視点取得がもたらす異なる 2 つの効果 * 1
Ku, Wang, & Galinsky
(2010
)の概念的追試工 藤 恵理子
社会的認知研究では、特定の概念の活性化が後続の判断や行動に与える影 響が検討されてきた。特に、
Bargh, Chen & Burrows
(1996
)が知覚行動リ ンクの働きを提唱し、閾下またはそうとは気づかない方法で特定の概念(ス テレオタイプを含む)を活性化させることで、その概念に沿った行動が生じ ることを示して以降、様々なプライミングが多様な行動に影響を与えること が示されてきた(Dijksterhuis, Chartrand, & Aarts, 2007
)。プライミングや 行動の種類は多様であっても、当初想定されていたのは、プライミングが私 たちの行動と判断に同方向の影響を与える過程であった。例えば老人関連刺 激によってプライムされれば、そのステレオタイプに合致した行動(ゆっく り歩く)がとられやすくなり(Bargh et al., 1996
)、他者の判断においてステ レオタイプが使用されやすくなるということである(Galinsky & Moskow- itz, 2000
)。上記に関連する研究の多くで用いられているのは、閾下プライミングや乱 文構成課題といった方法である。一方、同じようにステレオタイプを活性化 させる可能性のある方法であっても、他者の視点取得をした場合には異なる 効果が生じることが示されている。
Galinsky, Ku, & Wang
(2005
)によれ ば、視点取得は他者との間に絆を形成し、維持するという人間の基本的欲求 を促進する働きを持つ。そのため、視点取得をすることによって、社会の中*1本研究は著者の指導の下、関戸朝美さんと八角芙美恵さんの卒業論文(東京女子 大学2015年度)のための実験として実施された実験のデータを著者が再分析し たものである。再分析および結果の発表を許可していただき感謝申し上げます。
本研究の一部は日本社会心理学会第57回大会で発表された。
でうまく他者とつき合っていくために他者に対してステレオタイプを適用し ないようになり、自身は視点取得の対象が持つステレオタイプ的な行動をと るようになるとされる。つまり、視点取得は判断と行動に対して、逆方向の 影響を与えるという、それまでのプライミング効果の先行研究とは異なる影 響があると論じている。そして実際に、他者の視点取得をすることで、ステ レオタイプに合致した行動がとられやすくなる一方で、他者の判断において はステレオタイプの適用が抑制されることを示した(
Ku, Wang, & Galinsky, 2010
)。これらの研究が示すデータは説得的なものであるが、視点取得によるステ レオタイプ使用の低減を扱った実験研究の数は少ない。そこで、ここでは
Ku, Wang, & Galinsky
(2010
)のstudy 2
の概念的追試を報告する。2012
年 に発表された、行動プライミング実験とその知見に対する批判論文(Doyen,
Klein, Pichon, & Cleeremans, 2012
)は、Bargh et al.
(1996
)の行動プライミ ング実験が再現できないという実験結果を示し、行動プライミング実験とそ の知見に疑問を投げかけた。この問題提起はその他の要因とも相まって、心 理学研究、中でも社会的認知研究の在り方について大きな議論を呼んだ。こ の議論の中でその必要性の認識が高まったものに、追試の重要性がある。従 来公に学術論文の形で発表されることがあまりなかった、直接的追試(direct
replication
またはexact replication
)が必要であるという主張がなされ、被 引用数が多い研究がその俎上に載せられた。しかし、社会的刺激、社会的状 況を扱う社会的認知研究において、まったく同じ刺激や操作方法を用いて異 なった環境で追試を行うことの問題も指摘されている(Stroebe & Strack,
2014
)。本稿で報告する実験では、使用するステレオタイプをはじめ、刺激 や従属尺度を実験参加者となる集団を対象に行った予備調査に基づいて決定 し、独自の刺激、従属変数を作成した。予備調査
予備調査
1
ステレオタイプ特性の選択実験で用いるステレオタイプの対象集団として、参加者となる女子大学生 にとっての外集団である男性を選択した。
女子大学生が男性に対してどのようなイメージを持っているのかを調べる ために予備調査を実施した。
方法 女子大学生
30
名に対して予備調査を実施した。男性の年代によって 異なったイメージを持たれている可能性を考慮し、20
代男性と50
代男性の2
つの世代に分けて、21
の特性についてどれだけあてはまるか7
件法(1
: 全く当てはまらない〜7
:とても当てはまる)で回答を求めた。用いた特性 語は、男性的ネガティブ特性語10
語、男性的ポジティブ特性語10
語、中 年男性的特性語1
語であった。男性的ポジティブ特性語とネガティブ特性 語は、高林・沼崎・小野・石井(2006
