ
(32)
となり
HV基底への射影測定であることが示せる。φが
0°でない時は固有状態への射影測定ではないが、位相差を与えることによって、円偏光成分にも感度を持つ基底、つ まり
HV基底と
RL基底の間の基底への射影となっている。すなわちθ=22.5°であっ ても狭義の射影測定にはなっていない。
3-2 消光比
消光比とは、ある直線偏光のみを通す偏光素子がどれくらいの精度で偏光を選択する
かを示す値であり、透過率を使って定義される。ある偏光を入射して透過率が最大のと
き、つまり透過率
Tmaxのときと、それと直交する偏光を入射して透過率が最小のとき、
つまり透過率
Tminとの比
TmaxTmin
で表される。
(a)透過率最大のとき (b)透過率最小のとき
図
6偏 光 方 向 と 透 過 率 に つ い て
ここで、透過率が最大のときは図
6(a)のように偏光方向と偏光子の軸方向が一致している。このとき透過率は偏光子を通過後の強度
Iout1と通過前の強度
Iin1から
Tmax=Iout1
Iin1 (26)
である。また、透過率が最小のときは図
6(b)のように偏光方向と偏光子の軸方向が直交している。このとき透過率は(a)のときと同様に、
Tmin=Iout2
Iin2 (27)
である。よって図
6の両方の場合において偏光子の前後での強度を測定すれば、その偏 光子の消光比を求めることができる。
3-3 光学素子
今回用いた光学素子の詳細について述べる。
・方解石(Cal)
複屈折結晶であり、光軸に対する光の振動方向によって屈折率が異なるため、入射光 を互いに直交する直線偏光成分同士に分離する。消光比が
105のオーダーである。今回
用いる
Cal1、Cal2は共に開口が
1cm×1cm、ビーム分離幅は4mmである。
図
7方 解 石 に よ る ビ ー ム 分 離
・波長板
複屈折結晶からできており、結晶軸の方向によって屈折率が異なることを利用し、そ れらの方向の直線偏光成分同士に位相差を与える光学素子である。数学的には
2-4節で 述べたように、偏光状態をユニタリー変換させる素子である。位相差が
1/2波長分のも のが半波長板(HWP)、1/4 波長分のものが
1/4波長板(QWP)で、通常は波長依存性があ る。これらは多くの場合、偏光操作に利用される。
図
8 HWPの 模 式 図
波長板にはトゥルーゼロオーダー、マルチオーダー、ゼロオーダーという三種類の規 格がある。トゥルーゼロオーダーは
1波長よりも小さい、目的の位相差のみを与える波 長板であり、最も理想的な位相差を与えることができるが、厚みがとても薄いため扱い が難しくなる。マルチオーダーは(目的の位相差)+(1 波長の整数倍の位相差)をつける波 長板であり、厚みはあるが位相差の理想からのずれが大きくなる。ゼロオーダーは厚み の異なる二枚のマルチオーダー波長板の
slow軸と
fast軸を貼り合わせることで、目的 の位相差のみを与え、かつある程度の厚みを持たせた波長板である。マルチオーダー波 長板よりも位相差の理想からのずれが小さいが、トゥルーゼロオーダーよりもずれは大 きい。
今回用いた
HWPは全てゼロオーダーである。
・グラントムソンプリズム(GT)
複屈折結晶からできた
2つのプリズムを貼り合わせ、振動方向による屈折率の違いを 利用して一方の偏光成分は境界面で全反射し、もう一方の偏光成分のみが透過するよう に作られた偏光子である。消光比は
105のオーダーである。今回、2 つの
GTを用いた が、どちらも自動回転ステージに取り付けて使用した。これにより、0.004°刻みでの 角度の調整が可能となっている。しかし自動回転ステージも完全ではなく、設定の回転 角度が大きくなるにつれて実際の回転角度は設定角度からずれることが確認されてい る[1]。したがって光学素子の調整段階で、自動回転ステージは使えない。
・GRIN(屈折率分布型)レンズ
レンズの厚みを半径方向で変化させるのではなく、レンズ内の半径方向の屈折率を連 続的に変化させることでレンズとしての性能を持たせている。用途としてファイバーか らの光をコリメート、または集光に使われる。今回は光ファイバーからのコリメータと して使用した。