)の項目を使用した。結果 全体として
20
代男性については選択肢の中点に近い回答が多く、50
代男性については得点が高い(あてはまる)回答が多かったため、50
代男 性についての回答から特性を選択することとした。その中で最も平均値が高 かった「頑固な」(M
=5.7
)を中年男性ステレオタイプ特性として本研究で 用いることとした。予備調査
2
中年男性の写真の選定方法 実験で使用する「頑固な」印象を与える中年男性の写真を選定するた め、東京女子大学の学生
30
名に対して予備調査を実施した。著作権フリーの写真素材サイトから選出した中年男性の写真
11
名分に対 して、「頑固な」を含めた男性ステレオタイプ的特性がどの程度当てはまる か評定を求めた。予備調査1
で平均値が高く評定されていた7
項目(有能 な/高圧的な/頑固な/自信のある/指導力のある/決断力のある/自立し た)を用いた。加えて、写真の男性の年齢(1
:20
代〜6
:70
代)、写真の人物の印象(
1
: 好き〜7
: 嫌い/1
: 感じが良い〜7
: 感じが悪い)を尋ね た。結果 使用予定の中年男性ステレオタイプの「頑固な」が最も当てはまると 評価された写真で、年齢が
40
代〜50
代と評定された写真を実験で使用する こととした。予備調査
3
曖昧な人物記述の作成実験で使用する特性である「頑固」かどうか曖昧な人物記述を作成するた めに予備調査を行った。
方法 文章作成の方法は、
Srull & Wyer
(1979
)と森(2000
)にならった。頑固と思われる行動
22
項目、柔軟と思われる行動20
項目、ニュートラル な行動19
項目の計61
項目を作成し、これらをランダムに並び替え、この ような行動をする人はどの程度頑固または柔軟だと思うかを11
件法(0
: とても頑固〜10
:とても柔軟)でたずねた。回答者は女子大学生31
名で あった。結果 頑固と思われる行動としては、
Srull & Wyer
(1979
)と森(2000
)にな らい、床効果や天井効果が生じる程には極端な値ではないもの(M
=2.5
〜4.0
)、さらには、人によって評価のわかれる曖昧な行動を選択するため、分 散の大きな行動(M
=2.83
〜4.4
)を5
つ選択した。一方、ニュートラルな行 動には、平均評定値が中心に近く(M
=5.0
〜5.9
)、かつ誰もがニュートラル と判断する分散の小さい行動を6
つ選択した。選択された行動を元に曖昧 な人物記述の文章を作成した。この文章は20
の文から構成されていた(付 録1
: 刺激文)。予備調査
4
行動尺度の選定「頑固な」ステレオタイプ的行動を測定するために、新奇商品と定番商品
の間での選好を問う課題を用意した。その課題にはチロルチョコ(チロル チョコ株式会社)を用いることにした。チロルチョコは、コンビニエンス・
ストアのレジ付近に置かれていることが多く、実験参加者となる女子大学生 によく知られた商品である。また、チロルチョコには定番商品と季節や流行 に合わせた期間限定の商品があり、このことも女子大学生によく知られてい る。スタンダードな味と期間限定商品の中から自由に選択できる状況でスタ ンダードな味のチョコレートを選択することが頑固さ(保守的傾向)を示す 行動とみなせると考えた。
方法 チロルチョコのスタンダードな味
3
種類と期間限定商品3
種類の計6
種類を用意し、そのなかから自由に3
種類を選択する課題に使用するチョコ レートを選ぶために予備調査を実施した。まず、スタンダードな味(常時販 売されていていつでも購入できる)のアーモンド・ミルク・コーヒーヌ ガー・ホワイトチョコと、期間限定商品であるスイカ・グラノーラ・ごまだ んご・いちごの計8
種類を選び、実験には参加しない女子学生を対象に チョコレートの魅力度に極端な偏りがないかを調査した。予備調査の方法 は、スタンダードな味と期間限定商品のチョコレートを1
種類ずつ同時に呈 示し、どちらか1
つもらえるとしたらどちらが欲しいか、どちらのほうが魅 力的かをたずねるというものであった。結果 スイカ味の魅力が他のに比べて低いことがわかった。また、この時点 でアーモンド味が生産を中止していることが判明したため、この
2
種類を除 いた6
種類を実験で使用することにした。方法 実験計画
視点取得あり条件・なし条件×判断・行動の
2
×2
で、後者は参加者内要 因であった。参加者
参加者は東京女子大学の女子大学生
49
名であった(年齢:M
=18.69, SD
=
0.71
)。印象評定用項目
曖昧な記述文の登場人物に対する印象評定は、「頑固」とその反意語であ る「柔軟」の類義語を対にして用いた(やわらかい―固い、強情な―柔軟 な、妥協的な―固執的な、頑固な―柔軟な、素直な―意地っ張りな、古風な
―現代的な)。さらに先行研究(
Bargh & Pietromonaco, 1982;
池上・川口,1989; Srull & Wyer, 1979;
森,2000
)を参考に以下の6
対のフィラー項目を 加えた(おもしろい―退屈な、謙虚な―うぬぼれた、責任感のある―無責任 な、頭の悪い―頭の良い、気の大きい―気の小さい、上品な―下品な)。行動尺度
予備調査
4
で選定した6
種類のチロルチョコを実験参加の謝礼として示 し、その中から3
つを選択させる課題。行動尺度(質問紙評定)
木 島・ 斉 藤・ 竹 内・ 吉 野・ 大 野・ 加 藤・ 北 村(
1996
)の日 本 語 版Temparament and Character Inventory
(TCI
)の新奇性追求尺度の7
項目を 用いた。手続き
実験は実験者
2
名(実験者1
と2
)で実施した。実験は視点取得をするス テージと、従属変数を測定するステージとに分けられ、それぞれ別の実験者 が担当し、従属変数を測定した実験者は実験条件がわからないまま実験を実 施した。参加者が実験室に入室すると、実験者
1
は「実験を始める前に別の実験者から話がある」と述べ、実験者
2
は、「この実験とは別の実験の予備調査を しているので、(実験者1
の)実験終了後に予備調査に協力してほしい」と 要請をした。参加者から許可を得た後、実験者1
の実験中は実験者2
は実 験室の外へ退出した。実験者
2
の退出後、実験者1
は実験の目的を「写真を見ることが文章量 に影響を与えるのではないか」という仮説を検証するためのものであると説 明した。実験者1
の実験では、まず、中年男性の写真と性別・職業・家族構 成の情報(男性、会社員、妻・息子1
人・娘1
人)が書かれた用紙とその 中年男性についての1
日を記述するための用紙を配布した。この際、カバー ストーリーに合わせるため、「本実験には写真を呈示する条件としない条件 があり、今回は写真を呈示する条件で実験を実施する」と教示した(実際に は写真を呈示しない条件は存在せず毎回写真を呈示した)。そして、プロ フィールをよく読んでから、写真の人物が朝起きてから寝るまでの1
日の 流れについて記述するよう教示した。このとき、視点取得条件では、写真の 人物のつもりになってその人の1
日を想像し記述するよう教示し、視点取 得無し条件では、写真の人物に何が起こり、どのような1
日になるかを客観 的に想像し記述するよう求めた。実験者は参加者の回答中はついたての奥で 待機し、参加者が書き終えて声をかけてくるまでの時間をストップウオッチ で測定した。記述時間の上限は25
分とした。記述終了後、実験者2
がおこ なっている別の実験の予備調査への協力を再度要請し、許可を得た後、実験 者1
は退出、実験者2
が入室した。実験者
2
は予備調査と称し、頑固かどうか曖昧な人物の文章を呈示し、そ の印象について回答を求めた。文章を参加者に渡し、文章を読み終えたら声 をかけるように教示し、実験者2
はついたての奥で参加者が文章を読んで いる時間を測定した。そして、頑固かどうか曖昧な人物の文章を回収した 後、印象評定項目ならびに参加者自身の行動傾向がどれだけ頑固かを測定す る質問項目を含む質問紙に回答を求めた。またこの質問紙では、様々な人に 対するイメージの調査として、中年男性に対するイメージを尋ねた。このとき、カバーストーリーと整合性を保つために一人っ子と男子大学生に対する イメージにも回答を求めた(この評定は分析に用いていない)。このイメー ジの評定には、男性ステレオタイプを調べる予備調査で用いた項目の中から 平均値が高かった
7
項目を用いた(7
件法)。加えて、それぞれのターゲッ トに対してどのような印象を持っているか、7
件法(1
:とても好ましい〜7
: 全く好ましくない、1
:とても感じが良い〜7
:とても感じが悪い)でた ずねた。さらに、日頃どの程度接する機会があるかを5
択(1
:ほとんど毎 日、2
: 週三回以上、3
: 週一回以上、4
: 月一回以上、5
: 全く接しない)で たずねた。男子大学生と中年男性については同居しているかどうかについて も2
択(1
:はい、2
:いいえ)でたずねた。さらに、行動傾向の頑固さを測 定するため、木島ら(1996
)の新奇性追求尺度から7
項目を用いて柔軟な 行動が自分にどの程度当てはまるかを回答させた。フィラー項目として高田(
2000
)の相互独立的―相互協調的自己観尺度から10
項目を用い、全17
項 目をランダムに並べた質問紙を使用した。回答終了後、実験協力のお礼と称して、
6
種類のチロルチョコの中から好 きなチョコレートを3
つ選ぶよう依頼した。参加者がチョコレートを選択 した後、今回の実験の解説をすると告げ、実験者1
も入室し、実際は2
人 で1
つの実験を行っていたことを説明した。加えて実験の本当の目的を説 明するデブリーフィングを行った。最後に、気付きに関する質問への回答 と、統計的分析を行うことについての許可を求め、実験参加へのお礼を述 べ、実験は終了した。結果 尺度構成
印象評定 「頑固さ」を測定するための
6
項目を加えた12
項目に対して因 子分析(主因子法 プロマックス回転)を行った。2