3-4 主要光学系の調整
図
5の主要部分(Cal1~Cal2)の調整手順と方法を述べる。なお現段階では主要部分の 調整を目的としており、相関測定に使用する位相板は現段階では考慮しない。
1. 消光比の測定方法を確立する。
105
レベルの消光比を測定する際、透過度強度の最小値を測定するときは、入射光強 度の
10-5程度のわずかな光が検出器に入っても測定結果に影響する。したがって入射光 の漏れ光やその他のバックグランド光が完全に入らないようにしなければならない。そ のために、まずは消光比の測定方法を確立する。
2. Cal1
と
Cal2の軸を合わせる。
図
9 Cal同 士 の 軸 合 わ せ
図
9のように方解石を並べて置くと、
Cal1で
H偏光と
V偏光に分離されるため、
Cal2の軸が
Cal1の軸と一致している場合、強度
I2は理想的には
0となる。I
2の強度が最小 になるように
Cal2を調整する。
3. HWP4
を入れて調整する
HWP4
は
H偏光と
V偏光を入れかえる素子として使用するため、適切な角度に調整 すれば、2 とは逆に理想的には
I1と
I3が
0となる。これらが最小になるように
HWP4を調整する。
図
10 HWP4の 調 整 方 法
3.HWP1、HWP2
を入れる
HWP1
は
V偏光を、HWP2 は
H偏光を
P偏光にする角度に調整する。しかし完全 に
P偏光でなくても、両方の偏光方向が一致していればよい。測定の強さを変えるた
めの
HWP3の角度
0°の位置を調節することで対応できる。図
11 HWP1、
2の 調 整
初期偏光を
V偏光にする。まず
HWP1を入れ、完全には
P偏光でなくても、それに
近い偏光の角度にしておく。すなわち、
I1と
I2がほぼ同じであれば良い。そこに
HWP2を入れ、I
2が最小になるようにする。この時
HWP2の後は
H偏光になっている。その
まま
HWP2を分離した
H偏光側の光路に置けば良い。この結果、HWP1 後の偏光と
HWP2後の偏光を同じ方向に向けることができる。
4.HWP3
を入れる
3
の状態から
HWP3を入れ、I
2が最小になるようにする。この時
HWP3後は
H偏 光になっている。
HWP3の前が
P偏光からずれていたとしても、この時の
HWP3の角
度を
22.5°と定義しなおせば良い。図
12 HWP3の 調 整
4.実験
4-1 ビーム伝播と初期偏光状態の準備
ここでは、実際に主要部分を調整するために使用するビームの伝播の様子と、初期偏 光状態の準備について述べる。
図
13主 要 部 分 の 調 整 を す る 前 の セ ッ ト ア ッ プ
図
13は、光学素子の調整方法を調べるために必要な初期偏光準備のためのセットア ップである。光源には波長が
810nmの半導体レーザーを用い、光ファイバーで伝播さ せて
GRINレンズから出射している。凹レンズと凸レンズでビーム伝播モードを調整 し、初期直線偏光を生成するためのグラントムソンプリズム(GT)を設置した。ただし
GTを回しても透過光強度が大きく変わらないように、GT の前に偏光板と
QWPを設 置して、GT にほぼ円偏光が入射するようにした。
図
14ビ ー ム 伝 播
0 200 400 600 800 1000 1200 1400
0 200 400 600 800 1000 1200
ビーム直径
(µm)凸レンズからの距離(mm)
縦方向
横方向
図
14は、GRIN レンズの後に凸レンズ、凹レンズ、ミラーだけを置いた時に各点で ビームプロファイルを測定し、凸レンズからの距離とビーム直径(x 方向、y 方向)との 関係を表したものである。ここで、直径とはビームの最大強度の
1/e2(13.5%)になる 断面の直径である。値はプロファイラ画面に表示されるものを用いた。
図
15凸 レ ン ズ 後
65cmで の ビ ー ム プ ロ フ ァ イ ル
図
15は凸レンズ後