因子解を採用し、回転 後の因子負荷量は表1
に示した通りであった。それぞれの因子に負荷の高い項目の内容に基づき、第一因子を「頑固さ」、
第二因子を「判断フィラー」とした。第一因子、第二因子それぞれに負荷の 高い項目の一貫性を確認するため、第一因子に負荷の高い
5
項目(負荷量0.40
以上)の信頼性を検討したところ、α
係数は.81
であり、十分に高いと 判断し、「頑固な―柔軟な」「強情な―従順な」を逆転した上記5
項目の平均 を「頑固さ」の得点とした。また、第二因子に負荷の高い項目(負荷量0.40
以上かつ第一因子への負荷量が0.30
以下)4
項目に対しても信頼性を検討 したところ、α
係数は.55
であった。信頼性は高くなかったが、上記4
項目 の平均を「判断フィラー」の得点とした。「頑固さ」の項目に、当初想定していた「やわらかい―固い」「古風な―現 代的な」の
2
つの項目が含まれず、フィラー項目と考えていた「謙虚な―う ぬぼれた」が含まれたという点で想定されていたものとは異なる組合せと なったが、これら5
項目を頑固さの指標として分析に用いることとした。行動評定(質問紙)
7
項目(表2
参照)の一貫性を確認するために、信頼 表1: 印象評定項目の因子分析の結果第一因子 第二因子
(9) 頑固な―柔軟な −.81 −.11
(3) 強情な―従順な −.81 .24
(4) 謙虚な―うぬぼれた .72 −.21
(10)素直な―意地っ張りな .61 −.03
(6) 妥協的な―固執的な .59 .20
(11)上品な―下品な .35 −.32
(5) 責任感のある―無責任な .34 −.05
(7) 頭の悪い―頭の良い −.29 .58
(2) やわらかい―固い .29 .57
(1) おもしろい―退屈な .06 .52
(12)古風な―現代的な −.37 −.44
(8) 気の大きい―気の小さい −.15 .43
因子間相関 .37
主因子法、プロマックス回転 因子負荷0.40以上を太字とした
性を検討したところ、
α
係数が.44
であり、信頼性が十分ではなかったため、因子分析を行い、下位尺度を作成することを試みた。上記
7
項目に対して、主因子法による因子分析を行った。スクリープロットに基づき、
3
因子解を 採用し、プロマックス回転を行った。回転後の因子負荷量は表2
に示した通 りであった。それぞれの因子に負荷の高い項目の内容に基づき、唯一内容がまとまって いる第一因子を「新奇性追求傾向」とした。それぞれの因子に負荷の高い項 目の一貫性を確認するため、第一因子に負荷の高い
3
項目に対して信頼性 を検討したところ、α
係数は.71
であり、一貫性は保たれていると判断し、上記
3
項目の平均を「新奇性追求傾向」の得点とした。第二因子に負荷の高 い2
項目の相関を算出したところ、相関係数の値は十分に高いとは言えな いことから(r
=.27
)、それぞれを単独で分析に用いることにした。また、第三因子に単独で負荷が高かった項目とどの因子においても負荷が低かった 表2: 新規性追求尺度の因子分析の結果
第一因子 第二因子 第三因子
(10)何かをする新しい方法を探求することが好きだ .85 −.22 .13
(15)たいていの人なら時間の無駄だと思うようなことでも、
興味やスリルのために新しいことをやってみることが多い .67 .20 −.03
(1) 目新しい出来事がないときは、スリルに富むことや興奮
するようなことを探し求めることが多い .61 .18 −.16 逆(14)新しくて改善された方法を試みるよりも、古くてもこ
れまでうまくいっていた方法が好きだ .02 .58 .09 逆(13)新しい考えや活動に対する反応が人に比べてゆっくり
している .16 .53 −.04
逆(8)今までのやり方を変えようとする前にはたいてい、ど
うして変えるのかひどく実際的な良い理由を求める .01 .28 .12 逆(3)新しくてもっと良いやり方があると大勢の人にいくら
言われたとしても、自分の考え方を変えるのは嫌だ −.08 .12 .67
因子間相関 第一因子 第二因子 第三因子
̶ −.20 .16
̶ −.12
̶ 主因子法、プロマックス回転
因子負荷0.40以上を太字とした
項目は、分析に含めなかった。
行動尺度(チロルチョコ選択) 計画では、参加者が選択した
3
つのチロル チョコのうち、スタンダードなチロルチョコの条件ごとの平均個数を指標と する計画だった。しかし、チロルチョコを2
つしか選ばなかった参加者がい たため、選択したチロルチョコに占めるスタンダードな味(ミルク、クッ キー&ホワイト、コーヒーヌガー)の割合(%)を参加者ごとに算出し、頑 固(保守的)な行動の指標とした。操作チェック
中年男性の年齢 条件間で、推定されたターゲット人物の年齢に違いがない ことを確認するため、条件(視点取得あり・なし)による
1
要因の分散分析 をおこなった。その結果、条件の主効果は有意ではなく(F
(1, 44
)=0.20, n.s.