65cm(Cal1を置く約
5cm手前)でのプロファイラ画面である。
ビームプロファイラは
DataRay社の
WinCamDを用いた。
凸レンズから
Cal1を約
70cm、Cal2を約
100cmの位置に置くが、それぞれの位置 での直径は約
0.9mm、1.1mmとなっている。方解石の開口とビーム分離幅より、分離 が可能な直径である。
次に円偏光を準備する。まず偏光板と
GTを置き、GT を回して
GT後の強度が最小 になるようにする。このとき偏光板と
GTの軸が直交していることになる。そこに
QWPを入れ、GT 後の強度が最小になる角度に合わせる。このとき
QWPは偏光状態を何も 変えていないため、QWP の
slow、fast軸と偏光板、GT の軸が一致していることにな る。ここから
2-4で示したように、
QWPを
45°回転させるとGTの前で円偏光になる。
なお、QWP はホルダーの目盛りを見ながら手動で回転させた。
図
16 GTの 角 度 と 強 度 の 関 係
図
16は、図
9の
GTを回した時のビームの強度変化を調べたものである。多少の強 度の変動はあるがすべて
10mW以上の強度を確保していることを確認した。GT 前の 偏光は円偏光ではなく、正確には楕円偏光になっていることがわかる。
4-2 方解石の消光比
まず、方解石の消光比を測定した。
図
17消 光 比 の 測 定 方 法
図
17に採用した消光比の測定方法を示す。方解石のビーム透過率
Tは、方解石前後 の強度
Iin、
Ioutを用いて
0 5 10 15 20
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180
GT
後の強度
(mW)GTの角度(°)
T=Iout
Iin (33)
である。
方解石後の
V偏光側を測定する場合、
GT後の偏光が
V偏光のとき、つまり
GTの軸 が方解石の
V偏光軸と一致している時に透過率は最大になり、GT 後の偏光が
H偏光 の時、つまり
GTの軸が方解石の
V偏光軸と直交している時に透過率が最小になる。
方解石後の
H偏光側を測定する場合はこの逆になる。これらの透過率の比から消光比 を求めた。なお方解石の
V偏光軸と
GTの軸が直交している時の
Ioutは入射光と比べて 非常に小さいため、入射光の散乱や他のバックグランドの光をできる限り遮断する必要 がある。したがって強度が大きい透過光を遮断するために直径
2.0mmのピンホールを 置き、そこから
20cm離れたところにパワーメーターを置いた。また、直進してくる光 以外が入らないようにするため、パワーメーターの手前約
2cmに直径
4.0mmのピンホ ールを置いた。ピンホール表面での反射を抑えるため、穴以外の部分を光沢のない黒画 用紙で覆った。また、入射光が
QWPや偏光板などで反射して混入することを防ぐため、
周りを黒画用紙で覆った。そして、このセットアップ全体を黒い囲いで覆って外部の光 も入らないようにした。これ以降すべての測定でこの方法を用いている。
測定は、図
18のように方解石の横方向のあおりを調整し、GT の角度を微調整して もっとも強度が小さくなる角度で行った。
図
18方 解 石 の あ お り 方 向
以下に結果を示す。
表
1方 解 石 の 透 過 率 と 消 光 比
Cal1 Cal2
Tmin(H) 6.89×10-6 1.96×10-5
Tmin(V) 2.29×10-7 1.72×10-7
Tmax(H) 0.863 0.877
Tmax(V) 0.854 0.852
消光比(H)
1.25×105 4.48×104消光比(V)
3.73×106 4.95×106表
1の中の(H)は方解石で分離した
H偏光側のビーム強度を測定していることを表し、
(V)はV
偏光側を測定していることを表す。結果より、どちらの方解石も
H偏光側を測 定したときの方が
V偏光側を測定したときよりも消光比が低い。その原因は
H側の透 過率が
V側に比べて高いためであることがわかる。すなわち
H側に他の光が入ってい る可能性が否定できない。この光の偏光を調べるために、
H側の透過強度を最小にした 状態で以下のようにパワーメーターの手前に別のグラントムソンプリズム(GT2)を置 き、GT2 の角度と透過光強度の関係を調べた。
図
19 H側 強 度 が 落 ち な い 原 因 を 調 べ る
図
20 GT2の 角 度 と 透 過 強 度 の 関 係
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180
透過度
GT2の角度(°)
Cal2 Cal1
GT2
は
0°がH偏光を、90°が
V偏光を通す方向である。縦軸は
GT2の透過率を 表す。グラフより、
H側の強度が落ちない原因の光は
V偏光成分であることがわかる。
これは、もともとの方解石の性能が十分ではなく
V偏光成分の漏れ光が混入している のか、強度の大きい
V偏光の光がピンホール等で反射した一部が混入しているのか、
二つの可能性が考えられる。そこで方解石の固有の性能を調べるために、偏光を分離す る感度を調べる。図
17のセットアップで
H側、
V側それぞれで透過強度が最小になる 点の周辺で
GTを回転させ、透過光の強度の変化を測定した。
(a)Cal1 (b)Cal2
図
21は方解石後の強度が最小になるときの
GTの角度を
0°とし、GTを
0.1°ずつ、±0.5°の範囲で回転させたときの強度の変化を示す。どちらの方解石も、最小点で
H側の強度が
V側と比べて落ちておらず、
GTの角度に対する強度変化が
V側に比べて
H側が緩やかであることがわかる。このグラフを二次関数
aθ2+bでフィッティングした 結果が以下の表
2である。
表
2フ ィ ッ テ ィ ン グ 結 果
Cal1 H
側
Cal1 V側
Cal2 H側
Cal2 V側
a 14800 17600 15000 17900
b 0.284 0.00470 0.348 0.00242
この結果から方解石の分離の精度が
V偏光側に比べて
H偏光側が悪いことがわかっ た。したがって消光比測定のときに
H側の強度が落ちなかった原因は、測定方法の不 備ではなく、用いた方解石結晶の分離性能が若干悪いために
V偏光成分の漏れ光が
H偏光側に混入した可能性のほうが高い。
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6
-0.5 -0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
Cal
後の強度
(µW)GTの角度(°)
H V
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6
-0.5 -0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
Cal
後の強度
(µW)GTの角度(°)
H V
図
21 GTの角 度と
Cal後の 強度の 関係
4-3 Cal1、Cal2 の軸調整
3
章図
9の方法で
Cal1と
Cal2の軸を合わせた。ビーム分離幅に対して方解石の開 口に余裕がなく、Cal2 の横のあおりを調節する余裕はなかったため、その調節はしな かった。このときの消光比として
rCal=I1+I3
I2 (34)
を定義し、
rCalが
4-2で測定した方解石単体の消光比と近くなることを目標とした。初 期偏光を
P偏光にして測定すると
rCal=3.27×103となり、単体の消光比より小さくなっ てしまった。この原因として、方解石表面には反射防止膜がついていないため
Cal2表 面で入射光の一部が反射して
I2に混入したということが考えられる。そこで、Cal1 出 射側と
Cal2入射側の間での反射を抑えるため、図
22のようにそれらの面をビームが 通る部分だけ穴を開けた黒画用紙で覆うと、r
Cal=5.77×104と、単体の消光比に近い値 を得られた。
図
22方 解 石 の 表 面 同 士 で の 反 射 の 抑 え 方
以下に初期偏光を
H偏光、V 偏光、P 偏光にして測定した