)、条件間で中年男性の写真の年齢の違いは認められなかった(M
視点取得=3.33, SD
視点取得=0.64, M
視点取得なし=3.41, SD
視点取得なし=0.50
)。また、参加者全 体が中年男性の写真を何歳に見ていたかを確認するため、参加者全体の平 均値を算出した。その結果、中年男性の写真は40
代〜50
代に捉えられてお り(M
=3.37, SD
=0.57; 1
:20
代〜6
:70
代)、刺激人物は想定した年齢層 であると参加者にとらえられていた。条件間の違いの検討
仮説の検討に先立ち、視点取得が印象評定、行動評定以外に影響を与えて いるかを確認するために、中年男性の
1
日を記述した文章の内容(文章の 印象、文字数、事象数)、文章の記述時間、頑固ともそうでないとも判断し 得る中村君についての文章を読んだ時間、中年男性の一日の記述文の内容、記述量に対して、条件(視点取得あり・なし)による
1
要因の分散分析をお こなった。中年男性について書いた時間 中年男性のプロフィールを読んだ後にその人 物について記述していた時間(単位は秒)に条件間で違いがないか検討し た。
1
要因の分散分析の結果、条件の主効果は有意ではなく(F
(1, 46
)=2.00, n.s.
)、視点取得の影響は認められなかった(M
視点取得=819.96, SD
視点取得=489.62, M
視点取得なし=649.83, SD
視点取得なし=328.76
)。中村君についての文章(頑固と判断され得る曖昧な行動記述)を読んでいた 時間 視点取得が刺激文を読んだ時間(単位は秒)に影響を与えているかを 検討するために
1
要因の分散分析をおこなったが、条件の主効果は有意で はなく(F
(1, 46
)=2.08, n.s.
)、視点取得の影響は認められなかった(M
視点取 得=106.63, SD
視点取得=46.05, M
視点取得なし=90.25, SD
視点取得なし=31.32
)。記述された文章の評価 中年男性のプロフィールを読んだ後に行ったその人 物についての一日の記述が条件間に差があるかを検討するために、実験者
2
名が文章評価を行った。記述文について、その印象(7
項目)を評定し、文 字数、書かれた事象数をカウントした。このとき使用した記述文の印象を評 定する7
項目は、印象評定で使用したものと同じ項目であった。評定する にあたり、実験時とは異なるID
を振り、参加者全員分の記述文をランダム に並び替えた。この作業は第三者に依頼し、評定者は実験条件がわからない 状態で評定を行った。文章評定 視点取得が記述内容に影響を与えているか確認するために、条件
(視点取得あり・なし)による
1
要因の分散分析をおこなった。その結果、条件の主効果は有意ではなく(
F
(1, 47
)=0.97, n.s.
)視点取得の影響は認めら れなかった(M
視点取得=3.66, SD
視点取得=0.61, M
視点取得なし=3.48, SD
視点取得なし=0.71
)。文字数・事象数 記述文の文字数や書かれた事象の数に視点取得が影響を与
えているか確認するために、
1
要因の分散分析をおこなった。その結果、条 件の主効果は有意ではなく(F
(1, 47
)=0.69, n.s; F
(1, 47
)=0.44, n.s.
)、視点 取得の効果は認められなかった(文字数M
視点取得=299.27, SD
視点取得=120.88, M
視点取得なし=269.80, SD
視点取得なし=126.95
; 事象数M
視点取得=19.65, SD
視点取得=4.98, M
視点取得なし=18.56, SD
視点取得なし=6.32
)。さらに、中年男性に対して参加者がもともと抱いている印象や好意的評価 が条件間で違いがないかを確認した。
中年男性一般の印象・好感度・接する機会 中年男性一般に対する印象評定、
好感度、さらに中年男性と接する機会について条件間に違いがないことを確 認するため、
1
要因の分散分析をおこなった。その結果、いずれの指標につ いても条件の主効果は有意ではなく(Fs
(1, 47
)<1.32, n.s.