rCalの値を示す。
表
3そ れ ぞ れ の 初 期 偏 光 で の
rCal初期偏光
H初期偏光
V初期偏光
P1.90×106 1.01×105 5.77×104
初期偏光によって
rCalの値が異なっているが、その理由は下記のように考えられる。H
偏光入射の時は、
I2は
Cal2中を直進する
V側をモニターすることになり、V 偏光入射
の時は
Cal2中を斜めに進む
H側をモニターすることになる。
4-2で方解石の消光比を
測定する際、
V側、つまり直進する方の光をモニターしたときの消光比の方が高かった
ことを考えると、これは
4-2の結果と矛盾しないと言える。
(a)初期偏光H (b)初期偏光V
したがって、Cal1 と
Cal2との軸あわせは、初期偏光を
H偏光にして合わせた。
4-4 HWP4 の調整
3
章図
10の方法で
HWP4の軸を合わせた。このときの消光比として
rHWP4 = I2I1+I3 (35)
を定義し、この値で軸の調整の程度を評価した。
表
4そ れ ぞ れ の 初 期 偏 光 で の
rHWP4初期偏光
H初期偏光
V初期偏光
P1.74×104 1.79×104 1.43×104
表
4に結果を示す。どの初期偏光で調整しても、HWP4 を入れる前より消光比が下が ってしまった。この原因として、波長板が偏光に与える位相差が理想からわずかにずれ ていること、角度を手動で調整していることが考えられる。
4-5 HWP1、HWP2、HWP4 の性能
HWP1、HWP2
の
105レベルの消光比への影響について知るために以下の実験を行
なった。HWP4 は
104レベルの消光比が出ていることを確認したが、比較のために
HWP4も同様の方法で測定した。
図
23初期 偏光に よる違 い
(Cal1での 分離は 完全で はない ためそ れぞれ
I1、
I3が
ない わけで はない が図で は省略 した。
)
(a) (b)初期偏光V
のとき
(c)初期偏光H
のとき
まず、(a)のように
V偏光または
H偏光を
Cal1に入射し、金ミラーで反射させて入射 光と反射光が一直線になるようにする。二本のビームが一致しているかどうかの確認は
Cal1を覆う黒画用紙に光が当たっていないことを確認することで行った。その後(b)や
(c)のようにHWP
を入れると、どのような偏光にする角度であっても、二回通過するこ
とで反射光は
Cal1に入る前には元の偏光に戻る。したがって反射して戻ってきた光の もう一方の偏光成分の強度
Iは理想的には常に
0になるはずである。実験では、
HWP1、2(半円)とHWP4
において、HWP の角度を変えた時に
Iがどう変化するかを調べた。
HWP1
は初期偏光
Vで、HWP2 は
Hで行い、HWP4 は両方で行なった。なお実験除 振台上での配置の都合上、初期偏光
Vの場合の
H側を見るときパワーメーターはミラ ー2 から約
20cm離して測定し、初期偏光
Hの場合の
V側を見るときはミラー2 から約
7cm離して測定した。なお
Cal1後、HWP に入射する前の強度は初期偏光を
V偏光に
した時
15.0mW、H偏光にした時
18.7mWであった。
図
24反射 光によ る
HWPの性 能につ いての 実験
(a) (b)
図
25 HWPの 角 度 と 強 度
Iの 関 係
図
25は横軸に
HWPの角度、縦軸に図
24(b)、(c)の強度Iをとっている。HWP の角 度は偏光を変えない角度を
0°、H偏光と
V偏光を入れ替える角度を
45°としている。I
が最小になる角度からスタートし
90°くらいまで回転させた。(b)は(a)のHWP4のグ ラフを拡大したものである。
・I が最小になる角度が
HWP1と
2では
Hと
Vを入れ替える角度(45°)であるのに対 し、HWP4 では偏光を変えない角度(0°)である。
・HWP4 と比べて
HWP1と
2、特に2の
Iが大きい。
・初期偏光
Hで行ったとき(HWP2、4)の
Iが
Vで行ったときに対して大きい。
ということがわかる。