)、条件間の違い は認められなかった(印象:M
視点取得=2.80, SD
視点取得=0.72, M
視点取得なし=2.85, SD
視点取得なし=0.89
;好感度:M
視点取得=4.35, SD
視点取得=1.26, M
視点取得なし=4.44, SD
視点取得なし=0.85
; 接する機会:M
視点取得=3.13, SD
視点取得=0.99, M
視点取得なし=3.48, SD
視点取得なし=1.16
)。父親との同居 父親と同居していることが、中年男性に対する視点取得に影 響を与える可能性が考えられるため、条件間で父親と同居している参加者の 割合が異ならないか、カイ二乗検定により検定したところ、有意な偏りが あった(
χ
(21
)=6.38, p
<.05
)。この結果から、条件(視点取得あり・なし)と父親との同居が印象評定(中村君の「頑固さ」)や行動評定(質問紙・チ ロルチョコ)に影響を与えているか確認することとした。
写真の中年男性の印象・好感度 条件間で中年男性の写真の印象と好感度に ついて条件間に違いがないことを確認するため、
1
要因の分散分析をおこ なった。その結果、条件の主効果は有意ではなく(Fs
(1, 47
)<1,n.s.
)、条件間で中年男性の写真の印象に違いは認められなかった。(印象:
M
視点取得=2.90, SD
視点取得=0.91, M
視点取得なし=2.77, SD
視点取得なし=0.79
; 好感度:M
視点取得=4.23, SD
視点取得=0.87, M
視点取得なし=4.29, SD
視点取得なし=0.69
)。以上より、父親との同居割合以外は、条件間に違いがないことが確認でき た。条件間で父親との同居の有無に有意差が見られたことから、父親との同 居が印象評定(中村君の頑固さ)や行動評定(質問紙・チロルチョコ選択)
に影響を与えるか確認するため、条件(視点取得あり・なし)×父親との同 居(あり・なし)の
2
要因の分散分析をおこなった。いずれにおいても、父親との同居の主効果および条件との交互作用効果は 有意ではなかった。そのため父親との同居の有無は以降の分析に含めないこ ととした。
仮説の検討
印象評定_頑固さ 視点取得が曖昧な刺激人物(中村君)の印象評定に影響 を与えているか調べるため、中村君の印象(頑固さ)に対して、
1
要因の分 散分析をおこなった。その結果、条件の主効果が有意であり(F
(1, 47
)=8.29, p
<.01
)、視点取得あり条件のほうが中村君は頑固ではないと判断していた(
M
視点取得=4.57, SD
視点取得=0.91, M
視点取得なし=5.39, SD
視点取得なし=1.09
)。次に、中村君の印象フィラー項目に対して同様の分析をおこなった。フィ ラー
4
項目平均に対して、条件の主効果は有意ではなく(F
(1, 47
)=0.51, n.s.
)、視点取得の影響は認められなかった(M
視点取得=4.50, SD
視点取得=0.75, M
視点取得なし=4.66, SD
視点取得なし=0.82
)。また、フィラー項目「(
5
)責任感のある―無責任な」「(11
)上品な―下品 な」「(12
)古風な―現代風な」それぞれに対して同様の分析を行ったが、い ずれにおいても条件の主効果は有意ではなく(Fs
(1, 47
)<2.80, n.s.
)、視点 取得の影響は認められなかった((5
)責任感のある―無責任な:M
視点取得=4.71, SD
視点取得=1.08, M
視点取得なし=4.52, SD
視点取得なし=1.33
;(11
)上品な―下 品な:M
視点取得=3.83, SD
視点取得=0.48, M
視点取得なし=3.64, SD
視点取得なし=0.86
;(
12
)古風な―現代風な:M
視点取得=5.46, SD
視点取得=1.61, M
視点取得なし=6.16, SD
視点取得なし=1.31
)。以上の結果から、中年男性のステレオタイプ的特徴である頑固さにおいて のみ、条件間の違いが認められ、視点取得をした場合、中年男性ステレオタ イプを当てはめて評価しない傾向が確認できた。
行動(チロルチョコ選択) 視点取得をするとステレオタイプに合致した行 動をとる、つまり行動が頑固になるとすれば、視点取得条件の参加者の方が スタンダードな味のチロルチョコを多く選択すると予測していた。しかし、
スタンダードなチロルチョコを選んだ割合における条件の主効果は有意では なく(
F
(1, 47
)=0.54, n.s.
)、視点取得の影響は認められなかった(M
視点取得=53.47, SD
視点取得=25.53, M
視点取得なし=58.66, SD
視点取得なし=24.11
)。行動評定(質問紙)質問紙を用いた行動評定(参加者自身の頑固さ)におい て、視点取得の影響があるか検討した。視点取得をするとステレオタイプに 合致した行動をとる、つまり頑固な行動をとる傾向が強いと回答すると予測 した。
新奇性追求傾向の下位尺度得点に対して
1
要因の分散分析をおこなった。その結果、条件の主効果が有意傾向で(
F
(1, 47
)=3.86, p
<.10
)、視点取得 条件の参加者のほうが柔軟な行動は自分にはあてはまらないと回答していた(
M
視点取得=3.99, SD
視点取得=1.07, M
視点取得なし=3.29, SD
視点取得なし=1.38
)。これ は予測と同じ方向の結果であった。第二因子に負荷が高かった
2
項目それぞれに対して同様の一要因の分散分 析をおこなったところ、「(13
)新しい考えや活動に対する反応が人に比べて ゆっくりしている。」では、条件の主効果に有意傾向がみられ(F
(1, 47
)=3.98, p
<.10
)、視点取得なし条件の方が柔軟な行動が自分にはあてはまらないと回答していた(
M
視点取得=4.17, SD
視点取得=1.46, M
視点取得なし=5.04, SD
視点取得なし=1.59
)。これは予測に反する結果であった。さらに、逆転した「(
14
)新しくて改善された方法を試みるよりも、古く てもこれまでうまくいっていた方法が好きだ。」に対して1
要因の分散分析 をおこなった。条件の主効果は有意ではなく(F
(1, 47
)=1.01, n.s.
)、視点取 得の影響は認められなかった(M
視点取得=4.13, SD
視点取得=1.36, M
視点取得なし=4.52, SD
視点取得=1.39
)。また、行動評定の質問紙のフィラー項目への視点取得の影響を見るため、
条件(視点取得あり・なし)による
1
要因の分散分析をおこなった。予測で は、フィラー項目間に条件の効果はみられないだろうと考えていたが、「(4
) 自分の意見をいつもはっきり言う。」に条件の主効果が有意傾向であり(
F
(1, 47
)=3.36, p
<.10
)、(M
視点取得=3.54, SD
視点取得=1.64, M
視点取得なし=4.44, SD
視点取得なし=1.78
)。つまり、視点取得条件のほうが当てはまると回答して いた。条件間に違いが見られたことは予測に反する結果であった。その他の 項目では、有意差は見られなかった。印象評定「頑固さ」と行動評定(新奇性追求傾向)に対する視点取得の影響 の検討
視点取得の効果が印象評定と行動評定に異なって現れることを確認するた めに、印象(中村君に対する頑固さの評定)と行動(新奇性追求の程度)の 評定を標準化し、それぞれの標準化得点を参加者内の繰り返し要因とし、条 件(視点取得あり・なし)×評定課題(印象・行動)の
2
×2
の混合モデル による分散分析を行った。条件の主効果(
F
(1, 47
)=0.35, n.s.
)と評定課題の主効果(F
(1, 47
)=0.01, n.s.
)は有意ではなかったが、条件×評定課題の交互作用効果が有意であっ た(F
(1, 47
)=11.03, p
<.01
)(図1
参照)。この交互作用効果を検討するた めに、単純主効果の検定を行った。視点取得あり条件においても、なし条件においても、評定課題の単純主効 果は有意ではあったが(視点取得条件
F
(1, 47
)=5.63, p
<.05
、視点取得なし 条件F
(1, 47
)=5.40, p
<.05
)、平均値のパターンは逆方向であった(図1
参照)。印象評定においては、条件の主効果が有意で(
F
(1, 47
)=8.29, p
<.01
) 視点取得条件のほうが中村君を頑固でないと評定しており、ステレオタイプ 的反応が弱かった(視点取得条件:M
=−0.39, SD
=0.84
、視点取得なし条件:
M
=0.38, SD
=1.01
)。一方、行動評定においては、条件の主効果が有意傾向であり(
F
(1, 47
)=3.86, p
<.10
)、視点取得あり条件の方が、新奇性追 求傾向が弱く(視点取得条件:M
=0.28, SD
=0.84
、視点取得なし条件:M
=−0.27, SD
=1.08
)、中年男性ステレオタイプ的な行動をとると回答しており、行動の回答にステレオタイプが反映していた。
つまり、この結果から、視点取得をするかどうかによって、活性化したス テレオタイプが印象と行動に与える影響が異なることが確認できた。
印象評定「頑固さ」と行動(チロルチョコ選択)に対する視点取得の影響の 検討
視点取得の効果が印象(中村君に対する「頑固さ」の評定)と行動(チロ ルチョコ選択)に現れることを確認するために、印象(中村君に対する「頑 固さ」の評定)と行動(スタンダードな味のチロルチョコを選択する割合)
図1 判断と行動(自己報告)
エラーバーは標準誤差
を標準化し、それぞれの標準化得点を参加者内の繰り返し要因とし、実験条 件(視点取得あり・なし)×評定課題(印象・行動)の
2
×2
の混合モデル による分散分析を行った。その結果、条件の主効果が有意だったが(
F
(1, 47
)=7.06, p
<.05
)、評定 課題の主効果は有意ではなかった(F
(1, 47
)=0.00, n.s.