次に、HWP1、2 の基本的な動作を調べるために以下のことを行なった。
図
26 HWP1、 2 の 振 る 舞 い を 調 べ る
HWP1
では初期偏光を
V、HWP2では初期偏光を
Hにして図
26のように配置し、
HWP
を回転させながら
Cal2後の
H側、V 側の強度を測定した。以下に結果を示す。
0 50 100 150 200
-50 -30 -10 10 30 50 70 90
強度I(µW)
HWPの角度(°)
HWP1 HWP2
HWP4(初期偏光 V) HWP4(初期偏光 H)
0 2 4 6 8 10 12
0 20 40 60 80 100
強度I(µW)
HWPの角度(°)
HWP4(初期 偏光V) HWP4(初期 偏光H)
(a) HWP1(初期偏光V) (b)HWP2(初期偏光H)
どちらの
HWPも一方の偏光の強度が最小の時もう一方は最大になっている。
次に図
26のセットアップで初期偏光を
H偏光にし、間に
HWP1または
HWP2を入れ て消光比を測定した。その際、Cal2 後の
H側、V 側の光路の強度がそれぞれ最小にな るように
HWPを手動で回転させた。その結果を以下に示す。なお、HWP を入れない 場合の、Cal 同士での消光比は
2.26×106であった。
表
5 HWP1、
HWP2を 入 れ た と き の 消 光 比
HWP1 HWP2
Cal2
後
H側を最小にしたとき
1.30×104 1.35×104 Cal2後
V側を最小にしたとき
6.78×102 1.73×102どちらの
HWPも、Cal2 後の
V側を最小にするとき、つまり初期偏光をそのまま通す 角度のときの比が、H 側を最小にするとき、つまり
H偏光と
V偏光を入れ替える角度 のときの消光比よりも小さい。また、
HWPを入れることによって消光比が
2~4桁下が ってしまった。
4-6 考察
方解石の消光比が分離したビームの
H偏光側を測定した時の方が大きい原因が
V偏 光の混入である(図
20)ことを確認した。初期偏光のわずかな変化に対する強度変化が
H偏光側と
V偏光側で異なること(図
21)や方解石同士の軸を合わせる際に消光比が初期偏光に依存すること(表
3)から、V偏光の混入の原因は、方解石固有の性能であ り、H 偏光側の光路に
V偏光成分が漏れた可能性が高い。
図
27 HWP1、
2の振 る舞い
0 2 4 6 8 10 12
-45 -30 -15 0 15 30 45
Cal2後の強度(mW)
HWP1の角度(°)
V側 H側
0 2 4 6 8 10 12 14
-45 -30 -15 0 15 30 45
Cal2後の強度(mW)
HWP2の角度(°)
V側 H側
HWP
に関しては、図
24の強度
Iが理想的には角度に依存せずにゼロであるはずが、
角度依存性を持つ有限な値が測定された。その原因としては、下記3つの可能性が考え られる。
1)半波長板がつける位相差が完全ではなく完全なπではない可能性 2)ミラー1 での反射によって偏光成分に予期しない位相差が生じた可能性
3)戻ってきた光がミラー2 で反射するときに、入射光の反射や散乱などによる検出器 への混入の可能性
2)の可能性について述べる。今回はミラーに垂直に入射するため考えにくいが、H
偏光成分と
V偏光成分の間に位相差が生じるとすると、入射光が
H偏光と
V偏光の場 合、偏光は変化しない。しかしそれ以外の偏光では位相差によって円偏光成分が生じ、
再び
HWPを通過してもその成分が残る。その際、H 偏光成分と
V偏光成分の大きさ がほぼ同じである
P偏光のときにその影響が最大となり、初期偏光に対する直交成分 が最も多く含まれる。この場合
HWPが
0°と45°の時強度Iが最小になり、
22.5°のとき強度
Iが最大となる。しかし
HWP4では
0°の時Iが最小になっているが、
22.5°でなく
45°付近でIが最大になっている。
また、この説明では
HWP1と
HWP2の角度依存性は説明できない。表
5より、
HWP1、2