)。条件と評定課題の 交互作用は有意ではなく(F
(1, 47
)=1.80, n.s.
)、仮説を支持する結果ではな かった。つまり、この結果からは視点取得をすることで、活性化したステレ オタイプが印象と行動に逆方向の影響を与えるだろうという仮説を支持する ものではなかった。考察
本研究では、ターゲット人物の視点取得をすることで、ターゲット人物に 当てはめられるステレオタイプにあてはまる行動が生起しやすくなる一方 で、曖昧な行動をとる人物に対するステレオタイプの適用は抑制されるとい う先行研究の知見を再現することを試みた。先行研究とは異なる刺激と従属 尺度を作成して実験を実施したが、ステレオタイプに沿った行動の生起につ いては行動指標では視点取得の効果を確認できなかったが、自己報告による 行動傾向の回答とステレオタイプの適用の抑制については、先行研究の結果 を確認することができた。
さらに、これまでの研究で視点取得の対象とされていたのは、主にマイノ リティ(黒人)や社会的弱者(老人)であった。本研究でのターゲットは、
相対的に社会的にパワーを持つ対象である中年男性であった。このような ターゲットに対しても、視点取得による同様の効果が認められた事は知見の 一般化において意味があるだろう。しかし、本研究で用いたターゲットは、
本研究の実験参加者にとっての明確な外集団成員として選択されたものであ り、本研究は、ターゲットの性質をシステマティックに変化させ、その相違 を検討する計画とはなっていない。本研究で検討した仮説の一般化や頑健性 を確認するためには、ターゲットの性質をシステマティックに統制し、適用
範囲を確認することが望ましいと考えられる。
また、今回の実験からは、視点取得によって生じる
2
つの効果が生起す るプロセスを特定することはできない。特に、ステレオタイプ適用が抑制さ れるメカニズムについては不明な点が多く残っている。視点取得によるステ レオタイプ適用の抑制が確認できたことを踏まえ、そのメカニズムを明らか にする研究が必要である。引用文献
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高林久美子・沼崎誠・小野滋・石井国雄 2006 女性は女性に対して偏見を示すか?
〜活性化した自己表象が女性への評価とステレオタイプ化に及ぼす効果〜 沼崎 誠 潜在的性役割的偏見の発現とジェンダー・ステレオタイプの受容における心 理過程の検討 科学研究費補助金(基盤研究(C))研究成果報告書 pp. 123, 146.
キーワード
視点取得、ステレオタイプ、ステレオタイプ使用、概念的追試
付録
◎この文章は
20
歳の男子学生の「私」と友人の中村君の話です。後で中村君の印象に関する質問紙に回答していただきますので、この文章を よく読んでください。
先日、私は中学校時代の友人の中村君にサッカー観戦に誘われた。中村君は中 学校時代からサッカーが好きで今でもサッカー観戦が趣味だと言っていた。昔か ら趣味が変わらないようだ。駅で待ち合わせをしたが、中村君は時間に遅れてき た。私は中村君が中学校時代から待ち合わせによく遅刻をしていたことを思い出 した。そして、試合まで時間があったので、昼ご飯を食べることにした。すると スタジアムの近くにたまたま蕎麦屋を見つけたので、蕎麦屋に入ることにした。
店に入りメニューを見ていると、中村君は「天ぷら蕎麦を食べようと思っていた けど、天ぷらの野菜が国産じゃないからざる蕎麦にする。食べ物は国産を選ぶよ うにしているんだ。」と言った。注文を終え、料理を待っている間、今の大学生活 の話や将来の話をした。その中でもアルバイトをしていることや、中村君は安定 志向なので将来は安定した職業につきたいと思っているという話をした。蕎麦屋 を出ると、試合の時間が近づいていたのでスタジアムに向かった。応援していた チームが勝ち、2人で喜んだ。試合が終わった後、まだ明るかったので家電量販 店に行き私の新しいスマートフォンを見るのに付き合ってもらった。しかし中村 君は、ガラケーをいまだに使っているので、興味が無さそうだった。その後、中 村君がCDを見たいというのでCDショップに向かった。中村君は流行に左右さ れないらしく、80年代や90年代の曲を試聴していた。しばらくして、私たちは 外が暗くなっていることに気がついた。そこで、私たちはそろそろ店を出ること にした。私たちは、また近いうちに会おうと約束した。そして、私たちはそれぞ れうちの方へ向かう電車に乗り、帰路についた。
下線部は予備調査によって選定された「頑固」を表す文章 実験実施時には下線は引かれていなかった