は偏光を入れ替えない角度のとき消光比が下がらないことが確認できており、図
25で
HWPが
0°のとき強度Iが大きいのはこのためであると考えられる。半円の
HWP1、HWP2
で角度によって消光比が異なる原因として、波長板を構成する結晶のゆがみが 考えられる。これらの
HWPは一枚の円形の
HWPを半分に切断しているため、その際 に部分的に結晶がゆがみ、
HWPを回転させて
HWP中のゆがんだ部分に入射したとき に位相差がずれている可能性がある。
また図
25で
HWP2の測定は
H偏光入射で行っており、
HWP1の測定は
V偏光入射
で行っている。両者を比較すると明らかに
HWP2の強度
Iが大きいが、これは
HWP4が
H偏光入射で測定を行ったときに、強度
Iが
V偏光入射に比べて大きかったことと
一致している。図
24(c)から考えると、測定された強度Iは反射光が
V側の直進方向に
出力された強度なので、反射光が漏れ光として出てきた可能性は低い。反射光の漏れ光
とすると、これまでの測定結果と矛盾する。また他の可能性として、実験スペースの都
合上
H偏光を入射するときは出力部分からパワーメーターを十分離して測定できなか
った。そのため入射光の一部や他からの反射光、散乱光が検出部に入ってしまった可能
性も考えられる。いずれにしても
HWP1と
HWP2の角度依存性、および初期偏光依存
性については、再現性も含めて注意深く再測定を行う必要がある。
5. まとめと今後の展望
新たに考案した測定の強さ可変測定のセットアップでは、偏光の消光比の高い方解石 を用いており、消光比をできるだけ落とさないように、高精度で光学素子の調整を行う 必要がある。そのため実験で消光比をできるだけ正確に測定する方法、各素子を入れて 調整した時の消光比を調べた。その結果、下記のことがわかった。
・消光比の測定法を確立した。そのときのポイントは、消光比を測る時はピンホールや 仕切りなどで強度が強い方の光や他からの反射を遮らなければならない。
・方解石は
H偏光側を測った時の消光比が
V側を測った時に比べて低い。初期偏光を
V偏光にした時に
H側に漏れている可能性がある。
・今のままでは
Cal2のあおりを調整できないため、今よりも開口の大きい方解石が必 要である。また、
Cal表面には反射防止膜がついていないため、表面での反射を抑える 工夫が必要である。
・HWP を入れると消光比が下がった。この原因として
HWPの位相差が正確にπでは ないことが考えられるため、トゥルーゼロオーダーのものを使用するべきである。
・半円の
HWP1、2の性能についてさらに調べる必要がある。
これらを踏まえ、今後は
HWP1、HWP2の調整を行う必要がある。3 章で述べた方 法では軸を合わせた後で
HWP2を動かす必要があるため、それによるあおりなどの変 化によって消光比が下がってしまうことが考えられる。よってこの方法で高精度な調整 が可能かどうかを調べ、場合によっては別の方法を考えなければならない。その後、
HWP3
の角度を変えながら の分解能の変化の様子を調べ、セットアップの性能を評 価する。
SˆHV
謝辞
卒業研究を進めるにあたり、お世話になった方々に深く感謝申し上げます。当研究室の 高橋徹先生、飯沼昌隆先生には大変お世話になりました。特に飯沼先生には理論から実 験まで、多くの時間をかけて一から教えていただき、様々なアドバイスをいただきまし た。本当にありがとうございました。また、研究室の先輩方には色々なことを教えてい ただき、お世話になりました。また、同じ
4年生の仲間が日々頑張っている姿は励みに なりました。最後に、4 年間大学に通わせてくれた両親に感謝します。
ありがとうございました。
参考文献
[1]石川研太朗 広島大学大学院先端物質科学研究科 平成29
年度 修士論文
[2]M.A. Nielsen, I.L. Chuang 量子コンピュータと量子通信 −量子力学とコンピュ
ータ科学 オーム社(2004)
[3]「光学のすすめ」編集委員会 光学のすすめ
オプトロニクス社(1997)
[4]ソーラボジャパン総合カタログ